暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
その上クーケン島はまとまってもいないのです。
遅れれば。
全滅だけが待っています。
気配がどんどん強くなって行く。
城の中はボロボロで、誰かが暮らしていたとはとても思えなかった。魔物も思ったほど多くはない。此処では獲物が捕れないのかも知れない。何しろこんな鬱蒼とした森と山に挟まれた場所だ。
人間が住んでいる場所からは遠いし。
森には森で魔物が住んでいる。
ドラゴンのような大型の者なら、或いは話が違うかも知れないが。
そのドラゴンも、見かけられるようになったのはごく最近。
そもそもあたしがもっと小さいとき、この近くまでレントとタオと一緒に探検しに来た時には。
そんなものは気配もなかったし。
何よりこの辺りは禁足地にもなっていない。
それが全てを物語っていると言えた。
気迫をみなぎらせて、護り手達が魔物を蹴散らして行く。あたしは魔術で、クラウディアが魔術の矢で、支援。
だがクラウディアは途中で笛を魔術にて具現化させる。
音魔術だ。
そのまま、クラウディアが吹き始める。前に聞いたフルートとは違う、とても力強い戦慄だ。
全員が更に熱気を高める。
これは、恐らく昂奮作用のある曲だ。
魔術といっても、理論的なものが殆ど。だから、予言のようなタイプの魔術は呪いなんて言われて嫌われる。
クラウディアの笛を聞いて、更に戦士達が燃え上がる。
魔物が怯む。
怯んだ魔物から、ズタズタに切り裂かれ。
或いはあたしの放った熱魔術に貫かれ。火だるまになって転がっているうちに、レントが首を刎ね飛ばし。或いはタオが頭を叩き潰す。
城の中は強烈な気配に満ちているが、静かだ。魔物の数も大した事はない。
先行しているアガーテ姉さんが先に倒してくれたのもあるのだろうが。
それ以上に、やはり元々大した数が住んでいないのだろう。こんな場所では、餌も採れないのだから。
びりっと来る。
次の瞬間、大爆発の音。
ついに始まったらしい。音の方向は、即座に分かった。
本来だったら、これだけでなぎ倒されていたかも知れないが。クラウディアが即座に強烈な音の壁を展開して、破壊力を軽減してくれる。
周囲の魔物を、文字通りの狂戦士となってズタズタにしていた護り手達が、はっと我に返ったようだった。
「ドラゴンだ……!」
「後はあたし達でやります。 この周辺の魔物を掃討しておいてください。 後、負傷者の受け入れ準備を!」
「分かった!」
護り手達も、ずっと魔物と戦っているのだ。
それは、即座に出来る。
あたしは飛びかかってきた鼬を、回し蹴りで首をへし折って即座に叩き殺す。それほど大きくもない鼬が、昂奮して襲いかかってきただけだ。
それは、無謀の報いを知るだけである。
首をへし砕かれて地面にべしゃりと落ちる鼬を見て、護り手達が黙り込む。
あたしはレントとタオとクラウディアに告げる。
「もう一度確認するよ、ドラゴン戦の流れ」
「おう、ライザの作ってきた最強爆弾を叩き込む隙を作ればいいんだったな」
「なんとか気を引いてみるよ」
「私も、ドラゴンの視界を塞ぐわ」
流れはみんな把握している。それだけで充分だ。
ドラゴンを一撃で倒せるとは、あたしも思っていない。今までの戦闘で、ワイバーンやドラゴンがどうやって魔術を防いでいるかは見た。
だから、それを突破出来る爆弾を作った。
ただ、それも理屈だけの話である。
威力を抑えたプロトタイプを魔物狩りのタイミングで使って、試してはいるが。本番はこれが当然初。
ドラゴンの戦闘力はワイバーンなんかとは比べものにならない筈で。
当然、油断なんてしていい相手では無い。
そのまま、走る。
レントに荷車から出した薬を渡す。
魚の脂を使って、全身の身体能力を跳ね上げる薬だ。危険な中毒作用などはない範囲で、パンプアップを出来るようにした。
魚油リキッドという。
なおあたしのオリジナルではなくて、アンペルさんに貰った本に書かれていたものだ。まあ魚の扱いは慣れているので、それほど作るのは難しく無かった。
レントも前に何回か使っているので、躊躇無く飲み干す。
タオも。
前はまずいよと文句を言ったタオだが。だから味を少しまろやかにしてある。
栄養ドリンクがまずいと不評だったので、少し味についての調整をするようにしはじめたのだ。
クラウディアにも渡して。
そして最後にあたしが飲み干す。
体が内側から燃え上がるようだが。同時に頭の方は冷静だ。
見えてくる。
文字通り、太陽のような光。
それが矢に収束し、ドラゴンに向けて叩き付けられる。
あれは恐らくだが、ウラノスさんの魔術。
それもあの規模となると、命を縮めての魔術とみて間違いない。
そのままぶつかっても殺されるだけ。
だったら、命を絞って。ああやって一撃に賭けると言うわけだ。
もう少し早く着いていたら。そう悔やんでも、もう遅い。
決死の魔術が炸裂して、ドラゴンが流石に絶叫する。体から、火花が上がっているのが見えた。
だが、反撃にドラゴンがブレスを叩き込み、逃げ惑っていた護り手達が吹っ飛ばされる。
その中には、ランバーも混じっていた。
ボオスは。分からない。見えない。
裂帛の気合いと共に、アガーテ姉さんが煙を斬り破って突貫。ドラゴンの、まだ赤熱している鱗に剣を突き立てる。
剣が、鱗を貫いて、ドラゴンの体に突き刺さる。流石だ。だけれども、浅い。
ドラゴンが体を振るってアガーテ姉さんを振り下ろそうとするが、アガーテ姉さんは鬼の形相で、更に剣をドラゴンに突き立てる。
その剣が。
あたしが作った剣が、折れていた。
空中で吹っ飛ばされたアガーテ姉さんが、脆くなっている城の石壁に突っ込む。
まだ家屋は彼方此方に残っているが、それも殆どが倒壊している城だ。だがそれでも、もろに崩壊した石壁に飲み込まれた。
雄叫びをあげるあたし。
ドラゴンがこっちを見る。
ウラノスさんが、奧で倒れているのが見えた。
「あとはあたし達でやります! みな、退避を!」
「ライザ!」
「くそっ、言葉通りにするぞ! 勝てっこねえ!」
護り手達が、必死に逃げ出す。
あたしは、杖を構える。
ドラゴンは、明らかに目に理性がない。あれはもう。なんらかの理由で狂っていると見て良い。
口は既にブレスをいつでも吐けるように、ゆらゆらと歪んで見える程の高熱を纏っている。
そして、ウラノスさんの死力を絞った一撃と。
更にはアガーテ姉さんの剣を喰らっても、まだ平然と浮いている様子を見て、流石に頭に来た。
狂気に落ちたドラゴン。
死すべし。
ばっと、レントとタオが展開。クラウディアが、詠唱を開始。
それを見て、ドラゴンが一瞬だけ躊躇する。その顔面に、あたしは熱の矢を叩き込んでいた。
二十本、全弾が一点に集中。
一撃がそれぞれ石造りの家屋を破壊出来る程の威力だが。
ドラゴンは視界を一瞬塞がれただけだ。
当然、反撃のブレスを放ってくる。
その時には、既にあたしとクラウディアは移動していて、着弾点にはいない。
ドラゴンが天に向けて、凄まじい雄叫び。いわゆるウォークライを行う。
死闘が。開始された。
凄まじいプレッシャーは、ワイバーンの比では無い。当たり前だ。大きさだって、三倍は違うのだ。
ドラゴンが。右に回り込んでいたあたしを見る。
それと同時に、レントが仕掛ける。上空から、剣を突き立てようとするレントに対して、ドラゴンは魔力を放つ。
それだけで、レントの恵まれた体格が押し返される。
魔力の出力が高すぎて、あんな芸当が出来るのか。
更に、真下から迫ったタオに対しても、尻尾で粉砕しに掛かってくる。
寸前でかわしたタオだが、あんなもの、まともに喰らったらひとたまりもない。
だが、勝ち目はある。
アガーテ姉さんが穿った傷。
あの地点は、鱗で防御されていない。
ただ。今の反撃で見えたが、ドラゴンは全身を魔力の鎧で守っている。あれを引きはがさない限り、鱗も何もあったものではない。
人間とは、土台からして違う。
だから、それを想定した戦いをしなければならないのだ。
「はあっ!」
クラウディアが気合いとともに、巨大な矢を放つ。
人間ほどもある巨大な矢だが、ドラゴンは一瞥しただけで、受けて防いで見せる。
視界を塞ぐことも出来ないか。
「クラウディア、支援魔術に移行して!」
「分かったわ!」
ハンドサインでそう会話しながら、急いであたしは周囲を回る。
レントが、まずは隙を作らないとまずい。
あたしが既に腰にぶら下げている爆弾は、かなりデリケートなのだ。
色々作って見て分かったが。
高性能な道具ほど、デリケートなのである。
この爆弾もそう。
あたしが今出来る錬金術のありったけを叩き込んだこの爆弾は、下手な使い方をすると発動すらしない。
笛に切り替えたクラウディアが、それで魔術を展開開始。
周囲の体力を回復させ始める。これは恐らく、まだ倒れていて逃げられていない護り手のためでもあるだろう。
そしてドラゴンは、身に纏っている強すぎる魔力もあって、その魔術も弾いてしまっている。
或いはクラウディアが、指向性をもってやっているのかも知れない。
ドラゴンが反撃に出る。
瞬いただけで、何カ所かが爆発。
詠唱不要の魔術は、魔物だって当然使ってくる。しかもドラゴンとなれば。当然この破壊力だ。
横っ飛びに転がって、見る。
ドラゴンが急降下して、あたしを狙ってきている。
覚えていたか。
あたしが主軸になってくると、見抜いている。
狂っていても、それだけの判断力は残している、ということだ。
その頭上から、レントが剣での一撃を叩き込む。
鬱陶しがって、ドラゴンが頭を振るった瞬間、あたしが飛び退く。ドラゴンが緩んでいる城の床をブチ抜いて、石材が辺りに吹き飛んでいた。
レントを振り落とすと、影から接近していたタオに、ドラゴンがブレスを叩き込む。火力を落として、速射できるようにしたもののようだ。
その真っ赤な体によく似た火球。
だが。あたしが上空から熱魔術をたたき込み、ブレスを放った瞬間に爆破する。
顔の至近でのブレスの爆裂。ドラゴンが顔を歪めた瞬間、爆風を斬り破ったタオが。ドラゴンの顔面にハンマーを叩き込んでいた。
流石に質量兵器。
それに、タオの全体重も合わせて載せている。
それが、元々身体強化している状態で飛んできたのだ。
ドラゴンも、流石にぐらりと揺らぐが、二本の足で踏みとどまって見せる。
そして、首を振るって、タオを吹っ飛ばす。
吹き飛ばしつつ、更に追撃を入れようとするドラゴンの斜め上から。移動していたクラウディアが、狙撃。
さっきアガーテ姉さんが穿った傷に、正確に着弾させていた。
魔力の鎧で全身を覆っていると言っても、それでも面白くないと思ったのだろう。
波状攻撃を鬱陶しがったドラゴンが、吠え猛りつつ全身から魔力を放出する。
クラウディアの第二矢を消し飛ばしたその魔力の放出は、周囲全員を吹っ飛ばす。
倒れているボオスが見える。
無事だったか。
ちょっとだけほっとしつつも、あたしはずり下がりながらも持ち堪える。
魔力を放って、ドラゴンの魔力放出を緩和したのだ。
だがこれで、あたしも殆ど魔力が残っていない。
ドラゴンはまだまだ余力充分。
いや、まて。
ドラゴンが、一瞬だけ動きを止める。
アガーテ姉さんとウラノスさんが叩き込んだ渾身の一撃が効いている。
レントが。また動き出そうとするドラゴンに。
雄叫びを上げながら、大剣の一撃を叩き込まんと躍り上がる。
翼を挙げて防ごうとしたドラゴンだが、そこに隙が出来る。
ボロボロになったタオが、完全に無防備になった逆側の腹に、ハンマーを叩き込んでいた。
一瞬、ぐらつくドラゴン。
そこに、レントが剣を振り下ろし。ついに、翼の一部を抉り斬っていた。
鋭い悲鳴を上げるドラゴン。
それでも、逃げようとしないのは。狂気に落ちていても流石だ。
傷つきながらも回転し、尻尾を振るってレントとタオを同時に吹っ飛ばす。だが、それこそ。
あたしが待っていた瞬間だった。
ドラゴンが。完全に二人に気を取られる瞬間。
あたしが。
それを投擲していた。
しまったと、顔を上げるドラゴン。上空にて、あたしが安全装置を解除した。ごっつい育ちすぎたクーケンフルーツほどもあるそれが、炸裂する。
それは最大級まで火力を増幅したレヘルンを、ルフトの技術で圧搾し。一点に集中する爆弾。
要するに冷気に指向性を持たせ、空気でも凍るようなそれを一点に叩き付ける代物である。
熱魔術使いのあたしだから分かる。
こんな凶悪な冷気、どんな呪文詠唱したって、一瞬ではドラゴンだろうが悪魔だろうが絶対に現出できない。防ぐ事だってできない。
死の氷の矢となったそれは。
つららが一瞬で出来るようなおぞましい光景とともに、ドラゴンを上から押しつぶし、その魔力防御を貫通していた。
ドラゴンが、地面に叩き付けられ。血反吐を吐く。
本当なら、これで一瞬で氷付け、と思ったのだが。
以前使った発破用フラムの技術も応用して、空気の壁も作ってドラゴンだけに冷気が行くようにすらしているこの爆弾にすら。
ドラゴンは耐え抜き。それどころか凄まじい気合いを込めた咆哮とともに、冷気の槍をブチ折っていた。
あたしが奥歯を噛みしめる。
分かっている。
ドラゴンの事だ。これすらも防ぎ切る可能性があると言う事は。だから、これは切り札ではあるが。
必殺の技ではない。
レントが既に仕掛けている。
周囲に、真冬のような冷気が解放されるなか。流石に強打を食らって地面にて伏せているドラゴンに、一撃を叩き込む。
通る。
魔力の鎧で防ぐどころではなく、鱗も今の急速冷凍でカチンカチンに固まっている状況だ。
レントの剣での一撃が、ドラゴンの背中をたたき割る。
悲鳴を上げて、全身を揺すり。レントを吹っ飛ばすドラゴンだが。
レントはむしろ、今のドラゴンの行動を利用して、飛び離れていた。
ばっと、逆側を見るドラゴン。
流石に戦い慣れている。
そっちからは、水平に殆ど飛んでくるタオ。ハンマーの攻撃を二度も貰って、かなり警戒している。
だがタオは、サイドステップして即座に離れる。
気付いたはずだ。
ドラゴンが、あたしを見る。
クラウディアが、笛すら使わず、歌うことで全魔力で音魔術を展開。
文字通り天の歌声と言う奴だ。澄んだその声は、凄まじい生の魔力を帯びていた。
あたしの全身に、力がみなぎる。あたしだけに向けて展開した、収束型身体強化音魔術。強化されるのは筋肉だけでは無い。
残り少ない魔力もだ。
あたしは、周囲を押しのけるほどの魔力を放出しつつ、詠唱を既に完了していた。
あたしが手をかざした上空にあるのは、熱の杭。
普段は分散してぶっ放す熱魔術を、それこそクーケン島にたまにくる行商の巨大船くらいは貫く熱の杭として、一点収束させたのだ。
普段だったら、高熱はドラゴンに通じる事はないだろう。
だが、アガーテ姉さんとウラノスさんが痛打を入れて。
あたし特性の必殺冷気爆弾……竜の冬とでも名付けるか。それを叩き込んだ直後。
こいつを喰らったらどうなるか。
熱の杭が、ドラゴンに襲いかかる。ドラゴンは最後の力を振り絞ってブレスを放とうとして、出来ないのに気付く。
あの冷気爆弾の直撃を喰らったんだ。
ブレスなんて、吐けるものか。
だがそれでも、即座に切り替えて。全力で、魔力をひねり出し。収束して熱の杭を防ごうとする。
そして、ちいさなラウンドシールドくらいの魔力の盾が作り出されて。
叩き落とされた熱の杭と、激突していた。
とんでもない熱波が、周囲を蹂躙する。ラウンドシールドくらいの大きさだが、それでもドラゴンの残り魔力を収束したシールドだ。簡単には貫通できない。
あたしが冷や汗を流す。
これを防ぎ切られたら、終わりだ。
レントは剣を杖に、立っているのがやっと。
タオは床に伸びて、様子を見ているだけ。
クラウディアは、残った魔力全部を使って、あたしの強化を行っている状態。クラウディアの魔力もかなり強いのだが。
ドラゴンの相手は、流石に悪いか。
拮抗は、十秒ほども続くが。
ドラゴンが、血反吐を吐く。
あたしも、頭の血管がブチ切れて、鮮血が流れ出すのが分かった。
根比べか、いいだろう。
最悪の選択をしたことを思い知らせてやる。
アガーテ姉さんとお母さんに、何度も一晩中正座で説教されたあたしに、根比べで勝てると思うな。
何度も吹っ飛びそうになる意識。
少しずつ、確実に弱まっている熱の杭。
だが、あたしは焦らない。
クラウディアが、背中を押してくれている。
レントとタオが、隙を作ってくれた。
だったらあたしは、絶対に。
狂ったドラゴンなどには、負けるものか。
気迫の雄叫びを上げる。
ドラゴンも、それに凄まじい咆哮で答える。
その力と力のぶつかり合いが。ついに終わる。
ドラゴンのシールドが、砕けるのが見えた。
あたしの熱の槍が、ドラゴンを串刺しにする。死の時、ドラゴンの目から狂気が消え。むしろ、あたしに感謝するような視線を向けていた。
ごっと、熱の柱が立ち上る。
ドラゴンを撃ち抜いた熱の杭が。
ドラゴンの全身を体内から一瞬にして蹂躙し尽くし。炭クズにし。
残った余剰熱量は、上空にて十字を作っていた。
へたり込むあたし。
背中をささえてくれたクラウディアが。必死に何か叫んでくれているのが分かるが、聞こえなかった。
意識が遠のいていく。
あれほどの魔力勝負をしたのは初めてだ。
だから、あたしも。
自分の限界を超えていたようだった。
意識が戻る。周囲では、護り手達が走り回り。あたしが先にストックしておいた薬を使って、治療に当たっているようだ。
ドラゴンの死体は、炭の塊になってその場に転がっている。
ぶすぶすと煙を上げている様子から、それに石畳が一部溶岩化している事からも。あたしが如何に無茶な魔力を叩き込んだのかが、一目で分かった。
なんとか、勝てた。
でも頭が痛い。だらだら血が流れていた記憶がある。まあ、頭が痛いのも当然だろう。
レントが瓦礫を持ち上げて、下敷きになった護り手を救出している。アガーテ姉さんが、こっちに来るのが見えた。
何か言っているようだが、ちょっと聞こえない。
慌てた様子で周囲に声を掛けているけれども。
あたしは、別に大丈夫と言おうとして。また意識が落ちていた。
再び意識が戻ったときには、もう夜になっていた。既に救出作業は完了。護り手達が、周囲で火を焚いている。
あたしも、音が聞こえるようになっていた。
クラウディアが側で眠っている。タオも。
レントだけ、起きていた。
「ライザ、大丈夫か」
「被害状況は?」
「なんとか全員無事だ。 ただ、ウラノスさんは……」
「そう……」
それはそうだ。
ドラゴンへの決定打を叩き込んだのは、間違いなくウラノスさんだ。
あの魔術。寿命を削ったものに間違いなかった。
ウラノスさんは、死んではいないようだが。
見るだけで分かる。
魔力の大半を使い果たしてしまっている。もうあれは、護り手として前線に立つのは不可能だろう。魔術師としてのウラノスさんは、もう前線には立てない。それが一目で分かった。
それでも、この島にとっての直接的な脅威になり得たドラゴンを仕留めたのだ。
ウラノスさんは、最高の勲を挙げた。
それに、ドラゴンの鱗をブチ抜いたアガーテ姉さん。
本物の騎士だ。
王都にいるどんな騎士にも負けないだろう。
二人が先に、ドラゴンに痛打を入れていなければ。勝利なんて、万に一もなかったと見て良い。
大きく溜息が漏れる。
それが分かっていても、とても苦い結果だ。
ドラゴンも、最後に感謝しているように此方を見ていた。起きだす。額を拭った跡があった。
「悪いが、薬がたりねえ。 コアクリスタルってのから出してくれるか」
「分かってる」
周囲からは、まだうんうん唸っている声が聞こえる。
ボオスはと聞くと、無言で向こうで座っているそうだ。無事だったことは分かっている。今は、それで良いとする。
まだ、クーケン島に迫っている脅威は幾つもある。
一つを排除しただけで、安心は出来ないし。
それでいがみ合っていては、意味がないのだ。
薬をコアクリスタルから取りだして、周囲に配る。アガーテ姉さんは流石だ。薬を使うと、すぐに包帯をとって。動く事も出来る様子だった。
「見事な戦いだったようだな。 もう私を完全に超えたと見て良い」
「そんな。 アガーテ姉さんが先に致命打を入れていてくれたから、ドラゴンと戦えたんですよ」
「そうだな……。 その代わり、お前に貰った剣を失ってしまった」
「実は今作れる最高の剣をもう用意してあります。 後でアガーテ姉さんにプレゼントします」
そうかと、アガーテ姉さんはほろ苦い笑みを浮かべる。
何もかも、行き違いだったのだ。もしもブロンズアイゼン製の武器がアガーテ姉さん達に渡っていたら。
結果は、もう少し楽だったかも知れなかった。
タオとクラウディアが起きて来た。
クラウディアが、わっとあたしに抱きつく。心配したんだからと大泣きされたので、凄く困った。
とにかく、これからの話をしなければならない。
クラウディアには泣き止んで貰わないといけないが。
なんだろう。
どんな悪戯をした時よりも、罪悪感が大きかった。
メタな話。
……原作アニメ版だと、此処で終わってしまったんですよね。
アニメ版、二期をやって残りの話をやってくれないかなあ。