暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
とうとう周囲の反対を押し切って以前苦杯を飲まされたドラゴンへ挑みます。
勿論勝てる訳がありません。
ライザ達は救援に向かう事になります。
序、反対を押し切って
アガーテは、クーケン島の出身者では、一番の出世頭になりうる存在だった。
若い頃から、天才と言われた。
クーケン島始まって以来の使い手と言われ。ブルネン家ですら、何代か前の英雄であるバルバトスを超えるかも知れないとまで絶賛していた。
やがて腕を試してみようと、一念発起。
周囲の反対を押し切って、王都に出向いたのだ。
目的は、王都の騎士になること。
ロテスヴァッサ王国の騎士と言えば。それはもう有名な存在で。資格を持っているだけで喰っていける。
そう、言われていた。
愚かしくも、王都という場所にあこがれとかがあったのかも知れない。
そもそもアガーテの家は早くに両親が死んで。十二の頃から護り手として魔物相手の戦場に出ていたという事もある。
それで実績を上げていたのだから。
周囲に、アガーテをしばる権利はなかった。
そして王都に出向いてみて。
最初は華やかさと人の多さに驚かされて。
舞い上がって、騎士の試験を受けに出向いた。
そして、見る間に。
王都に失望していく事になった。
腐りきっていると思っていたクーケン島の人間関係が、マシに見えてくる腐りきった派閥と利権の塊。
試験を受けに行くのですら、試験官に派閥があって、付け届けが必要で。
バカみたいな物価で。
勿論ろくでもない人間も山ほどいる。
それだけじゃあない。
アガーテが田舎出身の豪腕だと知るや、声を掛けて来る貴族やらも大勢いた。
自分の所に囲っておこうというのだろう。
アガーテも素人ではないから、王都の警備がザル同然であることは、来て数日で見抜いていた。
何が王都か。
警備は優秀だとか言う噂だったが。それはあくまで王都の分厚い城壁の内側に限定しての話。
一歩でも外に出てしまうと、街道すらまともに機能していない。
それに貴族という連中、あれは何だ。
ロテスヴァッサが、実際には王都だけしか実効支配地がないことは、すぐに分かった。そういう意味では、大きなクーケン島と言っても代わりは無い。
そんなただ人がいるだけの場所で。
血筋の尊さがどうだの。
威厳や体面がどうだの。
支配してもいない領地の領有権がどうだの。
そんな事ばかり口にしていて。周囲の街道もロクに警備できていない有様を見て、短期間で失望は積み重なっていった。
同じように、王都に来てすぐに失望していく騎士候補やらは珍しくもなかったようであるが。
アガーテは、それでも自分の剣腕を試したかった。
試験は合格した。
だけれども。その後は、資格だけとってすぐに王都を離れた。好待遇で雇うという話は幾つも聞いたが。
いずれもが、ろくでもない下心があるのは露骨過ぎる程だった。
最悪薬でも盛られかねない。
そう判断したアガーテは、早々に王都を去った。
それが、王都の思い出。
王都で騎士の資格を突破した。
それを聞いて、クーケン島の人間はみんな喜んだが。
アガーテは、それを滑稽で。何とも愚かしい事だとしか思えなかった。
そして今。
王都よりはマシとは言え。
クーケン島も、愚かしい体面や面子のせいで、滅びようとしている。溜息が何度も漏れた。
出来もしないことを指示するブルネン家にも。
伝統を人命より重んじる古老とその一派にも。
いい加減、うんざりしていた。
まだ二十代半ばだというのに、アガーテが背負っているものは重すぎる。護り手達が、全滅しかねないのだ。
だから、何度も無駄に行われた会議で、ドラゴンの討伐には反対してきた。
それも、押し切られようとしている。
「アガーテ、というわけで会議での決定だ。 すぐにドラゴンを斃すべく、編成を行うように」
ブルネン家の庭で。
行われた会議で。
そう、ブルネン家の当主、モリッツに言われる。
アガーテは嘆息する。
「不可能だと何度でも申し上げます。 護り手を出せば出すだけ死人が増えるだけです」
「それでもやるんだ! 島の未来が掛かっている! ボオスだって……私の息子だって戦地に行かせるんだ! 頼れるのは君だけなんだぞ。 王都で騎士の試験を突破した君だけだ!」
懇願するように、モリッツが言う。
そんな事言われたって、無理だ。
知っているのだろうか。
王都では、至近にある巨大な鉱山を放棄したのだ。理由は魔物が出るから。つまり、王都至近の巨大な財源を、魔物相手に怖じ気づいて放棄するような軍事力しか持っていない。手練れもいるかも知れないが、少なくとも鉱山の魔物を追い払う力は持っていない。
それが騎士の現実だ。
もしもそんなに騎士が強いのなら、各地で魔物はもっと掃討されているし。
街道の安全が確保されて、王都から役人とか貴族とかが、各地に赴任しているだろう。
連中は絶対に王都から出ない。
出たら死ぬからだ。
勿論ドラゴンなんて、手に負える力はない。
もしもドラゴンが王都をエサ場と認識したら、とてもではないが追い払う力はないだろう。
文字通り王都が崩壊するまで、食い荒らされるだけだ。
王都にはアガーテと同格の使い手が何人かいたが。
それで結果が変わるとは、とても思えなかった。
王都の現実を見て知ったから、アガーテは見切りをつけてクーケン島に戻ってきたのである。
この島だって、今直面している通り。どうしようもない派閥争いがあり。
それで大量の死人を今だそうとしている。
必死に抵抗してきたが、どうも此処までらしい。
モリッツは懇願に混ぜて、脅迫まで入れて来た。
そうなってくると、アガーテには手の打ちようがない。
アガーテも、守るべきものくらいはある。
結婚はしていないが、何人か親がいない子を引き取って給与で支援している。その子らを人質に取られると、もう何も言えなかった。
才能があろうがなかろうが関係無い。
アガーテにとっては、大事な子供達なのである。
ついに、アガーテも折れた。
「分かりました。 その代わり、条件があります」
「なんだね、言って見よ」
「指揮は私が執ります。 そうでないのであれば、もう知りません」
「……分かった。 ボオス、かまわないな」
舌打ちするボオス。
これでは、言う事を聞きそうにない。
村会などとは言っているが、実際にはモリッツの意見を通し周知するだけの集まりが終わると。
アガーテは、ウラノスを呼ぶ。
先代の護り手の長だ。
この間の怪我があっても、ドラゴンに傷をつけられる可能性があるのは、この老人しかいなかった。
「頼みがあります」
「なんだね」
「時間を稼ぎますので、最大級の……ドラゴンに手傷を与えられるだけの大魔術をお願いいたします」
「無理だな」
ウラノスの言葉は明快そのもの。
アガーテも同感である。
だが、それでもやるしかないのだ。
「手傷だけでかまいません。 そうしたら、私が命に替えてでもドラゴンを仕留めます」
「鱗を剥がしたところに、致命の一撃と言う訳か」
「はい。 あのドラゴンは、話に聞いている限り、恐らくはかなり若い個体。 伝承にあるような、「砦の守護神」とは恐らく別個体でしょう。 それでも、そうしないと勝ち目すらありません」
「ライザ達に頼むしかないだろうな」
ウラノスが言う言葉ももっともだ。
ライザ達は、この間ついに四人でワイバーンを仕留めたという。あの錬金術と言う力のおかげもあるのだろう。
先日見かけたが、また装備を刷新していて。
特に武器類は、信じられないような業物になっていた。
王都でもあんな業物は殆ど見かけなかった。
それほどの品だ。
だからこそ。
ライザ達に、此処を任せる訳にはいかない。
如何にワイバーンを四人で倒せる技量がついたとはいえ。
死地に、未来のクーケン島を守る者達を送るわけにはいかないし。
ましてや死なせる訳にもいかないのだから。
「ライザ達は、残って貰うつもりです」
「そうか。 死ぬつもりなのだな」
「もう他に手段がありませんので。 もしも生き残る事が出来たら、その時には結果のみをお伝えください」
「そうだな……」
ウラノスも既に覚悟は決めている様子だ。
いずれにしても、はっきりしている事がある。
護り手は全滅するだろう。
ドラゴンだって、前に何かの間違いで攻撃して来た時とは訳が違う。自分の巣に踏み込まれたら。それは本気で反撃してくるはずだ。
まだ若いドラゴンと言っても、クーケン島の戦力全てを上回る程度の力はある。
それが必死になったら、はっきりいってどうにもならない。
命を捨てて、それでも追い払うのが関の山。ドラゴンスレイヤーが話題になるのは、それだけの偉業だからなのである。少なくともアガーテには無理だ。
少なくとも怖れている様子がないボオス。
それだけは立派だが。
此奴を生かして返すことは無理だろう。
モリッツの子供はボオスしかいない。
そのボオスを出す事で、自分も命の次に大事なものを賭けているつもりなのだろう。島のために、自分も最大限の犠牲をはらうつもりなのだろう。
だが、それは明らかに間違った行動だ。
どれだけ犠牲を覚悟していて。
自分がそれを払うつもりであろうとも。
その犠牲が、何も産まないのであれば。それは意味がないことなのだ。
ふと、何かの気配を感じたが。
それは一瞬で消えた。
島の周囲に、外海の魔物が徘徊しているという話もある。
いずれにしても、今年を乗り切る事は厳しいだろうな。
そうアガーテは。既に覚悟を決めていた。
リラは、ブルネン家の邸宅を探っていた。一人かなり鋭いのがいて気付かれかけたが。ちょっと油断をしすぎたと見て良いだろう。
結論は、当たりだ。
アンペルと相談して、決めていたことが幾つかある。
それが、ブルネン家の調査だ。
クーケン島周辺の調査をするに辺り、ほぼ間違いなく何かがあるのはブルネン家。その邸宅である。
それは分かっていた。
そもそも、百数十年前だかに。当時の当主が水をもたらしたとか言う話からして、怪しいとは思っていたのだ。
調べて見た所、それはまず当たりと見て良い。
アンペルと一緒に、古代クリント王国……リラからすれば不可思議な呼び方だが。それの調査はずっとして来た。
だから一目でそうだとも特定出来る。
あの忌々しい連中の遺構。
それもかなり大きいものが。ブルネン家の邸宅敷地内に存在している。
それははっきりしていたし。
自分の目でも確認していた。
一度島を出て、ライザが作ったアトリエに戻る。
丁度良い案配に、皆が集まっていた。
ライザは調合がすっかり板について、装備品を作っている。ブロンズアイゼンの量産が上手く行ったらしく。それで色々試しているらしい。
前衛になるライザとレントがまず中心に新しい装備を試しているようだが。
アンペルも感心するほどの出来の様子だ。
今は魔術の増幅用の道具を作っているらしい。
それについて、アンペルは助言はしているが、それ以上の事をするつもりはないようだった。
100年の努力を、一月で超える奴がいる。
そういう学問だと、アンペルに聞いていたが。
ライザはまさにそれだ。
「戻ったぞ」
「ああ、状況を聞かせてくれ」
リラが皆を見回すと、ライザも丁度調合が終わった所らしい。
談笑していた者達も、襟を直す。
それでいい。
「村会だとかで、どうやらドラゴン狩りが決まったようだ。 護り手とやらの戦力が、全て出るつもりらしい。 アガーテというあの女、差し違えてでもドラゴンを斃すつもりのようだな」
「そんな……」
「どうして俺たちに声を掛けてくれないんだアガーテ姉さん!」
「お前達には敢えて声を掛けないつもりのようだな。 島の未来のために、お前達が必要なのだろう」
そんなの、間違ってる。
ライザが声を張り上げる。
普段はライザに引っ張り回される他の三人も、同意しているようだった。
実際問題、ライザは短期間で著しい成長を遂げている。
今だったら。
或いは手傷を受けたドラゴンだったら。それも若いドラゴンだったら。打ち破れるかもしれなかった。
「ちょっと爆弾とかの最終調整する。 レント、悪いんだけど、船が着きそうな場所に行ってくれる? アガーテ姉さん達とめないと!」
「分かった。 タオ、クラウディア、行こうぜ」
「僕に何が出来るか分からないけど、急がないとまずそうだね」
「すぐに準備するわ」
てきぱきと準備をするタオとクラウディア。
最初の頃の、何もかももたついていたのと同じ人物とは信じがたい。特にクラウディアの成長は早く、既に弓使いとしていっぱしになっている。
追いつきたいという気持ちがあったのだろう。
ライザは、爆弾を順番に並べている。
一つ、ごついのがあった。
多分切り札だろう。それをエーテルに投入して、考え込みながら調整をしているようだった。
もう四人は此方に意識を向けていない。
リラは、アンペルと声を落として話す。アンペルは、誇らしげである。
「錬金術の産物を、調整する技術を教えた。 あっと言う間に身に付けたよ」
「凄まじいな。 あっと言う間に超えられて、嫉妬はないのか」
「ないさ。 私がもっと若ければ、あったかも知れないがな」
「その手がもう少しマシだったら……」
アンペルは首を横に振る。
リラは、実はそのアンペルの手をどうにか出来るかもしれない道具を確保している。
もしも今アンペルが動けたら。
錬金術師として、往事の力を発揮できれば。
助かる命もあるのではないのか。
そう思う。
だが、アンペルはリラ以上にすり切れている雰囲気がある。
昔の事故で、手がまともに動かなくなった時の事が関係しているらしいのだが。
それについては、デリケートな話題だ。
アンペルが話すまで、聞くつもりはない。
何よりも、ともに同じ目的のために行動している同士である。友人でも恋人でも夫婦でもない。
だから、そう言ったことについてしつこく聞くつもりもなかった。
「それはそうと、ブルネン家はどうだった」
「間違いなく当たりだ。 クーケン島の中枢を抑えていると見て良い」
「なるほどな。 クーケン島には不自然過ぎるほど多い真水も、恐らくはそれ関係なのだろうな」
「……」
どうにもおかしな雰囲気はあったのだが。
ただ、どうもあのモリッツという男。
今まで見てきた。巨大な権力を握ってそれに酔っている人間特有の残忍さは、それほど感じられない。
むしろ大きな力を手にしてしまって、どうしていいか分からず右往左往している小物の気配だ。
髭なんか口元に蓄えているが、それも威厳を出そうとしている精一杯のあがきだろう。
馬鹿馬鹿しい話だった。
「「門」は別の場所にあるとして、何かしらの情報を得られる可能性が高い。 ライザ達はどうしてもドラゴン狩りに行くだろう。 支援を頼めるか。 露払いの魔物退治と、最悪の場合に割って入る程度でかまわない」
「お前はどうする」
「私は計画を進めておく。 この辺りの調査をすれば、あの「門」があると思われる場所に接近する道を見つけられるかも知れないからな」
互いに頷くと、それぞれ別行動を開始する。
レント達が戻って来た。かなり焦っているようだった。
「まずいぞ、護り手達が上陸を開始してる! 恐らく護り手全員が、こっちに渡るつもりだと見て良い!」
「もう来たの!?」
「アガーテ姉さんが指揮してるんだ、早いのは当たり前だよ! みんな殺気立ってる!」
「急がないと危ないわ」
クラウディアも事態の深刻さには気付いているのだろう。
アンペルが頷いたので、リラはそれに返す。
影から支援はしてやる。
だが、そこまでだ。
ここからが正念場になるが。それでも、やるべき事は、ライザ達でやらなければならないのだから。