暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、怒れる者と

禁足地、その奧。

 

渓谷の更に先に、それはある。

 

古くはピオニールと言われていた戦略拠点。形状は塔。此処にフィルフサを集めた。古代クリント王国の錬金術師達は、フィルフサを制御出来るつもりでいた。そしてその一部だけは事実だった。

 

そう、フィルフサの誘引だけは実際に出来たのだ。

 

古代クリント王国の錬金術師達は、その愚かさの責任を取らされた。必死に逃げようとした者もいたようだが、厳しい監視の下に置かれて。全員が対フィルフサとの戦闘で散った。

 

中には逃げようとした挙げ句に斬られた者もいる。

 

如何に超越技術を持っているとしても、所詮は人間。

 

更に古い時代の錬金術師になると、普通の人間が束になってもかなわない事もあったのだが。

 

既に古代クリント王国の時代の錬金術師は。

 

人間で充分に殺せる所にまで弱体化していたのだ。

 

塔には桟橋のようにして、石の橋が架かっている。

 

元々ここは研究施設だった場所で。その端の上を歩きながら、パミラは懐かしいなと思った。

 

此処連日、どうにかクーケン島でプディングを食べたいなと思っているのだけれども。

 

なかなか上手く行かない。

 

出て来たとしても、固形のプディングで。

 

卵を使ったあの甘いプディングとは、なかなか遭遇できないし。住民も知らないようだった。

 

色々な世界をパミラは渡り歩いて来た。

 

普通の世界では、幽霊の姿を取る事も多い。

 

世界を見て回るもの。その行く末を暖かく見守るもの。

 

それがパミラだ。

 

それには、幽霊くらい、干渉能力が小さい方が好ましい。だから普段は幽霊である事が多い。

 

どんなに酷い世界でもそうであろうと思っていたのだが。

 

この世界は例外だ。

 

神代と言われる時代からパミラは見て来たが、この世界の錬金術師は。数多の世界を見て来たパミラから言っても最低最悪だ。

 

凶暴であっても自然を守ることをしっかり己に課している錬金術師の世界もあったし。

 

過酷な世界であっても、世界を再生させようと必死に努力している錬金術師の世界もあった。

 

完璧に詰んでいる世界にいても、その詰みを打開しようと努力しようとしている錬金術師の世界もあったし。

 

現在進行形で世界をエゴのまま食い物にしている錬金術師もいる世界でも。必死にそれに抗う錬金術師がいる世界だってあった。

 

だが此処は違う。

 

神代の頃から、錬金術師はどいつもこいつもエゴの怪物だった。

 

錬金術と言う超越技術を手にしたら、どいつもこいつも幼稚な全能感を拗らせて。エゴのまま蛮行の限りを尽くした。

 

この世界の人間はおぞましい程に出来が悪く。

 

どれだけ失敗を繰り返しても反省しなかった。

 

それをみていたパミラは、結局幽霊のままでは駄目だなと判断して。ヒトの形を取る事にした。

 

他の似たような存在と違って、自分の力を誇示したり、崇拝させたりするような行為にパミラは興味は無い。

 

信仰を餌にするわけでもないし。

 

ただ、人としてのあり方をみて。見守るのが本来の仕事だからだ。

 

石橋の上を歩きながら。パミラはため息をつく。

 

ここで悲惨な戦闘が行われて。

 

古代クリント王国の民草が、錬金術師の愚行のツケを払わされてから、もうだいぶ年月が経つ。

 

膨大な水で一気にフィルフサを押し流したとき。まだ必死に戦闘を続けていた兵士は一緒に流され、全滅した。

 

塔の中にまで侵入したフィルフサによって、まだ恨み事を日記に書き綴っている錬金術師が踏みつぶされたのと、殆ど同時だった。

 

激しい水流は地形まで変えた。

 

ただ、フィルフサに対する誘引能力は、もうこの塔にはないようだ。

 

だとすれば、次の大侵攻が起きれば。文字通り手がつけられない事態になる。

 

最悪の場合、協力関係にある「かの者」と連動して動かなければならないだろうが。

 

今は、その前に。

 

一つ一つ、可能性を見ておきたかった。

 

塔に足を踏み入れようとした瞬間。強烈な斥力を感じる。

 

ああ、なるほど。

 

これは怒っているな。

 

パミラは苦笑すると、ふわりと飛ぶようにして空間を跳躍。

 

塔の最上部に出ていた。

 

そこにいたのは精霊王。「土」だ。

 

実利そのものの名前をつけられた存在。

 

これら精霊王も、本来土地に宿る自然の力の権化とは別の存在なのだが。まあそれは別にどうでもいい。

 

パミラをみて、苛立っている様子だった精霊王は。

 

やがて、正体に気付いたのだろう。

 

舌打ちしていた。

 

「貴様、人ではないな。 随分と上手に擬態しているようだが」

 

「あらー。 ちょっと気付くのが遅いのではないかしら?」

 

「ふん。 恐らくは天然物の我等と似たような存在か、いやもっと上位のものか。 どうでもいいがな」

 

「いずれにしても、貴方に危害を加えるつもりはないわー」

 

ふわふわと喋るのは、それが癖になっているから。

 

幽霊になっている時は、これがとてもしっくり来た。

 

肉の体を得て行動している今も、それは同じ。

 

ただこの肉の体は、「かの者」に貰ったものだが。協力関係を取ると決めたときに、得たものである。

 

まあ、自分で作っても良かったのだが。

 

この世界に抗おうとしている錬金術師は一人もいないなか。

 

皮肉な事にも、そうではない錬金術関係者の作ったもの。

 

だから、利用するのもまたありだろうと考えたのである。

 

そして貰ったからには、使い潰すつもりもなかった。

 

「それで何用か」

 

「私はパミラ。 精霊王「土」でいいかしら」

 

「そうだ。 貴様、「水」の所に現れた存在だな。 それで何用か?」

 

「今、精霊王の所を回っている錬金術師に興味があってね。 今の貴方、出会い頭に消し炭にしかねないでしょう」

 

舌打ちされる。

 

精霊王は基本的に人間に対してはそれぞれが微妙に違う姿と人格を取るが、素は今パミラに応じているものだ。

 

元々はシステムに近いのである。

 

「錬金術師は敵だ。 古くに我等を星の都で作り出したのも錬金術師だが、そもそもそれも……」

 

「どうやら例外らしくてね、今貴方たちに接している錬金術師」

 

「騙そうとしているに決まっている!」

 

「そんなことは百も承知。 だから見極めようと思っているのよ」

 

ばちりと火花が散る。

 

雷撃のスペシャリストである神格は、非常に好戦的であったり、力が強かったりすることが多い。結果として人間のように傲慢になりやすい。

 

この精霊王「土」もそうだ。

 

パミラは、それでも余裕を崩さないが。

 

「ひょっとしたら、この世界の錬金術師の歴史が変わるかも知れない」

 

「……続けよ」

 

「ふふ、話が通じて助かるわー。 とにかく、他の精霊王と同じように応じてくれるかしら」

 

「……明らかに我等より悠久の時を過ごしている存在の言葉だ。 まあ良いだろう」

 

頷くと、パミラはその場から消える。

 

いずれにしても、見極めるだけ。この後、タイミングをみて実際に接触しようとも考えているが。

 

「かの者」が懸念しているような、この世界を再び地獄に陥れるような錬金術師の場合は。

 

パミラが殺す。

 

それだけだ。

 

ライザリン=シュタウトと言ったか。才覚において、この世界の歴史上最強かも知れない錬金術師。

 

やっと他の錬金術師とは違う。エゴのまま、幼稚な全能感に浸って、全てを踏みにじる愚者では無い錬金術師が出て来た事を祈りたい。

 

不可思議な話だ。人間でもないのに。何に祈るのだろう。そもそも本来は祈られる方なのに。

 

パミラは、近くの荒野に降り立つと、空を見上げた。

 

空には星だけが輝いている。

 

ただ、それだけだった。

 

 

 

(続)




精霊王との対決が進む中、背後での動きも本格化していきます。

背後で動いている者達は。

もう二度と、邪悪に世界や大事な存在を踏みにじらせたくはないのです。
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