暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
持ち込んである水を皆で飲む。すぐになくなってしまった。
アトリエでは、毎朝あたしが水を沸かして、それでコンテナに入れている。コンテナに運び込むのはレントの役割。
この沸かせる水を、お風呂や台所、トイレなどの水周りに使ったり。飲み水として冒険に持って行っているのだ。
調合に使う水は、これを更に錬金釜に入れて、エーテルの中で不純物を取り除いておいたものを使う。もう今は、液体を抽出するのも難しく無い。複雑な調合を行う時に、相反する要素を無理矢理結合させるために中和剤という液体を用いるのだが。そのためにも液体操作は必須なのだ。
なんでも蒸留という過程を経て似たような事が出来るらしいのだけれども。
エーテルで要素を抽出することで同じ事が出来るのだから、そうするだけ。
火を熾すと、それだけ薪を消耗する。
薪は大事な資源で。
有限なのである。
レントが大きなため息をついた。タオも、完全に参っている様子である。
クラウディアも何かいう気力はないらしく、なんとか荷車から這いだしてきた後は、うつらうつらとしている。
さっきの演奏で、多分相当な魔力消耗をしたのだ。
流石に限界だろう。
リラさんとアンペルさんにすら疲れが見える。
幾つもの門を封じてきて。その間、うちの島の古老みたいな分からず屋とさんざんやりあってきた二人がだ。
これほどの大物と直接相対するのは、滅多にないのだと見て良い。
クーケン島とその周辺は、それだけ危険だという事なのだろう。
休憩をしていると、おなかがすいてきたが。
リラさんが、先に釘を刺してくる。
「腹が減ってきているだろうが、今食べると乾きが敵になるぞ。 水は飲み干してしまったからな」
「うっ……やっぱり急いでアトリエまでいくしかないか」
「そうまでしなくとも、麓までいけばあたしも冷気の膜を展開しなくて良くなるから、少しは楽かな……」
「ごめんライザ。 ちょっと苦労掛けてる」
そんな風に言うタオ。
気にしないで、と応える。
あたし達は、悪ガキ仲間だ。そのくらいは、別にどうでもいい。強かろうが弱かろうが、関係無い。
それにタオの頭には、随分助けられている。それだけで、充分だと言えるだろう。
咳払いするアンペルさん。
「そういえばタオ。 さっきの続きを聞かせてくれ。 「水」の居場所がわかったのか」
「ええと、仮説ですけど。 あの、禁足地の浜につながっている洞窟が怪しいと思って」
「!」
「どうしたライザ」
そうだ、思い出した。
あの洞窟で、強烈な魔力を感じたっけ。
死に場所を探してあの洞窟に向かったボオスを追って、急いでいたから後回しにしていたが。
確かに、強烈な魔力を感じ取った。
あれは思えば。
あそこには似つかわしくないものだった。
「さっきの「火」の言葉に、潮流で激しく姿を変えるあの洞窟は似ていると思います。 全ての条件が合致していると思いますし」
「確かにな。 だが、今日はまずは撤退しての休憩を考えるぞ」
「その通りだ。 もしも外れだとしても、彼処は指呼の距離。 今日は休んで、明日にじっくり準備を整えてから向かおう」
「分かりました!」
タオの表情が、僅かに明るくなる。
まあ、あたしには実の所、タオの本音が分かる。
あの洞窟、奥の方にはよく分からない遺跡みたいなものがあった。タオとしては、調査したいのだろう。
普段は禁足地で足を運べないし。
何よりも、水没してしまっているのだ。
もう乾期は始まっている。
既に雨は一滴も降らない。そうなると、フィルフサが侵攻を開始してもおかしくない状況である。
そして乾期はしばらく続く。
もしもフィルフサが門からあふれ出したら、文字通り地獄が現出する。100万を軽く超える数の、魔術が通じず生体急所を貫いても死なないタフな魔物が。何もかも踏み砕きながら進軍するのだ。地獄と言うのも生やさしい状況になる。ましてやオーリムのように奴らが環境を改造でもしたら、それこそ終わりだ。次の乾期には、此方の世界に進出したフィルフサが、文字通り世界の全てを蹂躙する。
キロさんの頑張りにも限界があるだろう。
確率が高い場所から、徹底的に調査していくしかない。
そんな状況だ。
少しでも遺跡を調査できるのなら。そうタオが思っているのは、よく分かる。
これでもずっと一緒にいないのだ。
「ともかく、休憩を最低限取ったら、まずは街道に降りるぞ。 城を突っ切る道は、今は避けた方が良いだろう」
「あの「火」みたいに、空間を跳ぶことが出来たらなあ」
「あれは恐らくだが、「門」を作り出すのに近しい技術だ」
アンペルさんの声色が、少し冷える。
それで、レントもちょっとまずいと判断したのか、口をつぐむ。
確かに、門を作るのと同じ系統の技術だったら、アンペルさんが良く思わないのも分かる。
錬金術師にとっては、罪業と同じだからだ。
クラウディアが、ふらふらだが、いけるというので。
皆立ち上がって、その場を後にする。
もう少し降れば。あたしも冷気魔術を展開しなくてもよくなる。ただでさえ枷が掛かっている状態で疲れきっているのだ。
アトリエに戻ったら、文字通りバタンきゅうかも知れない。
いくら底無しの体力と言われるあたしでも、限界がある。
今は、少しでも早く。
安全な場所で、休みを取りたかった。
街道に出たころには、日が暮れていた。丁度松明が見える。アガーテ姉さんだった。数名の精鋭を連れている。
疲れ果てている様子を見て、それである程度事情は察したのだろう。
無理はしないようにと言われたので、はいと応えるしかなかった。
そのまま、アトリエに戻る。
クラウディアはもう途中から歩きながら船を漕いでいたし。タオも殆ど同じ状態である。リラさんがそれを見て、大きなため息をついていた。
「まだ基礎体力が足りないな。 今の時期が一番延びる。 もう一月猶予があれば、こんなだらしない事にはならないように出来たんだが」
「リラさん、勘弁してくれよ。 ライザや俺は体力自慢だからいいけど、タオやクラウディアは人間の範疇なんだよ……」
「そうか。 だが、今後を考えると、体力はいくらでも必要だ」
「分かっています……ああうう……」
タオが呻く。
まあ、気持ちは嫌になる程わかるので、あたしとしても責めたりするつもりはない。
黙々とアトリエに戻り。到着した時には、クラウディアとタオが同時に倒れそうになって、それぞれあたしとレントが支えた。
ベッドに連れて行って、寝かせる。
クラウディアは無防備に寝ているので、ちょっと男子に見せるのは危ないか。布団を掛けておく。
レントも戻って来たので、四人で軽く話をする。
アンペルさんも疲れているようだが、野宿も荒事も慣れっこだからだろう。流石に、まだ余力があるようだった。
「では、状況を整理しておこう。 精霊王「風」の依頼にあった「火」は見つけた。 「火」は友好的で、現時点では敵対する恐れもなさそうだ。 また上手く行けば、フィルフサとの戦いに参加してくれるかも知れない」
「あれほどの力の持ち主が力を貸してくれれば、非常に頼もしいが……」
「リラの懸念ももっともだ。 精霊王はあくまで精霊王。 人間とは考えが違う。 少なくとも、我々が考えるような味方として動いてくれるかは別だろう。 古代クリント王国のように使役すれば話は別かも知れないが、それは我々がするべき事ではない」
「あたしも、それには同意見です」
外は既に真っ暗。
本当だったら晩ご飯にしたいところだが。
今は、まず先に眠りたい。
明日、二食分朝に食べるしかないだろう。それくらい、心も体も疲れ果てている状態なのだ。
「タオが幸い、「水」がいる可能性が高い場所を見つけてくれた。 明日は朝一番に食事を取り、準備を整えてから出よう。 幸いかなりの近場だ。 多少遅い時間に出ても、明日中に上手く行けば片付くはずだ」
「分かりました」
「では休むとしよう」
「……はい」
がくんと、一気に疲労が来た。レントも無言で、そのままベッドに直行。今日は風呂どころではない。
あたしも、意識がもうろうとする中、ベッドに向かって。
そして、そのまま眠りに落ちていた。
夢を見る。
強い魔力を持っていると、感応と呼ばれる現象が起きる事がある。あたしは夢の中で、精霊王「火」になっていた。
精霊王はあの幼い精霊王「火」だけではない。
周囲には、似たような力が四つある。
「五人」精霊王が行使されたと、「風」は言っていた。
これが、その光景と見て良いだろう。
皆の姿は残念ながら曖昧。感応だから、なのだろう。
まず、「火」が激しい炎を巻き起こして、山を削って道を作る。其処に「風」が力を吹き込んで、更に炎の勢いを高めた。
ぐつぐつと煮立つ溶岩。
塔から降る川は蒸発してしまった。
それを見て、とても心が痛む。川にいた生物は全滅してしまっただろうからだ。
「水」が、大雨を降らせる。
その大雨が鉄砲水を作り出して、谷を押し流す。更に、「土」が放ったのは雷だろうか。それが、戦場の状況を整えていった。
「闇」が力を放出する。
精霊王の中で、間違いなく最強の力だ。そして、門から。
奴らが。
フィルフサの群れが、あふれ出てきた。
塔からわらわらと出てくる人間。殆どは戦士のようだ。見た事がない多数の兵器を携えている。そう、兵器だと分かる。
それだけじゃあない。
巨人というのも生やさしい巨大な人型の鎧が、剣をもって歩いている。
あれは、ゴーレムか。
今稼働しているゴーレムも多数見受けられるが、人間を襲う様子はなかった。
「我等の力はフィルフサとは相性が悪い。 だが、あのような邪悪なるものどもを此処に近づける訳にはいかぬ。 この谷の生き物たちにはすまぬ事をしたが、それ以上のものを守るためだ」
「支援すればいいんだねおねいちゃん!」
「そうだ。 総員、フィルフサを迎え撃つ! 総攻撃開始せよ!」
空には、複数のドラゴン。
それらが、一斉にブレスを吐き、敵の群れに猛攻を開始。フィルフサの群れが、次々に消し飛ぶが。
フィルフサは体を抉られようが削られようが、砕かれようが平気で迫ってくる。
次々に蹂躙される人々。
今とは姿が違うが。
それでも人間だ。文字通り踏み砕かれ。悲鳴を上げる暇すらなく、ぺしゃんこにされて果てていく。
こんな酷い死に様、魔物に襲われてもまずない。
悪夢だと、あたしは思った。
前線が喰い破られていく。やがて、精霊王の全火力でも、フィルフサを抑えられなくなる。
ついに人間が敗れて、どっとフィルフサの群れが塔に群がる。塔の中にも、入り込んでいく。
そして、塔から。
水が、大量に。
精霊王が使うよりも膨大な水が、あふれ出して。
フィルフサを、まとめて押し流していた。それは、門から這いだしてきたばかりの。おぞましい姿をした巨大なフィルフサも、まとめて海に……違う、エリプス湖に流していた。
後は、虚無だ。何もかもが失われて。それで。
はっと目が覚めて。
ベッドから飛び起きる。
今の夢。
多分、ただの空想とかじゃない。「火」の精霊王の間近にいて、感応して見たものだ。ただでさえあたしの固有魔術は熱。
それを考えると、「火」の精霊王はとても相性が良い相手の筈。
今のは、「火」が見た事実だ。
それを思うと。
吐き気がこみ上げてきた。
タオが言っていた。「何千」「何万」と、あの場所で死んだ筈だと。あの夢が事実だったら、それは紛れもない事実。
恐らく、死んだのは何万の方。
そんなたくさんの人が。しかも此処だけでは無く、世界中の彼方此方であんな戦いが起きて。
みんな、死んで行ったと言う事だ。
ぐっと唇を噛む。
錬金術は無から有を産み出す技術。エーテルを用いて行う、魔術の上位互換。
それを使えば、多分理論的には何でも出来る。そして、それが幼稚な全能感を拗らせていく。
才能は善性と全く関係がない。
あたしも見た事がある。酷い下衆が、凄い剣術の使い手だったのだ。あれは。幼い頃だったか。
アガーテ姉さんがまだ王都に行く前。
クーケン島に来た山師が、そんな下衆だった。仲間とともにクーケン島に押しかけ。そして狼藉の限りを尽くして、当時の護り手を数人殺した。
暴れに暴れて、手に負えなかった其奴を。
まだ十二だったアガーテ姉さんが、その仲間もろとも斬った。
剣を持つ腕を斬り飛ばされて。そいつは、被害者面をしながら、泣きわめいた。アガーテ姉さんが首を刎ねるまで、自分勝手な繰り言をほざいていた。
最後に、呪いの言葉を残していった。
俺の力は才能によるものだ。
俺を超えたのも才能によるもの。
いずれ俺以上の才能を持つ者が来て。この島の人間を皆殺しにして行くぞ。努力なんてするだけ無駄だ。
剣は才能だけの世界だ。俺に勝ったのも、ただ才能があったからだけだ。
怯えて待つんだな。
お前達ではどうにもできない才能が来るのを。
狂笑しつづける其奴は、首を刎ねられてもまだ笑っていた。
あの時は、ただ狂っているとだけ思った。ザムエルさんですら、そいつの手下数人を同時に相手にして傷ついていたとはいえ、純粋に剣技の前には押されていた。
それを倒したアガーテ姉さんをただ格好いいと思ったが。
今なら分かる。
古代クリント王国の連中は、そいつと同じ。才能だけあるカスだった。だから、これだけの事を引き起こした。
剣技が才能の世界だというのは知っている。というか、アガーテ姉さんがその体現者だ。そして剣技よりも更に錬金術は極端な学問だ。才能がなければ、そもそも何をしても無駄だと、アンペルさんが断言する程なのである。
そしてこれらから導き出される結論がある。
才能は、時に凶器となるのだ。
あたしは手を見る。
大人になったら、変わらないだろうか。今は、悪を強く憎む気持ちがある。力への誘惑にも屈しないと言い切れる。
ただし、それはあくまで今だからだ。
昔はお父さんとお母さんの良い仲間だったザムエルさんが、酒に溺れてあんな風になった事だって、あたしは知っている。
昔のザムエルさんが、今のザムエルさんを見たら激怒するはず。
あたしだって、そうならないと言い切れるだろうか。
恐怖が、心の底からこみ上げてくる。
あたしは、別に強い心を持っているなんて自負している訳では無い。「火」の精霊王との感応でみたこの夢。
笑い飛ばせるほど、心は強くない。
起きだすと、まずトイレを済ませて、顔を洗う。先に起きだしていたクラウディアが、朝ご飯を作ってくれている。風呂も入っておく。昨日の分、かなり汚れたからである。
風呂から上がると、まだ寝ているタオをレントが起こしに行っていた。顔をタオルで拭きながら、あたしはさっさと何時でも出られるように着替える。
そして、皆と一緒に、朝食の卓を囲んだ。
食事を終えた後、無言で調合を行う。
案の定、採取してきたゴルディナイトはエーテルの中で分解して見ても、あまり強い金属だと実感できなかった。魔力は非常に強いが、それだけの金属だとしか思えない。
錆びはしないだろうが、強度は足りないし魔力だってそれほど親和性が良くない。つまり膨大な内在魔力をうまいこと他に伝達できないということだ。
この鉱石に価値があると知らない人間は、捨ててしまうかも知れない。或いはただの魔石と誤認するかも知れない。
確か王都の近くには大きな鉱山があるとか。
これは行商人のロミィさんという人から聞いた。各地を渡り歩いている人で、クーケン島には何年か一度来る。確か今も来ている。
その人の話によると、すでに「魔物の脅威により」閉鎖されてしまっているそうだが。
或いはこの鉱山からも、本当はゴルディナイトは出て。
それで捨てられてしまっている可能性は、低くない。
無言で調合を色々試していると、アンペルさんから声を掛けられた。
「どうしたライザ。 身が入っていないな」
「はい。 それなので、まずはゴルディナイトの分析だけしていました」
「何かあったのか」
「……」
感応のこと。
何を見たか。それを全て正直に話す。アンペルさんも魔術については相当な使い手だ。空間操作となると正直それほど親和性が高い相手がいるとは思えないが。それでも、少し考え込んでから応えてくれる。
「実は私も前に、ドラゴンと戦った時に似たような事が起きた事がある」
「ドラゴンと!?」
「お前達が倒したのとは比べものにならない若い個体だ。 恐らくは、古代クリント王国の人間によって、門を守るように配置されていたのだろう。 倒さざるを得なかった」
「……」
そうか。
アンペルさんも当然、苦しい思いはたくさんしているんだな。
そう思うと、ちょっと心が楽になる。
それだけではない。
アンペルさんは言う。
「ドラゴンには或いは、何かしら空間に関係する能力があるのかも知れないな」
「ドラゴンにですか?」
「門の影響を受けて感応が起きたのかも知れないが、ドラゴンそのものが感応の対象だった可能性が高い。 その時見た夢は、ライザが見たものほど悲惨なものではなかったが、似たような内容だった」
そうか。だとしたら辛かっただろう。
手をとめてしまうあたしに、アンペルさんは咳払いする。
「古代クリント王国の人間が何をしでかしたかは、ライザの責任ではない。 だから気にするな。 手が届かない事の事を悲しむのは心優しいが、抱えきれないことを抱え込むとつぶれてしまう。 リラの言葉だったな」
「そうだ。 一応耳に届いてはいたか」
「これでも何十年か一緒に旅をしているからな」
「ならば、もう少し話を聞くようにしてほしいものだ」
二人の息はぴったり。
それを聞いていて、少しだけ心が楽になった。
頬を叩くと、調合に本腰で取り組む。まずは試作品として、リングを作って見ようと思っている。タオは予定通り、クーケン島に一度レントと共にもどった。ボオスと歩調を合わせるためだ。
門を閉じ、水を戻す事に失敗した場合。つまり最悪の事態に備えて動かなければならない。
向こうでも、準備は幾らでもして貰わないと困るのである。
さて、調合調合。
リングの性質は簡単だ。魔力を極めて強力に蓄える宝石をベースにして、自身の魔力も含めて身体能力を更に激増させる。
勿論身に付けると、最初は勢いよくすっころぶかも知れないから、それについては事前に警告が必要だ。
宝石については、パールを用いる。
禁足地に出向いたときに、拾う事が出来た。パールはいうまでもなく貝の中で出来る宝石。特徴として宝石として寿命があり、百年程度しか本来はもたない。
このため、他の宝石に比べて価値が劣るのだが。
劣化しないように、コーティングしてしまえばいい。
これをベースに、リングを作る。
指輪にすると、どうしても武器などを握るときに邪魔になる。このため、腕輪が良いだろう。
腕輪だと、大きくなる分強力な増幅効果を得られる魔法陣を好き勝手に刻み込めるし。
何よりも、今はクリミネアを量産出来るようになっている。
クリミネアをベースに。
強力に育った鼬の皮を用いて、肌に触れる部分をケア。更には、金属そのものも複層構造にして、腕などの成長に合わせてカスタマイズ出来るようにしておく。これに、コーティングして宝石寿命をなくしたパールを組み込み。更には、コーティングを魔力伝導率が高いローゼンリーフを溶かした液体と混ぜ合わせる事で。魔力を更に効率よく増幅できるようにする。
エーテルに素材を投入しながら、これらの作業を順番にやっていくのだが。
マルチタスクの極みで、雑念でも入ったら失敗しかねない。
しばらく、全力で集中を続けて。
そして、全ての要素を組み合わせていく。
液体をエーテルで調合できるようになったころから。
更にマルチタスクが強力に出来るようになって行った。そして自身から出したエーテルが満ちた釜の中で混ぜ合わせる事によって、その全てが把握できる。
雑念は排除。
今は、錬金術が引き起こした災禍は忘れろ。
無言で調合を続けて。
やがて、形になったそれを釜から引き上げていた。
思わず、溜息が出る。これを、自分が作る事が出来たのか。まずは当然、自分で身に付けてみる。
綿のように体が軽い。
自動回復の機能もつけたので、靴とならんで更に強力に体力を増幅できる筈だ。魔物との連戦も大丈夫だろう。
一応、アンペルさんに貰った参考書のグナーデリングという道具をベースに作ったが、独自に強化した部分も多い。
集中していたからだろう。太陽はまだまだ空を昇り切っていない。
そして、ひょいひょいと跳んでいると、特に力を入れていないのにアトリエの屋根を越えていた。
これで調子に乗っては駄目だ。古代クリント王国の連中と一緒になる。
まずは、アンペルさんに見てもらう。
自信作だが。他人の目で見ると、欠点が見つかる可能性は低くない。最初は自身で確かめているのだが。
それでも、他人の目からのチェック。
あたしを評価してくれているとは言え、それでも厳しいアンペルさんの目から見る事に、意味がある。
アンペルさんはリングを渡すと、しばらく見回して。感心していた。
「エーテルの中で再構築する錬金術を駆使して、此処までの精緻な細工をするとはな……」
「ありがとうございます。 それで、何か問題点は……」
「強いていうなら、強力すぎることだ。 絶対に信頼出来ない相手には渡すな」
「はい」
それはもう、当然だ。
リラさんにも試して貰う。リラさんは身に付けると、あたしよりも更に高く跳躍して、それで危なげなく着地していた。
驚いていたようだが。咳払いする。
「今、かなり力を抑えて跳躍したんだがな。 それでもこれほどに高く跳べるのか……」
「ど、どうですか」
「複製でいいから一つくれるか。 先になれておきたい」
「それならば、それを差し上げます。 これから同じものをあたしとレントに作って、それで今日は出ましょう」
勿論アンペルさん、タオ、クラウディアの分も後から作る。
これがあるとないとでは、戦闘が別次元に楽になる筈だ。
ただし、精霊王の実力を二度も至近で見ている。これをつけた程度で、戦力差が縮まるような相手でもない。
それに精霊王だって、この世界最強の存在でもなんでもないだろう。
そう考えれば。
上には上がいる。
そう考えて、常に自分を律しなければならなかった。
黙々と、今の作業をそのままリピートする。大量にジェムが蓄えてあるので、それを使って足りない材料は再現してしまう。また、さっきのリングを作る時にも、また膨大なジェムが出た。
ジェムを蓄える倉庫か何かを、先に作っておかなければならないだろう。
まあ、土地は幾らでもある。この森の中の広間の中にさえ、だ。
淡々と調合を進めて、まずは壁役になるレントの分を作って渡す。なれるまで手間が掛かるから、しばらく身に付けて試してと念を押す。
というか、レントもリラさんがぽんと跳ぶのは見ていたのだろう。
頷くと、すぐにリングを腕につけて、それで案の定すっころびかけていた。
今日は全員分作るのは後回し。
これから、「水」を探しに行く。
リラさんが更に強くなったことで、多分最悪の場合も、全滅は避けられると思う。
問題はゴルディナイトを研究している暇がないことだが。
それもどうにかして、いずれ捻出していけば良い。
あたしの分のリングも作る。
勿論三つ目だから、既にカスタマイズも出来る。あたしの場合は魔力増幅に更に比重を割く。
これで、更に魔力を増幅できる筈。
あたし自身の素の魔力も上がっているし。
勿論精霊王には届かないが、それでもかなり良い感触だ。数の暴力で放っていた熱の槍を、そろそろ統合してみるべきだろう。
昔で言う、基準となる熱の槍。石造りの家を粉砕する程度の破壊力を持つものなら、今なら詠唱有りなら五桁は放てる。これを千発一つにまとめても、十二から十三は撃てるだろう。
そして破壊力は普段使っている熱の槍の千倍。
これなら、ドラゴンの鱗も突破出来る可能性がある。
リングを身に付けて、満足。アンペルさんはあたしと同じ感じで。タオは奇襲をしやすいように、速度と防御を重点的に上げる感じで。クラウディアは魔力と防御力を重点的に上げる感じがいいか。
考えながら外に出ると、丁度良い感じの時間になっていた。
クラウディアが、もう荷物を整えてくれていた。
最近は鍛えられているからか、力仕事も平気でこなしてくれる。この細い見た目で、もう下手な男より力があるかもしれない。まあ、あたしが渡した服の増幅効果もあるのだが。
「よし、ライザ。 今回も指揮はお前が執れ」
「はい。 みんな、それでは今回の目的を再確認するよ。 あの洞窟で、「水」の精霊王を探す。 「風」も「火」も、話せば分かる相手だったけれど、「水」がそうかはなんとも言えない。 だから、気を付けよう。 それに、見つかるかどうかは分からない。 見つからなくても、がっかりはしないで次の候補を考えよう」
それだけ話すと、皆頷いてくれる。
あたしは、出発と。
声を掛けていた。