暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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どうにかルベルトさんの課題を突破するライザですが。

クーケン島の大口取引先にもなりうる相手です。

話は簡単には終わりません。


2、錬金術の大きなデビュー

さて、まずは第一試験クリアだ。更に、勝手に島の人達が錬金術の宣伝もしてくれた。まだ汎用性が高いものは薬くらいしか作れるものはないけれども。それに、今回使い路が限られているとは言え、バリエーションが加わった。

 

水漏れに苦しんでいる島の人達を救えるかも知れない。

 

大量生産は無理だけれども。

 

一日であっと言う間に直せる。

 

それがどれだけ優れている事か、この島の住人であるあたしはよく理解している筈である。

 

この島でも、昔はみんな旧市街に住んでいたのだ。

 

旧市街の方が利便性が優れているし、昔は金持ちは旧市街に住むものだという風潮すらあったらしい。

 

今ではそんなものは塵になり果てたが。

 

ともかく、ルベルトさんは次の試験について、明日までには考えてくれるはずだ。先に、アンペルさんとリラさんに、報告をしに行く。

 

アンペルさんは、左手だけで何かを調合していた。

 

一目で分かる。

 

利き手ではないし、本人が言う通り繊細な調合は出来ないのだろう。リラさんは、手を貸さない。

 

貸せないのだろう。

 

ただ、ソファにいつものように寝転がって。

 

あたし達の到来を出迎えてくれた。

 

「外が騒がしいな。 何かあったのか」

 

「アンペルさんは忙しそうですね。 実は……」

 

説明をする。

 

進捗が一つ進んだ。

 

そう告げると、リラさんはそうかと、少し醒めた声でいうのだった。

 

この辺り、リラさんはとても厳しいリアリストだ。ただしそのリアリズムは、自身にまず向けられている。

 

「ライザはいい。 レント、タオ、クラウディア、外に出ろ。 現状の実力の確認をする」

 

「おうっ!」

 

「ええ、僕も……」

 

「私は、見てもらいたいわ」

 

三人がぞろぞろと出ていく。

 

アンペルさんは、釜をかき混ぜながら、素材を取ろうと右手を動かす。

 

明らかにふるえている。

 

あれでは確かに、まともな作業はできまい。

 

「あたしが手伝います。 どの素材ですか?」

 

「うむ。その薬草を……」

 

「分かりました」

 

薬草も順番に覚えている。

 

貰った本を読みながら、確実に一つずつ覚えているのだ。

 

身近に生えているものは簡単に覚えられる。

 

今までの冒険で見つけて来たものも、である。

 

だが、全く見た事もないものも多く。

 

そういうのは、何となくでしか覚えられなかった。

 

幸い、今は見た事があるものだ。

 

薬が出来る。

 

あまり、出来がいいものではなかった。

 

エーテルからあたしがすくい上げる。

 

容器につめていると、アンペルさんはお薬の出来を見て、悲しそうに呟くのだった。

 

「何度見ても悲しい。 利き手を失うだけで、此処まで酷い代物になるとはな」

 

「その右手、余程酷い状態なんですね」

 

「ああ。 こればかりはどうにもならない。 リラたちの一族は、指くらい失ってもその内生えてくるらしいのだがな」

 

そっか。

 

それでわかったけれど。多分リラさんは人間では無いんだろう。

 

これについては、うすうす思っていた事だ。

 

あまりにも強大な魔力。戦闘能力。

 

それに、何よりもあの多すぎる戦闘経験。

 

人間だったら、老境に入っても彼処までの経験は積めないはずだ。

 

だが、それでリラさんが怖くなるかと言ったら、そんなことは全く無い。

 

むしろ興味が湧くし。

 

それだけの時間、何かの目的で動き続け。

 

努力を続けられるのだとしたら、敬意すら感じる。

 

その様子を見て、アンペルさんはモノクルの奧の目を細める。

 

あたしの反応が、このましいものらしかった。

 

「話は聞いていた。 どうやら、冒険に出るための準備を本格的に開始したようだな」

 

「はい」

 

「ならば、これを渡しておこう」

 

アンペルさんが、荷物を漁る。

 

高価そうな素材が殆どだ。錬金術の生成物は、最低限しかない。ないというよりも、作れないのだろう。

 

元が凄腕だったのだとしたら。

 

それは悲しいだろうな。

 

あたしも、そう思う。

 

アンペルさんが取りだしたのは、小さなクリスタルだった。バンドが着いていて、腕につけられる。

 

「腕につけておきなさい。 役に立つ筈だ」

 

「これはなんですか?」

 

「これは古式秘具というものでな。 古代クリント王国よりも更に古い時代の錬金術の異物だよ。 このコアクリスタルは、私が古巣を離れる時に、せめてもの礼として頂戴したものだ。 そのおかげで、結構な年月刺客を差し向けられて、結果戦闘経験を積むことが出来たっけな」

 

そっか。

 

本当に苦労しているんだな。

 

アンペルさんの古巣がろくでもない場所である事は、今の話だけでも充分に伝わってくる。

 

そして問題は、これが何に使うものかだ。

 

薬を、クリスタルに押し当てるアンペルさん。それが、クリスタルに吸い込まれる。

 

驚くあたしに、説明してくれる。

 

「これは錬金術の道具を収納して、魔力と引き替えに複製してくれる。 当然、強力な道具ほど魔力の消耗が激しい。 更には魔力の蓄積に時間も掛かるから、一度使うと複製まで時間を掛けなければならない。 いらなくなったら取りだせば良い。 具体的にはこのボタンを押して……」

 

説明をしてくれる。

 

アンペルさんの説明は丁寧で、すっと頭に入ってくる。

 

なるほど、これは便利だ。

 

実際に貰った薬で複製してみる。

 

確かに、ぐんと魔力を吸い上げられる。

 

アンペルさんの話によると、一度に四つまでの道具を収納でき。カットしている断面に触るだけで、内容物をコピーして引き出せるそうだ。

 

ただし、この出来の悪いお薬でこの消耗。

 

考えどころだ。

 

アンペルさんも、今作ったお薬の出来の悪さは理解しているようで。何度も苦笑していた。

 

「フラムなどの爆弾を使う時はとにかく注意してくれ。 品質劣化が起きる事はないだろうが、それでもとにかく爆発物だ。 魔力があまりにも大量に吸い上げられると、その場に倒れかねん」

 

「分かりました」

 

なるほど、確かに扱いが非常に難しい。

 

フラムなどを複製して使うとしても、魔力を一気に吸い上げられたら、確かに身動きが取れなくなって。

 

下手すると自爆することになる。

 

それだけは避けなければならない。

 

もっと魔力を練り上げないといけないな。恐らくだけれど、あたしは連日天井知らずに上昇する自分の魔力に慢心していたのだと思う。

 

だけれども、上には上がいる。

 

アンペルさんが示してくれた。

 

忘れないように対応しなければならないだろう。

 

頷くと、それから幾つかの作業について指導を受ける。作る道具に、癖があるらしい。それについては、何となく分かっていた。

 

参考書にない部分もあるのだが、それはやはり属人的な要素が強くなるとかで。口伝するしかないのだとか。

 

だから、丁寧な説明を、そのまま聞く。

 

なるほど、と思った。

 

要素の外付けか。

 

今まで大量の要素を無駄にしていたが。外付けを上手に出来れば、更に錬金術で作るものの性能を上げ。

 

或いは付加効果も作れるかも知れない。

 

更に上に行くには、絶対に覚えないといけない事だ。

 

後は棒の握り方など。

 

丁寧に指導を受けていると、レントとタオとクラウディアが戻ってくる。

 

かなり絞られたようで。レントすら汗まみれになっていた。

 

「どうだリラ。 三人の様子は」

 

「一発で何でも教えた事はこなせない。 それでも確実に進歩している。 それで充分だろう」

 

「そうだな。 今の仕上がりは」

 

「まあこの辺りの魔物相手なら、レントとタオ、ライザならどうにでもなるだろう。 その点では合格だ。 クラウディアは、三人の補助を受けながらなら、立ち回る事が出来るはずだ」

 

おお。

 

それは、とても良い事だと思う。

 

ただ、クラウディアは気の毒なくらいへばっていた。上等な絹服が汗でぐしょぐしょになりそうである。

 

あまり美味しくないけれどと断ってから、持ってきてある栄養補給用のお薬を三人に渡す。

 

タオは素直で、思いっきり噴き出しそうになっていた。

 

リラさんも興味本位であるけれど、手にして飲み干す。顔色一つ変えないのは流石だ。

 

「何これ……」

 

「栄養」

 

「それは分かるけど、もう少し味をこうなんとか……」

 

「つ、つよくなる為だ。 俺は飲む」

 

レントは我慢して飲み始める。

 

クラウディアは一瞬真っ青になったが。それでも、多分つよくなりたい気持ちの方があるのだろう。

 

くいくいっと飲み干した。

 

それを見て、観念したのだろう。

 

タオも一気に飲み干して。

 

今までの苦労以上に疲れたような顔をしていた。リラさんが、率直な感想を告げた。

 

「ライザ、味をまろやかにするために工夫するべきだな。 これでは疲労は取れてもしばらく違和感が残って動けなくなるぞ」

 

「分かりました。 工夫してみます」

 

「先にやってくれよ……」

 

レントがげんなりした顔で言う。

 

ともかく、今日はここまでだ。

 

軽く話をしておく。

 

アンペルさん達は、また出かけるそうだ。魔物の活動が活発になっているとは聞いているが、どうもそれだけではないらしい。

 

ワイバーンらしいのの影が街道で目撃されているそうだ。

 

ワイバーンか。

 

ちょっと勝てるかは自信がない。此処で言う勝ちというのは、誰にも怪我をさせずにの完全勝利の事だ。

 

ワイバーンになってくると、この間戦ったゴーレムよりも更に上の存在だろう。

 

その代わりワイバーンから取れる素材などは、非常に貴重だと聞いてもいる。肉などは、食べるだけで寿命が延びるなんて話があるくらいだ。

 

とはいっても、そもそも生半可な力量で手を出せる相手では無い。

 

たまに一攫千金を狙って手を出す人間が、悉く返り討ちにあう。

 

そういう魔物だ。

 

「ルベルトという御仁は実力主義で徹底している。 恐らく試験の内容の少なくとも一つは実戦になる可能性が高い。 気を付けろ」

 

「分かりました、リラさん」

 

「よし、解散だ。 皆それぞれ、基礎を磨いておくように」

 

アンペルさんが手を叩いて、その場をまとめた。

 

疲れきっているようで、レントとタオは口数が減っていたし。その場で倒れて寝かねないので。

 

あたしがクラウディアは、屋敷まで送っていった。

 

 

 

翌日。

 

ルベルトさんが、あたし達を案内する。案内したのは、旧市街の一角だった。そこには古老が気むずかしそうな顔をしていて。更には、露骨にルベルトさんに媚びへつらうモリッツさんもいた。

 

なんだかな組み合わせだ。

 

ボオスも遠くで見ているようである。

 

「古老、モリッツさん。 この辺りだと言う事でしたが」

 

「そうなのですが、そこの悪童どもは……」

 

「話は聞いているはずです。 昨日、錬金術というもので助けて貰いました。 それを一人で独占するのも問題だと思って、来て貰っています」

 

「ほ、ほう……。 なるほど……」

 

モリッツさんが、口の端を引きつらせる。

 

古老はじっと怨念がましくルベルトさんを見ている。

 

古老はなんというか極めて保守的で、酒などが入るとクーケンフルーツだけ作って静かに暮らすべきだ、などと言い出す。

 

そういう点ではモリッツさんのがまだマシなのだけれども。

 

街の住人の内、とにかく迷信深い人達は古老側だ。

 

特に漁師とか農夫とかに古老側が多い。

 

これは元々、若いうちから結婚して子供を作って、その際に世話になっているからなのだと思う。

 

古老の魔術で、奥さんや子供を死なせずに済んだ人は多いのだ。

 

単なる保守派というだけではなく。

 

とても食えない人物なのである。この古老は。頭が硬いだけのおじいちゃんだと思っていると、痛い目を見るだろう。

 

ついていくと、くずれた家に出る。

 

崩れているだけではない。

 

辺りには瓦礫が無造作に積み上げられていて、文字通りゴミ捨て場だ。すぐ近くに、クーケンフルーツの畑がある。

 

なるほど、なんとなく分かってきた。

 

「これは先日の地震で崩れてしまったそうでな。 君の錬金術でどうにかできないか?」

 

「そんな怪しげな呪いで……」

 

古老がぼそりという。

 

ここでいう呪いというのは、魔術の事では無い。

 

主に予言関連の魔術の事を揶揄しての言葉だ。

 

予言関係の固有魔術の持ち主も、いるにはいるらしいのだが。とにかく非常に数が少なく、固有魔術が「予言」という奴は疑ってかかれ。

 

それがこの島での鉄則だ。

 

なんでも何十年か前に、ちょうどそういうのが島に来て、詐欺の限りを尽くした挙げ句に逃げていった事件があるらしく。

 

それもあって、「怪しい呪い」というのは、予言者関連の事を指す。

 

勿論あたしの使っているのは、そんな代物じゃない。

 

「ライザ君はうちの家で起きていた水漏れを完璧に解決してくれました。 それについては、私が保証します」

 

「そ、そうですかこの悪童が……」

 

「どうせ何かインチキにきまっておる」

 

「まずは見せてください」

 

古老は無視。

 

そのまま前に出る。

 

なるほど。地盤は駄目になっていないか。だとすると、地上部分だけをどうにかすれば良さそうだ。

 

フラムで吹き飛ばすのが良さそうだけれども。問題はそのまま吹っ飛ばしたら、瓦礫とかが何もかも周囲に飛び散るだけだ。

 

超高熱で、一瞬で溶かしてしまうくらいの事が必要になる。

 

そう。

 

あたし達がクラウディアを助けて逃げる途中、追いすがってきたあの大鼬を殺したようなフラムで。

 

しかもあのフラムは、球状に切り取るようにして鼬の体を抉って殺していた。

 

今回は平面に拡がるように、フラムの熱を調節する必要がある。

 

爆風は出来るだけ出ないように。

 

超短時間で、フラムで文字通り蒸発させるべきだ。

 

そして蒸発したゴミからは有毒ガスが出る可能性が高い。石畳も傷つく可能性があるとみて良い。

 

その補修も必要になるだろう。

 

順番に組み立てて行く。

 

「無茶だよ。 ライザ、どうするのこれ」

 

「今考え中」

 

「最悪、俺たちで直接どかすしかないだろうな。 それで湖に捨てる」

 

「それ、僕もやるんだよね。 ライザの錬金術が凄いのは間近で見てるけど。 最悪の事態も予想しないと駄目か……」

 

タオが泣きそうな顔で。それでもどうやったらゴミの処分が出来るか、大まじめに考え始める。

 

あたしは、概ね計算が終わっていた。

 

というか、元々フラムの平和利用が出来ないかと思っていたのである。

 

魔術でも実は似たような事が出来るが、それを魔力消耗無しで出来るとすれば、これは実に凄い事だとも思うし。

 

是非。今回でものにしたい。

 

顔を上げると、あたしは頷いていた。

 

「分かりました。 なんとかして見せます。 ただし、ここにあるものは綺麗になくなりますので、もしも何か大事なものをおいているようならば、早めに持ち帰るように指示をしてください」

 

「お、おい……本当にそんな事が出来るのか」

 

「呪いだ! 呪いに決まっておる!」

 

古老が喚き始める。

 

あんたが使っているのだって、魔術で呪いでしょうが。

 

そう面罵したくなるが、あたしは堪える。

 

というのも、ここでそもそもあたしのお薬が出回り始めている事で、立場が悪くなりはじめている古老に反論するよりも。

 

そもそもあたしが問題を解決して。

 

顎が外れている長老を見返す方が、気分が良いからである。

 

すぐに家に戻る。

 

今日はちょっとクラウディアと一緒に話す暇はないと思っていたのだが。クラウディアは先回りして、家にアップルパイを持ってきてくれていた。

 

ありがたい。ちょっと頭に糖を入れたかったのだ。

 

アップルパイだけ食べると、お礼を言って、すぐに屋根裏のあたしの部屋に。

 

かなり難しい調合になる。

 

そう告げると。レント達は頷いて、母さんと父さんの介入を防ぐべく、下の部屋で張ってくれた。

 

どれだけいい作物を作っても、所詮は小さな家だ。

 

優遇して貰ったのは立地だけ。

 

あたしは顔を叩くと。今手元にある素材を確認しながら、順番にやることを決めていく。

 

まずはフラムだが。いつもよりずっと火力が必要になる。しかもそれを、一点に収束させて、熱量を出来るだけ逃さないようにしなければならない。

 

これは、難しい。

 

でもそれでもやるべきだ。

 

そもそも戦闘でも、このフラムは面制圧兵器として仕える筈。

 

恐ろしい兵器だとも思うが。

 

同時に悪を同時に抹殺も出来る。

 

まずは、この間の洞窟探索前後で手に入れたセキネツ鉱を、順番にエーテルを満たした釜に投入していく。

 

要素を抽出する。主に火力の源となる要素をだ。

 

錬金術で言う四大元素の火だっけ。

 

でも、それは手帳にも書かれているが、所詮は目安。

 

実際にはそんな四要素よりも、たくさんの要素があることをあたしはエーテルで要素を混ぜながら感じている。

 

充分に火力の要素を抽出し、それを混ぜ合わせていく。

 

セキネツ鉱の他の要素も保存はしておく。

 

これから使うからだ。

 

混ぜながら、次に入れるのは火力の檻になる部分だ。

 

今度はアクア鉱。

 

冷気を閉じ込めている鉱石を使う。

 

これによって、熱を閉じ込めるのである。

 

いうは簡単だが、はっきりいって余程の高出力の冷気が必要になる。周囲に被害が出ないようにするなら、なおさらだ。

 

そして溶かせばガスが出る。

 

そのガスも、どうにかする必要がある。

 

次に入れるのは、ガスを出す木の実、それなりの数。

 

これらからガスを抽出し。

 

空気の壁を作るようにする。

 

これも大事だ。

 

手帳を見て勉強したのだが、実は熱をもっとも遮断するのは空気であるらしい。

 

一例を挙げると、羽毛。

 

羽毛はふっかふかだ。本当に布団にすると、夜によく眠れる。

 

ところがあの羽毛の効果は、実の所毛が暖かいのではないらしく。

 

毛の間にある空気が、温度を通さないために暖かいらしい。

 

これについてはごく最近、アンペルさんに聞かされて、驚いたものだ。

 

そして知ったからには、知識を有効活用するだけである。

 

空気の壁を作る為に。その辺りの空気も、エーテルに溶かしていく。かなり難しい調合だが、それでもやってみせる。

 

頭の中で難しい計算をしていくが。

 

これは天然で出来る。

 

なんというか、錬金術で回る頭の部分は別なのである。

 

それもあって、順番に混ぜていく過程で。次にやるべき事が分かっていく。

 

この辺りも、アンペルさんのいう才能依存の部分なのだろう。

 

冷や汗を拭いながら、エーテルを混ぜる。

 

熱を中心に、それを閉じ込める冷気と空気、二枚の壁。

 

そして最後に、魔力伝導を行うための金属鉱石。

 

これを投入して、混ぜていく。

 

しばらく計算をしながら、混ぜていくと。

 

やがて。これだという手応えが生じていた。

 

うんと頷いて。一気に引き上げる。其処に出来ていたのは。今までとは全く違うフラムだった。

 

発破用フラム、とでも言うべきだろうか。

 

使い方は分かるが、これはちょっとまだ試作段階だ。それに、全身の脱力感が凄まじい。

 

呼吸を整えながら、もったいないが要素がたくさん含まれているエーテルを揮発させてしまう。

 

このエーテルを自分に再吸収しないように。

 

そうも言われている。

 

変なノイズをエーテルとして吸収すると、それで体を壊すこともあるそうだ。

 

くわばらくわばら。

 

そう呟きながら、釜を空にして。

 

まずは、みんなを呼んでいた。

 

既に日が暮れそうになっている。半日近く、頑張っていたと言う事になるわけだ。

 

タオが。眼鏡を直しながら聞いてくる。

 

「これが掃除用の道具? どうやって使うの?」

 

「この爆弾は、超圧縮型のフラムとでも言うべきもので、名付けるなら発破用フラム。 前にあたし達が助けて貰った時のフラムの、一点使用に特化した変更型だよ。 こう四角の空間を、丸ごと熱で抉り取る。 石材くらいだったら、文字通り蒸発させることが可能なんだ」

 

「恐ろしい爆弾ね……」

 

「うん。 だから、先に恐ろしいものだって周知しておきたかったの」

 

クラウディアの反応が有り難い。

 

破壊力が凄いと喜んでいては、たぶんあたしはいずれ獣になるだろう。

 

もし獣になっても、それで自分を制御出来るならいい。

 

でも、あたしにはあんまりその自信が無い。

 

力を得ても、溺れない人はいる。

 

だけれども、力を得ると、殆どの人間は溺れ、そして驕るのだ。

 

そうなったら、人間は当たり前の事も分からなくなっていく。

 

それだけは、避けなければならなかった。

 

「後は、あたしが代わりになる石材を用意しておくよ。 みんなは明日当日に、用意しておくものがあるから、それだけ準備したら戻って」

 

「分かった、何を準備すれば良い」

 

「荷車に水一杯。 塩水で大丈夫」

 

「ええと、今の説明を聞く限り、ゴミを溶解させた後、一点に収束させて、それを捨てるって感じ?」

 

タオがすぐに理解する。流石だ。

 

その通りと言うと、タオは大きくため息をついた。

 

「冷気で冷やされているとは言え、下手すると大けがじゃすまないよ。 おっかないなあ」

 

「だから先におっかないって告げておいたんだよ。 最後に、あたしがこれから調合しておく石材を並べておしまい。 これもちょっと腕力がいるから、後始末の方が時間が掛かるだろうね」

 

どれだけ石畳がいるかは、既にタオに計算して貰っている。

 

それにしても、恐らくあの場所。

 

畑がすぐ近くにある場所にゴミを積み上げさせたのは、多分古老だな。

 

そう思うとちょっと頭に来る。

 

あたしが最近、どんどんお薬を配っていて、実際にお産の時に随分楽になったと言う話も聞いている。あのお薬のおかげで、母子共に健康なまま出産を終えられたという話が二件あったのだ。

 

それで古老の発言力が落ちている。

 

当然その一家はあたしに感謝するわけで。あたしの派閥が。今まではふわっとしたガキ大将とその賛同者くらいだったのが。

 

確実に古老の権力を脅かし始めているのだ。

 

だったら、自分達でも実績を上げていけば良いのに。どうすればいいか分からずに右往左往している。

 

その年老いた頭が、なんともあたしには歯がゆかった。

 

後は解散。

 

準備をするべく、皆で散る。

 

この後は、石畳の調合だが。こんなものは、回収してきた鉱石とかの残骸ですぐに出来る。

 

複雑な計算も必要なく、エーテルに溶かして成形するだけだ。もとの石畳に似せるべく、色もこだわっておくか。

 

それくらいまでして。

 

仕事が完璧だと、認められるのだろうから。

 

 

 

朝一で、あたし達はゴミ捨て場に集まる。

 

まず最初にするのは、雑多なゴミを破壊する予定地点に収束する事だ。手袋をつけて、ゴミを運ぶ。

 

クラウディアも運んでくれる。

 

気を付けてと何度も声を掛けて。雑多にまき散らされているゴミを集めていく。

 

ボオスが、ランバーをつれて見に来る。

 

腕組みして様子を見ている。ランバーはどうしていいか分からないようで、右往左往していた。

 

その後は、縄張り。

 

今まで護り手と一緒に、入ってはいけない地点の縄張り作業はしたことがある。これについては慣れたものだ。

 

誰に悪戯三昧をして。

 

その後怒られて、こういう作業に従事していないのだ。

 

遊んでいたわけじゃない。

 

今までの冒険や、その後の仕置きが。

 

全てこうやって、自分の身になっている。そう思うと、あたしとしても嬉しくて、作業が鼻歌交じりになる。

 

人だかりが出来はじめた頃には、古老もモリッツさんも、ルベルトさんも来ていた。クラウディアは適当な所で切り上げて貰う。

 

タオが、縄張りに使う測量装置を用いる。

 

この発破用フラムは、計算通りなら。錬金術を信じるなら。

 

指定通りの空間を、文字通り熱で切り取る。

 

その際に、その空間内部にあるものは全部、地面も含めて溶けてなくなるし。なくなった後は圧縮されて、小さな重いゴミの球体になる。

 

それを捨てればおしまいだ。

 

ゴミの処理は。

 

後は石畳が痛んでいるようなら捨てたりと、色々と雑務があるが。それについては、後で考えれば良い。

 

測量を終えたタオが、この地点と指定してくる。

 

こう言う事で、タオの右に出る者はいない。ただタオは、虫が出るのでは無いかとびくびくしていたが。

 

こういう所も変わらないが。

 

それでも欠点以上にタオは有能だし、我慢しなければならない点でもある。

 

何度か調整して、更に並行を保つと。あたしが魔術で固定。

 

なお、詠唱して魔術をぶっ放す事で、この範囲を破壊する事は可能だが。

 

此処の範囲だけを綺麗に切り取るのは無理。

 

ゴミが散らばるだけだ。

 

空間を切断するような魔術もあるにはあるらしいが、それをやってもゴミだけ綺麗に処理するのは難しいだろう。

 

余計に複雑になったゴミを、片付ける必要が生じてくる。

 

それだけだ。

 

「よし、さがって!」

 

「なんだなんだ」

 

「ライザがまた何かするらしいぞ!」

 

「ゴミを片付けるらしい!」

 

聴衆が下がりはじめる。

 

アガーテ姉さんがいつの間にか人々を抑えて、さがらせていた。いざという時に、防御魔術が使える人間も集めている。

 

完全に固定が終わったのを確認してから、みんなでさがる。

 

このフラムは火力が危険なので、段階を踏んで爆破する。

 

まず、解除のワードを唱える。

 

それから十秒以上経過してから、起爆のワードを唱える。

 

最後に、最終ロック解除のワードを唱える。

 

それで、起爆だ。

 

一瞬で、四角い空間が白熱し。そして、文字通り切り取られていた。

 

爆風すらこない。

 

おおと、声が上がる。

 

白熱した空間がすぐに収まり。そして圧縮されて。どんと音を立てて、圧縮されたゴミの残骸……球体になったものが、残されていた。

 

地面も案の定傷ついている。

 

レントが水の入った荷車を持ってきた。あたしが柄杓で水をぶっかけて、ゴミが触れる温度であることを確認。

 

水入りの荷車にゴミを三人がかりで放り込むと、後は海に捨てに行った。

 

苦々しげに此方を見ている古老。

 

そして、その後は。

 

あたしが昨晩調合した石材を、丁寧に敷き詰め直す。文字通り、ゴミは欠片も残さず消滅していた。

 

「はい、錬金術によるゴミ処理終わり!」

 

「おお……」

 

「最近ライザが良く効く薬を作り始めたとは聞いていたが、こんな事も出来るのか!」

 

「れんきん……じゅつだっけか。 よくわからないが、凄いな!」

 

あたしは、まずはルベルトさんを見る。

 

被害ゼロ。

 

錬金術の産物によるゴミ処理。更にはアフターケア。

 

全て完璧。

 

ルベルトさんは、満足そうに頷いていた。

 

モリッツさんは、呆然としていて。しばらくして、気がついたように顔を上げると、ルベルトさんに手もみしていた。

 

古老は青ざめていた。

 

魔術の専門家だ。

 

魔術でも呪いでもこんなことは出来ないと、悟ったのだろう。悔しそうに、その場を離れていく。

 

老人はみんな古老の味方、というわけではない。

 

古老についていく人間は、あまり多くは無かった。

 

ボオスはもういない。

 

恐らく、結果はみたはずだ。

 

だとしたら、ボオスのことだ。如何に口汚く罵ったとしても、成果を認めざるを得ないだろう。

 

「二つ目の試験、合格ですか?」

 

「ああ。 発破は王都近辺の鉱山で使う事があるとも聞いているが、こんな品質のものはまずないだろう」

 

「は、はは。 仕組みは全く理解出来ませんが、ゴミ処理が完璧に終わったのは認めざるをえませんな」

 

「後は最後の試験ですね」

 

なんでもこい。受けて立つ。

 

そうあたしが顔に書いているのを見て、ルベルトさんは頷く。この様子だと、もう大丈夫かも知れないと感じ始めている筈だ。

 

後一押し。

 

勿論、もらったコアクリスタルの事もある。

 

あたしはまだまだ、自分の力が足りないことはよく理解している。

 

だから、自分を高めるために。

 

クラウディアを無駄に危険にさらしたり、本人に気を遣わないためにも。

 

更に自分を高める機会がほしいとも思った。

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