暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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この話では原作と少し順序は変わるのですが、クラウディアが冒険に出られるための約束をライザがルベルトさんから取り付ける話となります。

こういう所で筋を通すのがライザの良い所でもあり。

また面倒くさい人間関係だと思いながらも、人に好かれるライザは上手くこなしていく不思議な魅力もあるのです。


四人で冒険に
序、壁を一つずつ


クラウディアは走りながら、的に向けて矢を放つ。立射の姿勢を徹底的に仕込んだ後は、動きながら矢を放つ方法をリラさんに習った。

 

基礎はあった。

 

背筋を伸ばして、ちゃんとした動作をする。

 

叩き込まれてきたそれが、しっかり役に立った。

 

そして矢を放てるようになった後、走り回りながら矢を放つ訓練を受けている今だけれども。

 

矢を放つ際に、弦を維持し。

 

矢を魔力で作り出し。

 

そして放つ。

 

これを走りながら、的に当てるのが、とても大変だ。

 

無言で順番に作業をやっていく。

 

ぶら下げた的は、魔力を弾く金属製。今のクラウディアの魔力では、これを貫通できない。

 

商会の品だが。

 

お父さんに話をして、クラウディアのお小遣いから買い取ったのだ。

 

魔力を弾く金属とは言っても、ライザの全力攻撃に耐えられるとはとても思えないが。クラウディアの矢程度だったら、貫けない。

 

ぶら下げただけの的に当てるのが、本当にしんどい。

 

呼吸を整えながら、また走りつつ当てる。途中で何度も走ったり止まったりを繰り返していると。

 

息が上がるのも早かった。

 

これでも、隊商と一緒に歩いてきたはずなのにな。

 

そう休憩を挟みながら思う。

 

ライザが昨日作って持ってきてくれた道具。

 

腕輪。

 

あまり王都では流行りそうにない荒々しいデザインだけれども、これをつけていると何だか力が湧いてくる。

 

手もマメだらけになっていたのが、回復も早い。

 

もう一度だ。

 

走りながら、また矢を放つ。魔力については、問題ない。

 

問題は制御だ。

 

弦を張る。

 

弦を引く。

 

矢を具現化する。放つ。

 

この動作を、一瞬で全てこなして行かないといけない。最初は笛型の矢を魔力で作り出していたが。

 

それも、今は少しずつ、殺傷力を意識した矢に切り替えていた。

 

矢を再び放つ。

 

当たるには、当たる。

 

だが、これから先が問題だ。

 

呼吸を整える。

 

汗をハンカチで拭っていると、如何に自分が甘やかされて育ったのかが分かってしまって、とても悲しい。

 

深呼吸。

 

そして、また走る。

 

走りながら、再び矢を放つ。やはり、ライザの作ったあの金属靴が必要かも知れない。

 

ライザのとんでもない蹴りを見て、ちょっとクラウディアも肝が冷えたけれども。

 

あれを放てるライザでも。

 

外では無敵でも何でも無いのだ。

 

それについては、クラウディアだって知っている。

 

今まで隊商についてきた傭兵には、今のライザ達より格上の人だっていた。そんな人だって、魔物に殺される事があったのだ。

 

クラウディアは体力はつけてきたし。魔術だって基礎はならった。

 

だけれども、魔物とやりあってるのが当たり前のこのクーケン島に来て。自分が如何にだらけていたのか。

 

思い知らされていた。

 

疲れ果てて、休憩を入れる。

 

メイドのフロディアが紅茶を淹れてくれる。何も事情は聞かない。お父さんも、それについては同じだ。

 

そろそろ、話を切り出さないといけない。

 

だけれども、その前に。少なくとも今の段階より、一周り腕を上げておかなければならなかった。

 

休憩を挟んだ後も、訓練を続ける。

 

どうにか的には当てられる。

 

破壊力も維持できる。

 

だが、やっぱりまだまだだ。

 

隙が出来る。

 

リラさんに言われている。

 

間断なく動け。

 

戦闘時は、絶対に足を止めるなと。

 

魔物は人間との戦闘の歴史を生き抜いてきている。呪文詠唱を行う人間や、足を止めた人間を優先的に狙って来る。

 

強い相手は後回しにして。

 

弱い相手から殺して行く。

 

それで人間は弱体化する。とても簡単に。それを魔物は本能的に知っている。だから人間と戦えている。

 

戦闘では、真っ先にクラウディアは狙われる。

 

だから、狙われても生き残り戦略的な価値を作れ。

 

射撃による支援。

 

それによる相手の行動の阻害。

 

動き回る事によって隙を減らし、タンクの負担を減らせ。

 

それが、リラさんとの座学で受けた内容だ。

 

今は実践のために動く。

 

ずっと先を行っているライザ達の足を引っ張らないために。

 

再び、クラウディアは走る。

 

眠っていた魔力と。

 

ずっと訓練していた動作の一つ一つを、少しでも生かして使う。そう考えると、少しずつ、動きも自分で分かる程よくなりはじめる。

 

矢を放つ。

 

当たる。連射。二矢目も当たる。揺れていた的に。ホーミングしているとはいえ。それでもだ。

 

呼吸を整えながら、連射。

 

少しずつ、コツが掴め始めてきたかも知れない。

 

このまま、どんどんコツを掴む。

 

そう自分に言い聞かせて。クラウディアは魔力の矢を放った。

 

戦う事。

 

相手を殺す事。

 

それらには、特に恐怖は感じない。

 

むしろこのまま。

 

籠の鳥として生き続ける方が、余程クラウディアには怖かった。

 

おてんばというのとは、少し違うのかも知れない。

 

ライザという理解者を得て。

 

一緒に戦って、少しでも背を伸ばしたい。

 

そういう気持ちが。

 

クラウディアにはあるのかも知れない。

 

訓練が終わって、手にライザから貰ったお薬を塗る。本当に、手にできていたまめやらが一瞬で消える。

 

凄い薬だと思う。商会でやとった凄腕の魔術師でも、こんなに回復を促進させることは出来なかった。

 

錬金術は即効性があるだけじゃない。

 

完全に魔術の上位互換だ。

 

無言で、そのまま練習を続ける。

 

やがて、走りながら、矢を百発百中出来るようになった。

 

咳払いに気付いて、顔を上げると。リラさんだった。

 

「かなり出来るようになって来たな」

 

「ありがとうございます」

 

びしっと頭を下げる。

 

こればかりは、性分と言う奴だ。この人が、クラウディアなんて問題外、ライザ達ですら視界にも入らないほどの達人である事は分かっている。

 

クラウディアがその辺に咲いているお花だとしたら。

 

この人は、全てを焼き尽くす燎原の火だ。

 

「次は痛みに耐える訓練をしておけ。 冒険に出るつもりならな。 ただ、恐らく父を心配させるだろう。 訓練は秘密に行うようにな」

 

「はいっ!」

 

座学は、クラウディアはとても真面目に受ける。

 

リラさんがくれたのは腕輪で、継続的に痛みを発生させるものだそうだ。アンペルさんが失敗作として作ってしまったものらしく、本来は真逆の効果を発生させるものなのだそうだが。

 

「最初はこれでいいだろう。 少しでも痛みがあったら、まともに矢を放てないのではまるで意味を為さない。 それに誰でも子を産むときは相当な苦痛を伴う。 お前も今のうちに痛みには慣れておけ」

 

随分とまあ。

 

今、二人しかこの場にはいないが。それでもクラウディアは、顔が赤くなるのを感じていた。

 

リラさんは鉄面皮で、何を考えているのかまったく分からない。

 

そういえばこの人、肌が今まで見た人で一番白いかも知れない。

 

ちょっと病的な白さだ。

 

ライザも気付いているようだけれども、腕の辺りから毛が生えているようにも見える。それも獣のようにふさふさに。

 

爪も生え方がおかしい。

 

今までは殆ど気にしなかったが、この人の異常な戦闘能力と経験を思うと。どうにも、不可思議な話だった。

 

「私は行くぞ。 ……真面目に訓練をしておかないと、あの三人には追いつけない」

 

「はいっ!」

 

ばしっと頭を下げると、リラさんはもうその場にいなかった。

 

腕輪をつけると、びりっと痛みが走る。

 

なるほど、これで集中して矢を撃てないようでは、乱戦の中ではとても役に立てないと言う訳か。

 

どうせ戦闘中は、色々なアクシデントで。大小の傷は受けるのだ。

 

それで動きを止めるようでは、確かに色々と厳しいかも知れない。

 

痛みがあると、途端に射撃が難しくなる。

 

魔術の集中も、だ。

 

特にホーミングは、音魔術を利用している事もある。今まで止まっていても当てられた矢が、全く当たらなくなる。

 

眉をしかめて。

 

それで深呼吸。

 

一度湧かしてある水を、夜の内に冷やしておいた。それをぐっと飲み干した。

 

そして、再度訓練を再開。

 

頭を冷やして、嫌みに耐えながら矢を放つ訓練を続ける。

 

痛みがある状態でも。

 

少しずつ、また的に迫れるようになってきていた。

 

 

 

ライザに本を貸しに行った帰り。

 

タオは、ボオスとばったりであっていた。

 

ボオスは冷たい目でタオを見下ろす。あの時以来、ずっとだ。

 

「よう。 どうした、親分は側にいないのか」

 

「どいてよボオス。 僕は忙しいんだ」

 

「何に忙しい。 その解読出来もしない「お守り」を抱えるのにか」

 

ヘラヘラしているボオスの取り巻きのランバー。

 

誰もこの島で。

 

この二人を良く思っていない。

 

ただ威張り散らかしているだけのどら息子。そう呼ばれている。そして、恐らくは本人もそれを知っている。

 

知っているから、どんどん行動が先鋭化していく。

 

もしもボオスがブルネン家の当主になったら、この島は終わるかも知れない。

 

少なくとも、今のボオスだったら。

 

そうタオは感じていた。

 

「この本だったら、解読している最中だよ」

 

「ほう。 だったら少し読んで見ろ」

 

「いいよ」

 

昔は、途中だと返していたけれども。

 

今は、読むことが出来るようになって来ている。

 

実は専門書を読み進めるのでは無く、一度読めるものから完全解読しろとアンペルさんに言われたのだ。

 

そこで、家にある本から、アンペルさんが見繕ってくれたのだ。

 

いつもと違う本を持ち歩いていることに、ボオスは気付けなかったようだ。

 

「この本は、この島周辺の植物の植生についての内容なんだ。 此処はナナシ草と言われる草の細かい生態で……」

 

いきなりランバーが立ったまま寝始める。

 

この人は、剣の腕前は凄いらしいけれど、それ以外の全てが駄目だと話に聞いているが。それも嘘ではないらしい。

 

タオが丁寧に説明をしていくと。

 

ボオスは、意外にも嘘だとかはいわなかった。

 

意外だ。

 

リラさんがぼそりと話してくれたことがある。

 

人は基本的に、一部の例外を除いて上下関係を作りたがると。

 

自分より下と見なした相手の言う事は、白かろうが黒だと決めつけるし。相手の発言を全て否定して、それで自分が上に立った気持ちになりたがるのだと。

 

どうしようもない生物だから、それは大人になる前に理解しておけと。

 

ボオスもあの事件以降、そんなのになったと思ったのだけれども。

 

本を見せながら解説していくと、面倒くさそうではあったが。それでも、タオの言う事を否定はしなかった。

 

「分かった分かった。 その本は理解が進んでいるんだな。 で、その明らかにこの辺りの共通語ではない言葉を、どうやって翻訳した。 しかも今、普通に時々その言葉らしい発音で喋っていたな」

 

「えっ……それは」

 

「急に歯切れが悪くなったな。 お前、頭は良いくせに隠し事が下手すぎるんだよ。 何か切っ掛けがあったとしたら、あの流れ者どもだな。 バレンツのお嬢様ではないだろうしな」

 

うっと、思わず呻く。

 

まずい。ボオスがどう動くか読めない。

 

ボオスは冷たい目でタオを見ていたが、突き飛ばすようなことはなかった。

 

ボオスは以前から、タオが本を大事にしているのを詰ることが多く。特に読めもしない事を詰っていた。

 

それがどうしてなのかは、タオには分からなかった。

 

「行くぞランバー」

 

「ふえ? は、はいぼっちゃま」

 

「ぼっちゃまは止せと言っただろうが!」

 

「ひいっ! 許してくださいぼっちゃま!」

 

ボオスが怒って先に行ってしまう。

 

剣を教えているときは別人のようだというのに、本当に情けない有様でランバーがついていく。

 

とりあえず、これでどうにかなったか。

 

突き飛ばされずに済んだし。

 

本も汚されずに済んだ。

 

ライザに貸してきたのは、以前にお金を出して買った本。何か解読の参考になるかと思って、フレッサさんの雑貨屋で買った本である。

 

内容は建築に関する基礎的な技術だったのだが。

 

ひょっとしたらライザは、本気でアトリエを造るつもりなのかも知れない。錬金術の産物であるこの靴や、ハンマー。それにあの武器を見る限り、それはあながち嘘とは思えないのだ。

 

それに、ライザは次々に新しいものを毎日作っている。そしてタオに必要だと判断した場合はそれを惜しげもなくくれる。

 

どれも子供だましであった試しが無い。

 

実用性の高さはどれも例外がない。

 

昔冒険のたびに見つけていたがらくたとは訳が違う。

 

今のライザが見つけてくるものは、どれも宝物ばかりだ。

 

家に戻る。

 

タオの両親は、凄まじい勢いでタオが本を読んでいるのと。アラームを掛けないと、危険で仕方が無い事を理解しているようだ。

 

少なくとも、本を捨てようと言い出さなくなったが。

 

アンペルさんとリラさんを、忌々しそうに見ているのは何回か確認した。

 

自室。正確には先祖から伝わっている書斎に篭もると。

 

持ち歩いていた本をしまって。

 

本命を出す。

 

「専門用語だらけなんだよなあ。 発音は出来るようになったけれど、意味が通りそうな言葉を少しずつ解説していくしかないよ。 それにしてもこれ、何の技術書なんだろう」

 

そう。

 

分かってきた事がある

 

これらの大量の本は、いわゆるマニュアル。或いは技術書ということだ。

 

そうとしか考えられないのである。

 

頻出する専門用語。それ以外の言葉も極めて事務的で、分からない単語を「こうする」「どうする」「回す」「拡げる」といった言葉だらけ。

 

それも順番が指定されている。

 

古い時代にあった工作機械などを動かすための本なのか。

 

それとももっと大きな何かを動かすための本なのか。

 

それが分からない。

 

ただ、丁寧に順番に読み進めることで。それで分かってくる事もあるはずだ。

 

じっと、本を読んでいき。その全てを解析していく。

 

いちおう、発音だけだったら、古代クリント王国時代の言葉ですらすらと喋る事が出来る様になっていた。

 

それ以外は全然だったが。

 

アラームが鳴る。

 

食事の時間だ。

 

このアラームも、ライザが改良してくれた。ありがたくも電気ショックが流れてくれるので、音だけではなく一発で分かる。

 

ライザはこれくらいしないとタオが戻ってこない事を知っているし。

 

タオも遠慮無くやってくれと、むしろ自分から頼んだのである。

 

この辺りライザは、昔擦り傷だらけになりながら走り回って、旧市街にある邪魔な石柱を蹴り砕いていた頃と何も変わらない。

 

女としては終わっているかも知れないが。

 

その圧倒的な生命力は。

 

今、錬金術と言う翼を得て、空舞う巨竜になろうとしているのかも知れなかった。

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