暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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渓谷でみた地獄。

通るために出された課題。

それらを突破するために、ライザ達は迂回をすることを決断します。

今、戦うべきは精霊王ではないのです。


3、迂回路直通路

小妖精の森は、ボオスも仲間にいた頃から時々悪戯で訪れていた場所で、ある程度土地勘がある。

 

奥の方には強力な鼬がいて、群れの母個体もいるから、絶対に近付くな。

 

そう告げた後、アガーテ姉さんが実際にどれだけヤバイ相手なのか、見せてくれたっけ。そうしないと、あたし達が絶対に好奇心から見に行くだろうと判断したから、なのだろう。

 

見にいって、後悔した。

 

散らばっている多数の骨。

 

鼬が群れになって狩りをする生物だというのは知っていたが。それなりに大きな獲物を狩ると、此処まで乱暴に引きずって来て。そして生きたまま解体して喰らうのだ。

 

その様子を見て、アガーテ姉さんは言ったものだ。

 

魔物を舐めるな。

 

ああなりたくなければ、本当に危険な魔物とは、絶対に勝てる自信がつくまで戦う事は避けろ。

 

アガーテ姉さんは、あたし達を引きずって戻りながら。そう言ったっけ。

 

今は、状況が違う。

 

鼬が姿を見せたが、あたしがにっこり笑みを浮かべると、即座に逃げていった。レントが呆れる。

 

「ライザの笑顔は、魔物もびびって逃げ出すな……」

 

「ふふん、それだけ魅力的って事よ」

 

「うん、ある意味間違ってない」

 

タオが呆れる。

 

まあ、あたしも女としての魅力は皆無だと言う事は分かっている。それを理解した上での自虐だ。

 

ともかく、奧に出ると、森を抜ける。

 

この辺りはもう完全に庭だ。

 

錬金術の合間に、詰まったときとかはうろうろしている。魔物の実力も、既に単騎でどうにかできるレベルになっている。

 

問題はフィルフサだが、現時点でアンペルさんの仕掛けた装置には引っ掛かっていないらしく。

 

キロさんが抑える事に成功しているようだ。

 

ただ、あれからまだ一週間も経過していない。

 

もう斥候が出て来ているようだったら、状況の切迫は非常に厳しいものがある。フィルフサも、いずれ雨期が来る事は理解しているだろうし。いつまでも時間はくれないはずだ。

 

森の奥にある小道を行くと、でっかい岩が道をふさいでいる。

 

レントが剣を構えて、後ろにと、皆に声を掛ける。

 

あたしは足に魔力を集中。

 

蹴り砕いてもいいかなと思ったが、せっかくだからフラムハンマーを試すことにする。

 

跳躍。

 

そして、真上から、岩にハンマーを叩き込んでいた。

 

爆裂。そして岩が粉々に砕ける。

 

手に伝わる感触が実に気持ちいい。

 

ひゅうと口笛を吹きながら、着地。しゅうしゅうと音を立てながら、砕けた岩が散らばっていた。

 

「ふう。 ざっとこんなもんよ」

 

「ライザ、どんどん人間離れしていくね……」

 

「ちょっとタオ、どういう意味!?」

 

「まあまあ。 ライザ、先に行こう。 時間はあまりないよ」

 

流石に頭に来たあたしに、クラウディアが笑顔でなだめてくる。まあ仕方がない。無駄に怒っていても力を消耗するだけだ。

 

道を行く。

 

どうもこの岩、落盤か何かで落ちてきたらしい。この道を、いずれ整備しなければならないだろう。

 

この一件が片付いたら。

 

その時は、多分あたし達は、もう悪童集団ではなくなる。

 

完全に大人になれば。

 

その時は、みんなバラバラになるだろう。

 

また、みんなで集まることもあるだろうが。その時はその時で、別の意味で、になってくるはず。

 

当面あたしはクーケン島を離れるつもりはない。

 

そうなってくると、こう言う場所を護り手と一緒に整備することになるだろう。此処も、建築用の接着剤で補修することになるかも知れなかった。

 

荷車を引いて、山道を抜けると。

 

其処にあったのは、古城だ。ドラゴンと戦った因縁の場所。そうか、此処に出るのか。

 

まあ古城と言っても殆ど潰れてしまっているが、恐らく本来はここが正門だったのだろうと言う事は分かる。

 

無駄に立派な石橋の残骸があって。

 

魚が側の水路でぴしゃぴしゃ跳ねていた。

 

火山からこの辺りに川が注いでいて、その一部を堀にしていたらしい。なるほどなあ。一応要塞としては考えていたんだな。

 

そう思って、ちょっと感心した。

 

「火山には遠回りになっちゃったかな……」

 

「いや、新しいルートを開拓できたことに意味がある。 まずはこの古城を抜けて、火山に向かおう。 どう進めば良いかは、分かっているのだろう?」

 

「それは任せてください。 今回は前と違って、全力で突貫しなければいけない状態でもないですし」

 

すぐに移動開始。

 

ゴーレムやエレメンタル、鼬やぷにぷにがいるが。それよりも、鎧が無言でうろついている。

 

あれが幽霊鎧か。

 

動いているのは、あんまり見かけない。殆どが、フィルフサを防ぐために起動後移動しているのだろう。

 

そうなると、壊れてしまったものだと判断して良さそうだ。

 

邪魔をするなら蹴散らして行く。

 

そうでないなら、相手にしない。

 

時間はあまりないのだ。夕方になったら、場所が場所だと言う事もあるし切り上げる。今回は、先にそれを決めてある。

 

そこまで手強い魔物はいない。

 

というか、強い魔物もいるのだろうが、フィルフサの件もある。

 

やはり、もっと遠くに逃げているのだろう。

 

逃げた先の地方が少し心配だが。流石に其処まで手は届かないし、どうにもできない事は今は考えても仕方がなかった。

 

途中、アンペルさんが興味を示したものがある。

 

いわゆる古式秘具だろうか。

 

回収して、先に進む。やはりこの城、色々と錬金術に活用されていたらしい。

 

本格的に調べたら、色々出てきそうだ。

 

途中に朽ちかけの本棚が埋まっていたので、掘り出して本を回収しておく。虫が食っているような本もあったが。

 

アンペルさんが虫除けらしいのをしゅっと噴きかけると、ざわざわ虫がみんな逃げていった。

 

それを見て、タオが貧血を起こしそうになるが。

 

レントが支える。

 

「タオ、そろそろなれろ」

 

「分かってる、分かってるけどさあ……」

 

「野ざらしの本は、ある種の虫にとってはごちそうだからな。 後でこの虫避けの薬は渡しておこう」

 

アンペルさんの有り難い申し出に。

 

タオは涙目になりながらも、はいと頷くのだった。

 

まあ、それはそれだ。

 

無事な本もあるし、それも回収しておく。何が役に立つか分からない。

 

城を抜けると、すぐに火山だ。

 

それほど標高がある火山ではないが、彼方此方に面白そうなものがある。悔しい。じっくり見て回る余裕がない。

 

朽ちた家屋に住み着いているのは、今は殆ど魔物ばかりだ。

 

流石にこの辺りには、それなりに強い魔物がいるが。今は基本的に戦闘は避ける。魔物も、此方に無闇に仕掛けては来ない。

 

移動しながら、ルートを覚えておく。

 

今回のルートは、途中までの安全度は、街道から来るよりも上かも知れない。

 

ただ、正直城の中をまともに通るとなると、危険度は全体的に上だし。何よりも距離があるか。

 

小走りに移動しつつ、考え込む。

 

「ライザ!」

 

「!」

 

顔を上げたあたしが、反射的に杖で弾く。

 

飛んできていた石つぶてを、全て叩き落とす。他のみんなも対応できている。

 

路を塞ぐようにして、あたしの背丈の三倍はある岩の塊がいる。それが生理的におぞましい動きをしながら、此方を見ていた。

 

ゴーレムだ。

 

それもこんなに大きい奴がいるのか。

 

魔物が、遠くから見ている。

 

ひょっとしたら餌にありつけるかも知れない、というのだろう。

 

勿論やられてやるつもりなんかない。

 

石つぶてがゴーレムに戻っていく。それらが合体すると、腕が四本、顔が二つある巨大な岩の人型に変わる。

 

殺意全開だし。

 

何より此奴が護り手とぶつかったら、大きな被害が出る。

 

「おいおい、随分とまあ手数が多そうな相手だな!」

 

「見かけだけだ。 一気に片付けるぞ」

 

「うん。 この程度の相手、今のあたし達なら敵じゃない!」

 

大丈夫。いける。

 

雄叫びを上げる巨大なゴーレムに。

 

あたし達は、一斉に躍りかかっていた。

 

 

 

夕方。

 

火山の中腹まで来たが、其処まで。一度撤退する。

 

明日は早朝から此処に来る。

 

このペースなら、恐らく明日の夕方には、山頂にまで行けるはずだ。其処までのルートも開拓できる筈である。

 

周囲に散らばっているのは、ゴーレムの残骸だ。

 

どうも多数のゴーレムが誤動作しているらしく、彼方此方で襲われた。恐らくフィルフサ対策に、古代クリント王国が配置したものなのだろうが。

 

こう見境なく配置されると迷惑千万だ。

 

しかも、誤動作して、人間を襲う始末。

 

いや、性根が腐った古代クリント王国だ。それこそ自分達以外の人間は全部攻撃させるつもりだったのかも知れない。

 

生き残るのは自分だけでいい。

 

そう考えている輩が集まっていたのは、今までの情報でよく分かっているのだから。

 

「ゴーレムのコアは錬金術の素材になる。 後、宝石の原石も使われている場合は回収しておけ」

 

「了解。 ただ、荷車がちょっとそろそろ無理じゃないかこれ」

 

「同感。 今日、戻ったら強化するよ」

 

「ふむ、どう強化するか見せてもらおう。 既にライザは、私の手を離れている。 むしろ私にも刺激になる」

 

そうアンペルさんが言ってくれるのは本当に嬉しい。

 

帰路は下り坂だが、荷車があると逆に危ない。この荷車には、幾つかの機能をつけたいところだ。

 

一つは、装甲。

 

現在クリミネアを作るのは、もう苦にならない。今後は更に上位の金属である、魔法金属のゴルドテリオンの作成が視野に入る。現時点ではちょっと材料が足りないが、もし入手できたら。

 

ともかく、クリミネアは作れるし、在庫もある。

 

装甲は、それで良いだろう。

 

問題は、それ以外だ。

 

車軸などの強化も、同じくクリミネアでいい。車輪もそれでいいだろう。後はスプリングをつければ、素材の安全を確保できる。

 

荷車を今、抑えながら後退して坂を下っているが。

 

この時のための、ストッパーがほしい。

 

構造がちょっと難しいので、帰ってからぽんと作る訳にはいかないか。いっそのこと、この荷車に自走機能をつければ。

 

いや、もっと難易度が高い。

 

だが、あったら非常に役に立つ。出来ればほしい機能だ。しかしどうする。

 

ゴーレムの残骸を見やる。

 

要は、ゴーレムと同じか。

 

ゴーレムは、どうやって思考を持っている。簡単な思考だが、きちんとそれにそってゴーレムは動いている。

 

荷車が自動的に考えるようになったら。はっきりいって、とても楽だ。

 

クリント王国の錬金術師達は、どうやってゴーレムを作った。

 

考えながら、荷車を急勾配から降ろし、以降は街道ルートを通って戻る。タオが流石にへばってひいひいいっている。まあ途中から、ゴーレムの大軍に襲われて、それらを破壊しながら進んだのだ。

 

逆に言うと、明日はもう壊したゴーレムとは戦わなくていい。

 

それで充分だと思うべきだろう。

 

「タオ、体力をつけろ。 肉を多めに食べる事と、やはり基礎鍛錬が必須だな」

 

「リラさん、僕の体格見てよ。 この体格だと、長期戦は厳しいよ」

 

「いや、タオはかなり体力が伸びてきている。 今後も努力を続ければ、他の皆にひけを取らなくなる。 それにタオはまだ背が伸びる」

 

リラさんが、淡々とタオを「励ます」。

 

タオは確かにからだが小さくて体力もないが、しかしながら頭が良い。それで充分だと思うのだが。

 

まあ、それでもだ。

 

タオは今後、色々な勉学に励みたいような雰囲気がある。もしも彼方此方に出かけていくのなら、やはり自衛能力と体力は必須だろう。

 

そう考えると、リラさんの言葉は正しい。

 

「あたしが栄養剤作ろうか?」

 

「運動をした後栄養を飲むと、体を強く再構成する。 確かにタオのためにはなるだろうな」

 

「いや、ライザ、あの……ヤバイものとか入れないでよ?」

 

「大丈夫だって。 虫は入れない方向で行くから」

 

ひっとちいさな声を漏らすタオ。

 

リラさんは、真顔でそれに対して無慈悲な言葉を告げた。

 

「虫も栄養次第ではとった方が良いぞ。 此方の虫で言うと、特に蜂の子供はうまい」

 

「あ、聞いたことがあります。 地方によっては地面から巣を掘り出して食べているんですよね」

 

「ああ、やっているのを私も見て、それで覚えた。 確かに栄養が豊富で、なおかつ味も悪くない」

 

「わ、私はちょっと遠慮しているがな」

 

アンペルさんが視線を逸らす。

 

そうか、アンペルさんも虫は駄目か。

 

美味しいのにとリラさんがむくれる。

 

クラウディアは、虫食に興味深々。本当になんというか、タブーがないならクラウディアには。

 

アトリエにつく。

 

ぐったりしたタオに、栄養剤を即座に出す。なんだか死を間近にした鶏みたいな顔をされたが。

 

大丈夫。前にまずいと言われてから、味は改善している。

 

タオも口にすると、なんとか飲みきって。はあと大きなため息をついていた。

 

「どう、だいぶ美味しくなったでしょ」

 

「確かに前よりはマシだけど、ぐびぐび飲めるようなものじゃあないよ……。 それに材料、何?」

 

「植物が中心かな。 後は色々お肉」

 

「ごめん、何の植物と何の肉……」

 

それで力尽きたらしく、タオが床で動かなくなる。

 

レントがやれやれと良いながら、タオを抱えて風呂に消えた。

 

体力が余っているあたしは、今のうちにやるべき事をやる。

 

まずは、装甲板、車軸、車輪、スプリングなどの作成。更にストッパーをつける事で、下り坂を楽に下ろせるようにする。

 

荷車を自動で動かせたら良いのだけれども。流石にそれはちょっと高度すぎるか。

 

順番に部品を調合しながら、思考を巡らせる。

 

その間アンペルさんは、城で回収した本を解読。幾つかは、一瞥しただけで脇にどけていたが。

 

荷車の装甲を強化していると、アンペルさんが声を掛けて来る。

 

手は既に大丈夫なようだ。

 

調合をするのは、まだちょっと抵抗があるようだが。少なくとも今日、戦闘を見る限りは。

 

前に見たときより、更に動きにキレがある。

 

この分だと問題はないとあたしは思う。

 

「ライザ、タオ、まだ余力があるようなら、後で話がある」

 

「はい。 丁度荷車の強化が終わるので、その後に聞きます」

 

「うむ。 クラウディア、夕食はもう出来そうか?」

 

「あ、今日はこっちで作ります。 お肉はたくさんあるので、それで」

 

淡々と、それぞれの仕事を済ませて。

 

そして皆で、夕食を囲む。

 

最近は鼬の肉が多かったが、今日は羊の肉がとれた。臭みさえ抜けば、しっかりおいしく食べられる。

 

腐りかけが一番美味しいらしいが、まあその辺りは気にしない。

 

ちゃんと処理さえすれば、どんな肉だって美味しいものだ。そうある程度は、割り切れるようになっていた。

 

食事を団らんで終える。

 

そういえば。こんな風に団らんするのは実はあまり経験がない。悪ガキ達で行動していたころから、あんまりみんなで食事を団らんした経験はなかった。レントは家があんなだったし、タオも決して暖かい家庭ではない。うちはそれほど裕福ではないし、怒られる時にみんなで呼ばれる事が多かった。

 

だからあのレントが、まっさきにお世辞を覚えたくらいなのである。

 

家族だけの団らんなら経験があるが。

 

それも、家族の枠を超えていなかったし。

 

それ以外の面子で、団らんするのは、最近になって経験したかも知れない。

 

まあ、気分はいい。

 

食事を終えると、タオと一緒にアンペルさんの所に。

 

アンペルさんは外で待っていた。

 

クラウディアが後片付けをしてくれると言うので、任せる。レントは今日一日、ずっとゴーレムの攻撃を受け続けていた事もある。

 

疲れて休んでいた。

 

「どうしました、アンペルさん」

 

「まずタオからだな。 解読はどうなっている」

 

「うちから持ち出した本は概ね終わりました」

 

「おお、流石」

 

褒めると、えへへとちょっとだらしなくタオが笑う。

 

真面目な表情のまま、アンペルさんは咳払いする。

 

「内容はどうだった」

 

「ええと……日記みたいなのが少し。 それ以外のは、殆ど何かの道具をどう操作するか……みたいな内容です。 内容そのものは覚えましたけれども、どうにもぴんとこないですね」

 

「……そうか」

 

「アンペルさん、何か心当たりがあるの?」

 

アンペルさんはじっと考え込んでいたが。

 

やがて、あたしに頷く。

 

「まだ、核心は得られていない。 タオ、もう実家から持ち出した本を覚えてしまったのなら、私がまとめておいた、城から持ち出した本の解読に移ってくれ。 古代クリント王国の時代の本で、いずれも専門用語が入っている。 少し手間取るはずだ」

 

「分かりました!」

 

タオは嬉しそう。

 

というか、難しい解読になる筈なのに、うっきうきである。

 

本当にこういうのが好きなんだなと、あたしは微笑ましく思う。

 

タオは身体能力には恵まれないけれど。頭に関しては本当に良い。

 

自慢の仲間だ。

 

続いてあたしだ。

 

アンペルさんは、精霊王に貰った球体を研究するように言う。

 

勿論エーテルに溶かしてしまっては駄目だ。

 

今後、他の精霊王に遭遇した時。風の精霊王のように、優しく接してくれるとは限らないのである。

 

あれでも、「風」は。

 

上位者としては理性的で、優しかったと言える。

 

「あくまで魔術的な観点から、出来る範囲で調べてくれ。 どうにも嫌な予感がしていてな」

 

「アンペルさんも予感を覚える方なんですか」

 

「まあな。 お前ほど強力では無いが、それでも魔力にはそれなりに自信もある」

 

そういえば。

 

アンペルさんの魔術について確認したのだが。固有魔術は空間操作であるらしい。

 

非常に希有な固有魔術だが、流石に極めてちいさな範囲の空間を、ある程度任意に扱う程度のものでしかないそうだ。

 

フィルフサに通じていた魔術は、空間にちいさな穴を開けたり、或いはずらしたりして斬っているものであって。

 

それも、詠唱無しだとあくまで穴を開ける、程度のもので。

 

しかも魔力の影響がない場所では、殆どダメージは与えられず。フィルフサが相手になると相性が最悪だそうだ。

 

「……義手のおかげで、今後は錬金術も出来るし、今まである程度諦めていた魔力の強化も出来る。 しばらくは私は自身を鍛え直す。 それに……伸び幅が大きいライザ、お前の方が、こういった研究はするべきだ」

 

「そんな、アンペルさんだって」

 

「私はロテスヴァッサの研究施設で、才能の上限は知った。 今後は才能の上限と相談しながら、色々やっていくしかない。 経験は一応あるから、アドバイスは出来るが。 既に錬金術師としても魔術師としても……お前の方が上だよ、ライザ」

 

ちょっとそう言われると萎縮してしまう。

 

アンペルさんは百年以上の研鑽を重ねているという話だ。

 

どうして長生きなのかは分からない。

 

だが、それでも。はじめたばかりの初心者であるあたしが、そんな風に言われると、ちょっと色々複雑である。

 

いずれにしても、精霊王のくれたものを研究する事は賛成だ。理にかなっている。

 

或いは何かの役に立つかも知れないし。

 

もしくは、非常に危険なものかも知れない。

 

いずれにしても、錬金術で補助しながらの研究だったら問題ないだろう。精霊王二人ととにかく接触して。

 

話をしなければならないのだから。

 

それにしても、古代クリント王国が塔をどうしてああ厳重に守っているのかはまだちょっと分からない。

 

一度、アトリエに戻る。

 

アンペルさんが渡した本に、大喜びで飛びつくタオ。

 

あたしは荷車の改良を一度終えると。

 

続いて、精霊王から貰った球体の調査を始めていた。

 

 

 

朝、起きだすと。

 

あたしより先にクラウディアが起きていた。

 

フルートを吹いている。

 

いつもよりも、かなり音が昂ぶっているように思えた。

 

いずれにしても、アトリエの中にまでは音は届かない。広場全てに遮蔽がないわけではなく。

 

何本か木も生えている。

 

木陰でフルートを吹いていると、ある程度音は遮られて。

 

アトリエの中にまでは届かない。

 

「おはよう、クラウディア」

 

「おはようライザ。 ちょっと音魔術の調律をしていたの」

 

「うん、良い事だと思うよ」

 

クラウディアの魔力は非常に大きい。流石にリラさんとは比べられないが、それでも相当なものだ。

 

そして短時間に此処まで力を増したのは。

 

間違いなく、クラウディアの努力によるものだ。

 

才覚が眠っていたとしても。

 

それを引き起こしたのは、クラウディアの勇気だ。

 

だからこれはクラウディアの力である。

 

「その、お父さんにその演奏は聴かせないの?」

 

「うん……ちょっとまだ、勇気が足りない」

 

「そっか」

 

他の皆も起きてくる。

 

今日はあたしも朝ご飯をクラウディアと一緒に作る事にする。まあクラウディアとは技量に差があるが。

 

流石にリラさんに朝食を任せる訳にもいかない。

 

男共はみんな肉だけ焼いて出して来かねないし。

 

これくらいは、やっても良いだろう。

 

皆の食事を準備し終えた頃に、アンペルさんが起きだしてくる。

 

昨晩結構遅くまで色々と調合をしていたようだから、仕方がないのかも知れない。アンペルさんも、諦めていた手の事もある。

 

それを色々と気に病んでいた節もある。

 

まずは。さび付いた腕をどうにかすることから。

 

そう考えて、自分なりに動いていたのだろう。

 

だから、それを責めるわけにはいかなかった。

 

朝食を終えると、軽く話をする。

 

今日の方針についてだ。

 

行動の方針は、あたしに任されている。あたしも、それについては、承っていた。ただ、後見人であるアンペルさんとリラさんが失望しないように、頑張らなければならないが。

 

「今日はこれから、朝一で山に行くよ」

 

「昨日は散々ゴーレムどもに出迎えられたが、今日は大丈夫だといいな」

 

「いや、まだ山の中腹くらいだよ。 それとあの山、王都ではヴァイスベルクって呼んでいるらしいね」

 

「ヴァイスベルクね……」

 

この辺りだと、そんなしゃれた名前はなく、単に「火山」としか呼んでいない。

 

それもそうだ。火山なんてアレ一つしかないのだから。

 

お城や塔についても、名前があるらしいが。

 

そんなもの、どうでもいい。

 

ロテスヴァッサが一応名目上は管理しているそうだが、そんなものは虚しいだけだ。実際問題、管理なんてまったく出来ていないのだから。

 

「遠くに旅しているアンペルさんやリラさん、それに今後一人旅をする可能性も考えて、一応共通の名前は覚えておいた方が良いよ」

 

「わかった、それもそうか。 頭の片隅には入れておくよ」

 

「うん。 とりあえず、急ごう。 僕も本を読む時間をある程度確保したいし」

 

「それはあたしもかな。 研究をする時間を、ちょっとでもいいから確保したい」

 

さて、行くか。

 

精霊王という強力な存在が出現したが。

 

そもそも、塔への到達には相当な手間が掛かることが分かっていたのだ。

 

だから、別に焦りはない。

 

キロさんが、フィルフサをある程度抑えてくれていることを信じつつ。

 

あたしは、更に先に進む。

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