暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
レントは、もうしばらく家に戻るつもりはなかった。
元々酒の臭いしかしない家だ。
母が出て行ってから、その傾向は更に加速した。
昔は。不器用ながらも笑う事はあったらしい父だが。
今は酒を飲んでは、周り関係無く当たり散らす化け物に踏み込みかけていた。
幼い頃、母に聞かされた事がある。
昔の父は、不器用ではあったが。各地で傭兵として実績を上げて、たくさんの人を救ったのだそうだ。
恐ろしい魔物もたくさん斃した。
人食いで知られていて、周りを恐怖に叩き込んでいた強大な魔物も討ち取った。
たくさんの人が父に助けられたのに。
感謝する人は誰もいなかった。
どんどん父が酒に溺れて、人間が嫌いになっていくのが辛かった。
そう言っていた。
やがて、それが限界に達したのだろう。
母は家を出ていった。
あの荒くれの父なのに。
母には絶対に手を上げなかった。
それでも出ていったのは。
多分。父の姿が、あまりにも悲しかったのだろうと思う。
ため息をつくレント。
レントの周囲には幸い理解者がたくさんいる。
父だって、昔はそうだったはずだ。
だが、いわゆる流れ者の「冒険者」と違って。父は更に過酷な、金で一箇所で雇われて、十把一絡げに死んで行く「傭兵」だったのだ。
それは早い話が、仲間もばたばたと死んで行くと言うこと。
父がおかしくなったのは。
きっと仲間がみんないなくなって。いや、言葉を飾っても仕方が無い。みんな、二目と見られない悲惨な死に方をして。
それでも孤独に戦い続けて頑張ったのに。
周囲の身勝手な人間はどんどん離れていき。
理解者もいなくなったから、なのだと思う。
だがそれと、レントを殴るのは話が別だ。
ベッドから起きだすと、レントはそんな事を思った。
臭いはついていないか。
家で酷い臭いばかり嗅いできたから、レントも耐性はついている。無言で起きだすと、皆の様子を見に。
ライザは何やら、熱心に調合している。
窯があって、それをつかってクラウディアが何か焼いていた。しばらく甘いものは勘弁と思っていたのだが。
クラウディアが焼いているのは、かなりまともな代物らしい。
少なくとも、きつい甘い匂いはしなくて。
箸休めに丁度良さそうだった。
「レント、水汲み頼めるかな。 飲み水も風呂の水もそろそろ限界みたいでさ」
「おう、任せとけ。 クラウディア、それパイかなにかか?」
「うん。 クッキーにしようかと思ったのだけれど、せっかくだしおなかが膨れるものを作ろうと思ったの」
「ありがてえ。 ただ肉の奴がいいな」
大丈夫だとクラウディアは言う。
流石にクラウディアも甘いパイは食べたくなかったのかも知れない。
肉はありあまっている。
それを使って、パイにするらしかった。
レントは水を汲むと、桶に継ぎ足しておく。ライザが前は全て湧かしていたのだが、最近はクラウディアが湧かしてくれているらしい。
桶に何度か、近くの用水路から水を運ぶ。
これもアトリエを組み立てているときに、ライザが作ったものだ。森の中には幾つも水源があって、その一つから引いてきた。
水は流れていると痛まない。勿論限度はあるが、それでもこの用水路に虫が住み着くことはない。
島では貴重品の真水も。
ここでは幾らでもある程度のものだ。
水を運ぶのは、それだけで鍛錬になる。
だから、レントにはこの作業は丁度良かった。
水を汲み終えると、皆でパイにする。野菜と肉を贅沢に織り込んだ、大変にいいパイだ。しかも一つだけではなく。たくさん食べる事が出来る。うまいうまいと食べていると、ライザが調合を終えたようで。こっちに来る。
それだけで、更に場が明るくなる。
「わ、パイだ。 気付かなかった」
「ライザ、みんなの分残しておいてよ?」
「大丈夫、分かってるって」
「うふふ、たくさん作ってあるから、遠慮しなくても大丈夫だよ」
クラウディアもライザの健啖ぶりは理解しているようで。
どんどんパイを窯から取りだしてくる。
小麦粉もライザが調合するようになってから、有り余っている。
ひょっとするとだが。
下手な商会よりも、贅沢に過ごせているかも知れなかった。
色々と、不安要素はある。
更に強い魔物との交戦。
それからの味方の護衛。
力仕事。
幾らでもレントがやらなければならないことはある。
だけれども、この仲間と一緒にいるのはとても楽しい。
そして時々怖くもなる。
仲間を何かの理由で失ったら、父のようになるのではないかと。
無言でパイを食べる。
少なくとも、皆に暗い顔は、見せる訳にはいかなかった。
(続)
確実に錬金術が認められていくライザ。
しかしながら、それに対する反発も大きくなっていきます。
そして、追い詰められたボオスの行動が、今後大きな事件を引き起こしてしまうことになります……。