暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、閉門

グリムドルに出向く。また、何人かオーレン族が増えていた。

 

雨が降っている。

 

遠くからそれが見える。

 

呼ぶ歌が聞こえる。

 

それだけで、潜伏していたオーレン族が集まる。そういうものであるらしかった。

 

水源から、徐々に植物が増えて、環境を回復させる試みが始まっている。その作業には、数人の明らかに戦闘向きでは無いオーレン族が携わっていた。

 

あたしが姿を見せると、露骨に眉をひそめるオーレン族もいるが。

 

キロさんが、それに対してしっかり説明をしてくれる。

 

申し訳ない話だ。

 

彼ら彼女らが、あたしを忌むのは当然だから。

 

いずれにしても、聖地にはもう十人を超えるオーレン族がいる。それだけで、少しはマシになっているのだろう。

 

軽く、キロさんと話をしておく。

 

「この間行った山、麓のフィルフサを少し減らしておきます。 一度門を閉じる前に、それだけはしておきたいと思いましたので」

 

「確かに山の上の方には、低地から追いやられた植物や虫がいるようね。 魚もいる可能性がまだ捨てきれないわ」

 

「将軍を仕留めれば、恐らくかなり汚染を遅らせることが出来るはずです。 最後に、将軍を倒しておきたいです」

 

「分かったわ。 私が行くわ」

 

キロさんが、手を叩いてオーレン族の皆を集める。

 

あたし達とキロさんで、フィルフサを叩きに行く。将軍を倒して、少しでもフィルフサを減らす。

 

そう告げると、不安そうにするオーレン族の者達。

 

戦闘向けでは無いオーレン族の者もいる。

 

中には、手足を失っている者も。

 

それだけ潜伏生活が過酷だったのだ。もう、この世界は、フィルフサのものとなりかかっているのかも知れない。

 

オーレン族ですらそれだ。あたしの世界がフィルフサに汚染されたら、惨禍はこんなものではすまなかっただろう。

 

本当に、数百年前の大侵攻は、世界が滅ぶ危機だったのだ。

 

それを思い知らされる。

 

「大丈夫。 この良き錬金術師ライザは、仲間とともにあの蝕みの女王を倒した手練れよ」

 

「蝕みの女王を!」

 

「手練れとは聞いていたが、それほどか……」

 

「だから安心して。 必ず戻る」

 

ばっと、戦士らしい何人かが、キロさんに敬礼する。

 

それを受けると。四人で、グリムドルを発つ。

 

前に、軽く足を運んだから、フィルフサの分布は分かっている。

 

本来のフィルフサの群れは、将軍が多くても三十。将軍麾下の戦闘タイプのフィルフサは、せいぜい一万。

 

蝕みの女王の群れの、四分の一の規模だ。

 

それに、キロさんの話によると、将軍も普通は彼処まで強くは無いらしい。

 

ただ、それでも油断出来る相手ではない。

 

水のある領域を抜けると、すぐにフィルフサの気配がある。今度は、逃げ隠れる理由はない。

 

片っ端から、始末しにいく。

 

山の上の方にある水源と、まだわずかに残っている植物。

 

それらを、フィルフサに蹂躙させるわけにはいかないのだ。

 

リラさんとキロさんが大暴れするのを、アンペルさんが後方から支援。空間切断の魔術で、片っ端から貫く。

 

あたしは敵の様子を見ながら、爆弾を投擲。

 

数匹まとまって出て来たフィルフサを、まとめて爆破する。

 

突貫してくる小型のフィルフサを、雷光のようにキロさんが突撃して、全部まとめてバラバラにする。

 

小物だったらこんなものだ。

 

ただ、腐ってもフィルフサである。

 

完全に破壊しないとしなないし。雨が此処では降っていない。見つけ次第、一匹残さず狩って潰す。

 

「見張りだ!」

 

リラさんが警告。

 

上空から、飛んで此方に向かってくる巨大な翼の影。どうやら、今度は逃がさないという雰囲気である。

 

残念だが。

 

それは此方の台詞だ。

 

無数の針を飛ばして、面制圧をしにくる見張り。あたし達は散って、距離を取るように見せる。

 

旋回しながら、多数体に着いている目で、此方を捕捉している見張り。

 

リラさんとキロさんを特に警戒しているようだが。

 

残念ながら、二人は囮だ。

 

上空。

 

空中に作った氷の足場と、足に魔力を集中させて跳躍したことにより。あたしは見張りの上を取った。

 

かなり高い地点だから、結構怖くはあるのだけれども。

 

昔から、高く跳ぶのには慣れている。

 

あたしを見て、対空攻撃に移ろうとする見張りだが。その翼を、下からアンペルさんの空間切断が容赦なく貫いていた。

 

バランスを崩す見張り。あたしは、氷の足場を蹴って真下に。そのまま、見張りを蹴り貫く。

 

断末魔すら上げず、核を撃ち抜かれた見張りがバランスを崩し、落ちていく。

 

あたしは途中で氷の足場を作って、段階的に飛び降りていく。地面に着地するのと。落ちたフィルフサがバラバラに砕けるのは同時だった。

 

「素晴らしい腕ね。 もう体術だけでもオーレン族の手練れと遜色ないわ」

 

「ありがとうございます。 キロさんにそう言って貰えるのは光栄です」

 

「あまり褒めると調子に乗るから、その辺りにしておいてくれ」

 

「分かったわ」

 

少しおかしそうに、キロさんがリラさんに返す。

 

あたしも、褒められるのは素直に受け取るが。今は、あまり褒められる事はないとも思っている。

 

だから、それで良かった。

 

しばらく周囲のフィルフサを、無心に掃討。

 

この辺りは殆ど荒野になっている事もあって、フィルフサの汚染はあまり激しくないようである。

 

あの、地面から湧き出してくるフィルフサを思い出す。

 

土地を完全に汚染することで、フィルフサはその土地そのものを使って増える。この辺りではまだ増えられない。

 

まだ汚染をしている途中なのだろう。

 

だから数も少ない。

 

そして水が尽きている状況では、自分達を脅かす相手もいない。そういう事もあって、油断していると見て良い。

 

だが、それはあくまで今は、だ。

 

フィルフサは群れで一体と言っていい生物。

 

もしも外敵がいると判断したら、山津波のように反撃してきてもおかしくは無いのである。

 

少しずつ、フィルフサの密度が増えてくる。

 

何か感じ取ったのか、キロさんがさがるように指示。あたしも、素直にそれには従う。

 

さがってから、キロさんが説明してくれる。

 

「別の将軍のテリトリに入った。 フィルフサの匂いが変わったわ」

 

「そんな事も分かるんですね」

 

「確かに少し違うな」

 

リラさんもどうやら分かるらしい。ただ、言われてやっと気付くというレベルのようであるが。

 

これは恐らくだけれども、ずっと激しい戦いを続けた白牙氏族と。ゲリラ戦に集中していた霊祈氏族の違いなのかも知れない。

 

一度後退して、フィルフサをつぶしながら、戦う。そして今日はここまでと判断。アトリエに戻ると。

 

翌日も、早朝から掃討作戦を続けた。

 

流石に中型、大型のフィルフサとなると。戦っていて危ないと感じる場面が幾つもあった。

 

既にあたし達の世界では乾期は終わっていて、雨が降る日も珍しくなくなっている。

 

あたしはお薬を中心にクーケン島に届けて、それでお父さんとお母さんを実績で黙らせ。

 

更にはアガーテ姉さんに言われて、子供に教える事についても今準備を進めている。

 

アガーテ姉さんは、また激しい戦いをしている事に気付いているようだが。

 

あたしはクーケン島での仕事を疎かにしていない。

 

それで、文句を言うことはなかった。

 

三日目。

 

フィルフサの掃討を続ける。やはりかなり広域に群れが拡がっているようで、確実にフィルフサは減っている。

 

ただ、将軍を倒しても、時間稼ぎにしかならない。

 

王種が無事である以上、将軍はまた生まれ出る。また、失った土地に、別の将軍が来る可能性もある。

 

それは分かっている。

 

ただ、門を今後安易に開けるつもりはない。年に一度か二度、雨期の時に限定して空ける予定だ。

 

門を開くための機構も、ゴルトアイゼンで固めて、知識がなければ絶対に動かせないようにする。

 

それらの準備をしながら、フィルフサの掃討を進める。

 

少なくとも今抗戦しているフィルフサなら。

 

はっきりいって、なんとでもなる。

 

勿論油断すれば危ないだろう。だけれども、あたしはもっと手強いフィルフサと散々やりあったのだ。

 

本当に、蝕みの女王が如何に桁外れの王種だったのか、その群れが強大だったのか。別の群れと戦って見て良く分かった。

 

激しい戦いをしていくうちに、ついに見つける。

 

間違いない。

 

将軍だ。

 

大きさ、姿。何度も見てきた将軍とほぼ同じ。

 

無警戒に歩いて回っている。あれは、生態系の絶対強者の動きである。だけれども、それが命取りだ。

 

距離を取って、一斉攻撃の準備に入る。

 

大丈夫。

 

あの気配、負ける相手じゃない。周囲に伏兵もいない。だったら、接近戦のリスクを冒す必要はない。

 

爆弾を投擲する。

 

それに気付いた将軍が、背中を展開して、中途で撃墜に掛かった。

 

だが、撃墜と同時に爆弾を炸裂させる。

 

今度の爆弾は、試験的に作った「動く水」だ。

 

炸裂と同時に、あたしの操作に従って、相手に纏わり付く。人間だったら窒息させられるし。

 

フィルフサだったら。

 

全身に水をあびた将軍が、悲鳴を上げてもがく。そこに、アンペルさんが空間切断を連射して、足を数本切りおとし。

 

地面に倒れ込んだところを、キロさんとリラさんが一閃。

 

水に濡れて弱った装甲を、文字通り打ち砕いていた。

 

中身が見える。

 

核が。

 

あたしは無言で突進すると、核を蹴り砕く。

 

やはり、これはフィルフサに対しては決戦兵器になるな。そう思いながら、地面にしみこんでいく水を見やる。

 

核を打ち砕かれた将軍は、あっさり崩れ、そして溶けていく。水に触れたフィルフサの末路だ。

 

あたしは、核を拾う。後で、何かの役に立つかも知れない。

 

将軍は倒した。

 

後は、この土地にいるフィルフサが離散するのを見届けて。今できる事は、おしまいだ。

 

 

 

グリムドルに、将軍の角を持ち帰る。今回の将軍は、頭から背中に掛けて、立派な角を持っていたのだ。

 

そしてこんな大きな角、フィルフサの将軍級しか持たない。

 

角を持ち帰ったことで、やっとオーレン族の皆は、あたしとアンペルさんを認めてくれたようだった。

 

少しばかり物わかりが悪いと思うが、閉鎖的な種族だ。それに経緯もある。このくらいは、此方も理解した上で譲歩しなければならない。

 

「霊祈と白牙の精鋭戦士と一緒だったとは言え、こうも容易く将軍フィルフサを仕留めるとは……」

 

「そして命を賭けて将軍を倒したのも事実だ。 どうやら認めざるを得ないらしい」

 

リラさんが咳払いする。

 

順番に説明をしていく。

 

「我々は、人間世界にある負の遺産であるこの世界との「門」を閉じて回っている。 今までは門をとじることだけしかできなかったが、今回英傑である良き錬金術師ライザリン=シュタウトと巡り会ったことで、ついに聖地を取り戻し、あの邪悪なるフィルフサの王種蝕みの女王を撃ち倒す事が出来た」

 

「おお……」

 

「今まで災厄しかもたらさなかった錬金術師とは違うと言う事だな」

 

「そうだ。 だが、まだ彼方の世界には門が多数存在している。 私はこのもう一人の良き錬金術師、アンペルとそれを閉じて回らなければならない。 この門については、年に一度程度の間隔で、ライザリン……ライザが開いて、状況を確認に来る。 その時の為の、打ち合わせをしておいてくれ」

 

リラさんが、あたしを前に出す。

 

キロさんは笑顔のままだ。

 

一応、此方が雨期の時。年に一度か二度、門を開くことを告げる。

 

門の開閉は、比較的簡単にできてしまうこと。

 

万が一にも簡単に開かないように処置はするが、入った人間は確認すること。それを頼む。

 

「キロ=シャイナスはこれから遠征して、生き残りを探すという事だったな」

 

「ええ、そうなるわ。 もう残念だけれど、近場に生き残りのオーレン族は……少なくとも身動きできる状態ではないでしょう」

 

「ならば、私がライザを覚えておこう。 そして門の側にあって、ライザが来たのなら歓迎するように周囲に知らせる」

 

そう言ってくれたのはシリさんだ。有り難い話である。

 

その後、門に行く。キロさんは、門の外にまで着いてきた。そして、軽く話をした。

 

「いずれ、この世界でも私達と交流できる時代が来ると良いのだけれども」

 

「今は難しいと思います」

 

「ええ……」

 

あたしも、夢ばっかり語るわけにはいかない。

 

オーレン族と人間は、差が大きい。長命種で身体能力も魔術の操作も人間の遙か上を行くオーレン族は、ただでさえ人間とは相容れない事も多い。

 

だけれども、アンペルさんとリラさんのような例もある。

 

人間は古代クリント王国がもたらした破滅を経ても、その前から比べて進歩したのだろうか。

 

あたしにはそうは思えない。

 

古代クリント王国の錬金術師のような下衆は、世界中どこにでもいる。

 

人間という種族は、全く進歩なんかしていない。

 

今は、人間の数があまりにも少ないから、戦争がなく。アーミーが存在していないだけであって。

 

もしも今の何十倍という数に増えたら。

 

きっとろくでもない人間が、真面目に頑張っている人間をだまくらかして。ろくでもない社会を作るんだろう。

 

人間みんなが、この問題に向かい。

 

解決しなければいけない。

 

そういう、みなが人間の問題と向き合うことができる社会を作るには、人間は幼すぎるのである。種族として。

 

あたしですら、それくらいのことは分かる。

 

「ライザ、良き錬金術師。 今は、ただこう言っておくわ。 貴方に日の導きと月の加護のあらんことを」

 

「ありがとうございます、キロさん」

 

最高の賛辞を受けたことを理解している。

 

だから、あたしも最敬礼でそれに応える。

 

そして、皆で門を閉じる。

 

後は、流れ作業で、門は閉じられた。

 

キロさんが消えた空間の穴が、見る間に小さくなっていく。やがて、それは何も存在しなかったかのように消えた。

 

だがこの空間の穴は簡単にまた開く。

 

古代クリント王国の錬金術師が、どうやって穴を空けたのかは分からない。いずれ、この聖堂の周辺は徹底的に整備して。

 

盗賊の類が絶対に近寄れないように、色々と処置をしなければならなかった。

 

聖堂周辺の魔物を掃討しておく。

 

鼬の群れなんか、今更相手にもならない。勿論強い鼬もいるけれども。この辺りにいる鼬なら、今のあたし達なら特に苦労する事もない。

 

聖堂周辺の魔物を、丁寧に駆逐。

 

それで、作業は終わった。

 

ゴルドテリオンの固定装置で、風雨による劣化を避ける。これも、いずれ更に頑丈に固めてしまいたいが。

 

今はそこまでできる技術がない。

 

これからあたしが、何年かかけてやっていく事になるだろう。

 

今後も、あたしは暇になる事がない。

 

一度アトリエに戻る。

 

そこで、ゆっくり休んで貰って。

 

それから、二人に別れを告げた。

 

アンペルさんには、本当に迷惑を掛けてしまった。どこでも似たような目にはあっているとアンペルさんは言うが。

 

それでも、故郷のもっとも情けない有様を見せてしまったと、あたしは思う。

 

あたしの師匠。

 

普通の人よりも長生きしているらしいけれど。その理由は、自分でも具体的には分かっていないらしい人。

 

最後に、アンペルさんは。

 

懐から、参考書をくれた。

 

「これを譲ろうと思う」

 

「この本は……」

 

「ロテスヴァッサにあった錬金術の奥義書だ。 それを、時間を掛けて暗号を解読したものになる。 ロテスヴァッサに集まっていた錬金術師達には、一人としてこれを再現出来るものはいなかった。 悔しいが、私もその一人だ。 ライザ、お前なら再現し、有効活用出来るだろう」

 

「でもあたしは……」

 

今、スランプだ。

 

それでも、いずれ必ず役に立つ。そう言って、アンペルさんは参考書をくれた。

 

あたしはぎゅっとそれを抱きしめる。

 

師匠でもどうにも出来なかった錬金術の奥義。それを再現し、そして最高の形で活用したい。

 

いや、活用しなければならない。

 

あたしにとって、それは生涯の目標だ。

 

「ライザ、その不調の理由はわからないが、お前は間違いなく天才だ。 今は休んで、体を回復させるべきだと思う。 それでも不調が直らないようだったら、私達に連絡をくれ。 何か原因があるかも知れない」

 

「分かりました。 その時はお願いします」

 

「私からは、特にこれといってやるものも、掛ける言葉もないな」

 

リラさんはいつも通りだ。

 

いつも通り過ぎて、苦笑いしてしまう。

 

あたしから送った装備がすっかり気に入ったようで。最後にも微調整をして。それで嬉しそうにしてくれた。

 

あたしは、それだけで充分だ。

 

これほどの戦士が、あたしの作ったものを認めてくれているし。

 

あたしも、それを調整して、責任を持てるのだから。

 

「今後は、恐らくただ門を閉じるだけではなくなるだろう。 いざという時は呼び出すから、その時は頼むぞ」

 

「はい。 どこでも、いける範囲で行きます」

 

「ありがとう。 良き錬金術師ライザ。 キロも言っていたが、私からも言おう。 良き錬金術師ライザに、日の導きと月の加護のあらんことを」

 

最高の賛辞に、ありがとうございますと、頭を下げる。

 

あたしの錬金術の師匠と、みんなの戦闘の師匠に。それぞれ。

 

そして、別れは終わった。

 

二人はすっとアトリエを後にする。

 

後には、何も残らなかった。

 

アトリエには、あたし一人になった。

 

だけれども、アトリエを見回せば。今でもみんなが側にいるようである。

 

みんな、それぞれ違う人生を今や辿っている。だが、いつでもまたその道は交わる筈である。

 

さて、まずは。

 

アンペルさんがくれた参考書に目を通しながら、できる事を一つずつやっていこう。

 

最初に目に着いたのは、エリキシル剤。

 

千切れた腕がくっつくような、文字通り最高の霊薬だ。

 

問題は最高の技術と、最高の材料が必要になる事。特にドンケルハイトという植物が、生半可な方法では手に入りそうにもない。

 

そしてもう一つ。いや、もう二つ。

 

最高の金属と、最高の布。

 

グランツオルゲンと呼ばれる最高の金属の素材は、どうやらセプトリエンと呼ばれる超高純度魔力を込めた鉱石らしい。此方の世界にはほぼ存在しておらず。あるとしたらオーリム。

 

でも、聖地グリムドルにはなかった。恐らく古代クリント王国の連中が、みんな「採掘」してしまったのだろう。

 

だとすると、あるとしたらオーリムの古代クリント王国の連中が荒らしていない地域か。

 

もしくは、此方の世界の、古い遺跡くらいだろうか。

 

布の方は何種類か最高のものが上げられていたが。

 

いずれもが、繊維を極限まで強化する必要があるようだ。

 

触っただけで指が飛ぶような繊維を、如何にして危険物ではなくすか。布に加工して、更には服にするか。

 

それが課題になってくるだろう。

 

これらについては、是非今後作っていきたいのだが。

 

残念ながら、どうにも今はできそうにもない。

 

アンペルさんに素直に言った通り、どうも今までの創造性が失われてしまったかのように、頭がぼんやりするのだ。

 

しかしながら、今まで作ったものは問題なく作れそうだし。

 

それは、心配していない。

 

さて、背伸びする。

 

とにかく、疲れをまず取ることからだ。そして、みんないなくなったアトリエに慣れる事。

 

その後は、日常の中で。

 

錬金術の腕を磨いて。戦士としても力が衰えないように自己努力を続ける。

 

古代クリント王国の凶行の精算をしなければならない。それには人生全てが掛かるかもしれない。

 

或いは人間を止めて、それでもなおとんでもない月日が掛かるかも知れない。

 

だけどあたしは決めたのだ。

 

このような非道をする連中、絶対に許せない。

 

その負の遺産は、悉く蹴り砕くのだと。

 

ベッドに横になると、しばし睡眠を貪る事にする。少しくらい昼寝しても大丈夫だ。

 

あの一秒を争って、全員で必死に動いていたときの事が懐かしい。

 

気が抜けるのも、仕方がないのかも知れない。

 

だけれども。いずれあの時の活力を。必ず取り戻さなければならなかった。

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