暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
島に渡る間が、非常に緊張した。
あたしが見つけて来たこの襤褸船。そろそろ改造した方が良いかも知れない。もしも魔物に襲われたらひとたまりもないし。
季節によっては時化だって来る。
あたしは漁は出来るけれども、どうしても泳ぎ……水……それに着衣泳には抵抗がある。
あの時の事件が絡むからだ。
それに自衛能力を身に付けた今も。
水中にいる魔物には、どうしても大きな苦手意識がある。
水中の魔物は数は少ないが、獰猛極まりない。
何より大きくて恐ろしい。
今でも、たまに船から見下ろすと、ぶるっと震えが来ることがある。
ただ、船は浮かぶために様々な計算をして作られている。簡単に金属の装甲で覆えばいいわけではない。
島にいる船大工と相談もしなければいけない。
いずれにしても、すぐに何でも出来るわけではないのだ。
島に到着。
相変わらず空気は良くない。もう村会は始まっているようで、高台から声が聞こえていた。
それも、あからさまに威圧的な声で。
それが余計に滑稽極まりなかった。
既にあたし達がドラゴンを倒した事は、クーケン島全域に伝わっている。お父さんとお母さんは、それを聞いてあまりいい顔をしなかったようだ。
若すぎるうちに巨大な武勲を立てると駄目になる。
そういう考えもあるのかも知れない。
だけれども、あたしはあれが自分一人でやった事だとは考えていないし。
あのドラゴンはまだ若い個体で。
もっと恐ろしいフィルフサがわんさかとこの世界に押し寄せようとしている事を知っている。
勿論アンペルさんとリラさんが嘘をついている可能性だってあるかも知れないが。
あの二人の行動には、どうにも嘘が見えないのだ。
一度、皆を集めて話はしたが。
タオも信じて良いと思うと、断言していた。
そうなると、あたしが疑って掛かっても無意味だろう。
それにこの醜い村会。
はっきり言って反吐が出る。
「アンペルさん、その」
「ははは、問題ないさ。 いざとなったら地力で脱出する。 その時のための事を、自分達で考えておきなさい」
「アンペルさん、修羅場信じられないくらい潜ってるんだな」
「ああ。 この程度、暗殺者を向けられていた頃に比べればなんでもない。 あの頃はリラもいなかったし、本当に危ない目に何度もあったからね」
そうか。
暗殺者というのは基本的になんか怪しい集団とかそういうのではなくて。子供や老人、普通のおじさんおばさんなどに扮して近づいて来て、不意を突いてくるものであって。特殊な能力とか、超人的な力とかは別に持っていないらしい。
アンペルさんはそういうのを知っていたから、やり過ごすことが出来たらしいが。
そうなると、普通の人間の感覚で一世代以上。
散々苦労を重ねたのだろう。
それはこの程度の村会なんて、何ともないと感じてもおかしくない。
やがて、ブルネン家の邸宅に出向く。
アガーテ姉さん達が腕組みして、黙り込んでいる。
白髭おじいちゃんも。
他にも、あたしの薬の世話になった人が、かなり沈黙を貫いてくれているようだ。
それに対して、見苦しく古老がわめき立てている。
「島に新しいものを考え無しに入れているから、災厄が起きるんだ!」
「ほう、ならば新しい血を島に入れるのも防ぐべきだと?」
「そ、それは……程度というものが!」
「どの辺りが罰の当たらない程度だと? 島の子供に体に不自由な者が増えて、新しい血をいれる事を決定したときにも、そのような反対意見が出る事が多かったと聞いていますが」
白髭おじいちゃんが言うと。
そうだそうだと、漁師数名が賛同する。
頼もしい。
あたし達に気付くと、古老はじっと黙り込む。
刺し殺すような視線を向けてくるけれど、どうでもいい。
ボオスもいるが、完全に青ざめて黙り込んでいる。
やっぱり。
死ぬ気なのかもしれない。
モリッツさんも来る。やっぱりこっちも窶れている。
相当に厳しい話をした後だと言う事は、一目で分かる。そして、あたしではなくて、アンペルさんにいきなり話しかけた。
「錬金術師アンペルどの、召喚状に応じてくれて感謝する。 貴方はドラゴンを斃したライザの師なのだろう。 もしも捕らえなければならなくなった場合、どれほどの被害を覚悟しなければならなかったか……」
「何、その場合は其方には被害など出させませんよ。 それよりも、この召喚状、名前だけ変えて丸写ししましたね。 この辺りには関係無い地名などが紛れていましたが」
「うっ、そ、そうか。 もう少し色々と勉強しておこう」
「そうですか」
口を押さえてそっぽを向く者数名。
まあ、そうだろうな。
モリッツさんは王都にいったことがないと聞く。
ブルネン家の人間は、王都に「留学」した人間が今までに何人かいるらしいのだが。この手紙は、その時に手に入れたものなのだろう。
だとすれば、マナーをそのまま丸写しするのも当然に思う。
ましてやモリッツさんの先代は、女傑として知られていたのだ。
「ブルネン家の男が」だのと散々仕込まれたモリッツさんは、一生涯頭が上がらなかっただろうし。
この手紙が先代の持ち込んだものだとしたら。
開くだけで冷や汗が出ただろう。
「それよりも、何用で。 今、島は大変な事になっている筈ですが」
「その大変な事……記録的な不漁が、貴殿の仕業では無いのかという噂があるのだ」
「ほう」
「外海の魔物が関係していることは認めよう。 漁師にも目撃例がある。 その魔物を、貴殿が操っているのでは無いか、というのだ。 それで貴殿らを追放せよという声が上がっていてな……」
モリッツさんが周囲を忙しく見回す。
こういう動作を見ても、非常に小心な人なのだと言う事がよく分かる。
余裕が出てくると、色々と見えてくるものだな。
そうあたしは感じてしまう。
モリッツさんは昔は漠然と嫌な人で、乾期に威張る人くらいの印象しかなかったのだけれども。
アンペルさんとリラさんという、修羅場という修羅場を潜りまくってきた人達に軽く教えを受けただけでこれだ。
更には、クラウディアから細かく島の外の情勢も聞いている。
そうなってくると、モリッツさんには。何とか先進的なものを取り入れて、島を自分なりに良くしようとしている小心なおじさん。そういういう印象しか浮かばなくなってくる。
まあ昔から、戦闘をすれば瞬殺出来ることは分かっていたが。
それはそれとして、今は底が見えた印象だ。
ただだからといって、侮るつもりは無い。
相手の立場が上だとも、思わないが。
「魔物が出ていることは認めるのですな」
「そうだ! 竜様もこの怪しい呪い師が操ったに違いない!」
古老が喚くと。
年老いた人が、何人かそうだそうだと叫ぶ。
古老はモリッツさんとは対立しがちな立場だけれども。
それはそれとして、こう言うときは利害が一致するわけだ。
アンペルさんが肩をすくめる。
「馬鹿馬鹿しい。 ドラゴンを自在に操れるような力があるのだったら、ドラゴンをこの邸宅に降ろしますよ」
「なっ……」
「そうなればもう誰にも抵抗は不可能だ。 わざわざ島の周囲を飛ばして嫌がらせをするような意味がない」
「た、確かにそれはそうかも知れないが、それはそうとして完全には操れないのかも知れない!」
モリッツさんは、分が悪いことは理解出来ているらしい。
だけれども、もう後には引けないのだろう。
それに、だ。
そもそもボオスやランバーを使って悪評を撒く時点で。
実際には、アンペルさんが何もしていないことは理解しているのかも知れなかった。
そうなってくると、ボオスだ。
昨日見たとき、疲弊しきった顔をしていたが。
かなり心配になってくる。
クラウディアには話しておかなければならないだろう。
だが、それもこの茶番が終わった後だ。
今は、この村会で、決定的な事を勝ち取らなければならないのである。
「ではこうしましょう。 私はこうやって装備を外し、両手を挙げています。 魔術も発動しておりません。 見えますな、魔術を発動していない事は。 そこのご老人は魔術師と聞く。 ならばなおさら見えるでしょう」
「古老」
「う、うむ。 側にいるライザの方が何倍も魔力が大きいように見える」
「結構。 そんな程度の魔力で、外海の魔物のような巨大な存在を、どうやって操るのですかな?」
今は操っていないかも知れない。
そう叫ぶ古老だが。
次の瞬間、衝撃が邸宅にまで来る。ずしんと、島そのものが揺れたようにすら感じる程だった。
こけつまろびつとでもいうのが相応しい。
邸宅に駆け込んできたのは、港で張っていた漁師達だった。
「た、たたたた、大変、大変だあっ!」
「どうしたっ! 地震なら珍しくも……」
「くだんの魔物だ! 商会が使う大船よりもでかい!」
それが上陸してきたという。
まあ、リラさんが言っていたとおりだ。
魚が捕れなくなれば、人間を狙ってくる。しかも魔物をリラさんは見た事があるらしく、習性も知っているそうだった。
この世界に来て何十年も経っているそうだが。
だとすれば、それくらいのことはもう分かるのかも知れない。
顎が外れそうな顔をするモリッツさん。
露骨に狼狽する古老。
アガーテ姉さんが、大きくため息をついた。
「モリッツ殿」
「あ、う……」
「古老、どうですか。 アンペル殿に魔力などの変動は見られますか」
「くっ……み、見られん!」
アガーテ姉さんが、あたしに頷く。
人間を喰らいに来ている魔物だ。
すぐに対処しなければ、島に記録的な被害が出る。
港のすぐ近くに旧市街がある。其処には老人や子供もたくさんいて、すぐに避難なんて出来ないのだ。
「モリッツさん!」
あたしが叫ぶ。
モリッツさんは、露骨にうろたえる。
あたしは、更に続けた。
「どんな魔物でも、ドラゴンよりは劣るはずです! あたしに正式な指示を出してください! それとこのばかげた村会の……アンペルさんの追放の撤回を!」
「ま、まて。 そ、その」
「急いでください! 魔物は商会の船よりも大きいという話です! 人が襲われたら、それこそひとのみです!」
「……分かった。 ライザ、レント、タオ。 それに、バレンツのお嬢さんにも協力願いたい! アガーテも行ってくれるか。 島を襲ってきた魔物を退治してほしい!」
モリッツさんが、青ざめながらも決断してくれた。
それでいい。
「承りましたっ! もう一つ!」
「分かっている。 アンペル殿の追放だのは撤回だ! 此処で無実を古老も証明してくれたからな!」
「わし!? ……く、くううっ!」
いきなり責任を押しつけられた古老が目を白黒させる。
いい気味だが、今は見ている余裕が無い。
すぐに走り出す。
アンペルさんが、行ってこいと視線で送っていた。アンペルさんは、任せてくれると言う事だ。
ただ、アガーテ姉さんは冷静だった。
「タイミングが良すぎるな。 ライザ、お前何か仕込んだのではないか?」
「まさか」
「分かった、聞かないでおく。 それにアンペル殿が言った通り、島をどうこうしたいのなら、あの邸宅にドラゴンを降ろす方が楽だ。 そうでない事自体が、ドラゴンを操って等いない証拠ではあるな」
「それより、見えてきたぜ!」
レントが声を張り上げた。
それはあたしとしては、かなり苦手な相手だ。
魚のように見えて、もっと体がずんぐりしている。背中に鋭く見えるひれ、アレはサメのそれによく似ていた。
それでいながら、陸上にも平然と上がって来ているようだ。
リラさんが行動を先読みして、前にあたしが作った誘引用の薬で引き寄せたのだろう。しかもこの完璧なタイミング。
まさにあうんの呼吸と言う奴だ。
本当に、さっさと夫婦にでもなればいいのに。
そうあたしは思う。
タオが呻く。
「信じられないくらいでかい……!」
「古城のドラゴンより大きいね!」
「なに、それでもドラゴンに比べれば雑魚! 身に纏っている魔力なんて、比べものにならないほど小さい!」
荷車から、装備を取りだす。
あわてて駆けつけてきた護り手を、アガーテ姉さんが下げる。
ここで戦えるのはあたし達以外だとアガーテ姉さんくらい。
それもアガーテ姉さんも、ドラゴンに振り回されて壁に叩き付けられた直後である。万全ではない。
魔物が、鈍重に陸上を這いずりながら、人間を明らかに見定めている。
これ以上進ませる訳にはいかなかった。
「ライザ、指示はお前が出せ。 此処で奴を仕留める!」
「了解!」
前衛はレントとアガーテ姉さん。
あたしが爆薬でメインアタッカーをやる。
タオとクラウディアは支援。
これで、倒せるはずだ。
まずは、挨拶代わりだ。
あたしがフラムを。改良を重ねているフラムを投げ込むと、それをぼんやり見ていた魔物が。炸裂する超高熱に絶叫していた。
やっぱり水の魔物だ。炎には耐性がない。そのまま、一気に押し切る。
魔物の側を走り抜けながら、エリプス湖を背中にする。
理由は簡単。逃がさないためである。
こいつを逃がしたら、手負いのまま海に出る事になる。そうなったら、どれだけ船が襲われる事か。
魔物が、怒りに満ちたまなざしを向けながら、鋭く体を旋回させて、巨大な尻尾を叩き付けて来るが。
雄叫びと同時に、レントが。
気合いと共に踏み込んで、剣撃で尻尾を弾き返す。
いわゆるパリィだが。
あまりにも大技過ぎて、皆瞠目していた。
「いよっしゃあ!」
「すっご……」
「クラウディア!」
「うんっ!」
皆とは離れて高所を取ったクラウディアが、まずは挨拶代わりに一矢を叩き込む。その矢も、かなり巨大化していて、弾速も上がっている。
ドラゴン戦でやはり更にコツを掴んだのだろう。
矢どころか、槍より大きな一撃が、緩慢に逃れようとする魔物の左目を直撃し。魔物が苦しがってのけぞる。
続けてタイミングをあわせて、タオがもう一つの目を強襲するが。
魔物は体を捻って、驚くほど機敏にそれを回避すると、体を揺らして体当たりをタオに返す。
それでいながら、口からずっと詠唱が漏れている。
これだけの大物の魔物だ。
それは魔術くらい使うだろう。
顔面は鋭い刃のように尖っていて、近付く事すら避けたい。ましてや見えている口は、乱ぐい歯がもの凄く、一つ一つの牙が人間の顔くらいもあるのだ。
あんな口で噛まれたら絶対に助からない。
アガーテ姉さんは、それでも全く怖れず斬りかかり、鋭い剣技で何度も傷をつけるが、相手は巨体だ。
決定打になっていない。
だがそれでも痛いと感じたのか、魔物は跳びさがると、上空に躍り出る。
まさか。
地面に、全身を叩き付ける魔物。
この巨体で、ボディプレスだと。
皆が吹っ飛ばされる中、あたしは魔力をフルパワーで展開して、踏みとどまる。レントが側を、即座に駆け抜けていく。
魔物が吠え猛る。
それだけで、生臭い風が吹き付けられて飛んでくる。
うわっとなるけれども。
その程度で怯むほど、もう柔じゃない。
あたしは続けてフラムを取りだすと、魔物が明らかに反応。投擲すると同時に、魔術を発動した。
フラムが、水の泡に閉じ込められる。
なるほど、熱を発するものだと即座に学習したか。見た目よりも、かなり頭がいいようである。
だが。
その水の泡ごと炸裂するフラム。
さがるようにハンドサインを出していたから、誰も巻き込まれない。
炸裂したフラムが、灼熱と高熱の水を辺りにぶちまける。多少は緩和できたかも知れないが、こんなに効くとは思わなかったのだろう。
魔物が悲鳴を上げてのたうつ。びたんびたんと体が地面を叩くだけで、揺れるくらいである。
こんな奴、市街に入れる訳にはいかない。
飽食の邪悪。
滅びるべし。
あたしは一瞬だけ悩んで、今度はレヘルンを取りだす。レントが、気合いを込めて斬り付け。
アガーテ姉さんが穿った傷を更に拡大する。
だが、調整したばかりのレントの大剣が、傷に食い込みきらずに弾き返される。
とんでもない硬度の皮膚だ。
流石に外海で揉まれていないか。大した魔物だ。
だが、それでも勝てない相手じゃあない。
アガーテ姉さんが、上空に躍り出ると、魔物の背中のひれを左右に一撃で両断してみせる。
ひゅうと、思わず口笛が出てしまう。
魔物が絶叫して。体の右側のひれでアガーテ姉さんを粉砕しようとするが。僅かに見せた腹に、クラウディアがピンポイントの精密射撃を叩き込んでいた。
ぎゃっと、鋭い悲鳴を上げる魔物。
だが、体をちょっと動かすだけで脅威になるような魔物だ。
ぐっと体を反らすと。
今度は、何かを吐き出す。
それが、クラウディアが伏せていた辺りを、一瞬で斬りさく。岩場の高所にクラウディアは陣取っていたのだが。
凄まじい達人が切り取ったかのように、岩が両断されていた。
「クラウディア!」
「無事よ!」
「よし、戦闘を続行! 許さないんだからっ!」
レヘルンを投擲。
形が違う事を冷静に魔物は見抜いたか、それを今クラウディアを切り裂こうとした何かで迎撃してくる。
ブレスか。
いや、違う。間近で見て理解したが、多分高圧で圧縮した水そのものだ。
水は結構重くて、水流などに入ってみると分かるが圧力が結構激しい。
つまり圧縮の度合いによっては、あのような恐ろしい破壊力を発揮する、と言う事だ。
だが、それは悪手。
あたしがレヘルンを起爆すると。
その水が、一瞬で凍り付く。
口の中を凍らされた魔物が、悲鳴を上げてのたうつ。無理矢理かみ砕くが、その口は血だらけだった。
レントが容赦なく、傷口に一撃を叩き込み、抉り込む。
衝撃波が出る程の一撃で、傷口から鮮血が噴き出す。更にタオも、追撃を入れて無事だった方の目をハンマーで直撃させる。
よし、とどめだ。
全員に離れるようにハンドサインを出すと、あたしはプラジグを放り投げる。それも。ありったけ。
魔物が、直上に来た爆弾複数を見て、凄まじい絶叫を挙げる。
また形が違う。
そうなると、迎撃は無理筋だと理解したのだろう。
かっと口を開くと、短時間だけ詠唱して、吹き飛ばしに掛かろうとする。
だが、体を反らせば、無防備な腹を晒す事になるのだ。
そこに、クラウディアがまたピンポイントでの一撃を叩き込む。さっき無防備な腹に叩き込んだ一撃が穿った傷を、更に穿つ。
通り抜けざまに、アガーテ姉さんが更に一撃を叩き込み、腹を鋭く切り裂く。
レントとタオが息を合わせて、腹に更に一撃ずつ。
レントの一撃が、喉辺りから腹に掛けてざっくり斬りさき。タオの全力でのチャージが、文字通り炸裂する。
それでも魔物は巨体で踏みとどまり、上空に向けて今度は空気砲らしいのをぶっ放して、プラジグ複数を消し飛ばす。
だが、別にそれでかまわない。
あたしの使う爆弾は。
プラジグだけじゃあない。
皆が離れる中、魔物が巨体を地面に振り下ろす。良くも腹を好き放題に攻撃してくれたな。
そう言わんばかりに、周囲を薙ぎ払うように水の刃を放とうとするが、その時点で気付いたようだ。
何か、腹に違和感がある事に。
そう。
あたしが投擲しておいた爆弾はもう一つ。
気付いた魔物が。悲鳴を上げて体を反らそうとしていた瞬間には、あたしが投擲済のフラムを起爆していた。
威力も、最初の牽制用とは比較にならない。
それどころか無防備な腹には傷だらけ。
それに、自分で抑え込んでいるから、爆発の威力の逃げ場もない。
ぶくぶくと、魔物の全身が膨れ上がり。
次の瞬間、凄まじい熱が迸り。魔物の内臓が、内側からぶちまけられていた。
文字通り雨のように、大量の魔物の血が辺りに降り注ぐ。
悲鳴を上げながら、それでも動く魔物。
大した執念だが、そうはさせるか。
わっと寄って来た漁師達が、尻尾に縄をくくりつける。
大物を捕まえたときの対処のようだ。
指揮をしているのは白髭おじいちゃん。
そのまま、もがいている魔物を陸にどんどん引きずりあげていく。
あたしは、詠唱を開始。
魔物はまだ生きていたが。とどめをしっかりささないと危なくて仕方が無い。
上空に出現した熱の槍を見て、アガーテ姉さんが叫ぶ。
「皆さがれ! 今のライザの火力は以前の比では無いぞ!」
「ひえっ!」
「巻き込まれた死ぬぞお!」
「逃げろ!」
漁師達が散る中、あたしは魔物の頭に向けて。
全力では無いにしても。
とどめを刺すのに充分な火力の熱の槍を叩き込む。
刃のように鋭く尖った魔物の頭が粉砕される。脳みそが露出し、それでも魔物は死にきれない。
無言で突撃したあたしは踏み込むと同時に。
焼け焦げている脳みそに、フルパワーでの蹴りを叩き込む。
吹き飛ばされた脳みその残骸と脳漿が、辺りに飛び散ると同時に。魔物は、動かなくなっていた。