暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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古代クリント王国の非道の証拠が無数に残る島で。

鎮魂の儀を行います。

連中と、同じ存在にならないために。


3、鎮魂の時

島の中央にて、たくさんの亡骸を荼毘に付す。

 

近くで、たくさんの亡骸が見つかった。島の人達にはそう説明してある。今すぐ、真相を明かすこともない。

 

今は、ただそうやって。

 

誰もが、死を悼めばそれでいいのだ。

 

こういった弔いには、専門の魔術師が当たる。死骸は強い怨念を持っている事があって。たまにそういった怨念が集まって、強大な魔物になることがあるらしい。

 

幽霊話が途切れないように、そういった魔物の話はどこにでもある。

 

だけれども、あの渓谷……数万の人が亡くなっただろう渓谷ですら、そういうものはあたし達はみなかった。

 

だとすると、余程条件が整わない限り、怨念は魔物へと変わる事はないのだろうとも思う。

 

あたしも、目を閉じて黙祷する。

 

やがて、死体を燃やした炎から出た煙が、空に登っていく。

 

乾期と言う事もある。

 

水が空に足りていないのだろう。

 

どれだけ煙を出しても、雲ができる事はない。膨大な死骸は、数百人分は軽くあって、島の人達はひそひそと話をしていた。

 

「凄い数だな……」

 

「どんな理由で命を落としたんだろうね。 子供の死体もたくさんあったらしいよ……」

 

「最近物騒だったでしょ。 そいつらのせいなのかな」

 

「何とも言えないが……」

 

完全に燃やして、灰になった亡骸を、そのまま墓地に運ぶ。

 

この島にも無縁墓地はある。そこに、灰になった亡骸を収める。

 

人間は完全に燃すと、本当に少しだけしか残らない。

 

それはあたしも知っていたのだけれども。それでも、数百人分でも、この程度しか残らないんだな。

 

そう思うと、色々悲しかった。

 

墓地になくなった人達を埋葬して、後は祈りの言葉を捧げる。

 

クラウディアが請われて、鎮魂の曲を奏でた。

 

これに関しては、ロテスヴァッサ全域で同じものが使われているらしい。もうクラウディアは、大事なフルートを人前で披露することを怖がっていない。そのまま、大事なフルートで、死者の安息を祈る曲を奏でる。

 

空を見上げる。

 

あの外道共は地獄に落ちただろう。

 

この人達は、あるなら天国に行く資格があるはずだ。

 

無言で、夜空を見上げて。

 

そして、葬儀を終えた。

 

だが、これだけでは終わらない。

 

まだまだ、彼方此方でやる事があるのだ。

 

 

 

軽く、皆と話をしておく。

 

タオとボオスがクーケン島を出るのは、二週間後ということだ。かなり早いが、なんでも王都の学園だかの入学式がその時間で出る船に乗らないと間に合わないらしい。

 

何が学園だか知らないが。

 

まあ、ボオスもタオも乗り気なのだから、とめる理由はない。王都に死蔵されているような学問書を見るという意味でなら、行く価値はあるだろう。

 

クラウディアは三週間後にクーケン島を出る。

 

ルベルトさんが、商談を終えたからである。

 

ルベルトさんはあの葬儀の事情も知っていて、きちんと参列してくれた。クラウディアのフルートを聞いて、本当に嬉しそうに目を細めていた。

 

恐らくルベルトさんが喜んだのは、あんな大舞台でクラウディアがまったく物怖じしない胆力を身に付けていた事なのだろう。

 

それについては、分からないでもない話だった。

 

レントは、一月後に此処を出る。

 

それと同時に、アンペルさんとリラさんも、クーケン島を離れるそうだ。

 

そうなると、今のうちにやっておく事が幾らでもある。

 

まずはタオは、連日マニュアルの作成に大忙しになる。

 

あたしは、タオ以外の皆と渓谷にまず出かけて。クラウディアに音魔術を使ってもらい。どれくらい亡骸があるかを確認する。

 

やはり万単位で、粉々に潰された骨があるようだ。

 

これらの回収は、後で時間を掛けてやっていく必要がある。荼毘には付してあげないといけないだろう。

 

ただ、此処で嫌がるのを戦わされて、潰された古代クリント王国の錬金術師の死体も混じっている。

 

それを荼毘に付すのは色々不愉快だが。

 

だが、それら以外の人の亡骸は、荼毘に付さないといけない。

 

冥福を祈るというだけではない。

 

この土地に起きた悲劇に対するけじめとして、だ。

 

更に、オーリムにも足を運ぶ。

 

ボオスが行きたいと言ったので、ついででもある。

 

オーリムでは、時々雨が降っているようだ。水は完璧に戻っている。水の制御装置をみて、ボオスは思うところがたくさんありそうだったが。

 

あたしが釘を先に刺しておく。

 

下手に壊すと、何が起きるか分からないと。

 

そう言うと、これ以上オーリムに迷惑を掛ける訳にはいかないと思ったのだろう。ボオスも、納得してくれた。

 

ただし、この水の制御装置。

 

盗賊にでも奪われたら、それこそまた大きな悲劇が起きる。

 

キロさんは水源近くに住処をうつし。

 

其処から、土地を耕して。

 

野草を植えて、少しずつ環境の回復を始めているようだった。

 

水源近くには、まだまだまばらに野草が生えているだけだが。いずれこれも、緑に覆われるはず。

 

キロさんは、ボオスを見ると、嬉しそうに微笑む。

 

ボオスも、キロさんに色々話すことがあるだろう。

 

あたし達は気を利かせて、その場を離れる。

 

そして、クラウディアに音魔術を使って貰って。周囲の埋まっている亡骸などを、確認して貰った。

 

「だめね。 殆どはあの豪雨で流されてしまったみたい」

 

「そっか……」

 

「でも、少しは見つけたわ」

 

「じゃあ、あたし達で荼毘に付して回ろう」

 

皆で協力して、作業に当たる。

 

順番に、このばかげた悪夢につきあわされて、命を落としていった人々の亡骸を集めていく。

 

ただ、骨格が人間と違うものもある。

 

恐らく、オーレン族のものだろう。

 

リラさんの反応からも、それが分かる。

 

複雑そうな表情のリラさんに、声を掛けておく。

 

「リラさん、やっぱりこれは……」

 

「ああ、同胞の亡骸だ」

 

「それなら、オーリム式のやり方で葬ろう」

 

「そうだな……」

 

氏族によって違うらしいが。

 

此処で見つけた亡骸が、どの氏族のものかは分からないとリラさんはいう。

 

そうなると、共通の方法でやるしかないか。

 

水が戻っている地域を回って、一通り亡骸を回収。フィルフサに蹂躙された事もある。殆どの亡骸は、ほぼ原型を保っていなかった。

 

キロさんと合流。

 

そして、葬儀を行う。

 

ボオスも、これから四年くらい学年にいる事。その後にクーケン島に戻ることを告げたらしい。

 

その時に、この門を通るかは分からない。

 

門は固く閉じて、主に人間が悪さをしないように処置をしなければならない。

 

安易に開ける事は出来ないだろう。

 

だから、もしもキロさんと会うとしたら。別の門を封じている作業の時とか、そういう時になる。

 

何十年も会えないかも知れない。

 

いっそ、キロさんと一緒になりたい事を告げて。クーケン島に来てくれないか頼んでもいいのではないかとあたしは思ったが。

 

ボオスは恐らくだが、この土地の状態を見て、そんなことはとても出来ないと思ったのだろう。

 

キロさんは、この聖地を守らなければならない。

 

いずれにしても、思いは告げても足枷にしかならない。

 

その辺りは何となく汲み取ったので。あたしはそれについて、何も言うことはなかった。

 

葬儀は終わる。

 

亡骸を燃して。

 

わずかに残った灰を、地面に埋めるだけ。

 

キロさんは、一緒に戦った仲間と同じ墓場に、その灰を埋めるように頼んだので。あたし達でそうする。

 

灰を埋めた後、リラさんとキロさんで、鎮魂の歌を歌い。

 

クラウディアが、フルートを奏でた。

 

また、黙祷を捧げる。

 

あたしは、まだしばらくはこの土地にて、色々とやる事がある。

 

植物を持ち込んだりするのは論外。できれば肥料を持ち込むのも止めた方が良いだろう。

 

何が自然を壊すか、知れたものではないのだ。

 

リラさんとアンペルさんが、この土地を離れる一月後。

 

門を封じる。

 

その時まで、良き錬金術師として。

 

この土地にいるオーレン族のために、あたしはできる事をしなければならなかった。

 

 

 

夏は終わり、秋になった。

 

あれほど忙しかったのが嘘のよう。多少は余裕が出来てきたけれども。やる事が幾らでもある事に変わりはない。

 

タオは、マニュアルを作って、それを納品。

 

あたしも目を通した。

 

実際にタオが作ったマニュアルは三部。

 

モリッツさん向けの、ブルネン家のもの。

 

古老のためのもの。

 

それにあたし用のものだ。

 

雑な性格のあたしでも理解は難しく無かったので、これで充分だと思う。それで、後は留学の準備が整った事になる。

 

それで、あたしはタオにプレゼントする。

 

長さが違う、一対の剣。

 

剣の中には刀と言われる片刃のものがあって、これはとにかく高級品で鋭く、非常に強力な代物であるらしい。

 

ただ刀はあたしも見たことが無いし、作り方もよく分からない。

 

そこで、両刃のあたしも良く知っている剣で。

 

主力となる長い剣と。

 

普段は鞘に収めておいて、主に防御用に使う短い剣に仕上げた。作っておいてあったのだが、それを現状の技量で調整し直した。

 

元々色々試しているうちに作った剣で、タオ用のものとして用意していた剣である。

 

ゴルドテリオン製だが、それが分からないように要所を色々と補強している。見かけには、わざわざ盗む価値がありそうな剣には見えない。

 

そこまで、偽装は完璧である。

 

また、剣を少し長めにしているのは、タオが今後背が伸びる可能性を考慮しての事でもある。

 

それに加えて、長旅用の靴も準備しておいた。

 

あたしが数多の敵を蹴り砕いたゴルドテリオンで補強したものと同じである。毛皮をふんだんに内側の地に使っていて、足に対する負担がとても小さい。

 

また、色々と補強をしてあるので、簡単にはこわれないし。

 

足の大きさに合わせて、調整する事も可能なようにしてある。

 

ただそれにも限界がある。

 

流石にタオが倍も背が伸びたら、この靴では駄目だろうが。いや、まさかそんなに伸びることはないだろう。

 

「はい、これ。 餞別だよ」

 

「ありがとう。 やっぱりハンマーは限界があると思ってたからね」

 

「一応二本用意しておいたけれども、剣は基本的に一刀流が主流だから、それは忘れないで。 よっぽど慣れたなら、二本同時に使っても良いと思うけれど」

 

「大丈夫、レントに聞いてそれは把握しているよ」

 

靴の方も試してもらう。

 

サイズの替え方も説明して、それもすぐにタオは把握していた。

 

この辺り、頭の出来が元から違うんだなと、あたしは感心する。

 

本当に、タオに錬金術の才能があったら面白そうだったのだけれども。そう、うまくはいかないか。

 

他にもやる事は幾つもある。

 

これから、みんな旅に出るのである。

 

靴は、みんなの分プレゼントする。

 

宝飾品なんて、邪魔なだけだ。

 

クラウディアは宝石大好きと公言していて、たまにとんでもなく俗っぽいところが見えるのだけれども。

 

それでも、クラウディアが他の人の命より、宝石を優先する事は想像できない。

 

ともかく、今は実用品。

 

そう思って、靴を増やす。それぞれにあわせて、サイズも調整する。

 

リラさんは、ずっと使い古したものを使っていたようだが。あたしが作った靴は、愛用してくれている。

 

更に強化した最新型を渡すと、嬉しそうに履いてくれた。

 

履くときにやっぱり人間のとは爪の生え方が違う足が見えたけれども、それは当然だ。オーレン族なのだから。

 

だが、そんなことはどうでもいい。

 

リラさんは、みんなの武術の師匠であり、戦術の教官である。

 

それは今後も、変わる事はないだろう。

 

「いい靴だ。 私は裸足でもかまわないんだが、流石に目立つからな。 それにこれは増幅の魔術も掛かっているようだな」

 

「体力の常時回復と、筋力の増幅が掛かっています」

 

「そうか。 どうせ長旅になる。 助かる」

 

アンペルさんも、靴はボロボロだったので、新しいのは喜んでくれた。

 

アンペルさんはファッションとかには完全に興味がないようなので、必要なければ何年でも着たきり雀だろう。

 

あたしも別にそんなにファッションは興味があるほうではないのだが。

 

それでも、この靴はクラウディアと相談しながらデザインし、実用性のなかにしゃれっ気も入れている。

 

「この靴は足への負担が小さくなるように考えられているな」

 

「蹴り技にもつかえますよ」

 

「そ、そうか。 でもライザの蹴り技を真似できるとは思えないが」

 

「大丈夫、できますよ」

 

アンペルさんが、困り果てた様子だったので、仕方がないけれど話はうちきる。

 

魔術メインで戦う人間が敵に接近された場合の対策は必須だ。

 

あたし以外だと、ウラノスさんは若い頃剣術をやっていたらしい。ただ年老いて筋力が落ちてくると、どうしても剣術を捨てて魔術一本に絞るしかなくなったそうだが。

 

あたしの場合は足腰が昔から頑強だったので、蹴り技は自然に身についていたし。四つ年上の男のチンピラをけり跳ばして海に放り込んでからは、人間相手に使わないようにアガーテ姉さんにくどくど言われた(ただしチンピラをけり跳ばして仕置きしたことは褒められた)。

 

それから蹴り技を磨いて、魔物相手にも通じるように鍛え抜いたのである。

 

アンペルさんの魔術はとにかく癖が強いので、接近戦対策は必須のように思うのだけれども。

 

レントにも靴はプレゼントする。

 

これから長距離を……一人旅をするとなると、恐らく一番彼方此方を歩くのだ。だから、靴は必須。

 

これは喜ばれた。

 

剣も直した。流石に蝕みの女王の猛攻を受けてボロボロだったからだ。

 

「これでどんだけでも歩けるはずだよ」

 

「ありがてえ。 流石にフィルフサ以上の強敵がボロボロいるとも思えねえし、剣も滅多な事では駄目にはならないだろ」

 

「過信は禁物だよ。 レントの技量、まだザムエルさんとあんまり変わらないんでしょ」

 

「……そうだな」

 

数日前。

 

ザムエルさんと、レントがつかみ合いの喧嘩をしたらしい。

 

体格的にザムエルさんの方が上なのだが。レントはかなり善戦したらしく。なんと引き分けた。それで分かった事があるそうだ。

 

ザムエルさんは、長年の飲酒が祟って、無茶苦茶衰えている。

 

全盛期の頃だったら、100%勝てなかっただろうと。

 

だが、今のザムエルさんは、あらゆる技量でレントと大差ない程度の実力しかない。

 

逆に言うと。今のレントは、衰えたザムエルさんと、素の実力では同じ程度と言う事だ。

 

このゴルドテリオンの剣があって、やっと独り立ち出来ると言うのが、残念ながら現状のレントの実力なのである。

 

それはこれから一人旅をするレントとしても、忘れてはならないことだろう。

 

アンペルさんの義手も確認しておく。

 

古式秘具ということもあって、ちょっとやそっとでは壊れそうにないが、それでも確認はいる。

 

アンペルさんは義手の話をすると難しい顔をしたが。

 

今後、もっと厄介な事件があるかも知れないし。

 

巻き込まれたときに対応力がいると話をすると、聞き入れてくれた。

 

或いはだけれども。

 

あたしが、この事件を主体になって解決できたから、かも知れない。信頼云々の話ではなくて。

 

アンペルさんも、頑なになっていた心を、多少は変えたのかも知れない。

 

だとしたら、凄い事である。

 

年を取って良い方向に変われる人なんて、滅多にいないのだから。

 

「現時点では、この精度調整が限界ですね。 ただ、もしも何年か後に会う事があったら……その時に技術が上がっていたら。 その時はまた見せてください」

 

「ああ、分かった。 信頼している。 もうライザ、お前の腕は私よりも上だからな」

 

「ふふ、そんな事言って。 まだ現役を退いて貰っては困りますよ」

 

「そうだった」

 

さて、後はクラウディアか。

 

クラウディアにも靴をプレゼントした後、バレンツ商会の販路を使っての手紙のやりとりをできる仕組みを作る。

 

これはあたしがクラウディアと話したいこともあるが。

 

何かしらの事態……例えば近くに門が発見されるとか。

 

逆に、クラウディアが門の存在を知ったとか。

 

そういうときのために、販路を使った連絡網を使いたい、と言う事でもある。

 

この連絡網は、皆に共有する。

 

特にアンペルさんとリラさんは必須だ。

 

二人は恐らくだが、積極的に今後も各地の遺跡を探って、門を調査していくだろう。当然大半はその場で閉じてしまう筈だ。

 

だが、水を奪う玉を見つけた場合。

 

対処が、今までと異なってくる可能性が高い。

 

フィルフサの大侵攻を招いてしまうから、安易に門は開けられない。だが、もしも門の向こうで踏ん張ってフィルフサと交戦しているオーレン族がいるようなら。

 

あたしがその場に出向いてでも、処置をしなければいけないだろう。

 

その時には、玉の水が現地の人に使われているか。

 

使われている場合は、どれくらいインフラに絡んでいるのか。

 

それに変わる方法をどう確立するか。

 

これらを、あたしの今回の事件の経験から作り出しておかなければならない。

 

アンペルさんはあたしの方が上だと言ってくれるけれど。

 

多分、アンペルさんでも規模次第では対応できる筈。

 

ただ、規模次第では、みんなで集まらないといけないだろう。できるだけの人数でもだ。

 

その時には、手練れが一人でも多く必要になる。

 

タオやレントも、学生業や旅から引き戻さないといけないかも知れなかった。

 

それぞれの人生があるのは分かっている。

 

だけれども、これは人生の枠組みを超えた問題だ。

 

クラウディアとは、その話をする。

 

あたしの、一番の友達になった子。

 

だからこそ、この話をしなければならなかったし。これを一緒にやる相手としても信頼出来る。

 

みんなも、関わった以上。

 

そして古代クリント王国の暴虐を知った以上。

 

いいえとは言わなかった。

 

皆とも話をつけた後、どうやって連絡を取るかの細かい段取りをつける。そもそもバレンツ商会はクーケン島に販路の拠点を残すため、今クラウディア達が住んでいる館を正式に買い上げて、あのメイドのフロディアさんが其処に居座るらしい。

 

彼女にも連絡のためのノウハウを共有するとクラウディアは言っていた。

 

それなら安心だ。

 

あの人が、メイドという枠組みでは測れない実力なのはあたしも知っている。というか、今のあたし達でも勝てるか怪しいくらいには強い。

 

アガーテ姉さんも、フロディアさんを見た時、目を細めていた。多分凄まじい実力を感じ取ったのだろう。

 

クラウディアは、フロディアさんに対する疑念の視線を感じると、悲しそうにするので。あたしもそれは気を付けている。

 

だから連絡網の構築についての共有は賛成した。

 

難しい話をした後は、クラウディアに幾つかのプレゼントはする。

 

靴はみんなと同じ。

 

街とかの安全な場所にいるときは、ヒールというのもありだろうが。あんなものは、戦闘時には死ぬために履くような代物だ。

 

何が悲しくて、つま先立ちで命を狙ってくる自分より身体能力が高い魔物とやりあわなければならないのか。

 

だからクラウディアにも、戦闘用の靴をきちんと渡しておく。というかこれは、旅にもつかえる。

 

それと、クラウディアは宝飾品が好きなようなので、パールを加工して渡す。

 

パールそのものは、近くの川でも普通に手に入る。

 

問題はパールには鉱石寿命というものがあることで、宝石としては百年程度しかもたないのである。

 

それでネックレスを作って、渡した。

 

あたしにはセンスがないから、ネックレスのデザインが良いのかは分からない。ただ、クラウディアにはこれだろうと思って、翼を意匠に入れた。

 

音魔術の増幅にも使える実用品だ。更にネックレスとしてはあまり動かないようにして、移動しながらの狙撃戦でも邪魔にならないようにする。

 

ちょっとした音でも、手練れの狙撃手や魔物は反応してくる。

 

それに対策するためのものだ。

 

クラウディアも、最近は音で周囲を探るだけではなく。自分の音も消せるようになってきているようだけれど。

 

それでも、負担は小さい方が良いだろう。

 

他にも、皆に作った腕輪などはそのまま持っていって貰う。

 

基礎スペックを上げられるのは、大きなアドバンテージになるからだ。

 

もしも壊れた場合は、現地で自分でどうにかしてもらうしかないが。

 

勿論、この連絡網を使って送って貰えば、直して送り直す。

 

幾つかの話し合いをして、その辺りを決めているうちに。

 

時間は容赦なく流れていった。

 

もうすぐ、乾期も終わる。

 

この地方の乾期は、短い秋が終わる頃には明ける。そして、もう数日先に、最初の行ってしまう仲間。

 

タオとボオスの乗る船の、到着が近付いていた。

 

 

 

フロディアはクラウディアから渡された連絡網について確認し、それをそのままコマンダーに報告していた。

 

まんまやっていることは間諜だ。しかもクラウディアは、フロディアを全面的に信じてくれてもいる。

 

それに対する裏切りだと言う事は分かっている。

 

だが、それ以上の問題なのだ。

 

才覚だけの学問である錬金術師。

 

それは、最低限の善性も持たない人間が安易に手にすることが可能な事を意味していて。

 

歴史上人類が作り出した最悪の学問とも言える。

 

神代の更に前には、核兵器というおぞましい兵器があったらしいが。

 

空間操作を行う神代の技術の前には、核兵器ですらもはや過去の産物となったのだ。

 

それほどに危険な、圧倒的技術。

 

それも人間に完全に依存する。

 

神代の再来とも言える存在が出て来た以上。殺せという指示が来たらいつでも、被害を度外視で仕掛けなければならなかったし。

 

当然、どれだけの犠牲を出す覚悟もできていた。

 

頭の中に、ちりちりと宿る痛み。

 

主がフロディア達同胞を作る時。完全に「新しい存在」として作り出せなかったと聞いている。

 

これは、主が自我に目覚める切っ掛けとなった事件。

 

感じ取った者の痛み。

 

虐げられ滅ぼされた命の痛み。

 

錬金術師に対する怒りだ。

 

フロディア達同胞は、全員がこれを共有している。故に、錬金術師に対する怒りもまた、共有しているのだった。

 

コマンダーは報告を受けると、咳払いしていた。

 

「しばらくは監視で、だそうよー」

 

「そんな悠長な方針で良いのですか。 神代の錬金術師に匹敵するか、それ以上の才覚の持ち主。 何かの切っ掛けで翻心したら、今度こそ世界が滅ぶ……それも一つで済むか分かりません」

 

「そうねー。 でも、前にも言ったでしょう?」

 

「……」

 

主の判断には従う。

 

コマンダーは、今までこんなふわふわな言動だけれども、誠実に仕事をしてきている。いざという時は、汚れ仕事も先陣を切って行う。

 

だから、信頼感はある。

 

「大丈夫大丈夫。 しばらく成長は恐らくしないと思うわよー」

 

「既に手を打っている、と言う事でしょうか」

 

「ふふ」

 

「……分かりました。 しばらくは監視に努めます」

 

引き下がる他ない。

 

屋敷に戻ると、クラウディアが戻って来ていた。

 

完璧な角度で礼をして、それで幾つかの引き継ぎを受けておく。クラウディアはようやく一段落した事もある。

 

今、ルベルトから幾つも仕事を教わり。秘書官としての仕事をしているようだ。

 

クラウディアの、仕事の飲み込みは非常にはやい。

 

フロディアは先達として、後輩になるクラウディアに聞かれた場合はアドバイスをしているが。

 

既に相当に高度な質問をして来るようになっている。

 

ほんの少し前、笛を吹くかどうかでうじうじしていた小娘の姿かこれが。

 

たった一季節で、完全に化けた。

 

それに対しては、実の所は苛立ちはない。むしろ嬉しく思う。

 

フロディアにも人間的な感情というのは、当然ある。

 

そしてクラウディアとずっと一緒に過ごして来たのだ。クラウディアが一皮剥ければ、それはそれで嬉しいのである。

 

ただ、錬金術師との冒険によって大きく成長したというのであれば。

 

それは、あまり嬉しくはないというのも本音としてあり。

 

極めて複雑だったが。

 

クラウディアは見ていて分かったが、計算が兎に角正確だ。暗算術は以前に習った事があるらしいのだが。

 

この一季節の冒険で、判断力と広域戦術を担当したからなのだろう。とにかく細かい所まで良く気がつく。

 

同時に、他人の感情を読み取ることもかなり上手くなったようである。

 

「音」を専門に扱っているからだろう。

 

軽く執務を手伝う。その後は、クラウディアは笑顔で礼をきちんという。

 

この辺りは、横柄な金持ちの子息とは随分と違う。

 

今でも「下」と見なしている相手には、横柄な目を向ける金持ちは珍しくもないというのに。

 

クラウディアは、フロディアに対しては非常に態度が柔らかい。

 

「ありがとうフロディア。 後は自分でやっておくわ」

 

「はい。 それでは失礼します」

 

なお。フロディアも今後は任されるものが大きい。

 

此処の支部の全権を任されるのも同然で、今後バレンツ商会の関係者が此処に何人か来るだろう。

 

それらの指揮を任されることでもある。

 

無言で、ルベルトの様子を見に行く。

 

とても満足そうに、妻の写真が入っているロケットを見つめていた。

 

声を掛けられない。

 

ちりちりと、頭の奧で。何かが痛む気がした。

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