暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

69 / 110
3、凶星

目が覚めて、起きだす。クラウディアも起きだしていた。

 

おはようと、挨拶する。

 

ちょっとふにゃふにゃな様子でクラウディアが笑顔を浮かべて。そのまま落ちそうになりながらも、着替えを始める。

 

あたしも淡々と着替えをして、それで外に出て軽く体を動かした。

 

朝の台所は、クラウディアの場所だ。

 

邪魔をするつもりはない。

 

あたしも料理は出来るけど、あくまで最低限。それに、料理をする時間を、体の調整と、錬金術に使う。

 

それが役割分担というものだ。

 

レントとタオも起きだしてきたので、庭を譲る。

 

リラさんは元々殆ど眠りが必要がない事もある。特にタオに色々教えるためだろう。試験的に作った剣を手に、庭に出て行った。

 

今のうちに、ゴルディナイトの解析をする。

 

鉱石が限られているから、あまり無茶は出来ないが。幸い今の実力なら、解析してからエーテルから取りだして、元のように復元は出来る。黙々と解析していて、やはり結論出来る。

 

これは元のままでは無力な鉱石だ。

 

例えば、魔力の動力源とかに使うのならそれはいいのだが。それだったら別に魔石やら宝石やらでもいい。魔力の内在量は大きいが、伝達率が低いから、引き出す事があまり上手にできない。

 

それに強度が低い。

 

これで剣を作っても、ぴかぴかになるだけで、すぐに折れるだろう。そんなものは、作る意味がないのだ。

 

そこで、幾つかの鉱石を混ぜ合わせながら、様子を見る。

 

そもそも「鉄」と一般的に言われているものが、炭素によって強力に強度を高めた「炭化鉄」。つまりは「鋼鉄」であり。「良い鉄」と言われているものは、「鋼鉄」として優れているもの。

 

それをアンペルさんから講義されて知った後は。

 

合金を作る事にあまり抵抗はない。

 

伝説的な金属は幾つかあたしでも知っている。ミスリルだのアダマンタイトだのダマスカスだの。

 

これらについては、実際に調べて見ると。殆どがただの鋼鉄だったり、過大評価された何かしらの合金だったり。或いは加工方法が原因で、独特の形状や模様が浮き出るようになった鋼鉄だったり。単に古くにブランドとされていたものが、一人歩きして伝説になったもの。

 

そういうものであるらしい。

 

それも知っている今としては、合金とすることに特に抵抗はない。

 

どんどんゴルディナイトと色々混ぜていく。

 

それも厄介な事に、どんな風に混ぜると強くなるかが、どうしても分からないのが金属というものだ。

 

幸い錬金術でのやり方だと、溶鉱炉なんて危ないものを使わなくても、それぞれきっちり合金として。

 

しかも溶鉱炉を使うよりも高精度に仕上げられる。

 

魔術の上位互換なだけではない。

 

多分既存のテクノロジーに対しても、錬金術は上位互換だ。本来だったらこの研究だって、片手間に出来るものではないだろう。

 

近場で採れる鉱石を色々放り込んで、混ぜながら試行錯誤する。

 

そうしている内に、本来は役にも立たない柔らかい鉱石を混ぜ合わせると、ゴルディナイトが途端に強靭になる事を見つける。

 

これは、まさか。

 

そう呟いて、すぐにインゴットにして見るが。まだクリミネアの方が強靭だ。無言で、すぐにエーテルに溶かす。

 

これはそもそも、同じ鉱山で採れる鉱石だ。或いは。

 

混ぜていると、ご飯だよとクラウディアが声を掛けて来る。

 

一旦作業を中止して、ご飯に行く。

 

昨日狩ったワイバーン肉を豪華に使ったパイだ。しかも味がしつこくならないように、ハーブを上手に使って爽やかな味に仕上げている。

 

これは、美味しい。

 

肉も燻製にした事で煙の旨みがしみこんでいて、肉汁がパイ生地にしっかりあっている。普通にお店で食べるものよりも、良い感じだ。

 

ただこれは、ワイバーン肉なんてまず普通では手に入らないお肉を使っている事もあるのだろう。

 

「うまいな。 此方の世界で唯一オーリムよりもいいものは食文化の緻密さだが。 これはなんぼでも食べられそうだ」

 

「リラさんのお墨付きか……」

 

「うふふ、まだ焼いてあるから、しっかり食べてくださいね」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

ぱくぱくと食べるリラさん。

 

オーレン族の食生活は様々だそうで、氏族によってかなり違うという話は以前聞いた。もしも別のオーレン族と出会うときがあったら、食生活については先に聞いておく方が良さそうだ。

 

リラさんは、少なくともクラウディアの料理が口に合う。

 

皆も口数が少なくなっている。パイは三枚ほど焼かれたが、みんなすぐに綺麗に皆のおなかに消えた。

 

昼食用の保存食を幾つか作っておく。その後は、トイレを交代ですませる。

 

出る前に、アンペルさんに聞かれた。

 

「ゴルドテリオンの状況はどんな様子だ」

 

「今色々試していますが、やっぱり合金ですね。 一度かなり硬度を上げることには成功しましたけれど、まだクリミネアには及ばないです」

 

「うむ、やはりな。 文献などで分析する限り、恐らくは純粋な鉱石を使うものではないと思っていたが。 いずれにしても、簡単ではないだろう。 腰を据えて当たってくれ」

 

「はい!」

 

エーテルをジェムに変えて、コンテナに放り込んでおく。

 

まあ多少朝に調合をして消耗したが、このくらいは軽いジョギングと同じだ。ほぼ消耗していないに等しい。

 

よし、此処からだ。

 

伸びをすると、みんなに出る事を伝える。

 

今日も、前線指揮はあたしだ。

 

また、渓谷に挑む。今度はただ通り過ぎるために。

 

魔物がわんさか出て来るような事がなければ、午前中、それも比較的早い時間に塔にたどり着ける筈だ。

 

塔の内部、周辺にはかなり強い魔物がいるのは確実。

 

そしてあまり此方を良く思っていない精霊王「土」が、いつ仕掛けて来るかも分からない。

 

装備は連日少しずつ更改している。

 

みんな技量は確実に上がって来ている。

 

それでも、精霊王との力の差は、まだ大きいのだ。

 

絶対に油断だけは、してはいけなかった。

 

幸いなのは、レントが塔にたどり着いたことで、舞い上がってしまうのでは無いかと言う懸念が。杞憂に終わったことか。

 

レントは想像以上に冷静で、すぐに正気に戻ってくれた。

 

荷車を引いて、出る。

 

この荷車も連結した二段式にするか。

 

ゴーレムを研究して、自動で動くようにするか。

 

今のうちに、研究を進めておくべきだろうなと、あたしは思った。

 

 

 

渓谷は驚くほど静かだった。

 

昨日、仕掛けて来るような魔物は駆除した、という事もある。鼬を皆殺しにしたわけではないから、いずれ別の群れが居着くかも知れないが。

 

それはそれとして、しばらくは安全だろう。

 

ゴーレムももう姿はない。

 

途中で襲われる事もなく、駆除した事によって作られた時間。開いた道を使って、どんどん奧へ行く。

 

更には、精霊王は此方を信頼してくれた。それも、「風」、「火」、「水」がだ。

 

あれら精霊王は、きっと普通の人間よりずっと義理堅い。考え方は人間と違うだろうが。それ故に信頼も出来る。

 

ドラゴンも、狂気から救えた。

 

もしも今後人間を襲うようなら、その時は排除しなければならないが。

 

少なくとも此処で。

 

狂気に捕らわれ、人間の走狗になるドラゴンはもういないし。

 

何よりも、それで暴走した挙げ句、意思に反して人間を襲うこともないだろう。

 

無言で渓谷を行く。

 

昨日調べている間に、左右の高くなっている通路も調べて見た。酷い有様だった。

 

点々としている中身入りの鎧。

 

思わず、目を背けたくなる惨状だった。

 

戦闘が終わった後は、鴉がさぞやたくさんこの辺りで飛び回り、腹を満たしたことだろう。

 

全て、愚行のツケを代わりに払わされたのだ。

 

そう思うと、やりきれなかった。

 

昨日壊した「枷」を確認。完全に沈黙している。再起動の可能性もない。

 

念の為、確認。クラウディアには、周囲の警戒に当たって貰った。

 

「よし、沈黙してる。 再起動は、重要な魔法陣のパーツがないし、あり得ないよ」

 

「よーし、これで後は一つか、二つか?」

 

「わからない。 でも、いずれ全部壊さないといけないだろうねこんなもの。 技術に対する侮辱だし、命に対する冒涜だよ」

 

「そうだな」

 

タオの義憤を、アンペルさんは好意的にみてくれているようだ。

 

或いは、何か理由があるのかも知れない。

 

知識欲が強くて、それが先行する傾向があるタオである。そんなタオが、此処まで怒るのは。あたしもあまり見た事がない。

 

いや、そんな機会がなかっただけか。

 

冒険冒険いっておきながら、きっとあたし達はやっぱり狭い世界にいただけだったんだ。

 

そう思うと、こうしているのには意味がある。

 

そう思って、確認を終える。

 

「行くよ、いよいよ塔に」

 

「昨日ボオスに聞いたんだが、ピオニールとかいう名前が付けられているらしいな」

 

「それは僕も知ってる。 でも、なんでだろう」

 

「さあな」

 

まあ、多少の雑談は良いだろう。

 

昨日崩して進みやすくした急勾配を抜けると、もう塔だ。そして、塔に掛かる桟橋。下にはかなりの数の魔物。

 

桟橋は比較的無事だが、やはり彼方此方破損している。フィルフサの群れが、なんでもかんでも踏み砕きながら進軍したのだろう。そしてこの橋の上でも、やはり戦闘が行われ、多くの人が亡くなった。

 

それは痕跡からも明らかだった。

 

「ここも……たくさん鎧や人骨の残骸が散らばってる」

 

「ごめんなさい。 通ります」

 

クラウディアが、周囲にわびる。きっとあたし達の到来を恨む人はいないと思うけれども。

 

あたしも黙祷はしていた。

 

桟橋の左右から、下に降りられる。階段もあるが、酷く傷ついていた。多分だけれども、フィルフサの群れが何もかも蹂躙しながら、下にも展開したのだろう。奴らは文字通り、死ぬまで止まらないのだ。

 

これを見ていると、被害規模に戦慄する。

 

異界でキロさんが抑えてくれている凄まじい規模の一群は百万を超える数だ。それがこっちに来たら、もう手に負えない。

 

もしも手に負える策があるとしたら、あのブルネン家の水の玉だが、あれを破壊したりしてフィルフサを押し流すのには反対だ。

 

古代クリント王国の連中と同じになる。

 

そうならないために急ぐのだ。

 

「下にかなり強い魔物がいるぜ。 早めに片付けないとまずいと思うがどうする」

 

「……安全確保しながら、確実に進もう。 敵意がある魔物は片付ける。 そうでないのは、相手にしない。 いいね」

 

「了解だ」

 

階段から、荷車を押すようにしてさがりながら下りる。階段をまた上がるのは大変だが、大物の魔物は際限なく湧いたりしない。片付けておけば、後が確実に楽になる。

 

レントが剣を構える。リラさんも態勢を低くした。

 

来る。

 

地面を泳ぐようにして来たのは、前に島に来た外洋の魔物の亜種か。魚のようなのに、陸で平気で泳いでいる。

 

さいわいあれほど大きくはないが、それでもかなりの偉容だ。人間なんて、一口でぱくりだろう。

 

それが複数迫ってきているのが見える。

 

どうやら、手加減も容赦もしている余裕は無さそうだ。

 

それだけではない。

 

巨大な魚のような魔物の上に、飛来してくるのはエレメンタル。それも、かなりの大物のようだ。

 

エレメンタルは成長するとどんどん大きくなるだけではなく、服などの飾りが豪華になっていく。

 

特に「角飾り」と言われるものを頭につけるようになったエレメンタルは要注意らしく。それについては、アガーテ姉さんから教わっている。

 

そんな角飾りを見せびらかしながらこっちに来るエレメンタル。それも一体ではない。

 

桟橋を降りて正解だった。今戦う方が、集中砲火を喰らうよりはマシの筈だ。

 

「前衛で足を止めて! 一体一体集中攻撃する!」

 

「分かった! 任せろ!」

 

「長くはもたないぞ!」

 

「はいっ!」

 

まず狙うのは、空を飛んでいるエレメンタルだ。あの大きさになってくると、広域攻撃魔術を使いかねない。

 

ハンドサインを出して、集中狙いする一体を指示。

 

後退するにしても、後ろは坂。辺りを逃げ回るにしても、地の利は敵にある。あまり有利な状態とは言えない。

 

こんな状況だから、だからこそに踏みとどまる。

 

あたしは投擲する。最初に投げるのは、シュトラプラジグだ。激しい雷撃が、詠唱を早くも開始していたエレメンタルの一体を直撃する。

 

悲鳴を上げてきりきり舞いして落ちていくエレメンタル。

 

地面にいた大きな魚のような奴にも、雷撃が被弾。

 

巨大な魚が反る。

 

今ので倒せたかは分からないが、確実に手数を減らせた。クラウディアが、巨大な矢を別のエレメンタルに叩き込む。

 

それを手で弾いてみせるエレメンタル。

 

流石だな。でも。

 

その手が、アンペルさんの空間魔術のエジキになって、半ばから吹っ飛んでいた。

 

再生をしようと手に集中しているエレメンタルが、即座に氷漬けになる。

 

防御から意識を逸らした瞬間に、あたしがクライトレヘルンを放り込んだのである。氷柱の中で、それでも砕けなかったのは流石だが。

 

氷を内側から砕いた瞬間、クラウディアの第二矢がそのエレメンタルを撃ち抜き、地面に叩き落としていた。

 

前衛ではタオも加わって、三人で猛烈な突貫を掛けてくる魚の巨体を弾き返している。レントも既に安定してパリィを成功させられるようになり。

 

リラさんは、比較的余裕を持って巨大な魚の突撃を捌いている。

 

タオは隙を見て目を狙ったり腹を狙ったりして、以前の交戦経験を生かしている。次。エレメンタルはまだ二体いるが、今の大火力攻撃をみてすこしさがる。だったら、前衛を叩くべきか。

 

いや、まて。

 

後方で、エレメンタル二体が同時に詠唱を開始する。

 

まずい。あれは恐らく重詠唱という技術だ。

 

二体同時に詠唱を行い、威力を何倍にもする凶悪な技術で。エレメンタルの魔力でそれをやったら、辺りが文字通り更地になりかねない。

 

エレメンタルからして見れば、長い目でみればそれでいいのだろう。この窪地、彼方此方に水が溜まっていて、水はけが露骨に悪い。だったら更地にするのも別にかまわないというわけか。

 

巫山戯るな。

 

長い目で見るというが、そんな理屈をいま生きている生物に向けられても困る。

 

「クラウディア! 詠唱阻害を!」

 

「分かった!」

 

「ライザ!」

 

「!」

 

最初に叩き落としたエレメンタルが、いつの間にか右後ろに回ってきていた。前衛を迂回して、地の利を生かして行動してきた、というわけだ。

 

だが。

 

あたしに、至近距離から魔術を叩き付けようとしたそのエレメンタルは。

 

むしろ懐に入ってくれたあたしには、好餌だった。

 

足をフルスイングして、回し蹴りを叩き込んでやる。

 

魔力で強化した身体能力、更には元々切り札として鍛えている蹴り技だ。文字通り形が変わる程の衝撃を受けたエレメンタルが、顔面から近くの崖に突っ込み。ドカンと音を立てながら、粉々に砕けていた。

 

もう一体、忍び寄っていたが。仲間の末路をみて、身じろぎする。

 

その下に踊り込んだアンペルさんが、両手をさっと巡らせる。同時に、体を四つに切り分けられたエレメンタルが、鮮血を噴き出すこともなく。そのまま、砕けて消滅していく。

 

人型をしているとはいえ、エレメンタルは人間とは全く違う。

 

もしもこれらも、「星の都」の民とかいう存在だとしたら。

 

一体これらは。正体はなんだ。

 

ともかく、次だ。

 

奧で重詠唱している二体のエレメンタル。もしもあれが完成したら、大打撃程度では済まないだろう。

 

躊躇無くあたしはローゼフラムを放り込む。

 

「枷」破壊用では無く、戦闘用に調整したものだ。

 

それに対して、敵は詠唱速度を加速。そして、爆発と同時に、ローゼフラムの火力を迎え撃っていた。

 

熱量と光が、苛烈にぶつかり合う。

 

余波を浴びて、前衛で暴れ狂っていた巨大な魚の魔物が悲鳴を上げて跳ねる。魚が悲鳴を上げるというのも変な話だが、そうなのだから仕方が無い。

 

レントとリラさんは、敵を盾に上手に防いでくれているが。

 

あのレベルの魔物の重詠唱だと、ローゼフラムも打ち消してくるのか。

 

だが。

 

あたしはその間に詠唱を完了。完全に詠唱しきった訳ではないが、相手はすぐに態勢を立て直してくる。これでやるしかない。

 

魔物達が、ローゼフラムを完全に防ぎ切った瞬間。上空に四つの熱の槍が出現していた。

 

勿論、エレメンタルも今の重詠唱をもう一度即時でやる余力は無いはずだ。

 

「いっ、けえええっ!」

 

投擲する四本の熱の槍。それぞれが以前の千本分の火力。それを超圧縮した破壊の権化そのものだ。

 

一体は首から胴体に掛けて串刺しになり、その場で崩れて消える。

 

もう一体は逃れようとするが、それをホーミングした二本の槍が追う。それでも必死にシールドを展開して来るのは流石か。

 

一本の槍を、それで食い止めてみせるが。

 

もう一本が、脳天から股下へと突き抜けていた。

 

シールドが崩れて。二本の火力が交差するようにして炸裂する。

 

エレメンタルが文字通り消滅する中、十字の烈光が、辺りを煌々と照らした。

 

呼吸を整えながら、次と呟く。

 

前衛にいた大型の魚の魔物は、形勢不利とみたか。撤退に入ろうとする者が一体。あれは、残念ながら追い切れない。

 

まだ暴れ狂っている数体を、確実に仕留めなければならない。

 

別にあれはいい。

 

ここにずっといた魔物だったら、恐らく人間の血肉の味は知らない。むしろ人間の恐ろしさを思い知らせたのだから、長期的にみれば+だ。

 

前に来たと言うブルネンの当主は、きっとあれらの魔物から身を隠しながら、こそこそとこの辺りを探り回ったのだろう。

 

「レント、リラさん!」

 

二人の名前を叫びながら、ローゼフラムを投擲する。

 

二人は即座に飛び退く。

 

二人が守っていた地点に殺到する魔物が、折り重なり。其処に、ローゼフラムが炸裂していた。

 

香ばしい香りが、ここまで来る。

 

ローゼフラムの爆発が収まった後には。

 

良く焼けた魚の魔物の死骸が複数。そこに動かなくなっていた。

 

急所は熱で蒸発し。それ以外の場所は余熱で焼けたのだ。大半は黒焦げになっていたが。それでも、食べられそうな場所がある程度残っていた。

 

 

 

魚の肉の食べられそうな部分を切り分けて、皆で食べて処理する。残りは燻製にしておく。

 

少し悩んだが、燻製にした分は何度かに分けて持っていく事にする。てきぱきと作業をしないと、魔物が囓りに来るだろう。

 

塔までの道はこれで切り開いた。

 

今の時点では、「土」の精霊王が仕掛けて来る様子もない。ただ、強い魔力はびりびりと感じる。

 

きっと今の戦闘だって、見ていた筈だ。

 

辺りを確認する。

 

さっきの大型の魚の魔物は逃走したようだ。戦闘の余波でのダメージは、塔には入っていない。

 

辺りの地面や自然へのダメージも最低限。

 

ため息をつく。

 

多分、今日はこれで限界だ。

 

ただ塔に入る前に、やれることはやっておきたい。辺りには虹色の結晶が幾つもある。調べて見ると、かなり珍しい鉱石が結晶化しているようだ。これは、似たものを火山でみた気がする、

 

ひょっとすると合金としてのゴルドテリオンを作るのに、必須となる素材かもしれない。回収していくと、すぐ荷車は一杯になった。

 

何度かレント達に戻って貰って、荷物をコンテナに収めて貰う。

 

そもそも禁足地とはいえ、クーケン島のこんな近くに、あんな危険そうな魔物がいた事自体が問題なのだ。

 

あれが這いだして街道などに出張っていたら、それこそ記録的な被害が出ていた事だろう。

 

とにかく、倒す事は出来た。

 

それでよしとするしかない。

 

時間は刻々と削れて行っている。いつフィルフサの再侵攻が起きてもおかしくないだろう。

 

あたしは、焦りを自覚する。

 

だけれども、此処で焦っていては駄目だ。

 

此処で引いたら、古代クリント王国の連中と同じになる。確実に一歩ずつ踏みしめて、やっていくしかない。

 

何度かレントが往復して、その間塔の周りを確認。

 

ちいさな池が幾つか出来ているが、水源ではないようだ。

 

さっき仕掛けて来たのより小物のエレメンタルはいたが。多分あたしの戦闘を見ていたのだろう。

 

近寄ってくる様子はなかった。

 

無駄な戦いを避けられるならそれでいい。ただ人を積極的に襲いそうならば、恐怖を叩き込んでおく。

 

それがどっちのためでもある。

 

人間と自然は残念ながらベタベタ仲良くやっていけないのだ。互いに距離を取らなければいけない。

 

だから、あたしはそうする。それをあの水難事故の時に学んだ。

 

レントが戻って来て、物資を積んですぐに戻っていく。三度の往復で、どうにかそれが終わった。

 

魔力体力は消耗がひどいけれども。

 

それでも、どうにか偵察くらいは出来そうだ。

 

皆に頷くと、塔の入口に。

 

塔の入口は、分厚い扉で閉ざされている。それよりも先に、タオが下を見たいと言う。

 

頷くと、塔の下に。其処には、明らかな貯水池らしい場所が存在していて。其処から、塔の中にも入れそうだ。

 

かなり大きい構造だ。雨が降って水が溜まったら。落ちたら簡単に溺死しそうである。それに、石造りの貯水池はかなり威圧感がある。下にもはしごで下りる事が出来る様だが、ちょっと勇気がいった。

 

貯水池は水が空になっている。ただ。この貯水池程度で、何十万というフィルフサを押し流せるとは思えない。

 

だとすると、此処はなんだ。

 

或いは、あのブルネン邸にあった玉の実験施設か。その可能性は高そうだ。

 

「クーケン島でも貯水池はあるけど、これは規模が段違いだね。 水が入っていなくて良かった……」

 

「それでも小さすぎる」

 

「そういえばよ、ライザ。 俺前に貯水池で仕事したことがあるんだけど」

 

「ん? どうしたのレント」

 

調べていると、不意にレントが言う。

 

幼い頃から力自慢だったレントは、当然幼い頃から力仕事で小遣いを稼いだ。家なんかの建築とか解体では、大人顔負けに働けたらしい。とはいっても、流石にそういった危険仕事をするようになったのはあの事故の後くらいから、らしいが。幼い頃は、単純にものの運搬で小遣いを稼いでいたらしい。

 

「一度だけ、貯水池のメンテをした事があったんだ。 貯水池の水を桶に汲んで抜いてよ」

 

「まて。 貯水池の水をそんな方法で抜けたのか?」

 

「え、アンペルさん? あ、ああ……」

 

「……続けてくれ」

 

レントは困惑しながらも続ける。

 

水を抜いた後、下から出て来たのは石だったそうだ。それも、ぴっちりと組まれた。

 

「壁になってる部分は土だったよ。 でもなんだか、此処を思い出してよ」

 

「お手柄だレント。 何となく分かってきたぞ」

 

「え、ああ、うん……」

 

「アンペルさん、どういうことなんですか?」

 

クラウディアが聞いてくれる。タオですら困惑しているから、まあ当然だろう。

 

咳払いすると、アンペルさんはいう。

 

「おかしいと思っていたんだ。 水が無限に近い量出る道具なんてものがあっても、島が水没する様子がない」

 

「旧市街の辺りは沈んでますよ」

 

「いや、その代わり別の場所が隆起してるだろう」

 

「た、確かにそうですけど……」

 

旧市街が徐々に水没しているのは確かだ。彼方此方から水がしみ出してきている。それで、倒壊した建物もある。

 

だがその一方で、ラーゼン地区なんかではむしろ土地が増えている。年々塩水と無縁になって、耕せる土地が増えているのだ。

 

だから葡萄とか、うちのお父さんが試したりしている。

 

「もしもだ。 島がそもそも島では無かったとしたら?」

 

「え、どういうこと!?」

 

困惑するタオ。

 

アンペルさんは、恐ろしい事を続けるのだった。

 

「まだ可能性だから、断言はできない。 だがその可能性が恐ろしいんだ。 良く聞いてくれ。 ひょっとすると、クーケン島は、湖底の地面が隆起して出来た島ではなくて……古代クリント王国か、或いはもっと古い時代か。 そういった古い時代に、作られたものかも知れない」

 

「島を作るって、そんな……」

 

「あり得ない話じゃないんだ。 幾つかの証拠を私は見てきているが、いにしえの時代には幾つも空中に都市があったらしい。 錬金術によって空に浮かべたものだ。 精霊王が口にしていた星の都というのは、そういった都市だった可能性がある。 島くらいのものなら、少なくとも神代の錬金術師は浮かせることが出来たんだよ。 古代クリント王国の錬金術師には出来なかったようだが、島くらいは作れたのかも知れない」

 

ぞくりとする。

 

確かに、古代クリント王国の時点で精霊王を行使するような文明だ。それよりも凄かったらしい神代となると、何ができてもおかしくは無い。

 

いずれにしても、今の段階では仮説だとアンペルさんは閉じた。

 

あたしは無言で、皆に栄養剤を配る。

 

もう戻るつもりだったが、予定変更だ。

 

ここから時間が許す限り踏み込む。

 

「塔の中に入るよ」

 

「えっ、でも今日は戻るんじゃ……」

 

「予定変更。 塔の中を確認しよう。 この辺りは恐らく水に関係しているから、フィルフサが入ってこなかったんだと思う。 塔は恐らく内部を食い荒らされているだろうけれど……それでも調べる必要があるよ。 時間のぎりぎりまで」

 

クラウディアが不安そうにいうので、あたしが塔に入る理由を説明。

 

皆、それに対しては、無言で賛成してくれた。

 

想像以上にまずいものに片足を突っ込んでいるのかも知れない。

 

フィルフサの群れよりヤバイものなんてこの世にないと思っていたのだけれども。

 

それよりも更にまずいものがこの世にはあっても不思議じゃない。

 

それを失念していた。

 

もしも、アンペルさんが言う通りだったら。古代クリント王国の錬金術師が。平和的な目的とか、いやもっと言えば建設的な目的で島なんて作る訳がない。連中は幼稚なエゴとそれで拗らせた全能感の塊だ。

 

だったら、自分の力を誇示するためだったり。

 

その力で気にくわない人間を踏み砕くために、錬金術を使うはず。

 

最悪の可能性が適中したら。

 

クーケン島を放棄しなければいけない可能性すら出てくる。

 

あたしは、タブー中のタブーに触れようとしている事を悟る。

 

恐らくフィルフサによって壊滅的な蹂躙を受けたから禁足地なのだろうと思っていたのだけれども。

 

これは違うかも知れない。

 

もっと恐ろしい理由で、禁足地になっているのだとしたら。

 

そうだとしても、もう引くわけにはいかない。

 

ここから先は、人間の業の。その深奥が待っていても、不思議ではなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。