暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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文字通りの自殺行為に走ったボオス。

現れ出でるフィルフサと異界。

ライザはボオスを救出するために走ります。
如何に相手が犬猿の仲の存在でも。

ここで見捨てないのがライザのライザたる所以です。如何にブチ切れていたとしても。


少年期の終わり
序、湖上の遺跡


文字通り更地になった湖岸を抜けると、湖上に伸びている構造物に出る。

 

左右に拡がっているエリプス湖には、既に大量のフィルフサの残骸らしいのが沈んでいた。

 

蟻と同じような性質を持つ。

 

それを思い出して、あたしはぞくりと来る。

 

蟻の中には、はしごになって仲間を渡したり。

 

体そのものを貯蔵庫にして、蜜を蓄えるようなのがいる。

 

それと同じように。

 

水が苦手なフィルフサは、本隊を通すためにこうやって自分を平然と犠牲にするのか。それは自己犠牲を通り越して。

 

寒気を覚えるような性質だった。

 

踏み荒らされたからだろう。

 

遺跡には、もう生物はいない。たまに、粉々になった鎧が散らばっていたが。中に人間の残骸は入っていなかった。

 

重厚な鎧を着て戦うのはほぼ時代遅れだ。

 

魔術の火力がある今の時代、鎧は金属製であってもあまり役に立たないのである。皮や木で作った軽いものを使い。武器に重さを回すのが流行だ。それくらい、魔術は色々と発展しているのである。

 

それが、本当に正しいのかは分からない。

 

凄い技術で作った鎧だったら、着るメリットがあるのかも知れない。

 

ただアガーテ姉さんやクラウディアの話を聞く限り、鎧を着込む文化は廃れて等しいようだし。

 

復興するなら時間は掛かるだろう。

 

いずれにしても、此処で人間は殺されていない。

 

それは確定だ。

 

大量に水の中に沈んでいるフィルフサの死体。そしてそれが水上から見えるくらいである。

 

要するに、大侵攻が起きたら。

 

この遺跡を爆破して落とす程度では、止める事は絶対に不可能だと判断して良いだろう。

 

恐ろしい事だった。

 

アンペルさんが、急ぐぞと促してくる。

 

フィルフサは殆ど見かけないか、殺された後だ。リラさんが言った通り、すごい使い手が暴れたのだろう。

 

残っている僅かなのは、その場で見つけ次第仕留める。

 

小さいフィルフサなら戦える。

 

ただし、それでもタフだし、何より良く分からない攻撃を仕掛けてくる。鈍重そうなのが、いきなり針を大量に撃ちだしてきて、かなり焦った。小さいフィルフサ相手でも、油断は出来ないと見て良さそうだ。

 

「足場が崩れている。 気を付けろ」

 

「この回廊、普通の建築だと崩れる構造だ……どうやって支えているんだろう」

 

「ああ、それは古代クリント王国の建築技術だ。 重さを無視して、建築をする技術を奴らは持っていた」

 

「それはまた、すげえな……」

 

技術はなと、アンペルさんは吐き捨てた。

 

まあそれはそうだろう。

 

あたしも、同じ気持ちだ。

 

そんな凄い技術がありながら。人間としては、おぞましい程貧しい心の持ち主だったということだ。

 

崩れそうな足場。

 

何というか、しゃれた建物だったのだろう。

 

曲を描いた回廊は。

 

技術を見せつけるかのようだ。

 

往事は立派な屋根もついていたのだろう。

 

それらも、既に苔むして粗末になり果て、或いは壊れて空が見えている。ともかく、暗くなる前に全てを片付けなければならない。

 

「それにしても驚かされる。 あれだけの大物とやりあった後なのに、全員疲労の欠片も見せていないな」

 

「まあ、一日中皆で走り回っていましたし」

 

「自慢する事じゃねえだろ……」

 

「ライザの健脚はもの凄くって、昔から一日中でも走り回れる程で……僕なんか、ついていくの大変だったんですよ」

 

タオの心底大変そうな声を聞いて、クラウディアがくすくす笑う。

 

タオには色々言いたいことがあるが、まあいい。

 

先に、今は、あたしが健脚である事なんかよりも。もっと大事な事がある。

 

回廊の最深部につく。

 

大きな建物だ。足を踏み入れると、アンペルさんが呟いていた。

 

「間違いない。 聖堂だ」

 

「聖堂?」

 

「簡単に言うと、「門」を制御するための仕組みだ。 古代クリント王国では、どうも技術そのものを神格化していた節がある。 そのため、技術の結晶である場所のことを、神聖化していたようなんだ」

 

「その技術を、どうして建設的に使えなかったんですかね……」

 

あたしの怒りに対して。

 

アンペルさんは、淡々と説明してくれる。

 

構造はクーケン島と同じだと。

 

他の力を持った人間に勝ちたい。

 

だったら、もっと力がほしくなる。

 

派閥を大きくするには金や資源がいる。それでどんどん、やってはいけない事の歯止めが利かなくなる。

 

凶行を行えばそれだけ力が手に入るならなおさら。

 

そして、一線を誰かが越えると。

 

後は雪崩を打って、破滅に向かって行くのだと。

 

「馬鹿馬鹿しい……とは言えないんだな」

 

「ああ。 それにこれは、古代クリント王国に限ったことでは無い。 もうその組織そのものは潰れてしまったが、ロテスヴァッサ内部でも錬金術師を集めて似たような事をしていた。 今でこそロテスヴァッサは錬金術に興味を示していないが、もしもプロジェクトが成功していたら、古代クリント王国の二の舞になっていたかもしれないな。 そうなった場合、もう人類に「次」はなかっただろう」

 

「……」

 

あたしは、情けない。

 

人間というのは、どこまでもどうしようもない生物だというのがどうしても分かってしまう。

 

タオが、みんな来てと叫ぶ。

 

それで我に返って、奧に。

 

奥にあったのは、見た事も聞いたこともない代物だ。

 

空間に、黒い穴が出来ている。その周囲には、小型のフィルフサが何体か屯していた。

 

物陰に隠れて様子を窺う。

 

リラさんが、皆に聞こえるように声を絞って言う。

 

「よし、幸いまだ「空読み」は出て来ていない」

 

「今いるフィルフサどもを叩き潰せばいいんだな」

 

「そうだ。 ただし、あれは下見のために出て来ているだけの連中だ。 最下層のフィルフサで、それでもこれだけの数が出て来ている。 もし本格的に大侵攻が始まれば、人類は終わりだぞ」

 

「ぞっとしないよ……」

 

タオが分かりやすくぶるっと震えてみせる。

 

あたしも、正直怖い。

 

此奴ら、小さくて弱いと言う個体ですら、魔術は効かないし壊しきるまで動き続ける。それに、時々恐ろしい必殺の反撃をして来る。

 

魔物とは根本的に違う。

 

しかも死を全く怖れていない。

 

蟻などもそうらしいのだが、群れ全てで一体の生物という存在と考えていいらしいので。

 

その異常過ぎる生態も、納得出来る。

 

人間も群れを作って動く生物だが、それでもそれぞれに自我がある。

 

異質さは、正直恐ろしかった。

 

GO。

 

声が掛かると同時に、全員で仕掛ける。

 

フィルフサは反応が鈍いと言うよりも、それこそ多少やられても何とも思わないのだろう。

 

数体が粉々に砕かれるまで、まるでおそれずに向かってくる。

 

黒い光みたいなのをアンペルさんが放つ。

 

魔術だろうか。

 

魔術かも知れないが、それは確かにフィルフサを貫き、動きを一瞬止める。あたしがその間に接近して、蹴りを叩き込んで、構造体を粉砕する。

 

それにしても、小さくてもまるで岩山を蹴ったような手応えだ。

 

魔術で身体能力を増幅していなかったら、砕けるのはあたしの足の方だっただろう。

 

しかも、全体に満遍なくダメージを与えて砕くのには、これは相当な技術がいる。

 

直接魔術は通じないし。

 

これはとんでもない化け物だ。

 

一体を砕いている間に、他の一体が突っ込んでくる。魚に無数の足を生やしたようなやつだ。

 

防護に割り込んでくれるレントが、その鋭い一撃を塞ぎ抜く。

 

タオが頭上からハンマーを叩き落とし。

 

そして、レントが踏み込むと同時に、タックルを浴びせて、砕く。

 

倒すのではない。

 

砕くしかない。

 

前に戦った「将軍」の場合、大きさもある。これでは、まっとうな方法で倒せそうもない。

 

今も小さい奴を相手に、それぞれが何倍もあるような魔物と交戦するようにして戦っている有様だし。

 

倒れたように見せかけて、まだまだ平気で動く奴もいる。

 

リラさんは単騎で数体を瞬く間に片付けているが。

 

それでも覚えている。

 

もしも大侵攻が始まったら、リラさんが千人いても足りないと。

 

敵の物量は、こんなものじゃない。

 

まだ様子見で、群れの端の端が、ちょこっと出て来ているだけだ。

 

「駆逐完了」

 

「よし、皆周囲を見張ってくれ」

 

「アンペルさん、どうするんですか」

 

「聖堂は基本的に仕組みがあってな。 それを私は全て覚えている。 修復が出来るかどうか、確認する」

 

アンペルさんが、周囲を見回して、ぶつぶつと言い始める。

 

相当に集中しているのだろう。

 

かなり独り言が大きく。

 

また口調も荒くなっていた。

 

「これは経年劣化が原因だな……クリント王国の阿呆どもが、こんな塩水混じりの湖に作れば経年劣化も早いだろうに……本当に自分達の事だけしか考えていやがらなかったんだな畜生が……!」

 

「アンペルさん、集中するとちょっと怖いね……」

 

「アンペルは元々無理して落ち着いた雰囲気を作っている。 あれが素だ」

 

「へ、へえ……」

 

普段から割とはっちゃけている所もあるのだけれども。

 

まあ、それはいいか。

 

無言で周囲を警戒。魔物は影も形もない。

 

彼方此方で見かける、壊された鎧。壊すやり方も、押し潰して、更に粉々にするような無体なものだ。鎧が金属製だろうが関係無く、拉げている様子からして、力尽くで潰してしまっている。

 

これは、中に人間が入っていてもいなくても同じだろう。

 

前に将軍と交戦した時、相手がこっちに興味すら示していなくて本当に助かった。

 

相手がもし本気だったら。

 

恐らくひとたまりもなかった筈である。

 

アンペルさんが、ライザと鋭く呼ぶ。

 

急いで其方に行くと、話をしてくれる。

 

「聖堂の修復について、先に話をしておく」

 

「えっ?」

 

「ボオスという若造が行った先は、恐らくこの先しか考えられない。 この先に行ったら、生きて帰れる保証は無い。 最悪の場合は、お前がやるんだ」

 

「は、はいっ!」

 

聖堂の彼方此方に、朽ちた石材が散らばっている。

 

それらを新しいものに変える事によって、「門」を閉じることが出来るらしい。

 

ただし、それは応急処置も応急処置。

 

その後は、この「聖堂」そのものを修復した方が良い。そうアンペルさんは、どこにどんな石材を置くか、説明しつつ言う。

 

石材の置き方については覚えた。

 

信じられないほど巨大な魔術陣地になっているんだ此処は。

 

それこそ、クーケン島どころか、エリプス湖全てを覆い尽くしかねない。

 

此処は心臓部に過ぎない。

 

それを、石などを配置することで、簡単に動かせてしまう。

 

どうしてこんな脆弱性の塊みたいな代物で、門のような恐怖の塊みたいなものを制御しようとしたのか。

 

古代クリント王国の錬金術師達には、面罵してやりたくなる。

 

いずれにしても、やり方は覚えた。

 

隅の方に、急いで石材を運ぶ。

 

クラウディアも、優先順位については分かっているのだろう。手伝ってくれる。これはもう、力仕事をするしかない。

 

二刻ほどかけて、必要な石材を彼方此方から運んでくる。

 

遺跡の内部は、もう殆ど真っ平らにされていたから。

 

湖岸に行って、石材を運び込まなければならず。

 

その間に、数体のフィルフサと交戦し、全てを殲滅しなければならなかった。

 

日が傾き始める。

 

ランバーはアガーテ姉さんに保護されただろうか。

 

いずれにしても、ブルネン家とは連携して動かなければならない。

 

伝承にある乾きの悪魔。

 

それは恐らくだけれども。

 

フィルフサの事だ。

 

あらゆる全ての状況証拠が、そうだと告げている。

 

聖堂の前にて、石材を揃え。その後出てくるだろうフィルフサに破壊されないように、脇にどけておく。

 

また、あたしが建築用に作った接着剤で、彼方此方を補修する。

 

これについては、何かに役に立つかもと持ってきてはいたのだが。まさか本当に役立つとは思わなかった。

 

「良い接着剤だ。 今後はもっと使いやすくして、量産しておけ。 錬金術師なら、拠点も自分で作ってこそだ」

 

「はいっ!」

 

「また家を建てるのかよ……。 結構大変だったんだぜ」

 

「でも、確かに今のアトリエは居心地がいいよ。 作るの大変だったけど」

 

レントとタオが愚痴る。

 

クラウディアは、その間自分も手伝いをしてくれる。

 

やっぱり、そろそろクラウディア用の外出着を作るべきだ。絹服だと、戦闘大前提のこの状況だと厳しい。

 

クラウディアの着ているお洋服、下手をするとクーケン島だと家が何軒も建つレベルだろう。

 

とはいっても、クラウディアは特別扱いを特に嫌がる。

 

だから、力仕事するなとか、戦闘では後ろで見ていろとか、そういう事も言えない。

 

やはり、服も作るしかない。

 

クロースという布を作る技術が、錬金術にある。

 

今度それから初めて。

 

上級の錬金術布を作っていって。

 

それを服に仕立てるしかなかった。

 

「よし、このくらいでいいだろう。 優先順位としては最上位のものを片付けた。 ボオスという少年を救出してから、すぐに脱出するぞ」

 

「分かりました」

 

「この向こうはお前達がいう異界……我々の言葉でオーリムという場所だ。 恐らくフィルフサで全てが汚染されているとみていい。 全員、気を付けるように。 全方位を警戒しろ。 下も例外では無い」

 

リラさんに注意を促された後。

 

アンペルさん、リラさんに続いて、黒い穴に飛び込む。

 

一瞬だけ、何が何だか分からなかったけれども。

 

その直後に、おぞましい臭いが満ちていた。

 

周囲が、代わった。

 

石造りの聖堂の中から。紫に満ちた、おぞましい大地に。

 

空も地面も、紫に染まっている。

 

特に地面は、濃い紫になっていて、そこに点々と見えるのが、灰褐色……いや白を基調とした、色々なくすんだもの。

 

大きさも様々。

 

全部フィルフサだろう。

 

どうやら此処はちょっとした森の中であるらしい。

 

森といっても、植物とも言えないような代物が僅かに生えていて。

 

木の残骸が点々としているだけの場所。

 

小川も存在しない。

 

彼方此方たまに地形的に川らしい場所もあるが。其処には水は流れていなかった。

 

「此処は……見覚えがあるぞ!」

 

「リラさん?」

 

「此処は聖地の一つであるグリムドルだ。 我々が守っていたリヴドルも蹂躙され尽くしたが、此処もか。 此処は武名高い霊祈氏族が守っていたはずだが……」

 

「この様子では……もう敗退したか、全滅したか」

 

アンペルさんが、口惜しそうに言う。

 

リラさんが武名高いと言うほどのオーレン族だ。どれほどの手練れかも分からない。それでも敗退したのか。

 

行くぞ。

 

リラさんが、そう怖い口調で言うと。

 

全員、無言で頷くしかなかった。

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