暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
元々アンペルさんは、ロテスヴァッサ王国の錬金術師だった時代に利き腕を潰された過去があります。
それ以来、壮絶な人生を送ってきたアンペルさんは。
色々と若者達とは別方向で鬱屈しているのでした。
アトリエに戻ると、アンペルさんに教わる。
そろそろ良いだろうと言う事で、順番に話を聞いていく。
今教わっているのは、アンペルさんが習得に十年以上掛けた奥義だという。
錬金術は、百年の努力を一月の天才が超える事がある学問だという。
それはとても不公平な代物だとあたしは思う。
そして、それが即座に目の当たりにされる。
今まで、エーテルの内部で要素を分解し。それを再構築する事で、様々なものを作り出していた。
その後は、いちいちエーテルを全て揮発させてしまっていたのだが。
これを固形化する技術があると言う。
固形化したエーテルは、要素ごとに分割して、宝石のようにする事ができるのだとか。
これには問題があり。
本人にしか、宝石……ジェムとしたものがなんだか分からないという。
だが、あたしは魔力操作に関しては自信がある。
言われた通りに、揮発させていたエーテルを、固形化していく。
すぐに、ボロボロとジェムになっていく。
触ってみると、分かる。
なるほど、これは便利だ。
また即座にエーテルに戻す事も可能。魔力をちょっと流して、操作してやるだけでいい。
これでかなり素材のロスを抑える事が出来る。
そう考えると、覚えておいて損は無い技術だ。
ジェムをすぐに作り出せるようになったあたしを見て、アンペルさんはしばらく黙っていたが。
やがて大きく息を吐いて。
そして絶賛してくれた。
「素晴らしいな……」
「いえ、ありがとうございます」
分かっている。
アンペルさんには複雑なはずだ。
これはアンペルさんが10年掛けて作り出した奥義だ。それをノウハウを伝えたからといって、一瞬で再現されたら面白いはずがない。
それでも、祝福できた。
アンペルさんは本当の意味で大人だと思う。
あたしは、もう一度ぺこりと頭を下げる。本当にこればっかりは、アンペルさんに申し訳ないと思う。
いずれにしても、やる事がある。
まずはクリミネアを加工して、装備品に変えていく。
それだけではない。
クラウディアが持ち込んだ宝飾類を参考にして、アクセサリを作る。
お洒落なんてどうでもいい。
そんなものではなくて、実用的なアクセサリだ。
集めて来た鉱石の中に、宝石の原石が幾つもあったのだが。
宝石は魔石と同等かそれ以上に、魔力を蓄積させるのである。つまり、宝石をコアにすることで、凄い威力の魔術を常時身に纏うことが出来る。
ついさっき作ったばかりの服も、身体能力をガン上げするが。
これを身に付ければ、更に皆強くなるはずだ。
それだけではない。
クリミネアを加工して作った装備類を、護り手にも引き渡す。これで、フィルフサに対して少しはマシに戦える筈だ。
アガーテ姉さんはあたしから見ても天才だと思う。
十五になるかならないかで王都に出向いて、騎士の資格を取得しているのである。
しかも賄賂だの血統だのがものをいう王都の状況で、実力でだ。
良い装備に身を包めば、多分この間のフィルフサの将軍とも、あたし達と混じって同等以上に戦えた筈。
他の護り手はみんな実戦経験不足だが。
それでも、この装備があればまた変わってくるはずだ。
やはり、リラさんがレントとクラウディアをつれて、威力偵察に出る。後で話があると言っていたけれど。
今は、まずは基礎戦力の強化だと判断したのだろう。
あたしが一心不乱にジェムを釜に放り込み、クリミネアをそのジェムを元に増産しながら武器に造り替えているのを見て。
邪魔をするべきではないと、判断してくれたようだった。
丸一日掛けて、まずは皆の分の武器を作る。
身体能力が上がってきている事もある。
皆用の武器は、それぞれ更に上の段階のものを作る必要がある。リラさんのクローも見せてもらう。
使い込まれている業物だが。
残念ながら、リラさんの身体能力に比べると、釣り合っていないのが一目でわかった。
あたしは錬金術師としてはまだまだアンペルさんに教わることだらけだが。
魔術師や戦士としては、それなりの経験を積んで来ている。
だから、見れば分かるものはある。
というか、リラさんも、分かっているようだった。
「更に強化出来ると見て良いか」
「はい。 もっと軽くしなやかに強く錆びないように」
「……もう一つ注文がある」
リラさん曰く。
元々リラさんは、「精霊」と呼ばれるものを身に宿して、身体能力を上げているという。
それはその辺にたくさんいるエレメンタルと同じものなのかと一瞬疑問に思ったが、違うと言う事だった。
「あれらは自然にある力に、何かしらの歪んだ力が加わった結果、ヒトの形を取っている存在だ。 私が口にしている精霊というものは、心の中に宿る」
「はあ、なるほど……」
つまり暗示のようなものだということか。
恐らくオーレン族の中にある信仰と結びついた、心の中にある神殿に住まう存在なのだろう。
不思議な話じゃない。
魔術を使うのが誰でも当たり前の今の時代。こういった精神的な魔術の話は、誰でも分かるようになっている。
実際問題、強力な魔術使いの中には、心の中に別の自分がいて。その自分と共同で魔術を唱えるなんて口にしている人もいる。
それが本当かは疑う必要は無い。
魔術が実際に発動しているかどうかで、判断すべきだ。
元々魔術は個人依存。
魔力は誰にでもあるものだが、実の所魔術発動のプロセスは、分かっていない事が多いらしい。
ウラノスさんに昔聞いた話だ。
あたしのように、生まれついて適性が高く。湯沸かしなどの魔力応用にも苦労しないようなタイプもいるが。
そうでないタイプは、内在する魔力を身体強化に生かす事で。魔術をぶっ放すよりも大火力の攻撃が出来たりする。
必ずしもどっちが優れているということもないのだ。
「分かりました。 何かしらの紋様や記号、呪文などを刻みますか?」
「察しが良いな。 これを刻んでくれるか」
「どれどれ……うっ……ええと?? リラさん、これなんですか?」
「なんだ。 今のライザなら出来ると思うが」
書き下ろして貰うが。口をつぐんだのは、見た事も、理論も分からない紋様だからである。
どうしてもイメージできないものは、調合の手間が二段階くらい跳ね上がってしまう。これはあたしが、才能だけでごり押ししてきた弊害なのだろうとも思うが。
だが、こういったものを調合できてこそだ。
メモを起こして貰って、更にしっかり実際のリラさんが使っているクローに刻まれている紋様もチョークで写し取る。
はっきりいってあたしは絵が上手い方では無いので。
こうやって写し取ることが出来るのは、有り難かった。
休憩を挟みながら、皆の装備を刷新していく。
まずはレントの大剣。これは分かりやすい。クリミネアも散々インゴットを作ったので、重さも把握している。
大剣等の大型武器は破壊力があるが、初速にどうしても問題が出る。
この新しい大剣は、その初速を補うべく、魔術の紋様を刻み込んでいる。しかも刃の強度を落とさないようにだ。
ただ、使い勝手が違う。同じ大剣でも、振るってみて感触が変わると、自分の足を斬りかねない。
レントには、すぐに使って試して貰う。
続いて、クラウディアの弓。
これは、弓の弦は作らない。しなりを出すために、主要部分だけをクリミネアで作り。それ以外は合板で作った。
自分でも魔力の糸を作り出して引いてみたが、既にかなり重い。
クラウディアは魔力がどんどん大きくなっているので、今はかなりしなやかに弓矢を操れるが。
さて、これは大丈夫だろうか。
早速外で試して貰う。
クラウディアも色々と思うところがあるらしく、魔術で矢を作り出すだけではない。音魔術の展開も含めて、色々戦術を考えているようだ。
ぎりぎりと、凄い音を立ててクラウディアが弓を引き。
矢を放つ。
遠くの湖面に着弾した矢が、ドカンと激しく爆発していた。おおと、皆で声を上げる。
これは、もういっぱしの火力だ。
「クラウディア、大丈夫? 一発ごとの負担とか、大きくない?」
「大丈夫。 糸を魔術で作り出すのも、矢を魔術で作り出すのも、もうへいき。 矢を放つ時とかも、殆ど苦にならないよ。 後は……フィルフサにどうやって有効打点を稼ぐかだね」
「鏃だけ、石や何かを使って見るといい。 生半可な質量攻撃はフィルフサには意味を為さないが、この火力なら装甲を貫通できるはずだ」
「分かりました、試してみます」
リラさんのアドバイスを受けて、クラウディアが早速魔力を練り始める。
周囲の小石を魔力だけで浮かせて、魔力矢の先頭に鏃としてセット。
撃ち放つ。
まるでバリスタだ。
ぶっ放された矢の破壊力が、更に上がっている。これは、心配しなくても大丈夫だな。そうあたしは判断した。
続いてタオのハンマーを渡す。
これは複層構造になっていて。敵には打撃を浸透させ。自分には反動を最大限軽減するようになっている。
複層構造の中には伸縮性が高い素材も含めてあり、全てに魔術の紋様を刻んで強化してある。
タオは前はハンマーに明らかに振り回されていたが。
しばらくハンマーを振るって、満足そうにした。
「いいねこれ。 不意打ちなら、相当な痛打を与えられると思う」
「良かった。 走り回るのも大丈夫?」
「この服を着るようになってから、体力が溢れてるし、問題ないと思う。 ありがとうライザ、これで戦闘で役に立てる」
さて、此処からだ。
まずはリラさんのクローを作る。
リラさんの手の大きさなどを調べてから、使いやすいクローをイメージして、順番に組んでいく。
クローは元々玄人向きの武器で、実戦で扱うのは極めて難しい代物なのだ。
リラさんの動きから考えて、竜巻のように巻き込んで斬るのには、刃が複数あった方が良い。
それも大きい方が。
そう考えて、作りあげる。
やがて仕上がるが、何しろ初めて作る武器だ。まずは使って見て、感触を試してもらう。
リラさんは頷くと、普段のクローを外す。使い込んでいるクローは、既に壊れそうである。
新しいクローをつけて何度か振るった後、調整を即座に頼まれた。
頷いて、重心を少し変える。
これについては分かっていた。今回ので覚えればいい。武器はそれぞれにあうあわないがある。
どれだけ凄い名工が打った剣でも、全く使いこなせない場合もあると聞く。
幸い錬金術はその辺りつぶしが幾らでも行く。
淡々と、注文に応えて修正を行っていき。十回目で、リラさんは満足してくれた。
「よし、これでいい。 長年使った武器だったが、これで更改だな……」
「前のは、やっぱり異界で作ったんですか?」
「いや、たまたまあうものがあったから、人間の無法者から取りあげた」
「……」
あまり聞かない方が良さそうだ。
アンペルさんとリラさんは、散々苦労しながら門を閉じて廻って来たのである。その過程で、色々後ろ暗い事もあっただろう。
最後は、自分の武器を作る。
これについては、分かっている。最大限魔力を増幅できるように、さっそく作れるようになった宝石も混ぜ込んで、欲張りな杖を作る。
あたしの魔力は連日エーテルを極限まで絞っている事もあって、更に更に増幅されている。
以前は詠唱有りの全力の場合、熱の槍を2500発ほど放つのが限界だったが。
今だったら、同じ火力で良いのなら8000はいける。
ただ、数だけ叩き付けてもあまり意味がないと感じる。今後は、一つずつの威力を上げて、数を絞るべきだろうと思う。
そう思いながら、自分のための杖を構築していく。
勿論打撃用としても使えるようにしたいので、クリミネアももっと盛り込むが。
途中から考えを変えて、靴にクリミネアを仕込んで、更に強化する。
あたしの本命は蹴り技。
特にフィルフサとの戦闘では、これが必要だ。
しかも、である。
跳び蹴りだと大きい隙を作る事になる。近距離から蹴りのラッシュを叩き込む事で、効果的にフィルフサの装甲を破壊出来るし、反撃にも対応しやすい。
あの将軍並みのフィルフサと今後は戦う事を考えると。
魔術の増幅だけではなく、蹴り技の強化は必須。
しかも切り札なのだ。
だったら、更に磨き抜かなければならなかった。
杖を念入りに作りあげる。
夕食の時間が来た。
流石にちょっとくらっと来る。クラウディアが、むっと頬を膨らませていた。
「ライザ、無理しすぎだよ」
「ごめん、ちょっと夢中になりすぎた」
「夕ご飯早く食べて」
「そうする」
何だかお嫁さんみたいだなクラウディア。そう思いながら、夕飯の席に着く。もう切り上げているレント。相変わらずの早食いだ。
タオは黙々と食べているが、ちょっと小食すぎて心配になる。しかもオは食べられないものも多いのだ。
リラさんはイメージ通りで、とにかくたくさん食べるのだが。それはそれとして、トイレに行く回数はあまり多く無いような気がする。
オーレン族は人間とかなり体の仕組みが違うらしいのだが。
それが原因かも知れなかった。
「ふう、ごちそうさまあ……」
「ライザ、大丈夫? ずっと調合と調整してたよね」
「禁足地に行くでしょ。 あんまり時間掛けていられないし、短時間で突破出来るように装備は調えない、と?」
「おいおい、平気か?」
ふらふらしているあたしの口を、さっさとクラウディアが拭く。
なんというか、手際が良すぎてちょっと怖い。
いつもにこにこしているクラウディアだが。
たまにあたしが無理をしていると、すごく敏感に嗅ぎつけるのである。この辺り、遠慮とかしないでと言っていた事を思い出す。
多分だが、クラウディアは。
普段は抑えている分、心を許した相手には無茶苦茶甘えるタイプだ。逆に言うと、束縛もするのだろう。
ただ、それはそれとして大事な友達である。
多少の事は、許容しての友達であるともあたしは思う。
とりあえず、寝ようと思うが。
リラさんが、視線で外に出るようにと促してくる。
頷いておく。
皆が食事を終えて、めいめい休みにはいる中。
出来るだけ早めに休むようにとクラウディアに言われて。あたしはうんと応えて。そして適当なタイミングで抜け出していた。
夜。
月の下。
リラさんは待っていた。リラさんは実の所殆ど眠らなくても良いらしく、何でも脳を半分ずつ使って半分ずつ眠らせることが出来るそうだ。その気になれば眠りながら走る事も出来るとか。
オーレン族は此方の人間と違って、森の中で生活する種族。生態からして森と一体化している、此方の世界の人間よりも遙かに野性的な種族であるらしい。
だから単体の能力が高く、魔力の親和性も比較にならない程高い。
普段、それほど消耗していない時ならば。あまり眠る必要もないそうだ。
リラさんは、月下の下で、差し出してくる。
「今なら、頼めると思ってな」
「これは」
「神代と言われる、クリント王国より前の時代の遺物だ。 一口に「古式秘具」といっても色々あるらしくてな。 神代には体を欠損しても補う方法が幾らでもあったらしい」
これがその一つだと。
渡されたのは、腕を包むようにしてあると形状からして分かるもの。
義手、だろうか。
アンペルさんの手は、ズタズタになっている。それはあたしも知っている。
だから、これを使えば治るというのなら。
治らないとしても、錬金術師として一線に戻れるというのなら。
「神代とかいう時代も、その時代に生きた連中も、相当に腐った代物だったそうだ。 それはそれとして、今はその技術を使いたい。 技術そのものに罪は無い。 そして残念ながら、千年の時がこれを劣化させつくしている。 アンペルはこれをいらないと言った。 恐らくは、錬金術師であった事に今でも罪悪感を覚えているのだろうな」
「そんな……」
「だが、今はそんな罪悪感に捕らわれている時では無い。 フィルフサの大侵攻が起きれば、文字通りこの土地と……私達の土地は更なる地獄となる。 今でもオーリムではフィルフサとの絶望的な抗戦が続いているが、それが更に悲惨になる。 私達の土地という意味でも、これは防がなければならないんだ」
頷く。
リラさんの言葉は通りだ。
感情を超えたところにある、「やらなければならない」事。
今、アンペルさんが錬金術師としての力量を取り戻すのは、そのために必須である。
あたしは、渡された古式秘具を見る。
なるほど。
どうやら、中核になっているシステムは問題が無さそうだ。これはどうも手に沿って展開して、その動きを補佐するものらしい。
しかも意思に沿って手を自在に動かす。
それを、あたしは理解出来ていた。
「仕組みは分かるのか」
「はい。 動力源の仕組みはちょっとまだ分からないけれど、どうやって動いているかは……それでどう壊れたかも分かりました」
「流石だ。 アンペルが既に自分を超えたと言っているだけの事はある」
「大げさですよ。 だけれども……これなら」
これだったら、直せる。
ただ、徹夜作業は見つかったらクラウディアに殺される。一度休んで、翌朝にやることになるだろう。
リラさんに、それを告げる。
明日の朝は、出かける前にちょっと一作業あるだろう。
それでも。
それは、やる価値のある作業だった。
起きだしてから、すぐに庭に出て、体を動かす。
今日から禁足地に足を踏み入れる。
禁足地と言ってもかなり広い。
「門」が封印されていた「聖堂」のあった湖岸だけではない。その北には、滅びてしまった村の残骸もある。
滅びた経緯はわからないが、「禁足地」を挟んでクーケン島とは距離があった事もある。
いずれにしても、滅びて人がクーケン島に逃れてくるまで、交流も殆どなかったと見て良いだろう。
威力偵察をして貰った結果、これらの村跡には相当な数の魔物が入り込んでいるそうである。
ただ、それほど強力な魔物は見かけられなかったそうで。
強いものは、フィルフサを察知して遠くに逃げたのだろう。
残ったのは、弱くて逃げられない者ばかり、と言う訳だ。
それも時間を掛けて、湖岸から離れて行っているそうである。
そして、塔だが。
現時点では、どうも禁足地の北にある渓谷を抜けるしか無さそうだ、という結論が出ていた。
当然リラさんが率いるレントとクラウディアは、威力偵察を兼ねて魔物をかなり削っているので、クーケン島の護り手には評判がかなり良くなっている。魔物の処理は、経験が浅い護り手には本当に決死の作業なのだ。
それに、魔物は本当に数が多くて護り手達は難儀していたのだ。
威力偵察の過程で削る事。
更にそれで、肉や毛皮を手に入れられること。
その二つ両方が喜ばれていた。
本来は、人間を襲うとは言え、それでも自然の守護者たる魔物もいる。そういった魔物を、容赦なく駆逐するのは少しばかり問題になるだろう。
しかし今フィルフサが原因とは言え、各地で生態系を乱しまくっている魔物は、駆逐しなければならない。
そうしなければ、人間がいずれ襲われるからである。
ただ、護り手にも周知が出ている。
少し前まで出ていた無理な駆逐作業は中止するようにと。
これは、モリッツさんをボオスが説得したのと。
古城にいたドラゴンが死んだ事が、原因だと思って良さそうだった。
体を動かして、顔を洗う。
そして、起きだしてきた皆に挨拶をすると、あたしは調合をすると告げた。
まだ何か必要なのかと肩すかしを食らったような顔をしていたレントだが。リラさんが、レントとクラウディアをつれて威力偵察に行き、昼までに戻ると告げてさっさと行ってしまった。
それを見て、時間が出来たと思ったのだろう。
タオがアンペルさんを捕まえて、聞きたいことがあると話し始める。
良い感触だ。
午前中に、仕上げてしまうべきだろう。
幾らキロさんでも、一月もフィルフサの侵攻を抑えることは出来ないだろう。時間は、文字通り金塊よりも貴重だ。
黙々と調合をする。
ジェムを用いての、物資の複製。これが出来るようになったのが大きい。
今まで無駄にしていたエーテルを、全て有効活用出来る。
あたしにしか、ジェムを判別して複製に使う事が出来ないのが問題だが。元々錬金術はそういう学問。
才能に依存するものだから、それは目をつぶるしかない。
黙々とクリミネアを用いて、調合をしていく。
非常に繊細な構造を持った義手だ。
これを手にセットして、手の機能を補う。神経もズタズタになっている手で、繊細な調合が出来るように。
それだけでは駄目だ。
戦闘で激しく動かしても耐えられるように、調整をしなければならない。
アンペルさんは、現時点でも結構無理をして戦闘に参加してくれている。今後、後方で参謀だけをしているつもりはないだろうし。フィルフサとの戦闘では最前線に立つつもりの筈だ。
そして足手まとい云々は違う。
アンペルさんはこの間の将軍との戦闘の時も、雑魚フィルフサをかなりの数仕留めて、食い止めてくれていた。
これが更に力を増したら、きっと戦況を更に良く出来る。
アンペルさんは、喜ばないかも知れない。
だけれども、これは必要な事なのだ。
黙々とクリミネアのインゴットを溶かし、エーテルの中で要素を抽出する。もとの義手も丸ごと入れてしまう。
古式秘具を丸ごと調合でエーテルに溶かすのは緊張する。
失敗したら一巻の終わりだからだ。
混ぜながら、要素を抽出し、組み合わせていく。
既に100や200の行程を、この過程で出来るようになって来ている。才能に依存する学問と言われる訳だ。
いわゆるマルチタスクといわれる行為らしいが。
これは才能がない人がやろうとしても、絶対に出来ないだろう。
あたしは、唇を噛む。
これは天賦の才と言う奴なのだろうけれど。
これが悪人に宿ることも、当然にあるということだ。そして古代クリント王国の錬金術師や、それにアンペルさんの手を傷つけた連中もそうだったということなのだろう。
これが、神代と呼ばれるものの産物で。
それがろくでもない連中だったという話も聞いている。
だとすると、アンペルさんやあたしは例外なのかも知れない。錬金術師は、力に溺れ、邪悪に染まりやすいのだろうか。
何となく、分からないでもない。
あたしも魔力の扱いが上手いことを知ってからは、幼稚な全能感に浸ったことがある。
ただ、ウラノスさんのような先達がいて。
魔術の分野でも、上には上が幾らでもいる事を理解出来たから良かった。
もしも島で最強程度で調子に乗って、その状態で錬金術を知っていたらどうなっていたことか。
あまり、考えたくない事だった。
調合を終える。
エーテルから取りだした義手は、調整がほぼ完璧。今、あたしにできる事は全てやった。
釜のエーテルを全てジェムにしてしまう。色々な雑多な要素があるが、クリミネアの使い損ねた部分とか、集めて再利用できる。
アンペルさんが、タオの熱量に押されて疲れた様子で来る。
丁度、リラさんも戻って来た。
さて、ちょっと大変だけれども。
アンペルさんを説得しなければならない。
リラさんがあたしを見る。あたしは、それに対して頷いて見せる。
アンペルさんは、時々気性の荒さを見せる事がある。普段は落ち着いた物腰を無理に作っているという話だが。
最悪の場合、殴り合いになっても説得しなければならないだろう。
「アンペル、話がある」
「ん? リラさん、特に珍しいものは見つからなかったよな?」
「何かあったの?」
「ああ、ライザに私が準備して貰っていたものがあってな」
最初に反応したのはレントとクラウディアだが。
二人にも、まずは最初に説明をしておかなければならない。
義手を見せる。
それを見て、アンペルさんは顔色を変えていた。
「それは、捨てたはずだ」
「私が拾っておいた。 必要になると判断してな」
「余計なことを……」
「アンペル」
リラさんの声が冷える。
アンペルさんも、臨戦態勢に入る。これは、最悪アトリエが内側から吹っ飛ぶか。
あたしは、静かに。声を出来るだけ意識して、絞っていた。
「アンペルさん。 フィルフサの大侵攻が迫っている中、今は動ける錬金術師が一人でも必要だと思う。 そういう意味で、あたしはリラさんの言葉が正しいと思う」
「ライザ、お前……。 ロテスヴァッサの王室の連中が、錬金術師に何をさせようとしていたと思っていやがる! 錬金術の兵器を量産して、オーリムへの侵攻を目論んでいたんだぞ!」
アンペルさんの口調が荒れる。
分かっていた。本気で怒っている。
だけれども、ここで引くわけには行かない。
「奴らは身の程知らずにも、フィルフサの危険性を知りながらそれを軽視していて、勝てると思っていた! 古代クリント王国の連中は油断したから負けたのだと、本気で思い込んでいやがった! 私はオーリムに毒を撒いて、オーレン族の根絶やしをするようにも指示されていた! それを拒否した結果、この腕にされ、あまつさえ二十年以上も暗殺者を送り込まれたんだ!」
「マジかよ……」
「酷い……」
レントとクラウディアが呆然とする。そうか、今の国、ロテスヴァッサの腐敗ぶりもクリント王国と代わらないんだ。そう思うと悲しくなるし。今の様子だと、アンペルさんしか反対する人間はいなかったのだろう。
錬金術師がみんな幼稚な全能感に捕らわれ。それどころか、錬金術の産物を見たロテスヴァッサの上層部もそうだった。それどころか、その全能感がフィルフサの恐ろしさを誤認させ。
オーレン族を根絶やしにしようとした上。今度こそ、世界を滅ぼす所だった、と言う訳だ。
「この腕は、私の罪の証だ! だから……」
「今はそんな精神論を話している場合ではない! 思い出せ! 何のために私達は門を閉じて回った!」
リラさんの鋭い叱責。こっちも、言っている事は正しい。
そしてあたしの見た所、此処はリラさんが言う事の方が正しいし。何よりも、リラさんがこれを言う事に意味がある。あたしがこれを言っても無意味だ。
ロテスヴァッサなんて国が、実態は王都しか実効支配しておらず。
クーケン島は事実上無関係だったとしても。
あたしは力ある錬金術師の側。
どう言葉を言いつくろっても、「オーレン族」からして見れば仇敵だ。錬金術そのものがそうだろう。
今、リラさんが、こうやって過去の怒りを捨ててくれた。
そこに、意味があるのだ。
「アンペル、一日やるから考えろ。 ライザ、タオ、出るぞ。 峡谷は入口付近を調べたが、かなり危険な状況になっている。 ドラゴンがいる可能性もあるし、それどころか……更に危険な気配まであった」
「分かりました。 だとすると、全力で向かわないといけないですね」
「うわー。 しんどそう。 でも、僕も行きます」
タオは、敢えてそんな風に言う。
皆で、アトリエを出る。
アンペルさんは、幾ら荒れてもあたし達を裏切ったりはしないだろう。ただ、感情を。荒れ狂う感情を抑えるには時間が掛かる。
ましてやアンペルさんは、人より長い時間を生きているという話だ。ずっと感情を抑えるのは大変だろう。
だから、あたしは待つ。
師匠が、錬金術に復帰できるのを。
最後の頼れる仲間が、味方になってくれるのを。