暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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枷を外し。

ついに塔が見えます。


2、峡谷の果て

谷の左右。切り立った道の上に、魔法陣が展開していた。どうも立体的な図形となってこの魔法陣は作られたらしく、タオがそれに気付かなければ見逃すところだった。

 

既に昼を回っている。

 

あたしは干し肉をかじりながら、図面とにらめっこ。アンペルさんが、幾つかの案を出してくる。

 

「竜脈からの魔力の吸い上げを停止するには、魔法陣の一部を破壊するしかない。 だがこの魔法陣は極めて頑強に作られている」

 

「恐らく、破損する事を前提に作ったんでしょうね」

 

「そうだ。 大量の水でフィルフサが流されるような大破壊が起きても壊れず機能するようにしたんだろう。 それほどに精霊王の復讐が恐ろしかったのか、それとも……」

 

「今は心理分析よりも、構造の分析をしましょう」

 

アンペルさんがそうだなと頷いて。クラウディアが出がけに焼いてきたクッキーを頬張る。

 

蜂蜜や小麦が手に入るようになったから、作ってくれたのだ。

 

オーブンも台所にある。熱は魔力を用いて供給するのだが。これは後からあたしが錬金術で作った。

 

何でもお菓子は緻密な計量と精密な温度調節の世界らしく。

 

貴族や豪商なんかが持っている高度なオーブンになると、極めて丁寧な温度調節が可能らしい。

 

勿論ロストテクノロジーで。

 

壊れてしまったら、もう替えはないし、修理も出来ないのだが。

 

それと同等のものを作れたのだから、まあ腕は上がっているのだろう。

 

アンペルさんは甘いモノを黙々と食べて、満面の笑顔。

 

そして、咳払いすると考え込む。

 

「一番厄介なのは此処だ。 収束に関連する文字が八つある」

 

「これらに不具合が生じると、爆発しかねないですね」

 

「そういうことだな。 魔力の供給を絶つにも、複雑に竜脈からの吸い上げのシステムが作られている。 下手な部分を破壊すると、やはり爆発しかねん。 古代クリント王国の連中め、厄介なものを作ってくれやがって……」

 

苛立っているのだろう。

 

荒い口調が出る。

 

甘い食べ物で頭が回るようになっても、必ずしも機嫌が良くなる訳ではないのだとよく分かる。

 

あたしは苦笑いしながら、図形を再確認。

 

三角錐を二つ、交差させるようにして作りあげられている魔法陣。

 

円の台座に書かれている文字は一部に過ぎず、立体構造を取ることで簡単に壊れないようにされている厄介な代物。

 

これを全て破壊するには、まとめて消し飛ばすか。

 

いや、そんな事をしたら、魔力が誘爆する。

 

クーケン島まで破壊が及ぶかも知れない。それでは、本末転倒だ。

 

機能を停止していないから、側に苦しそうなドラゴンがいる。そう。この枷は、ドラゴンを狂わせ、フィルフサを襲わせる仕組みも内包している。

 

非常に厄介な魔術装置だ。

 

錬金術の産物には、こういう複雑な魔術とのミックス品がたくさんある。魔術の上位互換が錬金術だから、それも妥当な話ではあるのだが。

 

ウラノスさんを呼びたいが、そうもいかない。

 

ボオスが図形をみていて、提案してくる。

 

「中心点を壊さないようにして、最小限の労力でこれを破壊しないといけないんだよな」

 

「そうだよ。 ただ正直な話、蓄えられている魔力は膨大だけれども、枷の力そのものはかなり弱まっているみたいだね」

 

「どういうことだ?」

 

「この渓谷を洗い流すほどの崩壊があったから、魔法陣も無事ではすまなかったんだよ」

 

淡々と説明する。

 

魔力的に結びついてはいるが、タオが見つけてくれた魔法陣の一部なんかは、実際に「あるべき場所」からずれていた。

 

それでも稼働していたのは、魔法陣が壊れる事を想定していたこと。

 

それに魔法的に結びついていたから、位置がずれても壊れなかったからだ。

 

「魔法陣を根本的な所で壊すと魔力が暴発すると。 厄介だな……」

 

「無理矢理壊すとね。 ふんわり空中分解するような形に出来るといいんだけれども」

 

「タオ、何か良案はないか? お前、こういうの得意だろ」

 

「今考えてる。 これ、脆そうな構造に思えるけど実際には極めて頑強なんだ。 下手に動かすと、どんな誤動作をするか。 例えばだけれど、こうやって引きはがしたりすれば、そのまま構造が崩壊すると思うけど……無理だよねえ」

 

三角錐を、それぞれ引っ張って離してみせるタオ。

 

それを見て、あたしはすぐに思い当たっていた。

 

時々あたしの頭の中で、こうやって歯車が噛み合うときがある。

 

錬金術をやっている時。

 

難しい調合で行き詰まって、しばらく気分転換していたとき。あたしはどうも、複数の選択肢の中から、正解を探す才能があるらしいのだ。

 

それが、ぴんと来ていた。

 

「それだタオ!」

 

「え、で、でも物理的に無理でしょ? 魔法陣的にも……」

 

「いや出来る。 ちょっと魔力がいるから栄養剤飲まないと」

 

増やすのはクライトレヘルンである。

 

魔法陣の物理的な距離はあまり此処では意味がない。魔法陣の魔術的なつながりを引っ張って、ほどいてやればいいのだ。

 

クライトレヘルンは氷爆弾だが、爆発時に無差別に周囲を凍らせるのを防ぐために、空気を使って冷気を遮断する。

 

その仕組みを使って、魔力ごと遮断してしまえばいい。

 

すぐに四つクライトレヘルンを増産。根こそぎ魔力を持って行かれるが、冷や汗を拭いながら、なんとか我慢。

 

指定の場所に、クライトレヘルンを持っていく。

 

精霊王「風」も、興味深そうにそれをみていた。

 

これを使って、魔力的な観点でつながりを立てば。魔法陣は崩壊。

 

崩壊したところを、魔法陣の心臓部にダメージを与えれば。後は風船がしぼむように、魔力を放出していく。

 

更には、元々ダメージを受けていた魔法陣が根こそぎ壊れる事にもなる。

 

竜脈からの魔力の吸い上げも停止するだろう。

 

手分けして、クライトレヘルンを配置。

 

中心地点に立つと、皆に集まって貰う。もしも爆破の余波でも喰らったら即死確定だからだ。

 

そして、ローゼフラムも配置。

 

準備は整った。

 

まずは、クライトレヘルンを起爆。

 

四つの巨大な氷柱が、同時に起動する。おおと、精霊王が面白そうに声を上げた。側で這いつくばっていたドラゴンが、興味深そうに首を伸ばしてそれをみる。エンシェントにまで成長すると、人間に知恵を授けることもあるらしいが。今の様子を見ると、ただの動物だ。

 

氷柱が、完全に問題の魔法陣の文字を固定し、更に氷漬けにした文字をそれぞれ氷柱が出来る過程でひきはがす。

 

これで魔力が遮断されて、しかも物理的にも魔術的にも隔離された。

 

そして、とどめとばかりに、三角錐二つの接点となっている部分の文字。「接合」の意味を持つ文字を、ローゼフラムで爆破。

 

薔薇の花の形をした爆発が、文字通りその場に咲く。

 

「風」がころころと笑った。

 

「ほう、雅なことだな」

 

「まだ終わっていません。 警戒をしてください!」

 

「うむ……」

 

「風」も、炸裂した大火力の凄まじさは理解しているのだろう。そのまま距離を取り、様子を見る。

 

ドラゴンにも促して、さがらせているようだ。

 

クライトレヘルンで出来た氷柱が、限界を超えた。結果として砕ける。取り込んだ魔法陣の文字ごと、である。

 

一気に魔法陣が崩壊し始める。

 

砕け散ると言うよりも、ほどけ始める。

 

空に向けて、凄まじい魔力が迸り。空にあった雲が文字通り消し飛んでいた。漏れ出す魔力だけでも、この量か。

 

念の為に、詠唱をしておく。アンペルさんも頷くと、同じように。

 

レントやリラさんも、防御姿勢を取り。

 

タオは、ボオスの側に。クラウディアも音魔術を切り替えた。索敵から防御に、である。

 

複数の魔法陣が空に出現。

 

アンペルさんとクラウディアが作り出したものだ。

 

魔力によって作り出した魔法陣だから、それほど強度はないが、最悪の場合の保証にはなるはず。

 

あたしは詠唱完了。

 

いつでも、昔の千倍の火力を持つ熱の槍を十三本、空に向けてぶっ放せる。今のこの熱の槍は、それぞれがクーケン島の一区画を灰に出来るかも知れない。それくらいの火力である。

 

だが、それを悪用するつもりはない。

 

威力も一点に収束させる。

 

大量虐殺が目的ではないからだ。

 

古代クリント王国の者達が、竜脈から搾取した魔力が、空に拡散して消えていく。既に魔法陣の魔力吸い上げの機能は失われていて。枷も外れているはずだ。空に多数の大型の魔物が集まってくるが。

 

これは膨大な魔力に興味を惹かれて、寄って来ただけだろう。

 

空を飛んで回っているだけで。

 

たまに集蛾灯に焼かれる蛾のように。

 

魔力に消し飛ばされてしまう者もいた。

 

可哀想だが、仕方が無い事だ。それに、魔力の漏出は、徐々に収まっていく。

 

冷や汗を拭う。

 

もう少しだ。

 

最悪の場合は、全ての魔力を使い果たしてでも惨劇はとめる。

 

それが、古代の錬金術師の罪業を知った者として。

 

最低限やらなければならない事。

 

過剰蓄積されていた魔力が、やがて不安定になっていく。

 

風船がしぼんでいくと、どんどんひょろひょろになっていくように。

 

魔力の漏出も、方向が定まらなくなってきた。危険を察知したのか、魔物が逃げ始める。要領が悪い魔物が焼かれたりするが、それはもうあたしにはどうにもできない。

 

「アンペルさん! クラウディア!」

 

「分かっている!」

 

「うん!」

 

全力で二人が防御陣を展開。

 

あたしはフルパワーで魔術をぶっ放す。熱の槍十三本が、続けて飛んでいく。

 

それらが、此方に僅かに向いた魔力の流れを、文字通り消し飛ばす。渓谷には近づけさせない。

 

レントが必死にパリィの態勢を取り、リラさんが周囲に目を配ってそれでも身を守る姿勢を取っている。

 

あの魔力の凄まじさは、肌で感じるからだろう。

 

自信はあったんだけどな。

 

まだ理論通りにはいかないよな。

 

そう思いながらも、必死に膨大な魔力の漏出余波を吹き飛ばし。空に拡散させる。何度か大爆発が起きたけれども。

 

被害は誰も出さなかった。

 

やがて、魔力の漏出が目に見えて小さくなっていく。

 

魔法陣に蓄えられた魔力が、勢いよく噴き出していた状態が。ゆっくり拡散していく状態に変わったのだ。

 

呼吸を整える。

 

クラウディアが差し出してきた水差しを口に含んで、ごくごくと飲み干す。かなり厳しい状態だった。

 

まだ呼吸が荒れる。

 

フルパワーで魔力をひねり出すと。やっぱりどれだけ魔力量が上がっていても、どうにも疲れるものだ。

 

むしろ戦闘時に、脳内物質だかがドバドバ出ているときだったら。もう少し楽かも知れないが。

 

ともかく、これで片付いた筈だ。

 

それでも、しばらく様子を見る。魔力の漏出が、完全にゆっくりに移行したタイミングで。

 

精霊王が、拍手をしてくれた。

 

ドラゴンが、大きく翼を羽ばたかせて、飛んでいく。

 

恐らく人里を襲う事はないだろうとは思う。

 

ドラゴンにも色々いて、人里を襲うような奴もいるが。あれは精霊王の言う事を聞いていたし。

 

それに途中からは興味深そうに此方がやる事をみていた。

 

多分、人を無為に襲う事はないはずだ。

 

腰が抜けそうなほど疲れた。栄養剤を口に含む。それでも、全身の脱力感が酷い。それに、安全にいけるはずだったのに。結局事故が起きかけた。

 

まだまだだ。

 

そう思って、自分を戒める。

 

変な自信なんて持たない。実力に応じた、自己評価をする。

 

そう戒めながら、精霊王に無理矢理笑顔を向ける。

 

「これで枷は消えたはずです。 確認してください」

 

「うむ。 我はこれよりフィルフサどもの迎撃の準備に入る。 塔へはもはや障害はない。 好きにするが良い」

 

「有難うございます」

 

「此方こそ感謝する。 忌々しい枷が外れて、少しは気楽になった。 元々星の都にて作られた身とは言え、今は自我もある。 これ以上、彼奴らの好き勝手にされてたまるかという気持ちもあったからな。 認めよう。 お前達は、古代クリント王国の者達とは決定的に違う。 ゆめ、その道を踏み外すなよ」

 

「風」の気配がなくなる。

 

座り込むと、しばらく無言になる。

 

そんなあたしに、誰もしばらくは、何も声を掛けてこなかった。

 

 

 

二時間ほど休んで、それから動き出す。

 

更に渓谷の上に上がっていくと、明らかに加工された状態になっていた。半ば崩れてしまっているが。

 

それでも、更にはっきりと柵やらの跡が残されている。

 

それに、これは段差か。

 

なるほど、段差を作って、多分効率よく火力投射を行い。更には、フィルフサの侵攻を段差で多少とも遅らせようとしたんだ。

 

それが分かる。

 

彼方此方に、大きな池が出来ている。

 

戦闘の余波で出来たんだろうな。そう思うと、あまりじろじろみようという気にもなれなかった。

 

「ボオス、一度戻るか?」

 

「いや、この様子だとお前達、今日は塔まではいかないつもりだろう?」

 

「状況次第だけれど、そろそろ引き上げるかな」

 

「少なくとも今日は最後までつきあうぜ。 話以上にヤバイ橋を渡っている事が理解出来た。 帰ってから、父さんに説明はしておく。 本当に色々とまずい状態だった、ってな」

 

頷く。

 

ボオスはもう、昔のボオスだ。

 

タオとも話を普通にしている。

 

タオが一番虐められていたのに、それなのに気にしている様子がないのも良い事なのだろう。

 

あれだけ色々あったのに、ボオスを許せるのはとても器が大きいことだとあたしは思う。多分だけど、タオは憶病を克服できれば。この中では、錬金術を除けば一番出世出来るかも知れない。社会的な意味でではなく、歴史的な貢献という意味でだ。

 

あたしは錬金術ありきの力だ。

 

人間力だと、タオに負けそうだなとちょっと今でも思っている。

 

自己評価が非常に低そうなタオだが。レントも実は、タオがいないところで凄い奴だと何度も褒めていた。

 

ボオスも、それは同じように認めているようだった。

 

「これ、大砲かも知れない」

 

「ああ、火薬兵器の祖と言われてる奴だな。 原型のまま残っているのか」

 

「そうなるね。 だけど……ああ駄目だね。 多分使い過ぎて壊れたんだ」

 

タオが、ボオスに説明をしている。

 

あたしは形状をみて、どう使うのかはすぐに理解した。筒状の形をしていて。火薬で玉を撃ち出す仕組みか。

 

この形状だと、玉は恐らく球体ではなく筒状か或いは漏斗状か。

 

それを炸裂させて、相手にダメージを与える兵器だったのだろう。本来は大きな定点目標などに使うものだったのだろうが。

 

フィルフサの群れに焼き付くまで叩き込んで、それでもとめられなかったと言う事だ。

 

覚えておく。

 

メモを取ってもあんまり役に立たない。

 

これの形状を使って、色々作れるかも知れない。

 

今、水を圧縮してばらまく錬金術の道具を考えている。農作業でも使えるだろうし、水の量次第ではフィルフサに大きなダメージを与えられる筈だ。

 

この大砲は、火薬で玉なんか打ち出すんじゃなくて、水をぶっ放すように錬金術師が改良していれば。

 

或いはフィルフサに、大砲だったときよりも大きなダメージを与えられていたかも知れない。

 

まあ、改造している時間なんかなかったのかも知れないし。

 

あたしの知った事じゃない。

 

もしもこれを一般のアーミーの戦士……兵士か。それが使っていたのだったら、気の毒だなと思う。

 

それだけである。

 

段差は階段でつながっているが。そもそも地形そのものがフィルフサの凄まじい突撃で崩壊している。

 

何百年か掛けてそれも崩れ果て。

 

今では、急勾配の坂が幾つも出来ている、というような状況になっていた。

 

それでも水は彼方此方を通っていて。

 

水たまりも彼方此方にある。

 

其処には当然生き物が住んでいて、独自の生態系が作られている。

 

愚かしい古代クリント王国の錬金術師と違って、生物は逞しいんだな。そう思って、あたしは感心する。

 

ひょっとしたら、だけれども。

 

異界も何千年かしたら、フィルフサのいる世界で平然と生きていける生物が繁茂するのかも知れない。

 

ただその過程で、既存の生物は滅びてしまうだろう。

 

やはり、フィルフサは排除しなければならない。それは、事実としてあった。

 

クラウディアが足を止める。

 

それで、皆一斉に周囲を見回す。

 

クラウディアの音魔術の探査は、非常に精密だ。気配を消している相手も、形などから察知できる。

 

遠くになると届かない場合もあるが、それでも近場だと、地形関係無く察知してくれるから。奇襲は少なくとも防げる。

 

口から笛を外したクラウディアが、皆を見回した。

 

「どうやら、ついたみたいだよ」

 

「魔物ではなさそうだな」

 

「魔物はいるけれど、こっちに積極的には襲ってこなさそう」

 

「そうか……」

 

一瞬だけ、気が抜ける。

 

だが、すぐに気を張り直す。

 

「みんな、あと少し! 荷車押して!」

 

「さっきの魔法陣との格闘の後だと、ちょっと厳しいよライザ……」

 

「弱音を吐くなタオ。 力が足りない分は俺たちで補うからよ」

 

「そういうことだ。 一度、塔を間近で確認しておくんだよな」

 

ボオスもそう言って、荷車を押してくれる。あたしは頷くと、みんなでひとかたまりになって、最後の段差を抜けていた。

 

おおと、声が上がる。

 

其処にあったのは、塔だ。

 

遠くから見えているくらいだ。巨大な建造物であるのは知っていた。だが、これほどまでとは。

 

すぐ側に塔があるのではない。

 

周囲は窪地になっていて、塔には石で桟橋が作られている。

 

周囲にはかなりの数のエレメンタルが彷徨いているようで。中には上位の種もいるようだった。

 

彼方此方に生えているのは、見た事も無い草だ。

 

彼方此方にある大きな骨。

 

あれは多分、ドラゴン以外にも古代クリント王国が繰り出して、フィルフサとの戦闘で果てた生物の亡骸だろう。

 

それがどんな生物だったのかは分からない。

 

塔は入口付近が大きく破損していた。フィルフサが文字通り、こじ開けて中に入ったのだろう。

 

入口付近は崩落もしていた。これは恐らく、戦闘の跡だ。

 

必死にもみ合いながら、人間が。多分錬金術師以外の戦士達が、愚行のツケを払わされたのだ。

 

此処でもたくさん死んだんだろうな。

 

そう思うと、思わず襟を正す気分だ。今着ている服に、襟はないが。

 

「レント、どう?」

 

「俺の目標だった塔だ。 だけど、一度辿りついてしまうと……あっけないもんだな」

 

そう。

 

レントは禁足地の奥にあるこの塔に来るのが目標だった。当座の目標は、これで達成出来た事になる。

 

だが、戦いの中で、そんな事はどうでも良くなるくらい大きな出来事に巻き込まれたのである。

 

今更、最初の目標なんてどうでも良くなった。そしてそれは、恐らく良い意味での成長だろう。

 

そうあたしは判断して、レントは大きくなったんだなと感心した。

 

クラウディアが、手をかざして塔をみている。

 

「何か分かりそう?」

 

「うん。 みて、塔の彼方此方、穴が開いているよ」

 

「本当だ。 あの中から水を出して、フィルフサをみんな押し流したんだったら、それは当然の結果なんだろうね」

 

タオが付け加えてくれる。

 

確かにその通りだ。

 

そして、塔の中から、強い気配がある。それはあたし達にとっくに気付いている筈。呼びつけるわけにもいかない。

 

更には、話に聞く精霊王「土」であったのなら。それはあまり此方に好意的では無い可能性も高い。

 

今日は、ここまでだ。

 

丁度陽も暮れ始めている。あたしはそう判断していた。

 

「撤退します。 明日はまた朝一で、この渓谷を突破しましょう」

 

「分かった。 ライザに前線指揮の判断は任せている。 そうしてくれ」

 

「妥当な判断だ。 周囲の魔物の戦力といい、今の状態で此処から先に行くことは勧められない」

 

アンペルさんとリラさんが、それぞれ同意してくれる。

 

とりあえず、此処まで来られた。

 

帰路、さっきの急勾配にあった邪魔な石などは全てどけておく。前に作ったフラムつきの爆破ハンマーで、幾つかの邪魔な大岩は砕いてしまった。

 

崩れそうな斜面には、先に熱の槍を叩き込んで、爆破しておく。

 

フラムを使うまでも無い。

 

そうやって先に崩しておいて、崩落に巻き込まれるのを避ける。勿論池などが埋まらないように、細心の注意を払う。

 

皆で石をどけて、今度来る時はスムーズにいけるように道を整備する。何カ所かで、持ち込んでおいた建築用の接着剤も使って固定。

 

これがと、ボオスが驚いていた。

 

話には聞いていただろうが、それでも間近で見るのは初めてだろう。接着後の強度や、更にはめだたなさ。更には柔軟性もみて、更に驚いていた。

 

「ブルネン家として、幾つか修理してほしい場所に使いたいな……」

 

「それはモリッツさんと相談してよ。 ボオスの独断でやると色々と面倒だろうしね」

 

「ああ、分かってる。 ……思っていた以上に凄いな錬金術は。 いや……」

 

ボオスはそれだけ言って、言葉を切る。

 

まあ、あたしが凄いと言おうとしてくれたんだろうが。

 

あたしもこんなところで調子に乗るつもりはない。

 

仮にそう言われても困るし。

 

今のは、忘れる事とした。

 

これで、塔へいける。

 

レントが目標としていた土地。そして、内心あたしも行ってみたいと思っていた場所。

 

そして、何よりもだ。巨大な塔を見た時。これが戦争に使われていた事が分かっても。わくわくがどうしてもあった。

 

それは否定出来ない。勿論不謹慎だという気持ちもあるが。

 

それと同時に、確実にこう思った。やっぱり、冒険をしていてよかった、と。

 

土木作業が終わったら、帰路を急ぐ。禁足地を抜けた頃には、陽が落ちていた。レントに、ボオスを送って貰う。

 

後はアトリエに戻って、明日のための準備だ。連日、殆ど余裕が無い。それでも、ちゃんと食事を取って風呂には入るように。出来るときにはそれらはやるように。アンペルさんに、厳しく言われた。

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