暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
それが姿を見せます。
屋根部分をセットして、ついにアトリエが仕上がる。
出来た。
あたしが叫ぶと、みんなでわっと喜ぶ。
今、クーケン島の周囲には、幾つもの不穏な影がある。
だけれども、これはあたし達にとって最高の一歩の一つ。
まず、中に入ってみる。
勿論作業の時に散々中に入っていたが、床板は強度充分。そして、今回ここに来るために、既に錬金術用の釜は持ち込んでいた。
釜を指定の位置にセット。
これで、アトリエとしての機能は完成だ。
「よし、ベットを六セット作るよ」
「俺たちの分と、後はアンペルさんとリラさん?」
「そうなるね。 男衆は下、あたし達は二階で」
「別にどこでもいいけど、アンペルさん達がここに来るかは分からないよ。 来客用くらいにしたら?」
タオの現実的な言葉である。
なるほどと応えて。それで、ともかく調合を開始した。
木材の合成は散々やっている。
それだけではなく、布団についても調合は多分出来ると思う。散々羽根などは集めて来ている。
それらを調合して、暖かい羽毛布団を作れるだろう。
ただ今の時期は、布団は邪魔になるかも知れないが。
「通気性は悪くないね。 外は暑いのに、中はそれほど暑くないわ」
「幾つか工夫しているんだ」
建物の作り方について調べたときに、幾つも調べたのもあるのだが。
何カ所かに、アクア鉱を利用した冷気を作り出すシステムをおいている。もうクラウディアは気付いたようだが。後でお披露目しようかと思っていた。
いずれにしても、これからは好きなものを持ちこんでいいと言うと。
タオは、早速で悪いのだけれどと、提案する。
「僕にとって重要な本、二百冊くらいあるんだけれど、こっちに移したいな。 大丈夫?」
「あー、やっぱりそろそろ厳しい?」
「うちは放任主義というか、親が僕にも先祖の残した本にも興味が無いみたいなんだよね」
タオの家も、色々と問題がある。
あたしも何度もタオから聞いているから知っている。
勿論、異論は無い。
「本ならなんぼでも持ってきなさい。 なんなら、必要なのは全部」
「本当! じゃあ、お言葉に甘えようかな……」
「早速タオの家に行こうぜ。 どうせ居心地が悪くて大変だっただろ」
「うん。 助かるよ」
男衆二人が、さっさと行く。
あたしとクラウディアが残った。さて、調合でもするか。そう思ったら、クラウディアが周囲を見回す。
何か話したいのかな。
そう思ったので、待つ。
「あのね、ライザ……」
「うん」
「ちょっと待ってね。 勇気、出すから」
深呼吸するクラウディア。
そして、天井を見つめた。
取りだしたのは、小さなケース。
そう。覚えている。これは間違いなく、クラウディアと最初に出会った時に、持っていたものだ。
ケースを開けるクラウディア。
出て来たのは、フルートだった。
存在は知っている。
高級な楽器だ。
今では殆ど作り方もよく分からないらしい。少なくとも、存在は知っているだけで。それ以上でも以下でもない存在だ。
「いずれレントくんとタオくんにも聞いて貰うつもりだったの。 でも、勇気ないから、最初はライザにと思って」
「うん、聞かせて」
「ちょっと、待ってね」
このフルートが、クラウディアにとって命の次に大事なものであることはよく分かった。何か事情があることも。
それに、一目で分かる。
かなり使い古されたフルートだ。
大事にされているが、それ以上にずっと使われてきたものなのだろう。
だったら、揶揄することは絶対にあってはいけない。
クラウディアがフルートを奏で始める。
全身から、魔力が目に見える程に迸るのが分かった。
そっか。
何となく分かった。
クラウディア、これでリミッターを自分に掛けているのか。
弓の上達が早すぎる。
そういう話はリラさんから、実は聞いていた。元々の基礎があったとしてもだ。音魔術の支援があったとしても。
クラウディアは素でこれだけの高い魔力を内在していて。
それが何しらの心因的な理由で、リミッターが掛かってしまっている。
これは本当だったら、音魔術などももっと出力が出たのかも知れない。
いずれにしても。
今するのは。真面目に、クラウディアの演奏を聴くこと。
そして、とても優しい演奏だと思う。
技巧という点では、どうしても本職には及ばないのだろうけれども。
それでも、これで充分だとあたしは思った。
演奏が終わる。
あたしは、拍手していた。
「いいよ、すごく良い曲だったと思う!」
「緊張した……魔物と戦った時よりも、すごく」
「理由があるんだね。 そんな良い曲なのに」
「ライザだけにいうね。 時々隊商を離れていたのは、この曲の練習をするためだったの」
そうか。
ルベルトさんと口論する程だったから、本当に大きな理由があるのだろう。
そしてあたしの事を信頼してくれたから、曲を聴かせてくれた。
この信頼は。
絶対に裏切ってはいけない。
それは、あたしは胸に刻んでいた。
「私ね、勇気がほしいって話したよね。 最終的には、お父さんの前でこの演奏をするのが夢なんだ」
「分かった。 それだったら、順番に段階を踏んでやっていこう」
「うん……」
クラウディアが涙を拭う。
あたしは頷くと。
まずは、必要な調度品を調合に掛かった。
レントとタオが、何回か往復して、本を運んでくる。アトリエの一角に積み上げた本は、かなりの量だ。
レントが。参ったという顔をしていた。
「かなり重いぜ。 石材ほどじゃないけどよ」
「書物って見た目より重いんだよね。 レント、ありがとう。 すごく助かったよ」
「良いって事よ。 これ、凄く重要な本ばかり何だろ?」
「そうだよ。 それなのに、危うく焼き捨てられそうになった事が何回もあったんだから」
珍しく、本気で不愉快そうにタオが言う。
確かに本は貴重品だ。
だがこれらの古書は、文字も分からないし、読み方も失伝してしまった。
百数十年前だかに何かあったらしいという事しか分からない。
それでは、確かに理解のない人間にはゴミと同じだ。
焼き捨てられていても、不思議ではなかっただろう。
「これで全部?」
「うん。 後は此処にいる間、好きに解読して良いかな?」
「いいよ。 そのためのみんなのアトリエだし」
「俺は別に持ち込むものはないかな……」
レントはそんな事を言う。
その前に。
とりあえず、やっておく事があった。
咳払いすると、一度調合の手をとめる。そして、手を叩いて、皆の注目を集めていた。
「じゃ、このアトリエの名前を決めようか」
「アトリエに名前をつけるの?」
「うん。 というのも、いずれ他の場所にもアトリエを作る事を考えているからね」
「すごいねライザ。 もうそんな先の事を考えているんだ」
クラウディアが褒めてくれると嬉しい。
ふふんと胸を張るあたしに、レントがちょっと呆れた。
「とりあえず、ライザのアトリエでいいんじゃないのか?」
「僕もそれでいいよ。 僕は殆ど計算と手伝いしかしていないし。 アトリエはライザがいなければ絶対に作れなかったし」
「私もそれでいいかな」
「なら決まりね。 これから此処がライザのアトリエ。 そして、みんなの秘密の隠れ家だよ」
皆が、嬉しそうにする。
みんな、色々と問題を抱えている人間だ。
ここが、初めて出来た冒険の拠点。
だけれども。今はクーケン島周辺は、問題ばかりが起きている。護り手では対応できない問題。
だからこそ、此処にあたし達の秘密基地が必要なのだ。
そして子供だましの秘密基地じゃない。
これは錬金術でつくった。
それこそ、誰でも宿泊できる。
拡張性も高い秘密基地なのである。
「では、ライザのアトリエ開設を記念して……」
「!」
あたしとレントが、同時に反応した。
タオも少し遅れて反応する。
なんだ、この気配。森の奥の方からだ。クラウディアが襲われた地点よりも、もっと奥の方。
すぐに全員、武器を手にする。
クラウディアも。
せっかく、あたし達のアトリエが出来たというのに。
何か、ろくでもない脅威が近くにある。それが確実である以上、対処しなければいけない。
すぐにアトリエを飛び出す。
音が、ない。
森は基本的に騒がしいものだ。それなのに、これは一体どういうことか。おぞましい程静まりかえったこの森。
暑いはずなのに。
どこか、凍り付くような寒さを感じるほどだ。
「気を付けろ。 何かいる」
「あっちの方だね」
「ちょ、まずいよ。 すぐにこの場所、離れないと」
「わ、私も賛成! なんだか尋常じゃ無いよ!」
クラウディアもタオに賛成か。
だけれども、あたしは。
リラさんが言っていた脅威かどうか、確認する必要があると判断していた。
「接敵だけするよ。 何がいるのか、しっかり確認しておかないと」
「俺も賛成だ」
「ちょ、ライザ、レント!」
「もしリラさんが言ってたやばい奴だとしたら、知らせないとまずい。 どの程度の実力かも、見極めておかないと。 ただし、無理は禁物。 ハンドサインだしたら、撤退を最優先で」
頷く皆。
クラウディアも、既にハンドサインは共有済だ。
前衛はレントとあたし。
後衛にタオ。支援にクラウディア。
そのまま身を伏せて、森の中に。奥へ奥へ。皆、走るのが以前よりも、確実に早くなっている。
ぷにぷにどころか、エレメンタルもいない。
鼬も見かけない。
それだけじゃない。虫も鳥もいない。息を殺して、潜んでいる気配はある。
これは、何があったのか。
森の中を進んでいき。
そして、それに。
唐突に出くわしていた。
それは重厚な姿をした四足獣で、角のようなものが頭部らしき場所にあり。背中には虹色の結晶のようなもの。
そして全身は、無理に接合したような部分が目立つ灰色の装甲に覆われ。
虫のようでいて。
虫にはとても見えなかった。
それだけじゃない。
魔力が見えない。どんな生物だって生体魔力は必ず持っている筈なのに。そのなんだか分からない奴は、全身に魔力がまったく見られないのだ。
目どころか、感覚器官らしいものすら見受けられない。こいつは、一体何だ。
動く。
此方を向く。
それだけで、全身が総毛立つのが分かった。
まずい。このプレッシャー、あのドラゴン以上だ。
「なんだこいつ……こんな魔物、見た事も聞いたこともないぞ!」
「灰色の装甲、それに結晶! リラさんが言ってた奴だよ多分!」
「……フルパワーで攻撃叩き込む!」
「しょ、正気!?」
正気!
そう叫ぶとあたしは、そのままフラムをまとめて投擲する。この間のドラゴン戦で足りないと思ったから、更に火力を上げた強化版だ。その分コアクリスタルから引っ張り出すだけでもの凄い消耗するけれど、仕方が無い。
連続して、炸裂するフラム。
普通だったら、何も残らないくらいの熱量を浴びたはずなのに。
そいつは、まるで平然としている。
レントが斬りかかる。
文字通り、がつんと跳ね返されていた。
タオの叩き込んだハンマーも、全く効いていない。足の関節部らしい場所に叩き込んでいる筈なのに。
クラウディアが、関節部を狙って矢を叩き込む。だめだ、全然効いていない。
プラジグを続けて投擲。
これも改良型だが、まるで駄目だ。
レヘルンも叩き込む。これも駄目か。あたしは詠唱開始。フルパワーでぶっ放すしかない。
それを見て、レントとタオが、あわててさがる。クラウディアにも、全力でさがれと叫んでいた。
倒せるか、倒せないかではない。此処で、あらゆる事を試行しておく必要があるのだ。次に戦うときのために。
上空に出現した熱の槍、およそ2500。今のあたしのフルパワーによる、詠唱で強化した熱魔法だ。空に新しい太陽が出来たような凄まじい熱量が、森を焦がす。
この熱の槍一つずつが、石造りの家屋くらいなら木っ端みじんにする。
全弾炸裂すれば、この辺りの森は綺麗に何もなくなる。
だが、剣を浴びても槌で殴られても、クラウディアの矢を散々浴びても微動だにしなかったそのなんだか分からない奴は。
じっとあたしのことを観察しているだけだった。
そうか、あたしなんて脅威にならないか。
だったら、これを全弾喰らえ。
「いっ、けええっ!」
全力で、熱魔術を叩き付ける。
一つが動き出すと、全てがそれに習い。一斉に、驟雨となって、怪物に熱魔術が降り注ぎ、叩き付ける。
熱を伴った暴風が吹き荒れる中、あたしは見る。
効いていない、んじゃない。
熱魔術が、打ち消されている。
フラムが効かなかった時点で、嫌な予感はしていた。それに魔術は効かないとも事前に聞かされていた。
だから、純粋に魔力を熱に変えて叩き込みまくっているのだが。
それが効いていないと言う事は。
恐らくだが。
此奴には、今の出力の魔術は、何一つ効かないどころか。魔術そのものがかき消されているということだ。
その証拠に、奴の体が多少熱を帯びているようだが。周囲の地面は殆ど赤熱していない。
恐らく帯びている熱は、フラムやプラジグによるもの。
純粋な魔術は、何をやっても無駄と言う事だ。
「ライザ、引くぞ!」
「レント!」
ハンドサインを出す。
本来だったら、絶対にどうにもならない相手だ。だったら。
熱魔術を叩き込み終えた瞬間、レントが斬りかかる。いや、違う。剣を逆手にすると、頭に叩き込む。
頭に叩き込まれた剣が、熱で若干弱まった相手の装甲に突き刺さるのが見えた。
そこに、タオがハンマーを叩き込み。更に剣を装甲に埋め込むが。剣がへし折れる。
だが、効果無し。頭と思われる部分を貫かれても止まらない。それを確認できれば充分。本当は蹴りも叩き込んでやりたいが、これ以上接近戦のリスクはおかせない。
クラウディアが、連続で矢を放ち、弾幕を作って視界を塞ぐ。あの化け物に視界があるのかすら分からないが。
もう、これでできる事は充分だ。
撤退。ハンドサイン出している暇もない。声を張り上げる。
後は全力で逃走。
途中から最後尾でレントが相手の動向を見ていたが。アトリエに辿りついた辺りで、足を止めていた。
「大丈夫、追ってきている様子はねえ」
「頭に剣を叩き込んでやったのに、止まる様子もなかったね……」
「それも事前に聞いていたとおりだろ。 生体急所に対する攻撃は通じないって。 頭を撃ち抜かれても大丈夫なんだろ。 間違いない。 リラさんがいってた、例の奴だ」
へたり込むクラウディア。
あたしも、ちょっと座り込みたい。
だけれども。レントが言う。
「一旦クーケン島に戻ろう。 アトリエは襲われないかも知れないが、あの魔物は普通じゃねえ。 ドラゴンと同等かそれ以上の可能性すらありやがる」
「そうだね。 知っているらしいアンペルさんとリラさんに相談しよう。 レント、船漕げる?」
「ああ、任せろ」
「剣捨てさせてごめんレント。 一旦安全を確保できたら、すぐに今研究中のブロンズアイゼンで、新しいの作るから」
気にするな。
そうレントは言う。
実際、新しい剣を作ったら。あの剣はお役御免だったのだ。レントも、その辺りは分かっていたのだろう。
船に乗って湖上に出ると、多少安心した。あいつ、此方を本気で脅威と見なしていなかった。
だから、逃げる事が出来たのだ。
文字通り、相手にもされていなかった、ということである。
だけれども、それを必ず後悔させてやる。
あたしだって、魔術にはある程度の自信があった。何よりも、祝いの席を台無しにされた。それら全部分、いつか必ず返す。
あらゆる意味で、彼奴は許せない。
そう感じていた。