暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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誰でも使える魔術とはレベル違いの未知の力との遭遇。

この世界において、魔術は誰でも大なり小なり使えるものです。魔物ですらも使います。

それとは確実に異質な力を目にして、ライザは世界が動くのを確かに感じ取りました。

冒険が、始まります。


3、新しい友達と

翌日。

 

あたしも体は存分に若い。

 

だから、家に帰って。その時に、母さんに叱られ掛けたが。アガーテ姉さんが、一言説明してくれて。

 

それで、母さんは何も言わなかった。

 

父さんは基本的にとても寡黙な人で、いつも穏やかに笑っているが。ただ畑に対しては滅茶苦茶喋る。

 

そう、畑のことを喋ると止まらないのではない。

 

畑と会話するのだ。

 

とても嬉しそうに畑と会話しているのを時々見かけるのだけれども、父さんは恐らくクーケン島でももっとも腕が良い農夫でもある。

 

故に、その奇行に対して誰かが揶揄することもない。

 

実際問題、うちの畑はクーケン島で一番収穫も、とれる作物も品質が良いのである。

 

これは更に年老いた、経験の豊富な農夫よりもだ。

 

そういう事もあって、父さんは寡黙で変人だが、それでいながらモリッツさんでも一目置いている。

 

変わった人である。

 

それだけではない。

 

暴れ者の大酒飲みであるレントの親父さん。今はすっかりタチの悪い老害になってしまったザムエルさんも。父さんと母さんには全く頭が上がらないようである。

 

何でも、昔三人で旅をしていたとか。

 

幼なじみだったとか。

 

色々な話を聞くが、どれが本当かは、よく分からない。

 

ただ、ザムエルさんが暴れていると、父さんと母さんが出かけて行って。護り手でも手が出せないザムエルさんも。母さんを見るとすぐに大人しくなる。それは事実なので、村でも大きな立場をあたしの両親が確保しているのは事実だった。

 

さっそく、昨日待ち合わせの場所に指定していた場所に集まる。

 

家を出るとき、ちょっと工夫がいる。

 

見つかると、母さんに農作業をさせられるからだ。

 

どうにもあたしは農作業に関して、父さんの才能を引き継がなかったようで。筋は良くないらしい。

 

ただそれで足腰は鍛えられたし、知識もある。

 

決して無駄にはなっていないと思いたいが。

 

あたしは、農家の娘としては確実になんてことのない存在なのだ。

 

それに関しては、全くの事実。

 

だからアガーテ姉さんは、護り手の次のトップとしてあたしに期待しているらしい節があるし。

 

一時期は、それも前向きに検討していた。

 

だが、あの凄い力を見てしまうと。

 

その考えも、過去に飛び去ってしまった。

 

ラーゼン地区を抜ける。農道が殆どなくなって、石造りの街と、水路が見えてくる。水路に光が反射して、きらきら光っているが。この水は、基本的に農業用水で、飲む事は出来ない。

 

基本的に皆、飲むための水は湧かすのだ。そしてこの小さな島では、薪なんていちいち確保していられない。薪なんか切り出していたら、あっというまにただでさえ少ない保水林がはげ上がってしまうだろう。

 

これもあって、魔術で水を沸騰させる技術は、誰もが最初に習う。行商などの話を聞く限り、基本的に辺境の村ほどこの傾向が強いらしい。魔物の脅威も大きいし、魔術を鍛えるのは必須なのだ。

 

あたしは湯沸かしを五歳の頃には習得していたし。遅い子でも十歳の頃には出来るようになる。

 

どんな人間でも魔力がある以上、その基礎訓練は必須だ。

 

それに関しては、この狭くて、あれをしては駄目これをしては駄目の島でも。

 

あたしは感謝していた。

 

何しろ、自衛能力を身に付けられるのだから。

 

うきうきで歩いていると、不愉快な声を掛けられる。

 

振り向くと、最近はワイルドさを演出しようとでもしているのか。胸の部分を開けた大胆なファッションをしている男の子がいた。

 

その側には、更に長身で。

 

腰に剣をぶら下げている男子がいるがそれは取り巻き。

 

この偉そうなワイルド男がボオスだ。

 

あたしと対立している、この島のガキ大将。というか、いつ頃か、対立するようになった相手。

 

モリッツさんの息子という立場を利用して、やりたい放題してるいやな奴。

 

見かける度に、いつも嫌みを言うので。

 

私ははっきりいって、最近は嫌いだった。

 

「ようライザ。 冒険ごっこしていて、流れ者に助けられたらしいな」

 

「その流れ者のおかげで、大口の商談が流れなくて済んだんだけどなあ」

 

「はっ、口だけは一丁前じゃないか」

 

「凄いよその「流れ者」。 あたしの前の前で、アガーテ姉さんでも苦戦しそうな大鼬を瞬殺したんだから」

 

そう言うと、ボオスは黙り込む。

 

最近、ボオスがつれているランバーという取り巻き。剣をぶら下げた青年が言う。

 

「う、嘘に決まっていますよボオスさん」

 

「いや、本当なのだろう。 だが、強かろうと其奴らが怪しい流れ者であるのは間違いない事実だ。 ライザ、貴様が遊びほうけているだけで、その流れ者に助けられただけだという事もな」

 

ボオスはなんだか、あたしに発破を掛けるようなことを、すごく遠回しに嫌み混じりに言う。

 

だから不愉快なのだが。

 

本人はそれを告げても何処吹く風である。

 

ちょっとイラッと来たが。

 

とにかく、今は皆と会う方が先だ。

 

「あたしがまだまだなのは分かっているわよ。 だから、少しでも腕を上げようと思ってね」

 

「それが冒険ごっこか?」

 

「ふん、すぐにそんなこと言ってられなくなるわよ」

 

「ならば結果を見せてみるんだな」

 

あたし、クラウディアを助けたもんね。

 

それで友達になったもんね。

 

そう言い返そうと思ったが、止めておく。クラウディアは、今日また会うつもりだが。あの子が何処まで本気であたしと友達になりたいのかは、まだ分からない。

 

だいたい、あたしのが冒険ごっこだったら、ボオスのだって支配者ごっこだ。モリッツさんに言われて、村に睨みを利かせるように訓練をさせられているらしいが。反発しか受けていないことを、あたしだって知っている。

 

だから、言い返さない。

 

それに懸念したとおり、クラウディアは助けてくれた相手に熱を上げているだけかも知れない。

 

それを、今日見極めておきたいなと思う。

 

ボオスは言いたいことだけ言って行ってしまう。ランバーは元々小物で、剣の腕は優れているのだが、護り手の全員から実戦に向いていないと言われている。剣の腕は本当に優秀らしく、才能もあるらしいのだが。

 

精神面に問題がありすぎて、それを殺し合いでは発揮できないもったいないタイプだ。

 

そういう意味では、現在のボオスの剣術師範という立場は適切なのだろう。

 

ふんと鼻を鳴らすと、あたしは待ち合わせ場所に急ぐ。

 

場所は旧市街。

 

クラウディアは、今日は視察がてらにルベルトさんがこの辺りを見て回る隙に。

 

皆と合流する予定だ。

 

ボーデン地区を抜けて、旧市街に出る。

 

潮の匂いがする。

 

この辺りは、街の一部が水没していて。それは年々酷くなっている。

 

綺麗な建物も多いのだけれども、それの多くが空き屋なのは、塩水が浸水しているからだ。

 

畑の面積もどんどん減っている。

 

塩水が上がってくれば、それは畑が作れなくもなる。

 

当たり前の話だ。

 

植物にとって、最悪の毒の一つが塩だ。

 

故に、水に囲まれているように見えるこのクーケン島は、水をもっとも貴重なものとして扱う。

 

街の人と、行き交う時に挨拶しながら、隠れ家の一つに。

 

もう、タオとクラウディアは来ていた。

 

「ライザ、おはよう」

 

「おはよう、タオ。 クラウディア、おはよう。 どう、クーケン島は」

 

「うん、素敵なところね。 皆親切で、とても良い所だわ」

 

クラウディアはにこにこ、満面の笑み。

 

普段は居住まいからして隙がなさそうな子だけれども、何だかライザの前では幼い女の子に戻ったかのようだ。

 

少し遅れて、レントが来る。

 

顔に傷を作っているのを見て、クラウディアが眉をひそめた。

 

「どうしたのレントくん。 何かあった?」

 

「ああ、親父にちょっとな」

 

「ええっ……」

 

「レントの親父さん、ちょっと色々あってね」

 

話を無理矢理あたしが切り上げる。

 

どうせザムエルさんに殴られただろう事は分かっている。

 

ザムエルさんは、傭兵だった。ロテスヴァッサの彼方此方を回って、彼方此方で武勲を立てたらしい。

 

父さんが前に少し話していたが、その気になれば騎士の叙勲を受けられるくらいの武勲を立てたそうだ。

 

今の時代は、基本的に武勲と言えば強力な魔物の討伐になる。賊なんか、魔物に比べたら大した脅威では無いのだ。だから、相当に手強い魔物を撃ち倒したのだろう。

 

全盛期だったら、今のアガーテ姉さんと互角かそれ以上、というくらいの力の持ち主だったそうだが。

 

何かで挫折して、それでこの島に来た。

 

奥さんもいたらしいが、既に離婚しているそうだ。

 

挫折してからは、すっかりザムエルさんは酒に溺れてしまった。今では飲んでは暴れる迷惑者だ。

 

あたしを見ても、大きくなったなとかいつも言う。

 

いつもあっているくせに。

 

お酒が脳をおかしくすると言うのは本当なんだなと、あたしはそれを見て悟ったっけ。

 

いずれにしても、それを今は話さない。

 

その辺の話は、クラウディアの真意を見極めてからだ。

 

クラウディアも、それを察したのかも知れない。彼女から切り出す。

 

「それで、改めてお願いしたいの。 私のお友達になってください」

 

「あたしは問題ないよ。 レント、タオ、どう?」

 

「俺もかまわないぜ」

 

「僕もいいよ」

 

レントは魔物の話を聞きたい、という。

 

タオは、彼方此方で見て来た文化や風俗の話を聞きたいと。

 

うんと、満面の笑みでクラウディアは言う。

 

あたしは、まずは順番に、少しずつ距離を詰めて。クラウディアを見極めたいなと思う。

 

「良かった、嬉しいな。 私に話せることだったら、なんでも話すね」

 

「おう。 ライザもおない年の女子の友達は、案外いないからなあ。 嬉しいんじゃないのか?」

 

「うん、まあそうだね。 それと……」

 

今日は、集まったのには理由がある。

 

あの二人。

 

さっきボオスが流れ者とか馬鹿にしていた、アンペルさんとリラさん。

 

様子を見に行きたいのである。

 

あたしは、あの錬金術というのに興味深々。

 

少しでも知識が得られたら、これ以上嬉しい事はない。

 

それについて聞くと、レントは言う。

 

「俺は、リラさんに教わりたい。 戦士としての心得って奴をだ」

 

「アガーテ姉さんの鍛錬だと物足りない?」

 

「アガーテ姉さんの鍛錬は確かにいいんだが、俺はもうなんというか。 この島を守る剣でなくて、道を切り開く剣を覚えたいんだ」

 

「わ、素敵だね」

 

クラウディアが柔らかく微笑む。

 

なんだか不思議なのだが。

 

男子がデレデレになりそうな雰囲気なのに。

 

レントもタオも、クラウディアに異性としての魅力は感じていないようだ。

 

理由の一つは、クーケン島は美男美女がなんぼでもいる、ということだろう。

 

何処を向いても美男美女だらけ。

 

うちの母さんにしても、今はかなりふくよかになったが、痩せれば充分に美人の域に入る。

 

父さんだって、畑と会話する奇人ではあるが。それでもはっきりいって充分にハンサムな人だ。

 

あたしも、ヤリたいと顔に書いている島外から来た男性に口説かれたことはあるが。

 

はっきりいって、その手の相手に魅力を感じたことはほぼない。勿論相手にせず断った。

 

多分だけれども、この島の人間は、異性関係がとても堅実なのだと思う。

 

実際問題、殆どの人は親が決めた相手と結婚するし。あたしみたいに戦力である事を期待されている場合を除いては、もうこの年なら結婚しているのが普通だ。

 

そうでなくても、島の外の人間が居着く場合は、かなり早くに結婚相手を見つけることが多いと聞く。

 

それは逆に言えば。

 

結婚相手をすぐに見つけられる仕組みが、島で整っていて。

 

皆もそれを承知しているから、なのだろう。

 

タオは、咳払いすると言う。

 

「僕は、この本を知りたいんだ」

 

「この本は?」

 

「見てみて」

 

クラウディアが本を開くが。

 

今使われている言語と違う事を、即座に悟ったようである。苦笑いするクラウディアに、タオが説明する。

 

「僕の家はこんな本をたくさん持っている家なんだけど、読み方が何代か前に失伝しちゃったんだよね」

 

「そう、それは残念ね」

 

「でも、僕は諦めていないよ。 この本を必ず解読する! それが僕の夢なんだ。 あの人達は、古代クリント王国の知識があるかも知れない。 もしもそれを教えてくれるなら、後は僕がなんとか地力で本を解読するんだ」

 

タオは普段は引っ込み思案だが。

 

熱が入り始めると、相手にかまわずいつまででも喋る悪癖がある。

 

そうなりそうだったので、襟を掴んで引き戻す。

 

あたしの笑顔を見て、それで悟ったのだろう。

 

咳払いして、タオはそういうことなんだと言った。

 

クラウディアは、何かしたい事はないのかと聞く。

 

二つあるという。

 

一つは、ちょっと恥ずかしいので秘密。

 

もう一つは、魔力制御について教わりたい、だった。

 

「魔力制御だったら、みんな教えられるよ?」

 

「あ、うん。 私も一応基礎はできるの。 私の魔術は、音なんだ」

 

音か。

 

それはかなり強い。

 

鍛え抜けば、広域制圧が可能な魔術だろう。

 

だが、クラウディアはなおもいう。

 

「でもね、私の魔術は出力が小さくて、そのままだと支援にしか使えないの。 元々私は楽器が好きで、それでこの魔術に鍛えたんだけれど、今から他の適性がないか調べたくって。 でも、お父様にもそんなことは言えないし……」

 

「そっか、それでアンペルさんに?」

 

「ううん、リラさんに教えて貰おうと思う。 あの人、ちょっとだけ見たけど、凄い魔術の使い手だよ。 全身がびりびり来るほどだったもん」

 

そうか。

 

そうなると、みんな利害は一致しているんだな。

 

頷くと、早速外に。

 

丁度、視察を兼ねて。モリッツさんが、ルベルトさんと一緒に歩いていた。

 

「王都アスラ・アム・バートではリュコの実と言われているのですな。 この島ではただクーケンフルーツとだけ呼んでおります。 しかし雅な呼び方ではありますな」

 

「ははは、そうですな。 どうもこの島以外では見かけない固有種である事や、日持ちしないので保存の魔術を使える魔術師がいないと販売出来ないこと、それにこの品種の果実にしては驚くほど甘みがある事もあって、貴族を中心に需要があります。 販路を拡大すれば、商人の間でも売れるでしょう

 

「それはありがたい。 ささ、此方へ。 この島でも随一の農夫が育てているクーケ……ゲフンゲフン、リュコの実を用意しております」

 

「無理にあわせなくとも結構ですよ。 此方としても、郷に入っては郷に従うつもりですし、商談の間は其方の呼び方にあわせてクーケンフルーツと呼称します」

 

随分と紳士的な人だな。

 

というか、ここに来る行商人は、とんでもない財力を背景に恫喝同然の交渉をして来る事も多いのに。そういうのと比べて、とてもいい行商だと思う。

 

王都と此処では物価が違うと言うのは、あたしも知っている。

 

ただ、王都が実際には大した力を持っていない事も。

 

もしもロテスヴァッサ王国がそれほど力を持っていたら、この辺りの街道からは魔物が消えていただろうし。

 

クーケン島にも役人がいて、常駐軍だっていただろう。

 

それが実際には、クーケン島は古老とブルネン家がいがみ合いながらも自治しているし。他の街も似たような状況だと聞いている。

 

つまるところ、実際には王都なんていっておいて、実際に支配しているのはそこだけだということだし。

 

隊商が行き来して、やっと物資が行き渡る状態で。

 

それで貴族がどうのと、一部の人間が威張り腐っているというわけだ。

 

馬鹿馬鹿しい話だなと、ライザは隠れて話を聞きながら思う。

 

なお、アガーテ姉さんも、護衛についていて。

 

あたしには気付いているようだが。敢えて一度視線を向けて、邪魔をしないようにと牽制するだけだった。

 

相変わらず恐ろしく鋭いな。

 

そう思って、首をすくめる。

 

二人が行った後、昨日のうちにクラウディアが聞いていたらしい旧市街の家に行く。この辺りには学問所もあって。

 

まだ湯沸かしが出来ない子を中心に、魔術の基礎や。それに学問を教えている。

 

教える学問は、基本的な数学が中心。

 

これは昔、ここに来る行商人にぼったくられる島民が後を絶たなかったから、である。

 

今では基本的な数学を教えることで、それから自衛しているのだ。

 

そういう話をすると、クラウディアはどこでも同じだねと寂しそうにいう。

 

バレンツ商会では、基本的にぼったくりはしないそうだ。

 

だがそうしていると、仲間内から舐められるらしい。

 

相手の弱みにつけ込むこと。

 

それで交渉の主導権を握る事。

 

それをやるのが普通で、そうしないバレンツ商会は甘いと何度も言われた事があるそうだ。

 

「あー、そういう嫌な行商や商会は時々来るな」

 

「此処はかなり王都から距離があるから、来る商会はそれでも悪辣ではないと思う。 王都に中途半端に近い街だと、本当に山師が酷いのよ」

 

「うわあ、なんだか大変そうだなあ」

 

「クラウディア、其処気を付けて」

 

この辺りは旧市街だということもあるし、地震が起きたばかりだと言う事もある。

 

瓦礫は殆ど片付いていない。

 

無人になった家は、簡単に痛む事もあって。地震の夜に、既に廃屋になった家が一つ倒壊したらしい。

 

一応片付けはしたそうだが。その瓦礫が彼方此方に散らばっていた。

 

タオがすごく悲しそうにする。

 

この辺りは、遺跡が殆ど。

 

古代王国の遺跡だというのはあたしも知っていたのだけれども。その遺跡から色々持ち出して、家やらなにやら作ってきたのがクーケン島だ。

 

それに対してもタオは思うところがあるらしく。

 

あたしがクラウディアを瓦礫に躓きそうになったのを助けるのを見ても、瓦礫の方を見ていた。

 

「あんな小さな地震でも、これだもんなあ。 人が住んでいない小さな家とか、どれもいつ崩れてもおかしくないぜ」

 

「ライザ、この島は遺跡がそんなに豊富なの?」

 

「古いものはたくさんあるよ。 確か水源も、昔は遺跡があったんだっけ」

 

「うん。 でも水質は良くなくて、水量も少なくて、昔はクーケンフルーツくらいしか育たなかったんだって。 ここ何世代からしいよ、麦とか出来るようになったの」

 

大変そう、とクラウディアは眉をひそめた。

 

ともかく、この子がこんな場所で転んだら、怪我だけではすまないだろう。

 

あたし達は昔はこの辺りで遊び回っていたから、庭も同じ。崩れそうな場所とかも周知している。

 

だからどこの廃屋が崩れた、とか聞くと。

 

やはり、という感想しか出てこない。

 

旧市街の沿岸部から離れて、少し人も多くいる辺りに来る。この辺りは、宿などで格安で貸し出したりしている事も多い。

 

その中の一つが。昨日あった二人がいる場所だ。

 

バレンツ商会でも感謝しているとかで、宿はバレンツ商会が取っているそうだ。ただ、クーケン島の人達は。バレンツ商会に対しては媚態をつくしているが。ここにいる二人には、警戒しているようだ。

 

あたしはそういうのは嫌いだ。

 

流れ者だろうが。

 

すごい人達なのは、確かなのだから。

 

あたしは前に出ると、戸をノックする。

 

「……入れ」

 

女性の冷たい声。

 

息を呑むと、ドアを開ける。中は質素な家で、昨日の二人。アンペルさんとリラさんが一緒にいた。

 

夫婦なのかなと思ったが、それにしては距離があるように思う。

 

ソファで寝ているリラさんは、なんというかくつろいでいる高位の魔物みたいだ。それに対して、アンペルさんは、見向きもせずに本を読んでいる。

 

まずあたし達は、昨日の礼を言う。

 

アンペルさんは、ああとその気無しに答える。

 

リラさんの方は、一瞥だけすると。あまり歓迎しているようでは無い声色でいう。

 

「礼をいいに来たのは殊勝だな。 それで、何か他にようか」

 

「順番ね」

 

「うん」

 

「分かってる」

 

クラウディアは、研がれた気配が怖いようで、黙り込んでしまっている。こう言うときは、あたしが最初にやる。

 

それは、いつも決まっている事だった。

 

昔、もう一人悪ガキグループのメインメンバーがいた頃からだ。

 

「昨日見せてもらった、あの力。 なんですか?」

 

「力とは?」

 

「鼬を倒したり、レントを一瞬で回復した力です」

 

「ああ、錬金術だが」

 

それを教えてください。

 

そう、ばっと頭を下げる。

 

アレを見た時、今までで一番心が躍った。そうとも告げると、アンペルさんは、じっと黙り込んだ。

 

リラさんが、助け船を出すように言う。

 

「他は?」

 

「お、俺は戦い方を教えてほしい! あんた達の実力が俺より遙かに上……この村で最強のアガーテ姉さんより上だって事は、一発で分かった! 俺は、戦い方を覚えて、先に行きたいんだ!」

 

レントが言う。

 

更に、タオが続く。

 

「こ、古代王国の知識はありますか? 僕はその、この島でたくさん本を所蔵して、知識を受け継ぐ家の出で……でも何代か前に、その継承が途切れてしまって。 それで、この本を読めるようになりたいんです!」

 

タオも、恐がりなのにはっきり告げられた。

 

そして、クラウディアも。

 

「わ、私は、勇気が欲しいです! そのために、魔術の鍛錬をつけてほしくて!」

 

「ふむ……どうするリラ」

 

「どうもこうもな。 我々はこの島にそう長居するわけでもないんだが」

 

「そうだな。 ただ、此処はどうも当たりのようだと私は睨んでいる。 孤独に追い立てられながら調査するよりも、現地に協力者がいた方が良い。 それならば、交換条件次第では、受けてもいいだろう」

 

猫科の……もっとも危険な魔物のように、ソファでくつろいでいるリラさん。びりびりと強さを感じる。

 

アンペルさんはマイペースだが。それでも、やがて本を閉じて、顔を上げていた。

 

「タオといったな。 その本を見せなさい」

 

「は、はいっ!」

 

タオが、いつも腰に付けている本を渡す。

 

どれだけボオスに虐められても、絶対に手放さない本をだ。

 

アンペルさんはそれを一瞥して、そしてほうと呟いていた。

 

「古代クリント王国の言葉だな」

 

「よ、読めるんですか!」

 

「ああ。 ……だが、つきっきりで教える訳にもいかないか」

 

リラさんが、ひょいと立ち上がる。

 

グラマラスな体なのに、まるでそれを感じさせない。というか、一目で分かった。この人の全身は、人間離れした鍛錬を受けた筋肉で構成されている。多分腕力とか、ザムエルさんとかより強いだろう。下手な大人よりもう強いレントですら、問題外のレベルだ。

 

女性戦士でも、アガーテ姉さんのように強い人はいるが、だいたいの場合魔術を使って身体能力を強化してその強さだ。この人は、素の身体能力で筋肉ムキムキの大男より遙かに強い。四足獣の身体能力だ。それに加えて、とんでもない魔力を纏っているのがあたしにも分かる。それは、強いはずだ。しかもそれらの基礎に加えて、次元違いの戦闘経験も持っているのが一目で分かった。

 

ごくりと、あたしが生唾を飲み込む。

 

「お前とお前」

 

指名されたのは、レントとクラウディアだ。

 

リラさんは、あまりたくさん喋るのは面倒なようで。淡々といった。

 

「話が決まったら、私が見てやる」

 

「は、はいっ! ありがとうございます!」

 

「お願いします!」

 

レントとクラウディアが頭を下げる。

 

咳払いすると、アンペルさんは言う。

 

「では交換条件だ。 私達は今、この島で調査をしている。 私達はある理由から、各地の遺跡を調べて回っていてね。 この島に来たのもそのためだ。 この島の遺跡についての伝承や情報、それに周辺の知識など、土地勘のある人間の協力がほしい。 普段はそれも得られない場合があって、時間ばかり掛かる。 それに協力するなら、私達も協力しよう」

 

「協力します!」

 

「分かった。 ライザといったな。 お前さんが一番大変でな。 というのも、錬金術というのは、武術や芸術以上に才能に依存する学問だ。 才能がある奴は、一月で百年の研鑽を凌駕するし、才能がない奴は何百年やっても一切ものにならない」

 

それは、残酷な学問だな。

 

そうあたしは思ったが、それでもやってみたい。そう思ったので、素直に告げる。

 

アンペルさんは、それを聞くと少しだけ寂しそうだった。

 

「分かった。 それでは、君達にこれから協力させて貰おう。 代わりに、協力してくれ」

 

「はいっ!」

 

四人の声が揃う。

 

この時。

 

あたしの、このなんてことない島で。ただなんてことなく流れていく時間が動き出した。

 

このままいけば、あたしは護り手になって、それである程度の年齢で結婚して。島を守るために、伝統やら伝承やらにがんじがらめにされながら生きていく事になっていただろう。

 

だけれども。

 

この時、決定的に運命が変わったのだ。

 

それを、あたしは感じた。

 

全てが動き出す。全てが流れ出す。

 

大きな大きな運命に、導かれるように。

 

それを感じて、元々冒険が大好きな私は、どきどきとわくわくを抑えられなかった。

 

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