暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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峡谷を越えて塔に入り、本格的な探索を開始するライザ達。
いよいよクーケン島の真相が間近に迫ります。


クーケン島の真実
序、地獄の入口


崩れていた入口を避けて、貯水池から塔にあたし達は入る。途中にあった階段も戦闘の跡が凄まじく、明らかに死骸が作ったらしい染みが何カ所にも残されていた。大量の水で押し流すにしても。全てが流されたわけではなかったのだろう。

 

階段を、荷車を押しながら上がる。

 

塔入口で戦闘した分の疲労もある。

 

出来れば戦闘は避けたいが。最悪「土」の精霊王が仕掛けて来る。その時に備えて、撤退路は常に確保する必要もあった。

 

周囲を確認。

 

魔物はたくさんいるが、小物ばかりだ。

 

今の時点では、戦う必要はない。基本的に、苦労する相手でもない。

 

塔の内部は、螺旋状になっている。無言で周囲を探していくが、バラバラに砕かれた鎧。何もかも踏み砕かれた跡。

 

此処にまでフィルフサが侵入して、決死の戦闘が行われたのは明らかだった。

 

「みんなみて!」

 

音魔術を展開していたクラウディアが言う。

 

皆の視線の先には、決定的な証拠があった。

 

あの白い装甲の残骸だ。

 

何百年も経過して、すっかり崩れてしまっているが。滅茶苦茶に壊された鎧の合間に確実にある。

 

フィルフサだ。

 

もう死んでいるのだろうが。それでもこれ以上もない証拠。水に触れ続けない環境だから、死体が残ったのだろう。

 

ごく最近エリプス湖に落ちたフィルフサのしがいは、既に崩れ始めているのも確認している。

 

普段だったら、何百年も野ざらしになっていたら溶けてしまっていただろう。この辺りは、乾期は雨一粒も降らない代わり。雨期はざあざあと雨ばかりになる。だから木造家屋よりも、石を主体に家屋を作るのが流行る。

 

水に弱いフィルフサでは、そんな状況では死体も残らない、ということなのだろう。

 

「まさか、生きているフィルフサはいないよな……」

 

「それはない。 この様子だと、こちら側の世界に数百年前に侵攻したフィルフサの王種は、水に流されて死んだだろう。 王種や将軍などの統率種がいなくなると、フィルフサは離散する。 そして王種からしか将軍は生まれず、王種は何百年に一体という間隔でしか生まれない」

 

リラさんが説明してくれて。それでほっとする。

 

凄まじい繁殖力を持つフィルフサだが、それでも王種は例外と言う事。それだけは、救いかも知れない。

 

逆に言うと、王種を仕留められない状態が出来たら詰みだ。

 

今のオーリムのように、である。

 

咳払いすると、レントが視線で指す。

 

入口の方。

 

「あれ、こじ開けておくか。 色々不便だろ」

 

「いや、此処を調査した後は、封鎖しよう。 だから開けない方が良いと思う」

 

あたしは即答。

 

此処は、調査の後は閉じる。

 

墓だから、というのもあるが。もしも盗賊だのが入ったら。此処にあるものが悪用される可能性が高い。

 

人間を信頼するほどあたしも善人じゃない。

 

アンペルさんは、良き錬金術師だと言ってくれるけれども。良き錬金術師と、頭が悪い錬金術師は別だとも思う。

 

古代クリント王国の者達は、最悪の意味で頭が悪く。

 

そして悪しき錬金術師だった。

 

あたしも、邪悪を許すつもりはない。

 

良き錬金術師にはなろうと常に心がけるが。

 

頭の悪い錬金術師になってはいけないとも、ずっと思う。

 

無言で調査を続ける。

 

一階部分だけで、かなり書物を見つける。壁際にある書棚なんかは、それなりに無事に残っている。

 

ただ、そういったものも。

 

激しい戦闘の爪痕で、ごっそり抉られていたりして。タオが悲しそうにしたが。

 

「書物に罪はないだろうに……」

 

「水でやられてないか」

 

「ええと……今の本とは違うねこれは、 装丁からして、水を弾く仕組みみたいだ。 中身は読めるよ。 古城にあった本よりも、ずっと状態が良い。 虫の類も湧いていないみたい」

 

「錬金術で防護を掛けたんだろうな。 此処に立てこもった錬金術師にとっては、全てが聖書みたいなものだったのだろう」

 

聖書、か。

 

彼方此方に宗教があるという話は聞く。

 

クーケン島でも、老人が何かよく分からないものを拝んでいるのはたまに見かける事がある。

 

錬金術師にとって聖書があるのであれば。

 

それは恐らく技術書だろう。

 

あたしにとっても、アンペルさんがくれた参考書は一番大事なものになっている。勿論仲間の命には替えられないが。

 

それが信仰になるのは何となく分かる。

 

だが、無分別な信仰は。

 

邪神に生け贄を捧げる、閉鎖的な因習村と何も変わらない。古代クリント王国の錬金術師達は誰よりも自分が賢いと思っていたのだろうが。

 

そんな人間が、賢いわけがない。

 

「どう、タオ、内容は」

 

「ざっと読んだところだと、ライザの喜びそうな内容かな。 後でまとめるけど、無事な本は今のうちに回収すべきだと思う」

 

「分かった。 とりあえず時間も厳しい。 少なくとも、此処にある無事な本は、今のうちに荷車に積み込んで! 解読は明日以降やろう!」

 

時間がない。出来れば此処で解読してしまいたいが。魔物がいる状況で、タオを読書に集中させるわけにはいかない。

 

上を見上げる。

 

精霊王がいるのは上だ。そして螺旋階段の方には。それなりに強い……周囲でこそこそしている雑魚とは違う魔物の気配がある。

 

これは多分、手強いと見て良い。

 

今日は消耗もある。激しい戦闘は塔の倒壊を招きかねないし、何よりこれ以上遅くなると解読の時間もなくなる。

 

クラウディアが呼んでいる。

 

「ライザ、こっち!」

 

「うん」

 

「これ、床に落ちてたの。 本と言うには薄いし、ひょっとして日記かな……」

 

「すぐに見せてくれ」

 

飛びついたのはアンペルさんだ。

 

或いは此処では。むしろ書物より貴重と考えたのかも知れない。

 

ざっと目を通すアンペルさん。

 

そして頷いていた。

 

「お手柄だ。 これは此処に立てこもったアーミーの重役の手記だ。 かなり詳細に、何があったかの記載がある」

 

「! 何があったか分かるんじゃないの」

 

「恐らくな。 今日は一旦これで撤退するべきだ。 ライザ」

 

「分かりました。 皆、撤退! 今日はここまで!」

 

戦闘での疲労もある。

 

何よりこれである程度の分析が出来る。

 

そうアンペルさんは判断したとみていい。

 

すぐに撤退の準備に取りかかる。何かしら、追撃が掛かる様子はなかった。

 

 

 

酷く荒れ果てた塔から一度撤退して、島に戻る。

 

あたしは再びゴルディナイトを使って、ゴルドテリオンをどうやって作るかの分析をする。

 

そうしている内に、後ろでアンペルさんとタオが、ああでもないこうでもないと話しているのが分かった。

 

「古城にあった本は酷く虫に食われているものも多かったですが、塔のは殆ど無事でしたね」

 

「ああ。 恐らくだが、フィルフサの気配がまだ残っているからなんだろうな。 特に色濃くだ。 渓谷は一度徹底的に押し流されただろう。 塔の中は、フィルフサの残骸がまだ残っている程だった」

 

「虫ですら怖れて近寄らない……」

 

「古代クリント王国時代の錬金術師が、虫除けに何か仕掛けをしたのも影響した可能性があるが……古城の書物もそれは同じだった筈だ。 雨に晒されず、虫も寄りつかない。 それらの相乗作用と見て良いだろう。 古城ではフィルフサによる蹂躙が殆ど無く、逆にそれで本が駄目になったんだ」

 

そうか。

 

あたしにはちょっと何とも言えない。

 

様々な鉱石をいれながら、分析をする。やはり、とても硬度が上がる組み合わせがあるが。足していけば強くなると言う訳でもなく。ある段階で不意にまた硬度が下がってしまう。

 

比率を変えてみてはどうだ。

 

強くなる組み合わせは覚えている。

 

エーテルを混ぜて要素を組み合わせながら、様々に試す。順番に色々やっていって、分かってきた事があった。

 

どうやらゴルディナイトは、数十種類の要素を組みあわせて、ようやく強力な合金になるようなのだ。

 

今、どうにもそれらしいのが出来たので。

 

鉱石を追加でエーテルに投入。

 

ドバドバ足しているのをみて、クラウディアが不安そうに言う。

 

「ライザ、調合中に話しかけるのは無しだって分かっているけれど……大丈夫?」

 

「大丈夫だよクラウディア。 キャパオーバーになる量については心得てる」

 

「そう、それならいいんだけれども」

 

「それはそうと、ちょっと後でお菓子食べたい。 アンペルさんの気持ちがわかるような気がする」

 

分かったわと言って、すぐに台所にクラウディアは消える。

 

調合を続行。

 

集中していくと、やがて釜しか見えなくなってくる。

 

多数の要素が、頭の中で星のように結びついている。

 

これとこれ。

 

この要素は組み合わせない。

 

これとこれと足して。そしてこう。

 

呟きながら、ゴルディナイトを他の鉱石と組み合わせて、合金にしていく。ゴルディナイトの量は1から2。他の鉱石の量は8から9というところだ。

 

なんとなく。ゴルドテリオンが再現出来なかった理由がわかってきた。

 

これははっきり言って、詐欺に近い。

 

ゴルドテリオンの中核になるゴルディナイトは、中心部分になる結合材の役割を果たしていたのだ。

 

中和剤を投入して、更に結合を強くしていく。

 

こんな少量のゴルディナイトと。

 

普段は強靱でも無い鉱石が多数組み合わせって、凶悪な合金であるゴルドテリオンが出来るなんて。

 

誰も想像もできなかっただろう。

 

それは作れないわけだ。

 

作っていた古代クリント王国の錬金術師も、自発的にこれを作り出せたのだろうか。もっと前の時代の神代とやらの錬金術師が作って。

 

それをただ模倣しただけではないのか。

 

神代とやらには、余程凄い錬金術師がたくさんいたんだろうな。

 

そう思って、無言で調合を終える。

 

後はエーテルの内部で、ゆっくりと結合を拡げていく。

 

最終的にゴルドテリオンのインゴットにして、釜から引き上げる。

 

釜から引き上げた金色のインゴットをみて。

 

アンペルさんが、思わず声を上げていた。

 

「ライザ、それはまさか……!」

 

「これから実験してみます」

 

勿論エーテルの中で実感はあった。

 

だが、それでもやっぱり、実際に試してみないと駄目だろう。ハンマーで何度か打ち付けてみる。

 

凄まじい勢いで跳ね返された。

 

なるほど、これは凄い金属だ。

 

触ると魔力が猛烈に伝わってくる。文字通り触っていて熱く感じる程である。

 

これは、本当に伝説の金属なんだと分かった。

 

アンペルさんに渡してみる。

 

アンペルさんは、しばらく触ってみて。それで卒倒しそうになる。レントがあわてて支えていた。

 

「ちょ、大丈夫かアンペルさん!?」

 

「百年の研鑽を一月で超える学問だということは分かっていた。 だがまさか、これほどとは……」

 

「ちょ、褒めすぎると調子に乗って古代クリント王国の錬金術師と同じになりますから、やめてください」

 

「分かっている。 間違いない、これこそゴルドテリオンだ」

 

良かった。

 

ついに、最高の金属が完成した。

 

ただ。これを超えるものもあるらしい。

 

アンペルさんが話半分だがと聞かせてくれたものだ。グランツオルゲンだとかいうらしい。

 

なんでもそれを作るには、セプトリエンという超高密度魔力の結晶が鉱石となったものを必要とするらしく。

 

加工のやり方も当然分かっていないのだとか。

 

だったら、それでも作るだけだ。

 

まずは、一段落。

 

クッキーをたんまりクラウディアが作ってくれたので、アンペルさんと一緒にぱくぱく食べる。

 

他の皆は、既に小腹をそれぞれ満たしていたようである。

 

それにしても、甘いものがこんなに美味しいとは。

 

調合で本当に糖分を使いまくったんだなと思って、あたしは苦笑い。

 

そういえばちょっと眠いが。

 

まだ駄目だ。

 

これから、タオとアンペルさんが話をしてくれる。それを聞いてからになるだろう。

 

「みな、聞いてほしい。 今、ライザが現在我等が現実的な範囲で知っている最高の金属の……正確には合金のインゴットを作りあげた。 これから武装に加工してくれるだろう」

 

「おおっ!」

 

「頼もしいな」

 

レントとリラさんがそれぞれいう。

 

リラさんがそう言ってくれるのは、とても有り難いことだ。

 

特にレントはどうも一人旅をすることを想定しているらしい。だったら餞別に渡しておくべきだろう。

 

それまでに間に合って、良かったと言うことだ。

 

「その加工はライザに任せよう。 それよりも、塔で回収してきたものの中から、幾つか興味深い手記が見つかった」

 

「聞かせてください、アンペルさん」

 

クラウディアが更にパイを持ってくると、今度はタオやレントが手を伸ばす。

 

まあみんな育ち盛りだ。

 

特にタオは、もっと食べても良いくらいだろう。

 

確かこの時期は、一晩で確実に背が伸びるとか言う時期の筈なのだし。

 

「この手記は、古代クリント王国のアーミーで相応の地位にいた人物のもののようだ。 それによると、こうある」

 

「少将」という、あたしからはちょっとよく分からない地位にいたその人物は、恨み事を綴っていた。

 

二代くらいの前の国王に錬金術師が取り入り始めた時、嫌な予感がしていた。

 

錬金術師どもは王族に「不老長寿」を餌に取り入り、実際に寿命を確実に伸ばす事には成功していた。

 

その一方で際限のない増産計画と、異世界への侵略計画を立ち上げ。アーミーはそれに従うように指示された。

 

国内で役に立たない人間は、全部奴隷にしろと国王が言い放ち。更には奴隷は自由をちらつかせて最前線で働かせろと言った時には、もう遅かった。錬金術師は、すっかり国王を虜にしていた。王族も全員そう。聡明だった王族は、皆不審死を遂げた後だった。

 

あの俗物共は、異世界に侵略して何を目論んでいる。

 

そこで、一旦日記は途切れた。千切れて飛んでいたらしい。

 

それから数年後に状況は移る。破られていた頁はかなり多かったらしく、相当な軋轢があったことが伺えると、アンペルさんは言う。

 

「少将」は、血を吐くような言葉を残していたという。

 

やはり奴らは斬るべきだったんだ。

 

異世界の住民を言葉巧みにだまくらかし、だまし討ちで水を奪い。奴隷を使い捨てにしてフィルフサとかいう化け物共を家畜に飼い慣らそうとして、失敗しやがった。

 

フィルフサとか言う化け物どもは、錬金術師の手にも負えなかった。自分に出来たのは、自分達だけ逃げようとした錬金術師を拘束する事。

 

そして連中に、責任を取らせることだった。

 

泣いて嫌がる奴らを、何人か斬り捨てて。それでやっと作戦を立てさせた。

 

その時には、異界から多数のフィルフサが溢れようとしていた。

 

最悪な事に此処は乾期だ。水以外に弱点がないとかいうフィルフサは、此処の防衛線を突破したらあらゆる場所を一気に襲撃するだろう。此方の世界で繁殖でもされたら全てが終わりだ。

 

錬金術師どものケツを蹴飛ばして、必死に作戦を立てさせて。

 

そして、この日が来た。

 

錬金術師共は奴隷を囮にして、全て水で流そうとか言い放ちやがったから、また一人斬った。

 

まだそんな事を考えているような奴はいらない。

 

あっと言う間に前線が喰い破られた。

 

みんなこの塔に引き寄せられている。

 

まだ逃げようと画策している錬金術師を前線に引っ張って行って、化け物どもの中に放り込んでやった。

 

その場でズタズタに食い千切られる錬金術師どもをみて、溜飲がさがる余裕も無かった。

 

今日、命は尽きるだろう。

 

最後の作戦が始動するのを見届けたら、あの世で地獄の悪魔どもに、王族と錬金術師どものやった事を全て告発してやる。

 

俺自身は無能だったから、罰を受けるのは当たり前だ。部下を誰も守れなかった。民も散々錬金術師どもにもフィルフサどもにも蹂躙させてしまった。地獄に落ちて当然だ。

 

だが、錬金術師どもと王族ども。奴らはそれ以上の罰を絶対に地獄で受けさせてやるからな。

 

来やがった。化け物共だ。

 

それで、日記は終わっていたという。

 

皆、手が止まっていた。

 

クラウディアが、目元を拭っている。酷い話だと思ったのだろう。恐らく錬金術師達は、社会的弱者をみんな奴隷に仕立てて、使い捨てにしたのだ。そんな事、人間であったら絶対に許されないのに。

 

悪魔と言うのは、ここらで言われる「乾きの悪魔」の事では無くて、恐らくは老人達が崇める宗教に出てくる悪役のことだろう。

 

とはいっても、それは人間が一番近いと皆思っているし。

 

そしてそうなのだと、今証明されてしまった。

 

強いていうならば。古代クリント王国の錬金術師。それに餌であっさりだまくらかされた古代クリント王国の王族達は、全員が悪魔だ。

 

大きな溜息が出た。

 

これは、精霊王達が怒るはずだ。キロさんだって、出会い頭にあたしの首を飛ばしていても不思議では無かっただろう。

 

リラさんだって。

 

「少し休憩を入れよう。 まだ報告がある」

 

皆、黙って頷く。

 

クラウディアが入れてくれたお茶は、冷めてしまっていた。

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