暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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門の至近にいたフィルフサの群れは全滅。聖地グリムドルは奪還成功です。

しかし、クーケン島はまだ応急処置をしただけ。

本番は、此処からです。


2、後始末は迅速に

翌朝。一番にレントがクラウディアとともにクーケン島に向かう。あたしは、すぐにフィルフサの核の調査だ。

 

とんでもない魔力密度。

 

これは、確かにフィルフサに魔術が効かないのも納得が行く。

 

釜でエーテルに溶かして、性質を調査していると。一段落した所で、ボオスがいるのに気付いた。

 

「あ、ボオス」

 

「あ、じゃねえよ。 戻って来たって事は、勝ったんだよな」

 

「そうだよ」

 

「そうだよじゃねえよ。 まったく……」

 

呆れた様子のボオス。

 

既にレントとクラウディアから話は聞いているらしい。アガーテ姉さんは、警戒解除のために既に動いているそうだ。

 

あたしが、軽く説明をする。

 

島の動力の復旧はしたが、あれは仮処置に過ぎない事。

 

今、数百年でも持たせる為の動力を作っている事を説明すると、ボオスは大きな溜息をついていた。

 

「なによ。 島のためだよ」

 

「分かっているけどな。 フィルフサの頭目が、とんでもねえ化け物だったって話は俺も聞いている。 体の方は大丈夫なのか」

 

「お、島の長らしくなってきたね」

 

「抜かせ。 まあどちらにしても、お前が今後のクーケン島で最高の戦略的な観点からの重要人物になるのは確定だからな。 こんな若さで潰れられても困るんだよ」

 

まあ、ボオスが元に戻ったのはいい事だ。

 

軽くあたしからも引き継ぎをしておく。最悪の場合は、ボオスに門を閉じて貰う事になる。

 

もう最悪の事態は起きないだろうが。

 

それでも念には念を入れて、だ。

 

それに、オーリムにはまだわんさかフィルフサがいるのである。定期的に門を開いて、聖地グリムドルの様子は確認するつもりである。

 

それを聞いて、少し顔が明るくなるボオス。まあ、キロさんに会えるのが嬉しいんだろうな。

 

それは思うが、黙っておく。他人の恋路に首を突っ込むほど、あたしも野暮じゃない。

 

だいたい、ボオスは間もなくクーケン島を離れる。

 

戻ってくるのは早くて四年後と聞いている。

 

そうなると、会っておきたいかも知れない。

 

「とりあえず、これの研究をする過程でまだやる事があるから、オーリムには行くよ。 ボオスも行く?」

 

「俺は……そうだな。 あの巫山戯た玉はもう壊したのか」

 

「まだ。 大量の水が入ってるから今壊すと危ないよ。 一年くらい掛けて水を放出して、それからだね」

 

「そうか。 俺の手で壊したかったんだがな」

 

いずれにしても、そわそわし始めるボオスを見て、分かりやすいなとあたしは思った。

 

とりあえず、今日は研究で手一杯だ。一度戻って貰う。

 

エーテルにフィルフサの核を溶かしてみて分かった。これは、生物の心臓に値するものだ。

 

フィルフサはがらんどうの体を持っているが、それは大きな虫のような存在だからなのだろうか。

 

この核は、膨大な魔力を吸収し、体の彼方此方に届けてはいるようだが。それにしてはおかしな事も多い。

 

まずフィルフサの体内には肉がない。

 

神経だの何だのがあるのなら、核と密接に結びついていそうなものなのだが。

 

フィルフサは此方の世界にいるエレメンタルみたいな魔術と極めて密接に結びついている生物なのか。

 

それとも。

 

いずれしても、回収してきた核の残骸は、全て釜で溶かして、一つに混ぜ合わせてしまう。

 

その過程で、レントやタオ、クラウディアには、火山などで素材を集めて来て貰ったし。

 

また、核のサンプルを得るために、何度もオーリムに足を運んだ。

 

そうして、数日が過ぎた。

 

 

 

フィルフサの核、主に蝕みの女王のものを中心とした部材を軸に。核を圧縮して、混ぜ合わせて。

 

純粋に魔力だけを取りだすようにする。

 

そして、赤黒い結晶が出来ていた。

 

触ってみると、じんわりと暖かい。

 

なるほど、これを資源だと思うのは確かに分からないでもない。これが生物から取りだしたものだと言われなければ、あたしも無邪気に凄い資源だと喜んでいたかも知れなかった。

 

アンペルさんにも見てもらう。

 

アンペルさんは、しばらく核の結晶体を見回した後、頷いていた。

 

「素晴らしい。 少なくとも、ロテスヴァッサの王宮にいた錬金術師は束になってももうライザには及ばない」

 

「ありがとうございます」

 

「いつまでも良き錬金術師であってくれ。 それだけが私の願いだ」

 

「はい!」

 

アンペルさんにそう言われたら。

 

あたしとしても、その誓いを破るわけにはいかない。この人はどれだけ苦労してきたか、あたしは良く知っている。

 

ソファに猫になって寝そべっているリラさんは、この間の戦いで奮戦したこともあるからだろう。

 

その分動かない。

 

食事の時とかは動いてくれるが、それだけだ。

 

ただ、アンペルさんが声を掛ける。

 

「リラ、立ち会ってくれ。 クーケン島に、数百年の安寧をもたらす」

 

「分かった。 水は戻り、そしてフィルフサも聖地からたたき出した。 オーリムの未来はまだ決して明るくないが、それでも悲劇は一つ終わった。 私は悲劇の立ち会い人として、幕引きを見なければならないな」

 

ちょっと詩的な言い方だが、その通りである。

 

外で鍛錬していたレントとタオに声を掛ける。クラウディアは奧でクッキーを焼いていた。

 

レントは、靴の直し方を練習していたようだ。靴の底が壊れた時のためらしい。

 

あたしが作った靴でも、まあ酷使していれば壊れるかも知れない。妥当な行動であるだろう。

 

少し前は芋の皮むきとかをクラウディアに教わっていたし。

 

本格的に、旅に出るための準備をしている。

 

レントが本当に一人でやっていけて、ザムエルさんが落ちた人生の陥穽にはまらないか。それは分からない。あれほどの冒険をこなした今でも、だ。

 

ただ、レントはやってみようと考えて。本気で準備をしている。

 

もしも駄目だったら、その時はあたし達がいる。

 

ザムエルさんにだって、父さんと母さんがいた。二人がいたから、ザムエルさんは多分人殺しとかのどうしようもない存在にはならなかった。

 

何かあっても、レントは壊させない。

 

あたしは、動力炉の追加動力が出来たことを告げる。

 

タオが、立ち会うと言う。

 

「一応操作のためのマニュアルは作ったけれども、それでもここぞの時は僕がやらないとまずいと思う。 だからやるよ」

 

「ありがとタオ。 それで何の練習してたの?」

 

「剣術。 やっぱりハンマーだと限界があるって、蝕みの女王との戦いではっきりわかったからさ」

 

タオが少し寂しそうにいう。

 

まずは短めのいわゆるショートソードから始めて、少しずつやっていくつもりらしい。

 

立ち回りや間合いの把握は、あたし達と一緒に実戦を積んできた事もある。タオはもう出来ている。

 

後は剣を扱う技量だけ。

 

今は訓練用の剣を振るって、レントと基礎的な事を確認しているようだ。

 

それなら、あたしもタオが旅に出るときは、温存していたものを渡すべきだろう。

 

まだ、みんながすぐバラバラになるわけではない。

 

だが、その時は確実に迫っている。

 

あたしも、それは理解していた。

 

荷車に乗せる。

 

これは、いうならば外付けの動力だ。

 

少し前にクーケン島の動力炉で交換した、魔石を由来とする動力源に対して。

 

これは普通の人間でも、外付けを行い。

 

島の動力を補給できるようにしてある。

 

仕組みとしてはゴルドテリオンを用いていて。その中に動力を格納し、動力源に力を流し込む。

 

このゴルドテリオンそのものにセーフティが掛かっている事もあって、普通の人間では動かせない。

 

盗難対策である。

 

いくらあたしでも、人間を無制限に信じるつもりはないし。

 

何よりも、あたしのいた時代ですら、どうしようもないクズは幾らでも見て来ているのである。

 

島の地下になんか珍しいものがある、なんて知ったら。

 

簡単に地下に入れるようにしたら。

 

悪意がなくても、子供が悪さをして、動力をとめてしまうような事があるかも知れないし。

 

悪意がある場合。

 

組織的に盗賊か何かが侵入して、宝石か何かと勘違いして動力を盗んでいく可能性すらある。

 

故に、島の中心人物にしか、島の中枢部への入り方は教えない。

 

教える人間には、伝承を残して貰い。

 

いざという時には、対応をして貰うようにする。

 

今の時点で、あたしは錬金術師だけれども。人間の領域は越えていない。

 

この学問をもっと究めていけば、恐らくだが人間を越えてしまうだろうという直感はある。

 

だが、今の時点でそれをするつもりはないし。

 

つもりがないなら。後の事は考えるべきだ。

 

船に追加動力を積み込む。

 

レントに手伝って貰うのも、これが最後かな。そう思う。

 

そして、この動力を付け足したら。後は。

 

島の地下に眠っている、使い潰された人達。奴隷だった人達を、埋葬して終わりだ。

 

全て荼毘に付せば、クーケン島の墓地にも埋葬できるだろうか。

 

今の時点での墓地の空きを考えながら。あたしは船をクラウディアとレントが漕ぐのをぼんやり見やる。

 

皆で船でクーケン島に行くのは久しぶりか。

 

港に着く。

 

ボオスとアンバーが待っていた。

 

「来たか。 それが例の奴だな」

 

「うん。 これを取り付ければ、数百年は島は小揺るぎもしないはず。 もしも島に何か起きたら、それは外からの問題によるものだろうね」

 

「すげえものを作るようになったな。 今でも島はライザがいないと回らないようになりはじめているのに」

 

「そういう事はあんまりあたしに面と向かっていわないで。 言われ続けると、ひょっとすると調子に乗るかも知れない」

 

ボオスは笑おうとしたが、あたしの表情が真剣なので、咳払いして言葉を飲み込んでいた。

 

そのまま、荷車を押してブルネン邸に向かう。クラウディアは一度バレンツ商会の代表者であるルベルトさんと話すそうだ。娘と父という関係ではなく、この戦いを見届けた人間として。

 

それでいいと思う。

 

勿論ルベルトさんが、周囲に今回の件についての真相を話すことはないだろうが。

 

それでも、共有はしておくべきだと思ったのだろう。

 

ブルネン邸に、荷車を押して向かう。坂道になっていて、本当に無駄な権威の塊だと思う。

 

そもそもこのブルネン邸だって、もとはなんだったか分からない代物を、勝手に邸宅として使っているだけだ。

 

タオがいずれしっかり調査したいと言っている。

 

今までは問題は起きなかったが。

 

それは単に、今までは平気だった、だけかも知れない。

 

とんでもない恐ろしい機構か何かの真上に邸宅があったり。或いは邸宅に使ったものが、そういう世にも恐ろしい代物である可能性は否定出来ないのだ。

 

ブルネン邸に到達。汗なんかかかない。こんな程度で疲れるほど、柔な鍛え方はしていない。

 

ボオスがすぐにモリッツさんを呼びに行き。ランバーが古老を呼びに行った。

 

この二人は、この件に関わらないといけない。

 

クーケン島の代表者だからだ。

 

古老が先に来た。

 

難しい顔をしていて。非常に不機嫌そうだ。あたしが作ってきた外付け動力を見て、不審そうにしていた。

 

「あー、おほんおほん。 ライザ、なんだねそれは」

 

「島の動力炉につける外付けの動力です。 これで、数百年は島が安定します」

 

「そうか……」

 

なんか言いたいのだろうが。

 

実際に、島の水が全く涸れる様子もなく、地震が起きることもなくなった。

 

乾期だと、今まではブルネン家が威張り散らしていて、みんな困り果てていたのだが。それもなくなっている。

 

更に水の質も、父さんがちょっと前とは違うと言っているが。いずれあたしが改善する。

 

まあ、いずれ何か起きるかも知れないが。

 

それが致命的にならないように、あたしは島に残るのだ。

 

作ったもの、関わったものに責任は取る。

 

それが出来ない人間は、錬金術師になる資格はない。

 

そういう意味で、古代クリント王国の錬金術師どもは。才覚はあっても、錬金術師にしてはいけない連中だったのだ。

 

モリッツさんも来る。

 

そして、奇怪な装置(モリッツさんから見て)にうっと呻いたが。ボオスが咳払いして、説明をしてくれる。

 

しっかり説明を把握していて、ボオスはもうしっかり島の長としてやっていけるとあたしは思う。

 

それに、剣だこが手に出来ているようだ。

 

多分だけれども、本気で剣の修行を始めていると見て良い。

 

今後、水の利権でブルネン家はデカイ顔を出来なくなる。顔役であるに相応しい人間になりたいという意味もあるのだろう。

 

それ以上に、あたし達の仲間に戻った今は。

 

いつか、冒険に一緒に出たいのだろう。

 

あたしも、それは歓迎する。

 

「数百年は大丈夫、か」

 

「あたしは島に残りますので、これからしっかり島の状態を細部まで調べます。 もしも問題があるようなら、数百年掛けて島から移住することを計画してください。 人が住める場所は幾らでも今の時代はありますし、なんなら魔物に滅ぼされた集落を再興するのもいい」

 

「分かった。 考えておこう」

 

冷や汗を拭いながら、モリッツさんはいう。

 

あたしは、もうモリッツさんには一歩も引くつもりはない。それにモリッツさんは憶病だけれども、しっかり相応に考えてはいる人だ。

 

島の地下の現実を見せて、それで色々思うところもあったのだろう。

 

協力の姿勢は、問わないようだった。

 

アガーテ姉さんが来る。

 

アガーテ姉さんにも、知っておいて貰った方が良いだろう。アンペルさんとリラさんもいるのだが。

 

二人は、見届け役であって。

 

もう口を出すつもりはないようだった。

 

「俺が邸宅の入口を見張ります。 何人か護り手の配置をお願い出来ますか」

 

「分かった。 任せるぞ、ランバー」

 

「はい」

 

完全にヘタレのふりをやめたランバーは、しっかり背筋も伸びている。本来はこんなだったんだな。

 

そう思って、あたしは意外さに驚いていた。

 

ともかく、これで邪魔は入らない。

 

タオが地下への入口を開いて、状態を確認する。

 

「問題ないよ」

 

「よし。 私達は、亡骸の回収を開始しておく。 動力炉は頼むぞ」

 

「分かりました」

 

アンペルさんが、手袋をしている。リラさんは、大きめの荷車を運び出していた。

 

地下に降りる。

 

淡水化装置はグオングオン唸っていて、問題はない。ただ、あたしは幾つかこれに補強をしておく事にした。

 

一度水を蒸気にしているのだ。

 

ゴルドテリオンが如何に神話金属とは言え、いつか破損するかも知れない。

 

それを先に防ぐ必要がある。

 

足場を作って、特に負荷が大きい地点に、外側からゴルドテリオンのパーツを取り付けて、補強をしておく。

 

釘を打ったりはせず。

 

文字通り組み立てるだけでよい仕組みにしてある。

 

そしてゴルドテリオンの強度である。

 

仕組みを理解出来なければ、外すことは無理。

 

フィルフサ王種の猛攻にも、ぼろぼろになりながらもレントの大剣は耐え抜いた。あたしが作った程度のゴルドテリオンですら耐える事が可能だったのである。

 

だったら、この程度の蒸気圧力にだったら。

 

耐えられるはずである。

 

「よし、補強終わり!」

 

「さらにごつくなったな……」

 

「島の人達の水のためだよ。 また新しい技術を思いついたら、どんどん補強していくよ」

 

「ああ、頼む。 ライザの後に、この島に錬金術師が出る可能性はあまりないからな」

 

ボオスがぼやく。

 

頷くと、あたしは古老とモリッツさんを促して奧に。

 

既にリラさんはひょいひょいと飛び回りながら、彼方此方にある亡骸を回収し始めているようだった。

 

酷い状態の亡骸も多いのだろう。

 

リラさんの表情は険しかった。

 

また、恐らくはないだろうが、フィルフサとの戦いにかり出されなかったゴーレムとかがあるかも知れない。

 

それは、アンペルさんとリラさんで壊してしまうだろう。

 

あんなもの。

 

あってはならないのだ。

 

「あの女性戦士、凄い手練れだな」

 

「頼りになりますよ。 ただ、もうこの島を離れるそうですけど」

 

「そうか、それは惜しいな。 私はどうも若手の訓練はそれほど得意ではないようだし、出来れば教練を願いたかったが」

 

「……」

 

若手の教練か。

 

ザムエルさんが酒を抜いてまともになってくれたら、あるいはそれをやってくれるかも知れないのだが。

 

まだ無理だろう。

 

ザムエルさんが迫害を受け続け、心に傷を受け続けたのはあたしもわかっている。いなくなったザムエルさんの奥さんが、戻ってくるとか。そういうのが切っ掛けとして必要になる筈だ。

 

レントには、ザムエルさんをまっとうな道に戻す事は出来ない。

 

レントとザムエルさんは、あまりにも互いに不信を募らせすぎたからだ。親子としての関係は破綻している。

 

もしも関係を取り戻せるなら、ザムエルさんの奥さん……今は元奥さんなのだろうか。しかいないのだ。

 

「ライザはどうかね」

 

「ライザは学問を空いた時間で教えて貰おうと思っています。 この驚天の技、誰かしらが引き継げるなら……そうしてもらいたいものですので」

 

「そうだな……確かにそうだ」

 

古老に、アガーテ姉さんがいう。

 

まああたしも、今回の件で知識を色々増やしたし。子供に色々教えるのは可能だ。それも良いかも知れない。

 

古老は、舌打ちしそうな顔をしていた。

 

あたしの事が邪魔で仕方がないという雰囲気だが。

 

知るか。

 

古老のお気持ちにどうして寄り添わなければならないのか。あたしは、島のために動いている。

 

そんなお気持ちによって動くような島だったら。とっとと一度共同体を解体して、再建するべきだろう。

 

もしも五月蠅くなるようだったら、あたしも島を出て行くだけ。

 

それが分かっているから、古老もあまり強く出られない。

 

こういう嫌な事ばかりが分かるようになって来ているが。人間なんてそんなもんだと思って諦める。

 

とにかく、以前タオが作った目印通りに、地下に降りて行く。

 

クラウディアが途中で音魔術を展開して、それで事故がないように気を付けてくれた。レントもタオも、周囲にしっかり気を配ってくれている。

 

「此処を下にいきます」

 

「やれやれ、ややこしいこと極まりないな」

 

「大丈夫、地図は後で渡します」

 

「そうかね。 有り難い話だ」

 

モリッツさんが、多分皮肉混じりにタオに返す。

 

モリッツさんからしてみれば、何の伝承を引き継いでいるのか分からないタオの家は色々鬱陶しかったのだろう。

 

それがとんでもないものを引き継いでいて。

 

アンペルさんとタオのおかげで蘇ったのは、色々複雑な気分なのかも知れない。

 

動力炉に到達。

 

この視認阻害の魔術の霧は、そのままにしておく。

 

タオが制御盤にとびついて、すぐに操作を開始。まずは状態の確認からだ。

 

「うん、問題ない。 ただ、今の時点では、だね」

 

「よし、とりつけるよ。 ボオスも手伝って」

 

「かまわないが、熱魔術でまた足場作ったりはしないんだよな。 あれ、おっかないんだが」

 

「大丈夫、今回のは一度組み立てたら、そんな心配もないからね」

 

あたしはそう言って、足場にするパーツを出す。それを組み立てていく。

 

パイプを複数くみ上げたようなパーツになっていて。

 

それをくみ上げると、外付けの動力から。この島を動かしている動力炉に、膨大な魔力を送り込む事が出来る。

 

更にこのパーツはゴルドテリオンで出来ている。

 

筋肉ムキムキのオッサンが、ハンマーで殴った程度ではびくともしないし。逆に、そんな程度の衝撃だったら、へたをするとおっさんの手が複雑骨折をする。

 

まずはパイプを伸ばして、固定。

 

複数の部材を組み立てて行く。

 

ボオスも、指示通りに動いてくれるし、力がいる場所はレントがやってくれる。

 

多分これが最後の力仕事になるからだろう。

 

レントは、殆ど何も言わず、黙々と動いてくれていた。

 

それを理解しているからか。

 

ボオスも、それについてああだこうだいうつもりはなかった。

 

タオはその間に、幾つかの情報を引き出して、話してくれる。

 

「島の外壁にあるダメージは、修復できないみたいだね。 ただ、外壁のダメージで致命的なものは今の所ないみたい」

 

「致命的なものが出来たら、修復とかは出来る?」

 

「ええと……一応補強を自動でする機能はあるみたいだけれども、それも動力が欠けて島が漂って、暗礁になんどもぶつかったりしていたら、いずれ壊れてしまうだろうね」

 

「分かった。 後は経年劣化だけれど」

 

専門的な話を幾つかしていく。

 

いずれにしても動力だ。

 

戦闘用のゴーレムについては、存在しないとタオが言う。エンプティと表示が出ているそうだ。

 

それに対して、簡単な構造の、補修用のゴーレムは島の地下の、更に奧の方にあるらしい。

 

これらは構造が簡単で、動きも遅く、何かしらを攻撃するようには出来ていないということだ。

 

それならば。排除することもないだろう。

 

組み立て終わり。

 

タオに、動力を接続する旨を告げる。

 

タオも頷くと、制御盤を忙しく操作する。

 

そしてあたしは、安全弁を解放していた。

 

どっと、凄まじい魔力が島の中枢に流れ込む。タオが、驚きの声を上げていた。

 

「凄い! ライザが作った新しい動力源を中心に、一気に動力が充填されてく! 今の一瞬で、今までの消耗した動力量を凌駕した!」

 

「……」

 

そうか。ならば余計に分かる。

 

フィルフサを動力源として、バカ共が計算に入れるわけだ。

 

魔石とかを利用した動力を、一瞬で数百年分は凌駕する超高密度エネルギー。

 

恐らくこの膨大すぎる魔力。

 

オーリムから搾取しただろうものであることは。疑いがない。

 

フィルフサは魔力の核を持つ事で、それを生体活動にも戦闘にも活用する。

 

だが無から有は、錬金術でもないかぎりできない。

 

フィルフサの核は、自然界から吸い上げて、自分達だけのものとしたものなのだろう。

 

それがどういう過程で作り出された生態なのかは分からないが。

 

こんなものが大繁殖する切っ掛けを作った連中は、万死どころか地獄で永遠に灼かれ続けるに値する。

 

この世界は人間だけのもの。人間が好き勝手に何もかもを切り取っていい。それが古代クリント王国の錬金術師達の思考。そして連中の思考では、人間を定義する言葉は、自分達だけにしか当てはまらなかった。

 

そんな連中に。世界が二つ、滅茶苦茶にされたのか。

 

そう思うと、この圧倒的な動力を見ても、まったく喜ぶ事はできなかった。

 

「とんでもない魔力だ。 ドラゴンが多数飛び回っているようじゃ……恐ろしい」

 

古老が呻く。

 

あたしも、それについては異論を言わない。

 

タオが、動力の配分などを操作してくれている。

 

とりあえず、これでいい。

 

手を叩いて、モリッツさんと古老。アガーテ姉さんにも状況を話しておく。

 

「これで数百年は大丈夫です。 後は、問題が起きたときのために、タオがマニュアルを作ります。 ブルネン家と古老のために二つ」

 

「分かった。 責任を持って管理する」

 

「やむをえん。 次の古老に、責任を持って引き継ごう」

 

「お願いします。 それと、中には目を通しておいてください。 タオはなんというか、もの凄く専門的にものを書くので、理解出来ない単語などがある可能性がありますから」

 

二人とも、凄まじい勢いで制御盤を動かしているタオを見て。

 

それで頷いていた。

 

タオはもう、周囲が見えていない。あたしは三人と一緒に、一度ブルネン邸まで出る。

 

後は、死者を弔う時間だ。

 

「クラウディア、音魔術お願い出来る? 出来るだけ緻密に」

 

「うん、任せておいて」

 

「後はタオだね……。 あの様子だと、多分声を掛けないといつまででも制御盤に貼り付いてるよ」

 

「後で俺が声を掛けておく。 心配するな」

 

レントがしっかりフォローしてくれる。

 

まあ、それなら頼んでしまうか。

 

アガーテ姉さんが、大きめの荷車を持ってきてくれた。それを使って、亡くなった人を回収していく。

 

此処でなくなっているのは、みんな犠牲者だ。

 

故郷に戻りたかったか、それとも自由になりたかったか、それは分からない。

 

分かっているのは、此処で殺されて。そしてみんな使い潰されたことだけ。

 

無言で、亡骸を回収していく。

 

酷い死に方をしている亡骸の中には、まだ子供だった死体も多くて。

 

あたしは、何度か目を拭っていた。

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