暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、静かな処置

パミラはその場所に赴く。パミラは実体を得ているとは言え、それなりにそうでなかった時代の力も行使することができる。

 

とはいっても空間の壁を突破するのは容易ではなく。

 

その場所に赴くには、色々な手順を踏まなければならなかったが。

 

其処に出向くと、あるのは極めて規律に支配された世界だ。

 

同時に静寂に支配されてもいる。

 

動いているものもあるが、それは自動化された監視システム。

 

生物を改造したものであっても、それは変わらない。

 

足を踏み入れて、少し待つと。

 

やがて、ちいさな影が現れる。

 

ぱたぱたと走ってくるそのちいさな影は。「同胞」と呼ばれる者達にそっくりだった。ただし、「同胞」として活動開始する年齢よりも見た目がぐっと幼いが。

 

「パミラ様!」

 

「こんにちはアイン。 体の調子は大丈夫?」

 

「まだ一日の殆どを眠って過ごさないといけないの。 もっと彼方此方走り回りたいな」

 

「そうね。 でも、歩くことができるようになってからも、それほど時間が経過していないでしょう?」

 

うんと素直に応えるちいさな影。

 

もとの名前は違っていたことも知っている。

 

だが、それはどうでもいい。

 

ともかく、案内されて奧に行く。

 

システムの大半はまだ動いているが。殆どの劣化が激しい。

 

そして此処に。

 

厳密な意味での生き物は、存在していない。

 

パミラは目を細めて、周囲を見やる。

 

埃一つない潔癖の都市。

 

空間の狭間に浮かぶ不可侵の城塞。

 

だが、難攻不落の要塞というものは、基本的に滅びる運命を辿ることになる。それは古今東西関係無い真理だ。

 

この城塞は、内側から滅び去った。

 

今では、ものいわぬシステムが動き回り。ただ管理を続けているだけである。

 

パミラが最初に来た時は、敵対の姿勢を見せるシステムもあった。

 

それらは悉く斬り捨てた。

 

一緒にアインと歩きながら、話をする。

 

「お母様は、まだここの管理者権限にアタックを続けているのかしら?」

 

「そうみたい。 今日も何回か実行したんだって」

 

「それで少しずつ権限を奪い取って、色々できる事が増えてきたのだものね。 ただそれだと、効率が悪すぎるかも知れないわねー」

 

実際、アインが歩けるようになったのも、パミラの感覚ではつい最近の話だ。

 

それをするためだけに、あの子は随分と時間を掛けた。

 

人間では無いからできた事かも知れない。

 

いずれにしても、その努力は。

 

下手な人間の母親より遙かに貴く、ずっと強い愛情に満ちている。

 

自我が生じたのは、偶然かも知れない。

 

だが、その自我は。

 

邪悪を極めた連中の産物から生じてきたもの。

 

焼け野原と汚染されきった大地から芽吹いたちいさな美しい芽。

 

だから、パミラは呼び寄せられるようにして巡り会った。

 

まともな錬金術師が殆どいない。この最果ての世界で。

 

最初に可能性を見いだしたのは、人間ではない存在だというのも、おかしな話ではあったが。

 

それもまた、世の真理なのだろう。

 

かさかさと、四足で動く自動機械が来る。アインに光を送る。それを見て、アインは口を尖らせた。

 

「もう寝なさいだって……」

 

「まだ体がしっかりできていないのだから仕方がないわー。 お母様の言う事を、しっかり聞いておくのよ」

 

「はーい」

 

自動機械がアインを載せて、培養槽に向かう。

 

屈託のない笑顔で手を振るアイン。

 

パミラは手を振り返すと。さて、と呟いていた。

 

同胞、か。

 

実際にはアインをベースにしたホムンクルスだ。他の世界でも似たようなものはたくさん見て来たが、製造方法がどちらかというとケミカルなものに近い。

 

だからアインと姿は似ているが、身体能力は桁外れだし。

 

アインと違って、最初から走る事も出来れば。人間と子を作る事も出来た。

 

それら同胞に対しても、あの子は愛情を注いでいる。

 

時に死地に向かわせるのも、苦しい決断の果てだ。

 

あの子は色々と背負いすぎている。

 

人間が身勝手に世界を無茶苦茶にした挙げ句、放棄した責任はあまりにも多すぎるのである。

 

本来だったら、皆が分散して背負わなければならなかった責任を。

 

あの子は今でも、その存在が故に。

 

たった一つの身で、背負い続けていると言えた。

 

不意に声が聞こえる。

 

側にある。あの子が権限を奪取した端末からだった。

 

軽く社交辞令をかわしてから、本題に入る。

 

「アインは培養槽に移しました。 これより回復作業を実施します」

 

「それで、どう? 歩けるようにはなりそう? 細胞の一部がまた短時間で壊れかけていたようだけれど」

 

「少しずつ管理者権限を奪取して、体の調整をより丁寧にできるようになって来ています」

 

「そうね-。 そもそも人型にするのにも、培養槽から出られるようにするのにも、随分時間が掛かったものね」

 

最初みたアインは、文字通り肉塊だった。

 

それはそうだろう。

 

そういう死に方をしたのだから。

 

どのような暴虐が行われたのかは、パミラも知っている。あの子に見せられたからである。

 

あの光景を見た時、パミラはこの世界の人間に失望した。

 

世界を見守る事を仕事にしているパミラが。まだ懲りずに古代クリント王国の、更には神代の過ちを繰り返そうとしている人間を全て斬ったのもそれが故だ。

 

「どうやら、セーフティを掛けたようね」

 

「はい。 これで当面、ライザリン=シュタウトは成長できないでしょう」

 

「セーフティを突き破るほどの成長をした時には?」

 

「その時は、例の機能を起動します。 最後に起動したのは、109年前でしたね」

 

「……」

 

例の機能か。

 

あまり気分がいいものではない。管理者権限で封鎖したという事だが。それができるまでに、多くの世界の歪みをもたらした原因だ。

 

ただ、それで世界の破壊者になりかねなかった錬金術師を集めて、まとめて駆除できたのは良かったのかも知れない。

 

此処に訪れた錬金術師を、パミラは皆見て来たが。

 

どいつもこいつも、神代の外道達と大差ない連中だった。

 

まあ、それもそうだろうか。

 

その機能は、神代の錬金術師どもが。傲慢に鼻の穴を膨らませながら、「試験をしてやる」という名目で作りあげたもの。

 

そんなものに呼び寄せられるのは、それはゴミに集る蠅だけだ。

 

いや、それは生態系にて分解を担当している蠅に失礼かも知れない。

 

「まあいいわ。 いずれにしても、ライザリンは恐らく止まらないわよ。 あの子が怒りの形相で此処に乗り込んできたら、どうするの?」

 

「その時は全てを話し、管理者権限の詰まったメインサーバの破壊を依頼します」

 

「……神代の連中が本気で作りあげた防衛装置込みよ?」

 

「それも破壊出来るのなら言うことはありません。 ……利害を説いて、協力を求めます。 私とライザリンの利害は、今までの観察を見る限り、一致していると考えます」

 

そうか。この子はやはり。

 

なんというか、この子を作った人間よりも遙かに人間らしいな。

 

そうパミラは思って、苦笑していた。

 

後は細かいやりとりをした後。

 

虚空の城塞を後にする。

 

セーフティが掛かった以上、ライザリンは今までのような躍進はできないだろう。当面はいわゆる「スランプ」と呼ばれる状態に陥る。

 

後は、その状態で、道を踏み外さないか見守るだけだ。

 

もしも道を踏み外すようならば。

 

斬る。

 

今まで、この世界で散々最悪の錬金術師を見て来たパミラは。今まで数多の世界を見て来た中で、一番この世界を軽蔑していた。

 

 

 

(続)




ついにフィルフサの王種「蝕みの女王」を撃ち倒したライザ達。

かくして大侵攻の可能性はなくなり、クーケン島どころか世界が一旦救われたことになります。

一夏で百年の生を経た錬金術師を越えたライザ。

あとは後始末と後日談です。
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