暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ばかげた陰謀ごっこの時間は終わりです。

ボオスには行き場がなくなりました。


3、ボオスは何処

村会に戻る。

 

勿論皆無傷ではないが。あたしは敢えて最後に血を浴びるように立ち回った。まあそこまで貰った返り血は派手ではないが。

 

クラウディアが、ハンカチを貸そうかと言ってきたが、やんわりと断る。

 

此処は、敢えて威圧的な姿を見せる方が良い。

 

そう判断したからだ。

 

ブルネン邸に戻ると、古老がひっと声を上げた。

 

魔物の頭を蹴り砕いた。

 

それも、商会の商用船よりでかい魔物の。

 

そう漁師達が、先に報告していたのだろう。

 

あたしが浴びているのが、魔物の血だと言う事くらいは理解出来ただろうし。あたしが纏っている魔力が、普段はむしろ抑え込んでいるのだとも、理解出来たはず。

 

それに、魔物との戦闘の余波は、ここにも及んでいたはず。

 

あたしが作り出した爆弾の超火力や、それを迎撃する魔物の攻撃。更には。あたしがフィニッシュムーブで作り出した熱の槍は見えていたはずだ。

 

敢えて、あたしは笑顔を作る。

 

レントとタオが呆れていた。

 

クラウディアは両手で上品に口を押さえているが。むしろちょっと興奮気味なのは気のせいか。

 

ひょっとするとクラウディアは。

 

あたしに出会わなかったら、ワイルドな男に惚れていたのではあるまいか。

 

笑顔を見て、モリッツさんと古老が引きつった。

 

まあそれはそうだろう。

 

護り手が束になっても勝てるか怪しい魔物を、アガーテ姉さんがいるとはいえ、五人で圧倒したのだから。

 

「片付きました」

 

「そ、そうか。 ボオスだけではなく……島のものまで救ってくれたな。 今回の件については礼を言う」

 

青ざめながらも、しっかり筋を通して頭を下げるモリッツさん。

 

この辺りは、本当に育ちが良い事が分かる。

 

筋を通せるのは立派なことだ。

 

それだけで、充分だろう。

 

まあ、あたしの武力を目にしたからかも知れないが。

 

ただ、乱用は禁物だ。

 

やり過ぎるとザムエルさんみたいになるのは目に見えているのだから。

 

古老の方も見る。

 

古老は魔力が見える分、戦闘直後で軽く興奮状態にあるあたしの現状の力がよく分かったのだろう。

 

腐っても一時期はこの島一番の魔術の使い手だったのだ。

 

すくみ上がると、指をつきあわせて周囲を見て。誰も助けてくれないことを悟ったのだろう。

 

がっくりと肩を落としていた。

 

「ど、どうやら錬金術師殿は今回の一件には関係がないようだな」

 

「では、この茶番は終わりですね」

 

「わ、わしは最初から反対していたのだ。 それを理解してくれ」

 

古老があまりにも情けない繰り言を言うので、あたしは色々な意味で呆れた。

 

とりあえず、此処からだ。

 

まずはクラウディアが出してきたタオル(ハンカチを断った時に、軽く説明はしていた)で顔の血とか脳漿を取ると。

 

モリッツさんと、交渉をする。

 

「モリッツさん。 ドラゴンのいた城には、不可思議な遺跡がありました。 恐らくですが……禁足地にもあると思います。 今後のためにも、調査をしても良いでしょうか」

 

「禁足地だと……!?」

 

「私は賛成します。 ライザ達の腕は、既に私以上です。 禁足地の魔物の掃討は限られた護り手の仕事でしたが、今は護り手の手が足りません。 許可を出すべきだと思いますが」

 

「う……ううむ。 このような巨大な魔物が出る状況だ。 やむを得ないだろうな。 わかった、ライザ、好きにするといい。 ただし……くれぐれも荒らしたりしないようにな」

 

アガーテ姉さんも助け船を出してくれる。

 

よし。

 

これでまずは目的を勝ち取った。

 

後は、ボオスだが。

 

ふと気付く。

 

周囲を見回しても、ボオスの気配がない。

 

モリッツさんも、それに気付いて、完全に顔色を失っていた。

 

「ぼ、ボオスはどこに行った!?」

 

「この手紙を渡して、裏口から村会を抜けられましたが?」

 

「見せろ!」

 

モリッツさんが、手下の一人から手紙を奪い取ると、中身を見て腰を抜かしそうになる。口から魂が出そうになっている。

 

これは、まずい。

 

「モリッツさん!」

 

「……」

 

「見せてください!」

 

クラウディアが、手紙をさっと抜き取る。皆で見ると、其処に書かれていたのは。

 

別離の文章だった。

 

責任を全て取る。

 

これで、ライザと手打ちにしてほしい。

 

そういう内容だった。

 

あたしは思わず、頭に血が全部上るかと思った。

 

「ボオス!」

 

聞こえているか分からない。だけれども、本気での怒りを込めて絶叫していた。

 

どうして逃げる。

 

どうして話そうとしない。

 

あの時はあたしだって悪かった。それはもう分かっている。

 

だから話し合えばそれで良かったのに。

 

「逃げないでよバカーっ! あんたが死んだって、誰も幸せになんかならない! 誰も喜んだりしないんだよ!」

 

村の者達が騒然とする中。

 

あたしは全力で叫ぶ。

 

あたしの肩を掴んだのはアンペルさんだ。その冷静な顔を見ると、不意に落ち着きが戻って来た。

 

「手紙の文面を見る限り、島からあの青年は出るつもりだ。 入水自殺をするつもりでなければ、誰もいない場所で命を絶つつもりだろう」

 

「くそっ! ライザ、急ぐぞ!」

 

「分かってる!」

 

タオとクラウディアにも声を掛けて、船に急ぐ。

 

後ろから、アガーテ姉さんが声を掛けて来た。

 

魔物や村会の後始末はやっておく。後から追うと。

 

有難うと絶叫して、そのまま走る。もう、何も他に考えている余裕は無かった。

 

 

 

完全に終わった。

 

ボオスは全てを見届けると、ランバーと一緒に港に。其処に確保してあった船で、クーケン島を離れた。

 

何もかも失った。

 

島に必要な人間はライザだ。

 

父がライザを養子にでもすれば、後は全てが片付くだろう。

 

嘆息する。

 

ランバーには、自害を遂げた後、それを見届けて貰うつもりで来て貰った。だが、ランバーは船上で何度も言う。

 

「考え直してください坊ちゃん。 誰も貴方を責めたりはしないと思います」

 

「責めているさ。 此処で俺がな」

 

「坊ちゃん……」

 

「馬鹿馬鹿しい話だ。 決裂してからライザと散々やり合って、はっきり分かったのは器の違いだ。 どれだけ支配者たらんと俺が頑張っても、ライザの奴は天然でそれを超えて来やがった」

 

今では、錬金術を手に入れたとは言え。それでも島の顔役だ。あの若さで。

 

アガーテは勿論、ウラノスや白髭は完全にライザを認めている。医師のエドワードなどの重要な人間ですら、である。

 

錬金術で傲慢に地位を獲得していようとしていたら、ああはならなかった。

 

彼奴は錬金術で得られた力を、惜しみなく周囲に使った。

 

それでいてバカを甘やかすような事もなく。あの気性だから、素から一目も二目も置かれていたのだ。

 

錬金術とやらから離れてくれれば、或いは。

 

昔のようになれたかもしれないが。

 

もう全ては遅い。

 

溜息が何度も漏れる。

 

対岸についた。

 

ランバーが、やはり戻ろうと言うが。首を横に振る。手にしているのは、自害用の剣だ。せめて、最後のプライドくらいは。

 

自分で守らせて欲しい。

 

これでも、帝王教育というのを真面目に受けて。島の次世代の支配者として頑張ろうと思っていた。

 

だが、全てが上手く行かなかった。

 

いつのまにか、島一番の嫌われ者になっていた。

 

嫌われ者でも、島のために働いていると認知されている父とは決定的に違う。

 

まだ幼い頃、生きていた祖母は、ボオスに父と同じ事を言ったっけ。

 

ライザと結婚するか。ライザに女としての興味を持てないのなら、そのやり方を徹底的に学べと。

 

女傑と言われた祖母も、若い頃の無理がたたって晩年は殆どベッドから動けなかったのだけれども。

 

それでも祖母の力強さが、ボオスには頼もしく感じられた。

 

どっちも出来なかったな。

 

ライザと対立した後は、その愚を悔いることばかりしか出来なかった。

 

挙げ句、こうして負け犬としての最後を遂げようとしている。

 

それどころか、最後に残ったのはプライドだけ。

 

それも、死ねば失われるのだ。

 

対岸に出て、何処ともなく歩く。

 

吸い寄せられるように歩いたのは、西。洞窟がある。小さくて狭くて、惨めな洞窟がだ。そこならば、今の自分に相応しい惨めな死を遂げられるだろう。

 

そう思って、ボオスはあてもなく歩く。

 

「この先は魔物も出ます、引き返しましょう」

 

「いや、魔物が出るなら好都合だ。 いざという時、怖じ気づいて死ねないかもしれないからな。 だったら魔物に引導を渡して貰うのも手だろう」

 

「そんな……」

 

「お前は魔物に襲われたら逃げろ。 俺は、甘んじて餌になるさ」

 

ランバーは荒事に向いていない。

 

それを分かっているのに、ドラゴン戦では無理につきあわせた。

 

そして案の定真っ先にやられて笑いものになったランバーだが。

 

それでも、今でも愛想をボオスに尽かす様子はない。

 

蜂から助けてくれたのが理由と、周囲には話しているようだが。

 

それは本当だろうか。

 

何か他に理由があるのではないのだろうかと、ボオスは思う。

 

それはそうとして、洞窟はもう目の前だ。

 

洞窟の中は、しんとしていて。

 

死ぬなら、此処が良いなとボオスは思った。

 

「おかしいですよ坊ちゃん。 この洞窟はエレメンタルもいるし、ぷにぷにも出ると聞いています。 でも、生き物の気配が……」

 

「お前、普段そんな事分かるのか?」

 

「え? あ、ああはいまあ」

 

「……」

 

此奴、まさかだけれども。

 

自分が道化になる事で、ボオスの引き立て役になる事を課しているのではあるまいな。

 

そういえばおかしいと思っていたのだ。

 

ドラゴンとの戦闘でも、怪我らしい怪我もしていなかった。

 

他の護り手は、ブレスの攻撃で吹っ飛んだときには、相応の怪我をしていたのに。

 

剣術を教えるときと、それ以外で人が違い過ぎるのも考えて見ればおかしかった。

 

最後だ。

 

それくらいは聞いてみるか。

 

そう思った時。

 

風が、「前方」から吹いてきた。

 

おかしい。

 

この洞窟は、乾期以外は水で塞がっていて、非常に狭い。それは護り手から聞いていたから知っている。

 

前から吹いてくる、風が。

 

そんな話は、一度も聞いていない。

 

奧に足を進めてみる。

 

蹂躙されている。文字通り、何もかもが踏み荒らされ、殺し尽くされている。

 

此処に入り込んだ鼬だろうか。文字通り、ぺしゃんこにされていた。踏みつぶされたというよりも、徹底的に殺した後踏みつけた印象だ。

 

たくさんついている穴のようなものはなんだ。

 

蟹などが、浜でそういうものを作る事があるが、違う。

 

足跡だ。

 

そう気付いたときには、それが後ろにいた。

 

ランバーが剣を抜き打ちにして、それを斬り付ける。やっぱり此奴、普段手を抜いているんじゃないか。

 

それは鋏を持った巨大な生物で、白い装甲で全身が覆われ、長く鋭い尾を持ち上げていた。

 

尾の先端には鋭い毒針らしいものもついている。

 

慌てきった様子で、ランバーが叫んだ。

 

「逃げてください、坊ちゃん!」

 

「俺は……」

 

「良いから!」

 

突き飛ばされる。

 

ぞわりと、周囲が動く。

 

其処には、似たような白い装甲に身を包んだ、得体が知れない生物がわんさかいた。どれも姿が違っているが。いずれもが、白い装甲と、不自然な宝石の結晶のようなものがついている事が共通している。

 

其奴らはランバーと戦っている一際でかいのとは別行動で、ボオスを追ってくる。

 

「逃げて!」

 

ランバーの声。

 

そのまま、殺されようと思っていたのに。

 

必死な声。

 

更には、決死の戦闘。

 

それを見ていると、どうしてか足が動いていた。

 

犬のようなもの、もっと大きな若干人に似ているもの、他にも色々な種類がいる。

 

それらが、生物とは思えない、不気味極まりない動きで追ってくる。

 

いつの間にか、洞窟を抜けていた。其処の浜にも、似たようなのがわんさか満ちていた。

 

一斉にそれらがボオスを見る。

 

それらの足下に散らばっているのは、バラバラに打ち砕かれた鎧の残骸だ。誰かがあれに殺されたのか。

 

そう思うと、剣を抜こうとして、それで後ろからも着いてきている奴らに気付いて。必死に走る。

 

囲まれないように。

 

そう思うだけで精一杯。走って逃げ回っているうちに、変な遺跡に入り込んでいた。そして、手を掴まれていた。

 

遺跡じゃ、ない。

 

それどころか。

 

山ほど追ってきていたあの装甲の変な生物は、一体もいない。違う。全部竜巻のように動いたそいつに倒されたのだ。

 

それは陰気な雰囲気の女だった。フードを被っていて、前髪も長くて目も隠れている。

 

徒手空拳で、あの訳が分からない生物を倒したのか。

 

「此方よ。 着いてきなさい」

 

「お前は……」

 

「キロ」

 

「……俺はボオスだ」

 

聞いたこともない名前だ。心身共に傷つききったボオスは、言われるままついていくしかなかった。

 

 

 

対岸に出ると、船を発見。二人が乗ってきたものに間違いない。すぐに散って足跡を探す。

 

レントがすぐに見つけていた。

 

「西だ。 二人分。 新しい!」

 

「よし、みんな急いで!」

 

「分かった!」

 

「ボオスの奴、見つけたらぶん殴ってやる!」

 

レントがそう言うが。

 

タオがやめときなよとたしなめた。確かに今のレントが本気でぶん殴ったら、ボオスの頭と胴体がお別れだ。

 

最初はみんな、ぷんぷんと怒っていた。

 

だけれども、すぐに空気が変わる。

 

違う。

 

明らかにおかしい。

 

すっと、音もなくリラさんが現れる。さっきまで島にいたはずだが。

 

「リラさん?」

 

「緊急事態だ。 お前達の手も借りたいほどのな」

 

「リラさんが其処まで言うって、余程の事だね」

 

「ああ、急いでくれ」

 

すぐに、リラさんを追って走る。

 

リラさんが行動するのを初めて見たが、とにかく動きに無駄がない。そして素早い。見ているだけで、身体能力が根本的に違うことが分かる。知ってはいたが、実際に見ると凄まじさに舌を巻く。

 

走っていて殆ど音がしない。これは異界人特有のものなのだろうか。オーレン族というそうだが。

 

リラさんは、両手にクローを嵌めている。

 

鉄製の巨大なかぎ爪だ。

 

超がつくほどの玄人向けの武器なので、むしろチンピラとかが威圧のために身に付けたりもするらしいが。

 

まあリラさんの場合は、そんな事はないだろう。

 

辿りついたのは、例の洞窟だ。既に散らばっているのは、これは。

 

「フィルフサ……!」

 

「この形からして、斥候ではないな。 ……お前が倒したのか」

 

壁際に倒れているのはランバーだ。すぐに傷薬を出して、怪我を治療する。錬金術で作った傷薬だ。

 

最近は体力まで回復させるようにしてある。

 

これも、散々作った上に調整したからだ。

 

ランバーが目を覚ます。咳き込む。相当にこのフィルフサにてこずったようだが。そもそもフィルフサを倒せる時点で、ランバーが普段如何に手を抜いていたか、あたしは悟ってしまう。

 

「ライザ! 坊ちゃんが!」

 

「分かってる! どっちに行った!?」

 

「洞窟の奧……くそっ、俺がいながら……」

 

「いや、お前は良くやったぜ。 こいつ、生半可な相手じゃねえ。 此奴を倒しただけで、大金星だ」

 

湖岸近くに戻れば、護り手が来る。

 

護り手が来たら、すぐにとんでも無い魔物が出ているから、この洞窟への立ち入りを禁止するように伝えるべしと。

 

ランバーは顔を上げる。

 

これほどの剣腕を持っている人なのに、今までどうして。

 

「ライザ、頼む。 あの魔物、生物と戦っている感じがしなかった。 なんとか……その錬金術で倒してくれ」

 

「分かってる。 ボオスは絶対に連れ戻す!」

 

悲しげに笑うと、ランバーは歩いて行く。

 

あれは大丈夫だろう。

 

本当に普段は、剣を抜くと腑抜けを演じていたんだなと分かった。だけれども、どうしてそんな。

 

ともかく、今は急ぐしかない。

 

「足跡がたくさんありやがる。 どれもまともな生物のものとは思えねえ」

 

「見て……」

 

クラウディアが、口を押さえる。

 

彼方此方に、グチャグチャに潰された生物の残骸が散らばっている。これは、正直尋常な事ではない。

 

リラさんが警戒しろと言う。

 

「フィルフサは生物全てを殺して、こうやって潰して回るんだ。 奴らは何かを食べている雰囲気がない。 それについては、昔から不思議であったがな」

 

「生物急所である頭を貫通しても死ななかったのはそれが理由ですか?」

 

「そうだな。 奴らを捕まえて研究でもすれば分かるのかも知れないが、オーレン族にはそのような技術や知識はなくてな」

 

走りながら話をする。

 

オーレン族の聖地の一つであるリヴドルと呼ばれる場所から、リラさんは来たと言う。そこにいた氏族白牙氏族が、リラさんの故郷。

 

そしてもう、一人も生きていないのだそうだ。

 

「争いに敗れたからって、皆殺しなんて……」

 

「フィルフサは自分に都合良く世界を書き換える。 生き物は植物すらも存在を許さずに殺す。 そう、ただ殺して潰して行くんだ。 ……出たぞ!」

 

すっと、闇の中で何かが動く。

 

白い装甲に身を纏った生物だ。大きさはそれほどではないが、なんというかもの凄く嫌な予感がする。

 

前に「将軍」とやりあった時もそうだが、魔力を感じない。

 

というか、魔力を「感じ取れない」が正解なのかも知れない。

 

それは魔物との戦闘で、大きなディスアドバンテージとなる。

 

この世界の人間は、魔術を誰もが使える。どんなに魔力が弱い人間でも、身体能力を魔力で補っている。女性戦士が男性戦士と互角にやり合えるのはそれが理由だ。魔力の強い女性の方が多く、それを生かして色々出来るのである。

 

逆に言えば、それに対してこの性能。

 

まるで、ピンポイントで弱点を突きに来ているかのようだ。

 

ゆらゆらと、不可思議な動きで襲いかかってくるフィルフサ。将軍とは比べものにならないほど小さいが。

 

レントが頭をたたき割ってやっても、平然と動く。

 

後ろから、素早いのが来る。

 

犬のような姿をしているそれが、天井近くで回転しながらこっちに来たが。リラさんが跳躍すると。

 

竜巻のように全身を旋回させ。

 

一瞬で粉みじんに解体していた。

 

「どいてっ!」

 

レントが飛び退き、其処にフラムを叩き込む。

 

火力特化のフラムだ。小さいフィルフサをもろに巻き込む。だが、まだ原型を残しているフィルフサが。上半身を失いながらも、此方に来る。

 

タオが呻いた。

 

「伝説に残る不死者の兵士みたいだ……!」

 

「不死者だろうが何だろうが、全部ぶっ壊せば動けない!」

 

「その通りだ! 叩き潰せ!」

 

リラさんの指示。

 

それに前とは違う。ちゃんとダメージを与えられているのが分かる。非生物的な動きで迫ってくる、極めてタフなフィルフサの群れと、激しく交戦を続ける。

 

リラさんは凄まじく、全身を躍動させながら洞窟の中を跳ね回り、フィルフサを片っ端から粉みじんにして良く。

 

あたしも負けていられない。

 

ぐっと薬を飲み干す。ドラゴン戦でも使った魚油リキッドだ。皆にも配ると、肉弾戦を挑む。

 

魔術戦は悪手。

 

フラムをはじめとした爆弾は、多数や大型を巻き込む形以外では使いたくない。

 

あたしは気迫とともに、白いフィルフサを蹴り砕く。

 

クラウディアは、魔術矢の効果が低いと判断し、音魔術での支援に専念。レントとタオは、とにかく相手の形を壊す事に専念し。壊したら、其処から徹底的に全身を砕くようにしてフィルフサを倒して行く。

 

一つの群れが潰れると、奧から更に来る。

 

だが、此方が敵を仕留めていく方が早い。

 

呼吸を整えながら、洞窟を進む。

 

ボオスの死体はない。

 

だったら、まだ可能性はある。

 

洞窟の中は起伏に富んでいて、いつもすぐに行き止まりになる洞窟と同じとは思えなかった。

 

リラさんがぐっと魚油リキッドを飲み干すと、教えてくれる。

 

「此処は予想される門の位置から近いからな。 念の為にアンペルがフィルフサが来たら分かるように仕掛けをしていたんだ」

 

「それで先に来ていたんですね」

 

「ああ。 まあ僅差だがな。 すぐにアンペルも来る。 後から合流すれば良い」

 

「はい。 ……?」

 

もの凄く強烈な魔力を感じるが、なんだ。出所もよく分からない。

 

ともかく、今はかまっている暇が無い。

 

また、奧からフィルフサが姿を見せる。犬のような奴、多数。口で噛んで獲物を食らうのではなく、ただ見境なく殺しているようで。魚だろうが植物だろうが関係無く、滅茶苦茶に傷つけているのが見えた。

 

そして奧から来る鈍重そうな人型っぽいのが、腕で死骸を潰して廻っている。

 

本当に、ただ殺すためだけに殺している。

 

そう思うと、怒りで目の前が真っ赤になる。

 

あんなのに、これ以上好き勝手させてたまるか。

 

皆、怒りは同じようだった。

 

「音魔術で支援するよ! 体力の回復は任せて!」

 

「ありがとうクラウディア! みんな、一匹残さず潰すよ! どいつもこいつも「将軍」とは比べものにならないくらい弱いし、いける!」

 

分かっている。

 

ただそれは、鼓舞するためだけの言葉だ。

 

この叩いても叩いても死なないフィルフサの異常な頑丈さ。そしてどれだけ壊しても、壊しきらない限り死なない理解不可能な構造。何よりも魔術が効かない。

 

人間を殺すために作られたような生物だ。

 

水が弱点というのは本当らしく、水に落ちて死んでいる個体をたまに見かける。本当に動かなくなるようで、水の中でグズグズに溶けていた。

 

一考の余地がある。

 

水を操作して、フィルフサに叩き付ける道具を作れないか。だが、考えている余裕をフィルフサはくれない。

 

どいつもこいつも異常にタフなのに、後から後から出てくるのだ。突っ切るのは簡単だろうが、此奴らを生かしておくわけにはいかないのである。

 

リラさんは、冷静にフィルフサを処理していく。まるで生きた竜巻だ。

 

負けてはいられない。

 

あたしも、次々に来るフィルフサを蹴り砕く。小型のフィルフサは、幸い火力そのものは同じくらいの大きさの魔物に比べて凶悪ではない。

 

ただ数がやばいのと、対策を知らないと倒し切れないのが問題として大きすぎる。

 

一時間以上、戦闘を続けただろうか。

 

ようやく、洞窟を出る。

 

遺跡だ。湖岸に出来ている遺跡には、かなりの数のフィルフサが。既に砕かれた状態で散らばっていた。

 

アンペルさんが追いついてくる。手にしているのはドーナツか。比較的リッチなお菓子である。

 

そういえば、無類の甘党と聞いていたが。

 

タオが言うには、糖分は取らないと頭が動かなくなるらしい。アンペルさんも、それが理由で甘いものを愛食しているのかも知れなかった。

 

ただ、美味しそうにアンペルさんは食べていない。何というか、事務的に糖分を取っている印象だった。

 

「リラ、どれくらい出て来ていた?」

 

「洞窟内で倒したのはざっと130だが……この湖岸の様子を見る限り、誰かが先に倒したようだな。 出て来ていたのは斥候の比較的大きな部隊と見て良い。 将軍を集めて、本格的に侵攻を開始する前の準備段階……気候を読むための行動だろう」

 

「気候を読む、ですか?」

 

「フィルフサも水が苦手なことは自覚しているからな。 「空読み」という専門の個体がいて、それが出てくると極めて危険だ。 近く侵攻……この規模での斥候が出て来ているということは、大侵攻が起きてもおかしくない」

 

うえっと、あたしは思わず声を出す。

 

クラウディアが、呆けている皆を叱咤。

 

「ボオス君を探さないと!」

 

「そうだ! ボオス!」

 

「その辺りに隠れているなら出てこい!」

 

「……」

 

皆で叫ぶ。一旦は後回しだ。魔力まで駆使して、周囲を探索。リラさんが、しばらく黙り込んでいたが。

 

やがて、ぼそりと呟いた。

 

「これは、明らかに私以上の手練れが来ていたな。 恐らくオーレンの戦士……それも近衛の一人だろう」

 

「近衛?」

 

「人間の社会だと、王を直に守るような人の事だよ。 オーレン族にもそういうのがあるの?」

 

レントにタオが応え。更にリラさんに質問。

 

リラさんは、ただ昔から、そう呼ぶように決まっているとだけ応えた。

 

遺跡は湖上に伸びていて、通路のような部分がある。そして、奧には大きな建物が見えていた。

 

周囲は更地同然。生き物はちいさなものまで容赦なく殺し尽くされている。植物も、叩き折られ挽き潰されていた。

 

これは魔物のやり方じゃない。魔物はドラゴンも含めて、基本的に生き物だからだ。

 

そうでないとすると。

 

強いていうならば。傲慢な人間が、自分が弱者と決めつけた相手に対して、何もかもを蹂躙する時にやるようなやり口。

 

そんな印象を。

 

あたしは受けていた。

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