暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
遠回りにはなりますが、精霊王と戦うよりはマシ。そもそも精霊王と戦っている場合ではありません。
まずは「火」の精霊王にあいに行くこととなります。
序、過酷な山の頂きを目指す
ヴァイスベルクだったか。普段、火山としか呼んでいない山の名前だ。今はそれをひたすらに登る。「火」の精霊王を探すため。此処にいる可能性が一番高いからである。
改良型の荷車を押して、上を目指す。あたしの魔力は連日絞り尽くしているから、今も上昇している。筋肉を鍛えるのと同じだ。魔力の成長も素質がものをいう。あたしの魔力はまだ上昇する、ということだ。
だが、それでもはっきりいって、「風」を見る限り精霊王と戦うのは無謀だと思うし。
その結論はまったく変わっていない。
全部で五体精霊王がいるらしいが。
そのどれとやりあっても多分勝てないだろう。
今は、とにかくだ。
話をつけるしかない。
話を上手くつけることができれば。
敵にならない可能性がある。
今は、それだけで充分過ぎるくらいだ。とにかく、精霊王を敵にしない。それだけでも、行動する意味があるし。
残り時間が限られている状況で。
動く意味がある。
今日、この探索が終わったら。タオに一度クーケン島に戻って貰って、ボオスと進捗の交換をする予定だ。
ボオスの方も、ブルネン家を調べてくれている。
何かあるかも知れない。
まだ、あの水を奪った道具以外にも。
今、必死にバルバトスの業績を追っているそうだ。その状況の進捗についても、知りたかった。
暑い。
激しい熱が、山全体を包んでいるかのようだ。
麓の方はそれほどでもなかったのだが。中層を超えた辺りから、強烈に暑くなって来た。
いちおう服の方は熱気を払うようにもしているのだが。
それでもちょっとこれは厳しいかも知れない。
無言であたしは、熱魔術を展開。
これ以上は、集中力などに影響が出ると判断したからだ。あたしが展開したのは、普段使う高熱の魔術では無い。
冷凍の魔術だ。
勿論熱を扱う以上。
高熱だけではなく、低温だって使える。
どっちかというと苦手分野だが、できない事は無いし。理屈も分かっているから道具にも魔法陣を仕込める。
周囲でへばっているみんなが、生き返ったと顔に書く。
それだけで、あたしは充分だが。
リラさんだけは平然としていて。むしろあたしに釘を刺してくる。
「普段の高熱魔術と逆だが大丈夫か。 消耗が大きいようだと本末転倒だぞ」
「大丈夫だよリラさん。 それよりも、今のうちに態勢を立て直して、みんな」
「確かに、これはきついよ」
「生物系の魔物をほとんど見かけなくなったね。 これだと、それも無理がないと思うな」
クラウディアが、苦笑いする。
いずれにしても、此処は人間が住む場所ではない。
急ぐ。
頂上は既に見えてきているのだが。途中に何度も集落があった。一応水はあったようだが。此処でどうやって暮らしていたのか。
少なくとも、クーケン島で、ここの火山の集落の情報はないらしい。
そうなってくると、最低でも恐らくは古代クリント王国の時代のものか。
いずれにしても、流民の類が住み着いていた、ということはないだろう。
この過酷さ、更には魔物もたくさんいる。
流民でも、住み着くのは無理。
それに、結構しっかりした家が建っているのを見かける。
それらの物的証拠を見てしまうと。
やはり此処にいたのは、技術もお金も物資もない不定住民ではない、ということに結論出来る。
あたしも、流民になっている人を悪く言うつもりは無い。
ただ現実問題として、此処では暮らせない。
それだけの話だ。
「タオ、まだかー……」
「ちょっとまって。 アンペルさん、これはどう?」
「良く見つけた。 レント、手伝ってくれ。 傷つけないようにこれを取りだす」
「分かった……」
レントが一番グロッキー気味だ。
この辺りは、暑さに対する耐性が見えてきて面白い。
あたしも結構この暑さは苦手だけれども。
元々熱魔術の使い手と言う事もある。
寒さ暑さには、レントよりは耐性がありそうだなと、見ていて感じた。
荷車にずしりと来る。
アンペルさんが、何かを積み込んだというわけだ。
荷車は大改造した。スプリングも車軸も変えた。というか、一からほぼ荷車を作り直した。この荷車の性能は、以前とは比較にならない。
積載量も、運搬に掛かる手間も。
後は荷車に自動で動き回る能力があればいいのだが。
それはちょっと今のあたしでは、手が届きそうにもない。いずれ、ものにしていきたいが。
「よし、行くぞ」
「それはそうとライザ、山頂の方、魔力は感じない? 「風」さんはもうこれ以上もないくらい自己主張してたけど。 此処は地形が開けていて、音魔術の通りが悪いの」
「そっか。 ちょっと待ってねクラウディア。 ええと……今の時点では特に感じないかな……」
「そうなると、巧妙に隠しているのか、それとも眠っているのか。 倒されていないといいがな」
アンペルさんが汗を拭う。
とにかく、進軍を再開する。この辺りの山は、かなり道が作られていた形跡がある。それも、今は崩れてしまっているが。
時々道の脇に、何か掘ったような跡がある。
ここの資源は、古代クリント王国の連中も掘り出していたと言う事か。今は、余力を残したい。
昨日、ちょっとだけ「風」がくれた球体を調べて見た。
超がつくほどの高密度魔力結晶だという事だけは分かった。
それ以上の事は分からなかった。
何しろ、どうしてこれが安定しているのかも分からなかったのである。本来だったら、いつ爆発してもおかしくない。
それくらい、強烈な魔力が圧縮されているのだ。ただ安定しているのも事実だった。
「風」としては、あたしの誠意を見ているのかも知れない。
もしも渡した貴重品に手を出すような愚か者だったら、もろともに爆発させる。
そのくらいの事を考えていても、不思議では無かった。
見られている。
試されている。
この世界で、人間は最強の存在ではない。
古代クリント王国の時代はそうだったかも知れないが、それですらフィルフサの大侵攻には為す術がなく、国土を徹底的に食い荒らされたのだ。
今の時代は、各地の集落が魔物から自衛するので精一杯。
技術も殆どが失われ、過去に作られた機械をなんとかやりくりして、生活を維持しているのである。
それを考えると。
現実的に見て、人間は「霊長」などではないし。
ましてやあの精霊王のような存在は、馬鹿にして良い相手でもない。
錬金術で幼稚な全能感を拗らせていたのが丸わかりな古代クリント王国の連中のような行動を取らないか。
それを、あの精霊王は見ている可能性が高かった。
無言で山を登っていく。
また集落の跡地だ。
タオが、眼鏡を直す。
「ちょっとおかしいね」
「うん、石造りの集落で、どれも同じに見えるけどな」
「いや、ずっと造りが高度になっているよ。 見て」
ぱたぱたと走っていったタオが、手招きしてくる。
皆で近付くと、なるほど。
あたしにも分かった。
確かに石組みがすごくぴっしりしている。この山から降っていった先にあった集落は、どれも石を積んだだけというような家だった。
この家は石材を削りだして、しっかりとした家を作っている。
言われて見れば、一目瞭然だ。
「作りで年代とかは分からないか、タオ」
「ええと、流石にそれは。 でも、この内部の荒れようからして……いや。 下の方にある集落よりもずっと古いですよこれ!」
「そうだな。 良く見抜いた。 私からもう、口出しすることはないな」
おお。
タオもアンペルさんからお墨付きか。
リラさんは基礎だけ教えて後は皆に任せるという雰囲気だったが。アンペルさんは比較的丁寧に面倒を見てくれた。
それでお墨付きを、この短時間に貰ったのだ。
タオは誇って良いだろう。
魔物も、心なしかこの辺りにはあまりいないように見える。
それでも警戒して、周囲を探索する。調べた後、更に上に行く。退路を塞がれると、こういう所では致命的だ。
だから、常に丁寧な立ち回りを心がけないといけないのである。
クラウディアが音魔術を展開。
やはり笛がどうしてもしっくりくるようで、笛を具現化して周囲に曲を流し。その反響で魔物の存在を探っているようだ。
それでさっきから、随分たくさんの魔物の奇襲を防ぐことが出来た。
曲も様々。
クラウディアは良家のお嬢様をやめても、吟遊詩人か何かで食べて行けそうである。これだけ色々な曲を流せれば、ルックスもある。
下手な詩人なんかよりも、歓迎されるだろう。
「魔物はいるけれど、この集落に近寄るつもりはないみたい」
「うーん、どういうことなんだろう」
タオは危険なしと判断すると、彼方此方を見て回っている。
まあ嬉しそうなことだ。
レントも側に着いているのは、こうなった時のタオが非常に危険だからだろう。文字通り周りが見えなくなるのだ。
リラさんがため息をついていた。
「学者としては立派になったが、戦士としてはまだまだだな……」
「だが、一芸あれば人間は充分だ。 大半の人間にはそれすらない」
「まあそれは理解はしているつもりだ。 白牙の民でも、戦闘力が低いものをあまり良く思わない風潮はあった。 この世界の人間ほど、迫害をすることはなかったがな」
そうか。
オーレン族に夢を見すぎるのも問題か。
ともかく、この集落は良いだろう。幾つかの石版で、タオがチョークで写し取りをしていた。
ゼッテルはしっかり持ってきている。
どこに遺跡があって。
何が事態打開の鍵になるか、分からないからである。
更に昇る。
川だ。
湯気が出ている。
水の温度がかなり高いと言うことだろう。レントが手をかざして、川の流れの先を見やる。
「街道の方にある小川に通じているみたいだな。 この辺りだと、こんなに水温が高いのか……」
「一部の水は、あの集落で使っていたみたいだね」
「水が変な色……匂いもあるね」
「ライザ、荷車は重くなるが、回収しておけ。 水質が違う水を見たら、必ず回収して調査する癖をつけておくんだ」
アンペルさんのアドバイス。
もう細かい指導はないが、こういうアドバイスはあるし、それはそれで嬉しい。
無言で水を回収して。
そして、更に山の上を目指す。
彼方此方に、砕かれたゴーレムの破片らしいのが散らばっている。この辺りで戦闘だろうか。
フィルフサがここまで来たのか。
いや、それは考えにくい。
もしそうだったら、あの集落はぺしゃんこの筈だ。
それにもっと山の下の方にも、ぺしゃんこになっていない集落の跡はたくさん残っていたし。
それに精霊王の言葉が気になる。
精霊王「風」はあの峡谷で決戦をしたという旨の話をしていた。
だとすると、此処は殆どフィルフサとの戦いはなかった筈である。
「まだ生きているゴーレムがいるかもしれない。 気を付けて!」
「ライザ、右!」
「!」
クラウディアの警告。
同時に、子供の頭くらいもある石が飛んできた。
回し蹴りで蹴り砕く。
他の石が飛来して、次々に襲いかかってくる。皆で迎撃。あたしも熱魔術で、空中で叩き落とす。
頭にでも喰らったら即死だ。
全員でつぶてを迎撃する。リラさんも前に出て、竜巻のように回転しながら、石を打ち砕いていく。
アンペルさんが、指先をすっと中空に走らせると。石の一つが真っ二つに砕けた。
あたしが熱の槍を叩き込んで、その石二つを立て続けに爆砕する。
レントもタオもしっかり動けているし。
クラウディアも速射で、数個の石を叩き落としていた。
凄いな。
元々音魔術の適性があって、それと組み合わせているとは言え。この弓矢の腕前はもう絶技だ。
レントもタオも、どんどん力量が上がっている。
特にレントは、多分もうザムエルさんと良い勝負が出来るのではないか。
激しいつぶてが収まると。不意に静かになる。
これは多分だが、こう言うゴーレムだったのだろう。そして砕かれて、動かなくなったということだ。
残骸を軽く漁るが。迎撃の途中にコアは砕いてしまったのだろうと思う。
残念ながら、稀少な鉱石や、宝石も見つからなかった。
「周囲、もう大丈夫よ」
「分かった。 もう少しで頂上だから頑張ろう。 このままもたつくと、もっと魔物が来るかも知れないし」
「良い判断だ」
リラさんが、クローを振るって小石などの残骸を落とす。
精霊王が、近場に五体いる。それだけ危機的な状況だと、常に頭に入れておかなければならない。
しかも、みんな「風」のように友好的に振る舞ってくれるかどうかは分からないのだ。
タオが、提案してくる。
「そのさ、次の精霊王が見つかったら、僕が最初に古代クリント王国の言葉はわかりませんって言ってみるよ」
「お、そんな風に喋れるのか」
「うん」
「凄いわタオくん。 学者みたいだね」
クラウディアが無邪気な笑顔で褒めるので、タオもえへへとでれる。
ともかくだ。
精霊王「風」が、しびれを切らして襲いかかってでも来ていたら、全滅必至だったのだ。タオの判断は正しいと思う。
ともかく、山を上がる。
まだまだ山の頂上は遠いが。
それでも既に見えてきている。これならば、昼までには頂上付近にまでたどり着ける筈だ。
強力な魔物に襲われなければ、である。
この辺りには、強大な魔物の噂はないけれども。
ただ、フィルフサに追われた禁足地の魔物がいる可能性もある。
だが、強い魔物ほど生存には強く執着するとも聞いている。
こんな中途半端な所に、そんな強い魔物がもたついて残っているとはあまり考えられないのだが。
「!」
あたしは、思わず足を止めていた。
今までで、一番の規模の集落だ。
それも、明らかにタオに言われるまでもなく、すぐれた技術で作られている事が分かる。
というよりもだ。
岩が浮いている。
どの角度から見ても、間違いなく。
「岩が浮いてるよ!」
「魔術によるものか?」
「古代クリント王国の時代には、まだものを浮かせる技術が残っていたという話だ。 それによるものかも知れない。 ただ、それにしては浮かせている岩が小さいし、意図も見えないが」
「警戒して! そんな技術が生きているなら、強力なガーディアンがいても不思議じゃない!」
皆で、周囲を見る。
クラウディアが即座に音魔術を展開。
あたしも、熱魔術で周囲の温度を下げながら、それでも警戒する。冷や汗が流れる。これは、もし強力なガーディアンに襲われたら厳しい状態だ。
「今の所、不可解な魔力の流れは、あっちだけだよ」
「……」
一際巨大な岩が浮いている。
その辺りに、たくさんのぷにぷにが集まっていた。しかも黒だ。
黒いぷにぷには、多数の餌を喰らった結果、腐敗した血肉で全身が黒く染まっている。それだけ強い。
更に強くなってくると、体内の魔力が光を帯びて、銀や金になり。
ものによっては虹色になったり。或いは青いまま、巨大になるが。その青も、どこか澄んでいるという。
いずれにしても、あれは通常のぷにぷによりも手強いとみるべきだろう。
どうにか交戦は避けられないか。
いや、無理らしい。
一斉に、ぷにぷにが此方に向く。
不定形の体だが。それでも此方を獲物と見定めたのは理解出来た。
熱にも耐性が高く、魔術も効きづらい厄介な相手だが。今だったら、それほど苦戦せず倒せる筈。
そう信じて、あたしは声を張り上げていた。
「いくよみんな!」
一斉に襲いかかってくるぷにぷに。
山の頂点付近。
恐らく精霊王がいるとしたら此処という場所で。
戦いが始まった。