暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
複数の才能が必要になってくる代物なのですが、その全ての才能をライザは高水準で持っていました。
ゆえに、習得することが出来た形になります。
ただし、どんな天才でも最初は一歩から。
ライザも例外ではありません。
まずはあたしの家に移動する。
もの凄く密度が高い時間だったから、外がまだ明るいのに驚いた。もう夜中だと思ったのに。
あたしは、フラムを手にして、ぐっと握りしめる。
これの使い方は分かる。
自分で作ったからだ。
魔術とは違う、即効型の殺戮兵器。
錬金術による、武力の象徴のような代物だ。
怖いとは正直思うが。
それはそれとして、魔術よりも火力があり、しかも詠唱無しで使える即効型の道具である。
それは、魔術つぶしを全力で行ってくる魔物相手には、文字通り特攻武器になる。
古い時代は、火薬というのが量産されて。
遠くまで届く銃という武器が出回っていたという話も聞く。
それらは同じような即効型の殺戮兵器で。
人間相手にも、魔物相手にも恐ろしい破壊力を発揮したらしい。
とはいっても、火薬というのは消耗品で。しかも放置しておくとしけってしまうらしく。
もう何世代も前に、使える「銃」はなくなったそうだ。
そんな調子で、この世からはどんどん技術が失われている。
古代ナントカ王国から受け継がれたらしい技術も、そうしてどんどん塵芥と化している。
王都はそんな時代でもいばりくさって、貴族がどうの派閥がどうのと言っているらしいし。
技術の復興が上手く行かないのも納得だなと、あたしは思うのだった。
途中から、レントが言う。
「なんか凄いのやったんだろ。 疲れてるだろうし、俺が担ぐぜ」
「そうだね、お願いしようかな」
「ライザ、どうだった? 錬金術、だっけ」
「うん、なんだか才能あるって!」
凄く嬉しい。
それを全てで表現すると、クラウディアはとても朗らかに笑う。なんだか屈託ない、良い笑顔だ。
多分、とても大事に育てられたんだろうなと、あたしはちょっと羨ましくなった。
うちなんて、農家の手伝いにこき使われるわ。
やりたいことを殆どできないわで。
どれだけ冒険を阻害されたか。
夕方になって家に戻ると、母さんが頭に角を生やして待っていたが。クラウディアの事は知っていたのだろう。
クラウディアの前で怒る訳にもいかないのか、精一杯の笑顔を作る。
それはそうだろう。
バレンツ商会との商談が、この島の行く末を握っているのは。クーケン島の住人、誰もが知っている。
それはクラウディアだって、この島の人は優しいとか認識するだろう。
更に言えば、ろくでもない商会が来る事の方が多いのである。
久しぶりに来てくれた、まともな商会。
良心的な商売をしてくれる。
そうなれば、失礼は出来ない。
しかも、クラウディアは、特別扱いを要求しない。それは、大事にしようと周囲も思うだろう。
とはいっても、クラウディアが仕立てのいい絹服に身を包んでいて、それでこんなお人形さんみたいな容姿でなかったら、周囲はこんな反応をしたかどうか。
勝手なものだよなあ。
あたしは、分かりやすい母さんの対応に苦笑いしたし。
更に言えば、母さんの立場も分かるので、それを責めようという気にもなれなかった。
二階に上がる。
レントは案外器用なので、釜をぶつけずに階段を通る。
クラウディアはわくわくしているようで。狭い事とか汚い事とか、全然気にしていない。むしろ、知らない事だらけの場所を、幼児のように楽しんでいる。
屋根裏は、それなりに改造したから、悪ガキ軍団で使える広さがある。窓もあるから、ちゃんと朝になっても分かる。
軽く、話をする。
まずあたし。
錬金術を学んだ。やり方は分かった。明日からは、まずはこの本。そう言って、アンペルさんに貰った本を見せる。
これに沿って、基礎的な錬金術の物資を作る。
そういうと、レントは頷いていた。
「あの鼬を瞬殺した凄い道具がそれか。 ちょっと形が違うみたいだが……」
「錬金術って才能に依存するんだって。 エーテルの扱い方とか、エーテル内に溶け込ませた要素の操作とか。 そういうのが、全て才能に依存していて、全部ある人間は希だって話だよ。 だから生成物も、こんな形で変わるみたいだね」
「ライザは魔術に関してはすごいもんね」
「聞いているだけで羨ましいわ」
タオの嫌みに対して、クラウディアが嫌みなく言うので、なんというか育ちの違いを感じてしまう。
まあそれはそれでいい。
まずは、これからだ。
クラウディアに話を聞くが、バレンツ商会は一季節はここにいるらしい。
というのも、商談というのは時間が掛かるものだそうだ。
そもそも、物資を買い付けて売るというのだったら、誰でも出来る。
商会にいる魔術師が、物資を冷やすなりして保存して、売る場所にどうやって運ぶかの計画立案。
販路の設定。
販売先の商人との連携。
更には、安定した物資の仕入れ。
これらの全てを立案しなければならず。更には相当な大口取引となると、商会にいる人間が下手をすると路頭に迷う。
それらがないように、しっかり準備を整えるのが、商会の仕事。
今の時代、余っている人間なんて一人だっていない。
あたし達だって、必要な時には護り手に要請を受けて、魔物狩りに出るのだ。あたしもレントも、勿論タオも。魔物を殺したキルカウントは、全員二桁後半に達している。
島に上陸してくる奴もそうだけれども。
島の対岸を掃除していれば、必然とそういう風になる。
島にいる人達だって、農作業やら、加工作業やらで忙しい。
ただ、これだけ忙しくなったのは、ブルネン家が水源をどうやってか確保してかららしいので。
昔はもっと貧しくて。
更には人だって少なかったかも知れない。
昔の島は、子供の半分は死んだというから。
「リラさんやアンペルさんも、しばらくは此処に滞在するみたいだね」
「だとすると、それまでが勝負だな」
「じゃあ、まずは短期目標についてそれぞれ話そうよ」
「うん!」
凄く嬉しそうなクラウディア。
こういう集まりで、こういう話をした事がないらしい。
そして、そわそわした後、周囲を見回した。
「次に来る時は、お菓子とか持ってくるね」
「おお、気が利くな!」
「男共がいるから、繊細なお菓子をちょっとだけだと足りないと思うよ」
「大丈夫、アップルパイを焼いてくるわ」
それは有り難い。
実の所、ライザも結構食べる方なので、それなりにがっつりしたお菓子の方がありがたいのである。
それに、小麦粉を使ったパイなんて贅沢である。
今は小麦粉もある程度島で生産出来るようになってきているが、それでも生活に使うぶんでギリギリだ。
東の方だと麦よりも収穫量が多いライスという作物があるらしいのだけれども、これは扱いがとても難しいらしくて、非常に専門的な育て方が必要らしい。あたしも実物は見た事があるけれども、説明を聞いてこの島ではまず育てられないだろうとも判断していた。
「まずはあたしから。 この貰った本に書かれている、基礎的な道具を一通り調合してみます!」
「怖い道具ばかりじゃないと嬉しいわ」
「ああ、それは大丈夫だよ。 傷薬とかもあるからね」
それと、だ。
この本を見ると、武器の作り方もある。
あたしの杖もそうなのだが。そろそろ相当にガタが来ている。これらの武器類は、基本的に職人芸で作るもので。
あたしもいろんな家のお風呂を沸かすのを手伝ったり。
たくさん魔物を斃して、それで護り手としてのお給金を貰ったりして。やっと買ったものなのだ。
レントの大剣もそうだが。
この間の戦いで曲がってしまった。
そろそろ、代わりが必要になるだろう。
ただ、この装備品の作り方については、まだかなり先になりそうである。レントの武器は、鍛冶に持ち込んで直すしかない。
「次は俺だな。 リラさんに、戦い方のコツを教えて貰ってきた。 その、今まではライザに戦闘時に指示を頼んでいただろ」
「ああ、それは司令塔がいた方が戦いやすいからね」
「その通りだ。 今後は俺は、作戦だけもらったら自己判断で最適行動を出来るようになっておきたい」
「なるほど、確かにそれは戦闘時にあたしの負担が減るね」
実はこれは、タオは出来ている。
この間クラウディアを助けたときも、クラウディアをガードすべく最善の行動を最速で取っていた。
タオは頭が回るから、特に訓練を受けずともそれが出来るという事だ。
レントはそこを補いたいのだろう。
「次は僕だね。 僕は、まずこの本に目を通して、基礎的な単語とかを頭に入れることにするよ」
「大丈夫? 食事とか……」
「大丈夫。 うちの両親に話をするから。 ただ、うちの両親、蔵書を処分する計画を立てているらしいんだよね」
確かに、読み方が分からない古文書なんて、家のスペースを圧迫するだけだが。
どんな重要な情報が書かれているかわからない本を廃棄するなんて、はっきりいって正気じゃない。
あたしがそう告げると。
タオは少しだけ寂しそうに笑った。
「ありがとうライザ。 僕もなんとかして、本に書かれている事を確認して、それで考えを改めて貰うよ」
「うん、応援する。 なんならあたしも説得しようか?」
「いざという時は頼むね」
タオの両親は、魔術の扱いが二人とも下手だ。
かなりの頻度で、湯を沸かす手伝いをしていて、それで貸しも作っている。
そもそも、湯沸かしという作業があらゆる意味で重労働であり。それを手伝うというのは、相当に相手に対して大きな貸しを作れる。
此処で、それを回収しておくべきだろう。
というか、さっき告げたのは本音だ。
確かにこの島には色々思うところもある。伝承の窮屈さには色々と腹だって立つ。
だけれども、過去の人間の知恵を馬鹿にするつもりはない。
いい大人がそんな事も理解出来ないなんて、色々問題だとあたしは思う。
クラウディアが、更に言う。
「あのね、古い弓とかない? 弦が切れてしまっていてもいいの」
「あるよ。 狩りに使ってたのが、裏庭にある。 あげる」
「本当! 嬉しいわ」
「そんなのどうするの?」
訓練に使うと言う。
クラウディアは、音魔術の使い手だが。やはりリラさんに話を聞いて、切り替える事にしたという。
音魔術そのものは捨てないが。
新しく、使える魔術を増やすという事らしい。
それはそれで、素晴らしいと思う。
具体的には魔力の具現化を行うらしく。矢を必要としない射手を最終的には目指したいそうだ。
「詠唱無しの魔術だと、破壊力に限界があるんだよね。 魔物はどいつもこいつもタフネスを武器に詠唱をごり押しで通そうとするし……」
「あれずるいよね。 大物の対処となると、どうしても死人が出るのを覚悟しないといけなくなるし」
「詠唱による魔術の火力の上がり幅があたし達より劣るのは幸いだけど」
実戦経験者どうしで話をしているのを聞いて、クラウディアはそわそわした。
結構怖い世界で、やっていけるようになりたいと言っている。
自分の言動の意味に、気付けたのかも知れない。
だが、自衛のために魔術を練り上げるなら、それは良いとあたしは思う。手伝いだって、幾らでもする。
「よし、解散しよう。 それぞれ短期目標を攻略して行こう!」
「おう!」
「分かった、最善を尽くすよ」
「うん。 みんなに負けないようにするね」
話を終えた所で、一度解散。
皆めいめい散って行く。
帰る際に、レントがかあさんにいつも綺麗ですねとお世辞を言っていたが。これは母さんに説教一晩コースを何度かされた後。経験として身に付けたものだ。
母さんも農作業に力を入れるようになってからどうしても太って、それを気にしているようで。
そう言われると、悪い気はしないらしい。
あたしなんかより、昔はずっと綺麗だったみたいだから、それも確かに頷ける話ではある。
あたしも血が通った人間なので。容色が衰えた人間の哀しみくらいは、理解出来るつもりなのだ。
一度家から出ると、クラウディアにお古の弓を渡す。弦を張ればまだ兎くらいだったら狩れるけれども。
まずは引くのに結構力がいるし。
魔力を具現化して弦を張り、更に矢を放つとなると、かなり色々と大変な筈だ。
とくに弦をするどくしすぎると、矢を放つときに指が飛ぶ可能性もある。
立射には体勢も大事だ。
この辺りは、あたしも護り手の訓練で習った。
軽く、立射の姿勢から順番に基礎を見る。これはリラさんの負担を減らすためだ。あの二人も、色々やることがあるっぽいからである。
「此処は当たり」。
そういうことをアンペルさんが言っていたような記憶がある。
そうなると、しばらくアンペルさんとリラさんは此処にいるだろうが。同時に危険に首を突っ込む可能性も高い。
クラウディアは飲み込みがはやい。
集中力が優れているのだと思う。立射の姿勢は、すぐに覚えた。というか、元から動作がしっかりしているし、その延長線だからだろう。これは、射手として、相当な才能があるのかも知れない。
「うん、いいよ。 それを何度でも再現出来るようにして。 移動しながら矢を放つときもあるけれども、基本はその立射で放てば、当たる確率も上がるからね」
「有難うライザ。 遠慮しないで色々教えてくれて本当に嬉しい」
「うん。 それじゃ、今日はもう遅いから、送っていくよ」
「何から何まで本当に嬉しい。 ライザと友達になって良かった」
クラウディアに、打算とかそういうのは感じない。
本当に友達に餓えていたんだな。
そう思って、あたしはちょっとだけ、クラウディアの事を気の毒だと思った。
翌朝。
朝一に農家の手伝いを済ませる。あたしは魔力量がありあまっているので、自分の担当を決めて、それをさっさとやるのは得意だ。
水のくみ出し、煮沸消毒、さらには重い苗とかの運搬。
それらを済ませて、お父さんとお母さんにやったことを告げておく。お母さんはまだ色々言いたいようだったが。
昨日から、あたしがつやつや生き生きしているのを見たのか。何も言わなかった。
まずは参考書を手に、クーケン島を回る。
タオはあれでもなんだかんだで家の外に出てくるので、用事があれば必要な時に声を掛ければいい。
参考書には、雑草にしかみえないようなものや。
うにと言われる棘だらけの木の実も記されていた。
うには中身は美味しいが、虫が食っていたり棘をどうにかするのが大変だったり。更には食べるためには硬い殻を割らなければならなかったりで、基本的に保存食扱いだ。食べるにしても、ゆででアクを抜いたりしないとまずくて仕方が無いので、はっきりいって贅沢品である。
この何手間も掛かる調理の末には、それなりに美味しいものが出てくるのだけれども。
湯を沸かすだけでも重労働なのだ。
うにの調理なんて簡単にはできないので、普段は其処に生やしているだけの代物である。まあ非常食ではあるのだが。
クーケン島も、異常気象は何度も経験している。
そのため、外部から入手した作物を散々試してきた経緯がある。例えばクーケンフルーツが全滅した場合に備えてだ。
そのため、農家ではブルネン家主導で、麦を主体に様々な作物を意図的に育てるように指導がされていて。
ブルネン家を苦々しく思っている古老ですら、それについては賛成している。
麦の何割かは、水車で粉に引いた後は、保存用にブロックにして蓄える。このブロックがまずいし、何年か経過したら肥料に変えてしまうのだけれども。
それもまた、いざという時の備え。
こういう所ではブルネン家はしっかりしているし、今の当主のモリッツさんも嫌みで人間性には問題はあるがしっかりしているので。
島からたたき出そうとか、そういう空気にはあたしは乗れなかった。
島を探していると、レントがいた。
いつもと違う場所で、剣を振るっている。
どうやら朝一番に鍛冶屋にいって、応急処置はしてもらったようだ。だが、どうみてももう剣が限界だ。
咳払いすると、レントは気付く。
「おうライザ、何か力仕事手伝うか?」
「大丈夫。 今日はそれほど色々は集めないから」
「そっか。 で、それ、うにか? 魔物に投げて気を引くくらいしかつかえないような気がしていたんだが」
「それがね、錬金術ではこれをつかって、フラムとは別種の爆弾を作れるらしいよ。 とりあえず持ち帰ったら試してみるよ」
へえと、困惑気味にレントは言う。
とりあえずあたしはその場を離れるが。レントはいつもと違って、周囲に気を配るような立ち回りを練習しながら剣を振るっているようだった。リラさんに指示を受けたことをやっているのだろう。
去り際に言われる。
「明日辺りに、ちょっと試したい。 対岸に行きたいが、いいか?」
「いいよ。 早めにリラさんに成果見せたいもんね。 あたしもアンペルさんに、早めに成果を見せたいなと思うし」
「そっか、じゃあ決まりだな。 明日の朝一に対岸に行こうぜ。 ただ船が……」
「それなら、朝一に見て来た。 リラさんに事情を告げておいたんだけど、そうしたら回収してきてくれていたよ」
ありがてえ。
そうレントが喜ぶ。
あたしも嬉しい。
そのまま、その場を離れる。
今は、レントの邪魔をしてはいけない。あたしも、採取に集中する。
貰った本によると、植物というのはそもそも多数の要素で組み合わさっていて。毒草からでも薬は作れるらしい。
あたしも知っている草もあるけれども。
よくクーケン島を調べて回ると、知らないものもかなり見つかる。採取の際は、気を付ける必要があるだろう。
丁寧に採取を行って行き。
やがて。一通り採取をして、満足した。
そのまま帰路につこうとすると。ボオスとばったり。
ランバーはつれていない。
珍しいなと、あたしは思った。
さっそくボオスが嫌みを言うかと思ったが、ちっと舌打ちしてそのまま行ってしまう。何かあったのかあれは。
まあいいか。ともかく、一度屋根裏部屋に戻る。
母さんは、あたしがわんさか色々持ち帰ってきたのを見て、呆れた。
「ライザ、あんた子供に戻ったみたいに」
「ちょっと錬金術で必要なんだ」
「なんだいそれは。 聞いた事もないけれど、魔術の別系統かい?」
「今、ものにしようと調べてるところ。 多分、農作業にも役に立つとおもうから、待ってて」
はあと、呆れる様子の母さん。
元々保守的な島だ。
あの反応が普通である。
父さんは理解がむしろある方だが、それでもライザが新しい事をやり始めると、最終的には母さんの味方をする。
いにしえの伝承には、「理解のある彼」とかいう怪物が出現するそうだが。
そんなものはクーケン島にはいないのである。
とりあえず、これは実績を作らないと、怪しい呪い扱いだろうな。
そうあたしは、冷静に判断する。
これでも散々殺し合いを経験していないのだ。
このくらいの判断力は、当然備わっている。
無言で、釜にエーテルを満たす。
調合の度にこれはやるようにと言われている。用済みになったエーテルは揮発させてしまうが、その度に当然魔力を消耗する。
詠唱で増幅しているとは言え、それでも結構消耗はあるので、日になんども出来るものではないだろう。
それについては、今のうちに対策を練らなければならない。
まずは薬から作るか。
エーテルを満たし終えたので。貰った棒を使って混ぜながら、薬の素材になる薬草を入れて行く。
まずは、基礎の基礎。
もっとも基礎になる部分からだ。
要素を分解。
仕分け。
そして、新しい素材を入れたら、同じ事を繰り返し。
全てが混ざらないようにする。
かなりの集中が必要だ。
それだけじゃない。
魔力の操作も繊細極まりない。冷や汗が何度も流れる。これはとてもではないが、手なんて抜けない。
何度かハンカチで冷や汗を拭いながら、要素を手元の参考書を見ながら重ねていく。
やがてそれらを重ねていき。
最終的に、一つに収束させていくのだ。
まだ液体を作るのはかなり難しい。
そう聞いているので、まずは粘性が高い軟膏型の薬にする。
液体は、エーテルで泡のように覆って。専用の容器に収めるようにして回収するそうである。
なるほどなるほど。
自分で練り上げながら、一つずつ、確実にこなして行く。
ほどなくして、粘性のある半個体の薬が出来上がる。あたしはよしと呟くと、先に用意しておいたケースに収める。
これ自体が、かなり堅めの木のみをくりぬいたものであり。
中は何度も洗浄して、薬に影響が出ないようにしているものだ。
薬を収めると、あたしはなんの躊躇もなく、今朝ちょっと傷ついた肌のかさぶたを剥がす。
血がしみ出してくるが、そこに薬を塗ると。すぐに溶けるように傷が消えていった。それどころか、体が温かい。
すごいな、これ。
そう、素直に思った。
例えば、古老なんかはあたしよりももう魔術が出来ないが。回復関連だったらあたしより上だ。
この島でまだ古老がある程度の発言権を持っているのはそれが故で。
特にお産の時のダメージを和らげたり。
怪我人が出たとき、死ぬ確率を下げたりする魔術を使う事が出来る。
だが、怪我をすればいたいものはいたいし。
お産の時も、母親は死にそうな顔をする。
あたしも湯を沸かしたりするために出張る事があるから知っているが、特に若年で子供を産むときなんかは(取り柄がないと見なされた子は、十五で結婚するのが当たり前なので)。場合によっては母親や子供、酷いときには両方が死ぬ事だって普通にある。死産はあたしもそういう訳で見た事があるが、とても悲しいもので。涙がしばらく止まらなかった。
それらを緩和できるのだから、古老の発言権が最低ラインを割り込まないのも当然だと言える。
だが、この薬が出回るようになれば。
それも過去の話となるだろう。
あたしは思う。
こんな初歩の錬金術でも、クーケン島のバランスを崩す。考え無しにばらまくと、大変な事になるかも知れないと。
だけれども、それで出し惜しみして、誰かが悲しんだり泣いたり、ましてや命を落とすのは絶対に嫌だ。
ふうと息を吐くと。
あたしは次のものに移る。
うにの成分を使った爆薬。なるほど。うにを利用すれば、こんなものも作れるのか。
フラムは超高熱で抉り取るような爆弾だったが、こっちは殺傷力を指向化して叩き付けるようなものになる。
ただ、破壊力はフラムに比べると抑えめで。
使いどころを気を付けなければならないが。
無言で、錬金術をあたしは続けて行く。
少しずつ、今まで使っていなかった頭の部分が動き出す気がする。ただ、あたしはそれで誰かを苦しめる存在にはなってはいけないとも、自分を戒めもしていた。
此処で軽く豆知識など。
原作アトリエシリーズには様々な錬金術が登場しますが、初代作から追っている人間からすると、主に二つに分類されます。
一つは科学に近いタイプで、レシピさえ開発すれば理論上誰でも出来るれ錬金術。初代マリーのアトリエや、ロロナのアトリエなどがこれですね。トトリのアトリエで、ロロナが科学者であるマークさんに、この辺りの説明をするシーンがあります。
もう一つは才能がないと話にならない魔法に近いタイプ。ソフィーのアトリエなどに登場する錬金術で、近年は此方が主流になっています。
なお、この二つが同時に登場する作品もあり(アーシャのアトリエなどの黄昏シリーズなど)。
ライザのアトリエは、才能依存型の錬金術が登場しています。
以上、豆知識でした。