暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、幼なじみはみんな行く

ザムエルさんの所にあたしは出向く。

 

もう、レントが行く日が来た。だから、せめて何か声を掛けてやってほしいとあたしは思ったのだ。

 

相変わらずザムエルさんは、酒を入れていた。

 

だけれども、いつもと違ってもの凄く不機嫌そうだった。

 

ザムエルさんの家は路地の奥にあって、化け物屋敷なんて言われている。立地も日当たりも悪く、敢えて其処に住んでいることはよく分かっていた。ザムエルさんは奥さんを連れて島に戻ってきた時点で、既に親族は生きていなかったし。色々と思うところもあったのだろう。

 

レントが幼い頃は、露骨に帰りたくないという顔をしていたこともあった。

 

ザムエルさんに、声を掛ける。

 

振り返るザムエルさん。不機嫌そうだが、あたしを見て声を荒げるような事もない。それだけ、お父さんとお母さんにザムエルさんが色々思うところがあるという事だ。

 

酒臭い息を吐くザムエルさん。

 

「なんだライザか。 せっかく酔ってるんだ。 声を掛けるんじゃねえよ」

 

「レントがもう行くって言っているの。 見送ってあげないの?」

 

「あいつは俺を嫌っている。 俺もな」

 

ザムエルさんが俺もと言ったが。

 

ザムエルさんがレントを嫌っている訳では無いなとあたしは思った。

 

きっとザムエルさんが嫌っているのは。

 

世の中に負けてしまった、自分自身なのだろう。

 

この大巨人でも、世間の偏見と差別には勝てなかった。化け物呼ばわりされたことだってあったのだろう。

 

人間という生き物は、見かけが九割だとかいう理論を振りかざして。平気で自分の善意を押しつけたりする。

 

ザムエルさんのように大きければ、体も心も鋼だと考えるのはあまりにも軽率で愚かしい事だ。

 

あたしは嘆息する。

 

ぐいぐいと、ザムエルさんは酒を呷る。この人は、普段から護り手でも手に負えない魔物がでた時には声が掛かる。

 

今回のフィルフサ対策の時も、街道を見張って魔物や与太者の類に隙を見せなかったという。

 

だからこれだけの飲んだくれで嫌われ者でも、クーケン島の人間からは、有事の戦力として頼られているし。

 

護り手からある程度のお金も出ている。酒にそれが消えてしまうのは、考え物では確かにあるが。

 

ザムエルさんは、こういう暴れ者の中では大人しい方だ。

 

今まで見てきた与太者やチンピラは、平気で一線を越える。古代クリント王国の錬金術師のような下衆は流石にあまり多く無いが。

 

ピカレスクロマンとか言ったか。

 

悪党を格好良く描く物語が、如何に嘘だらけか。あたしは身近で何回か例を見て良く知っている。

 

ザムエルさんはそういう連中とは違う。

 

人生の敗者かも知れないが。

 

少なくとも、気分次第で人を殺したり。

 

弱者を蹂躙してゲラゲラ笑っているようなカスよりは、ずっとマシな人だ。

 

それを思えば、あたしはこの人を嫌いになりきれない。

 

レントがさんざん暴力を振るわれたことは知っている。

 

だけれども、それはこの人なりに考えがあってのことだろうとも思っている。実際、身内の子であるあたしには、ザムエルさんは一度も手を上げなかった。

 

ただし、レントの哀しみと怒りもよく分かる。

 

だから、こうして呼びに来ているのだ。

 

「見送りは、しないんだね」

 

「彼奴はもう一人でやっていけるんだろう?」

 

「……専門家のお墨付きだよ」

 

「そうか、じゃあいっちまえ。 それで世界の現実を見てこい。 俺みたいに潰されるか、それともそうならないかは、彼奴次第だ。 俺みたいな奴が、それを見送るつもりはねえよ」

 

そうか。

 

やっぱり、色々と思うところがあるんだな。

 

あたしは、一礼するとその場を後にする。ザムエルさんは、もう此方を見ず。更に不機嫌そうに、酒瓶を傾けていた。

 

 

 

レントはあたしと、アンペルさんとリラさんだけで見送った。

 

アガーテ姉さんは色々忙しいらしく、今日は島で仕事をしている。何やら貴族の関係者が来るとかで(そんなもんが来ようとどうでもいいのに)、モリッツさんが警備を固めるように指示を出したそうだ。

 

モリッツさんは相変わらずだなと思う。

 

本人だって分かっているだろうに、無駄な事をして。

 

バレンツ商会だって、そもそもモリッツさんがやったような対応は求めていなかっただろうとあたしは思うのだが。

 

ただ、少し前から明らかに萎縮している。

 

だから、この程度の警備だので済んでいるのだろうとも思う。

 

もう水利権は、モリッツさんの手には無い。

 

水利権を手放さないために、モリッツさんが抵抗するシナリオだってあったとアンペルさんは言っていたっけ。

 

その時には、もっと手荒い手段を採る必要もあっただろうと。

 

まあ、血を見る事になったんだろうな。

 

そして、そんな状況を、アンペルさんは何度も経験してきたのだろう。

 

容易に想像できるから、あたしはあまりああだこうだと言えなかった。

 

「レント、装備品とかは大丈夫?」

 

「ああ、もうばっちりだ。 クラウディアに貰った裁縫道具とかも、もう使いこなせるようになったぜ」

 

「それは何よりだね」

 

あたしの方からも、いざという時に使えと一番良くできた薬を渡している。その他にも、大剣や靴は、あたしが作ったものだ。

 

装飾品もそのまま。

 

元よりかなりパンプアップしているが、これでやっとレントは一人でやっていけるレベルだとリラさんは言っていた。

 

まあ、そうなのだろう。

 

元々レントはガタイに恵まれていて、それが一番の財産だ。まだ少しは背が伸びるかもしれない。

 

逆に、ガタイが恵まれている反面。

 

技量という点では、皆の中で一番成長がなかったかも知れない。

 

だからだろう。

 

レントは一度島を出て、徹底的に基礎的な力を上げる。そのつもりなのだろう。

 

アンペルさんが、知っている限りの危険地帯を教える。レントはタオからプレゼントされたメモ帳に、それを記載していた。

 

リラさんが、幾つかアドバイスをする。

 

人間が隙を晒す場合の要件についてだ。

 

後、自分を狙っている人間を察知する方法なども、ここ数日で教え込んでいたようだ。

 

いわゆる殺気の探知という奴だ。

 

魔物なんかは殺気をバリバリ放つから分かりやすいが。そもそも殺気なんて存在しないという話もあるし、あたしはそれが正しいと思う。

 

要は勘を研ぐしかない。

 

レントの場合、魔術を身体強化に回している。その延長線上で、周囲に何がいるか察知する。

 

それをやれるようにしないと、一人旅は危ないという話をリラさんはしていて。

 

故に、レントも必死に技量を磨いたのだった。

 

「くどくど言っても仕方がない。 もしもどうしようもなくなったら、クーケン島に戻れ。 どんなに恥ずかしくても、それで再起するべきだ」

 

「ああ、分かってるよリラさん」

 

「なんなら駄目な場合はあたしのアトリエに来なよ。 アトリエにいるのが気まずいんだったら、廃村辺りに拠点作るから」

 

「すまねえな」

 

ここ数日で。

 

今まで、調査している余裕がなかった近場の集落などを確認している。

 

大人数で住むことは不可能だと結論せざるをえない場所が多かった。殆どが魔物の巣窟になっているか、もしくは環境的に人が住むのは厳しい場所だったからだ。

 

ただし、魔物を追い出せばどうにでもなる場所もあったし。

 

一人で住むくらいなら、特に問題がない場所もあった。

 

そういう場所を、少しずつあたしは手入れするつもりだ。

 

クーケン島にいられなくなった人が暮らすような場所にしたり。

 

環境が良くなれば、クーケン島から移住したいという人だって出てくるだろう。

 

廃集落出身の人も、普通にいる。

 

先祖が廃集落出身というだけで、クーケン島の住人に対して負い目を感じているような人もだ。

 

そういう人のためにも。

 

あたしは開発を進めていきたい。

 

アトリエをみんなで作った時に、ノウハウは掴んだ。

 

今後、彼方此方で活動するためにも。

 

拠点を作るノウハウは作りあげておきたい。

 

それだけの話だった。

 

「それじゃな。 湿っぽいのもガラじゃないから行くぜ」

 

「レント。 永久の別れじゃないからね」

 

「ああ」

 

「いつでも戻っておいで」

 

手を上げると、レントは街道を歩いて行く。

 

大剣を背負って。

 

そうか。レントも同じ道を行くんだな。

 

ザムエルさんが、不愉快そうにしているのも。何となく分かった。その先が、如何に厳しいか。

 

良く知っているからだったのだろう。

 

やがてレントが見えなくなると。

 

アンペルさんが、咳払いしていた。

 

「ライザ、孤独は大丈夫か?」

 

「うん? うん……」

 

「あまり大丈夫そうではないな」

 

「いや、そうじゃないんです」

 

どうも頭がぼんやりしている。それを二人に告げる。怪訝そうな顔をするアンペルさん。リラさんは、腕組みをした。

 

「何かしら頭がぼんやりするようなことでもあったか?」

 

「うーん、なんとも分からないんですよねえ。 みんないなくなって、寂しいのは確かにあるんだけれど。 なんだか気力が湧いてこないというか。 いわゆる燃え尽き症候群とかいうのかと思ったんですけれども」

 

「そうか。 確かに一季節であまりにもライザは成長した。 故に、反動が来ているかもしれないな」

 

「はい……」

 

アンペルさんは好意的に見てくれる。

 

ただ、あたしは。

 

どうにも嫌な予感がするのだった。

 

ともかく、三人でアトリエに戻る。レントがおいていったものをアンペルさんと片付ける。

 

こう言うときは、リラさんは何もしない。

 

むしろ手を出すと、ものを壊したりするらしいので、ソファで横になっていた。

 

アンペルさんが、幾つかの古式秘具を出してくれる。

 

「これは埃を自動的に掃除する古式秘具だ。 このコアに魔力を充填すれば半永久的に動く」

 

「助かります。 掃除はどうにも苦手なので」

 

「ライザには突出した才能が複数ある。 苦手分野があるのは仕方がないし、それを克服するために無理に長所を潰すのは愚の骨頂だ」

 

「へへ……はい」

 

ちょっと自分が情けなくなったが。

 

実際問題、時々アンペルさんが埃を外に出してくれていたことは知っている。

 

あたしもそんなに掃除が得意な方では無いし。

 

何より性格が雑だという事もある。

 

これは、ありがたく受け取ることにした。

 

そのまま、アトリエの掃除をして、気分転換をする。

 

台所に、レントが曲げてしまった包丁があったので。釜に入れて直しておく。まったく、馬鹿力なんだから。

 

そう思って苦笑い。

 

あたしも魔力を全開に身体能力強化をすると、人間の子供くらいならちいさな箱状に圧縮する程度の力はあるけれども。

 

レントはそういうの関係無しに、馬鹿力が出るタイプだ。

 

包丁を直すと、台所に戻しておく。

 

包丁は幾つかあるが。

 

クラウディアがほしいとねだったので、インゴットを作る度に、皆の武器を作る前に包丁を作って試していた。

 

クリミネア辺りから、とんでもない業物になって。クラウディアが包丁としては危ないと言うようになったので止めたが。

 

結局、さび止めをしたインゴットやブロンズアイゼンの包丁ばかりになったのは、それが故だ。

 

レントは、現状の装備なら、それらを曲げてしまう力は持っているという事である。

 

「レントの奴、ちゃんと料理とか自分でやるのかなあ」

 

「クラウディアほどの腕ではないが、少なくとも自炊はできるように仕込んだぞ。 食べられる虫も野草も教えておいたから、まあ問題はないだろう」

 

リラさんが、ソファで猫になりながら言う。

 

アンペルさんが呆れながら、掃除を進めて。午後くらいには全て終わった。

 

その後は、オーリムに出向く。

 

新しく聖地に姿を見せたオーレン族の三人は、キロさんともう馴染んで、川の整備をしているようだった。

 

水源からこんこんと湧く水は、変わってしまった地図の上を、きちんと流れている。

 

何カ所か、水害になりかねない場所があったので、あたしも手伝って流れを調整しておく。

 

残念ながら川の水に生物は見当たらない。

 

戻ってくるにしても、時間が掛かるだろう。

 

フィルフサが足を踏み入れていない洞窟などから魚や虫を持ってくるか。そういう話をキロさん達がしている。

 

かなり危険な仕事になる筈だ。

 

とはいっても、植物だけいても自然の復旧は難しい。

 

フィルフサが完全破壊した生態系だけれども。少しでも元に戻すことを考えるのなら。危険は冒さないといけないのだろう。

 

幸い、雨が降るようになってから、フィルフサがこの土地を避けるようになっているとキロさんはいう。

 

ならば、少なくともこの辺りは。

 

もうフィルフサの脅威を考えなくてもいいという事だ。

 

それなら、あたしも門を閉じる前に、もう一仕事しておくか。

 

「キロさん。 あたし達で、洞窟まで行ってきましょうか?」

 

「有り難い申し出だけれど、こればかりはオーレン族でやらないといけないわ」

 

「もう少し、色々とやらせてください。 護衛だけでもします」

 

「そう……」

 

護衛か。

 

キロさんほどの強者を。

 

いや。

 

シリさん達だったら、護衛になるか。キロさんは、この土地を守る要だ。

 

「分かった。 私が洞窟を知っている。 人間に護衛を受けるのは極めて不可思議な気分だが、少し手伝って貰おうか」

 

「それでは、此方も準備をします」

 

すぐにアトリエに戻って、必要な道具を取ってくる。

 

薬を増やすのは当然として、桶など。それに瓶も。

 

虫などを捕獲して、入れておくためのもの。

 

それに洞窟にフィルフサが入らないように、水を満たしておくべきでもあるだろう。

 

今の時点で、洞窟はかなり標高が高く、まだフィルフサが侵入してきていないらしい。

 

洞窟の内部は独自の生態系ができていて。

 

外では見かけられない虫などもいるそうだ。

 

「洞窟の外にいる虫などを持ってくる事はできないのか」

 

「洞窟の外は標高もあって、殆ど植物もなく虫もいない。 フィルフサが来ていないのは、自分達の土地にするために汚す土もないからだ」

 

「いや、それならむしろ好都合だろう。 むしろそんな厳しい環境にいる虫なら、水源の植物と親和性が高いはずだ。 むしろ問題になるのは魚だな」

 

「なるほど、そういう考え方もできるか」

 

話し合いをしているリラさんとシリさん。

 

二人にそれは任せておいて、あたしは幾つかの準備を終えておく。植物も採取できるなら、しておきたい。

 

その場においておいても、いずれフィルフサに蹂躙されてしまうだろうからだ。

 

出立したのは、アトリエから道具類を持ってきたあと。

 

荷車も持ってきたので、それでシリさんは満足していた。ぼんやりとあたしの方を見ている小さいオーレン族の子。

 

大きい方の子が、あたしから遠ざけるようにつれて行った。

 

あれも、仕方が無い事だ。

 

シリさんだって、まだあたしを警戒しているのだから。

 

「……私はお前達をまだ信用したわけじゃない。 見極めさせて貰う」

 

そうシリさんは、あたしとアンペルさんに言う。

 

リラさんはため息をつくが、それ以上何かをいうつもりはないようだった。

 

移動開始。

 

水害で派手に土地がえぐれた跡を歩いて行く。この辺りを、信じられない数のフィルフサが押し流された。

 

水がある程度引いた後も、まだ沼地になっている様な場所も多い。

 

いずれこういう場所も池になったり、或いは水が捌けたりして、少しずつ聖地としての土地が回復すると良いのだけれども。

 

しばらく歩いて行くと、やがて杭が見えてきた。

 

キロさんが、これ以上は行かないようにと立てた杭だ。当然、今回は無視して先に行く事にする。

 

ある程度行くと、雰囲気が変わる。

 

思い出す。

 

これは、フィルフサの気配だ。

 

蝕みの女王が繁殖地にしていたグリムドルほどではないが、それでもフィルフサがいるようである。

 

無言で、体勢を低くして移動する。

 

不意に、現れるフィルフサ。

 

あたしは容赦なく、真っ正面から蹴り砕いていた。

 

おおと、シリさんがぼやく。

 

「怪しい技を使うのではなく、肉弾戦もできるのか」

 

「魔術に関しては、熱操作が専門です。 ただフィルフサにはきかないので」

 

「そうだな……」

 

「この辺りのフィルフサは、どんな王種に率いられているんですか?」

 

首を横に振るシリさん。

 

この辺りは、流浪の末に弟妹と流れ着いたらしくて、それ以外は分からないらしい。

 

フィルフサの王種もいるらしいのだが、姿は見たことがないそうだ。

 

ただし、蝕みの女王ほどの危険な王種ではないそうである。

 

時間があれば、こっちの王種も仕留めてしまいたいが。

 

残念ながら、それはできそうにもない。

 

あたしが生涯でやらなければならないことは幾らでもあるが。

 

今、ここで。

 

王種を倒すのは、無謀すぎるのだった。

 

何度かフィルフサを倒しながら進む。いずれも大した強さのものではないが、将軍でもない。

 

空を見張りが飛んでいる。

 

あれに見つかると面倒だ。

 

叩き落としてしまおうかと思ったが、リラさんにとめられた。今はやめておけ、そうハンドサインを出される。

 

頷くと、無言で行く。

 

ただでさえ、辺りには木も生えていない。岩の間を潜るようにして、身を低くして進むしかない。

 

見張りはそれは仕事が簡単だろう。

 

これでは、空から敵がいたら見つけ放題だからである。

 

山が見えてきた。

 

その頃には、既に三十を超えるフィルフサを、皆で倒していた。シリさんは舌を巻く。リラさんが倒す手際にもだ。

 

「流石白牙の者だ。 つい最近まで、蝕みの女王に抗戦していたというだけの事はある」

 

「貴殿は戦闘はあまり得意ではないようだが」

 

「私の氏族は、どちらかというと支援が主体だった」

 

「そうか。 ならばその専門技能で、キロ=シャイナスを助けてやってくれ」

 

頷くシリさん。

 

そのまま山を登っていく。

 

途中でトイレをあたしが熱魔術で作って。持ち込んでいる保存食で、軽く休憩にする。

 

トイレは匂いも出るし、魔物に嗅ぎつけられる可能性があるので危険なのだが。

 

このフィルフサの分布密度なら、それほど気にする必要もないだろう。

 

一日掛けて、山を登る。かなり高い所まで来た頃には、たまに植物が見えるようになっていた。

 

「これは。 低地でも見られる植物だ」

 

「株ごと持っていくか。 種があるか」

 

「分布からして、株を持っていくのはまずい。 種だけ持っていこう」

 

「分かった、任せる」

 

こっちの植物は、完全に専門外である。リラさんとシリさんに任せる。

 

その間、あたしはアンペルさんと周囲を警戒。アンペルさんは、空の濁りぐあいを見て、非常につらそうだった。

 

先達の罪業。

 

空までもが、あんな色になっている。

 

だが、そもそもアンペルさんに罪はない。

 

いつか、アンペルさんが罪の意識から解放される日が来るといいなと、あたしは思う。

 

やがて、幾つかの実を採取したシリさんが。葉を何枚か採取していた。

 

虫だ。

 

葉ごと、採取したのだ。

 

水源近くの植物にも着く虫らしい。虫を必死に護りながら行くのも、不思議な気分ではあるが。

 

「これは王古虫といって、我々より長生きする事もある虫だ。 補食さえされなければ、なんぼでも生きる」

 

「凄いですね」

 

「体には細かい生物もついていて、それが自然環境の回復に役立ってくれる筈だ」

 

「……そうなると、この辺りは絶対にフィルフサから守らないと」

 

頷くシリさん。

 

いずれ、キロさんと遠征して、この辺りのフィルフサを削りたい。そういう事を言う。あたしも手伝いたいが。

 

いずれにしても、人間の世界から与太者が侵入するのを防がなければならない。

 

オーレン族は非常に優れた戦士達だが、それでも人間の与太者はあらゆる手段を使う。古代クリント王国の錬金術師どものように。

 

また、与太者以外でも、オーリムに間違って迷い込んだ人間が。殺気だったオーレン族に殺される事故を防ぐ必要だってある。

 

そういう意味でも、門は一度閉じなければならないのだ。

 

シリさんが潜伏していた洞窟にも出向く。残念ながら中にあった水に住んでいる魚は、洞窟の固有種らしかった。リラさんとシリさんがしばらく話し合いをして。そして持ち出せないと判断。

 

もしも、外の川にもいるような魚が見つかったら、次に連れ帰る。

 

そういう話をしていた。

 

一日掛けて、山を下りる。そして、グリムドルに戻るまでに、四十体のフィルフサを倒した。

 

途中、見張りに見つかってひやりとしたが。

 

見張りは領域ギリギリにいるのを察知してか。空を旋回してはいたものの。近付いてはこなかった。

 

増援を呼ばれれば厄介だった。

 

こう言うとき、クラウディアの音魔術がないことや。レントやタオがいないことが、本当に心細い。

 

戦闘では問題なく体は動くのだけれども。

 

やっぱり頭がぼんやりしているのを、どうしても感じる。

 

今まで湯水のように湧いてきていたアイデアも、どうしてかそれほど湧いてこなくなってきている。

 

これは、病気か何か、なのだろうか。

 

グリムドルに戻る。

 

後の処理は、シリさんに任せると。あたしはキロさんに引き継ぎだけして、アトリエに戻る事にする。

 

風呂に入って、トイレに行って。

 

野宿の時よりも、ずっとリラックス出来るのは事実だ。

 

そして、風呂から上がって、横になってぼんやり思う。

 

やっぱり、みんながいないと寂しいな、と。

 

いつでも側にいたみんながいないと、こんなに心細いんだな、と。

 

アンペルさんもリラさんも、もうすぐ行ってしまう。

 

そうすると、あたしは。

 

例えやりとりをする手段があるとしても、ここで一人になるんだなと思った。

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