暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
それは……想像以上に近くにあるのでした。
高台にあるブルネン家には、今日は人も殆どいない。
タオが、歩きながら告げてくる。
「ねえライザ、気付いてる?」
「誰かにつけられてる? あたしには気付けていなかったけど」
「いや、違うよ。 見て。 彼方此方に枯れた水路があるでしょ。 昨日、色々と調べてみたんだけれども。 昔は水が出ていたっぽい噴水とか、水路とか、幾つもあるんだ」
「そうなんだ……」
気付いていなかった。
或いは幼い頃の冒険の時から、タオはそういうのをよく見ていたのかも知れない。
タオは眼鏡を直しながら言う。
「百数十年前のバルバトスってブルネン家の当主についての話なんだけれど、その時の出来事らしい記述を、持ち込んでる本の中から見つけてさ」
「お、タオ、やるじゃないか」
「うん、ありがとう。 ええとね……その時、地震の後に「水が涸れた」って話をしているんだよね」
「水が、涸れた!?」
それは、本当か。
何人かに話を聞いたが、そんな話はあたしも聞いていない。老人達も、一人もそんな事は話していなかった。
というか、そもそも当時はクーケンフルーツだけ作って暮らしていたはずで。
しかも次期次第では、水なんか涸れたらそれこそ死活問題だ。
もっと記録に残っていてもおかしくない筈なのに、どうして問題になっていないのか。
「タオくん、続けてくれる?」
「うん。 記載はあまり目立っていなかったんだけれど、そもそも雨期だった事もあって、それほど問題にはならなかったみたい。 だけれども、僕が見つけた手記には……当時は僕の家はそれなりにクーケン島で地位があったみたいでさ。 古老もブルネン家も大慌てしてるって記載があったよ。 どうもその時まだバルバトスって人は当主ではなかったみたいでさ……」
「雨期だったのなら、確かに水が涸れても大騒ぎにならなかったのも納得が行くな」
アンペルさんの補足。
確かに、クーケン島の周辺は、雨期は場合によっては作物が駄目になる程雨が降る。
乾期とは対照的に、である。
しかしだ。
百数十年前、色々起きすぎではないだろうか。
その頃、何かあったのではあるまいか。
ちょっと何とも言えないが、ともかくタオに話を聞く。
「気になったから、それ以前の記録も調べて見たんだ。 雨期の間にため池とかに水を溜めていたって記録もあるんだけれども、どうもそれ以外に水源があったみたいなんだよね……」
「他に水源!?」
「うん。 それが涸れたって事なんだと思う。 今は水源をブルネン家が独占しているでしょ。 こういう涸れた水路を見ると……この話を笑い飛ばせないと思う」
「なるほどな……」
アンペルさんが、タオの言葉に納得する。
あたしはただ驚くばかりだ。
しっかりタオは三日で成果を上げている。ただ楽しくて本を読んでいるだけではない。確かに戦闘ではそこまで活躍出来ないが、それでもこれだけの成果を上げる事が出来るのは凄い。
邸宅の前にはボオスがいて。腕組みして門扉に背中を預けていた。
頷くと、そのまま影から奧へ。
実はこの門扉からでは無く、奧に入る事が出来るのだ。
元々この大きな邸宅、なんの建物だったか分からないという噂があり。
水を独占した頃から、ブルネン家が勝手に家として使用しているという噂もある。
もしもそれらが本当だとすると。
ここは、遺跡であり。
下手をすると、家ですらないのかも知れなかった。
アンペルさんが、クーケン島は遺跡だらけで。その中心が此処だと言っていたが。
それもあながち、頷ける話だ。
「モリッツさんとは話がついたの?」
「ああ、説得した。 あまり表だって行動は出来ないがな。 ランバーにはお前達が邸宅に入るのをばれないように見張りをして貰っている」
「そうか。 あの青年、かなりの使い手なのに爪を隠していたが……それには何かの理由があるのか?」
リラさんが鋭い言葉をぶつけるが。
あたしがたしなめる前に、ボオスが言う。
俺が不甲斐ないせいだと。
それで、ある程度察しがつく。
ランバーは元から荒事に向いていない。その言葉そのものは確かだったのだろう。
フィルフサを倒した剣腕は本物だった。
つまり、エゴで他者を殺す事ができない、ということだ。誰かを守る事にしか剣を振るえない。
それは荒事に向いていないかも知れない。
あたしは、エゴで誰かを傷つけるつもりは無いが。
必要に応じて、相手を排除することが出来る。
そういったときは、非常に冷酷になれる。
実際問題、相手に対して死すべきだと考えた場合、躊躇なく相手が消し飛ぶような攻撃を選択できる。
そういう意味で。
あたしは危ういのかも知れない。
それが強さには必須のものだとしても、だ。
入口付近から隠れた所で、ボオスが咳払いする。邸宅の図面を見せてくれる。
幼い頃に、悪ガキ四人で何度も忍び込んで。
その頃はまだ生きていたモリッツさんのお母さん。女傑と言われていたブルネン家の先代当主に見つかって、むしろ面白がられたっけ。
あの人はあたしのことを随分と気に入っていたらしくて。
養子にしたいとか言っていたと聞く。
亡くなったときは、こんな人でも亡くなるのかと本気で驚いたし。
モリッツさんも、大泣きしているのをみた。
そして当時は、ブルネン家はもっと人望があって、今みたいな嫌われ者ではなかった気がする。
モリッツさんも頑張っているが。
それは偉大な先代に、今でも心を縛られているのが原因なのだろうとは思う。
「アンペル師、これが邸宅の図面になる。 俺も幾つか見て回ったが、よく分からないものがあって、特に父さんには迂闊に触るなと幼い頃から念押しされていた」
「ありがとう、分かりやすいな。 水に関係しそうなものもあるのか」
「ある。 この辺りに、大きな噴水が。 この辺りに、その噴水を制御しているという魔術の道具というものがあるらしいが。 此処は念入りに鍵が掛けられていて、俺も中は見たことがない」
「分かった。 一つずつ調べよう」
ブルネン家は、大きな邸宅の割りに静かだ。
今日はモリッツさんも大人しくしてくれているだろうし。
来客も排除してくれている。
それでも、手早く作業はしなくてはならない。
手分けして、周囲を調べる。あたしはボオスと組んだ。
「メイドさんとか雇わないの?」
「実際問題、ばかでかいこの家だが、庭園以外は殆ど何もないんだ。 それにブルネン家の家訓でな、不要な人間を雇うなと言うものがあって、家でのメシは殆ど俺か父さんで作るか、或いは買ってきている出来合いなんだよ」
「うっそ、意外……」
「勿論父さんが買いに行くわけでは無くて、事情を知っている家に、うちの使い走りにしている若いのが取りに行くだけなんだけどな。 昔は父さんにもランバーみたいな懐刀がいたらしいんだが、流行病で死んじまってな」
そうか。
それはなんというか、ブルネン家には大きな痛手だっただろう。
エドワードさんが来るまでは、流行病になるのは死と同じだったと聞いている。
今までに何度か流行病が来た事があったらしいが、一番酷いときは島の人間の四割が死んだという。
生き残った人だって、別に病に強かった訳でもなんでもなく。
病気に罹った人がみんな死に絶えるまで、家の中でブルブルふるえていただけだ。
病に強い人間が生き残ったなんて大嘘だ。
そういう話を、昔老人が後悔のまなざしでしていたっけ。
多分、見捨てた一人だったのだろう。
見捨てた相手は、恋人とかだったのかも知れなかった。
噴水だ。
非常に大きいが、水が出ていない。
タオが言った奴かも知れない。
「これ、昔は水が出ていたんじゃない?」
「よく分かったな。 昔は無条件で水が出ていたそうだ。 さっきアンペル師に分かった事のメモを渡したんだが、それにも記載をしておいた。 ただ、水の質は良くなくて、クーケンフルーツしか育たなかったそうだし、その味も今より劣ったらしいがな」
「それはあたしも聞いてる。 昔は麦も育たなかったんでしょ」
「そうだ。 その辺りは、専業農家のお前の家の方が詳しそうだな」
噴水を見るが、どうも形状がおかしい。
なんというか、違和感がある。
他の所を見て回ったが。どれもこれも、「機械」とかいうよりも、「錬金術の道具」に近いように思えた。
キロさんと、異界で話した。
その時に、キロさんが言っていた。
古代クリント王国の鬼畜達は。
水を奪った道具を、こう呼んでいたという。
「渦巻く白と輝く青」。
固有名詞ではなく、量産型のものだったのだろう。あたし達が出向いた異界の土地は、グリムドルという場所であったらしいが。
他でも、同じ道具が使われたことは、想像に難くなかった。
一通りみて回った後、合流する。
二時間ほど調べたが、即座にこれだと判断出来るものはなかった。
心配そうに、影から此方を見ているモリッツさん。
あたしと視線があうと、こそこそと隠れる。
恐らく、乾きの悪魔ことフィルフサの話はもう聞いているのだろう。元が憶病なモリッツさんは、気が気では無いのだろうし、仕方がない。
レントが若干呆れた。
「それにしても、モリッツさんを良く説得できたな」
「父さんは気が小さいが、それでもこの島の事を第一に考えているんだ。 俺もランバーも乾きの悪魔を直に見ている。 それを疑ったりはしないさ。 その恐ろしさもな」
「だが、立場上表だって手はかせないと。 面倒な話だな」
「そうなる……」
リラさんはいちいち辛辣だが。
多分、あまりモリッツさんに良い印象がないのだろう。
リラさんはなんというか、良い意味でも悪い意味でも野性的だ。
政治的駆け引きだけでトップになっているモリッツさんの事を、良く思っていないのかもしれない。
「ある程度察しがついた。 この離れだ」
アンペルさんが言う。
離れに、用途がよく分からない建物がある。
タオが、眼鏡を直していた。
「これ、古代クリント王国の様式だよ。 調べはじめの僕でも分かるくらい露骨だ。 もう数百年も風雨にさらされている筈なのに、殆ど劣化していない。 どんな素材で作ったんだろう」
「それでも、塩水には劣化するんだよね」
「それは、仕方が無いよ。 或いは高台だから、潮風の影響が小さいのかも知れないね」
タオが嬉々として解説してくれるが。
今は調査が先だ。
淡々と調べて行く。内部には、何か大きな装置があるが。動いているようには思えない。ただ。非常に古くて。
内部には強い魔力があるのが分かった。
「……ちょっといい?」
タオが前に出る。
背が足りないらしく、うんうん言いながら手を伸ばしているので、クラウディアが椅子を持ってきた。
ありがとうとクラウディアにいいながら、高い所に上がるタオ。
そして、装置を弄り始める。
幾つも何だか機構がついているが。
タオはメモを見ながら、淡々と動かしている。
ボオスが眉をひそめるが。
その言葉は、前と違って威圧的ではなかった。
「おい。 大丈夫かタオ」
「この装置、見覚えがある。 僕の家にあった古い本にまんまの図面が載ってた」
「なんだって……!」
「用途はよく分からないけどね。 ただ、さっき確認したんだ。 此処から不自然な水路が延びてて、島に行き渡ってる水が出ているんだよ」
水路は、後付したものかも知れない。
そうタオが言いながら、くるくると何か回している。
やがて。がこんと音がして。
それが開いていた。
タオが体ごと引っ張って、巨大な蓋を開ける。
本当にこれ、なんの装置だったんだ。
あっと、タオが声を上げる。
「間違いない! これだ!」
「見せて!」
あたしがまずは椅子を借りて、タオの次に上がってみる。
なるほど、これか。
球体になっているが、水を常に放出している。リラさんが見せてくれというので、場所を変わる。
「リラ、迂闊に触るなよ」
「分かっている。 水の味は……間違いない! 聖地の水の味だ!」
リラさんの声が、露骨に怒りを帯びる。
クラウディアが、眉をひそめていた。
アンペルさんが、リラと鋭く叱責するが。リラさんは、まだ怒りの声を上げる。
「こんな所に……水を奪ったものがあるのか!」
「くそっ! 俺の先祖は英雄なんかじゃない! 盗人だったわけか!」
ボオスも怒声を張り上げる。
あたしが、一喝していた。
「落ち着いて!」
「!」
「……!」
「まずは、専門家の意見を聞こう。 もしも聖地の水がその装置……球体に全部何らかの方法で詰め込まれているんだとすると、もし壊したら大洪水でクーケン島が押し流されかねないよ」
錬金術、それも古代クリント王国時代の錬金術だったら、それが可能な筈だ。
それだけの危険な代物なのである。
二人が黙る。アンペルさんが、代わりに椅子の上に上がって、中身を確認していた。
「……なるほどな。 これは恐らくだが……概念を操作しているものだと見て良い」
「概念?」
「聖地グリムドルといっていたな。 「聖地の水」をあの球体の中に閉じ込めるという概念的な道具なんだこれは。 一度、聖地の水を全て取りあげても、彼処まで乾くことはないと分かるだろう」
「確かに雨とか降りますし、ずっと水がないのはおかしいですよね」
そうだとアンペルさんは言う。
この道具は、聖地にある水をこの中に転送し、常に保つ仕組みがあると言う。
表面に操作盤のようなものがあって、閉じ込めた水の一部を放出することもできるらしいが。
その放出している水は、本来はグリムドルにあるべきものだった、ということだ。
それは、あまりにも酷い。
クラウディアが、不安そうに言う。
「アンペルさん。 もしもその装置を壊したりしたら、やっぱり……」
「ああ、ライザが言った通りの事態になる。 しかも継続的に水が出続けて、クーケン島は水に沈むだろうな。 勿論聖地に水が戻る事もない」
「くっ……キロはずっと一人で、あの場所で戦う事になるのか」
「ライザの言葉で手をとめて良かったな。 それに……」
アンペルさんが、椅子から降りて。皆を見回す。
順番に、やる事があるという。
「まずはライザ」
「はいっ!」
「この道具を、錬金術で再現する必要がある。 ただこれは、古式秘具に近いレベルの道具だ。 私でもレシピを発想する事が出来ない。 或いはだが……何かしらの代替手段を見つけなければならない」
頷く。
極めて大変な作業だが。
クーケン島だけではない。
聖地グリムドルのためでも。何よりも、フィルフサの大侵攻を食い止めるためでもある。
そして、これをいきなり取り払ったら、クーケン島は麦も出来ない極貧の寒村に逆戻りだ。
それもどうにかして、防がなければならないだろう。
「アンペル、それで何か具体案はあるのか」
「……リラ、こう言うときは順番に片付けて行くしかない。 ええと、そうだな。 これを何処で君の先祖は見つけたのか分かるかボオス」
「ああ。 禁足地の北にある塔だという話だ。 三日の間に日記などを調べて、得意げに冒険をしたと記載している日記を見つけた。 ただ、調べて見るとバルバトスは武勇には優れていたという話だが、今のあんた達とは比べものにならなかった筈だ。 あんな危険な場所に、どうして一人で行けたのか……」
「恐らくだが、今はこの島の周辺は、極めて危険な状態になっている」
アンペルさんが説明をする。
古代クリント王国は、フィルフサが大繁殖した後、大慌てで色々な装置を起動した節があるという。
或いはだが。
大繁殖したフィルフサを、抑える自信があったのかも知れないが。それでも安全策を用意していたのかもしれない。
二重三重にセーフティを用意していた、というわけだ。
その全てを喰い破られていたら、意味もないのだが。
ともかく、そのセーフティが今は働いているという。
「幽霊鎧と君達が呼んでいる存在がいるな」
「ああ、たまに見かけられる中身のない鎧だな」
「あれは古代クリント王国や、更に昔から使われている自動兵器だ。 稼働するための仕組みは様々だが、いずれにしても自動的に動いて標的を攻撃する。 あれはフィルフサと戦うために、この土地に多数配備されていたんだよ。 そして今回、「必要に応じて」動き出したというわけだ」
「対フィルフサで、というわけか……」
ドラゴンも、そういう意味では同じというわけだ。
古代クリント王国の錬金術の産物は、フィルフサの到来を察知して。ドラゴンを攻撃に駆り立てるべく稼働したというわけだ。
つまり、フィルフサを黙らせない限り。
ああやって狂うドラゴンはなんぼでもでてくるということだ。
それは、生命に対する冒涜であると思う。
あたしは、怒りがふつふつとわき上がってくるのを感じた。
「アンペルさん。 やっぱりあたし、許せません」
「皆、怒りはよく分かる。 だが、こう言うときこそ冷静になれ。 順番に、一つずつ問題を片付けて行くぞ。 幸いキロ=シャイナスが、時間を作ってくれている。 まだ、時間はある」
アンペルさんの冷静な言葉すら、今は煩わしく感じてしまう。
だが、それでも聞かなければならなかった。
アンペルさんが、順番に話す。
「第一に水だ。 この島の水が何故失われたのか、調査する必要がある。 場合によっては、ライザ。 お前が錬金術で水を集める道具を作る必要もあるが、いずれにしてもレシピが必須だ」
「はいっ!」
「第二に、水源を復活させたら、この装置をとめて、異界に持ち込む。 装置の操作方法は分かった。 後はそのまま、異界に持ち込んで、水全てを元に戻す、で大丈夫だろうな」
「洪水が起きないか」
ボオスの冷静な言葉だが。
クラウディアが、笑顔のまま過激なことを言う。
「洪水を起こそう。 キロさんを除いて、オーレン族は一人もいないのよ。 それに、あそこにいるフィルフサを全部片付けるには、それくらいしないと駄目だわ」
「あ、あんた意外に過激なんだな……」
「ふふ」
「クラウディア、時々怖い事さらっというんだよね……」
ボオスもタオも引いているが。
まあ、それはいい。
「最後に、水によって弱体化したフィルフサに総攻撃を行い、王種を討ち取る。 それでグリムドルは平穏に戻り、更には大侵攻の危険はなくなる。 一度フィルフサに汚染された土地だが、それでも水が戻ればフィルフサの繁殖は抑えられ、そして時間を掛ければ元に戻るだろう。 ……出来れば環境を戻す所まで責任を持ってやりたいが、残念ながらそれを出来る手札が私達にはない」
「そうなるとアンペルさん。 次の目的は塔だね」
「そうなる。 ただし、対フィルフサの防御網が山と展開されている筈だ。 気を付けて足を運ぶ必要があるだろうな」
「異界への門は、開けたままにはできないのか」
ボオスが言うが。
アンペルさんが、首を横に振る。
蝕みの女王という王種を仕留め、水を戻したところで。
人間が多数この世界にいる。
今の所ロテスヴァッサは錬金術を忘れているが、しばらく前は錬金術師を集めて、古代クリント王国と同じ事をしようと目論んでいたらしい。
錬金術の兵器利用。
更には、異界からの資源奪取。
いずれも馬鹿馬鹿しい机上論だが、錬金術の圧倒的な力を見て、それを本気で考えていたのだそうだ。
そんな連中に、アンペルさんは腕を。
悲しくなってくる。
ボオスは、そうかと呟くと、俯いていた。
ボオスは明らかに、強い影響をキロさんに受けていた。この落胆も、分からないでもない。
「よし、順を追って動くぞ。 我々はこれより塔の攻略に全力を注ぐ。 ボオス、君はブルネン家の影響力を駆使して、島の周辺の安全確保を頼む。 キロ=シャイナスがどれだけ踏ん張っても、絶対にフィルフサの斥候は姿を見せる。 最低でもアガーテ女史程度の実力がなければ、一方的に蹂躙されて踏みつぶされるだけだ」
「分かっている。 その辺りは、父さんと俺でどうにかする」
「頼むぞ。 よし、一度アトリエに戻ろう」
アンペルさんが音頭を取ってくれて助かる。
逆にいうと。
あたしはまだまだひよっこだということを悟らされる。
錬金術の技量は、確実に上がっている。
だが、今が一番危ない時期なのだろうな。
そう、あたしは自覚していた。