暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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凄まじい戦闘力を誇る魔物。

ライザは最も頼りになる人に報告に行きます。

それは正しい判断だったでしょう。

クーケン島には似つかわしくないほどの実力者であるアガーテ姉さんですら、勝てるか微妙な相手だったのですから。


4、宴は終わりそして始まる

アンペルさんとリラさんは、借家にいた。

 

血相を変えて借家に入ってきたあたし達を見て、それで何があったのかはある程度察したのだろう。

 

すぐにリラさんはソファから身を起こし。

 

アンペルさんが、何が起きたのか、話すように促す。

 

タオが、丁寧に説明を始める。

 

一番この中で頭が良いのがタオだ。

 

とにかく説明は、丁寧で。

 

そして、論理的だった。

 

「撃ち込んだ攻撃は以上で、全く効いている様子がありませんでした。 以前に警告されていた危険な魔物だと思います」

 

「特性まで調べて、それで威力偵察から帰還したか。 よくやったな」

 

「いえ……」

 

「行くぞ。 状況を見に行く」

 

アンペルさんが、すぐに出る。リラさんも異論がないようだった。

 

本当に頼もしい。無言で入り江に。

 

リラさんは、あたしを見ながらいう。

 

「対岸でそれなりの魔力が膨れあがるのを感じた。 あれはお前だな」

 

「はい。 効果が出ませんでしたけど……今出来る最大の魔術をぶつけてみました」

 

「奴らに魔術は効かない。 それを実感できただけで充分だ」

 

「……」

 

口惜しい。

 

そう思っているのを、リラさんは分かっているのだろう。それに、あたしくらいの魔術の使い手ならなんぼでも知っている。

 

そういう雰囲気だ。

 

あの様子がおかしい魔物と、もし戦い続けて来たのなら。

 

あいつが相手にすらしなかったあたし達と違って、対応は出来るのかも知れない。

 

アンペルさんとリラさんが、知らない話を始める。

 

「それにしても聞いた事がない形状だな。 今まで倒して来た彼奴らとは違うのか」

 

「恐らくは……「将軍」だ」

 

「な……」

 

「間違いない。 奴らは「大侵攻」を行おうと考える時、「将軍」を斥候に出してくる事がある。 我々の土地も、破滅する前にそれがあった。 「将軍」をその時は我等の氏族で取り逃がして、結果として破滅につながった」

 

知らない単語が幾つも出てくるが。

 

恐ろしい事が起きた事だけは分かる。

 

アンペルさんが、あからさまに動揺している。

 

レントは、淡々と船の櫂を漕いで進めるのだった。

 

アトリエに到着。

 

壊されているようなこともない。

 

それに、だ。

 

森の気配が元に戻っている。それは、あたしにもすぐに分かった。アンペルさんが、手から何か知らない魔術を出している。

 

黒い光。

 

聞いた事がない魔術だ。

 

その光が、森の方に伸びている。探査をしているのだろうか。

 

「どうだアンペル」

 

「引き上げたのだろうな。 もう気配はない」

 

「非常にまずいな……。 以前の私の氏族が敗れた戦の時は、「将軍」が斥候に出て来てから、六十日程度しか猶予がなかった。 この様子だと「空読み」が出てくるのも時間の問題だとみて良い」

 

「そうだろうな。 とりあえず現場に案内を。 もしも潜んでいるようなら、私達で仕留める」

 

あたしにアンペルさんが話を振ってくる。

 

アトリエを一瞥したが。

 

それはそれとして。

 

今は、優先順位がある。

 

リラさんが、話を皆にする。

 

「問題が複数発生したときは、優先順位を設定して片付けろ。 今回はまずはお前達が遭遇した存在が今も居座っているかが最優先だ。 その次に、その建てたばかりのアトリエについて確認しろ」

 

「はいっ!」

 

「良い返事だ。 行くぞ。 以降、音を立てるなよ」

 

全員が、口を引き結ぶ。

 

アンペルさんとリラさんが前衛になって、森の中を行く。

 

レントは手ぶらだが、もうこうなったら仕方が無い。全員でそのまま、森の中を急いで進む。

 

周囲の魔物は萎縮しているが。

 

小さめの動物は、比較的落ち着きを取り戻しているようだ。

 

戦闘があった地点にまですぐ。

 

あたしが全力の魔術をぶっ放したり、フラムをはじめとする手持ちの爆弾をあらかた試したのに。

 

殆ど戦闘が起きたようには見えなかった。

 

アンペルさんが周囲を見回す。

 

木が焦げたりしているが。それだけ。

 

ただ、足跡が残っている。

 

巨大で重厚な四足獣のものが。それは木があろうが何だろうが関係無くなぎ倒していて。西に進んでいるようだった。

 

足跡をあたしも確認する。

 

だめだ、やはり生体魔力の類が感知できない。それにこの足跡は、まるで追跡などに無頓着だ。

 

肉食獣だって、自分の存在を餌に悟られないようにするために、足跡を使った罠を仕掛けたりする。

 

自分の足跡を辿って側面に飛んだりして、餌や追跡者を不意打ちしたりする行動なのだけれども。

 

これは、そんなことすら考えていない足跡の付き方だ。

 

つまり、敵なんぞいないという事だろう。

 

自然界で、同じように自分の痕跡を残すことに無頓着な魔物がもう一種類だけいる。

 

いうまでもなくドラゴンだ。

 

ぞくりと背中に悪寒が走る。

 

ドラゴンに続いて、この恐ろしすぎる魔物。

 

あたしでも、普通に恐怖は感じるけれども。その中の最上級のものを今感じている。

 

今更ながら思う。

 

とんでもない相手と交戦してしまったと。

 

「追うかリラ」

 

「もう無駄だろう。 以前私達の氏族が「将軍」を取り逃がしたときは、地面の下も利用して移動していた。 奴らは地形以外の全てに無頓着で、「将軍」ともなると地形にすら無頓着になる。 しかも地面の下を潜って、堂々と移動するようにすらなる」

 

「この森の地形だと……確かに厳しいな。 くそっ、散々「斥候」を潰して来たというのにな」

 

「「門」の位置は概ね特定できている。 後は……何かしらの手段で接近する方法を探しつつ、「門」を潰す準備を始めるしかあるまい」

 

分からない単語が飛び交うアンペルさんとリラさんの会話。

 

それはそうとして。

 

当座の危険が去ったのが分かった。

 

 

 

アトリエに二人を案内する。

 

内部は一切あらされていない。アンペルさんは内部を見ると、ほうと呟いていた。

 

「何かを熱心に作っているという話は聞いていたが、短時間でここまで凝ったアトリエを、たった四人で建てたのか」

 

「すみません、色々と不手際で」

 

「いや、錬金術を始めたばかりの技量としては充分過ぎる。 皆、よくやったな」

 

「有難うございます。 二人も、以降は此処を好きな時に利用してください」

 

アンペルさんが目を細め頷く。

 

リラさんはというと、ソファはないかと聞いてきて。

 

これから作るというと、頷いてその辺の壁に背中を預けて、片膝で座った。

 

以降は話すつもりもないようで、目を閉じて眠り始める。

 

いずれにしても、二人は借家で暮らしていたのだ。

 

此処に本拠を移して貰えれば助かる。

 

アガーテ姉さんには。あたしから言えば良い。

 

二人はあたし達と合流して、魔物を独自に駆逐する。

 

それで、多分話は通るはずだ。

 

そもそもあたし達は遊撃を指示されて対岸への移動を許可されている。

 

それに。

 

二人からすれば、その方が動きやすいだろう。

 

レントが頭を掻いた。

 

「やれやれ。 ライザ、さっきの話通り、優先順位通りに頼むぜ。 俺の剣、出来るだけ急いで頼む。 このままだと壁役すらこなせないからな」

 

「分かってる。 その後、ベッドとか調合していくよ」

 

「しかし何だったんだろあの魔物……」

 

そう言いながら、タオがちらっとアンペルさんの方を見る。

 

だが、アンペルさんは周囲を興味深そうに見つめながら、自分なりにアトリエの仕組みを調べて回っているようだ。

 

あの様子。

 

好奇心旺盛な子供みたいだ。

 

ちょっと興味深い。

 

それに、である。

 

この二人がいてくれれば、アトリエは安泰だろう。逆に言うと、この二人がいて駄目なようなら、何処にいても駄目だ。

 

まずは、ブロンズアイゼンの調整を開始する。

 

あたしが上手く行っていないのに対して、アンペルさんは口出しをしない。これは見て盗めとかの類ではなくて。

 

あたしなら試行錯誤の末に出来ると判断していると見て良さそうだ。

 

貰った本を確認しながら、調整していくが。

 

不意に、天啓が閃いていた。

 

そういうことか。

 

ブロンズアイゼンは、単一の金属じゃあないんだ。

 

そもそも、コベリナイトから、単一の金属を取りだそうとしていたのが間違いだった。本質は合金なのだ。

 

もう一度本に目を通して、調合。

 

後は、すんなり行った。

 

要素を抽出。無駄を省く。必要な要素を再結合。

 

その基本に沿って、ブロンズアイゼンの中核を為す金属に。幾つかの要素を付け合わせていく。

 

思えば鋼鉄も、鉄に色々な不純物を足した結果出来るものなのだ。

 

ブロンズアイゼンも、それは同じだったのだろう。

 

エーテルをかき混ぜて。調合を進めて。

 

そして、ついに出来上がった。

 

ブロンズアイゼンのインゴットだ。皆に見せて、軽く叩いてみる。カンカンと、澄んだ音が出る。

 

重量感も悪くない。

 

これは、良い金属だと思う。

 

「どうですか、アンペルさん!」

 

「良い出来だ。 レントの剣から作るんだな」

 

「はい!」

 

「そうだな、そうすると良い。 問題は此処からだ。 彼奴らと相対して、しっかり威力偵察から生還したお前達は、もう立派に戦力として計上できる。 だとすると、此処からは色々私達から頼むかもしれない。 装備は可能な限り常に調えておいてくれ」

 

頷く。

 

それにだ。

 

此処からは、クーケン島の方でも問題が色々と起きる可能性が高い。

 

あんなとんでも無い魔物が出たのである。

 

それに加えて、守護神と信じられていたドラゴンが、あのような凶行を働いた。

 

今後何が起きるか分からない。

 

それに、ドラゴンと、あの謎の魔物。

 

どっちにも、あたしの今の手札全てが通じなかった。ドラゴンには、攻撃魔術なら今のあたしにも劣らないウラノスさんの全力攻撃が通らなかった事もある。多分、このままではどっちにしても駄目だ。

 

ブロンズアイゼンのインゴットをある程度生産してから、まずはレントの剣を作り始める。

 

以前、重心は使って貰って理解した。後は、重心を調整する必要なんかないだろう。

 

その辺り、錬金術はつぶしが利いて非常に便利だ。

 

ブロンズアイゼンのインゴットを、エーテルに溶かす。

 

かなり強力な金属なので、エーテルで分解するのに一手間掛かった。

 

それに、だ。

 

ブロンズアイゼンを溶かしてみて、分かった。

 

これは、魔力の伝導率も、その辺の鋼鉄だのなんだのとは比較にもならない。

 

これが量産されていたら、多分護り手の戦力は二倍にも三倍にもなるとみて良いだろう。

 

だが、優先順位だ。

 

まずはレントの剣を。

 

それからあたし達の武器を作る。

 

クラウディアが、提案しているのが分かった。

 

「私の方から、危険な魔物が出た事を皆に周知してこようか?」

 

「バレンツ商会からなら話が早そうだな。 アンペルさん、どうする?」

 

「いや、今の時点では混乱を助長するだけだ。 私達はただでさえ「よそ者」で「呪い師」扱いされている。 変に危機意識を煽っても、むしろ状態は良くない方向に進むだろう」

 

「バレンツ商会経由で情報を流しても駄目か……」

 

タオが落胆する。

 

あたしはその辺りの話を聞き流しながら。

 

レントの剣を、再構築していた。

 

 

 

ルベルトは、自室を右往左往していた。クラウディアが生まれた時以来かもしれない。此処まで右往左往するのは。

 

許可を出したとは言え、この状況だ。クラウディアが心配でならないのである。

 

元々、あの子は深窓の令嬢とするには活発すぎた。

 

だがルベルトの妻は元々からだが弱くて。

 

それもあって、クラウディアの事が心配なのだ。

 

もしもの事があっても、後妻を迎えるつもりはない。

 

世間的には、子が産めない妻なんて役立たずだとか、ルベルトに面と向かって悪意なく言ってくる者もいる。

 

それが世間的には一利ある事も理解しているが。

 

それを笑って流しながらも、ハラワタが煮えくりかえるのをとめられない程度には。ルベルトは妻を愛しているつもりだ。勿論、二人の愛情の結晶であるクラウディアも、である。

 

ライザ達の事は心配していない。

 

あの戦力だ。しかも心がまっすぐ芯が通ってもいる。

 

いままで雇ってきた傭兵とは段違いの戦闘力で、しかも明らかにクラウディアを仲間と認識してくれている。

 

だったら、まだあの三人と一緒にいた方が良い。

 

それは分かっているのだが。それはそれとして、不安なのも事実だった。

 

また、少し揺れる。だが、この程度の揺れなら問題は無いか。

 

だが、メイドのフロディアが音もなく来る。

 

何かあったと見て良かった。

 

なおフロディアは、この娘の出身一族がそうして仕向けてくるように、後妻候補である。

 

勿論ルベルトにその気は無いが。この娘の出身一族は、そうして貴族や豪商に取り入ってきて。コネを確保してきたのだ。

 

ハイスペックを生かして最高の副官や執事、メイドとしても活躍するが。

 

それ以上にコネ構築の道具。

 

そうやって、確実に王都に根を張っている。そういう怖い集団でもあった。

 

「どうかしたのか」

 

「港で騒ぎが起きています」

 

「どういった騒ぎだ」

 

「魚が捕れない、ということです。 漁師達が騒ぎ始めています。 一部の人間は、呪い師の仕業だとか言っているようです」

 

馬鹿馬鹿しい話だ。

 

予言を固有魔術にする人間が、ごく少数で。

 

詐欺師の類がそれを口にすることは、ルベルトも知っている。だが、そういった詐欺師にできる事にも限度がある。

 

海産資源というのが実はかなりデリケートなもので。

 

畑同様に育てないといけない事はルベルトも知っているが。

 

それらを好き勝手に荒らせるほど、あの二人は万能ではないだろう。

 

確かに凄まじい強さを持ち、何をしてもおかしくは無い事は認める。

 

ライザの師になっている事も既に確認済み。

 

だとすると、あの凄まじい力を持つ錬金術についても、知識があるかも知れないが。それにしても、魚を捕れなくする意味がない。

 

「如何なさいますか? 商機につなげる事も可能かと思いますが」

 

「滅多な事を口にするな。 こういった危機については、つけ込むと信頼を著しく損ねる」

 

「わかりました」

 

「それよりも、クラウディアはどうしている」

 

フロディアは目を細めると、即答する。

 

一瞬で探査した、ということだ。

 

「少なくともこの島にはいないようです」

 

「そうなるとライザくん達と一緒か」

 

「間違いなく。 私が最後に察知したときには、三人に加えて、「流れ者」と呼ばれている二人と一緒でした」

 

「そうか……」

 

相変わらずとんでもないスペックだな。

 

咳払いすると、さがるように指示。

 

フロディアは一礼すると、霞のように消えていた。

 

少しずつ、何もかもが悪い方向に動いているように思えた。

 

ライザ達は信用できる。だがこの状況で冒険の許可を出したのは、失敗だったかも知れない。

 

そう、ルベルトは思い始めていた。

 

 

 

(続)




シリーズ通しての敵となる、フィルフサがついに登場します。


本作でのフィルフサは、原作の設定に加えて、以下の特徴を有しています。

※魔術が通じない

※生体急所が存在せず、コアを砕かないと倒せない

※基本的に生物は全て殺傷するが、それは繁殖のため

誰もが魔術を使える世界で、でかくて数が多い程度では大した脅威にはなりません。故に、そもそも魔術が効かないという強力な設定を付け足しています。それに加えて、生物に通じる戦術も通用しません。


この凶悪な相手が、ついに姿を見せた時。
ライザ達は、世界に関わる問題に直面していく事となります。
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