暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
今は、それはライザ達の知る事ではありません。
回転しながら、ぷにぷにが突貫してくる。黒いぷにぷには食欲も強く、獲物を包むと溶かしてしまう。
前に鼬が喰われているのを見た事があるが、殆ど一瞬で骨にされ。その骨すらもバキバキと音を立てながら体内で砕いていた。
人間だって、襲われればそうなる。
ぷにぷには魔物と言われるだけあって、小細工無しで人間を充分に殺す力を持っているのである。
そして内部が液体というのは侮れない。
風呂桶に水を入れると、とんでもなく重くなるのは周知の事実。
大きめの風呂桶に水を入れると、多分レントでも運ぶのは難しいだろう。
それが、意思を持って突貫してくるのだ。
前衛に立ったレントが、気合いを込めて最初の一匹をパリィして弾き返す。がいんと、凄い重い音がした。
あたしは荷車からレヘルンを即座に取りだす。
熱魔術は効果が薄いことは分かっているが。
それでも、効果が薄い上から蹂躙するしかないのだ。
二匹目を、リラさんが回転しながら弾き返す。三匹目、四匹目が連続して飛んでくる。更に、弾かれた一匹目、二匹目も、すぐに態勢を立て直し、此方に向かってこようとしてくる。
幸いなのは、此奴らに知性がない事。
だったら、どうにでも出来る。
レヘルンを投擲。
更に改良しているタイプだ。
次の瞬間。
その場に、巨大な氷壁が出来。三匹目、四匹目を柱の中に凍結していた。
ごっと、周囲に冷気が吹き荒れる。
もろに冷気に入った黒いぷにぷにが、速度を落とした所を。レントが気合いとともに真っ二つにする。
もう一匹は、リラさんが蹴り上げる。
其処にクラウディアが、巨大な矢を叩き込み。
空中で爆散させていた。
「ぷにぷにの体液は危険だ! 間違っても浴びるなよ!」
「分かった!」
「ひいっ! 怖い!」
リラさんが警告しながら、バックステップ。タオが悲鳴を上げる。相変わらず気弱だが、肝心なところで動ければそれでいい。
確かに空中で砕かれたぷにぷにの死体が地面に掛かると。其処が凄まじい勢いで溶解していく。
あたしは更にフラムを取りだす。
氷柱をブチ砕いて、更に後続のぷにぷにが来る。氷柱を砕くと。そいつは触手を展開して、上空に飛んだ。
もろにレヘルンの冷気を喰らわなければ。大丈夫と言う事か。やはり凄まじい熱耐性の持ち主だ。
だが、上空で空気を吸って膨らみ、ボディプレスの態勢にはいった其奴は。
知性を持っていたら後悔していただろう。
あたしが投擲したフラムが炸裂。
文字通り、蒸発したからだ。
今度は、熱波が辺りを蹂躙する。凄まじい熱に、あたしも流石に呻きたくなるほどである。
熱に耐性がある黒いぷにぷにを蒸発させる熱量だ。
氷柱も既に砕けてしまい。閉じ込められたぷにぷにも内部で粉々に砕けて、地面をじゅうじゅういいながら溶かしている。
「まだ来るぞ! 態勢を整えろ!」
「ああもうっ!」
今の熱波で速度を落としながらも、更に一匹が来る。触手を伸ばして、熱波から顔を手で守ったクラウディアを貫こうとしていた。
それにおどりこんだタオが、全身ごとハンマーを振るって、ぷにぷにに叩き込む。
たわんだぷにぷにが、次の瞬間吹っ飛んだ。
恐らく、内部の液体部分が、表皮の柔軟性でカバーできないほどの衝撃を喰らったからだろう。
そいつはあとまわし。次は、地面近くでたわんでいる奴。
突っ込んでくるつもりだ。
アンペルさんが、詠唱を終えて魔術を放つ。黒い光が一閃。フィルフサの殻も貫く一撃だ。
だが、黒いぷにぷには、それを食らっても壊れない。
一度ぶしゅっと中身が飛び出したが。即座に破れたところを修復したようである。
「相性が悪いな……」
「面制圧でないと厳しいみたいですね!」
「そのようだ」
レントとリラさんも、丁度交戦中。即座に態勢を立て直した黒いぷにぷにが、凄まじい音と共に飛んだ。
あたしは前に出ると。
踏み込みつつ、全力で肺の空気を吐き出していた。
「はあっ!」
地面を踏み砕きつつ。そのパワーを載せて、飛来するぷにぷにを横殴りに回し蹴りする。
あたしの切り札は蹴り技だ。
そしてこの間作った服で身体能力を上げ。
クリミネアで靴を更に改善している今。
破壊力は、この程度のサイズのぷにぷにだったら、文字通りこうなる。
横殴りの一撃で吹っ飛んだぷにぷには飛んでいく。その速度は、音に近いようだった。
空中で爆発四散するぷにぷに。
かなり遠くだが。まあ、山に今人はいないだろうし、被害は出ないだろう。
「凄いわライザ!」
「うん。 喧嘩したいとは絶対に思わない」
大喜びするクラウディアと、やたら冷めてるタオ。
まあいい。
まだ敵は来る。
一際大きいのが来た。それは触手を伸ばして、既に傷ついていたり、死んでいる他の黒いぷにぷにを掴むと、自身に取り込んでいく。
喰っているのだ。
傷つけば、仲間も餌に早変わり、か。
一部の虫なんかでは当たり前に見られる光景らしい。他にも、社会性というのを持っている生物は習性としてやる事があるそうだ。あまり考えたくは無いが、辺境にいる人間も、独自の文化をいいわけにやることがあるとか。
ぷにぷにもそうだと分かると、あまり良い気分はしない。
レントが気迫を込めて、戦っていた一体を斬り伏せる。
リラさんも、相手をバラバラにすると、態勢を立て直す。
黒いぷにぷにが、更に巨大化しつつ、触手を伸ばす。こっちでは無く、上空に。
振動している。
あれは、呪文詠唱だ。
「クラウディア!」
「分かってる!」
即座にクラウディアが笛を撃ち出す。詠唱阻害の魔術。だが、それもあまり長くはもたないだろう。
更に触手を伸ばすと、今度は地面に突き刺す黒いぷにぷに。
知性はなくとも、魔術は使うか。
厄介極まりない。
レントとリラさんが、同時に突貫。
だが、生き残っている黒いぷにぷにが、横殴りにレントを襲う。
大剣でガードするレントだが、文字通り吹っ飛ばされる。そして、ぷにぷにと一緒に転がっていく。
リラさんは、同じように上から襲いかかってきた黒いぷにぷにを、瞬時に細切れにしてしまうが。
体液が派手にぶちまけられて。
それを避けるために、大きく飛び退く。必然と、皆と距離が開く。
あたしは即座にレヘルンの二発目を投げるが。黒いぷにぷにも即応。なんと、近くにいた雑魚ぷにぷにを掴むと、中空に放り投げる。
触手のパワーは想像以上で、音に近い速度で飛んだ黒いぷにぷにが、レヘルンとぶつかって相殺。
冷気の爆圧を最小限にまで緩和する。
タオがその間に相手の死角に回り込んでいたが、ハンマーの一撃も決定打にならない。あのサイズだと、厳しいか。
そして、奴が呪文詠唱を完成させた。
辺りの地面から、一斉に石の杭が突き出す。
避けて。
あたしが叫ぶが、避けられたかどうか。
魔物はパワーとタフネスにものをいわせて、こうやってごり押しで詠唱魔術を通してくる事が多い。
詠唱魔術が本当に限定的な状況でしか使えない人間と違う。
あたしは今の一撃を、バックステップで避けたけれども。みんなはどうか。
ともかく、こっちも全力で対応するしかない。
その時。
黒いぷにぷにを、複数の黒い線が。上空から貫いていた。
全身から体液を派手にブチ撒けながら、黒いぷにぷにが振動する。それは悲鳴を上げているようだった。
あたしは奴が作り出した杭を蹴って、上空に。
見える。
レントは倒れているが無事。リラさんは、こっちに駆けつけようとしている。
クラウディアはどうにか回避に成功したようだが、見た所動けそうにない。タオは、あたしに気付いてあわてて離れている。
アンペルさんは。
恐らく今の黒い光の魔術。空間をずらすんだっけ。それを放った反動だろう。動けずにいる。
ならば。なにもかも吹っ飛ばすような大技は駄目だ。
あたしの固有魔術は熱。
普段は熱くする方向で使うが。
こう言う事も出来る。
空中に氷の足場を作ると、それを蹴って更に跳躍。ジグザグに氷の足場を蹴りながら、加速して奴に接近する。
黒いぷにぷにも気付いたか。迎撃の触手を伸ばしてくるが。
遅い遅い。
皆の攻撃を貰い。アンペルさんのかなり大きな一撃を受けて、鈍っている。
最大限まで加速したあたしは、裂帛の気合いとともに。
斜め上から、黒いぷにぷにを蹴り砕いていた。
地面を激しく擦りながら、振り返る。
呼吸を整える。
大きく上半分がえぐれた黒いぷにぷには、数秒静止していたが。しかし、次の瞬間には破裂していた。
すぐに飛び離れる。
黒いぷにぷにが死んだからだろう。
周囲の石の杭も、砕けて崩壊していく。
呼吸を整える。すぐに荷車に走り寄ると、先に作っておいた栄養剤を口にする。即座に冷気の魔術を展開しないと危ない。
アンペルさんが、薬を取りだして。皆の治療を始める。
ぷにぷには、どこにでもいて。
何にでも適応する。
それが理解出来る、危険な相手だった。
どうにか治療を終える。皆、疲労困憊だ。リラさんも、ぷにぷにの凄まじさには閉口したようだった。
アンペルさんが、棒のような器具を使って、ぷにぷにの死骸を漁っている。
そして、取りだした球体を回収していた。
「いいものが採れたな」
「アンペルさん、それは?」
「ぷにぷに玉というのだがな。 簡単に言うと脱水剤だ。 錬金術以外でも使うことができ、上手に使うとものに含まれる水を綺麗に除去できる。 ライザ、取り方を覚えておけ。 脱水の技術と知識は、高度錬金術では必須になる」
はいと返事すると、あたしもアンペルさんと一緒に回収に回る。
タフすぎるよとタオがへたっているが。
レントは傷の手当てを終えると、もう平気なようだった。ただ、熱には参っているようだったが。
クラウディアは足を挫いていたが。それも傷薬でどうにでも出来る。挫くと治るまで結構時間が掛かるのだが。
それでも、この錬金術のお薬であればすぐだ。
ぷにぷに玉を回収する。
アンペルさんの話に沿って、参考書を見ておく。
どうやらぷにぷには基本的に体内にこれを持っているらしく、昔の錬金術師は飼っておく事があったそうだ。
勿論危険な生物なので、一定の設備はいるが。
とにかく悪食で何でも食べるので、餌に関してはまったく困る事がなかったらしい。
それである程度大きくなったらばらして玉を回収すると。
家畜と全く同じなんだなと、少し呆れる。
今、魔物とされている動物の幾らかは。そうやって、古代の錬金術師が飼い慣らしていたものが、逃げたのかも知れない。
だとすれば、人間に襲いかかってくるのも納得は行く。それは散々恨んでいるのだろうから。
「とりあえず、皆無事なようだな」
「なんとか。 それよりクラウディア、どうだ大きな気配は」
「消えてないよ。 もっと危ない魔物がいるかも知れない」
「帰ろうよ……」
タオが弱音を吐くが。
あたしがタオに、指さす。
辺りには、今の黒いぷにぷにの広域攻撃でも壊れていない集落跡。それを見ると、タオはよだれを拭っていた。
「とりあえず、この辺りを調べよう。 もしも火の精霊王がいるのなら、この辺りだと思うし」
「うん……」
嬉しさと哀しみが混じるタオの声。
手当て終了。
周囲を見て回る。
黒いぷにぷにが食い荒らしたらしい魔物の残骸が彼方此方に散らばっている。ただ、殆ど原型はなく。
地面の黒い染みが、何が起きたのかを物語っていた。
状況から考えて、此処にいた人間が、黒いぷにぷにのエジキになったとは考えにくい。この集落、あからさまに場所からしておかしい。
今でも強烈な熱気が来ていて、あたしが消耗覚悟で熱波を中和しないとみんな蒸し焼きになりかねないのだ。
こんな所に住めるとしたら、何かしらの技術を持っていて。
この熱を中和していた可能性が高い。
例え熱波の原因が精霊王でも、流石に火山を活性化させるのは厳しいだろう。
仮にあたしの二十倍の魔力があって、それを最高効率で詠唱魔術で増幅したとしても。火山のパワーはそれ以上と聞いているからだ。
だとすると、精霊王関係無くこの集落はあったはずで。
いようがいまいが、住民は不自由していなかった筈だからだ。
周囲を調べる。
どうやら、この山の水源らしい場所に行き当たる。
「ライザ!」
「温泉……かな」
皆で、側に行く。
其処には、ぐつぐつ煮立った池があった。
こんな池でも、生物はくらしている。見た事もない生物だが。魚もいるようだが、恐ろしい姿をしていた。
釣りをするにしても、これでは何をエサにしたらつれるのか分からない。
アンペルさんが警告をくれる。
「火山で一番恐ろしいのは毒ガスだ。 此処もそれがある可能性がある。 気を付けて、距離をとっておくんだ」
「うっ。 分かりました」
「そんなにやべえのか」
「前にちらっと図鑑で見た話だけれど、一呼吸で死ぬってさ」
タオの言葉に絶句して、レントがささっと距離を取る。
まあ、それが普通の反応だ。
アンペルさんが、火山の噴火の恐ろしさを、順番に説明してくれる。
まず最初に噴火する。
この噴火には色々なパターンがあるそうだ。中には爆発だけして、溶岩は漏れないパターンもあるらしい。
規模が大きいものになると、それこそ山ごと崩壊するそうだ。
ぞっとする。
流石にそんなのに巻き込まれたら、ドラゴンでもひとたまりもないだろう。
いずれにしても火山が噴火すると、溶岩より先にガスが一気に来る。
このガスの恐ろしさは、さっきタオが言った通り。一呼吸でもすればあの世行き。
そしてガス自体が、高熱を帯びている場合もある。
そういう場合は、一瞬で焼き人間の完成か。
酷い場合は、蒸発してしまうそうだ。
聞いているだけで怖くなってくる話をしているアンペルさんだが。別に怖がらせて楽しんでいる様子はない。
淡々と事実を語っているだけである。
つまりこれらの全てが事実と言う事だ。
「溶岩は見た目は確かにおそろしいし、触れたりしたらまず助かる事はないだろうが、それより高速で来るガスに警戒しなければならない。 ガスは毒性も強く、非常に危険だ。 覚えておくようにな」
「はいっ!」
皆で返事。
いずれにしても、此処を探索しなければならないこと。
それに、此処には精霊王がいる可能性が高い事。
それらは全て事実だ。
水源から離れて、他も調べる。溶岩が噴き出している様子はないが。彼方此方に非常に暑い場所がある。
熱水噴出口というらしく。
極めて危険な温度の水が噴き出してくるそうだ。
対策無しで触ると、それこそ即死の危険もあるらしい。
興味深そうに見ていたタオが、真っ青になってさがる。
火山は本当に危険な事ばかりだと思って、あたしは心に刻んでおく。それにしても、この火山。
位置からして、クーケン島に噴火でダメージが入る事はないだろう。
多分だけれども、あたしのアトリエにも被害は出ない。
出るとしても、噴火したときに彼方此方に飛んでいく岩が要因になるくらいだろうか。
それについても、対策はしておいた方が良いはずだ。
天井を強化しておくかな。
そう思ったあたしは、見つける。
鉱石が、集められたまま放棄されている。鉱石だから腐る事もない。即座に調べて見ると、大当たりだ。
多分これ。
ゴルドテリオンの素材になるゴルディナイトだ。
ただ、ちょっとまだ加工情報が足りない。ただ、素材が手に入ったのはとても大きい。
しかしながら、少し量が足りないか。どこで採取できている。多分この火山だと思うのだけれども。
アンペルさんも、即座に反応。
「ゴルディナイトか!」
「はい! 貴重な素材の筈です」
「ああ、そうだな。 いにしえの時代には、これを材料にしたゴルドテリオンを更に凌ぐ合金があったらしいが……」
「アンペルさんは、作った事があるんですか?」
ないと言われた。
基本的にゴルドテリオンは、昔に作られた遺物でしか見た事がないそうだ。
素材としては、ゴルディナイトを使う事が分かっている。
だが、ロテスヴァッサに属して錬金術師の集団にいた頃も、ゴルディナイトはそもそも入手が極めて困難だったそうだ。
困難な上、加工方法が伝わっていないとなると、確かにどうしようもない。
それにしても、鉱石の段階で触ってみると、それだけでえげつない魔力を感じ取れる。ただし魔力との親和性があまり高くない。これは確かに、加工次第の品だ。
上手く加工できれば、精霊王にすら届くかも知れない。だがそれも、今ではまだ無力だ。
「金の名前を冠するように、ゴルドテリオンは性質が金に似ていて錆びない。 しかも金ですら溶かす酸である王水にすら溶けない。 軽く極めて丈夫で魔力との親和性も高い。 まさに最高の金属だが……今ではこれや、これ以上の金属による品は、ロテスヴァッサの王宮にも殆ど存在していない」
「すげえ。 伝説級の品じゃないか」
「ライザ、そういう事もある。 我々の装備は良いが、信頼出来ない他の者にゴルドテリオン製の武具は渡すなよ。 もしその情報が漏れでもしたら……恐ろしいことになるだろうからな」
「分かりました」
流石に山師の類でも、クーケン島なら撃退は出来るが。
それらがわんさか押し寄せてきたら、大事故になりかねない。
少なくとも、クーケン島の治安は終わる。
それは、あたしも望むところではなかった。
ともかく、ゴルドテリオンはほしい。素材もだ。まだ加工方法が分からないが、それは調べるしかない。
周囲を探す。採掘場はないか。
ふと、気付く。
花畑になっている場所がある。こんな所に花畑。そう思って近付くと、クラウディアが先に反応していた。
「ライザ、こんな所に花畑? おかしいね」
「うん。 でも魔物の気配もない。 ……踏み荒らされてもいないとなると、恐らく此処に誰かが花畑を作ったんだ」
「こんな所にか?」
「……そういうことか」
あたしは、無言でそこを見つめる。
どう思って良いか分からなかったからだ。
それは、墓だ。
流石に極悪人の一族だったとしても、墓まで荒らそうとは思わない。
そして、そんな極悪人でも、死人に花を手向ける習慣はあったのか。それを思うと、やりきれない気持ちになった。
無言でその場を離れる。
時間は惜しい。
魔物の襲撃も警戒しなければならない。
レントが呼んでいるのが分かる。
どうやら採掘場を見つけたらしい。
崖際に、明らかに不自然な掘った跡がある。それも、おかしな掘り跡だ。どうやったらこんな風に掘れるのか。
ちょっと分からない。
「どうだ、これ掘り跡だろ」
「うん。 ……奥の方、光ってる。 ゴルディナイトで間違いないだろうね」
「よし……」
レントが奧に行くと、大剣を振るって鉱石を砕き始める。ゴルディナイトでも加工前はそこまで硬くは無い。すぐに砕けて、幾つかの大きめの塊が採れる。塊はそれほど重くはないが。それでも鉱石だ。荷車にたくさんは積めない。
ゴルディナイトは鉱石としては非常に軽い。ゴルドテリオンもそうだと聞く。
荷車に詰め込みながら、不審に思う。
ひょっとしてだが、これ。ゴルディナイトはそれほど重要な鉱石ではなく、主要な鉱石は別にあるのではないのか。勿論貴重な鉱石であることは、間違いないのだろうが。
ともかく、崩落が怖い。すぐに穴から離れる。
そして、皆で見上げた。
巨大な岩が浮いている。
もしも、精霊王がいるとしたら彼処だろう。
「風」の話では、渓谷にまだ来ていない、という話だし。眠っている可能性もある。「火」が此処にいるのだとしたら。
性質は「風」より大人しいとは、とても思えない。
とりあえず、準備を万全に整える。
幸いゴルディナイトは手に入った。最低限の目的は達成出来ている。ただ、時間がとにかくない今。
出来れば、此処で精霊王を見つけてしまいたい。
「精霊王」が邪悪な存在なら違う対応をしなければならないだろうが。会話は出来るし悪党ではない事も分かった。それならば、今は敵に回るのを避けて、あわよくば味方に出来れば言うことはない。
あたしも、これくらいの計算はする。
「さて、どうやって彼処に登ろうかな……」
「方法は任せるぞ、ライザ」
「はい」
リラさんに応える。
足に魔力を集中して、跳躍するか。それも良いが、上で魔物がわんさかという事態を防ぐためにも、まずは様子を見た方が良いだろう。
少し考えた後に、あたしは決める。
いずれにしても。
ここがこの山の冒険における分岐点だった。