暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
王都についた。かなりの長旅だった。
タオはボオスと一緒に、まずは王都を見て回る。幾つかの区画に別れている。これについては事前に聞いていた。
区画には人名らしいものがついていて。
城壁で守られており。城壁の中は相応に平和だが。
城壁の外は、噂通り街道の安全すら保持されておらず、ボオスが早速ぼやいていた。
「すぐ近くの街に行くだけだってのに、見ろあの大げさな護衛。 しかも商隊が複数組んで、自衛のために戦力をまとめてやがる」
「噂には聞いていたけれど、本当に井戸の中なんだね」
「物資は山ほど集まって来ているようだがな……」
王都アスラ・アム・バートはとても華やかだが。華やかなだけで、色々と歪んでいるのが分かった。
まず物価がおぞましい。
そもそも物々交換すらあったクーケン島とは、何もかもが違い過ぎる。
更には、大きな石造りの建物がならぶ主要道路は良いとしても。
ちょっと裏路地を覗くと、噂に聞いた魔の薬を口にして昼間から横になっているボロボロの服を纏った人や物乞い。
明らかに、獲物を狙う目つきのケダモノ以下。
そういう連中が、屯しているのが分かった。
これは、聞いていたとおりの実情だ。
この城壁の内側だけの平和。
そしてそれすらも、結局は守れていない。
珍しく、規律が整った戦士達が出ていく。以前ライザ達と冒険しているときに、何回か話に上がったアーミーが現在にいたらあんな感じだろうか。
ただ、数はそれほど多く無いし。
一目で分かったが、装備はきらびやかに見えるが、ライザが作った装備の足下にも及ばない出来だった。
武装した馬に乗っているのが、指揮官だろうか。髭を蓄えた、厳しい表情の中年男性だ。
あれはかなり強いな。
そうタオは見た。この状況を見れば、王都の指導者層が惰弱なだけの無能だと言う事は一発で分かる。
そんな中にいる、例外なのだろう。
「アーベルハイム卿だ。 他の貴族どもが一切やらない魔物の討伐をしてくれるありがたい方だ」
「また街道で魔物の掃討をするんだろうな。 ありがたいが、一向に魔物が減る気配はないよな……」
「魔物がそれだけ強大だって事だ。 それは……諦めるしかない」
ひそひそと話をしている人々。
タオはボオスに促されて、先に行く。
今日中に、「学院」とやらに行って、手続きをして。試験を受けなければならない。
その後も、この物価では、持ち込んだ金ではまるで足りないだろう。
アンペルさんに入れ知恵を受けて。ライザが作ったインゴットを幾つか持ってきている。これを売れば当座の生活費はできるだろうと、物価を見ていればある程度察しはつくが。その後は生活費を稼がなければならない。勉強に集中したいのにな。そうタオは、ぼやいていた。
クラウディアは、旅先で天幕の中にて。円卓を囲み、何人かの商人と話をしていた。
既にフロディアは側にいない。お父さんも。
だから、明らかに小娘と侮ってきている相手に。舐められないように、商談をしなければならなかった。
化粧は自分を綺麗に見せるために行うのでは無い。
それは、知っていた。
元々化粧というのは、辺境の人々がそうしているように、自分の戦意を高揚させるために行う。
原理は今も変わっていなくて。
舐められるのを防ぐために、大人はする。
そういうものなのだ。
「残念ですが、この料金より値引きをする事は出来ません」
「そんなことを言わずに。 我が商会としても、厳しい所なのです」
「貴方方の商会で昨晩どういう話をしていたか、当てて見せましょうか」
ぎょっとする商人に。
音魔術でさぐりあてた密談の内容を、一字一句間違わずに諳んじてみせる。
それを聞いて、商人達は露骨にあわてた。
クラウディアは、じっと笑顔を保ったまま。
笑顔は相手に対する攻撃の意思を示す表情だったという説があるらしい。
そういえば、イジメを行う人間はいつも嬉しそうにしていると聞く。
その辺りも、いわゆる名残なのかも知れなかった。
「あのひ弱そうな世間知らずのお嬢様だったら、簡単にだませるだろう、ですか。 随分と舐めてくれたものですね」
「そ、そんな事を言った覚えは……」
「今、貴方たちが此処に持ち込んでいる品についても全て把握しています。 だいたいの資金もね」
「……っ」
青ざめる商人達。
これは、この場にライザがいなくて良かったなとクラウディアは思った。全員今頃、三つくらいに折りたたまれていたかも知れない。
クラウディアも、既に今は百戦をくぐった戦士だ。
こんな商人達なんて、それこそ十秒かからず殲滅できる。
だから、余裕も生じた。
「もう一度言います。 取引は先に提示した料金で。 それ以上は値引きは一切いたしません」
「くっ……」
商人達が、互いを見る。誰が裏切った。そういう視線だ。
どうでもいい。
クラウディアが音魔術の使い手であることは、別に伝える必要もない。
今になってよく分かったが、現状のクラウディアくらい自分の魔術を練り込んでいる人間は殆どいない。
短期間でリラさんに鍛えられて、此処まで成長できたのは。感謝するしかない事なのだろう。
「それで受けられないのであれば、別の商人との取引を行います。 また、バレンツ商会のブラックリストにも貴方たちは登録させていただきます」
「ま、待ってくれ! 悪かった! 分かった……騙そうとしたことは謝ります。 だから出禁だけは……」
「お、おいっ!」
クラウディアは、ついに結束が崩れた愚か者どもを見やる。
クーケン島は、裏がある人も多かったけれども。こんな魔郷ではなかったな。そう思いながら。
レントは一人旅を急いでいた。
何処にでも向かう。
どこででも人助けをする。
生活のために力仕事をするのと。武力を振るうのは別として考えた。魔物に困っている場所は、幾らでもあった。
そういう場所では、ライザの作ってくれた装備と。リラさんに教えて貰った戦い方を駆使して。
今の技量なら駆逐は難しく無い魔物を、片っ端から打ち倒して行った。
旅をして、だいぶクーケン島から離れた。
手紙を配達する人間を見つけたので、バレンツ商会に向けて手紙を書く。
連絡網の通りにやる事にする。
皆にそれぞれ現状について書くと。すぐに手紙は文字で一杯になってしまった。
こんなに文字を書くのは、初めてかも知れないな。
そうレントは思って、苦笑いをしていた。
手紙を託して、配達して貰う。
読まれて困るような事は書いていない。
後は、旅を淡々としていくだけだ。
覚悟はできている。
旅を開始してからも、すこしまた背が伸びた。流石にあの大巨人、クソ親父ほどまで大きくはならないだろうが。
今は、大きさに頼るのでは無い。
技量を磨くべき時だ。
おそらく、皆の中で一番役に立てていなかったのは自分だ。
そうレントは自己評価をしている。
雑魚魔物相手だったら、ガタイと、それに応じた武器によって叩き伏せることができる。
だが大きな魔物が相手だと、それ以上に速さと戦術眼。それに技量が大事になってくる。
フィルフサとの苛烈な戦いを経て、それは充分に理解出来た。
だからレントは、腕を磨く。
今後、いつ皆から招集が掛かるか分からない。
古代クリント王国の愚か者共がやらかした凶行と、その結末。それを知ってしまった以上、他人ではいられないのだから。
話を聞いた。
この先の集落が、強力な魔物に脅かされているという。
道を急ぐ。
分かっている。戦い続けていれば、いずれ親父のように怖れられて。化け物扱いされるかも知れない。
だけれども、それは最初から覚悟している。
あの親父だって、ミオさんとカールさん曰く、昔は侠気のある立派な人物だったらしいのだ。
レントが同じ道を辿るわけにはいかない。
戦い。そして未来を勝ち取る。それが、レントの旅だった。
アンペルさんとリラさんは、無事にやれているだろうか。
そうあたしは思った。
今、あたしはアガーテ姉さんと一緒に、魔物相手に戦闘している。
ここは街道から少しはずれただけの平原。警戒中に、鼬の群れを見つけたので、交戦に入ったのだ。
残った魔物、今対峙しているのは母と呼ばれる鼬の群れの長。周囲には、既に焦げた鼬の死体が点々と散らばっていた。
「ライザ、仕掛けるぞ」
「はい」
アガーテ姉さんが、体勢を低くすると、突貫。その速度、圧力、レントに全く劣っていない。
装備品はレントの方が上だった。それでも劣らないのだから。まだ地力ではアガーテ姉さんの方が上と言う事だ。
あたしは何倍も大きい鼬に果敢に挑むアガーテ姉さんを視界に常に入れながら、鼬の横に回り込む。
こっちを見る鼬。
不意にサイドステップすると、躍りかかってくる。
そうくるだろうと。
思っていた。
踏み込むと同時に、空中で動きが取れない鼬の顔面に、蹴りを全力で叩き込む。
首の骨がへし折れるのが分かった。
素の筋力だけだったら無理だ。
だがあたしは錬金術の装備で何十倍にも能力を強化し。更には魔術で身体能力を更に強化している。
まあざっとこんなものである。
首が折れた鼬が飛んでいって、岩にぶつかって砕け散っていた。
ぶちまけられた血肉が。辺りに散らばる。
アガーテ姉さんが、護り手達を呼ぶ。
息を吐いて残心をするあたしをみて、護り手達が生唾を飲み込んでいた。
「前も強かったが、更に化け物じみて来たな……」
「まだまだですよ。 もっと技量を磨かないと」
「あ、ハイ……」
聞こえていると思わなかったのだろう。
ひそひそ話していた護り手達が背筋を伸ばす。
アガーテ姉さんは嘆息すると、まだ無事な肉や毛皮を集めるように護り手に指示。あたしとともに、周囲の警戒に当たる。
そして売れそうな毛皮や肉の回収が終わると、クーケン島に凱旋した。
その後は、あたしは学舎に足を運ぶ。
まだ幼い子供達が。あたしを見るとわっと声を上げる。
先生として優秀だから、ではない。
湯沸かしの魔術などの、小遣いを稼げる実用的な事。
更には、今後生きていくために必要な四則演算。文字の読み書きなど。
実用的だと一発で分かる事だけを、あたしが教えているからだ。
一方、歴史や文化を教えている先生の授業はあまり人気がないようだ。
これについては、あたしも気持ちがわかる。
そういう学問をしているとき、あたしも退屈で仕方がなかったし。それが嘘だらけと、今は知っているのだから。
湯沸かしの魔術が上手な子がいるので、応用を教えて。更には四則演算の問題を皆に解いて貰って。
自分の分の授業を終える。
その後は、せっかくクーケン島に来たのだから、島の中枢を確認に行く。
大丈夫。
淡水化装置も問題ない。
勿論中枢も。
夕方になったので、自宅に。母さんも父さんも、相変わらずあたしがふらふら遊び歩いているかのような目で見る。
この島の問題をあらかた解決した今も。
二人がいつ認めてくれるのか、それは分からない。
今はただ、実績を積みつつ。戦士としても、錬金術師としても。腕がさび付かないように、やっていくしかなかった。
「父さん、水の味が少し変わった事による影響、出てる?」
「今の時点では、畑が文句を言う様子はないよ。 だけれども、ちょっと味が落ちたかもしれないね」
「分かった。 淡水化装置、改良するよ」
「そうか、頼むよ。 だけれども、それ以上に畑仕事を手伝ってほしいかな」
またそういうことを。
あたしは畑仕事だと、一人前くらいにしか働けない。錬金術師だったら、戦士だったら、そんなのとは比較にならない程働ける。
それを何度説明しても、分からず屋の両親は今でもあたしを子供扱いだ。
疲れたので、食事を終えると寝る。
ベッドで横になって、旅先にいるだろう皆を思う。
みんな、ちゃんとやれているだろうか。
明日になったら、朝一でバレンツ商会に顔を出すか。
誰かから、手紙が来ているかも知れない。
まだ、あたしの錬金術師としての道は。
始まったばかりなのだと。
こういう未熟を感じる度に、思い知らされるのだった。
(暗黒錬金術師伝説9、暗黒!ライザのアトリエ・終)
はいというわけでこの作品は完結です。
暗黒!アトリエシリーズは基本的にかなりハードでダークな作風の二次創作として創ってきたのですが。この暗黒!ライザのアトリエは原作に比較的忠実に創っています。
まあそうする必要がないくらい、世界が闇深かった、というのが理由ですね!
暗黒!ライザのアトリエ2は既に個人HPでは完結しています。此方の出張投稿も楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、またよろしくお願いいたします。