暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ついに辿りついた塔の調査を開始。

其処で明らかになるのは、人間が此処で何をやらかしたか。

古代クリント王国の錬金術師達が、どれだけの鬼畜だったか。

その記録です……

既にオーリムで話を聞いていたライザ達ですが。想像以上の実態を知ることになります。

エゴに塗れた愚か者達のせいで、文字通り、世界が二つ滅び掛けたのです。


1、その日何があったのか

古代クリント王国のアーミーの「少将」という人の手記の後。

 

タオも、同じように手記を見つけたらしい。

 

一兵卒といわれる、下級の戦士のものらしい。

 

それについて、説明してくれた。

 

こっちの方が、重要かも知れないと言いながら。

 

「この兵卒という人は、どうもこの近所の出身者だったらしいんだ。 それに、幾つか大事な事が書かれていたんだ。 それもとても……」

 

タオが普段と違って目を輝かせていない。

 

それだけでも、それがとても重い報告なのだという事が分かった。

 

タオが淡々と話をしていく。

 

兵卒という人は、この近くの街道警備部隊という……護り手がやっているような仕事をしていた人らしい。

 

古代クリント王国の時代には、魔物もそれほど多く無かったらしく。この兵卒という人も、数度くらいしか交戦経験がなかったそうだ。

 

今の時代だと、護り手のような仕事をしていれば、連日魔物と遭遇するし、戦闘にもなるだろう。

 

王都の「城壁の中だけ守る達人」とかいわれる警備の戦士達だって、それなりに雑魚相手には戦うらしいし。

 

今では考えられない話だ。

 

その人は、戦闘にかり出されたこと。

 

化け物の群れ相手に、数日間必死に交戦した事を、日記に書いている。

 

あんな化け物は初めてだ。

 

錬金術師どもが、際限なく好き勝手をしているって話は聞いていた。だからいずれ天罰が落ちるだろうとみんな噂していた。

 

だけれども、どうして俺たちまで天罰に巻き込まれなければならないのか。

 

分かってる。

 

俺たちも、錬金術師どもが作った便利な道具を、その出所も考えずに使い倒していたんだ。

 

それだったら、神様がいたら一緒に罰を与えようって思うよな。

 

そう、兵卒は零していたという。

 

「古代クリント王国の錬金術師は極めて狡猾で、まずはトップを自分達の作り出したもので魅了した後は、反発を受けないように周囲に便利な道具をばらまいていたんだね。 それでいながら、自由にできる道具として奴隷身分の人間を大量に前線に送り出して使い捨てにして。 更には社会的に立場が低い人間も奴隷にした。 無茶苦茶な話だよ」

 

タオが珍しく本気で怒っているが。

 

大丈夫。

 

あたしもキレそうだ。

 

この場に古代クリント王国の錬金術師がいたら、全員原型がなくなるまで蹴り潰して殺す。

 

これは許してはいけない人間の所業だ。

 

あたしだって、錬金術の産物を皆に配って先行投資はしている。

 

其処には下心だってある。

 

だけれども、ここまで邪悪では無い。

 

流石にこれは、人としてやって良い事の一線を確実に超えている。本当に幼稚な全能感を拗らせた挙げ句、自分を神に等しいと思い込んでいたんだな。そう思って、あたしは情けなくなった。

 

錬金術師は堕落すると、こんな風になるのか。

 

それも恐らくは、「現実的な行動を取って出世しただけ」とか本人達はうそぶいていたのだろう。

 

全員死に絶えていて良かった。

 

生き延びていたら今からでも全員殺しに行くところだ。

 

そう思っていたあたしに、とんでもない爆弾がタオから投下される。

 

「此処からが大事なんだ」

 

そういって、タオが続ける。

 

兵卒は、最後に家族の事を心配するようなことを書いていたという。古代クリント王国の錬金術師どもとちがって立派なことだ。

 

それはいい。

 

問題は、その先だった。

 

家族を避難させた。

 

錬金術師どもが作った、クーケンとかいう人工の島にだ。

 

知っている。

 

この島を作るのに、奴隷にされた人が千人も死んだ。突貫工事だったからだ。

 

ただ、化け物が出る前に作っていたから、これは奴らにとって野望の一つだったんだと思う。

 

完成した後何をするつもりだったのかは分からない。

 

噂によると、選ばれた人間だけが乗り込んで、空に飛んでいくつもりだったのだとか。

 

馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばせない。

 

悔しい話だが。

 

湖に浮いているクーケンとかいう島には、僅かな近隣の住民だけが避難できた。錬金術師どもは家族だけでも避難させてほしいとかほざいていたが。少将がそうほざいた錬金術師の家族を殺して、そいつの首も刎ねていた。お前らの家族は、民草から税金という生き血を啜ってものみたいに使い潰してこしらえたものだろうが。少将が叫んでいたのをみて、俺も暗い感情でそれを肯定していたさ。やり過ぎなのは分かっていたが、この場ではそう言えなかった。

 

俺の家族も避難できたが、それは運良く近くに住んでいたからだ。

 

島には大急ぎで大量の土も運び込まれた。そうしないと、畑も作れないからだ。だが、それで時間的には限界で、化け物共が押し寄せてきた。

 

娘達の名前が書かれている。

 

そう、タオが告げる。

 

みんな、死人の顔色をしていた。

 

兵卒は、最後の言葉を書いていた。

 

父ちゃんは悪魔と戦って地獄に行く。

 

みんな、せめて健やかに育ってくれ。

 

俺は街道を守るくらいしかできなかった。悪魔相手には時間稼ぎもろくにできないだろう。

 

だけれども、俺たちが束になれば、ほんのちょっとでも時間は稼げる。

 

みんな達者で暮らせよ。

 

それで、日記は途切れていた。

 

タオが口を閉ざす。あたしは、わなわなと拳が震えるのが分かった。

 

今理解出来た。全てのつじつまが合った。クーケン島の住人は。古代クリント王国の末裔だ。

 

あたしもその例外じゃない。

 

錬金術師の子孫も、ひょっとしたらこっそり混じっていたかも知れない。いずれにしても、許される事じゃあない。

 

そして、少し前にアンペルさんが出していた説。

 

それは正しかった。

 

クーケン島は人工島だったのだ。

 

そして、その人工島を作るのには、千人もの人命が投げ捨てられて。そして、そもそも人工島は。

 

恐らくは平和的な目的のために作られたんじゃあない。

 

錬金術師が神を気取って、全てを支配するためか。

 

或いは気にくわない相手を皆殺しにするための、恐ろしい兵器だったのかも知れなかった。

 

クラウディアが自分の事のように泣いている。

 

慰めの言葉なんて、掛けられなかった。

 

あたしは、拳をテーブルに叩き付けていた。

 

煮えたぎる怒りが、どうにも押さえ込めそうにない。

 

この様子だと、もっともっと更に悪夢の真実が出てくるかも知れない。自分はそうはならないと言い聞かせることは出来る。

 

だが、それは本当にそうなのか。

 

リラさんが、咳払い。

 

皆が、顔を上げていた。

 

「皆、少し休め」

 

「でもよ、リラさん……」

 

「今日はどの道もう動けない。 レント、いつものようにクーケン島に行って、ライザが出来そうな仕事について集めてこい。 今は剣を握らない方が良いだろう」

 

「……分かった」

 

タオが、僕も行くと言ってレントに着いていく。

 

アンペルさんは、淡々とクッキーを食べながら。あたしと同じように、大きな溜息をついていた。

 

「私も普通の人間より長生きはしているが、それでも古代クリント王国の時代は私の生まれた時よりもずっと昔だ。 だが、私はこれと殆ど同じ所業を各地で見て来た。 古代クリント王国の錬金術師は、恐らくもっと前の世代の錬金術師の生き残りだ。 神代と呼ばれる時代の錬金術師は、古代クリント王国の錬金術師の一部に自分の技術と恨み事を書き記した手記を残していたらしい。 それらがたまたま才能のある、善良では無い人間の手に渡ったんだ」

 

それらの一部は。

 

ロテスヴァッサの錬金術師どもにも渡っていたという。

 

アンペルさんは色々な理由があって、ロテスヴァッサの錬金術師とともに研究をしたらしいが。

 

その過程で、それらの手記の一部をみたそうだ。

 

其処に書かれていた事は、人間の書くこととは思えなかったそうだ。

 

絶望したアンペルさんはみた。

 

周囲の錬金術師が、これは素晴らしい。是非このやり方を参考にしようと、ゲラゲラ笑っている醜態を。

 

それらに対して抵抗を始めたアンペルさんが。

 

親友だと思っていた錬金術師に裏切られ。利き腕を使い物にならなくされるまで、それほど時間は掛からなかった。

 

ただし、それでアンペルさんも吹っ切れたそうだ。

 

研究施設にあった古代クリント王国時代の研究や、周囲の錬金術の成果をまとめて爆破して、研究所を去ったという。

 

だから、一世代暗殺者に追われなければならなかったとか。

 

「皆、今日はもう休めるようなら休んでおくんだ。 これより酷いものを、明日はみるかも知れない。 この真実を知っている精霊王「土」は、我々に敵意を剥き出しにして襲いかかってくるかも知れない」

 

「クラウディア、先に休んで」

 

「ライザ……?」

 

「……ゴルドテリオンで、最低限の装備は作っておく。 あたしの杖、それにレントの剣、それにリラさんのクロー。 接近戦組の武装と、あたしの魔術を更に強化するための杖が必要だと思う」

 

「無理はするなよ」

 

アンペルさんが釘を刺す。

 

そうして、寝所に消えた。

 

リラさんと、あたしとクラウディアだけがその場に残る。リラさんは、アンペルさんが寝所に消えたのを見送ると言う。

 

「私の氏族が数十年前にフィルフサに敗れた話はしたか」

 

「はい」

 

「そうか。 その時、私は門を通ってこちら側に来た。 そして見つけたアンペルを殺そうと、襲いかかった」

 

それはそうだろう。

 

アンペルさんも、無言で首をやるわけにはいかない。

 

苛烈な戦いになったんだろうな。あたしは、そうとだけ思った。

 

「アンペルは門を閉じるから、殺すのはその後にしろと叫んだ。 私はアンペルの首をいつでも刎ねられるように構えていたが。 アンペルは門を淡々と閉じて、フィルフサどもの追撃を封じた。 私もフィルフサの群れに追い詰められて、疲弊しきっていたからな。 そこで一旦休戦になった」

 

リラさんは。

 

今の話に出てきた、古代クリント王国の鬼畜どもが好き勝手にしていた時代を知っている。

 

だからこそ、アンペルさんを即座に殺そうと動くのは自然な話だっただろうともあたしは思う。

 

「アンペルに何を目論んでいるのかと聞いた。 贖罪と応えた。 それが嘘だと、私は看破できなかった。 錬金術師は皆嘘つきだ。 そう私は思っていたし、事実古代クリント王国の錬金術師はみなそうだった。 アンペルは違った。 ライザ、お前もな」

 

だから、贖罪の旅につきあうことにしたそうだ。

 

監視も兼ねて。

 

アンペルさんは、淡々と門を閉じていく。それまでにも、幾つも幾つも門を閉じ、封印してきていたという。

 

そして十年くらい前に。

 

珍しく酒を飲んだアンペルさんが、話をしてくれたのだそうだ。

 

「アンペルの研究は、門のありかを突き止め、全てを完全に閉じること、だそうだ」

 

「門の場所を、足でなく探す方法ということですか?」

 

「そういうことになるな。 あの手では錬金術の研究は無理だと嘆いていたよ。 だから私はとっておいたんだ。 義手になりうるものをな」

 

「……」

 

リラさんも複雑だっただろう。

 

アンペルさんにリラさんが好意なんて抱いていないことは、今だって分かる。不可思議な話で、あたしと今いる仲間達は、誰も好意なんて互いに抱いていない。そりゃあ人間的には好きだし尊敬しているが、此処で言う好意は結婚して子供を作りたいというようなものだ。

 

「ライザ、お前はどう思う。 これからも、あの話を聞いた後も、錬金術師を続けるか」

 

「当然です。 古代クリント王国の錬金術師の負の遺産を全てどうにかする……それが目標ですね」

 

「そうか。 間違いなくお前はアンペルの弟子だ。 少なくとも今はな」

 

「光栄です」

 

レント達が戻って来たら休むように。

 

そう言い残すと、リラさんも先にベッドに行く。あまり眠らなくても良いらしいが。それでも今は睡眠が必要だと判断したのだろう。

 

レントが戻ってくる。その間に、求められそうなものを作り。そして装備を作っておく。

 

レントが戻って来て、メモを渡してくる。どうやら、この場にあるものですぐに準備できそうだった。

 

「それでタオ、一緒に戻ったって事は、何かあったの?」

 

「ええとね、気になったから見て来たんだ。 前に貯水池がおかしかったって話をレントがしたでしょ?」

 

「そういえば、そうだったね」

 

「大当たりだよ。 市街地の方を、レントと一緒に見に行ったんだ。 どうして気付けなかったのか……明らかに水位からみれば水没している筈なのに、水没していない地下室が幾つかある。 古代クリント王国の技術で作られた人工島の上に、我々が土を被せて建物を作ったんだとしたら、当然そうなるよ。 水没しているのは、後付で作られた部分で、元々の地盤や水路は、水没なんかする筈が無い」

 

それだけじゃないと、タオは言う。

 

恐らくだが、クーケン島が人工島なのだとしたら。

 

水が途中から出なくなったのも、説明が出来そうだと言う。

 

元々は汽水湖の水を淡水にするような設備があって、それが島の住民に水を提供していたのだろうと。

 

それがなんらかの理由で動かなくなった。

 

「人工島だったら、それ以外で水源なんてある筈が無いよ」

 

「俺にはちょっとついていけない世界だ。 ライザ、どう思う?」

 

「可能性は高そうだね。 ただあの規模の島が人工島で、しかも水を補うとして……」

 

水そのものは、汽水湖からなんぼでも取り込めば良い。それは別に分かる。

 

それを湧かして真水を取りだせば良い。それも熱を使えば良いのだ。分かる。

 

ただ、ブルネン家のバルバトスとか言う当主が例のものを持ち込むまでは、クーケン島の水は、麦も育たないような代物だった。

 

それを何とかしなければならないだろう。

 

水がどう通って、島に行き渡るのかを確認して。

 

そして、現状の水の成分と同じ水にする仕組みが必要になると判断して良いはずである。

 

順番に、タオに説明していく。

 

タオも、頷いていた。

 

レントは分からないと顔に書いていたが。それでも何かしら問題がありそうなら、話してくれるだろう。

 

「水の質をあわせるのは、どうしたらいいんだろう」

 

「いっそ、塩水をそのまま水源に送るようなシステムにして、それを今の水にするなら楽かもね」

 

「出来るのそんなこと」

 

「出来ると思う」

 

実は、だが。

 

今研究しているのだ。

 

小妖精の森にある小川から、アトリエの水源は確保しているのだが。これがどうにも面倒でならない。

 

だから全自動でやろうと思っている。

 

水車とか風車とかを作るよりも、もっと高度な仕組みだ。いっそのこと、すぐ側にあるエリプス湖から塩水を汲んで、それを調整して飲めるようにしてしまおうと思っていたのである。

 

頭の中に青図がある。

 

後は、時間を見て作るだけだが。その時間が、今はあまりにも足りない。そういう現実がある。

 

「とりあえず、今晩中にレントの剣と、リラさんのクローを作っておくよ。 明日の朝、一番に塔にまた向かおう」

 

「俺の剣とリラさんの装備か。 さっき言っていた奴だな。 後はライザの杖か?」

 

「うん。 前衛二人の武装と、あたしの魔術を全力で増幅する……勿論接近戦用でも使える杖。 突貫工事だけど、それで更に戦力が上がる」

 

それだけじゃない。

 

ゴルドテリオンが出来たので、靴も強化するつもりだ。

 

これで切り札の蹴り技が更に強化出来る。古代クリント王国の錬金術師どもを蹴り砕くイメージで作ろう。

 

そう考えるくらいに、あたしは頭に来ていた。

 

「あまり無理はするなよ」

 

「分かってる」

 

「レント、僕達は休もう」

 

クラウディアが、涙を拭い終えると、台所に。

 

ああ、これはつきあうつもりだな。

 

そう思ったので、無言で釜に向かう。

 

リラさんのクローについては、以前調整をした時に重心などの事は把握した。すぐにでも作れる。

 

レントの剣もだ。

 

ただ、レントはまだ体格が大きくなる可能性がある。それにあわせて使えるような剣にしておきたい。

 

旅先で折れるようでは論外だ。

 

レントが一人旅をしていても、敵を悉く斬り伏せられる剣にしておきたい。

 

釜から完成品をとりだす。自分でも少し振るってみる。

 

あたしも農作業で鍛えられているのだ。

 

これくらい振り回すのは、別に苦にはならない。あたしの場合は、杖が魔術増幅の媒体で、使い勝手が良いから杖にしているだけ。

 

それに接近戦では蹴り技がいい。

 

これは単純に、足腰があたしの最強の武器だから、という理由である。

 

そしてここからが問題だが。

 

あたしの体は、多分これ以上背丈は伸びない。

 

胸とかは大きくなるかも知れないが、それは別に蹴り技には影響しない。

 

だから、あたしの装備はこれでいい。

 

あたしの杖と靴の調製も含めて、三つの装備を仕上げると。大きくため息をつく。クラウディアが、パイを温め直してくれていた。

 

「食べたら、すぐに眠ってね」

 

「うん。 わざわざごめん」

 

「酷い話を聞いて、ショックを受けたの。 酷い話は今まで彼方此方で見聞きしてきたけれども、今回のは……本当にあまりにも酷いわ」

 

「そうだね。 あたしも古代クリント王国の錬金術師は、全部蹴り砕かないと気が済まないくらいにはむかついてる」

 

黙々とパイを食べる。

 

既に皆の寝息が聞こえてきている。

 

そんな中、二人で話す。

 

「ゴルドテリオンって、私も商会で聞いた事がないわ。 それくらい凄い金属なのね」

 

「うん。 多分伝説にあるようなミスリルだのと違って、本物だね」

 

「そんなものを使わないと危ないような場所に出向くんだね」

 

「そうなる……ね」

 

クラウディアは、ため息をつく。

 

勿論上品に、だけれども。

 

それでも、やっぱり悲しませているのは事実だった。

 

「冒険がすごく楽しいのも、わくわくするのも事実。 でも、生きて帰れなければ、それは冒険じゃないよ」

 

「分かってる。 だから、みんな生きて帰れるように、最善を尽くすよ」

 

「うん……」

 

後は、クラウディアが先にベッドに。

 

あたしも、自分のベッドで朝まで溶けるようにして眠った。

 

時間が刻々と過ぎていく。

 

異界で頑張っているキロさんのためにも。

 

とにかく。一刻でも早く。

 

あらゆる問題を解決しなければならない。それは分かっているのに、疲れが限界に来ていたからだろう。

 

バタンと眠って。

 

以降は、朝まで目が覚めることはなかった。

 

これだけ鍛えていても、頭だけはどうにもできないらしい。頭は栄養として糖分を必要とするらしいし。

 

これは仕方が無い事なのだろう。

 

ましてやあたしは、錬金術でマルチタスクで脳を酷使している。

 

一度眠るとなると。

 

脳が負荷に応じた眠りを要求するのも、当然かも知れなかった。

 

 

 

翌朝。

 

起きだすと、顔を洗って。庭で体を動かして。それで、朝食にする。大丈夫、みんな冷静だ。

 

冷静に頭に来ている。

 

古代クリント王国の錬金術師の所業。精霊王達がブチ切れるのも当然だ。愚行の巻き添えにされた人達だって。

 

地獄があるのかは分からない。

 

もしもそれがあるのだったら、今頃最深部で古代クリント王国の錬金術師達は煮られているだろう。

 

完全に自業自得だ。

 

レントとリラさんに、ゴルドテリオンで作った武装を渡す。

 

今の時点では、これ以上のものは作れない。二人とも、一振りして満足そうだ。あたしも、自分用の最強の杖を試運転してみて、これでいいと思った。

 

今日、塔にまた行く。

 

今日で、塔の攻略を終わらせる。

 

精霊王が仕掛けて来るかも知れないが。今の装備だったら、或いは相手が本気でなければ撃退出来るかも知れない。

 

そうでなくても、生き残らなければならない。

 

古代クリント王国の生き残り。

 

だけれども、錬金術師どもの生き残りじゃない。

 

それは、今は頭の中で受け入れられている。それによる罪悪感はない。

 

荷車に、必要な物資を詰め込む。

 

そして、皆が揃った。

 

一番心配していたクラウディアも、もう立ち直っているようだった。

 

「昨日、無理をした甲斐があったとあたしは思う」

 

皆の前で、あたしは話を軽くする。

 

これは、必要な事だ。

 

それに、嘘も言っていない。もしも昨日そのまま進んでも、更に酷いものをみたかも知れないし。

 

そうなったら、キャパを超えていたかも知れないのだ。

 

あたしの心はまだ若い。

 

それでも、心には簡単に傷がつく。実際問題、ボオスとの和解には随分と時間も掛かったのだ。

 

だから、少しでも傷を癒やす時間が必要だった。それを理解しているから、あたしは一日おいて良かったと判断した。

 

「今日、塔を調べて、情報を可能な限り持ち帰るよ。 もう時間も恐らくあんまり残っていない。 ここで全ての決着を付けよう」

 

「おおっ!」

 

レントが気勢を上げる。

 

あたしも頷くと、塔に向けて出立すると、皆に宣言したのだった。




※設定について

本作シリーズでは、古代クリント王国の破綻以降、世界の人口が激減したという設定を採用しています。

フィルフサとの戦闘で古代クリント王国が破滅した後、魔物がどういうわけか(後のシリーズで理由は開示します)活性化。一気に人間に襲いかかったためです。

人口は往事の数十分の一。

「軍隊」が死語になっているのは、それが理由です。そんなもの、編成出来ないのです……
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