暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、これからの事

洞窟を抜けて、クーケン島が見える岸辺まで来ると、ようやく一息つけた。途中でフィルフサの群れと遭遇する事も想定したのだが。将軍が倒れた事による混乱は想像以上のようで。

 

中には、それなりに大きなフィルフサが、水に突っ込んで死んでいる姿もあった。

 

魚ですら、その死骸をつつこうとはしない。

 

余程色々とまずいのだろうと、あたしは思った。

 

ともかくは、島に戻ることだ。

 

船はある。

 

その前に、アガーテ姉さんがいる。

 

此方に気付くと、小走りで来る。

 

「無事だったか、お前達」

 

「はい。 ボオスを救出してきました」

 

「無理をするなと言っているだろうが! それとボオス、貴様は特に念入りに説教が必要なようだな! 覚悟しておけ」

 

「分かっている。 素直に従おう、アガーテ護り手長」

 

あれ、呼び捨てをしなくなった。

 

その行動の変化に、アガーテ姉さんは一瞬だけ表情を固めたが。しかし、怒っている事に代わりは無い。

 

護り手をつれて、先に戻っていった。

 

船で島に移動する事にする。アンペルさんとリラさんは、あたしの、ライザのアトリエに戻るそうだ。

 

今回は、ブルネン家の跡取りが死にかけるという大事件に発展しかけた。

 

あたし達も、一度家に戻る必要があるだろう。

 

船上で、軽く話をする。

 

「今日は一度家に戻ろう。 あたしもそうする」

 

「分かった。 気は重いが、仕方がねえな」

 

「僕も気は重いよ。 ただ、大事な本が捨てられたりしている可能性がないことだけは嬉しいかな」

 

「お父さんも、ちょっと今回ばかりはとても心配していそうだわ」

 

クラウディアも、あの時烈火のように怒ったことは、もう過去の話のようだ。

 

クラウディアには、戦闘用の服を作る事。

 

それと絹服を駄目にした分の補填は、錬金術ですること。

 

それらは既に話してある。

 

前にルベルトさんの出した課題を突破しているから、ルベルトさんに売れそうなものを提案するだけで良いだろうけれど。

 

ただ、殺傷に使うようなものは出来るだけ作りたくない。

 

今作る事を見当している繊維関係がいいだろう。

 

布を作るのには、繊維を糸にすること。

 

糸を機織りすること。

 

どちらも、専門の技能が必要になる。

 

だが、錬金術を使えば、その二つをすっ飛ばす事も可能だ。

 

エーテルを用いて造り替える錬金術は、それだけ優れていると言う事だが。

 

問題は、才能がないと誰にも出来ない、という事である。

 

ただ、王都などにあるらしい、高度な服を作る装置なども。古代のものをだましだまし使っているらしく。

 

修理どころか、仕組みすら理解出来ないらしい。

 

そう考えてみると、どちらにしても同じだろうか。

 

まあ、いずれにしてもそろそろ服については作りたいと考えていたのだ。普段着での戦闘にも、限界があるからである。

 

錬金術で色々と能力をパンプアップできる服があれば。

 

これからの。

 

特にフィルフサの群れを相手にすることを想定した戦闘を乗り切る事も、決して不可能ではない筈だ。

 

ボオスが。

 

ずっと黙っていたボオスが言う。

 

「三日後だ」

 

「ん? どうしたの」

 

「父さんを説得する。 三日後に、邸宅に来て欲しい。 キロが言っていた水について、そうらしいものに何となく心当たりがある。 アンペル師とともに来てくれるか」

 

「分かった。 その時は案内とかお願いするね」

 

ああと、ボオスはそれだけ応える。

 

それにしても、昔は一番良く笑っていたのに。今はすっかり表情も硬くなって。

 

ただそれも、あたしにも原因があると思うと。あまりどうこうと言う事は出来なかった。

 

いつも使っている家の裏手の入り江に着くと、其処で解散とする。

 

さて、今日は一度休もう。

 

キロさんの話によると、フィルフサは再編制だけでも数日はかかると言う事だから。少なくともその間は大侵攻は無い。

 

それにずっと一人でフィルフサの大軍を抑え続けたキロさんが、敵の行動を遅滞させてくれるともいう。

 

それならば、しばらくは余裕があると見て良いだろう。

 

その間に、水を取り戻す算段をする。

 

三日。

 

その間に、あたしもやる事がたくさんある。

 

クラウディアと別れると、あたしは家に。

 

母さんが、少し窶れているように思えた。

 

父さんは、お帰りと言ってくれた。

 

今は、それだけで充分だった。

 

 

 

ボオスは、家の者に迎えて貰ったが。ランバーが一人だけ涙を拭っているのを見て、それだけは罪悪感を覚えた。

 

父はいない。

 

まあそうだろう。

 

外で情けない姿は見せられない。

 

憶病な父は、常にそういう事を口にしている。ボオスとしても、その辺りは理解出来ていた。

 

父には、全てを話しておくつもりだ。

 

家に入ると、父はもの凄くげっそりしていた。

 

ボオスがもう死んでいるかも知れない。そう考えていたのだろう。寿命を縮めたかも知れなかった。

 

「今戻った」

 

「このバカ息子めが、心配させおって!」

 

「すまない。 ……ライザ達と和解してきた。 随分と、時間が掛かってしまったが」

 

「そうか……」

 

咳払いすると、話をする。

 

全てを話すわけにはいかないだろう。

 

ただ、ランバーが、とんでもない魔物に襲われたことは既に話しているはずだ。父は知っておく必要がある。

 

この島の事実上の支配者は父だ。

 

それが知っていなければ、今後の対応が後手後手に回る可能性が高い。

 

「乾きの悪魔だと!」

 

「ああ、間違いない。 伝承は本当だった。 それも一体ずつが、この島の戦力を全てかき集めても対抗できるか怪しい強さで、それがタオの計算だと百万以上はいる」

 

「ひっ……」

 

そんな数字。

 

こんなちいさな島では、考える事すらない。

 

順番に話をしておく。

 

今まで、乾きの悪魔は侵攻路を封じられていたこと。

 

その侵攻路を封じていたクリント王国時代の遺跡が、経年劣化で壊れたこと。

 

それだけではない。

 

乾きの悪魔は、水に弱いが。

 

水がなければ。際限なく侵攻してくる事。

 

土地も何も関係無く踏みつぶし。地形も何もかも踏み崩し。

 

そして、やがて自分達の領土にしてしまう事。

 

それらを話すと、憶病な父は椅子になついていた。ボオスの言葉を信じていないとは思えない。

 

ただ、あまりにも衝撃的だったのだろう。

 

「考えてほしい。 猶予は三日。 アンペル師は、その乾きの悪魔とずっと戦い続けて来たようだ。 だから、この島に来た」

 

「そうか、それで遺跡を……」

 

「場合によっては先祖の持ち帰った水が必要になるかも知れない。 乾きの悪魔は、水には耐性がない」

 

「……か、考えさせてほしい」

 

父がふらふらと寝室に消える。

 

その寝室も、元は何の用途か分からなかった部屋だ。そこに調度品を運び込んで、寝室にしているだけである。

 

さて、他の連中は大丈夫だろうか。

 

父は憶病だが、愚かでは無い。最低限の計算は出来る人間だ。

 

大丈夫だと、ボオスは信頼していた。三日後には、最悪の場合強硬手段も考えていたのだが。

 

その必要は無さそうだなと、ボオスは思った。

 

 

 

レントの家は荒れている。

 

レントの父ザムエルは、言うまでもなく島で最悪の鼻つまみものだ。

 

母がいた頃は、まだマシだったらしい。

 

母は腕利きの回復魔術使いで。今のライザの作る薬からみれば回復力は論外レベルだが。それでも古老と肩を並べるか、それ以上くらいの腕は持っていた。

 

レントに好意的な村人が多いのも、母に助けられた人間がそれだけいるから。

 

それに、一部だが。

 

まだまともだった頃の父が助けた人間も、確かにいるのだった。

 

戻ると、酷い酒の臭いがした。

 

いつものことだ。

 

父は、奧でぐいぐいと飲んでいた。

 

蟒蛇の父だが、それでも飲み過ぎるとろれつが回らなくなって、そのままその辺で眠ってしまう。

 

母が出て行ってからは、料理もしなくなって。

 

その辺の飲み屋で食事をしてくる始末。そして、怖がって誰も父には意見できないのだった。

 

「なんだレント。 何処に遊びに行っていやがった」

 

「知らないのか。 騒ぎになっていたんだよ。 ボオスがちょっとな」

 

「ふん、ブルネンのクソガキか。 あれがそのまま島の長になったら、此処はいよいよ終わりだろうな」

 

「そうだっただろうな」

 

敢えて過去形で言ったのだが。

 

父はそれに気付けなかった。

 

前だったら、気付けただろうに。

 

掘っ立て小屋の奧で、勝手に寝る事にする。

 

父はこれだけ荒れていても、女遊びをする様子はない。母にまだ強い未練があるのだと、一発で分かる。

 

だからこそ、口惜しい。

 

昔の父だったら、それこそすっ飛んで母の所に行っただろうに。

 

レントは何人かから言われた。

 

若い頃の父は、レントによく似ていたのだと。

 

それを思うと。

 

堕落した果ての自分がそこにいると思って。

 

レントはとても悲しくなるのだった。

 

父は事あるごとにレントを殴ったが。

 

どういうわけか、その日は。寝るまでも。

 

起きてからも。

 

レントに手を出そうとはしなかった。

 

一瞥して、それだけだ。どういうわけか分からないが、父に殴られない日は久しぶりかも知れない。

 

しばらく此処を留守にしていたが、それはあまり関係無いだろう。

 

そういえば、アガーテ姉さんに説教を喰らった日の翌日も、手を出さなかったような気がする。

 

思うに、父は。

 

どれだけ酔って暴れる事があっても。

 

ライザを殴るような事はしなかったし。

 

ミオおばさんやカールおじさんが来ると、バツが悪そうに視線を背けていた。

 

三人は昔、レント達のような悪ガキ軍団だったらしいと聞いたこともある。

 

それも考えると。

 

余計にレントにとっては。色々と思うところがあるのだった。

 

猶予はあまり残っていない。

 

あのフィルフサの群れは、思い出すだけで寒気がする。「将軍」に勝てたのは、ほとんど奇蹟だったと思う。

 

だから、腕を上げなければならない。

 

何があろうとも、だ。

 

 

 

(続)




ついに悪ガキ同士の歴史的和解の瞬間です。

そして此処から、ライザ達の冒険は次のステージに移行する事になります。

フィルフサと、それを大繁殖させた古代の邪悪、古代クリント王国。

ライザの世界は拡がり。

一気に敵も大きくなるのです。
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