暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
クーケン島の保守的な勢力もこれに荷担しますが……
原作でもある、もっともクーケン島への悪印象を受けつける話ですね。限界集落と言われるのも当然に思えます……
序、村会
アンペルさんをつれて。皆で村会に出る。
村会。
クーケン島でもっとも大きな高台に土地を持っているブルネン家の邸宅で行う。島の決定会議だ。
ブルネン家の邸宅は、無駄に庭園とか作っていたりしていて、あからさまに造りが豪華である。
なお、クラウディアもルベルトさんに行ってくるように言われていた。
こう言う場所でのやりとりを見て学ぶようにということだった。
ともかく、五人で出向くと。
古老は忌々しげに視線を逸らし。
モリッツさんは、あからさまに媚びる色を視線に浮かべた。
「おお、ライザか。 ドラゴンを斃してボオスを助けてくれたと聞く! 本当に、本当にありがとう!」
「もう少し待てなかったんですか? ウラノスさんは現役引退、死者が大勢出ていても不思議ではなかったんですよ」
がつんと正面から言ってやる。
面子を潰す事になるかも知れないが。
こればっかりは許せない。
というか、人命に優先する面子って何だ。
この島を何十年も護り続けて来たウラノスさんは、今回の件で魔術師として再起不能になった。
それどころか、未来を担う護り手が、大勢死ぬ所だった。
そんな間違った指示を出したモリッツさんが、今回は責任を取るべきだ。
あたしは、一歩も引くつもりは無い。
「そ、それは。 すまない。 私も、島を守るために、苦渋の決断をしなければならなかったんだ」
「……」
「ライザ、良いだろうか」
アンペルさんが前に出る。
アンペルさんを見て、ひそひそ話す周囲の人達。
あれが怪しい流れ者だ。
そういう言葉が聞こえてくる。
その流れ者がいなければ。
ドラゴンにこの島は蹂躙されていたし。
そうでなくとも、ほぼ確定でフィルフサに食い尽くされていた。
そう怒鳴りつけてやりたいけれども。これは絶対に口にしないようにとも言われている。
アンペルさんは、ライザを信用したから話をしてくれたのだ。
既に同士として見られている。
その信頼を。
裏切る訳にはいかなかった。
「私はアンペル=フォルマー。 ライザの師をしている錬金術師です」
「お、おお。 貴殿が……」
「ライザの成長は私から見ても素晴らしい。 恐らく、遠くない未来にあらゆる意味で私を超えるでしょう」
「そ、そうですか。 ははは……」
アンペルさんにそう言って貰えると嬉しいが。
しかし、モリッツさんは明らかに素早く周囲の反応を見て、計算をしている。
咳払いをすると、アンペルさんは言う。
「今回の一件、調査した所、古代の遺跡が関与している事が分かりました」
「ほ、ほう」
「聞いたことはあるかと思います。 古代クリント王国の遺跡です。 あの竜の住んでいた城は、まるごと古代クリント王国時代の遺構……城塞でした。 そして彼処にあった石版には、竜を凶暴化させる効果があったのです」
「なんと……」
感心した様子でモリッツさんが応じる。
まあ、此処までは事実だ。
さて、アンペルさんはどう出る。
アンペルさんは、今までダーティーな手も問わずに門を閉じてきたと聞いている。今回の村会は、恐らく何とも思っていない筈だ。
或いは、ブルネン家に何か譲歩を引き出すつもりなのか。
「そしてこの島も、調べて見た所、彼方此方に古代クリント王国の遺跡が残されているようですな。 島そのものが遺跡の塊といってもいい」
「ははは、私には分かりませんが……」
「いや、分かっている筈だ。 その中心地が此処なのだから」
「……っ!」
モリッツさんが、青ざめた。
ざわざわと、周囲がざわめく。
古老が叫んだ。
「やはりブルネンの、貴様何か隠しておるな! 竜様が暴れ出したのも、さては貴様の仕業か!」
「そ、そんな訳はない! わしは息子を二度も殺されかけているのだぞ!」
「どうだか! それにそこの呪い師だって、どこまで本当の事を言っているか!」
激しくまくし立てた古老が、咳き込む。
古老の側についている老人が何名か、ぎゃあぎゃあとわめき出す。
モリッツさんが、解散だ、解散と叫び。一気に村会はカオスと化した。
モリッツさんの手下になっている若いのが、村会を強引に閉じた。半ば力尽くで、老人達を邸宅から追い出す。あたし達も追い出そうとしたが、ドラゴンを倒した事を聞いているのだろう。
睨むと、うっと呻いて手を引っ込める。
「ちょっと! まだ話すことが!」
「わ、わしは何も知らん! 村会は終わりだ! 解散、解散っ!」
いずれにしても、これでは村会どころではないだろう。
追い出された老人達を見ていたが、アンペルさんが促すので、一緒に出る。
全員が邸宅から出ると。
ガシャンと扉が閉じていた。
ふっと、アンペルさんが笑った。レントは、暴れないように言われていたので、ずっと静かにしていたが。
呆れた様子で、側でアガーテ姉さんが溜息をつく。
「村会に出てくれたと思ったら、いきなりなんだ」
「アンペルさん、どういうことですか?」
「ブルネン家が何かを隠しているのは事実だ。 そして、それを暴かれた以上、誰かに何か責任を押しつけようとするだろうな。 例えば、怪しい流れ者の私とか」
「えっ……」
タオが驚いてずれた眼鏡を直す。
つまり、それを分かっていた上でアンペルさんは自分にヘイトを集中させたという事になる。
だが、何となく分かった。
このままだと多分だが。
そのヘイトは、あたし達に向かっていたのである。
「貴殿はライザの師だと聞くが、何が目的だ」
「この地には、今ドラゴンなど比にもならない災厄が訪れようとしている、とだけ言っておきます」
「何だと……」
「これから私はライザ達とともに動きます。 少なくとも……貴殿と護り手は、私達の邪魔をしないでいただきたい」
アガーテ姉さんはしばし黙っていたが。
あたしの表情を見て。
ため息をついていた。
「その様子だと、ライザは全て知っているな」
「ごめんなさいアガーテ姉さん。 これ本当にやばくって……当事者以外は危険すぎて巻き込めません」
「それほどの事態か……」
「後で話します。 少なくとも、この事件が解決したら」
アガーテ姉さんは頷くと。
一人、戻っていった。
ウラノスさんを見舞いに行くのかも知れない。ウラノスさんはエドワードさんの医院に、これから恐らく亡くなるまでずっとかかりっきりだ。
酷い村とかだと、もう用済みとして。こういう人は放り出される事すらあるらしい。
クラウディアが、見聞きした話だ。
幸い、クーケン島はさっき村会で見たように派閥が腐りきっていても。そこまでは腐りきっていない。
モリッツさんの動揺も、あからさま過ぎるくらいだった。
あの人は、根っからの悪党では無い。
元々島に新しいものを誘致している時点で、島のことを考えてくれている人なのである。それに、大きな邸宅を持っていても。威張り散らしても。
他の人の家を取りあげたりするような事は今までなかったし。
家財産を奪われて、路地裏で家もなく暮らしているような人もクーケン島にはいない。
クラウディアは、そういう人をたくさん見て来たと聞く。
だったら、この島はまだマシ。
例え因習に凝り固まっていて。
老人の頭がカチカチでも、だ。
「さて、ライザ」
「はい」
「これより動くぞ。 ブルネン家は恐らく、自分のシンパを抱き込んで、私に無理難題か……もしくは言いがかりをつけてくる。 そして、本来だったら打つ手が分からなかっただろうが、今はそれがある程度限定できる。 そう、不漁と魔物の問題だ」
「最初から、この事態を読んでいたんですね」
頷くアンペルさん。
ちょっと悪い笑みを浮かべていた。
この程度は朝飯前。
そう顔に書かれていた。
そもそもアンペルさんは、普通の人間より長生きしていると聞いている。そして彼方此方で修羅場をくぐっているという話だ。
それだったら、こんなちいさな島でのこの程度の騒ぎ。
なんぼでも経験があるのかも知れない。
「丁度不漁で漁師達が音を上げてきている筈だ。 例のものを使って、一気に不漁の問題も片付けるぞ」
「分かりました」
ライザは、レントとタオ、クラウディアも促して一度戻る。
荒事になるかも知れない。
流石にドラゴンスレイヤーになったライザ達を暴力で制圧しようと考えては来ないだろうし。
何より懸念事項だった護り手は、あたしがドラゴンと戦うのを見たし。あたしのおかげで助かりもした。
勿論柄が悪い護り手もいるが。
それでも流石にこの間助かった恩を仇で返すほどの恥知らずはクーケン島にはいない。あたしは少なくとも知らない。
家には戻らない。
クラウディアだけはちょっと話をしたいというので、ルベルトさんの所に向かう。
ルベルトさんも、非常にきな臭い空気になったのを感じているらしく。荷物を整理させていた。
最悪の場合、島から脱出するためだろう。
メイドのフロディアさんが、てきぱきと残像すら作りながら動いているのを見て、ある意味呆れた。
もの凄く、手慣れているからだ。
流石にフィルフサ周りの事は言えないが、ある程度話はルベルトさんにもしておく。
それが筋を通すことだと思ったから、である。
「なる程な、ドラゴンを操っていたのは古代クリント王国の自動装置だった、か」
「はい、間違いありません。 解読もして来ました。 現時点では残念ながら、止める事はできません。 ドラゴンを攻撃に駆り立てる「条件」をどうにかしてとめないと」
「それを探すために、ブルネン家の邸宅を調べたい、か」
「それにはモリッツさんから譲歩を引き出すしかありません。 勿論表立ってでなくてもいい。 護り手は味方につけました。 古老は多分無理ですが、漁師の半分も此方の味方になっています」
ルベルトさんは考え込むと。
アンペルさんを一瞥だけした後、顔を上げた。
「分かった。 その後どうにか出来る算段があるんだね」
「はい」
「そうか。 ただ、バレンツ商会は介入は出来ない。 過剰すぎる貸し借りを作ると、色々と良くないのでね」
「勿論です。 中立でいてくだされば充分です」
これらの言葉は、事前にアンペルさんと決めていたことだ。
あたしだって、散々大人とやり合ってきているのだ。
ある程度、会話くらいは出来る。
タオに任せても良かったのだけれども。
ここではレントは用心棒。
タオはあくまで参謀だ。
レントもタオも、主導で事を動かしているあたしがやるべきだと言った。クラウディアも、それに同意した。
だから、あたしが前面に立つ。
それだけの話である。
「分かった、バレンツ商会は中立でいよう。 ただ、クラウディア。 最悪の事態には、備えておきなさい」
「分かったわ、お父さん」
「うむ……」
後は、バレンツ商会から離れると、島を一度出る。
準備が色々いるからだ。
それと、帰り際に護り手の詰め所に出向いて。アガーテ姉さんに剣を渡しておく。
ブロンズアイゼンの剣だ。既にアガーテ姉さんの癖とかは掴んでいるので、調整は必要ない。
手にしたアガーテ姉さんは、目を細めていた。
「これは良い感触だ。 王都では更に良い金属で作られた武器を見た事もあるが、この剣自体は王都の騎士が持つものよりも更に総合力で上回るぞ」
「有難うございます。 もっと改良したのが出来たら持ってきます」
「ああ、頼む。 これで……もっとできる事が増えるな」
アガーテ姉さんも剣士だ。
だから、良い武器を手にすれば嬉しいのだろう。他にも、幾つか剣か槍を護り手に渡しておく。
時間を見て、ブロンズアイゼンの装備を幾つか作って置いたのだ。調整は各自でやってもらう。
調整をこっちでやる時間がないからだ。
後は島に戻り。
薬などを補充しておく。
ドラゴンほどではないだろうが、それでも外海の魔物が相手になる可能性が極めて高いのである。
あらゆる準備が必要だった。
リラさんは留守にしている。フィルフサの斥候をつぶしに出ているのかも知れない。
いずれにしても、あの人は人間の常識外にいる戦士だ。まだあたし達では及ばない。あの人が斃されるようなら、もうその相手には何もできない。
準備をしたあと、細かい打ち合わせに移る。
この後、やる事が幾つもある。
それを見越しての、作戦会議はしておかなければならなかった。
ボオスの所に、父が来る。
父は恐怖と狼狽で、顔を歪めていた。
「ボオス、家族会議だ」
「一体何があった」
「まずい、まずいぞ。 島がブルネン家の手を離れるかも知れない」
「……」
疲弊しきっているボオスも立ち上がると、居間に出向く。
他の島の住民とは比べものにならない大きな家だが。
これがクーケン島に古くからあるもので。勝手に手を入れて。勝手に家にしているものだということを、ボオスは知っていた。
邸宅とは笑止な話だ。
この建物が、もとは何だかも分からないのだから。
自分のような滑稽さだな。
そうボオスは自嘲していた。
父はまくし立てる。
流れ者に対して、どうするべきか考えなければならないと。此処にはボオスと父しかいない。
母はもうとっくに死んだ。
年齢的には不思議な話ではない。古老のように長生きするのが例外で、50を過ぎればいつ死んでもおかしくない。40を過ぎても、人によっては死ぬ。
体が弱かったボオスの母の記憶は、殆ど覚えていない。
ただ父の行動にいつも悲しそうな視線を向けていたことだけは覚えている。
責任感が強く。
ただ体が弱くて、それに体がついていかない人でもあった。
「と、とにかくブルネン家を守らなければならん。 ドラゴンを斃してくれたシュタウトのあれの師匠ではあるが、どうにかして追い出さないといかん。 恩知らずな事はしたくないが、手段は選んでおられん」
「もう止めたらどうだ」
「そうも行くか。 お前は知らないんだ。 没落した名家の人間がどれだけ惨めな目にあうか」
「……」
母も。遠くから嫁いできたらしい母も、そんなもと名家の人間だったらしい。
悪辣な統治で集落を追われ、極貧生活をしていたそうだ。
父が見初めて結婚したが。その時には体にどうしようもない負荷が蓄積しきっていて。
それであまり長生き出来なかった。
恐らく母に、そういう話を聞かされていたのだろう。ボオスは更に暗澹たる気持ちになる。
そもそもボオスが今のままブルネン家の跡を継げば。
島中の総スカンを食らって、暴君の烙印を押される事は確実だ。
そんな事はボオスだって自認できている。
だから、手詰まりだと感じてしまう。
「そうだ、不漁の事があったな。 あれを錬金術師どのの責任にしよう」
「失敗すると思うぞ。 ライザの成長速度は見ている筈だ。 短期間で良い薬を作る、程度からあのドラゴンを斃す所まで行っている。 不漁くらいは、解決しかねん」
「なんと……」
「悔しいが、今の俺ではあいつに……」
言葉を詰まらせるボオス。場を重い空気が包むが。
父は、それでもやるのだと言った。
「とにかく、試すしかない! ボオス、お前は若い衆を使って、不満を持っている漁師達をたきつけろ。 それが出来たら、私が錬金術師殿に召喚状を書く!」
「村会でつるし上げて追い出すつもりか」
「それしかない! この邸宅を、訳が分からない輩に荒らされたら、何が起きるか……」
父は憶病な人間だ。
だから滑稽なくらい肩肘を張っているし、威厳を出すために似合いもしない髭まで生やしている。
着ている服だって、自分で手入れも出来ない王都の絹服だ。あのバレンツのお嬢さんが着ているような。
親父やバレンツのルベルトが着ているのはビジネススーツとかいうらしいが、これらの服の製造技術は、再現が出来ないものらしい。いわゆるロストテクノロジーであり、作る機械が壊れたら終わりという儚いものだそうだ。
今のブルネン家のようだなと、ボオスは思った。
「分かった。 ただ、「俺が主導した」と言う事にしてくれ」
「何?」
「失敗したら全て俺のせいにしろ。 ……養子を取るか新しい妻を娶るか、今のうちに考えておくんだな」
「な、ボオスお前……」
ドラゴンに手も足も出なかった。
それでボオスの何かが、決定的に折れた。
アガーテやウラノスでも手も足も出なかったというのは何の言い訳にもならない。二人とも、ライザがドラゴンを斃すのに最大級の貢献をした。ウラノスに至っては、全ての力を絞り尽くして、寿命まで犠牲にして隙を作った。
アガーテは、ドラゴンの鱗を貫く攻撃を叩き込み、だめ押しまで入れた。
ただブレスに吹っ飛ばされてそれだけで身動きも出来なくなったボオスとは、全く違った。
あの場にいた役立たずは、ボオスだけだった。
もう、俺はいらない人間だ。
そう、ボオスは考えていた。