暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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至強の存在……


2、至強のもの

 

昨日峡谷に入った時点で、恐らく相手は此方を察知し、覚えてもいたのだろう。

 

ごっと、風が吹き付けてくる。

 

その風は、川の水をまくり上げるように吹き付けてきて。そして、あたしは風に含まれる魔力の強さに戦慄していた。

 

それでも、進む。

 

幸い、川辺が丸石だらけということもなく。逆に尖った石だらけという事もない。

 

この川は若いのだ。

 

力も弱い。

 

だから、進む事はそれほど苦では無い。

 

一瞥した先には、鼬がいるが。かなり大きい鼬にもかかわらず。恐怖で岩の間に逃げ込み、すくみ上がっていた。

 

魔物といっても、定義は人間を小細工無しで殺せる動物だ。

 

あれも動物だから、恐怖は感じるのだろう。

 

無理もない話だった。

 

顔を上げる。

 

それが、飛来するのが見えた。

 

皆に、戦闘態勢を取らないように指示。

 

レントが、流石に頬を引きつらせる。

 

「俺でも分かる。 絶対にやりあったらいけない奴だ……」

 

「その通りだよ! だから、まずは話をしてみよう! 幸い会話は出来る筈だから!」

 

どんと、着地するそれ。

 

いや、着地はしていない。

 

それは椅子に座っていて。

 

他の人間のデフォルメみたいな姿をしたエレメンタルとは違い、しゅっとした人間の姿をしていた。

 

人間の女性と言っても、見かけだけなら通じるだろう。

 

全体的に細身だが。

 

体に纏っている衣服は精緻で、アクセサリらしきものもつけている。目に瞳孔がないエレメンタルと違い。

 

目にはしっかり瞳孔があって。

 

髪を掻き上げて見せる。

 

目つきはかなりきついが、顔の造作は整っている。手足も、明らかに手入れしている様子があった。

 

椅子ごと飛んできて、そして椅子は地面スレスレに浮かんでいるのだ。

 

それだけじゃない。

 

椅子の台座になるような地面まで、一緒に浮いている。とんでもない魔術の使い手だと、一発で分かる。

 

冷徹な目をしているそれは、じっと此方をねめつけていた。

 

「……っ」

 

あたしは、それだけで気圧される。

 

アンペルさんも、今の風圧だけで青ざめていた。リラさんも、周囲に視線を配っている。

 

撤退の選択肢を最上位に置いていると見て良い。

 

戦闘になったら、これは多分勝てない。

 

ドラゴンですら、もう少し何とかなりそうな気配があった。得体が知れないながらも、将軍は戦いながらどうにかギリギリで倒せる予感があった。

 

此奴は違う。

 

はっきりいって、どうこうできる相手では無いと、全身から放つ力が分からせてくる。

 

それくらい、とんでもない存在だ。

 

しばらく、聞き慣れない言葉をその存在は口にしていたが。

 

やがて、不意にあたし達で理解出来る言葉に切り替えてきた。

 

或いはだが。最初は古代クリント王国の言葉か何かで喋っていたかも知れない。タオが時々こんな発音だと言っているのを、聞いた事があって。それに近かったからだ。此方にあわせてくれた、ということだ。

 

「そなた達、クリント王国の者か。 見た所錬金術師が二人いるようだが」

 

「違います。 あたしはライザリン=シュタウト。 其方はあたしの師でアンペル=フォリマー。 いずれもクリント王国の錬金術師ではありません。 他の皆は、あたしの仲間です」

 

「名乗りに応じたか。 最低限の礼儀はわきまえているようだな。 我の名は「風」。 そなた達が精霊王だとか呼んでいる存在だ」

 

椅子で、頬杖をついたまま、淡々と言う「風」。

 

此方を見てはいるが、今の時点で戦意は無い。それどころか、言葉まで変えて意思疎通も丁寧に図ってくれている。態度が云々とか言い出すバカもいるかも知れないが、あたし達はそこまで落ちているつもりはない。

 

ただ、その力が大きすぎるのだ。完全な上位者。それが分かっているから、冷や汗は出る。

 

呼吸を整えながら、顔を上げる。

 

相手は、ふっと笑った。

 

「此処は戦場になる。 いにしえの盟約によって来てやったが、クリント王国は既に存在せぬか。 まあ、それはどうでもいいがな。 いずれにしても、戦わなければならぬでなあ」

 

「相手はフィルフサですか」

 

「ほう。 クリント王国の高慢な者どもも、それくらいは後世に伝えたか。 自分達を神に等しいと錯覚していた下郎共故、自分達だけ良ければいいと考えている節があったのだがなあ」

 

その通りだ。

 

フィルフサの名前は、石碑で発見した。

 

異界出身者のリラさんが教えてくれた。

 

少なくとも、口伝では「乾きの悪魔」としてしか残っていない。

 

クリント王国の人間達は、どうしてフィルフサの事を隠蔽したのか。きっと良い理由ではないだろう。

 

そして精霊王の言葉はしっくりくる。

 

錬金術の力に溺れた、愚かな存在。

 

幼稚な全能感を拗らせた、神を自称する愚かな者達。

 

だったら、これほどの悲惨な破滅と破壊を引き起こしたのも当然だろうし。

 

自分達が間違ったことをしたなんて、考えてもいないだろう。

 

奴隷を置き去りにして、真っ先に異界から逃げ出したという話からしても、それは納得がいく。

 

常に自分達を正しいと思い。

 

自分達以外の命は、何とも思っていなかった。

 

だから、滅びたのだ。

 

「フィルフサが来る事が分かっているのであれば、早々に退去せよ。 目覚めてからこの辺りを調べたが、まともに戦える戦力などあるまい。 人口はクリント王国の時代に比べて数十分の一。 技術力も殆ど継承されておらぬであろう。 そしてそなたの力は……優れてはいるが、優れた錬金術師でも、一人ではフィルフサの群れを正面から迎え撃つのは不可能だ」

 

「それは承知しています。 今、近くにある門の付近の異界で繁殖しているフィルフサを撃滅し、フィルフサの王……王種を倒すための作戦行動中です」

 

「面白い事を言う。 如何にしてそれを為す」

 

精霊王は、高い知能を持っている。それは今までの、僅かな会話だけでも理解出来た。

 

そして幸いにも、会話が出来る。

 

有り難い話だ。

 

人間の中には、コミュニケーション能力が云々と言って、自分に媚を売る能力だけを見る輩がいるが。

 

コミュニケーションというのは意思疎通を意味する。

 

精霊王は意思疎通をしてくれている。

 

だったら、相手が尊大に見えようが関係無い。意思疎通をしていくだけだ。

 

順番に、説明をする。

 

精霊王「風」は頬杖をしていたが、やがて口元を抑えて考え込み始める。

 

冷徹な目だが。

 

明らかに理性的に振る舞ってくれている。

 

雑魚エレメンタルとは本当に違うのだなと、感心する。

 

「なるほどな。 フィルフサが押し寄せたのは、水をクリント王国の阿呆どもが奪ったから、であったのか」

 

「はい。 その水を取り戻す必要があります。 それには、向こうにある塔を調査しないといけないんです。 迷惑は掛けません。 塔へ行かせて貰えませんか」

 

「……」

 

値踏みの視線。

 

それはまあ、そうだろう。

 

この精霊王は、明らかにクリント王国の人間を知っている。その愚かしさもだ。

 

どういう存在なのかは分からない。

 

どうにも妙だからだ。

 

「精霊王」と呼ばれていると、自分で言っていた。

 

それは、自分達で名乗っているわけでは無いという意味でもある。

 

名前は「風」といった。

 

それは本当に名前なのか。

 

それこそコードネームとか、渾名とか、そういうものに思えて来る。何か裏があるように思えてならない。

 

アンペルさんと視線を交わす。

 

アンペルさんは、任せると頷いた。

 

だとすると、交渉はあたしがやるしかない。

 

心臓が小さいタオや、細かい交渉が出来ないタイプのレントやリラさんでは厳しいだろうし。

 

クラウディアは利害の調整は得意でも、こういう相手との交渉は得意とは思えない。

 

両肩の重荷が、とにかくきついが。

 

顔を必死に挙げ続ける。

 

「クリント王国の事を知っているのであれば、概ねこの地で何が起きたか、何故我等が来ているかは知っておろう」

 

「クリント王国に操作され、殺戮兵器と化したドラゴンと戦いました。 同じように召喚されたんですか?」

 

「ふっ、まあ似たようなものだ。 我々は星の都とよばれる場所の王として作られた存在であるのだが……まあそれは今は関係無い。 いずれにしても、人間の愚かしさにはほとほと呆れ果てている。 だが、フィルフサにこの土地を蹂躙されるのはもっと気に喰わぬ」

 

故に、この土地に来たのだという。

 

フィルフサの大侵攻を察知したのだろう。

 

人間が気にくわないとこの精霊王が言うのはもっともだ。

 

「星の都」というのが何処かは分からないし。

 

今の時点では、興味はあるけれど知る術もない。

 

ともかく、この土地を愛してくれているのであれば。

 

きっと妥協点が見つかるはずだ。

 

「ふむ、我の力に物怖じせず、話をしようと試みるその姿勢は見事よ。 だが我もクリント王国の下郎共には色々と思うところがあるでな。 試しをさせてもらおうか」

 

「試し……」

 

「我と戦え、というつもりはない。 我もフィルフサの群れを相手にするのは容易ではないからな。 此処で消耗する訳にはいかぬ」

 

タオが、ほっとするのが分かった。

 

まあそれもそうだ。

 

この相手は、今まで見てきた存在でも、間違いなく最強。

 

フィルフサの群れを相手にするために、古代クリント王国が呼び出した存在としては、切り札に等しいだろう。

 

逆に言うと。

 

フィルフサの大軍を相手にして、押し返せる力を持っていると言う事だ。それも、正面からの戦いで。

 

その上、巻き込まれるから此処を離れるようにと警告までしてくれた。

 

この精霊王は話せる。

 

だから、話せる機会を無為にしてはいけない。

 

相手が試すという、上位者からの物言いをしていても。

 

それに対して、どうこういうつもりは起きなかった。

 

「今、この地には我を含めて五名の「精霊王」が集まろうとしている」

 

「!」

 

精霊王が五体。

 

古代クリント王国は、それだけの事が出来たということか。

 

凄まじさに、流石に慄然とする。

 

確かにそれだけの力があれば、万能感に足下を掬われるだろう。

 

「現時点で、決戦の場に設定しているこの地に集まっているのは、我と「地」のみ。 また、「闇」は気まぐれでな。 恐らく来るには来るが、多分戦闘には興味を示さぬであろう」

 

「……それで、どうすれば良いのですか」

 

「「水」と「火」がまだ此処に来ぬ。 まさかこの数百年で倒れたとは思えぬが、我が呼んでいた事を告げてここに来るように使いをせよ。 そうすれば、奧へ通してやる。 これをくれてやろう」

 

あたしの足下に、何かが落とされる。

 

それは、球体だった。

 

トゲトゲとしているが、触って刺さるほどでは無い。緑色の球体。

 

そして、魔力を極限まで圧縮した、とんでもない代物である事が分かる。

 

「それを見せれば、我の使いである事は分かろう。 この近辺に……それぞれ力を蓄えるのに適した場所に二名ともいる筈だ。 あの者どもを此処に呼び寄せたら、奧にいる「地」に話をつけてやる。 ただし、「地」は気性が荒い。 良いように使われて殺気だっておるだろうし、そなたらが住処を荒らすのを喜ばぬかもしれぬがな」

 

くつくつと、精霊王が嗤う。

 

それだけで、谷が振動するようだった。

 

いずれにしても、やるしかない。

 

あたしは、頷いていた。

 

「分かりました。 それと……」

 

「何か。 言って見よ」

 

「恐らくこの谷で戦うよりも、オーリムで戦う方が多数のフィルフサを相手に出来ると思います。 今開いている門を潜れば、すぐに向かう事も出来ます」

 

「ふっ、それもそうだな。 ただ、我等は「星の都」の民。 異界にまでは興味が向かぬ。 あくまでこの土地までが我等の守備範囲内よ。 それは、理解せよ」

 

そうか、異界で一緒に戦ってくれれば、少しは楽になったのだと思うのだが。

 

ともかく、やるしかない。

 

この存在を敵にして、強行突破するよりも。

 

話をつけて、自主的に味方になって貰った方が、対フィルフサの戦いは百倍は楽になる筈だ。

 

受け取った球体を手に、一度谷を出る。

 

再び、何処かに飛んで行く精霊王「風」。

 

意識を向けられなくなった瞬間。

 

腰が抜けそうになった。

 

谷を出て、深呼吸しようと思ったが。一気に疲労が全身に押し寄せてくる。凄まじい力だった。

 

魔力があたしの数倍、どころじゃない。

 

「風」の魔力は今のあたしの十数倍はあるだろう。それも、最低でもだ。

 

あんなのが、五体来ているのか。

 

フィルフサの群れ、百万以上を相手にするには確かにあの戦力は必須かも知れないけれども。

 

それでも、いくら何でも過剰に思えた。

 

タオが、へたり込む。

 

レントも、どっかと座り込むと、大きくため息をついていた。

 

「相変わらずのくそ度胸だぜライザ。 あいつ、前に戦ったドラゴンなんかの比じゃなかっただろ」

 

「恐らくだが、エンシェントドラゴン並みだ。 軽くじゃれつかれただけでも、全滅していただろうな」

 

リラさんが言う。

 

エンシェントドラゴンとなると、山ほどの大きさがあるドラゴンという事だ。

 

それに比肩する存在を使役していたなんて。阿呆の群れでも、古代クリント王国の技術は本物だったという事になる。悔しい話だが。

 

しかも悪態をついていたことから考えて、クリント王国はあの存在を無理矢理戦わせていたと言うことになる。

 

そんな存在でも、フィルフサの制圧は出来ず。

 

喰い破られたと言う事だ。

 

改めて、フィルフサの恐ろしさが浮き彫りになり。

 

あたしは戦慄するしかなかった。

 

「やる事を確認する。 精霊王「水」と「火」を発見し、「風」の所に出向くように交渉をする」

 

アンペルさんが立ち上がる。

 

ハンカチで冷や汗を拭っていた。

 

まあそうだろう。

 

アンペルさんほどの実力と経験があっても。いやだからこそ、あの精霊王の恐ろしさはよく分かるのだろうから。

 

「あんなのが五体もいるって、この辺り全部なくなるんじゃないのかな……」

 

「タオくん、あの人話も出来るし、そんな風に言っちゃ駄目だよ」

 

クラウディアが、グロッキーになっているタオをたしなめる。

 

あたしは皆に率先して立ち上がると。まずはアトリエに戻る事を提案。

 

このまま、ここで愚痴っていても仕方がない。

 

まずは、対策を順番にしていかなければならなかった。

 

 

 

アトリエに戻るだけで、かなり消耗した。

 

とにかく、あの渓谷を突破するのは大変だと言う事は分かりきっていた。突破に必要な事も分かった。

 

それだけで、進歩と言える。

 

それにしても、ブルネン家の何代か前の当主は、本当に運が良かったんだなと思う。

 

あの精霊王、無礼者には容赦しなかったはずだ。

 

もしも調子に乗ったチンピラがため口でも叩いていたら。

 

その場で蹂躙されて粉々だっただろう。

 

まずは、クラウディアがクッキーを焼いてくれる。その匂いだけで、多少は落ち着く。

 

タオは、本を読むと言って奧に。

 

それが一番落ち着くだろうし。

 

精霊王に関する情報も、見つかるかも知れない。

 

まずは皆、休憩を取る。

 

精神的な疲弊が大きい。

 

それはそうだ。あんな凄まじい力を目前にしたのだ。数日走り回ったような疲弊感である。

 

「クッキー焼けたわ」

 

「ありがたい!」

 

本当に嬉しそうなアンペルさん。

 

最近、島にあるクズ小麦……保存用の期限が過ぎた、古くなった小麦を貰ってきていて。それを材料に、錬金術で小麦粉を作っているのだが。

 

その結果、クッキーなどの焼き菓子を簡単に作れるようになった。

 

クラウディア曰く、商会の品よりもずっと品質が良いらしく。

 

この小麦粉を使っているなら、美味しく出来て当然だそうだ。

 

あたしも小麦粉を使って、色々なものを作るので。

 

今後更に小麦粉の質を上げていくつもりだ。

 

量産出来るようになったら、バレンツ商会に卸すのもありだろう。それなりに売れる筈である。

 

アンペルさんが、満面の笑みでクッキーを食べ始める。

 

この人、やっぱり単に甘いものが好きなのだろう。

 

ドーナッツも食べたいというので。

 

クラウディアが大まじめにドーナッツを焼く練習まで始めている。

 

この辺りも、ある意味ほのぼのしていて面白い光景である。

 

いずれにしても、誰も不幸にならないのだから、それで良いだろう。

 

タオも呼び戻して、お茶にする。

 

しばし休憩して、やっと人心地がつく。

 

それで、あたしはようやく話に入る事が出来た。

 

「精霊王の居場所、なんとか探さないといけないね」

 

「リラ、何か思い当たる場所はないか。 お前の魔力は私よりも量は上だろう」

 

「この世界の精霊は、私の世界で定義している精霊とは違う。 故にこうだと断言はできないな」

 

「くー、そうだろうな……。 そうなると、ライザやアンペルさんが頼りだよなあ」

 

レントは意外に核心を着くことを喋ってくれる。

 

確かにその通りだ。

 

こういった当たり前の話をまず最初にして。

 

それから順番にものごとを整理するのが、一番の近道だ。

 

その辺りは、あたしも最近理解出来るようになってきた。

 

クラウディアが、あたしに聞いてくる。

 

「魔物には詳しくないんだけれど、エレメンタルに何か特徴はないの?」

 

「基本的にあの人型をしているエレメンタルは、正体がよく分かっていないんだ。 ただ魔力の性質からして、精霊王とは一致していると思う。 だとすると、確かにエレメンタルと同族として見て良いのかな……」

 

ちょっと怖いな。

 

エレメンタルは、あたし達が散々殺してきているのだ。

 

精霊王から見れば、同族殺しとなるのかも知れない。

 

もしもそれを指摘されると、ちょっと厳しいか。

 

咳払い。

 

まずはエレメンタルの性質からだ。

 

「エレメンタルは、基本的に自然の力が強い地点に集まるね。 森なんかにも普通に湧くんだけれども、岩場とかにもいたりする。 ちょっとそれ以上はなんとも……」

 

「それは恐らく竜脈だな」

 

「竜脈?」

 

「この世界には地下に魔力の流れがある。 世界そのものの血管と言っても良いだろうものだ。 どういう理由かは分からないが、それを昔から竜脈と呼んでいる」

 

そうか。

 

竜脈という言葉は確かウラノスさんが言っていたことがある。だけれども、なんだかどうにもぴんとこなかった。

 

そうか、エレメンタルは竜脈に集まっているのか。

 

意外な事に、リラさんも言う。

 

「奇遇だな。 私達の世界にも全く同じものがあるぞ」

 

「オーリムにも? そっちにはエレメンタルはいないの?」

 

「いないな。 お前達がエレメンタルと呼んでいるものは、私達の世界では基本的に見かけない。 僅かな数がいるらしいと聞いているが、恐らくは門を通ってオーリムに侵入した外来種だろう」

 

「なるほど……」

 

頭の中で、情報を整理していく。

 

魔術をなんとなくで使っているあたしだけれども。それでも魔術を組むときは、色々試行錯誤する。

 

基本的に体内の魔力を使って魔術を展開するから、自然界の魔力には頼らなかったのだけれども。

 

確かに言われて見れば、森の中などだと回復が若干早い気がする。

 

そういえば。

 

あの渓谷も、ひょっとしたらそうなのではあるまいか。

 

「何か思いついたか」

 

「はい。 「風」の精霊王がいた場所は、あの吹き下ろしの風が吹いている渓谷です。 ひょっとして……「火」や「水」は、過ごしやすい場所に腰を下ろしているのではないかと思いまして」

 

「ふむ……一利あるな」

 

「タオ、何か思い当たる場所、ない?」

 

無茶振りだよとぼやきながらも。

 

この辺りの地図を見ていたタオは、まずは指さす。

 

一つは火山だ。

 

確かに、火山は有りかも知れない。

 

「火と言えば、近場だったら此処だよ。 城に行く時に通り過ぎたけれど、確か此処には廃棄された集落もあったはず。 遠回りになるかも知れないけれど、一度足は運ぶべきだと思う」

 

「確かにそうだな。 水はなにか心当たりは」

 

「うーん……この辺りで、力に満ちた水場はちょっと思い当たらないなあ」

 

タオが腕組みして、小首を傾げる。

 

皆が困っている中、リラさんが提案する。

 

「ならば、まずはその火山から見に行くべきだろう。 火山に精霊王がいるとしたら僥倖であるし……邂逅を済ませておけば、或いは「水」の精霊王を見つけるのも容易かもしれない。 そうでなくとも、移動中に何か思いつく可能性もある」

 

「確かにそうだな。 まだ、時間はあるか。 急ごうぜ」

 

「うん。 私は何時でも出られるよ」

 

レントに、クラウディアが満面の笑みで応じる。

 

どんどん冒険が好きになっているなあ。

 

実は、ちょっとだけ驚いている。今回、精霊王の脅威を目前で目にして、泣いたり腰が抜けたりするのではないかと思っていたのだ。

 

歴戦の戦士が、みんな逃げ腰になっていたくらいなのだ。

 

それなのにクラウディアは、むしろわくわくしていたようだった。

 

素では、あたしに近い性格なのかも知れないクラウディアは。

 

考えて見れば、ぐいぐいくるもんなあ。

 

そう思うと、ちょっとおかしい。

 

いずれにしても、火山は比較的近い。それに、だ。

 

あたしはハンマーを取りだす。このハンマーは試作品で、文字通りフラムを仕込んである。

 

対魔物用のハンマーとして考えたもので、タオのために開発していたのだが。

 

使って見たタオが、破壊力がありすぎて使いづらいというので、お蔵入りにしていたのだ。

 

これを使えば、道中にある邪魔な大岩とかを粉砕して、ショートカットが出来るかもしれない。

 

いずれにしても、新しいものは、どんどん試したい。

 

鼻歌交じりにフラムハンマーを取りだすあたしを見て、タオが引きつった。

 

「ライザ、そのおっそろしい武器で魔物殴るの? 多分炭も残らないよ」

 

「いや、これは削岩用。 小妖精の森の方から、火山にひょっとしたら直通路を作れるかなって思って」

 

「相変わらずとんでもねえ事考えやがるな……」

 

「その発想力は錬金術師にとっては武器だ。 レントも、柔軟な思考を身につける事は今のうちにしておくんだ」

 

アンペルさんがそう言ってくれると嬉しい。

 

レントも、おうと頷いて。そして苦笑いしていた。

 

いずれにしても、もう午後だ。

 

あまり時間がない現状。

 

楽しく何か考えるのはそれはそれで良いけれども。

 

時間を無駄にする事は、あってはならなかった。

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