暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、遭遇

気が大きくなっていた。

 

それは確実にあったのだろう。

 

あたしは、レントとタオと一緒に、島の対岸に渡っていた。その時点で、どうも妙だとは思った。

 

森には魔物が大勢いて、いつも騒がしいのに。

 

何だか、空気がいつもと違う。

 

レントは気付いているようだった。

 

「どういうことだ? 森の様子がおかしいぞ」

 

「うん、ちょっと妙だね。 タオ、気を付けて。 何か異常があったらすぐに知らせて」

 

「いつも僕は一杯一杯だよ。 ライザは平気だろうけど、僕は心臓がそんなに頑丈じゃないんだってば」

 

「……そうだな。 でも、何かあったら言ってくれるだけでいい」

 

レントの様子も見て、タオはひいと呟いて首をすくめる。

 

相変わらず憶病だなあ。そうあたしは思う。

 

街道の方は、昨日くらいから重点的に護り手が見て回っているそうだ。つまり、足を運ぶ事は許されない。

 

とにかく、新しい装備を試してみて。それが出来たら、進捗にしよう。

 

そういってクーケン島を出て来たのだが。

 

なんというか。

 

最初から、暗雲が酷い状況だ。

 

荷車はあたしが引いているが、これも使い古しの奴だ。戦闘に巻き込まれたら、一瞬で壊されてしまうだろう。

 

何か工夫がいるかも知れない。

 

腰に付けている新しい杖を一瞥。

 

前の杖とは、魔力を引き出せる量が段違いだ。

 

これをいずれ桁外れにしたいが。

 

残念ながら、まだそれは厳しそうだった。

 

何よりも、この森の空気。

 

ぴりついていて、非常に何だか威圧的である。

 

森を抜けて、広間に出る。

 

はあと溜息が漏れた。此処に出ると、空気が違っている。やはり、何か此処にはあるのかも知れない。

 

「やっぱり、次は此処に船を持ってこよう。 此処が拠点としては一番だと思う」

 

「でも更地だぜ」

 

「それはそうなんだけどさ。 ……そうだ」

 

錬金術師の拠点をアトリエというらしい。

 

現在のあたしのアトリエは、自宅の屋根裏だけれども。あそこだと色々と問題も多いだろう。

 

いちいちお父さんとお母さんに見られるし。

 

場合によっては、留守の時に踏み込まれる可能性だってある。

 

お父さんはそういうデリカシーに欠けることはしないが。お母さんは遠慮無くやるだろうし。

 

そうなってくると、どんな事故が起きてもおかしくは無い。

 

ここにアトリエを作れないか。

 

だが、此処にあるのは何も無い更地だ。

 

もしやるなら、一から。

 

それには、まだあたしの技量も知識も足りなかった。

 

一度、アンペルさんに相談する必要があるだろう。それに、この森の空気。明らかにおかしい。

 

何か異変があったらすぐに言うように。

 

そう、アンペルさんには言われていた。

 

レントもリラさんに同じ事を言われていた様子だ。

 

だとすると、あまり無理はしない方が良いだろう。

 

「軽く偵察だけして、それで戻ろう。 異変がなければ、それでいいよ」

 

「ちょっと待ってライザ。 森の様子がおかしいとなると、ワイバーンの強いのとか、普段森にいない魔物がいるとか、そういうことじゃないの?」

 

「その可能性があるから、先に偵察だけしておくんだよタオ。 此処で引き返したら、子供の遣いだろ」

 

「それはそうだけどさ……」

 

不安そうにするタオ。

 

気持ちはわかる。

 

咳払いすると、まずは装備の性能確認もあると言って、タオを落ち着かせる。

 

前の杖だと、全力詠唱からの魔術展開で、数百発くらいの光の槍を出現させ、敵に叩き付けることが出来た。詠唱無しだと五本くらいでかなり消耗した。

 

今の杖だと、詠唱無しで七本までの光の槍を余裕を持って放つ事が出来る。少し試したのだけれども、全力詠唱だと千を超える光の槍を放てるようだ。勿論ぶっ放したら入り江が一つ増えてしまうので、やっていないけれど。

 

これは杖の性能もあるけれど。

 

あたしの体内魔力が増えているのもあるのだろう。

 

毎日伊達に錬金術で、エーテルを絞り出していないのだ。

 

ハンドサインは、リラさんに言われて決めた。

 

森の中で悠長にくっちゃべって戦闘するなんて、ド素人以下だ。

 

リラさんにそう言われて、返す言葉もなかった。

 

それも、魔物に解析されるようなハンドサインでは意味がない。即座に出して、全員が動けるように練習しておけ。

 

そうとも言われている。

 

確かにその通りだと思ったので。今回それを試すために出て来ているのに。何だか良くないトラブルばかり起きていると感じる。

 

森の中に移動開始。

 

小妖精の森なんて言われているが、「小」でも人間への殺傷力は充分に備えているから魔物と呼ばれるのだ。

 

しかも今は森がざわついている。

 

普段より危険と判断する他ない。

 

視線を周囲に飛ばしながら、警戒しつつ進む。

 

やがて、レントが頷いて、大胆に前に出る。以前、クラウディアが襲われていた場所まで出た。

 

森の中が、そこそこ見渡せる。

 

遠くにかなり巨大な切り株がある。人間が切ったのかは分からないが。

 

その上に、多数のエレメンタルが群れているのが分かる。

 

あれに仕掛けるほど、あたしは大胆じゃない。

 

他も確認する。

 

ぷにぷにや鼬もいるが、鼬の動きで顕著だ。毛を逆立てて、体勢を低くして歩いている。しかも群れになって。

 

これはまずい。

 

何かいると見て良かった。

 

「撤退」。

 

そうハンドサインを出して、すぐにさがる。これは何かに出くわしてからでは遅いとあたしは判断した。

 

レントは悔しそうにしたけど、やむを得ないと判断したのだろう。

 

さがるのに同意。

 

全員で、森を出て、広間に。

 

タオも観察していて、森の状態が尋常では無いことに気付いたのだろう。

 

広間に出ると、胸を押さえて、大きく息をついていた。

 

「い、生きた心地がしなかったよ!」

 

「根性や気合いでどうにか出来る話じゃねえ。 いいんだよタオそれで」

 

「うん。 でも、恐怖とはつきあえるようにならないとね」

 

「それは分かってるけど……」

 

タオが憶病なのは欠点だが。

 

それ以上にタオには長所が多いのだ。

 

それを、欠点で全て帳消しにしていては意味がない。

 

人が余っているような世界があるとしても。欠点から先に見て、あれが駄目これが駄目と人間を値踏みするようなことはあってはならないだろう。

 

ましてや人が足りないこの世界だ。

 

人を欠点から見るようなことがあってはならないのだ。

 

「それでどうするライザ。 戦闘訓練はしておきたかったが」

 

「仕方が無い、また湖岸に出て、西の方にちょっと行ってみよう。 洞窟があるじゃん」

 

「洞窟か……」

 

「彼処の前には護り手の歩哨がいるよ」

 

そう。それは分かっている。

 

湖岸の西には洞窟があって、潮の満ち引きや、季節によって内部構造がかなり違うらしいとアガーテ姉さんに聞いている。

 

汽水湖に浮かんでいるクーケン等に住んでいるあたし達には、それだけで危険が充分伝わる。

 

汽水湖だと、海際と同じく潮の満ち引きがかなり影響を及ぼし。

 

ちょっと前まで歩いて渡れた場所が、気を抜いた瞬間死地になっていたりする。

 

あたしは特に幼い頃にそれを経験していることもあって。

 

その恐ろしさには、人一番敏感だった。

 

旧市街の水没地帯なんかは、これがあるから絶対に子供が立ち入り禁止と言われているし。

 

大人でも立ち入らない。

 

本当に危険なのである。

 

「洞窟には入らない。 近くに魔物がいるのが見えたから、それで試し切りをしたら戻ろう」

 

「分かった、そうしよう」

 

「まったく、もうちょっとこの剣を派手に振るいたかったが……危険の方が大きいもんな」

 

「そゆこと」

 

あたしは二人を促すと、森を抜けて湖岸に。

 

そして、湖岸に屯している魔物を数体狩って。

 

新しい武器の試し斬りをしていた。

 

レントの新しい大剣は、うなりを上げて鼬の頭をたたき割った。以前より明らかに火力が上がっている。

 

タオの大槌も良い感触だ。

 

直撃が入った時の音が小気味よい。これはいいなと、あたしも一目で気に入った。

 

あたしの杖もいい。

 

打撃に使ってもいいように、贅沢に金属でコーティングしてあるし。

 

何よりも、杖に刻んでいる呪文で、詠唱をスキップしても魔力の伝導が上がる。

 

やはり、無理せず七発程度の熱の槍を放てる。それも一発の火力は、前よりも上がって来ている。

 

数匹を斃した後、緑色のぷにぷにを見かけたので仕掛ける。

 

ぷにぷには餌によって色も姿も変わるが。

 

緑は、一般的な碧よりかなり強い。

 

だがそれも。

 

あたしの新しい武器のもう一つ。新しい靴込みの蹴りの前には、敵ではなかった。

 

蹴りが入った瞬間、凄まじい音と共に、ぷにぷにが拉げた。

 

それはそうだろう。

 

大岩が砕けるのだ。

 

ふっとんだぷにぷにが、飛んでいき。

 

空中で触手を伸ばしてもがいたが。それでもどうにも出来ず。

 

岩山にぶつかって、べしゃと潰れていた。

 

レントとタオが、口の端を引きつらせる。

 

「お、おいおい……」

 

「ライザを怒らせたら、空のお星様だね……」

 

「流石にそこまでは飛ばないよ!」

 

いくら何でも其処までのパワーは無い。ただ、あのぷにぷにの残骸は漁り損ねてしまったか。

 

ともかく、今のでちょっと大きな音が出てしまったので、さっさと鼬の残骸から肉やら毛皮やらを回収して撤収する事にする。

 

とりあえず試し切りは充分だ。

 

これで、基礎的な戦力は上昇したと思う。

 

後は、クラウディアか。

 

まず、アンペルさんに森のことを相談して。それからだろうけれども。まず、一つ。戦力の基礎的な強化は、達成出来た。

 

一つずつ、タスクをこなして行く。

 

それでいいのだと、あたしは思った。

 

 

 

アンペルさん達の借家に行く。

 

まずは装備を見せて、それから森の話をする。リラさんは、装備を一瞥しただけ。あまり、装備そのものには興味が無さそうだ。

 

グラマラスなリラさんだが、この人の全身は文字通りの凶器である。

 

装備だよりの男なんか、モヤシか雑草にしか見えないのだろう。

 

身体能力が四足獣並みで、しかも生半可な戦闘技量では無い。それが一目で分かるほどの使い手だ。

 

それも納得だなと、あたしはちょっと苦笑いしていた。

 

アンペルさんは、装備を一通り見た後、頷く。

 

「なかなかに筋が良い。 それに使い方も、それほど悪くないようだな」

 

「ありがとうございます!」

 

「あ、あの僕は」

 

タオは聞きたいことが山ほどあるらしい。

 

当然、貰った参考書と、家にある古文書についての話なのだろう。

 

リラさんが、ひょいと寝そべっているソファから立ち上がる。

 

本当に俊敏で、しなやかな動きで。

 

猫科の巨大な猛獣のようだった。

 

「ライザ、レント。 お前達は私が話を聞く。 アンペル、タオの話を聞いてやれ」

 

「分かった、そうしよう」

 

「二人とも、ついてこい」

 

「分かりました!」

 

あたしも、ばしっと頭を下げる。

 

リラさんは魔術という観点でも、あたしよりずっとずっと格上だ。しっかり話を聞くことには大きな意味がある。

 

大火力の術をぶっ放すだけが魔術じゃない。

 

この人は素で人間離れしている能力を持っている上に、それを魔術で何倍にも何十倍にも強化出来。

 

その速度に対応できるだけの戦闘経験も蓄積している。

 

それが分かるから。

 

しっかり話を聞きたいのだ。

 

「その装備で、少しはマシになったようだな。 だが、何かしらしたいことがあるように見えるが」

 

「はい。 クラウディアと冒険をしたいと思っています」

 

「ふむ……」

 

リラさんが考え込む。

 

クラウディアの技量がまだまだな事は、リラさんも分かっているのだろう。

 

それにだ。

 

あたしには野望がまだあるのだけれども。それについては、まだ話さない。一つずつ、タスクをこなしたいからだ。

 

「まずクリアするのは、お前達自身の戦力が安定しているかの確認だな」

 

「やはり、そう来ますか……」

 

「レント、お前は真面目に私が指示したメニューをこなしているようだな」

 

「はいっ!」

 

レントも、ザムエルさんの事もあって、年上に対してあまり良い印象が無さそうなのに。それでもリラさんにはしっかり礼儀を保っている。

 

戦士として超格上である事もあるのだろう。

 

そういえば、アガーテ姉さんにもこんな態度だったっけ。

 

ただアガーテ姉さんが、途中からレントに専属で剣を教えなくなって。それから距離が開いたんだった。

 

あれは理由がよく分からない。何かあったのか。それとも、ブルネン家辺りが横やりを入れたのかも知れなかった。

 

「ならば、そろそろいいだろう。 少しタオが長引きそうだから、クラウディアの様子でも見に行くぞ」

 

「分かりました!」

 

タオはスイッチが入ると止まらない。

 

あたしの場合も似たような部分があるが、タオのは更に没入的だ。

 

あたしは錬金術をやっていて、一段落するとすっと正気に戻るけれども。タオは首トンでもしないかぎり、スイッチが入ると止まらない印象がある。

 

それもあって、わざわざ魔術のアラームを仕掛けて今は本を読んでいるだし。

 

クラウディアが訓練をしている場所に行く。

 

旧市街の、クラウディアが借りている家の裏だ。

 

クラウディアは、正座してじっと目を閉じていたが。体から迸る魔力が、目に見える程強くなっている。

 

そしてクラウディアは立ち上がると、弓に魔力で弦を張り。

 

手袋をつけて、何度か引いていた。

 

力で引くんじゃない。

 

そういう基礎的な話は、リラさんが既にしている筈。立射の姿勢というのは、そもそも弓を全身で引くための最適解。

 

それでも、まだ力が足りないのだ。

 

流石に、「スプーンより重いものを持った事がない」ようなひ弱さではないだろうが。それでもクラウディアも、弓を引くのには随分と苦労しているようだ。

 

だが、やがて、魔術で矢を作り出すことに成功する。

 

それは鏃のついた矢では無くて。

 

笛に見えた。

 

笛を放つクラウディア。

 

的からかなり外れていたが、ホーミングして直撃する。ふうと深呼吸するクラウディアをみて、あたしは拍手していた。

 

「クラウディア!」

 

「ライザ!」

 

ぱっと張り詰めていたクラウディアの表情が明るくなる。

 

あたしは手を振ってクラウディアの所に近寄ると、まずは祝いの言葉を掛ける。

 

「矢の具現化、成功したね!」

 

「うん。 弓矢だとどうしても馴染みがないから、まずは笛で試せって言われたの。 音魔術、無駄じゃなかったって分かって感動しちゃった。 それにホーミング性能もつけられたんだよ」

 

「凄いよ!」

 

「ありがとう」

 

涙まで拭い始めるクラウディア。

 

レントが咳払い。我に返る。二人の世界を作ってしまった。

 

リラさんもいる事に気付くと、クラウディアも流石に赤面して、一礼する。

 

「よし、最低限の基礎は出来たな。 次は動きながら当てる訓練だ。 出来ればそれで何かを殺すのを挟むのが良さそうだが……」

 

「リラさん、あいかわらず実践的だな……」

 

「当たり前だ。 実戦で死なせないように教えている。 それには実践が最優先だ」

 

「そうでしたすいません」

 

真顔で返してくるリラさん。

 

多分これは、どんな冗談も通じないだろう。

 

アガーテ姉さんですら、たまに笑う事があったのに。リラさんは、笑うところがはっきり言って想像できない。

 

「この様子だと、クラウディアの仕上がりはもう数日と言う所か」

 

「何の話ですか?」

 

「お前達で冒険に行きたいんだろう?」

 

クラウディアは口を両手で上品に押さえると。

 

その後、こくりと頷いていた。

 

クラウディアも、リラさんがどういう人かはもうわかっているのだろう。本当に厳しい人だ。

 

自他共に。

 

だから、容赦なく課題を出してくる。

 

「これからライザ達三人には、他人を守りながら戦えるかの試練を出す。 クラウディアは、実戦を経験していない。 だから、実戦に備えて訓練しろ。 三人と一緒に肩を並べて戦えるまでの期間、それまではライザ達に世話になる。 その分の負担をライザ達がこなせるかどうかを、私は確認する」

 

「分かりました!」

 

「クラウディア、頑張ってね」

 

「うん!」

 

勿論、それまでには幾つもハードルを越えなければならない。

 

例えば、クラウディアのお父さんであるルベルトさんである。

 

ルベルトさんが、クラウディアを滅茶苦茶大事にしている事は良く分かる。色々な所作や、クラウディアの話からも。

 

というか、クラウディアの年くらいだと、父親に反発するのは当たり前の事なのだが。それも一切見られない。

 

抑圧されているというよりも、本当に関係性がよく構築できているということなのだろう。

 

あまりよく見られない親子だ。

 

それとも、クラウディアはまだあたしに家族の愚痴を言うほど信頼してくれていないのか。

 

或いは、家族の恥だと思って、口にしないだけかも知れないが。

 

いったん、借家に戻る。

 

アンペルさんが、タオと激論をしていたが。喧嘩をしているようには見えない。タオはかなり頭が良いようで、アンペルさんは上手にそれを誘導している。それがあたしにも見て理解出来る。

 

ある程度で、話を切り上げるアンペルさん。

 

リラさんが咳払いすると、タオがびくりと背筋を伸ばしていた。

 

タオもリラさんの恐ろしさはよく分かるのだろう。

 

「アンペル、其方は終わったか」

 

「ああ、問題ない。 タオは成長が早いぞ。 ちゃんとした資料さえあれば、この年で生半可な学者より出来る奴になっていただろうな。 特に論理的な思考が出来るのが強い」

 

「そうか、それは何よりだ。 ただ今は、戦士としてのタオに用がある」

 

「分かっているさ」

 

頷くと、リラさんに課題を出される。

 

明日の昼。

 

その時間帯、リラさんとアンペルさんが、対岸西の洞窟の歩哨をどうにかする。勿論殺すだの眠らせるだの物騒な方法ではなくて、単純に仕事で連れ出すらしい。二人とも護り手を手伝って、街道付近にいる魔物を狩っている。

 

その関係で、歩哨をどうにか連れ出す自信があるのだろう。

 

そこに、あたし達三人が入り込む。

 

手帳の指定のページを見るようにと、あたしは言われた。

 

レントとタオにも。

 

そこにコベリナイトという鉱石に関する記述がある。

 

手帳の内容は、あたしも把握している。コベリナイトは、今作っている漠然とした鉄っぽいもの……金属インゴットの一段階上。

 

ブロンズアイゼンの材料となる。

 

名前はブロンズ(青銅)が含まれているが、これでもはっきりいって雑多な「鉄」よりはマシだ。

 

古い時代、最初にもっとも珍重されたのは青銅という話で。

 

これについては、手帳にも書かれていた。

 

文明の勃興とあわせて、鋼鉄。まざりもののある鉄が主要な金属として使用されていくのだが。

 

青銅はその前に、利便性と生半可な鉄より使いやすい事から使われた金属だ。

 

ブロンズアイゼンはそれを考慮しての名前であるらしい。

 

いずれにしても、通常の鉄なんぞよりも遙かに強力で、しかも錆びにくいという話である。

 

確かに、コベリナイトを手に入れられれば、あたしとしても更に先に行ける。

 

それに、だ。

 

今後常時コベリナイトを入手できる環境が出来れば。

 

それによる装備も、量産出来る可能性が高かった。

 

「洞窟内にコベリナイトがある事は、アンペルが確認している。 潮の満ち引きが影響してくる危険な洞窟だ。 念の為に私も影からついていくが、もしも私が介入する場合はそこで終了。 試験に失敗した場合、今までの倍の時間、基礎を磨いて貰うぞ」

 

「うえ、それは……」

 

「いや、レント。 当然の話だよ。 クラウディアも、すぐに一人前の戦士になれるわけじゃない。 だったら、あたし達が一人前以上にならないと」

 

「それもそうだね。 気が重いけど、やるしかないか」

 

タオは案外乗り気だ。

 

二人とも、新しい仲間を歓迎していることは分かっている。あたしとしても、是非クラウディアとは一刻も早く冒険したい。

 

だったら、当然の事ながら。それが出来るための知識と力は必須なのである。

 

「コベリナイトを入手する手段は問わない。 それを得る事が出来たら合格だ。 今のうちに、三人とも準備をしておけ」

 

「はいっ!」

 

あたしは頭を下げる。レントも気合いを入れて答えていた。

 

タオだけは、顔に夢のような時間が終わってしまったと書いて、落胆していた。

 

だが、それも仕方が無い。

 

タオにとっては、ずっと本の内容を解読するのが夢だったのだ。

 

あたしもそれを理解しているから。タオを責めるつもりは、毛頭なかった。

 

それにタオだって、クラウディアと色々と冒険や見聞を共有したい気持ちは同じな筈だ。

 

それについても、あたしは確信していた。

 

ずっと昔に、タオが冒険にいきたくないか、聞いた事がある。

 

そうしたとき、タオは素直に答えてくれた。

 

冒険にはいきたい。

 

あたしとレントと一緒に行きたいと。

 

ただ、怖いのは苦手だと。

 

その時に素直に答えてくれたタオの言葉は、今も変わっていないと。あたしは信じていた。

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