暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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異界での死闘。ボオスとの和解。

ようやく果たせたライザの当初の目標ですが。

すぐに次の課題が立ちふさがります。

此方の世界に侵攻を目論むフィルフサの出鼻は挫けましたが、ただそれだけです。

フィルフサをとめるには、群れの頭である王種の首を取らなければなりません。

それだけではありません。問題は山積しています。


再び問題は山と積まれる
序、猶予の間に


異界での激闘を終えて、翌朝。

 

あたしは湖岸で待ち合わせして、集合した。クラウディアは、また絹服を着ていたけれども。

 

これについては、他によそ行きの服がないのだろうと思う。

 

ルベルトさんは、服を破いたことに関して、全く怒っていなかったそうだ。

 

「一応保証はさせて貰うね」

 

「うん。 それと……お父さんには、軽く乾きの悪魔について話をしておいたわ」

 

「!」

 

「異界のこととかは話していないよ。 でも、多分モリッツさんが変な動きをした場合、お父さんが動かないと、被害がとんでもないことになると思うから」

 

それもそうか。

 

ともかく、対岸に渡る。

 

やはり、潮の流れは変わっているようだが。今朝、集合前に港で確認した。

 

魚が戻りつつあると言う。

 

やはり、あの外海の魔物が原因だったのだ。

 

それを考えると、色々複雑な気分になる。

 

白髭おじいちゃんは、感謝はしてくれた。

 

あたしからは、対岸はしばらく危ないから行かないようにとも警告した。

 

いずれにしても、漁師はあたしに対しての不信感を拭ったようだし。

 

そもそも大騒ぎになった事で、アンペルさんがぶち込んだ爆弾発言の事も、忘れている可能性が高い。

 

ただ、一部の漁師は申し訳なさそうにしていたので。

 

あたしとしても大きく咳払いして。

 

以降は、魚を安く売るようにと圧は掛けておいた。

 

「ライザはこういう所では抜け目ないよな。 普段はおおざっぱなのに」

 

「あら、ああいう漁師は湖に蹴落とす方が良いかしらタオ?」

 

「余計怖いよ」

 

「商売では、貸し借りを作るのは大事よ。 ライザは特にこの島で生活しているんだから、貸しを作ったのなら、いずれ必要な時に返して貰うといいと思うわ」

 

クラウディアの有り難い支援。

 

それにしても、流石というかやはりというかクラウディアは商売人の子だ。

 

こういう所は、あたしよりもずっとクラウディアはしっかりしている。

 

今の子供っぽさが抜けたら、多分クラウディアはなんというか、ルベルトさんに雰囲気が似るかも知れない。

 

勿論、古代クリント王国の鬼畜外道どものようにはならないでほしいが。

 

それはそれとして、利害を読んで行動するようにはなるのかも知れなかった。

 

四人で対岸に渡る。

 

その間に、採寸の情報を聞いておく。

 

クラウディアは、知っていた。服を作る事も話してあるので、当然だ。

 

男共は成長が早いので、その場で測るしかないだろう。

 

あたしやクラウディアは、だいたい身長の伸びはもう止まっている。体型はこれからまだ変わるかも知れないが。ただそれも、そこまで大きくは変化しないだろう。

 

そういうものだ。

 

十五くらいで女の子は背の伸びが止まるのである。それを越しても育つ子も中にはいるが。どうもあたしやクラウディアは違うようだった。

 

「それにしてもライザ、水はどうするの。 克服するための訓練とかは今後していく感じ?」

 

「うん、そうだね。 今回の件で改めてあの時の事を思い出したけれど、克服するために何とかしないといけないね」

 

「トラウマとかいうんだっけ? 早めに何とかしないと、大人になってもずっと引きずるらしいな」

 

「だとすると、泳ぎの練習とかする?」

 

まあ、するけれども。

 

それは後だ。

 

今は、まずは全員の武装の強化。

 

それに何よりも。

 

ブルネン邸に出向いて、調査をしなければならない。ボオスが話をつけてくれているという話だ。

 

三日後に出向くまでに。

 

出来るだけの事をしておかなければならない。

 

そもそも、時間を稼いだと言っても、フィルフサが本当にどう動くかは分からない。

 

何百年もフィルフサと戦い続けているだろうキロさんの発言は、恐らく信頼出来ると見て良い。

 

「蝕みの女王」というフィルフサの王種は、他に比べて更に強大だという話である。

 

異界で将軍と戦ったが、それは前衛の使い捨ての個体。はっきりいって、他の将軍と同じか劣る程度の力しかなく。王種とは比較すら出来ない程度の力だったとも聞く。

 

それにあくまで可能性だが、フィルフサが今回将軍が倒されたことで、想定外の行動に出るかも知れない。

 

あまり、もたついている時間は無いだろう。

 

アトリエが見えてきた。

 

まあ、泳ぎについてはいずれ克服する。

 

着衣泳は、既にアガーテ姉さんに教わって習得しているのだ。それにやり方によっては、鎧を着て泳ぐ事だって出来る。

 

おぼれかけたあの事件の時は、魔力での身体制御も今とは比較にならない程下手で、魔力量も少なかった。

 

今は魔力も充実しているし、水への根本的な恐怖さえ克服できればどうにでもなると見て良い。

 

後は、理屈ではなく。体に恐怖からの克服をしみこませる事だが。

 

それは、今やるべきではない。

 

今は、もっと優先順位が高いことがいくらでもある。結構差し迫っているのだ。フィルフサの大侵攻が。

 

だから、其方を優先する。

 

はっきりいって、暇な時間などない。

 

ただ、それでもやるべき事には冒険も一緒に混じっている。

 

色々酷い目にあったし、嫌な事だってあったけれど。

 

オーリムに足を運んだことは、普通にクーケン島にいたら絶対出来なかった経験であり。

 

冒険と言わずしてなんと言おうか。

 

あたしは。いやあたし達は。冒険ごっこではなく、冒険をしている。

 

それは、紛れもない事実だった。

 

アトリエに到着。リラさんはすっかり庭でくつろいでいて、猫のようである。屋内よりも、外の方がいいらしい。

 

庭にはある程度の広さがあるので、畑を作るのも良いかも知れない。

 

ちょっと遠出しないと手に入らないような素材は、此処で育ててしまうのも手の一つである。

 

錬金術で、薬効が高い種を作り出すことも出来るかもしれない。

 

そうなれば、何度も繰り返しているうちに、強力な薬草を作り出せ。

 

より強力な薬を作る事が出来る可能性もある。

 

「来たか。 アンペルが待っている。 早く中に入れ」

 

「リラさん、朝からのんびりですね」

 

「いや、昨日の戦いで久々に全力で動いたからな。 少し彼方此方痛い」

 

「え……」

 

レントが露骨に驚いた。

 

てか、あたしも驚く。この人が。筋肉痛になるとかあるのか。

 

あるらしい。リラさんがむくれる。リラさんも、或いはここのところ鈍っていたのかもしれない。

 

「まあ、動けない程では無いがな。 行くぞ」

 

「は、はあ」

 

「分かりました」

 

まずはアトリエに入る。これからの事を、きちんと話しておかなければならない。

 

冒険云々の前に、まずは戦略である。

 

そして、それを一つでも間違えれば。

 

下手をするとロテスヴァッサもろとも人類が滅ぶのだ。

 

人口が何十倍もいて。

 

今よりも錬金術の技術が比べものにならないほど浸透していて。恐ろしい兵器とアーミーがいた古代クリント王国の時代ですら、フィルフサとの戦いで致命傷を受けたのである。

 

今の、まともに都市間の街道の安全すら確保できず。

 

無能な貴族が出来もしないことをああでもないこうでもないとほざき合っているロテスヴァッサなんて。

 

もしもフィルフサの侵攻があったら、ひとたまりもない。

 

ましてや大侵攻なんて起きたら、それこそ一巻の終わりだ。

 

それが分かっているから、動く必要がある。

 

それについての分別くらいは、あたしもついていた。

 

アンペルさんが、本を読んでいたが。あたし達が来ると顔を上げる。

 

あたしのアトリエの中で。

 

皆で、机を囲んだ。

 

「よし、まずは状況の整理から行くぞ」

 

「はいっ!」

 

「うむ。 我々がもっとも優先して対処しなければいけないのは、フィルフサの大侵攻だ」

 

当然の話だ。

 

開けっ放しの門。異世界への道。

 

そして異世界にて、古代クリント王国のせいで大繁殖したフィルフサ。

 

フィルフサは、自分の住んでいる土地を、自分達用に造り替えてしまう。そして、どんどん他の土地へと侵攻する。

 

フィルフサに魔術はほぼ効かない。それどころか、生物急所への攻撃も通用せず、生半可な質量攻撃も弾き返す。その上、天文学的な数がいる。弱点は水だけ。

 

魔術が誰にでも扱える今の時代でも。

 

はっきりいってこんな怪物の相手は不可能だ。

 

多分もう、ボオスはモリッツさんに「乾きの悪魔」として、その存在を知らせている筈である。

 

それは別にかまわない。

 

最悪の場合、あたし達が時間を稼いでいる間に、他の都市に連絡を飛ばして貰う必要がある。

 

そうすれば、一部の人間は或いは逃げ延びる事が出来るかも知れない。

 

勿論、それは最後の手段だが。

 

それすら見据えて動かなければならないのだ。

 

「門を無理に閉じることは可能だが、その場合グリムドル……キロどののいた聖地の水は戻らない。 水をまずは取り戻し、それから門を閉じる必要がある。 ボオス少年が今日から二日後に準備を整えると言っていたな。 それに沿って、まずはブルネン家の邸宅を調査する。 其処に、水の手がかりがあると見て良いだろう」

 

「ボオスが言っていましたけど。 確か何代か前の当主であるバルバトスが「水を持ち帰った」という事でしたね」

 

「そう言っていたな」

 

「私の方でも言質取って来ました」

 

あたしも挙手する。

 

昔聞いていた話だが、「何となく」ではまずいと思ったので。昨日家に戻ってから、お父さんお母さん、それに近所の農家に話を聞いてみたのだ。

 

そうすると、同じ証言が上がって来た。

 

既に農家を引退している老人などからも話を聞いたのだが。

 

間違いないとみていい。

 

「恐らく、同じ時期です。 クーケンフルーツしか採れなかったクーケン島で、麦やら他の作物やらが採れるようになったのは。 水の質が、決定的に変わったと判断して良いかと思います。 それと、他にも証言が得られました」

 

「聞かせてくれ」

 

「はい。 ウラノスさんに話を聞いてきましたが、やはり祖父から幼い頃に聞かされた話だそうですが。 バルバトスというブルネン家当主の時代に、急にブルネン家が威張りだしたそうです。 それまでは護り手の長くらいの地位にいるだけで、そこまで絶対的な権力を握っていなかったそうなのに」

 

「なるほどな。 状況証拠は揃っている」

 

アンペルさんが頷く。

 

タオも、それに続いて発言する。

 

「僕の方でも調べてきました。 やはりブルネン家が威張りだしたのは、百数十年前、バルバトスという当主の時代です。 バルバトスは武勇に優れた人物であったそうで、禁足地に勇敢に足を踏み入れ、水を持ち帰ったという話が複数から確認できました」

 

「そうか。 そうなると、ブルネン家が自分達の名に箔を付けるために、勝手に流布した噂ではないようだな」

 

「間違いないと思います。 噂にしては嫌に具体的ですし……何より農作物はそれまで高いお金をだして、他の村などから買い付けていたそうですので。 それに確認できましたが、多数の漁師がそのタイミングで農民になっています。 百数十年前から百年ほど前に、農家の数が三倍に増え、逆に漁師の数がその分減っています」

 

「有り難い情報だ。 数字は嘘をつかない。 よく短時間で調べてくれたな」

 

タオが、えへへとちょっと可愛く頭を掻く。

 

タオは知的活動をさせたらこの面子の中で随一だと思うのだが。最近はそれを生かす機会に恵まれているからだろう。

 

なんというか、とてもつやつやしている。

 

それにだ。

 

タオはこういった、知的活動そのものが大好きなのだろう。

 

あたしも錬金術のために頭を使うのは大好きだから、何となく分かるのである。

 

好きと実益が両立できれば。

 

それは嬉しいに決まっている。

 

「リラさん、もう少し稽古をつけてくれるか」

 

レントが挙手。

 

だが、リラさんは、首を横に振る。

 

「もうお前を含めて、皆には基礎を叩き込んだ。 応用はそれぞれでやるべきだ。 応用の段階に入ると、それぞれにあったやり方を皆で見つけるしかない。 下手に先達がしゃしゃり出ると、それは良い結果を出さない」

 

「そうか……」

 

「そうだな、禁足地とやらの偵察に出るから、その時に同道してくれ。 戦闘経験を多少なり積む事が出来るだろう」

 

「おっしゃあ! ライザ、俺たちで下見をして来る。 その間に、色々と頼むぜ!」

 

頷く。続いてクラウディアだ。

 

クラウディアも、活力を増している。

 

あの時、勇気を振り絞ってフルートを吹いた。

 

それが大きかったのだろう。

 

勇気を出せば出すほど、閉じ込められていたクラウディアの潜在魔力が開花している。詠唱阻害なんて、ベテランの魔術師でもなかなかできる事じゃない。

 

タフネスにものを言わせて、大威力魔術を好き放題に放ってくる魔物への対策は、人間としては必須なくらいなのだが。

 

それを阻害できるクラウディアの音魔術は、今後も切り札になる筈だ。

 

「お菓子持ってきました。 頭を使うには、とても良いと聞いています」

 

「ありがたい!」

 

「アンペル、少しは控えろよ」

 

「分かっている。 だが脳を動かすには、糖分は必須なんだ」

 

呆れたリラさんだが。

 

ひょいと立ち上がる。筋肉痛だと言っていたが。その割りには随分と身軽だ。

 

「レント、クラウディアはついてこい。 これから威力偵察に出向く。 キロ=シャイナスがフィルフサを抑えてくれているだろうが、禁足地という場所が良く分からない以上、先に我々で様子を見る」

 

「おう!」

 

「わかりました」

 

「ライザ、タオは私とともに二日間みっちりそれぞれがやるべき事をする」

 

タオに、更に専門的な百科事典を渡すアンペルさん。

 

タオが、文字通りの宝を貰った目で、よだれを拭っていた。

 

「今のタオになら、これを渡しても良いだろう。 家から持ち出した書物を、これで可能な限り解読するんだ」

 

「はいっ!」

 

「あたしは、やりたいことが幾つかあります。 調合と、検証をしていても良いですか」

 

「そうしてくれ。 私は今まで集めた情報を整理し、タオと検証する」

 

これで、大まかな戦略は整った。

 

それぞれが動く。

 

リラさんが、レントとクラウディアをつれてすぐに出る。

 

あたしは、調合を開始していた。

 

タオは山積みになっている本と向き合って、凄まじい勢いで解読を開始。元々頭は良かったのだ。

 

本を解読出来るようになれば。

 

あれは宝の山。

 

それこそ放っておけば、死ぬまで本を読み続けるだろう。

 

アンペルさんは、膨大なメモを書き起こして、ゼッテルに記載している。たまにゼッテルを増やしてくれと頼まれるので。あたしもすぐにゼッテルを作る。

 

余っている植物を釜に入れ。

 

エーテルで要素ごとに分解。

 

そして、再構築する。

 

植物の繊維という要素を、エーテルの中で組み合わせて、格子状に重ね合わせる。それを、複雑に複雑に。そして規則的な形で行い。

 

更に水分を取り去って、乾かすことでゼッテルとなる。

 

本来だったら、複雑な行程を作らないと出来ないゼッテルなのだが。

 

錬金術でやると、文字通り膨大な数を短時間で作り出す事が可能だ。

 

ただしこれには才覚が関与している。

 

あたし以外には作れない。

 

それは決して良い事ではないと思う。

 

だから、それはどうにかしなければならないだろう。

 

王都にある、ロストテクノロジー化している機械の数々。今の技術と知識では、再度作り出す事は出来ず、だましだまし使っているインフラの元。

 

それらの多くは、錬金術製だとアンペルさんに聞いている。

 

恐らくは、古代クリント王国が滅びた際に、ロテスヴァッサに再編制されるまでに生き延びた機械だ。

 

それらも、いずれあたしが解析して。

 

壊れないようにするか。

 

新しいものを作り出すしかないのかも知れない。

 

そう思うと、責任は重大だ。

 

黙々と調合を続ける。

 

布を作るには、まずは糸を作らなければならない。

 

蜘蛛が作り出す強靭な糸をまずはベースに、より合わせてある程度太い糸にする。此処から、糸をエーテルの中で練り合わせて、布にする。

 

それで、布を作る事が出来るが。

 

ちょっとこれは、絹には程遠いできばえだ。

 

錬金術製だから、様々な魔術を込める事が出来る。

 

着ることで、身体能力を上げることは出来るだろう。

 

だけれども、あたしでもちょっとこれを着るのはと思う程に肌触りが酷い。改良をしなければならない。

 

ただ、着るのでなければ使い路は幾らでもある。

 

しばらく、色々なものを試してみる。植物の繊維は無理だ。大きめの植物を分解して見るが。これもとてもではないが着ることは出来そうにない。

 

黙々と調合を続けていると、リラさん達が戻ってくる。

 

情報を共有する。

 

「禁足地という場所には、遺跡が多数あったな。 そして北に、塔が見えた」

 

「俺がいつか行きたかった塔だ……」

 

レントが呻く。

 

今の実力だったら、行く事は恐らく出来る。

 

だが、そんな事をしている場合では無いと言う事は、理解出来ているのだろう。

 

悔しいが。それが現実だ。

 

クラウディアが、咳払いする。

 

「それよりレントくん」

 

「あ、そうだったな。 ライザ、どうも天然の絹糸みたいなのがあるんだ。 ちょっと俺たちだと何とも分からなかったが、布を作るにはいいんじゃないのか?」

 

「本当!」

 

糸を作るのは非常に大変だと言う事は分かった。そして絹は、そもそも蚕の吐いた糸である。

 

繭をゆでることで糸を取り出し。それを布にする。大変な手間を掛かるから、高級品なのだ。

 

しかし蚕の天然種もいると聞いている。それならば、その糸を採取するのは大きな手間を省くことになる。

 

「すぐに行く?」

 

「うん!」

 

即座に準備して出かける。リラさんは、着いてくるように、促していた。

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