暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ついに精霊王との交渉を終わらせ、峡谷の奧に進むライザ。

そこにはこの世の地獄の跡が拡がっていました。


地獄の果て
序、「風」も枷を外す


時間はあまりない。

 

それが分かっているから、あたし、つまり錬金術師ライザは急ぐ。朝一番に出て、禁足地の奧に。今回はレントから話を聞いている。ボオスとも合流。

 

一緒に、禁足地の奧へ向かう。

 

「風」とあった後は、一度クーケン島まで送って、それからまた渓谷の奧に進む事になるだろう。

 

一手間増えてしまうが。

 

今後島の指導者になるボオスは、精霊王としっかり接触して、その考えを理解しておいた方が良いだろう。

 

あたしがいなくなったらどうにもならなくなるようなものについては、リストアップしてほしいとまで頼まれている。

 

それだけボオスがちゃんとクーケン島の事を考えている、ということだし。

 

時間が出来たらやることを、きちんと告げてもいた。

 

基本的にボオスには、後衛に入って貰う。同じく後衛にはアンペルさんとクラウディアがついているが。

 

荷車のすぐ後ろなので、いざという時にもカバーが出来る。

 

ボオスは毎日時間を見て鍛えているようだが。

 

悪ガキ仲間から外れてから、どうしてもみんなと一緒に一日中走り回る事はなくなったからだろう。

 

やはり基礎体力が劣るのが分かる。

 

タオですらひょいひょい歩いている所で、かなり苦戦している。クラウディアは基礎魔力が大きいので、それを肉体の補填に廻せる。アンペルさんもしかり。

 

普通の人間というのは。

 

こういう危険な場所では、ボオスくらいなのが当たり前なのかも知れない。

 

魔物は殆どでない。縄張りを作るような魔物は、道中で何度も往復する間に全て片付けてしまっているし。

 

流れてやってくるような魔物も、今はほぼいない。

 

フィルフサの危険な気配を感じ取っているから、だろう。

 

もし流れて来るような魔物がいても、それはごくごく雑魚な小物である。

 

片付けるのに、苦労はしなかった。

 

それでも、禁足地に入ってから、二度戦闘がある。

 

一度は中くらいのラプトル。もう一度は、肉食の植物だった。どちらも大した相手ではなかったので、さくさく片付けるが。

 

ボオスは身を守ることだけ考えてくれと言うと、頷きながらも悔しそうにしていた。

 

戦闘終了後、ボオスがぼやく。

 

「悔しいが、今は足手まといにしかならないな」

 

「自分の力量を正確に把握できているのは良い事だ。 今は腕を磨け。 そうすればいずれともに戦う事もあろう」

 

「そうだな。 そうなんだろう」

 

リラさんの言葉に、ボオスは素直に頷く。

 

この辺りは、昔のままで安心する。ボオスは捻くれる前は、結構素直な性格をしていたのだ。

 

それが、あの時。

 

あたしがドジを踏んだときに、悪い方向で露出してしまったのだろう。

 

いざという時は、大人の助けを呼ぶ。

 

ボオスの考えは、何も間違っていなかったのだ。勿論、即座に全員であたしを引っ張り挙げるという考えも。

 

もう、それについては誰も気にしていない。

 

だから、こうしてともに歩ける。

 

「荷車凄く重いから、ぶつからないように気を付けてよ」

 

「分かってる。 きついようなら後ろから押してやろうか?」

 

「あはは、問題ないよ。 鍛えてるからね」

 

「確かにこんなバカみたいな道歩き続けてたら、どうしても鍛えられるだろうな……」

 

ボオスがハンカチで額を拭いながらぼやく。

 

そろそろ禁足地を抜ける。

 

峡谷が見えてきた。

 

圧倒的な光景にボオスが息を呑む。ボオスの先祖は、まだ安全だった頃に、此処に侵入。

 

奥に見えている塔まで辿りついて、中にあったあの宝玉。

 

オーリムから水を奪っただろう道具を手に入れたのだ。

 

だが、それ以外にも分からない事が多すぎる。

 

とにかく。今は塔を調査しないといけない。

 

渓谷にはいると、ほどなく覚えのある強い魔力が吹き付けてくる。精霊王「風」に間違いない。

 

一応、皆に警告。

 

最悪の可能性を常に想定する必要がある。例えば精霊王「風」が翻意している可能性だ。

 

ただ、あたしはそれはないだろうと思う。

 

精霊王は根気強く此方に意思疎通を図ってきた。それをクリント王国の人間が怒らせたのは、度を超した愚行が故だ。

 

だから、精霊王を責めるのは間違いである。

 

慎重に進む。

 

小川もあるが、そこでも魚がバシャバシャ跳ねていた。それはそうだろう。こんな魔力を感じれば、恐慌状態にもなる。

 

程なくして、どんと音がして。

 

目の前に、それが出現していた。

 

椅子に座った、精霊王「風」だ。相変わらず、椅子の台座ごとここに来ている。

 

一つ気になっていることもある。話をしておきたかった。

 

「錬金術師ライザリン。 いや、他の人間はライザと呼んでいるようだな。 同胞たる「火」と「水」がきちんと戻って来た。 礼を言うぞ」

 

「いえ、此方こそ。 誠意を示せたでしょうか」

 

「うむ、問題ない」

 

「「水」さんと相対して分かった事があります。 貴方の枷を外せます。 外しましょうか」

 

ほうと、「風」は言う。

 

かなり友好的に応じてくれて助かる。これだったら、多分戦う事はないだろう。

 

「風」はボオスをみていない。

 

多分、見る価値もないくらいに思っているのだろう。

 

明らかにボオスだけ異質だから、それは仕方がないのかも知れないが。この辺りは、超越者らしい行動だ。

 

「ふむ、実は今「火」に外して貰う事を考えていたのだがな。 外せるというのであれば、そうしてもらおうか」

 

「やります」

 

「ただ我の枷には問題があってな。 他の精霊王のものより厄介だぞ」

 

「……なんとかします」

 

あたしも、言葉を選ばざるを得ない。精霊王「風」はかなりあたし達を好意的にみてくれているが。

 

それでもまだまだ、信頼しきったわけではないのだろうから。

 

渓谷の奧で待つと言われたので、頷く。

 

そして、厳しい地形の渓谷を、奧へと進む。

 

ボオスもすぐに気付いたようだった。

 

「この大量の金属片は何だ……?」

 

「知らない方が良いと思う」

 

「レントくん、ボオスくんも知るべきだと思うわ」

 

「……そうだな」

 

レントが苦虫を噛み潰した。まあそれもそうだろう。レントだって、此処で起きた事は良く思っていないのだろうから。

 

タオが咳払いすると、説明をする。

 

見る間にボオスの表情が変わるのが分かった。

 

「なんだと……!?」

 

「本当だよ。 中身が入っているものもあったんだ。 此処は多分、近場でもっとも大きな墓場なんだよ」

 

「くっ……。 フィルフサとの大きな戦いがあった事は知っていたが、まさか此処までとは」

 

ボオスが呻く。

 

気が弱い人間だったら、吐いていてもおかしくない。

 

此処で万人単位の人間が死んだ。

 

しかも此処だけじゃない。

 

古代クリント王国の錬金術師達のエゴと愚行で、凄まじい数の人達が無駄に人生を終わらせることになったのだ。

 

それもフィルフサに踏み砕かれるという形で。

 

そして死体の大半は、押し流されてエリプス湖に。

 

水を出したのは、きっとあの。

 

ボオスの家にある球体だ。

 

聖地から水を奪ったあの忌まわしい代物。

 

ますます、クーケン島が呪われているというに相応しいものだろう。

 

あたしも、感応夢でみた光景を話しておく。

 

ボオスも感応夢は知っている。だから、絶句して、しばらく話しかけないでほしいとまで言っていた。

 

無理もない話だ。

 

ボオスも、一緒に冒険していた頃にはそれなりに子供っぽい所を見せていた。仲が悪い時期が長かったからまだ心の何処かで警戒しているけれど。

 

やっぱり憑き物が落ちたからなのだろう。

 

ぐっと昔よりも、なんだか身近に感じる。

 

仲間として、の話だ。

 

あたしくらいの年頃の男女はすぐに腫れた惚れたに発展するらしいのだが。

 

あたしはどうにもそういうのはぴんと来ないし。

 

今周囲にいる男子に、気になる相手はいなかった。

 

まあそれはどうでもいい。

 

とにかく、この墓所はいずれ大掃除して、片付けなければならないだろう。

 

そしてその前に、やるべき事がある。

 

のそりと、姿を見せる鼬。

 

青黒い色のもの。

 

灰色のもの。

 

いずれもが、湖岸でみられるものとは段違いの実力を感じる。普通の鼬の群れの母個体なみに大きく。

 

そして、明らかに此方を獲物として見ているのが分かる。

 

毛を逆立てて、シューと警戒の音を立てる。

 

あたしの魔力量に気付いているだろうに、それでも引く気はない様子だ。それだけ実力に自信があるのだろう。

 

鼬だけではない。

 

地面が盛り上がって、破損していたり、崩れたりしているゴーレムが姿を見せ始める。

 

一斉に起動し始めたのには、何か理由があるのか。

 

「少し後退して。 時間差で迎え撃つ」

 

「了解!」

 

「ボオス、荷車の後ろで出来るだけ動くなよ」

 

「ああ、分かってる! それとお前達の戦闘、参考にさせて貰うからな!」

 

ボオスも護り手と混じって訓練していたのだ。

 

あたし達とかち合わないように、上手にアガーテ姉さんが時間をずらしていたらしいが。

 

ランバーもそれは同じ。

 

ランバーはボオスといないときも、剣を持っていないとへにゃっとしていて。剣を握ると、途端に師範としての鋭い目つきになっていた。

 

アガーテ姉さんがお墨付きを出すほどの剣の腕だったから、あたしも凄いなと何度も感心させられた。

 

本気を出すと戦えた事を知っている今となると、色々複雑な気分だ。

 

ならば、着いてきてくれれば良かったのに。

 

ともかく、さがりながら、鼬を誘引する。途中、無詠唱から熱の槍を叩き込んで、多少敵の追撃を阻害する。

 

無詠唱の熱の槍だと、直撃してもびくともする様子がない。

 

流石にこの辺りに住んでいる鼬は湖岸にいる雑魚とはものが違う。内在魔力で、熱量を中和しているのだ。

 

渓谷の入口付近までさがって、時々反撃しながら鼬の群れを引きはがす。

 

この辺りで良いだろう。

 

「反撃開始!」

 

「よっしゃあっ!」

 

雄叫びを上げると、レントが飛びついてきた鼬の頭を、唐竹にたたき割る。次々に襲いかかってくる鼬は、一体が倒された程度ではひるみもしない。

 

リラさんが群れの真ん中に飛び込むと、クローで数体を斬り割き、更に逆立ちしながら回転、足技で纏わり付いてくる鼬を薙ぎ払った。

 

グラマラスなリラさんだが、その全身は凶器だ。

 

クラウディアが、鏃に石を混ぜるようにした魔力矢を放つ。

 

ばつんと音。射撃音が凄まじい。普通は弦がひゅうと音を立てる。こんな破壊的な音はしない。

 

当然威力は、前に見たとおりの凄まじさだ。

 

直撃した鼬が、悲鳴を上げながら吹っ飛ぶ。巨体が吹っ飛んだのをみて、鼬の群れが呆然とする中。

 

あたしが投擲した新型爆弾。

 

レヘルンの強化型、クライトレヘルンが炸裂する。

 

これは仕組み的にはレヘルンと同じだが、やはり効果を上げているローゼフラムと同じように、破壊力を閉じ込めて使いやすく、しかも火力を上げているものだ。

 

構造が複雑になるが。

 

その分火力も上がっている。

 

ただしコアクリスタルから複製すると、ぐっと魔力を持って行かれる。

 

数匹が氷柱に、一瞬で閉じ込められ。

 

それをタオがブチ砕く。

 

そうすると、全部まとめて、粉々に砕けていた。

 

逃げ腰になった鼬の一匹を、アンペルさんが切り裂く。指先から迸った固有の魔術。空間操作が、文字通り空間ごと「ずらした」のだ。

 

どうにもならず、真っ二つになる鼬。

 

魔力抵抗が強いと一撃必殺とは行かず、更にはフィルフサのような相手だと相性が悪い技だが。

 

鼬程度ならこの程度。

 

大きいのがのそのそと来る。多分群れの母だ。

 

回転しながら飛びかかってくる。

 

動作に殆ど隙がなく、恐ろしく早い。

 

だが、レントが真っ正面から、強烈な一撃を受け止める。激しい激突音。レントに渡している、クリミネア製の剣から火花が散っている。レントがずり下がる。それほどのパワーと言う事だ。

 

弾きあう。

 

空中で、リラさんが追いつくと、同じように追いついていたタオと一緒に、一撃を叩き込み。

 

態勢を崩した鼬を地面に叩き付ける。

 

クラウディアが矢を放つ。まさに必殺のタイミングでの一射だったが、地面で態勢を低くしながらずり下がった鼬が、何か吠えると。魔術矢が粉砕され、核になっていた石が砕けて飛び散る。

 

だが、それでいい。

 

今のは必殺の中和魔術とみていい。

 

それを使わせただけで意味がある。

 

アンペルさんの放った空間を切り裂く黒い光が、鼬に直撃。だが、とどめとはなり得ない。

 

鼬がギャッと悲鳴を上げて、さがろうとするが。

 

その時にはあたしが投擲した二つ目の実験作品。

 

雷撃爆弾プラジグの強化版。

 

シュトラプラジグが、炸裂していた。

 

これは空間で閉じ込めるわけにも行かないので、雷撃を発生させ。直上から地面に向けて収束。

 

一点に最大出力の雷撃を叩き込む仕様にしてある。

 

雷撃は簡単に拡散して、周囲全てを巻き込んで危険極まりないし。下手に拡散する仕様にすると水場とかでは使ったあたし達が全滅しかねない。

 

だから収束して、其処から拡散しないように作った。

 

これも空気の壁を使って拡散を防ぐようにしているのだが。この過程で、雷が空気が無いと届かない事を知った。

 

意外にも、空気と雷は親和性が高いらしい。

 

詳しい仕組みは、アンペルさんも知らなかった。

 

いずれにしても、雷神の槍と化した一撃が、鼬を貫く。

 

悲鳴を上げながら竿立ちになる母個体。

 

とどめだ。

 

あたしが接近して、頭を蹴り砕く。流石に粉々に吹き飛ぶことはなかった。頑強な体である。

 

だが、首が折れるには充分だった。

 

大量の鮮血をぶちまけながら、その場に倒れる鼬の母。

 

後続で続々とゴーレムが姿を見せるが、破損していたり、人間の形を保てていないものが殆どだ。

 

きっとこれらは、何百年か前。

 

この渓谷で戦いが行われたときに。

 

アーミーと一緒に、フィルフサに蹂躙されていったゴーレム達だ。今もいもしない主に従って、此処を守ろうとしている。

 

ため息をつく。

 

「楽にしてあげよう」

 

あたしが告げると、皆が頷く。

 

そして、時間差でこっちに来たゴーレムの群れを、迎え撃っていた。

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