暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
これを良く思わないのは……当然対立しているボオスでした。
ボオスとしても事情はあるのですが。既に両者の対立には意地が噛んでしまっています。
島の対岸に渡る。
険しい表情のアガーテ姉さん。そして、あたし達三人。そしてボオスとランバー、護り手七人。護り手は、みんな若い人員だ。
まず、説明が為される。
街道の先。最近ワイバーン出現の噂がある。今回は時間差を見て、そのワイバーンが目撃された地点を確認しに行く。
無事に戻って来たら合格。
そういう事らしかった。
なるほど。
この様子だと、ルベルトさんはもう試験は良いだろうと思っている様子だ。むしろ、この試験にノリノリなのはモリッツさん。
先のゴミ掃除で、あたしが醜態をさらすことを期待していたのだろう。だが、それもかなわなかった。だから今回の作業で、息子があたしをぎゃふんと言わせるところをみたいのだと思う。
今回は、街道の安全を確保するための作業。
一種の偵察任務だから、危険は少ない。ワイバーンがいても、生きて戻れる。その人員を揃えた。
それが、あたしから見ても分かった。
護り手の中には、攻撃魔術が得意な人も、回復魔術が使える人も混じっている。
三人一組で動くのが基本の護り手だが。
三人一組で一チーム、それが三チームで動くわけである。
確かにこれなら、ワイバーンが仮にでても、生きて帰る事は出来るだろう。
それに対して、あたし達は三人。
クラウディアが心配そうに見守る中、ボオスが言う。
「俺たちも三人で充分だ」
「ボオス!」
「父さんは黙っていてくれ! 俺も護り手に混じって戦っている事を知っているだろう!」
「ワイバーンが出るかも知れないんだぞ! あまり私を困らせてくれるな!」
モリッツさんがそう言うと。
舌打ちして、ボオスは黙り込む。
ワイバーンが出るとなると、流石に強がりを聞く訳にもいかないのだろう。あたし達を見て、ボオスはだが更に食い下がった。
「あっちは三人だぞ! それはいいのか!?」
「私の見た所、これでようやく互角か、ライザ達がやや有利という所だ」
「アガーテ……!」
「いつの間にか私を呼び捨てになるようになったお前だが、その口調には侮蔑が含まれていて気分が悪いな。 いずれ島の顔役になるとは言っても、少しは礼儀をわきまえたらどうだ」
アガーテ姉さんに駄目出しをされて、それでボオスも相当に頭に来たのだろう。
あたしは涼しい顔で様子を見守る。
残念ながら、ブロンズアイゼンによる装備の実戦投入は間に合わなかった。ブロンズアイゼンは作るには作ったのだが、思った以上に脆い。何より錆びやすい。多分、どこかに問題がある。今、何回か作り直して、調整をしている所だ。
流石に少しずつ錬金術の産物も難しくなってきていて。一発クリアとはいかない。
これは当たり前だ。
才能があるとアンペルさんは言ってくれた。
だが、それでも一発で何でも成功とはいかない。
閃きからできる事は結構多いけれど。
それも全部が全部では無い。
それをあたしは思い知らされているし。今後も忘れてはならないと思っている。それが、未来につながる筈だ。
そして見た所。
ボオスは一歩も先に進めていない。
最近は更に高圧的になって来ていて。支配者ごっこも、上手く行っていないのが一目で分かるのだった。
「偵察任務にいき、掛かった時間を確認する。 先に戻ったか、ではない。 掛かった時間だけを見る。 双方とも、今の説明で納得出来たか」
「ああ、此方はかまわん」
「あたしも大丈夫です」
「そうか。 では、先にボオス達のチームからだ。 行ってこい」
舌打ちすると、ボオスが行くぞと荒々しく声を掛けて、護り手七人と一緒に行く。その中には、この間ザムエルさんにぶん殴られてKOされた奴が混じっているのをあたしは見逃さなかった。
確実な仕事で、確実に実績を稼げ。
そうアガーテ姉さんに言われたのだろう。
酒の席で気が大きくなるのは事実だ。
だから、別にアガーテ姉さんも、失態や放言を気にしない。ミスは自分で取り返すようにと、チャンスをくれたわけだ。
あたし達はしばらく待機。
モリッツさんが露骨にそわそわしている。この人、いつも島の人達に威圧的なのに、ボオスには甘いんだよなあと思う。
元々かなり遅くになって出来た子供ということもある。
それに、厳しく育てすぎたという後悔があるのかも知れない。
そういう状態だと、親は甘くなりやすいと聞いた。聞いたのは、お父さんとお母さんだが。
或いは、それも正しいのかも知れなかった。
「よし、ライザ達、行ってこい。 短時間で技量が向上しているのは分かっているが、それでも油断はするなよ」
「はいっ!」
すぐに、出る。
軽く走る。走るのも苦にならない。体力がついてきているし、それ以上に体内の魔力が増え続けているからだ。
動く際に、魔力で支援を常にしている。
これによって、体力の消耗を抑えられる。
魔力が増えてくると、こうやって体の支援に充てると、結果として総合的な戦力の低下を抑えられる。
なおコアクリスタルも持ってきているが。
これについては説明済み。
今回は荷車も持ってきていない。
コアクリスタルの弱点も説明してある。これによって、これまで以上に立ち回りが難しくなってきているが。
それは、皆が成長している事をもって、カバーするしかないし。
いちいち調合したものを使い捨てながら動くよりも。
この方が効率が良い筈だ。
実は、あの発破用フラムが、コアクリスタル最初の実験だった。上手く行ったので、戦闘に投入する。
それだけの話である。
走る。
点々としている魔物の死骸。
鳥がたかって、肉を漁っている。近付くと、さっと散る。主に鼬やぷにぷにだ。対応できる範囲の相手だろう。
魔物は色々な種類がいる。
鳥にしても、王都の近くには飛べない代わりに脚力が発達したとても大きな鳥がいるらしい。
当然人間を殺すことが可能なので魔物認定。
巨大に成長した個体は、人間を丸呑みにする事もあるらしく、王都の警備隊の間では怖れられているそうだ。
アンペルさんとリラさんに警告されたが、危険な魔物が出るかも知れない、という話だ。
何が出ても大丈夫なように、備えなければならなかった。
これで、半分くらい来たか。
途中で死体に寄って来た魔物が襲ってくるが、小物ばかりだ。
喝と叫んで。
それでさがるようならよし。
向かってくるようだったら、そのまま斬り伏せる。
殆どはあたしの一喝で逃げ散ったし。
レントが斬り伏せるだけでほぼ戦闘も終わる。
一度だけ、かなり大きな鼬が姿を見せたが、傷だらけの様子からして、ボオス達に仕掛けて返り討ちにあったのだろう。
かなり気が立っているようだったが。
フラムを投げ込んで、頭を熱で抉り取って終わり。
蹴りを叩き込む必要もなかった。
「ライザ、なんか一喝だけで魔物を追い払えるようになって来てるね」
「魔力量が上がってるからね。 魔物に勝てないと悟らせれば、そのまま追い払う事も可能だよ」
「いや、普通無理だと思うけど……」
「そうでもないらしい。 親父が前に酔って話してたんだが、全盛期の頃はおんなじように一喝して雑魚は散らしていたらしいぜ。 不愉快な酔っ払いだが、昔の話は信憑性があるんだよな。 あの強さだしよ」
タオが絶望したような表情になるが。
そのタオだって、かなりの距離を走っているのに汗一つ掻いていない。靴の支援もあるのだけれども。
とりあえず、この辺りの魔物はいけるか。
コアクリスタルでの魔力消耗も、許容範囲内だ。あたしは呼吸を整える必要もなく走る。
ボオス達が見えてきた。
どうやら、目的地点に到達し引き返してきたようである。此方に来る様子からして明らかだ。
随分前に行ったはずなのに。驚きの顔で此方を見るボオス。あたしは一旦足を止める。別に息も切れていない。それに情報共有の必要性もある。
向こうはかなり無理をしているのが一目で分かる。手傷を受けている護り手もいた。
「これ、使ってください」
「例の良く効く薬か。 助かる」
「いえ。 困ったときはお互い様ですので」
「くっ。 俺たちが魔物を退治した後を、余裕で来やがったのか」
ボオスが憎まれ口を聞くが。
レントが冷静に返す。
「お前達が取り逃した大鼬、仕留めておいたぞ。 手負いの魔物を放置して行くんじゃねえよ。 人間を無差別に襲うだろうが」
「あれは、逃げていって追う時間が……」
「若君、止めましょう。 それに、魔物を取り逃がし、しっかり処置をしなかったのは事実です。 ライザが言うように、手負いを逃がせば人を襲う可能性があるし、魔物の死体は餌を求めた魔物を呼び寄せる。 帰路は恐らく、今より大変になる筈です。 最低でも、死体の処理と寄って来た魔物の駆逐はしましょう。 勝利にこだわるよりも、それが大事です」
護り手の中で、一番年かさな攻撃魔術使いが言う。
ウラノスさんという、目元に深い皺を刻み、口ひげを蓄えた大ベテランだ。魔術専門の護り手で、アガーテ姉さんの前の護り手の長だった。今は長を引退して、こうやって後見人みたいな立場にいる。
この人もボオスが昔話をねだっていたりした相手なのに。今のボオスは威圧的に呼び捨てにしている。
ウラノスさんの力量はまだまだ確かで、護り手の誰もが認めている。それなのに、ブルネン家の若造は。そういう声も聞かれる。
事実今も、ボオスの舐め腐った行動。そういう態度を見て、周囲がどう思うか。
どうして、ボオスは分からなくなってしまったのだろう。腰巾着のランバーですら、不安そうに見ていたのに。
少しずつ、ボオスに対する苛立ちが。そういった哀しみに変わってきているのを、ライザは自覚していた。
情報交換終わり。
懸念されていたワイバーンはいないようである。
目的地は、この先にある遺跡。
この辺りは遺跡だらけで、タオを放って置いたら何日でもいるだろう。そういう場所だ。
「怪我人の手当ては完了。 行くぞ。 かまいませんな、若君」
「ああ。 魔物の処理をしながら行く」
「了解」
護り手達も、あまりボオスに好意的では無い。
昔は悪戯をして護り手に怒られることも多かったけれども、好意的な視線が多かったのに。
それに気付いてしまうと。
あたしには、どうにもボオスが焦っているように見えて仕方が無かった。
少し小高い場所。
石造りの遺跡がある。
人が住んでいた形跡もあるのだが、とっくに魔物に蹂躙され尽くしていた。とりあえず、レントとタオと一緒に警戒しつつ、周囲を確認。
タオが待って、と言う。
全員で戦闘態勢を取る中、タオはチョークと紙を取り出す。
紙は貴重品だ。そしてタオがこんな行動を取るのは、一つしか無い。
「魔物ではなさそうだね」
「うん。 見て、これ。 古代クリント王国の文字だよ。 ちょっとすぐには解読できないけれど、メモさせてくれる?」
「分かった、いそげよ」
「うん」
タオも最近はこの辺り、ある程度自制は出来るようにはなってきている。それは人間的に大きな進歩だと思う。
手際よくチョークで文字を写し取るタオ。
この辺りは、アンペルさんに教わっているのかもしれない。すぐにメモを取り終え、大事そうに懐にしまい追えるタオ。その間に、あたしは目的地点を確認。
ワイバーンはいない。
「ちょっと周囲警戒する」
「おう、それで何するつもりだ」
「こうする」
詠唱を少しして、足に魔力を集中、跳躍。
あんまり跳びすぎると、降りたときに怪我をしかねないが。この辺りは、湯沸かしを出来るようになった後。
ウラノスさんをはじめとする先達に教わって、魔術の制御を覚えたからなんの事もない。
恐らく先発隊の護り手も同じ事をした筈だ。
だが。
決定的に違うものが見えた。
今行ったばかりのボオス達が、何かと激しく交戦している。
凄まじい熱魔法、いや違う。なにか高熱の攻撃が炸裂している。ぼおんと、爆音が轟く。
着地。レントもタオも、既に爆音には気付いていた。
「まずい、何かおきたみたいだ!」
「急ぐよ! 救援する!」
「おうっ!」
「ボオスがどうせ嫌みを言うんだろうけど、分かったよもう。 後でその事、愚痴ったりしないでよ」
タオも不満そうにはするが、足はちゃんと動かす。
レントは体制御に魔力の全てを回しているから、このガタイで足は一番速い。そのままついていく。タオはいつも通り、少し後ろだが。やはりタオも、ついてくるのは全く苦にしていない。
大きめの鼬が、恐怖の声を上げて逃げていくのが見える。
これはちょっとまずいかも知れない。
急ぐ。やがて、それが見えてきた。
ワイバーンかと、一瞬思ったが、違う。
ワイバーンじゃない。
それは赤黒い鱗に全身を覆い、腕のある部分を翼にして空を舞う、巨大なる猛威。
この辺りでは、東の山奥に見えるいにしえの城に住んでいるとも。クーケン島の守り神であるとも言われる存在。
文字通り、神代の生物。
ドラゴンだ。
大きさも、人間の三~四倍程度のワイバーンなんかとは比較にならない。
十倍はある。
ひっと、タオがそれを見て声を上げる。
無理もない。
ドラゴンが人を無意味に襲う事なんて、ここしばらく聞いたこともない。昔は古城に迂闊に近付いた賊の類が黒焦げなんて事もあったらしいが、それも何世代も前の話である。
駄目だ。ボオスも当然として、護り手の半数近くが地面に這いつくばっている。ウラノスさんが、逃げろと叫びながら、最大火力の。
多分あたしの全力魔術くらいの火力の火球をドラゴンに叩き込む。
クーケン島で放ったら、入り江が出来る火力だ。あたしも顔を覆って、凄まじい爆風を堪えきるが。
それが収まった後。
ドラゴンは平然と浮いていた。見える。全身の鱗が、強烈な魔力を放っている。恐らくは、火球が炸裂した瞬間、あれで中和したのだ。
強大な魔物には、魔術を自在に使いこなす奴が多い。
ドラゴンなんて、魔物の王にとってはそれは更に容易な事だろう。
だがあれは、いくら何でも。
ドラゴンが、興味を失ったようにウラノスさんや、護り手達から視線を背け。
あたしを見た。
あたしはその時、フラムと。
最近作り出したばかりの爆弾。フラムとは逆原理の、凍らせる氷結爆弾、レヘルンを投擲していた。
コアクリスタルに入れておいたのだ。
魔術は効かなくても、これならどうだ。
フラムが直撃。
普通の魔物だったら、それこそ抉り取るようなダメージを与えるものなのに。ドラゴンは、それすらも防ぎ抜いて見せる。
だが、時間差をつけて投擲したレヘルンは。
温めたものを、いきなり冷やすと割れる。
炸裂したレヘルンが、ドラゴンの全身を一瞬で凍結させ、そして爆ぜ割れた。ドラゴンはこれも平然と受け流した。
翼の皮膜とか、眼球とか。脆そうな所にも入ったのに。
ごっと冷気が押し寄せる。ノータイムでこれだけの熱と冷気を連続で叩き込んだのに。全く効いている様子がない。ドラゴンの強大さ、噂以上だ。
レントが斬りかかろうと跳躍するが。ひょいと言わんばかりに回避される。
しばらく此方を見ていたが、ドラゴンはやがて去って行った。
興味も無い、という雰囲気だ。
というよりも、見た。
眼球に、何かもっとつよい魔術が掛かっていた。
それも複数種類。
タオが、側で腰を抜かす。いざという時はガードに入ろうとしていたようだが。ドラゴンが行ってしまって、それで気が抜けたのだろう。
レントが走り、すぐに怪我人を確認し始める。
あたしも魔力消耗は承知の上で、薬を取りだす。ウラノスさんは、多分ブレスの直撃を自分が防いだのだ。
かなり手酷い火傷をしていた。
「わしはいい。 若い者達を頼む」
「今トリアージ中です。 とにかく怪我の治療を!」
「情けなや。 まさかそなたに守られるとはなあ」
「いえ、あのドラゴン、様子が変でした。 多分、此方を襲っているつもりもなかったんだと思います。 あたしが追い払ったんじゃなくて、勝手に向こうが去っただけです」
あの目に掛かっていた魔術、ドラゴンが自分で掛けた自己強化とはとても思えない。
だとすると、ドラゴンさえ走狗にする魔物がいるという事か。
いにしえの伝承に出てくる悪魔だろうか。
いや、悪魔とドラゴンは対立しているという話を聞く。だとすると、一体だれがあんな事を。
「ライザ、こっちにも頼む!」
「分かった!」
ウラノスさんを横にして、他の人達も傷薬で処置する。
幸い、状況から見てウラノスさんがドラゴンの壊滅的な吐息。いわゆるブレスの一撃を防ごうと、全力で体を張ってくれた事もあるのだろう。
全員吹っ飛んだだけで、それ以上の怪我はしていなかった。頭も打っていない。
痛い痛いと呻いているランバーだが、この人は元々荒事に向いていない。大した傷も受けていなかった。
それでも、薬を使う。
何度もコアクリスタルに魔力を吸い上げられたので、かなりあたしも消耗したが。それでも、護り手達の応急処置は終わった。
多分、あの光は見えていたのだろう。
アガーテ姉さんが、十数人ほど連れてくる。そして、何があったと叫んでいた。
ウラノスさんが手を上げて応える。
ドラゴンに襲われた。
そう聞いて、増援で来た護り手達全員の顔から、血の気が引くのが見えた。
とにかく、護衛と共に対岸に戻る。
モリッツさんは、ドラゴンと聞いて完全に絶句。全員無事で、手足も失っていない。それだけで、奇跡的だろう。
ボオスは途中で目を覚ましたが、担架に乗せられているのに気付いて、降ろせと叫んだりもしていた。
だが、ウラノスさんにいい加減にしろと怒鳴られて。それで黙り込む。
この温厚な老魔術師が此処まで怒るのは初めて見た。
あたし達は最後尾で、アガーテ姉さんと一緒に魔物の死骸や、それに寄って来た魔物を駆逐して回る。
あのドラゴン、島を襲ったりしたら終わりだ。
島の全戦力でも、とてもかないっこない。
アンペルさんとリラさんが加われば話は別かも知れないが。それでも、かなり厳しい戦いになるだろう。
いずれにしても、もう試験どころじゃない。
一度、船で島に戻る。
あたしの薬は幸い効いたようで、護り手達は少なくともあたしに感謝していた。護り手の中にはいつもあたしの尻やら胸やらを熱心に見ていた人もいるが。その人も、今回の件で考えを改めたのだろう。素直に頭を下げて、感謝の声を述べていた。
感謝されたくてやったんじゃあない。
ただ、必要だからやったことだ。
帰路、黙り込んでしまったボオス。そして、モリッツさんは、島に着くと。頭をあたしに下げていた。
「ありがとう。 本当に助かった。 今までの事はある程度忘れよう」
「全部じゃないんですね」
「当たり前だ。 ただ、うちの大事な跡取りを助けてくれたことに関しては、本当に感謝している。 これから、古老達も踏まえて、対策会議をする。 お前達は先に帰っていなさい」
意外だ。ぎゃんぎゃん責めてくるかと思ったが、感謝の言葉には拍子抜けだ。それにしっかり大人の対応を始めるらしい。ならば、好きにするのを見ていれば良い。
アガーテ姉さんと、まだ傷が回復しきっていないウラノスさんをはじめとした島の重鎮が集められているのが見えた。
ルベルトさんが、大きく嘆息していた。クラウディアも、騒ぎを聞いて不安そうな顔をしていた。
「すまなかったな。 いずれにしても、ドラゴン相手に一歩も引かない立ち回りを見せたと聞いている」
「いえ。 そんな……」
「うちのクラウを頼む。 君達なら……任せても良いだろう」
素直に、喜べなかった。
いずれにしても、はっきりした事がある。
アンペルさんとリラさんの警告が、現実になろうとしている。
周囲で、何かとんでも無い事が起きつつある。あたしは、今の不自由な屋根裏での調合ではなくて。
ある程度自由に動けるアトリエを、一刻も早く確保しなければならなかった。
そうでなければ、冒険どころじゃない。こんな時だからこそ、そう考えなければならなかった。