暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
課題の内容は洞窟探検。
この洞窟が後々とても大事な場所になって来たり、重要なアイテムが採取できたりするのですが。
それはまた、後々の話です。
序、暗雲
アンペルはリラと手分けして、近場を確認して回る。恐らくだが、一番可能性があるのは禁足地だ。
基本的にこういった僻地で、禁足地としている場所には何かがある。
しばらくその辺りを調べていたのだが。
ほぼ確定だなと。アンペルは結論していた。
リラが、手招きする。
身を伏せて近付くと、それらの姿があった。
現在では再現不可能な重装鎧。
そもそも鉱物の加工が難しくて、あそこまで動きやすい重装鎧は作り出せないのだ。冶金の技術は、落ちる一方なのである。
その鎧は。単体で動いている。
この辺りでは幽霊鎧などと呼んでいるようだが。
あれは魔物ではない。
あれはもともと、古代クリント王国や、更に前の時代から存在している自立歩行兵器である。
人間大のものは最も廉価なもので。
戦略拠点などに足を運ぶと、未だに歩行する更に巨大なものと遭遇する事がある。
ただし、大半が破損している。
それもそうだろう。
何しろ、あれらが作られた目的は。
それに、あれらが動いていると言う事は。
つまり、そういうことだ。
今までも、誤動作などをして、動き出す事はあっただろう。だが、あの数は。間違いない。
そして、何よりだ。
洞窟を迂回して、無理矢理突破して来てみたのだが。
まず間違いないとみて良いだろう。
湖に浮かんでいる遺跡。
あれは、聖堂と判断して間違いない。
最悪だ。
もう1年早く此処に辿りついてれば良かったのだが。いや、一季節早くでも良かっただろう。
ライザに会えた分の幸運が。
全て帳消しになる程の事態だ。
しかも、乾期が迫っている。
もしも「大侵攻」にでも発展したら、文字通りこの辺りどころか、ロテスヴァッサが滅びるだろう。
はあと、溜息が漏れる。
湖の中とは言え、大侵攻が発生したら。奴らはそれを超えて来る。死体で湖を埋め、物量でつぶしに来るのだ。
アンペルが全盛期だったら。
いや。それでも無理だ。
ライザがアンペルの全盛期なみの力を持っていて。ライザの仲間皆がリラ並みの実力があったら。
いや、それでも厳しいだろう。
とにかく、まずは彼処へ接近する方法を考えなければならない。現時点では、此処に来る事すら大変なのだ。彼処へは、地形が厳しすぎていけない。退路も確保できない。
ましてや奴らの事を話しても、信じる者などいないだろう。
乾きの悪魔とこの辺りでは呼んでいるのだったか。
「一度引き上げよう」
「ああ。 何とかして「聖堂」に接近しておきたい。 斥候が出て来ていないといいのだが……」
「いや、確定で出ている。 見ろ」
リラが顎をしゃくる。
アンペルも確認する。
破壊された鎧兵器。
駄目だ。確かにあの破壊跡は。他の魔物によるものではない。そもそもあの鎧兵器は、他の魔物と交戦しない。
魔物の方も嫌がって避けるし。
鎧兵器も魔物に攻撃を仕掛けないのだ。
「水没しているそこの洞窟を通れるように出来れば、無理矢理突破して聖堂に行けるか?」
「しかしどうやって」
「乾期だと短時間、洞窟を通れるようになるそうだ」
「……その場合、ギリギリの勝負になるだろうな」
戻りながら話す。
なお、島の連中に目をつけられないように、護り手とやらを手伝っている。魔物を退治して、それで話を進め易くするのだ。
この辺りの街道は魔物だらけ。
まあ近隣の集落が、そもそも汽水湖をまたいでいるのだからやむを得ない。
汽水湖に魔物が出ることもある。
漁師は命がけだ。
護り手に合流すると。アガーテというそこそこの使い手が、それぞれ部下に成果を発表させる。
おっと。
アガーテという剣士。
腰に帯びているのは、恐らくライザが作った剣か。
このアガーテという剣士は、ライザの師の一人だと聞いている。
そうなると、ライザとしても恩返しをしたという事なのだろう。
いずれにしても、ライザ達を手伝いたいのは山々だが。
この超ド級の爆弾が側にあるのを、どう対処するべきか。
ライザ達は、恐らく同志として信頼出来る。だが、クーケン島の者達は、明らかにアンペルとリラを疑っている。迂闊に動けない。
その上どうもブルネン家というクーケン島の有力者が、今回の商談をどうしてもまとめたいらしくて。
近くの魔物を、いつも以上に駆逐してほしいと護り手達が指示を受けたそうだ。
それもあって、かなり無茶な討伐をしている。
これでは無駄に時間が取られて仕方が無い。
魔物なんて、なんぼいたって集落が滅ぼされる事はまずない。あるにはあるが。クーケン島の規模だったら大丈夫だろう。
最も危険なドラゴンにしても、この辺りには流石に古代竜は出ないだろうし。
「各班、成果を報告せよ」
「A班、鼬の群れと接敵。 数が多くて、処理は厳しいと判断して引いてきました」
「B班、ぷにぷにと遭遇。 撃破しました」
「C班……」
報告が続く。アンペルとリラは、途中にいた鼬やらをたくさん殺したが、わざわざ数なんて数えていない。
問題は別にある。
それにこの辺りの魔物は、はっきりいって強くない。
強いのもいるが、かなりクーケン島からは離れている。
これは弱いとはいっても、この護り手という自衛集団が機能してきたから。そして、かなり強い人間。
このアガーテという女がいた、ということもあるのだろう。
いずれにしても、今のうちに恩を売っておくか。
そうアンペルは判断していた。
「鼬の群れが厄介だな。 大型化すると、隊商を襲って被害が出る可能性がある」
「それならば我々が片付けてきましょうか?」
「貴殿らの実力は一目で分かる」
不安そうにする護り手達に先んじてアガーテが言う。
実際此奴は強い。
装備さえしっかりしていれば、リラは無理でも、王都にいる軟弱な貴族や騎士の誰よりも強いだろう。
或いは、だが。
今、クーケン島には天才が集中的に出現する時期なのかも知れない。
歴史的に、そういう時期は存在する。
アンペルはそれを良く知っていた。
「今鼬の群れとまともにぶつかれば、死者を出す可能性が高い。 貴殿ら二人の実力であれば、特に問題は無いと判断して良いか?」
「もしも問題が起きるようなら、照明弾でも打ち上げて……ああ魔術で作ったものですが、救援を請いますよ」
「分かった、頼もう」
リーダー。
そう不安そうに声を上げる護り手もいるが。アガーテは、今は猫の手でも借りたいとそれを却下。
アガーテは戦士としても現場指揮官としても有能だ。
出会い方が違ったら、事情を告げて。
護衛をして欲しかったくらいである。
ただ、それが故に危険視されているようでもある。
クーケン島を仕切っているブルネン家は、明らかにアガーテを冷遇している。アガーテに野心がない事を理解した上でだ。
ブルネン家のモリッツは何度かリラに見て来て貰ったが、かなりのやり手である。
恐らくだが、アガーテを中心に、反ブルネン家の人員が結集するのを怖れているのだろう。むしろミスをするのを待っている雰囲気すらある。
それを恐らくアガーテは理解しているのだろう。
少なくとも自分のミスの範囲になる行動……酒などは、極力控えているようだった。
大変だな。
そう思いながら、アンペルはリラと共に、A班が出くわしたらしい鼬の群れがいる方に向かう。
確かに、これは匙を投げるのも道理だ。
街道脇の泉に、鼬がかなりの数住み着いている。
しかも、母と呼ばれる群れのボスまでいる状態だ。
これはあの護り手とやらの武装ではどうにもできないだろう。
鼬もそれを知っているからか、泉の魚を取り尽くす勢いで食い散らかしている。辺りには鼬の食い残しの魚や糞が堆積し、酷い臭いが充満していた。
この様子だと、こんな調子で彼方此方を渡って来たのか。
それとも彼奴らの存在を本能的に察知して、縄張りを変えたのか。
いずれにしても、駆逐する。
それだけである。
「やるぞ」
「分かっている」
リラが仕掛ける。
リラは四足獣の力と人間の戦闘技巧を持ち、しかも普通の人間では寿命まで鍛えても及ばない程まで技巧が研ぎ澄まされている。
鼬の群れが気付く前に、数体が屠られる。
アンペルは冷静に詠唱を終えると、上空に暗い光の球を多数出現させていた。
これがアンペルの固有魔術。
暗い光が、そのまま矢となって迸る。詠唱を短いながらもしたから、その破壊力は充分だ。
瞬く間に貫かれた鼬が、そのまま白目を剥いて倒れていく。
ボスが凄まじい唸り声を上げて、鼬たちが反撃に出るが。
しかし、既に遅い。
両手のクローを振り回しながら、リラが次々に鼬を屠る。鼬も反撃しようとするが、反応速度も戦闘技術も違い過ぎて、かすり傷一つ与えられない。
アンペルは砲台に徹して、片っ端から鼬を屠る。
誰かが潜んでみている。
まあそれはどうでもいい。
逃げようとした鼬も、全て片付けてしまう。
どの道鼬は凄まじい繁殖力を誇り、削ってもかならず余所から来る。一種の社会性を構築しているに至っている魔物であり、彼奴らほどでは無いにしても危険な事は変わらないのだ。
駆逐出来る分は、駆逐しておく。
それでいい。
「母」にリラが挑む。
上空に躍り上がると、魔術で強化しているだろう身体能力で、回転しながらリラに突貫する鼬の「母」。
その巨大さからは考えられない俊敏さだ。
だが、リラはそれを凌ぐ。
回転を受け流すようにして、上空に蹴り上げる。
呆然とした鼬の「母」が、アンペルを見る。
既にアンペルは、特大の魔術を準備し終えていた。
無数の暗い光をぶっ放す。
鼬の「母」が、それに貫かれ。
ズタズタになって地面に激突。
数度痙攣していたが、やがて動かなくなった。その頭を、容赦なくリラが踏みつぶして粉砕していた。
そして、独特のポーズで祈る。
胸に手を当てて、そして目を閉じて。何か歌う。
それがどういう意味なのかは以前聞いたが。
元々リラの所属するオーレン族の民は、「氏族」と呼ばれる単位で森に溶け込み、自然とともに生きる荒々しい種族だ。
氏族ごとに特徴はあるが、基本的にオーレン族同士で争うことはない。
これはそもそもとても繁殖力が弱い事もあって、個体数がとても少ないのも原因であるらしい。
アンペルもその辺りを聞かされているので。
リラの行動に、異論を唱えることはなかった。
祈りを終えると、リラが視線を向ける。
アンペルが手を上げて、いいと告げた。
そして、アンペルから声を掛けた。
「どうですかなアガーテどの」
「ばれていたか。 想像以上の戦力だな」
「護り手の方々も、クーケン島を守って奮闘してきた勇士達だ。 だから、失う訳にはいかない。 それは我々も理解しています。 彼らのプライドを傷つけない程度に、危険な相手は我々が処理しましょう」
「分かった。 今はそれしかなさそうだな。 礼を言うぞ」
それから、護り手の皆を呼ぶ。
アガーテと三人で斃したということにして、鼬の死体の山を見せる。既に鮮血が泉に注ぎ込み、色が変わっているほどだ。
糞便や魚の死体の臭いも加わって、凄まじい有様だが。
こういうものには慣れているのか。
護り手達は顔色一つ変えなかった。
アガーテが指示をして、鼬の死体を運んでいく。
皮はなめせば使えるし。
肉だってこれから燻製にして、冬場の保存食としてとっておくのだ。クーケン島でも、冬場は漁獲量が減ること。冬場の食事には基本的に保存食を使う事は、アンペルも既に調べていた。
「アガーテ姉さんが加わったとは言え、これだけの鼬を倒すとは、流石というかなんというか」
「侮っていた者は二人への認識を改めろ」
「分かりました!」
戦闘よりも、此方の作業の方が得意のようで。
護り手達は、すぐに使えそうな鼬の死体は、運び終えていた。
「母」の毛皮と爪は譲り受ける。
案の定強い魔力を帯びていて。錬金術で使える可能性が高い。残念ながら今のアンペルでは使えないのだが。
こういった強力な素材は、ストックする癖がついていた。
湖岸まで戻って、鼬を処置する。いい臭いに釣られて、魔物にまで到達していない獣が相応に来るが。護り手に隙がないので手出しが出来ない様子だ。
そのまま鼬を処理していく。リラは無言で、誰よりも手際よく処理していく。
アンペルも手伝えと言う顔をされたが。
義手である事を示すと、流石にバツが悪そうに視線を背けられた。
まあ手が無い訳ではないのだが。
義手を外すと、かなり悲惨な状態の手を見せる事になる。
それを見ると、ある程度道徳観念がある人間は、アンペルに無理は強要しなくなる。アンペルとしても、ただでさえ傷ついている手を酷使する訳にはいかなかった。
ある程度の肉はこの場で焼いて食べてしまう。
骨も活用出来るので、持っていくようだ。
骨を割って、髄を取りだした後にだが。
食べられるものは、此処で食べてしまう。
これに関しては、護り手として命を張った人間の特権とされているのだろう。
アガーテは警戒に徹していて。
食事の間も、ずっと無言で隙を見せなかった。
こう言う事を示して、少なくとも護り手には自分がリーダーであると見せ。ぐうの音もないようにしているのだろう。
涙ぐましい努力だ。
こんな小さな集落でも、実際には独立国家と同じだ。
これくらいはしなければならないのだと思うと、何だか同情すら覚える。
「食事終わりました」
「よし、各班に分かれて一度撤収。 明日もこの調子で魔物の駆逐作業を行う。 街道の奥の方に、ワイバーンが出て来ているという話がある」
「ワイバーン!」
「各自、気を付けろ」
ワイバーンか。
現在では知識が失われているが、要は幼体のドラゴンだ。
ドラゴン族は幼体から長い年月を掛け、場合によっては世界すら転移して、大きくなっていく種族であるらしい。
エンシェントドラゴン、古代竜と呼ばれるような個体になると山のような大きさになるらしいが。
それは死体でしか、アンペルも見た事がない。
いずれにしても、ドラゴンも動物で。
たくさん卵を産んで、それが大人になるまでには相当な苦労をする。
それだけの話だった。
アンペルはリラとともに、アガーテの乗る最後の船に乗って島に戻る。
戻る途中も、船は戦列を組んで、油断なく動いていた。
これがアガーテが仕込んでいるのだろう。
魔物に襲われないように隙を消し。
襲われた場合も即座に対応する事で被害を消す。
今まで、何度かあったのかも知れない。
いずれにしても、油断は出来ない。
今後の状況推移によっては、敵になるのかも知れないのだから。
今回協力したのは、恩を売る事だけが目的ではない。
此奴らの力量を見る為もある。
こういった田舎の集落では、タブーを犯すとそれこそ村ぐるみで襲いかかってくる事がある。
そういうときに備えて、一番の手練れの力量は見ておく必要があるのだ。
今までに、なんども酷い目にあっているから。
こういう考えが、既に染みついていた。
クーケン島に到着。
日が暮れ始めている。借りている家に戻る途中に、リラが言う。
「ライザ達は上手くやれているだろうか」
「あの子達は出来る。 基礎は出来ているから、後はちょっとしたアドバイスでどんどん伸びるはずだ」
「そうだな、そう信じよう」
才能や器というのは残酷で、どうしても限界がある。
今の時点でライザは底知れず。タオも、学者としての適性が非常に高い。
レントとクラウディアについては、リラが見ているが。其方も問題はないと聞いている。
それでも、今は底が見えないだけ。
もしも底が見えてしまった場合。人間は簡単に墜ちる。それを、アンペルも何度も見てきていた。
後は、適当に休む事にする。
利害の一致で組んでいる不思議なバディは。ずっとずっと、こんな風に過ごして来ていた。