暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
錬金術の基礎を学び、最低限の自衛力を学んだ結果です。
クラウディアも加えて、四人での楽しい作業。
その筈、だったのですが……。
序、いよいよ拠点を作る
アガーテ姉さんに許可を取った。
護り手が恐ろしく忙しくなる。だから、対岸で見かけた魔物を狩って確実に削る事。
それを条件に、対岸に渡って良いと。
ドラゴンからウラノスさん含む護り手の精鋭およびボオスを守った……実際にはドラゴンは興味を無くして去って行っただけだが。ともかく、そういう実績を上げたあたし達は、許可を正式に得たのだ。
更には、アガーテ姉さんはお母さんとお父さんにも話をしてくれた。
的確なトリアージ。
ドラゴンに対して、熟練のウラノスさんも驚く攻撃を叩き込んだあたしの肝。
それを信じて、自由行動を許そうと。
アガーテ姉さんはクーケン島の顔役だ。
だから、お父さんとお母さんも、それを無碍には出来なかった。
ただ、お母さんは何だかとても不安そうにしていたが。
ともかく、である。
一旦屋根裏で会議をする。
クラウディアが持ち込んだアップルパイは、お父さんとお母さんにもお裾分けする。二人とも現金なもので、バレンツ商会の御令嬢には失礼を出来ないし。何よりアップルパイが美味しいからだろう。
それを見ると、黙るのだった。
「これで許可が出たよ。 四人で動けるね」
「ああ。 だが、ちょっと状況がきな臭くなって来やがったな」
「うん。 ドラゴンなんて、目撃情報何十年も出ていない。 古老が祟りだのなんだの騒いでるって話だよ」
「祟りね。 確かにドラゴンが出る何て、尋常ではないと思うのだけれど」
クラウディアも、旅先で本物のドラゴンの話は殆ど聞かないそうである。
ワイバーンはかなり見かけるそうだが。それも噂ほど好戦的ではないらしく、隊商に仕掛けて来る事は滅多にないらしい。
ワイバーンは文字通り大きさも強さもピンキリだという事もあるのだろうが。
いずれにしても、ドラゴンはどうしても有名ではあるが。
そこまで目撃される事は多くはないようだ。
「それで、まずはどうするの?」
「進捗確認から行こう。 あたしは、いよいよアトリエを作るべく動き出すよ」
「おおっ!」
「素敵ね。 それで具体的にはどうするの?」
クラウディアが手を合わせて嬉しそうに言う。
あたしも、それを見ていると心が温かくなる。
「対岸の空き地にアトリエを建てるつもりなんだけれども、錬金術で素材を作って、持ち込む事になるね」
「アトリエって、少なくとも家くらいにはなるんだろ。 かなりの回数、往復しないといけないな」
「うん。 それに素材もいる」
ただ、普通の家よりも建築の工数は抑えられるはずだ。
今まで作ってきたものを、全て生かす。
そうして作りあげるアトリエは、かなり余裕をもったスペースで、建築することが出来るだろう。
何よりあの広場。
魔物も入ってこないし、拠点としてはもってこいだ。
「素材なんかは対岸で現地調達しよう。 数日はかかると思うけど、アトリエが出来れば確実に先に進める。 次」
「ええと、次は俺かな。 俺はとりあえず、目的は変わってねえ。 あの塔を目指す」
「そうなると、現在は保留かな……。 あの塔に行くなら、禁足地を通らないといけないだろうからね」
「ああ、それは分かっている。 今は皆と共にいて、腕を磨くぜ」
レントは現状維持、と。
現状維持でかまわない。実際レントは、めきめきと腕を上げている。
元々信じられないくらいタフなのだ。背が伸び始めてから、その傾向は更に顕著になっていった。
実際あの巨人ザムエルさんにぶん殴られても、多少痛がる位で済んでいる。
他の人間だったら気絶して地面に這いつくばっている。ザムエルさんの機嫌次第では、骨くらい折れているだろう。
レントはそのままでいい。
次はタオだ。
「僕は、今必死にうちにある本の解読を進めているよ。 それと、この間の街道にあった文字、解読出来たんだ。 貰っていた参考書に専門用語が載ってた」
「お、すごいな。 何て書いてあった?」
「防衛線、防御、それに殺せだって。 ちょっと気になるね。 物騒な言葉が使われているし」
「防衛線って、どういうことかしら。 街道に防衛線を張るなんて……。 人間同士の戦争なんて、クリント王国が滅びたとき以来、起きていないのよ。 クリント王国が滅びたときだって、何が起きたかは詳しくは分かっていないらしいわ。 戦争の相手は人間ではなかったという話もあるって旅先で聞いたこともあるの」
不安そうなクラウディア。
それに、殺せというのはどういう事だろう。
あたしから見ても不自然だ。
「殺せって、命令形だよね。 例えば戦士達が集って、それを鼓舞するにしてはちょっとおかしくない?」
「そうだよね。 変な信仰とかがあったのかも知れないけれど……それにしても妙だと僕も思う」
「いずれにしても、解読は進めた方が良いと思う。 タオくん、頼りにしているね」
「え? う、うん。 そう言われるとちょっと照れるな」
タオはそんな風に言われた事がなかったのだろう。
実家ですら肩身が狭いのだ。
あたしやレントだって、タオがあっちに行ってしまうと引き戻す側である。
そうなると、タオにとって、こういう理解は初めてなのかも知れない。
クラウディアの番だ。
「とりあえず、私はみんなの足を引っ張らないことが第一目標。 遠慮とかはしないで、力仕事とかも回してね」
「そうだね。 早速だけれど、冒険に出たとき、荷車に素材とかを積むのはやって貰える?」
「うん! 弓を引くのに力がいるし。 それと、どうしても厳しそうなら、音魔術の方で支援するからね」
クラウディアの音魔術は、歌ったりはしない。
文字通り空気操作して、音を発生させて、それで人間の昂奮作用とかを刺激するようである。
また、音をそのまま敵にぶつけて、気絶させたりも出来るようだけれども。
それは魔力を相当に消耗するらしく。
簡単ではないらしい。
そうなると、クラウディアはまず魔力量を増やすことが大事なのでは無いかと思ったが。それは本人が判断して決めていけば良い。アドバイスされれば言うけれど、それもリラさんに相談した方がいいと思う。
いずれにしても、あたしは、皆と一緒に冒険をするだけだ。
まずは、資材の確保。
そしてアトリエの構築。
ここから行く。
これが出来たら、次の段階へ進む。
ただ、何もかもがきな臭くなってきている。アガーテ姉さんは本当に負担が大きいようである。
なにしろ、あたし達を事実上の遊撃部隊として認可して。
魔物を削ってほしいとまで言うのだから。
それも忘れない。
素材を順番に調合していく。
幾つかの部品は、野外で調合しないと駄目だな。
そう、あたしは判断していた。
ライザが動き始めると。
それで周りが一気に動き始める。
レントは、それが大好きだった。
自分より年下の相手に、昔から好き放題に振り回されてきた。それを揶揄されたことも何度かある。
だが、ライザに関わると。
すぐにその声も消えた。
理由は簡単だ。
とにかく、楽しいのである。
ライザはなんというか、物事の中心にいる。勿論完璧な人間などではないし、専門分野ではレントやタオの方が上だ。
だけれども、ライザが動き出すと。
自然にみんな、それにそって動き出すのである。
その瞬間が、兎に角楽しいのだ。
レントは、親父があんなで。母親が既に近くにいないという事もある。
一歩間違えば、とんでもない荒れ方をしていた可能性が高いだろうと、今の段階で既に自戒している。
下手をすると凶賊になっていた可能性すらある。
そうなったらアガーテ姉さんとかに追い詰められて。
下手をすると、ライザと戦って、殺される事になっていたかも知れない。
今は、違う。
ライザの作り出す流れに沿って動く。
これが楽しくて仕方が無い。
勿論、それだけじゃない。
自分自身の夢もある。
まずは、島から見えている謎の塔。それに行ってみたい。それが、最初にして、どうしてもかなえたい夢だ。
だけれども、それを叶えてしまったら。
いや、まずはそれをかなえることからだ。
リラさんにも言われているのだが。
まずは、自分自身での判断力をつけろ。
それが第一。
レントはとにかく、戦闘でもライザに頼りっきりだった。大まかな指示は、リーダーとして有能なライザの方針に従う。それでいい。
だが細かい指示までさせていたら、戦闘でタイムラグが生じる。
必要に応じて、動かなければならなかった。
まずは、この間クラウディアの家の地下の水の漏出をとめたヘドロみたいな接着剤。これは魔力を通す事で凝固するらしく、それまではネバネバしたものでしかない。作り次第、袋に詰めていく。
「これが必要なのか?」
「すぐに分かるよ」
ライザがその後は、石材を釜に片っ端から放り込んで、成形を開始する。そして一つ目を仕上げた後。
考え込んだ後に、外に釜を運び出した。
運ぶのはレントが手伝う。
そして外で、一心不乱に石材を調合する。それを、何度もレントとタオ、クラウディアの三人で、船に運ぶ。
石材は当然だがとても重い。
外で集めて来た雑多な石材を、全て投入する勢いでライザは成形を続けている。
しかもこの石材。
一つずつ、なんだか複雑な形をしているのだ。
「なんだタオ。 これ、どういう事なんだ?」
「恐らくだけれども、組み合わせていくんだと思う」
「組み合わせる?」
「ええとね。 例えばこれだけれども、ここと形が同じでしょ」
そういえば。
そしてこれをくっつければ、それなりに大きな石材になる、というわけだ。
「これは多分、アトリエの基礎部分になるんだと思う」
「基礎?」
「建物ってのは、頑丈な足場が必要になるんだよ。 頑丈な足場、それに柱を立てて、それに色々くっつけていく形で作るんだ。 この石材の量からして、ライザや僕達の家よりも、大きなアトリエになるんじゃないのかな」
タオのこういう知識は信頼出来る。
クラウディアは、何の文句も言わずに力仕事に参加するし、様子を見てお菓子や飲み物を実家から持ってきてくれる。
そして船で移動する際は。
目を輝かせて、何もかもを楽しそうに見ているので。
レントもちょっと冷や冷やした。
信頼されているのは分かるが。
水に落ちたら一大事なのだ。
あまり船から身を乗り出さないように、何度か注意する。うんと、クラウディアはきちんと応える。
ただ、やっと外に自由に出られるようになったのだ。
多少のわくわくは、微笑ましく見守るべきなのかも知れない。
船で対岸につく。
もう、あの広間のある砂浜に直接だ。
流石に何度か往復したから、彼処に行くのに苦労はしない。暗礁もその辺りには存在していないのだ。
船を停泊させると、色々な物資をどんどん広間に運んでいく。
日差しが強い。
これは、乾期がいよいよ近いかも知れない。
「今年の乾期、多分一段ときついだろうねこれ」
「ブルネン家が威張り散らすぜ。 鬱陶しい季節だ」
「でも、からっとしていて、思ったほど暑くないね」
「他の地方は違うのか?」
クラウディアは、外の地方を旅して回った事もある。タオが掘り下げて知識を持っているとしたら。
彼方此方での見聞を、クラウディアはとにかく幅広く知っている。
だから、その発言はレントとしても興味深かった。
「湿気が多い地方だと、暑い時期は本当に大変なの。 仕事にならなくて、みんな暗がりで寝ている地方もあるのよ」
「それは、大変だな」
「この辺りは暑くても思ったよりは辛くないわ。 乾期が良くない季節だって事は、ライザから聞いて知っていたけれど。 それでも私は耐えられると思う」
石材を積み降ろし開始。
クラウディアも、積極的に手伝ってくれる。
細っこい手足だけれども、魔術で支援をしているのだろう。というか、弓を練習している過程で、散々練習し直したのか。
タオと二人がかりでなら、レントと協力して、石材を運ぶ事を苦にはしていなかった。むしろタッパが足りないタオの方が、石材運びには苦労しているようだった。
「腰が砕けそうだよ……」
「船で移動する間に休めばいい。 とにかく、ライザが作ったものをどんどん此処に運び込むんだ」
「基礎部分が終わったら、壁や柱、最後は天井かな。 どうやって作るんだろう」
「さあな。 錬金術の説明は俺も聞いたが、未だによくわからん」
積み卸しを終える。
勿論ものごとに分けて積む。
その後は、クーケン島に戻る。タオは口数が減っていたが、クラウディアが気を利かせて、音魔術を展開。
多少は確かに楽になる。
空気をそのまま振動させて音を出しているらしく、その気になれば笛も具現化出来るようなのだけれども。
にこにこしているクラウディアも相当疲れているのだろう。
リラクゼーション効果というのか。
それがあるだけで充分。
それに、クラウディアの作り出す音は、魔術経由でも随分と柔らかい。
たまに島に来る吟遊詩人の作る曲が、やたら艶っぽかったりしてうんざりするのを考えると。
こっちの方が、レントは好きかも知れなかった。
島に戻ると、またたくさん石材が出来ていたので、ライザに確認して運んでいく。何往復かしていくうちに、クラウディアもタオもなれてきた様子だ。
レントは最初から、力仕事にはなれている。
魔物退治はライザやタオと一緒に参加したが。
それ以外に石材を運んだりといった力仕事を、結構ガキの頃からやっていたからである。
最初から、ガタイそのものは良かったのだ。
親父ほどではないにしても。
「ライザー。 まだあるのー?」
「次の石材で一旦石材は終了。 此処からは木材」
「やっとか。 柱から作るのか?」
「うん。 木材と同じように、成形して何分割かするけどね」
それを、全部頭の中で計算しながらやっているらしい。
錬金術は才能に依存する学問だ。
それはアンペルさんに聞いている。
というか、普段がさつで雑なライザが、これほど緻密な計算をしていて、平然としているのは驚きだ。
本当に才能があるのだろう。
元々ライザは、戦闘時などは頭が回るし、判断も速い。
タオも話していたのだが、頭自体は悪くないという事は分かっていた。
それでも、これを見ていると。
レントは色々と凄いなと思うのと同時に。
負けていられないと、対抗心も湧いてくる。
仲間なのに、ではない。
仲間だからこそ、である。
最後だという石材を運ぶ。時々接着剤を作り足しているが、これは予備として使うのだろうか。
或いは計算が途中で狂って、追加しているのかも知れない。
夕方近くに石材の輸送が終わる。
一心不乱に調合していたライザが、一旦此処までと言うと。全員その場で疲れてへたり込む。
というか、ライザが一番疲れているようだ。
それはそうだろう。
凄まじい魔力量を持っていて、護り手の次期リーダーである事を期待されたライザでも。あんなにエーテルを絞り出していたら、それは疲れるに決まっているのだから。
クラウディアの所の謎のメイドさんが、菓子とかを運んでくるので。がつがつとみんなで食べる。
上品なクラウディアですら、無言で黙々と食べている所を見ると、やはり相当に疲れていたらしい。
明日からは木材か。
石材ほどではないにしても、大変なのは分かりきっている。それに、運び終えた後は組み立てだ。
それも、大変だし。
下手をすれば事故が起きる。事故が起きれば、最悪死人だって出る。
そうならないように。
一番頑丈なレントが、目を配らなければならなかった。