暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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クーケン島から見える塔。

其処への到達が第一の課題。

これをクリアするために、ライザ達はさっそく禁足地に踏み込むのですが……

大きな影が立ちふさがることになります。


精霊王の峡谷
序、禁足地の奧へ


アガーテ姉さん達が、対岸に来ていた。以前のドラゴン戦での負傷者は、ウラノスさん以外はすっかり良いようだ。

 

ウラノスさんはもう前線には立てない。

 

命と引き替えにドラゴンに痛打を入れたのだ。人生最後の仕事と割切って。

 

後何年生きられるか分からない。

 

少なくとも、その残りの時間は、安楽に過ごす権利がある筈だし。

 

それを否定する奴を、あたしは許さない。

 

幾つかのやりとりをしておく。

 

護り手は、やはりかなり忙しいようだった。

 

「今日は此方は街道を調査して回る予定だ」

 

「分かりました。 此方では禁足地を調査していますが、やはりかなり魔物がいます」

 

「そうか。 街道にいるものよりも強力なのか」

 

「はい。 アガーテ姉さんも、禁足地から出て来ている魔物には気をつけてください。 後……これを用意しました」

 

荷物から取りだす。

 

前は渡すのが遅れて後悔した。

 

だから先に渡しておく。

 

アガーテ姉さんのために、試作品としてクリミネアで剣を作っておいたのだ。アガーテ姉さんは、手にしておおと声を上げていた。

 

やはり剣士なのだろう。

 

良い剣を手にすれば喜ぶ。

 

しばらく振るって、問題ないと判断してくれたらしい。満足そうに頷いていた。

 

「これは王都でも、一般人には出回らない品だな。 警備隊長や、上級騎士くらいしか手にすることはないだろう」

 

「アガーテ姉さんなら使いこなせると思います」

 

「そうありたいものだ。 ありがとうライザ。 有り難く使わせて貰う」

 

そしてアガーテ姉さんは、今まで使っていたブロンズアイゼンの剣を部下に譲る。

 

今後が期待できるという話の、かなり悪人面をした男性の護り手だ。あたしから見るとそうなのかと小首を傾げてしまうが。

 

長期的に見れば、強くなる素質があるのかも知れない。

 

アガーテ姉さんはプロだ。

 

その見る目を信じたい所だった。

 

そのまま、護り手の集団を別れて禁足地に。こう言うとき、筋を通して入って良いと許可を得たのが聞いてくる。

 

そのまま禁足地で軽く調査。

 

既にリラさん達で調べてくれていた辺りを通って。先に進む。

 

そして、峡谷に出ていた。

 

此処を抜けないと。

 

昔、レントが行きたいと願っていた塔にはいけない。

 

幼い頃、レントは塔に行きたいと言っていたっけ。

 

でも、流石におてんばな悪童だったあたし達でも、禁足地を突っ切って塔にはいけなかった。

 

溺れて酷い目にあった後、という事もある。

 

何処かで、心にセーフティが掛かるようになっていたのだろう。思えばあの事件以降、極端すぎる悪戯はしないようになったように思う。

 

手をかざして、奥の方を見る。

 

これは、凄い峡谷だ。

 

とにかく大きい。山をまるごと削ったかのようだ。いや、本当にそうなのかも知れない。川があるが。

 

その川の規模の割りには、峡谷が大きすぎるのである。

 

タオがここに来る前に言っていたっけ。

 

峡谷というのは、川が何千年、何万年、下手をするともっと時間を掛けて地面を削って、出来ていくものなのだと。

 

この峡谷は極めて巨大で。

 

川の割りには、大きすぎるのだ。

 

それだけじゃあない。

 

川というのは、上流から下っていく過程で、石を転がしていく。下流の石はどんどん丸くなっていく。

 

この峡谷には、そういった丸い石が極端に少ない。

 

此処は異常な場所だ。それが、一目で分かった。

 

それだけじゃあない。

 

辺りには。明らかに異常な地形が多い。まるで何かが、どっと流れ込んだように。

 

恐らくは、フィルフサだ。

 

だが、フィルフサが先を争って此処になだれ込む意味があったのだろうか。それはちょっと、あたしには分からない。

 

峡谷の入口で、しばらく立ち尽くす。ぼんやりと見上げていると、やがてリラさんが咳払いしていた。

 

「ライザ、この内部はかなり危険だ。 時間を掛けることになってしまうが、少しずつ確実に進んでいくぞ」

 

「はい。 それにしても、何でしょうねこの峡谷……」

 

「これは本来はもっと若い峡谷の筈で、こんなに巨大な規模があるのはおかしい。 恐らくは人為的に作った……そうでなくても天変地異で出来たものなのだろう」

 

「人為的……古代クリント王国でしょうか」

 

可能性は高いと、リラさんは言う。

 

クラウディアに、リラさんは更に指示した。

 

「クラウディア、音魔術で周辺の状態を探れるか」

 

「えっ! そんな事出来るの!?」

 

「ええとね、ある程度の地形だったら分かるようになって来たよ。 魔力を通した音の反響を利用するんだ」

 

「すごいね……一部の生物にはそうやって音を利用するらしいものがいるとは聞いているけれど」

 

タオが眼鏡を直す。

 

確かにあたしもびっくりだ。

 

音魔術の使い手が、あまりクーケン島にいなかったと言うこともあるのだが。こんな凄い技を使えるようになっているとは。

 

魔術とは威力だけがものをいうものではない。

 

クラウディアの音魔術は、あたしの熱魔術よりも応用性が高いかも知れない。

 

クラウディアが、笛を魔術で具現化させると、丁寧に吹き始める。かなり強い魔力を感じる。

 

確かに新しい弓で、試し打ちで大火力が出る訳だ。

 

峡谷に響き渡る音。

 

魔物も、明らかに此方を警戒しているのが分かった。だが。ここは渓谷の入口である。奧で襲われるより、ずっと良い。

 

何かしらの曲を吹き終えるクラウディア。いつもの優しい曲では無く、勇壮な曲だった。この辺りも、使い分けているのかも知れない。

 

だが、クラウディアが眉をひそめる。

 

確かに、反響してくる魔力がおかしい。

 

「何かあった、クラウディア」

 

「即座に魔術を反転させられました。 何かすごく力が強い者が奧にいると思います。 入口付近しか分かりません……」

 

「油断するな。 それの正体も含めて探りに行く。 ひょっとすると、フィルフサの先遣隊かも知れない」

 

「分かった。 みんな、警戒して!」

 

あたしはレントとリラさんが前衛に立つのを見て、真ん中に。

 

錬金術の道具を使えるあたしが真ん中で、最悪の事態に備えるのは当然の事だ。

 

右にはクラウディア。後衛にタオ。

 

タオが一番機を見るのが得意なので後衛に。

 

前衛は少し下がり気味になって、左右両翼からの攻撃にも備える。

 

本当ならアンペルさんが来てくれていれば、左右をクラウディアとともに担当して貰いたい所なのだけれども。

 

そうもいかない。

 

こればかりは、中々上手く行かないものだと思って、諦めるしかない。

 

無言で渓谷に入る。

 

ちいさな川が流れている。水の質は、驚くほどにいい。周囲を警戒しながら、水を汲んでおく。

 

まだ、見た事もない植物も多数生えている。

 

かなりの品質だ。

 

クーケン島には、最近特産として導入した七色葡萄というものがあるのだが。どうもクーケン島にはあまりあっていないらしく、お父さんが世話しても、そこまで美味しくはならない。

 

此処でなら、或いは。

 

正確には、ここの水と土でなら。

 

或いは、もっと良く出来るかもしれなかった。

 

肉厚の葉をつけている植物。

 

赤い薔薇のような花もある。

 

これはもしかして。

 

調べて見ると、当たりだ。

 

アンペルさんに貰った参考書に記載がある。

 

肉厚の葉はローゼンリーフ。非常に効能の高い薬草にもなるし、他の用途にも使える。極めて強力な魔力を蓄える植物で、様々な応用が効くのだ。

 

薔薇のような花は、デルフィローズ。

 

これについては、少し前にタオにも名前を聞いた。

 

色々調べていたところ、以前禁足地の北の方にあった集落が滅ぼされたのだが。

 

そこで特産として育てていたらしい。

 

僅かな数が此方にも流れてきている、ということだ。魔物に種が運ばれたのか、それとも別の理由か。

 

いずれにしてもこの薔薇、極めて強靱でしなやかな繊維を持ち、それでいて魔力も蓄える性質を持つ。

 

染料だけにしても、相当に反物を強化するらしく。

 

手に入れる事が出来れば、強力な反物を作り出せる。

 

そういう代物だ。

 

自生しているローゼンリーフとデルフィローズをざっと確認して、問題がない量だけ持ち帰る事にする。

 

その後は、彼方此方をみて回る。

 

水も汲み。

 

溜まっている水に、釣り糸を垂れてみる。

 

エリプス湖にいる恐ろしい魚ほどではないが、かなり大きくて、此処にしかいないような魚もいるようだ。

 

「急げよ」

 

「分かってる。 魚も食べるだけではなくて、他にも用途があるんだよ」

 

レントに促されたので、手早く釣る。

 

水に慣れる必要もあるし、何よりも幼い頃から悪ガキとして釣りは必修科目だった。

 

漁師の中にも、あたしを後継にほしいという人もいたらしい。

 

釣りは得意だ。

 

さっさとつり上げていく。場合によってはレントが衝撃波を叩き込んでもいいのだが。この川の規模からして、魚をジェノサイドすることになる。

 

それは、止めた方が良いだろう。

 

川はそれほど深さもなく、流れも緩やかだ。

 

川の水というのは見かけ以上に危険で、足を取られると一気に流されてしまうこともあるのだが。

 

ここではそういうこともなさそうだ。兎に角流れが貧弱で、ここから下流でエリプス湖に流れ込む幾つかの大きめの川と合流しているようである。合流するまでは、水もとても澄んでいるようだ。

 

警戒して貰いながら、採集をしておく。

 

それにしても、だ。

 

やはり此処はおかしい。

 

谷はまるで抉り取られたかのよう。

 

そして、谷の底には小石はやはり殆どない。恐ろしい程までに真っ平らだ。入口付近で採集を終えた後、一度谷から出る。

 

びりびり感じるのである。

 

強力な魔力。

 

それも一つや二つではなかった。

 

一旦キャンプを張る。

 

魚などをしめておく。そういえば、何度か鼬と交戦したが、それも普段みかけるのよりもずっと大きく、手強い個体だった。

 

そろそろ群れをまとめる母個体とも存分にやり合える程度の力はあるが。

 

下手な母個体よりも、強いかも知れない。

 

鼬を吊して捌きながら、軽く話す。

 

街道に入っていることもある。

 

この辺りは、もう魔物も殆どいなかった。

 

一応タオに警戒に立って貰う。

 

タオは線が細いので、こういう作業はあまり得意では無い。前はクラウディアも苦手そうだったのだが。

 

それは絹服が汚れるから。

 

新しい服を身に纏った今は、積極的に解体作業に参加してくれる。

 

肉は即座に燻製にし。

 

更には皮をなめしておく。

 

青緑の美しい皮は、非常に強い魔力を持っていて。これを元に、皮鎧を作れそうだなとあたしは思う。

 

大物の魔物は、倒すと何もかもが無駄にならない。

 

これについてはアガーテ姉さんから、悪ガキ時代から講義を受けて聴かされてきたことなのだが。

 

実際にある程度余裕を持って強い魔物と戦えるようになり。

 

木っ端みじんに消し飛ばさなくても倒せるようになってくると。

 

その素材が非常に有用である事は、触ってみるだけで分かるようになって来た。

 

また、肉も美味しい。

 

肉食獣の肉はあまり美味しくないという話もあるのだが。

 

鼬の肉は、臭みさえ抜いてしまえばきちんと食べられる。

 

燻製以外の肉が焼き上がったので、交代で食べておく。

 

ここからが本番だからだ。

 

「焼いて食べる肉か。 贅沢な話だな」

 

「リラさんは生で食べる派なの?」

 

「異界にいた頃は、フィルフサどもに察知されないように過酷な潜伏生活をしていたからな。 場合によっては火を熾す事も出来ずに、何でも生で食べていた。 最初の頃は腹をこわす事もあったが、今ではそれもない」

 

「うわ、大変だな……」

 

虫なども食べられるようにしておけ。

 

そうリラさんは言うが。

 

タオが真っ青になって視線を背ける。

 

まあ、タオには無理だろう。

 

蜘蛛とかみるだけでも真っ青になって動けなくなるのだ。食べる何ていったら、それこそ卒倒する。

 

レントですら、錬金術で食物を作る際にも、虫は絶対に材料にするなと言ってくるくらいである。

 

要素ごとに分解してしまうから、原型も何もないのに、だ。

 

それだけ虫食に対する忌避はある。

 

まああたしも積極的に虫を食べたいとは思わない。蜜を蓄える蟻とかは、あまい事が分かっていてもだ。

 

クラウディアはどうかというと。

 

リラさんの言葉に、うんうんと頷いている。

 

実は虫食は地方によっては普通にやっているらしく。以前、軽くその話は聞いた。

 

積極的に食べたいとは思わないが。いざという時になれておきたいと。

 

お嬢様そのものの姿をしているクラウディアだが。

 

子供っぽい所を除いてしまうと。

 

四人の中では、一番図太いのかも知れない。

 

まあそれも人の良さだ。

 

クラウディアにとっては、今後強みになるだろう。「苦手がない」というのは、とても良い事だ。

 

「ええと、オーレン族では虫食は当たり前だったのか、リラさん」

 

「いや、白牙氏族では普通にやっていたが、他の氏族ではやらない者達もいるらしい。 ただ、我等は基本的に氏族ごとに文化を尊重する。 食べるものの違いで、相手に対して対応を変えることはない」

 

「なるほどな……」

 

「本当にオーレン族は人間とは違うね。 人間は「違う」となると、本当に相手を迫害し始めるからね……」

 

「馬鹿馬鹿しい話だ。 個人単位で違っているのに、それなのに「違う」事を探す事に躍起になるのは愚かしい事だ」

 

リラさんが、ずばりと指摘。

 

その通りだとあたしも思う。

 

黙々と肉を食べて、その場を後に。焚き火の後処理などは、リラさんが丁寧に指導してくれるが。

 

一応悪ガキ時代にある程度身に付けている。

 

ただそれでも、やはり我流であるのだろう。

 

リラさんの指導は更に細かく丁寧で。

 

なる程と、納得させられることも多かった。特にレントは、話を聞いて、積極的に指導を受けている。

 

やはり、いずれ一人旅をするつもりなんだな。

 

そう思うと、少しばかり寂しい。

 

だが、そうも言っていられない。

 

誰もがいつまでも悪ガキではいられないのだから。

 

また、渓谷に戻る。

 

リラさんが言う通り、此処を突破するのには時間が掛かる。ブルネン家のバルバトスという昔の豪傑は、それほど危険では無い時期に此処を突破したようだが。今はその時とは違うのだ。

 

やはり、谷の奧からびりびり強い魔力を感じる。

 

それどころか、遠くに何か飛んでいる大きな影も見える。

 

古代クリント王国は、ドラゴンを使役してフィルフサにぶつけていたのだ。あの忌まわしい邪悪な洗脳装置が、ここにあっても不思議では無い。

 

そうなると、ウラノスさんが命がけで弱らせ、アガーテ姉さんが渾身の一撃を叩き込んだ状態では無い……無傷状態のドラゴンと戦う可能性もある。

 

それどころか、古城でやりあったドラゴンよりも、大きい個体だったら、更に数段力は上になるかも知れない。

 

「ドラゴンかも知れない。 上には常に警戒して」

 

「分かった。 この谷じゃ、逃げ場所もねえな……」

 

「最悪、全力で渓谷の入口まで走って逃げるよ。 経路は、頭に入れておいて」

 

あたしが皆に渓谷をしておく。

 

クラウディアは魔術で作った笛に口をあてながら、常時音魔術を展開。それで何度か、魔物の奇襲を察知する。遠くは地形を察知できなくても、近くの敵ならそれで分かると言うことだ。

 

魔物は鼬が多いが、それ以外の魔物もいる。

 

いきなりその場にあった岩が組み合わさって襲いかかってくる。ゴーレムだ。だが、それもクラウディアは察知していた。

 

手強い相手だが、それでもクリミネアの装備は以前より遙かに頑強で。更にレントの剣腕は、岩で刃こぼれさせるようなこともない。リラさんのクローは、岩をバターのように切り裂く。

 

タオは元々装備的に相性が良いし、クラウディアは相手とぶつけ合うような武器ではない。

 

あたしは基本的に魔術で支援するし、そもそも手にしている杖も打撃武器だ。気にする必要もない。

 

それに、襲ってきたゴーレムは、体が彼方此方欠損していて、動きも鈍かった。

 

瞬く間に削りきって仕留める。

 

呼吸を整えながら、体を構成していたパーツを踏み砕いて、二度と動かないようにしておく。

 

「ありがとう、クラウディア」

 

「うん。 でも、谷の奥まで音魔術が届かないの……。 気を付けて」

 

やっぱり何かいる。

 

そしてそれは、此方に気付いている。

 

腰を入れて、此処を攻略するしかない。

 

それはあたしも、理解出来ていた。

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