暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
既にライザは、実家の屋根裏から拠点を移しています。
まだアトリエに集まっていないのは、想像もしたことが無いほど強大な魔物と遭遇した直後だからです。
一度、アンペルさんとリラさんが借りている借家に集まろうという話になった。
あたしの家をたまり場にする話は、もう出ない。
それはそうだろう。
アトリエは移したのだから。
アンペルさん達も、戦力の大きさを考慮して、護り手から船を借りているらしい。港での一悶着を終えた後は、既に勝手に戻って来ていた。
難しい顔で何か話し合っていたが。
あたし達が姿を見せると、二人とも居住まいを正す。
「皆、無事だな」
「はい、問題ありません」
「では、軽く状況の整理をしておこう」
アンペルさんが音頭を取ってくれる。
こう言うときは、明らかにリーダーシップを取ってくれる人の存在がありがたい。
ライザも自然と皆の中心になっている事は多いのだが。
それはそれとして、こういう論理的に皆をまとめるのは、そんなに得意じゃないのだ。
魔物の駆逐について、今日の戦果を説明する。
レントの新しい剣、ブロンズアイゼンによる試作品の事もある。
いつもと違う魔物がかなり混じっていたが。対岸に屯していた魔物は掃討が完了している。
だけれども、タオもクラウディアも指摘していたけれど。
どうも魔物はどんどん東に向かって移動しているらしい。
街道の辺りにいるのは、どちらかというと弱っていたり、手傷を受けたりしている個体が多いようで。
それも、普段は補食関係にあるような魔物が、身を寄せ合っているような姿すら見受けられた。
放っておけば、みんないなくなるかも知れないが。
だが、餓えた魔物である事に違いは無い。
街道を通る人がいたら、無差別に襲いかかる可能性も高く。
放置はできなかった。
そう説明をするあたしに、アンペルさんは満足そうに頷いていた。
「うむ、それだけ状況が把握できていれば充分だ。 魔物から素材だって入手できるだろうし、新しい調合も試してみるといい」
「分かりました。 それと……」
「続けてくれ」
魚の不漁について話をする。
アンペルさんは考え込むと、リラさんとひそひそと話す。
やはり、難しい単語が飛び交っているようだ。
そろそろ、もう少し腹の内を明かしてほしいのだけれども。
「それについては、なんともいえないな。 錬金術で、くいつきがいい餌でも作ってやることは出来るか?」
「そうですね……」
まあ、魚の餌くらいなら。
ただ、気になる事が幾つもある。
長老格の漁師が、潮の匂いが違ってきていると言うこと。
それに、タオが潮の流れが変わっているとみたこと。
これらも説明すると。
アンペルさんは腕組みしていた。
「流石に彼奴らが原因だとしても、そこまでの影響があるとは考えにくいな」
「今は不安要素を抱え込むべきではないだろうな。 適当に流すべきだろう」
「……そうだな」
アンペルさん達の助力は得られないか。
二人はあの魔物と戦っているのだろうか。あたしのフルパワーでの詠唱魔術に耐え抜いた魔物と。
あいつを倒せる方法が、今の時点では思いつかない。
それに、だ。
良くない話がある。
ブルネン家主導で、ドラゴンを退治しようという話が持ち上がり始めている、という事である。
勿論、そんな事をしたら、護り手が全滅しかねない。
ブルネン家に対する不満が、護り手の中でもどんどん大きくなっていると聞いている。
非常にまずい事態だ。
あの凶悪な魔物の事もある。
そして、あの魔物の事は村の人間に話すな、とも言われている。
ひょっとするとクーケン島は。
未曾有の危機に直面しているのかも知れなかった。
「不漁の理由を解明するのは後だ。 対策についてはライザ、お前が考えるように好きに動いてみるといい」
「分かりました!」
「アトリエの周辺には、もう彼奴らはいない。 それについては、私達が確認しておいた」
リラさんがいう。
そして、リラさんは、皆を見回していた。
「稽古については、私が言ったことを以降は実践していけ。 もうお前達は、実戦で応用していく時期だ。 基礎は教えた。 後はなまくらにならなければ、存分に戦っていく事が出来るだろう」
「はいっ!」
「私達は私達で忙しい。 アトリエにも出来るだけ寄るようにはするが、自分達の問題は自分達で解決するようにな」
それで、解散となった。
あたし達は、一旦アトリエに移動しようと思って、街を歩く。
そして、ボオスとばったり出会った。
にらみ合いは一瞬。
クラウディアもいるからだろう。何しろ、島にとっての超大事なお得意さんである。
ランバーは相変わらずで、ぼーっとしている。
この人が剣術を教えている時の事も知っているから、どうしていつもそうできないのかが、よく分からない。
「この間の勝負で勝って調子に乗っているようだなライザ」
「別に調子になんか乗っていないよ。 ただ、誰も死なせなかったことは嬉しいと思っているけどね」
「ふん……あの程度の事で勝ったと思うな。 ドラゴンは必ず俺が仕留めてみせる」
「止めとけよ。 あのドラゴン、ちょっと様子がおかしかったぜ。 俺たちだって勝てる相手じゃないし、アガーテ姉さんやウラノスさんが総出になっても多分どうにもならないと思うがな」
レントが冷静に事実を指摘するが。
ボオスは今日はいつも以上に不機嫌なようだった。
トゲトゲした言葉を幾つかぶつけて来ると。そのまま去って行く。
ランバーが、あわてて後を追っていった。
クラウディアも、とげとげしい言葉をぶつけられていた。
友達は選んだ方が良いぞ、とか。
クラウディアは、それを聞いて明確に拒否の言葉を返した。
友達は選んでいます、と。
クラウディアがあんなに鋭い拒絶の言葉を発するとは思わなかったので、あたしも驚いたくらいだ。
いずれにしても、ボオスは何がしたいのかよく分からない。
今日も、実はあまり頭には来なかった。
というよりも、この間のドラゴンとの事件以来。
どうもボオスに頭に来なくなりつつある。
「ねえライザ、ボオスくんとは何があったの?」
「何って……昔からあんなだよ」
「そうなの? ボオスくんって、ライザを認めているように思えるの」
認めている。
それは、初めての言葉だ。
レントもタオも驚く。
クラウディアは、周囲を見回した後、それでも続けていた。
「もしもどうでも良い相手だと思っているなら、声だって掛けてこないと思う。 それにさっきの言葉、どうしても見返したい相手に対しての言葉に私は聞こえたな……」
「見返したい。 ボオスが、あたしを?」
「うん……」
「ちょっとぴんと来ないね……」
タオが小首を傾げる。
この中で、ボオスに一番酷い目に遭わされてきたのがタオだ。
特に、本をお守り呼ばわりされる事が多かったという。
それについても、ちょっと気になる事があるという。
入り江に移動しながら、軽く話す。
「タオくんが、本を読めるようになったら、お守りだっていわなくなったんだよね」
「そういえば、そうだね」
「多分だけど、タオくんが本を大事にしている事だけを責めていたんじゃ無いのかな」
「え……? う、うん……」
タオが目を白黒させる。
皆の中で一番頭の回転が速いタオが、困惑している様子は、見ていて面白い。
レントについては、ボオスは主にザムエルさんの事を責めていたはず。
あの酒乱をどうにかしろ、と。
レントはそれをどうにも出来なかった。
レントが護り手に混じって魔物狩りをして、実績を上げるようになってからは、それも止まったとか聞いている。
それに、ライザについてだ。
ライザには、冒険ごっこを揶揄する言葉をいつも掛けて来ていなかったか。
そういえば、そうだった気もする。
「ボオスくんって、本当はライザ達に、不器用にもっと進歩しろって言いたかったんじゃないのかな」
「はあ……クラウディア、そう見える?」
「うん。 少なくとも、なんとも思っていない相手への対応じゃないよ」
「よく分からないけど、筋は通っているようにも見えるかなあ」
でも、ボオスは。
あの時以来。
どうしても、口をつぐんでしまう。
船に乗ると、対岸に移動。今回も、クラウディアにも手伝って貰って、周囲を確認しながら移動する。
潮の流れが変わった。
潮の匂いが変わった。
どちらにしても、エリプス湖にも異変が起きている、ということだ。
さっき漁師の人達とも話したが、外海まで遠征しても、魚があまり捕れなかったという話である。
だとすると、とんでもない異変が起きているのかも知れなかった。
だから、湖を移動する時も注意する。
タオが、しきりにメモしている。
実はタオが紙が足りないと言っていたので、少し前から植物の繊維を利用して、紙を作っているのだ。
錬金術的にはゼッテルというらしいが。
島に入ってくる粗悪な紙や、古い時代から残っている染みついてしまっている紙とは違って、本物の新品だ。
だからタオは目を輝かせて。
よだれすら拭っていた。
嬉しそうなので何よりである。今も、こうして活用してくれているし。
あたしはちょっと呆れながらも、一応暗礁に警戒する。クラウディアも、魔術で出現させた櫂で、しっかり操船を手伝ってくれていた。
対岸に到着。
アトリエに入ると、荷下ろしと荷物の整理をして。
その後は、調合を開始する。
まずは。みんなの武器を刷新する。
ブロンズアイゼンの構築がやっと上手く行ったので。これを使って、皆の装備を新しくするのだ。
靴は、今のままでいいだろう。
ブロンズアイゼンは、雑多な金属を混ぜて作っていただけのインゴットよりも、かなり軽く硬い。
軽い事もあって、武器としてはちょっと癖があるので。
敢えて厚みを増やしたりしている程だ。
しばらく無心に、皆の装備を強化する。
そして、皆に配布した。
タオのハンマーは、更にリーチを長くしてある。これは、タオが戦闘経験を積んで、ハンマーの取り回しが上手くなったからである。
クラウディアの弓は、以前のよりもかなり大きくなった。
これによって、弓を更に力強く引くことが出来る。
クラウディアは、一度引いてみて。頷いていた。
これはいいと、思ってくれたらしい。
レントには、既に剣を作って渡してある。
あたしの杖は、更に打撃用の殺傷力を高め。
更に杖全体に強化のための魔術を仕込んで、詠唱を行わなくても魔術をぶっ放せるようにする。
外で、皆で軽く試し切りをしてみる。
あたしの杖は、今まで以上の威力の熱の矢を、特に消耗なく二十本くらいは出現させる事が出来る様だ。
これならば。
この間の魔物に放った2500本のフルパワーの魔術を、半分くらいの負荷で放てると思う。
クラウディアが放った矢が、ガゴンと凄い音を立てて的を貫いていた。
力も魔力も上がっているのだ。
「クラウディア、指に気を付けて!」
「うん、分かってる!」
あの様子だと、弦の凄まじい反発力で、下手をすると指どころか手ごと持って行かれかねない。
だが、今のクラウディアはかなり技量を上げている。これならば、恐らくし損じる事はないだろう。
タオはハンマーを振り回してみて、結構アクロバティックな動きを見せている。
魔物と短時間でかなり戦った事もある。
だけれども、どうにも若干タオは武器と相性が悪い気がする。
これは、剣を試してみるのも良いかも知れない。
ただ、それはタオが決める事だ。
我等の間に遠慮無し。
もしも、これではまずいと思ったら、タオは必ず言ってくる。その時に、あたしが手伝えば良かった。
試し切りをした後、軽く話をする。
「一旦、魚を誘引するための餌を作って見ようと思う」
「不漁で漁師さんたち困っているって話だったもんね」
「うん。 でもね、どうもおかしいと思うんだよね今回の件」
皆で集まって話をする。
魚の総量が減っているのか。
タオが言った通り、潮の流れが変わって、魚のいる場所が変わったのか。
もしも前者の場合。
外海にいるような、とんでもない超ド級の魔物がエリプス湖に入り込んで来ている可能性もある。
両方に備えて、動かないといけないだろう。
まずは、あたしが調合を開始。
その間に、レント達三人は、対岸の様子を見てきて貰う。
魚の餌を作るだけなら簡単だ。
今回は釣りをするわけでもないので、魚が何となく集まってくるようなものを作ればいい。
臭いが強めの肉。
それも敢えて腐りかけのものを使う。
これに加えて、すり身にした内臓なども用いる。
気持ちが悪い代物になるけれども、魚などはこういったものは別に気にしない。人間にとっては気持ちが悪いだけだ。
これを小麦粉と合わせて、固形にする。
これで、強力な誘引用の餌になる筈だ。
餌の材料を混ぜて、それぞれの要素を抽出。エーテルの中で組み合わせていく。
それで分かったのだけれども。
腐りかけのものというのは。
変質はしているけれども、それがすなわち毒というわけでもないらしい。
そういえば果物も熟すまでは堅くて食べる事が出来ないものもあるのだけれども。
なんだか分解して見て、それに近いという印象を受けた。
確かに、肉も腐りかけが一番おいしいというような話があるのだっけ。あたしはあまり実感がないけれども。
なるほどね。
分解しつつ組み合わせて、やがて錠剤のような魚の餌が、それなりの数出来る。
ただ、これはあくまで応急処置だ。
根本的な解決にはならない。
それで、漁師の人達に頼もうと思っている事がある。
あたしと親しい漁師が、何人かいる。
実は護り手と漁師の間で、昔あたしをどっちに引き込むかで、揉めたことがあったらしいのだ。
アガーテ姉さんが帰ってきてから、その辺の話は護り手で、と勝手に大人達が決めたらしいのだけれども。
今でも跡取りがほしいらしい漁師は、あたしに粉を掛けてきたりする。
特に白髭のおじいさんは。
孫に男がいたらあたしの婿にやるんだけどなあと、ぼやくことがあるのだった。
まあそもそも白髭さんの孫はみんな女の子で、しかも一番年上が七歳だ。そんな子を婿に貰っても困るけど。
ともかく、調合をこなして。餌を量産する。
それが終わった頃には、レント達も戻って来ていた。
「どうだった?」
「やっぱりまだまだ魔物が東に移動しているな」
「それより何、凄い臭いだけど……」
「ああ、魚の餌を作っていたから。 ちょっと窓開けて。 空気、入れ替えておこう」
無言で窓を開けて、臭いを外に出す間に。
あたしは外で、汲んでおいた水で手を洗っておく。
さて、此処からだ。
どうもあたしには。
これが上手く行くとは、とても思えないのだ。
それに、どうにも島の方でも、嫌な流れが続いているように思う。
ボオスはどうして。誰も喜んでいない。誰にも認められていないと分かっているのに、支配者ごっこを続けているのか。
それも、クラウディアにボオスの事を指摘されてからは。
疑問が膨らむばかりだった。
魔物をまた処理してから、クーケン島に戻る。キリがないが、それでもやっておかないとまずい。
それに、魔物も此処で大量に屠られていると分かったのだろう。
少しずつ、街道を避けている様子がわかる。
それだけで充分。
とにかく、人間を恐ろしいと思わせなければならない。
大規模な魔物による被害が出るのは、だいたい人間が舐められたときだ。
魔物と人間が上手くやれないとはいわない。
ただし。考え方も違えば習性も違う。
そういった違いを全く気にせず克服できる変わった人もいるらしいのだけれども。
それはそれ、あくまで例外だ。
街道を通る人間は決して少なくない。
近隣の街などがあまり頼りにならない以上。
あたし達で、少なくとも近場の魔物は処理するしかないのだ。
処理した魔物を解体して、肉や毛皮の一部をクーケン島に持ち帰る。アトリエには、既に当面籠城できるだけの物資は蓄えてある。
今はコンテナで冷凍しているが。
その気になればいつでも取りだして焼いて食べる事も出来る。
とにかく、クーケン島に戻る。
クーケン島では、やはりさざ波のように不安が広がっている様子だ。真っ先に港に出向く。
そして、漁師に声を掛けて動く。
最初に声を掛けるのは白髭。
あたしと面識があるし。
それに何より、以前あたしが行った錬金術でのゴミ掃除を目撃している一人だから、である。
あたしが作った薬は、既にクーケン島に出回りつつある。それでたくさんの人が助かっている。
だけれども、まだまだ多くの人にとって、錬金術は「怪しい呪い」に過ぎない。
これについては、お父さんとお母さんの態度を見ていてもそれがよく分かる。
だから、こうやってまずは発言力がある人間から黙らせていく。
「白髭さん、不漁を解消するための道具、作ってきました」
「なんだと。 以前のゴミ処理は見ていたが、そんな事も出来るのか」
「はい」
「錬金術とは魔の力か……」
首を振る白髭。
この人だって、魔術は当然使える。
だが、どんな達人でも、ドラゴンや凄く強い魔物には絶対に勝てない。それが現実である。
だから、みんな魔物が出た場合は三人で部隊を組んで一体の魔物に相対する。
それくらい、魔物と人間では力の差があるのだ。
錬金術は、その魔物すら凌ぐ。
今のあたしですらこれだ。
熟練者だったら、多分ドラゴンや。このあいだ、あたしが手も足も出なかったあいつにも勝てる筈。
ひょっとすると、世界を変えるほどの力ではないのか。
そうとすら、思う事がある。
いずれにしても、これは理論的には出来る、事。それを、形にしたものだ。
使い方を説明。
その後、一つ。
頼み事をしていた。
まずは、白髭のお爺さんに試して貰う。その後、其処から口コミで、話を拡げて貰う。それが全てだ。
残念だが、時間は掛かってしまう。
その時間も、無駄にするつもりはない。
その間に、動いておく。
クラウディアのバレンツ商会に。商会の方でも、色々今回の件については、動いているようである。
長期化する場合は、魚の提供を考えてくれているようだが。
その場合、バレンツ商会に対する大きすぎる貸しを作ることにもなる。
ルベルトさんは、あたしのことをかなり信頼してくれているようで。
モリッツさんも、流石にそれについては現時点では解答できないと言っていたことを告げていた。
此処にいるのは、件のメイドさんとあたし達とルベルトさんだけ。
それでも、ちょっと不安になった。
「いいんですか、あたしにそんな事話してしまって」
「君が錬金術で稼ごうと思ったら、幾らでも出来る。 それをしないで、村のために殆ど無償の奉仕をしている事は此方でも掴んでいる」
「あー、えへへ、はい」
それは、錬金術のすごさを知って貰いたいという気持ちがあるから。
下心ゼロではないのだ。
だから、褒められると非常に恥ずかしい。
ただ、ルベルトさんは言う。
「下心なんて誰にでもある。 下心がない人間もいるかも知れないが、それは恐らく聖人と呼ばれる存在だろう。 少なくとも私は見たことが無いし、君も自分がそうだとは思っていないだろう」
「はあ、まあ」
「だったら、そのまま錬金術を皆の為に使っていれば良い。 私は、それだけで君を信頼するのは充分だと思うよ」
ルベルトさんは、試験が上手く行ってから協力的だ。
ただ、メイドさんは。
明らかにこの人の仕事が分かってきたのだが。
あからさまにダーティーワークをしている。
「ルベルトさま」
「此処にいる皆は信用できる。 話を共有してくれ」
「分かりました。 今、ブルネン家のご令息が動いている様です。 ライザ様の……正確には錬金術の悪評を、不満を持っている漁師を中心に撒いています。 「流れ者」がライザ様をたぶらかしているという論調で」
「!」
綺麗な顔の造詣をしているのに。
無表情だから怖いメイドさんは、淡々と言うのだ。
「錬金術についての不安を持っている人間に、恐怖を植え付けようとしているようですね」
「あの野郎……」
「ちょっと許せない……」
レントとタオが、口々に言う。
温厚なタオが怒るのは滅多にないことだ。
ましてやタオは、最近戦闘経験をしっかり積んでいて、多分もうボオスよりだいぶ強いだろう。
それが自信になっているのだ。
それに、アンペルさんやリラさんを貶めるのは許せない。
まだ二人が隠している事がある。それは分かっている。
だとしても、どうしてこう言う事をするのか。
二人が悪事をするような人間じゃあない事はあたしが一番良く知っている。
クラウディアが、噴き上がる皆の中で。
一番静かだった。
「みんな、落ち着いて。 新しい技術が入ってきたら、反感を生むのは当然だよ。 ボオスくんはここのところ失点も多い。 多分、焦っているのだと思うわ」
「分かっているけれど、これはちょっと黙っていられないよ」
「君達。 もしもこのまま錬金術を続けたいと思うのなら……過激な行動は控えた方が良いだろう。 少しずつ実績を積んで、それで反対派を黙らせていくのが現実的だ」
ルベルトさんも、行商。つまりはよそ者だ。恐らくだが、程度の差こそあれ、似たような経験はしているのだろう。
その言葉を聞いて。
大人の観点からの言葉だなとあたしは思ったし。
かといって、だからといって黙っているつもりもなかった。
反撃はさせてもらう。
どうしてボオスがあんな風になってしまったのかはよく分からない。あの時の事件が、原因だろうか。
だとしても、今のボオスは。
あたし達をどうしたいのか。
一度、本気で殴り合いをして、白黒つけなければならないのだろうか。
でも、正直。
今は怒りから、手加減を出来る自信があまりなかった。
「ライザ、深呼吸して。 ボオス君が何を考えているか分からないと、絶対に不幸な結果になるよ」
「クラウディアは冷静だね……」
「私もこんな感じで、隊商がつるし上げられそうになった事もあったから。 友達になったと思った子までその時は隊商を批難する側に廻ってね」
すっと、怒りが醒める。
そんな事を、経験していたのか。
ルベルトさんは何も言わない。事実なのだろう。この様子だと。
「後で、その子謝りに来たの。 そうしないと、村の中でもう生きていけないからそうしたんだって。 その時は、私はどうしていいか分からなかった。 でも、今は分かる。 ボオス君だけ変えても多分駄目。 村全体を変えないと」
「……分かった」
深呼吸すると、あたしは。
一つずつ、丁寧に反撃をするべく。
頭を切り換えていた。