暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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タオの話です。

タオの主観からみても、ライザはパワフルでタフで。

そして、自然についていってしまう不思議な魅力があるのでした。


1、好奇心は不謹慎と隣り合わせ

戦闘時、だいぶ恐怖を殺せるようになって来た。

 

タオは冷や汗を拭いながら、辺りに点々としている鼬の死骸を見やる。それらをてきぱきと吊して捌いていくライザ。捌き終えたものは、火を熾して燻製にしていく。タオも勿論手伝う。

 

腹を割くと虫が出てくることがあるのが嫌なのだけれども。

 

もうそれも麻痺して慣れつつあった。

 

ただ、それでも触るのは無理だが。

 

毛皮は即座になめして、荷車に積んでいく。とはいっても激しい戦闘の後だ。無事な毛皮はあまりないが。

 

肉も相当量がある。

 

一度レントがアトリエに急いで戻り。すぐに荷下ろしをして戻って来た。レントの補助にはボオスが着いた。

 

これも、今後のためと割切っているのだろう。

 

淡々と作業を進めて、後始末終わり。

 

残った骨は、ライザがまとめて熱魔術で処理して。グズグズに焼き崩した所を砕いて、近くの川に流していた。

 

魚たちがバシャバシャと群がって喰らっている。

 

相変わらずおっかない光景である。

 

ライザがああやって喰われ掛けてから、タオは憶病になった。

 

最初、育児放棄気味の両親から逃げるようにして家を出て。本を読んでいるタオに声を掛けてくれたのがライザだった。

 

良く本を読むことを揶揄する奴はいたけれども。

 

ライザはそんな事はなく。

 

本がどんなものなのかを説明すると、笑顔で聞いてくれた。

 

それから、恐らくライザの両親。ミオさんとカールさんが、タオの両親に話をつけてくれたらしい。

 

二つ年上のライザと。三つ年上のレント、ボオス。

 

周りは年上ばかりだったが、タオと一緒に冒険することを厭わず。タオがついて行けないときは、手を貸してくれた。

 

あの事故が起きて、ボオスが離脱するまでは。

 

本当にまぶしい日々だった。

 

今も、そのまぶしい日々は思い出に残っている。

 

ボオスが離脱した後は。ボオスに散々虐められたけれども。それが不器用すぎる激励だと今は知っている。

 

だから、恨むつもりはなかった。

 

それにボオスが離脱した時。ライザが事故で死にかけたとき。

 

泣くばかりで何もできなかったタオは、相応に思うところがあった。

 

あの時一番情けなくて、役に立てなかったのはタオだ。

 

だから、家に残されている大量の本を少しでも解読出来れば。

 

そう思って、ますます本の虫になった。

 

そしてそうしている内に、本が本当に好きになった。

 

何代か前に読み方が失伝して、ただの古書になってしまった本。何が書かれているのか、想像するだけでわくわくした。

 

ライザのアトリエに全部移した今は、鬱陶しがって捨てようとする両親の魔の手も及ばない。

 

いずれライザと離れる事があったとしても。

 

本が失われることはないだろうと思うと、本当に有り難い話である。

 

そして、冒険も今はしている。ボオスも一緒に。

 

ボオスはずっと魔物との最前線でやりあっていた皆とはだいぶ出遅れてしまったが。それでもいずれ一緒に戦えるようになる筈。

 

それで充分だ。

 

魔物の処理が終わる。

 

二度、レントが大急ぎでアトリエに戻ったが。その間、タオは宝石や鉱石の鑑定で大忙しだった。

 

いずれ絶対に役に立つから身に付けろ。

 

そう言われて、アンペルさんに習ったのだが。確かにちょっと知っているだけで随分と違う。

 

勿論本職には及ばない。

 

だがアンペルさんによると筋が良いらしい。

 

何でも知識を貪欲に蓄えるタオの頭脳は、とても貴重なものなのだという。

 

だったら、それを生かして行く。

 

戦闘でも、隙を見つけて殴る事しか出来ない。

 

だが、それが大事なのだとリラさんに言われている。

 

だったら、戦闘でも。探索でも。長所を生かす。

 

それだけが、タッパが足りず。戦闘ではどうしても一番弱いタオが出来る、唯一の事だった。

 

「よし、コンテナにしまい終えたぜ!」

 

「いつもお前らこんな事しているのか……?」

 

ボオスがかなりグロッキー気味だ。タオも真っ先に体力が尽きるのだから、あまりああだこうだは言えない。

 

ボオスにライザが薬を渡す。

 

怪しい代物じゃないだろうなとボオスはぼやくが。

 

ライザが作ったものだと分かっているからだろう。それでも躊躇無く飲み干して。そして渋い顔をしていた。

 

「なんだこれ……」

 

「ライザ印の栄養剤。 最近は蜂蜜とか入れて、味をマイルドにしているらしいよ」

 

「マイルドにしてこれかよ……」

 

「僕達が最初に飲んだ奴なんて、地獄のような味だったんだよ」

 

笑顔を引きつらせるボオス。

 

ライザはというと、手を振っている。準備ができたなら、すぐに出立しようという事だ。

 

実際、戦闘での消耗は殆ど無い。

 

ライザにしても、出てくる前にあの爆弾二つをコアクリスタル経由で作ったのだ。魔力以外消耗していないし。その魔力も走り回っている内に回復したのだ。

 

文字通り底無しだが。

 

上には上がいるのを、精霊王をみていて理解出来る。

 

ライザは凄いが、それでも世界最強などではないのである。それも、世界最強には遠く及ばないのだ。

 

それをライザは時々強調していて。タオも、頷くしかなかった。

 

無言で荷車とともに、渓谷を上がる。

 

さっきの鼬の群れを排除した事で、更に先へと進めるはずだ。先に進んでいくと、小川の流れが徐々に激しくなってくる。

 

どうやら何カ所かに、ちいさな滝があるらしく。

 

それで流れが激しくなったりしているようだ。

 

上流に行くほど、遺失物も増える。

 

鎧が殆どそのまま残って、崖に背中を預けて事切れていた。

 

幽霊鎧の可能性もある。

 

慎重に近付いて中を調べて見ると、やはりだ。中身入り。明らかなしゃれこうべが入っているのをみて、皆で黙祷した。

 

何百年も経過しているから、肉は完全に虫とかに食べ尽くされているが。鎧は多少さび付いているくらいで、原型を保っている。

 

或いは、今で言う所の騎士とか、そういう偉い人だったのかも知れない。おなかに大きな傷がある。これが致命傷だったのか。

 

それともライザのみた感応夢の中で起きた大洪水で、死体が此処まで流されたのか。

 

それは分からなかった。

 

「ライザ、彼方此方からみてるよ」

 

「ありがと、クラウディア。 大きめの材木の残骸とか、色々増えてきたね」

 

「どこから何が出てくるかわからねえ。 気を付けろ」

 

「くそ……俺の先祖は、こんな酷い有様だってのに、嬉々として宝を持ち帰ったって自慢していやがったのか。 何が偉大な先祖だ。 ブルネン家の男だ……」

 

ボオスが呻いている。

 

タオは同情したが、今はその暇が無い。周囲に集中。クラウディアの音魔術にも死角がある。

 

探知の隙をついてどこから何が出て来てもおかしくないのだ。

 

巨大な鎧を見つける。人間の背丈の何倍もある。朽ち果てているそれは、全身を滅茶苦茶にされていた。ばかでかい剣も近くに刺さっている。

 

渓谷のもっと下の方にも似たようなものがあった。これはより破損が酷い。

 

アンペルさんが、説明してくれる。

 

「これも一種のゴーレムだな。 古代クリント王国のものか、或いはもっと古い時代のものかもしれない」

 

「そんな古い代物まで、奴らは引っ張り出して来ていたのか」

 

「そうなるな。 フィルフサの群れには、魔術よりも物理攻撃の方がまだマシだ。 だからゴーレムの群れや、生身の人間を、可能な限り兵士に仕立てて戦わせたというわけだ」

 

フィルフサに魔術は効かない。殆ど通じない。

 

アンペルさんの固有のような、かなり特殊な魔術以外はほぼ通じない危険な相手である。それを思うと、タオは何とも申し訳なく思う。

 

この鎧だって、本来はただガーディアンとして、静かにしていられたはずなのに。

 

下手に近付かないようにと、先にアンペルさんに釘を刺される。

 

頷くと、近くを行く。

 

川がごうごうと流れていて。

 

それは、上流から漂着した石材のせいだった。此処で水流がまとまって。もともと大した事がない水流なのに、それが無理にぶつかっているからだ。

 

渓谷は思った以上に続いている。水はやはりちょろちょろとしか流れていないが。この渓谷が無理に精霊王が作ったものだという事を示唆するようにして。

 

流れが兎に角不安定だ。

 

そして上流になると、彼方此方に残骸が見えてくる。

 

馬防柵というのか。

 

資料で見た事がある。木を組み合わせた柵。こんなもの、フィルフサにはなんの役にも立たなかっただろうに。

 

それが必死に並べられた跡がある。

 

兵士達は指示通り、あらゆる手立てを尽くしたのだろう。使い物になりそうもない武器の残骸も散らばっていた。

 

槍やら剣やらを素人が持ったところで。

 

あのフィルフサ相手に勝てる訳がない。

 

それは、実際に「将軍」とやりあったタオがよく分かっている。人間のアーミーの将軍とは訳が違うのである。

 

事実ランバーでも、それほど大した相手でもないフィルフサに相討ちだったのだ。

 

人間が今の何十倍もいた時代。

 

戦える人間は、今ほど強くなかっただろう事は簡単に想像できる。

 

しかも実戦経験も少なかっただろう。

 

そんなに人間がいるなら、魔物だって少なかったのは確実なのだから。

 

「いずれここ、まとめて骨とか回収して、墓地を作るよ」

 

「……そうか」

 

「あたしはクーケン島にしばらくいるつもりだからね。 その間に、できる事はやらないといけない。 その人が、此処の墓所を作る事だと思う」

 

「そうだな。 それが人間として、古代クリント王国の錬金術師と同じにならないためのけじめだろう」

 

アンペルさんが言う。

 

タオはそこまでは割り切れない。

 

ただ、そうやって考えられるライザを凄いとだけ思った。

 

激しい高低差が続く。

 

無理に作りあげた渓谷だ。左右にも、高くなっている場所がある。左右から、弓兵がフィルフサを狙い撃ったのだろうか。

 

効果は知れていた筈だ。

 

そもそも、「将軍」や、それより強いらしい「王種」には、そんなもの気休めにもならなかった筈。

 

当時はまだあった火薬式の武器だろうか。

 

いや、それでも通じないだろう。ライザの全力詠唱による熱槍2500発の直撃を喰らって、「将軍」が平然としていたのを今でも悪夢にみる。あの熱槍は、一発が石造りの家屋を粉砕するほどのものだ。

 

火薬式の武器が如何に強力でも、あの集中投射以上の破壊力が出るとは思えない。

 

「必死の防戦の跡、と言う感じだな。 戦闘が行われたと言うよりも、蹂躙された跡にしかみえん」

 

「その通りだと思うよボオス。 あの異界のフィルフサの数、覚えてるでしょ」

 

「ああ。 あんなものがこの世界に出て来たら、ロテスヴァッサなんか一発で終わりだ。 それを食い止めただけでも、悔しいが当時の連中は技術力があったんだな」

 

頷くと、必死に荷車を時に押し上げ。

 

岩を這い上がりながら、上流を目指す。

 

川の中には、思ったよりずっと大きな魚がいて。ぱくぱくと空中に口を出していた。

 

魚の中には、空気を吸って生きる事が出来る者もいるらしい。

 

そういう魚なのかも知れない。

 

いずれにしても、観察している余裕は無い。クラウディアが、警告してくる。

 

「また何かいる! 気を付けて!」

 

「結構上がって来たと思うんだけどなあ」

 

「渓谷そのものは、もう少しで終わりだよ!」

 

「そっか。 じゃあ、いっちょ仕上げと行くか!」

 

レントが剣を抜く。タオも不平は色々あるが、ハンマーを構える。

 

この渓谷では、殆どエレメンタルは襲ってこない。代わりに出てくるのは、魔物でも獣系統のものばかりだ。

 

今度出て来たのは、ラプトルの群れである。

 

街道近くにたまに出るような雑魚では無い。

 

そして、それらの上空に、かなり大きめのワイバーンもいる。これは厄介そうだと、タオは思った。

 

ラプトルはワイバーンの手下として使われているのだろう。

 

ラプトルという魔物の語源はよく分からないらしいが。見た目が似ていることから、ドラゴンの亜種では無いかと言う説もあるらしい。

 

いずれにしても、このサイズは人間くらいならあっと言う間に骨にしてしまう。

 

倒して行くしかない。

 

一斉に襲いかかってくるラプトルの群れ。

 

ライザが冷静に、ワイバーンに向けてあの強化レヘルンを放り込む。

 

ワイバーンがブレスを吐いて迎撃しようとしたが、それは悪手だった。ライザが即座に強化レヘルンを起爆。

 

それが、向かってくるラプトル達のど真ん中で炸裂したからである。

 

大混乱に陥るラプトルの群れ。

 

視界を防がれて、右往左往するワイバーン。

 

一転攻勢に出る。

 

戦闘は、それほど時間も掛からなかった。

 

 

 

前に戦ったワイバーンとあまり大きさも変わらなかった事もあるだろうか。ワイバーンを比較的楽に倒して、解体を開始するライザ達。

 

タオはヘトヘトだ。

 

右往左往していたとは言え、相手はラプトルだ。奇襲で頭を叩き潰してしとめたが。とにかくタオを集中狙いしてきた。

 

その分走り回らなければならなかったし。

 

ワイバーンを皆が倒すまで、タオは逃げに徹しなければならなかったのだから。

 

疲れたので、石に座って休む。

 

この石だって、下に死骸があるかも知れない。

 

そう思うと、非常に複雑な気分だ。

 

ハンマーをみる。

 

王都でも滅多に出回らない品質のクリミネアを使っているだけの事はある。激しく戦っていても、傷は殆どついていない。

 

だけれども、やはり思うのだ。

 

この武器、リスキーすぎる。

 

タオの頭脳を生かして戦うのには向いていない。いずれ剣を使いたい所なのだが。剣は覚えるのに手間も掛かる。

 

解体から戻って来たリラさんが、肉やらを荷車に積んでいる。そして、めざとくタオの視線に気付いていた。

 

「どうした」

 

「リラさん、僕さ、ハンマー以外の武器を使えるようになりたくて」

 

「戦士としては良い考えだ。 その武器は威力は大きいが、一対多数には決定的に向いていない」

 

「ですよねー」

 

そう。

 

集団戦、それも奇襲限定で効果を発揮する武器なのだ、これは。

 

タオの体格だと、正面切ってハンマーで敵と戦うわけにはいかない。体格の小ささを利用してこそこそと立ち回り。油断した相手を後ろからハンマーで殴る。

 

一芸があれば立派だとリラさんもアンペルさんも言ってくれるが。

 

これでは、誰かを守れないのだ。

 

タオはずっと無力だった。

 

頭はそれなりに回ると周囲が褒めてくれたが、それ以外は本当に何もできなかった。

 

クーケン島に残るなら、多分子供達相手に教師をするしか路は無いだろうけれども。

 

今は、他の道がないかと思っている。

 

腐りきっている王都でも。

 

多分情報というものでは、収束地になっている筈。

 

そういう場所で、色々得られないか。

 

それが今のタオの本音だ。

 

知識欲はどんどん強くなる。

 

タオは他の欲求よりも、知識欲が極端に強い。知識欲が、他の欲求を吸い取っているかのようである。

 

他の男子が、どの女がどうこうと話しているのをみて、うんざりしかしなかった。

 

これは昔からそう。今、一番性欲に振り回される年齢らしい今でも、それは変わっていない。

 

レントですら、性欲についてはたまに困っているらしいのに、それすらない。

 

別に精神修養を積んでいるわけでもなんでもないのに。

 

「一人で戦うつもりなら、槍か剣だ。 魔物相手を想定するなら、槍だと若干力不足になるから、薙刀などがいいかもしれないな」

 

「うっ。 僕には重すぎますよ……」

 

「だったら剣にしろ。 剣だったら、今日帰った後にでも教えてやる。 体力が戻って来たのなら手伝え。 そろそろ精霊王が近い。 「風」が待っていると言う事は、恐らくは例の枷がある。 今回はその場で解析して、爆破してしまいたいものだが……」

 

なるほど。タオに手伝えと言うわけだ。

 

ただでさえ時間が逼迫している状況だ。タオも全力で働かなければならない。

 

タオだって、此処で起きたような悲劇を何度も起こさせる訳にはいかない。

 

だから、少しでも時間を前倒しで稼いでいかないと。

 

それにしても、ワイバーン肉を燻製にしている匂い、すごく良い匂いだ。疲れているから、くらっと来る。

 

後でクラウディアが多分料理はしてくれる。

 

だけれども、おなかが鳴りそうだった。

 

そのまま、手伝いに入る。剥いだ皮とか骨とかを、荷車に積み込む。

 

この荷車ももう少し色々工夫できないかなと思ってしまうが。

 

ライザはそもそも、装甲で既に覆い。おんぼろだった荷車にスプリングなどを仕込んで強化している。

 

更に出来るならしているだろう。

 

タオに出来るのは、文句を言うのではなく、改善案の提案だ。そしてふわっとした提案でも、ライザはそれを形に変えてしまうすごさを持つ。

 

頭が良いとか言われているタオだが。

 

分野の違いがあるだけ。ライザの方が、頭の良さという点では上かも知れない。

 

「タオ、疲れてる?」

 

「うん。 僕が時間稼ぎしたし……」

 

「はいこれ」

 

「……うん」

 

栄養剤を満面の笑みで渡されて、飲むしかない。これがだいぶマシになっているのは知っているが。

 

それでも嬉々としてライザが色々な栄養を突っ込んでいるのを知っているから、どうしても怖い。

 

飲み干すと、一気に体が温かくなるが。味はやはり、美味しくは無い。

 

瓶を返して、そのまま作業を続行。

 

やがて一刻ほど掛かって、再度侵攻できる準備が整う。まだまだ、戦闘用の物資は充分にあるようだ。

 

大きめの段差があって、滝になっている。

 

水が轟々と流れているが、その滝を跳ね上がって越えている魚がいる。おおと、声が漏れる。

 

そういう、滝登りをする習性の魚はいると聞いているが、中々にダイナミックな行動である。

 

間近で見ると、非常に感動的だ。

 

レントもボオスも、同じように感心していた。

 

「知らない事が世の中にはたくさんあるな」

 

「そうだな。 早く鍛えてお前達と一緒に冒険したいものだ」

 

「ボオスだったらすぐに冒険できるよ」

 

「そうだといいがな」

 

ちょっと寂しそうにボオスがする。

 

まあ、それはもういい。

 

とにかく、今は。この先に進む事だ。段差を皆で荷車を担いで、乗り越える。クラウディアも魔力操作が上手になって来ているから、力仕事で役に立てている。というか、タッパがあるぶんタオよりも動けている気がする。

 

羨ましい。

 

這い上がって、みる。

 

其処には大きな台座があって。やはり椅子に座った精霊王が待っていた。

 

そしてその側には、ドラゴンが侍っている。

 

前にライザ達と古城で倒したのより、少し大きい。しかも無傷。

 

ドラゴンは此方を見てかっと口を開いたが、精霊王が待てというと。それだけで口を閉じる。

 

躾けられている、ということだ。

 

精霊王はエンシェントドラゴン並みの実力だとアンペルさんとリラさんが太鼓判を押していたが。

 

それからしてみれば、野良のドラゴンなんて大した相手でもないのだろう。

 

精霊王「風」は、それほど威圧的では無く喋る。ただ、存在そのものが威圧的なだけだ。

 

「来たな錬金術師ライザと仲間の者達よ」

 

「はい、なんとか。 此処が枷ですか?」

 

「そうだ。 我が目覚めたのはつい先ほど……我の感覚でな。 この忌々しい枷も、特別頑強に作られていて時間を掛けねば破壊出来ぬ。 これを壊せるというのなら、頼もうか」

 

「確認させてください」

 

側にドラゴンがいる。

 

それでも平然と近付くライザは、やっぱり肝が据わっている。この辺り、憶病なタオにはとても真似できない。

 

最初、レントやボオスより年少のライザがリーダーシップを取っているのが不思議だった。

 

だけれども、今はそれは当然だったと思う。

 

多少の年齢差なんてものともしない圧倒的な指導者としての資質。

 

それがライザにはある。

 

実際、ブルネンの先代当主は、ボオスとライザの結婚が島を安定させるだろうとまで言っていたらしく。

 

ボオスにその気が無いことを知ると、非常に残念そうにしていたという話だ。

 

今の当主であるモリッツさんは、ライザに苦手意識があるようで。

 

先代の意思を継ぎながらも。

 

もしもライザがブルネン家の嫁になったらと、冷や冷やしているという噂は聞いていた。

 

まあ、分かる。

 

ないと分かりきっているが。ブルネン家にライザが嫁入りしたら、それこそモリッツさんなんてあっと言う間にブルネン家の主導権を奪われるだろうし。

 

ボオスは一生尻に敷かれるだろう。

 

そしてブルネン家は事実上ライザのものとなる。

 

先代はそれも島のため、と判断していたのだろうが。モリッツさんが怖れるのも、タオには分かる。

 

だから、苦笑い。そして、魔法陣の解析に移る。

 

なるほど、そういうことね。

 

メモを取りながら、確認。

 

此処はちょっとかなり危険な場所という事もある。渓谷の入口だったらまだしも、此処を何度も往復するのは避けたい。

 

ましてや前に一度門前払いを喰らっているのだ。

 

出来れば今日中に、渓谷は突破したい所だ。

 

この辺りには、石造りの円形の台座のようなものがあるのだが。それだけではない。石碑も複数が建ち並んでいる。

 

全てのメモを取っていくが。

 

これは厄介だ。

 

どうやら、竜脈から分散して魔力を吸い上げているらしい。

 

石碑の数は六つ。

 

恐らくだが、これは召喚したドラゴンと紐づけていると見て良い。

 

石碑の文言も、古城のものと違っている。

 

竜脈からの吸い上げが文言に混じっている。

 

「ライザ! これ、今までのより厄介だよ!」

 

「うん。 すぐに調査結果回して!」

 

「分かった!」

 

チョークでメモを取る。

 

それにしても、なんだこの非人道的な仕組み。命をモノ扱いするのは色々な意味で間違っている。

 

人間も家畜を飼う。

 

だけれども、家畜を飼う人間は、基本的にそれを粗末にしたりしない。

 

これは捨て駒として、人間以外の命を使うためのシステムだ。

 

こんなもの、許されて良い筈が無い。

 

タオはどちらかというと、技術をみると興味を覚えてしまう方だが。これは最悪の禁術だ。

 

ウラノスさんもそう言っていたが。

 

タオも同意見。

 

やっぱり、古代クリント王国は滅びるべきだったんだとしかいえない。こんな装置を平然と使うなんて。

 

そもそも異界で彼らが行った仕打ちを考えれば、滅びるのは妥当だったのだろうが。

 

六つの石碑は全て同じだ。

 

中心にある円形の石造りの台座にも、文字が多数彫り込まれているが。多数の竜脈関連の文字。

 

更に、蓄積を意味する文字もある。

 

これはまずい。

 

多分だけれども、蓄積があるということは、他よりも竜脈より吸い上げている力が大きいはず。

 

こんな装置を放置していたら、自然にどんな影響があるか、知れたものではない。

 

破壊しないと。

 

タオは急いで全て写し取る。そして、周囲を探して、他にも文字が刻まれていないか確認する。

 

石なども探る。

 

どうも気になるのだ。このサイズの魔法陣である。地底に何か隠されていても、不思議ではないだろう。

 

リラさんに手伝って貰って、石をどける。

 

虫が這い出してきたのでひっと声が上がるが、今はそれすら我慢だ我慢。

 

やはりだ。他にも魔法陣のパーツが埋まっている。ライザとアンペルさんを呼ぶ。

 

アンペルさんは、舌打ちしていた。

 

「これは厄介だぞ……。 タオ、良く見つけたな。 お手柄だ」

 

「いえ、石碑の配置が不自然だと思ったので、それで」

 

「どうにか出来そうか、アンペル」

 

「少し時間をくれ。 ライザと……タオも一緒に解析する」

 

ライザも魔術のスペシャリストだ。タオは当時の言葉を解析することについては、アンペルさんがフリーハンドで任せてくれる。

 

だから失敗できない。

 

周囲に刻まれている文字を解読して行く。何か、致命的な文言を見落としている可能性がある。

 

そうなったらおしまいだ。

 

下手をすると、辺り一帯が吹っ飛ぶだろう。精霊王を拘束できるような「枷」なのである。

 

誤動作なんかしたら、それこそ火山が噴火するのと同じだ。

 

「魔法陣の形状がおかしい! 理論的にこっちになんかないかな」

 

「この辺りか?」

 

レントがすぐに行く。タオもそっちに行って手伝う。

 

クラウディアは音魔術を使って奇襲を常時警戒。冷静に警戒をしてくれるので、非常に助かる。

 

ただこの状況下で音魔術による警戒を続けるのは、非常に消耗が激しいはずだ。

 

こっちをあからさまに非好意的に見ているドラゴン。

 

それに信頼してくれたとは言え、手伝ってくれる気は無さそうな精霊王「風」である。

 

どっちも仕掛けて来たら、それこそ逃げるしか無い。ドラゴンは倒せるかも知れないが、死者が出る可能性は大きい。出来ればやりあいたくない。

 

ライザの指摘通り、石の下から魔法陣が出てくる。非常に頑強で、摩耗している様子もなかった。

 

まだこの様子だと、厄介な仕掛けがあるかも知れない。

 

此処が正念場だとタオは自分に言い聞かせ。頬を叩いて頭を全力で使った。

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