暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
塔の最上階は、魔物が一匹もいない。エレメンタルや鎧も、最上階に上がろうとはしなかった。
どこまでも広い空間で、一階と同じような構造になっている。
どうやってこの塔が、内部の自重を支えているかは、あたしには分からない。分かるのは、塔の真ん中にばかでかい本があること。
その前に、精霊王「土」がいること。
地面には、此処でも多数の金属片や骨が散らばっていること。
つまり、ここでも散々たくさんの人がフィルフサと戦い果てた、と言う事だ。ただこの辺りに、フィルフサの残骸は散らばっていなかった。
精霊王は「火」ほど幼くないが、10歳前後くらいの見た目をしている。
ただ感じる力は他の精霊王と同じだ。
或いは見た目も、自由に操作できるのかも知れない。
「錬金術師ライザ。 その師アンペル。 そして護衛の者達。 私が「土」だ」
「失礼します。 ここが、今は貴方の場所なんですね」
「ここに据え付けられた、というのが正しいがな」
しばし沈黙が流れる。
「土」の声は敢えて低めにしているらしい。多分本当は、「火」と同じくらい子供っぽい声になるだろうに。
まあこの辺りは、意図的にやっているキャラ付けなのだろう。
此方がどうこうというつもりはない。
「人工島に今は人が住んでいるのだな。 対岸に移れば良いだろう」
「多くの人に今の生活を捨てろっていうのは出来ません。 それに、そんなことを強引にさせたら、古代クリント王国の人間と同じです」
「ほう。 面白い奴だな」
「事実だから告げます。 その考えは間違っています」
時に、危険すぎる場所からの移住を促さなければならない事もあるだろう。
だが、クーケン島はそれなりの規模があって、生活だって既に数百年にわたって土地に根付いているのだ。
それを強引に追い出すというのは、それだけ傲慢な行動だ。
古代クリント王国の錬金術師と、その操り人形と化した古代クリント王国の支配者階級は、それをやった。
同じには、絶対にならない。
移住を促すにしても、絶対的な必要性があって。更には、どうすれば良いのかを示さなければいけないだろう。
それくらいの筋を通す存在で、あたしはならなければいけない。
「ふむ。 今のは敢えて試すつもりで言った。 非礼をわびよう」
「いえ、ある程度そうだとは分かっていました」
「面と向かって私に反論するのは面白いな。 どうやら、私を枷で縛らないと怖くて顔も見られなかった古代クリント王国の錬金術師どもとは違うらしい」
「恐縮です」
ぺこりと一礼。
側でレントとタオがぼそぼそ呟いている。
「ライザがクソ度胸過ぎるだけだよな……」
「正直、こればっかりは同意だよ。 本当に心臓毛だらけなんだと思う」
後で覚えてろよ。
そう内心で思いながら。あたしは順番に話をしていく。
「その大きな本、調べさせてください。 人工島の仕組みが分かれば、内部に入って解析できると思いますから」
「内部に入る?」
「なんなら、枷を破壊したときのように、ローゼフラムで穴でも穿ちます」
これは本音だ。
いい加減あたしも、何もかもに頭に来ている。どうせ兵器運用かなにかでクーケン島を作ったに決まっているのだ。
ギリギリに書かれた手記を見る限り、それらの機能は実装できなかったようだが。
どんな腐った機能を搭載しているか、分かったものではない。
しかも建設的な目的。
例えば自然の汚染が酷くて、それを改善するとか。
人類の新しい可能性のために、空も居住地にする計画とか。
そういうもので人工島を作ったのでは無いのは確定だ。
今までの性根が腐りきった、悪魔が実在したら一緒にするなど怒り狂うような無様を晒している古代クリント王国の錬金術師どもである。
エゴと幼稚で拗らせた全能感を満たすためのオブジェかなにかのために、人工島を建築したのは目に見えている。
クーケン島に必要なのは、浮いている事。それと水だ。大量殺戮兵器とかの余計な機能があったら、全部破壊し尽くす必要がある。
だから、内部に足を運ぶ必要もあるだろう。
時間が限られている今。
あまり無駄をしている暇もない。
あたしは、咳払いしていた。
「あたし達が盗みをしたりしない事は分かっていただけたと思います。 それに、フィルフサを相手に、一緒に貴方たちと戦いたい事も。 今は時間がありません。 何か示せばいいのか、あるのならお願いします」
「互いに苛立ちはピークのようだな。 分かった。 それなら条件を出そう」
「!」
「くれてやる」
空中から、何かが落ちてくる。
それは、どうにも強烈な魔力を込めた何かの形状をしたものらしかった。
精霊王「土」は、ゴミでもみるような目でそれを見ていた。
「それは錬金術師どもが鍵だと呼んでいた。 その人工島のものだろうよ」
「良いんですか」
「ああ、かまわん。 ただし二つ条件がある」
「聞かせてください」
一つ。
精霊王「土」は、敢えて威圧的に言う。
この塔の入口を封鎖し、定期的にそれを確認しろ。
それについては最初からそうするつもりだった。実際問題、そのための道具も今日はもってきている。
家屋用の接着剤。
それだけではない。幾つもの道具を、である。
その返事を聞くと、ふむと唸る精霊王「土」。道具類を見せて説明しても、空返事だった。
こっちも昨日の調査で、覚悟は決めて来ている。
古代クリント王国の畜生どもと同じになるつもりもない。
「二つ。 此処を出たら内部に二度と入るな。 これより、この砂時計が尽きたら、すぐに出ていけ」
どんと、砂時計を置く精霊王「土」。
威圧的な行動だが。今まで彼女の前で人間が何をしてきたか考えれば、むしろ穏当なくらいだ。
あたしはそれについても頷く。
かなり砂時計は大きい。ざっとみた所、二時間くらいは大丈夫だろう。
「分かりました。 此方はそれで問題ありません」
「この階より下にある本やらは持っていけ。 私には無縁のものだ」
「……良いんですか」
「この本も本来だったら焼き捨ててやりたいほどなのだがな。 私の周囲には、錬金術など必要ない。 みたくもない」
それが本音か。
そして、それを言う資格が精霊王「土」にはある。
あたしも、それを理解しているから、すぐに周囲に声を掛けた。
「レント、リラさん! タオを手伝って、必要な本を荷車に詰め込んで!」
「分かった!」
「クラウディアは音魔術展開! アンペルさんの解読を手伝って!」
「うん!」
あたしはあたしでやる事がある。
すぐに外に出て、まず正門をチェック。その後は、塔の周囲で足に魔力を集めて跳躍。外部に出来ている穴などを確認していく。
するべき作業は、これで理解した。
必要な接着剤は足りる。後は石材とかを砕いて埋め込んでいけばいい。
フィルフサを片付けた後は、何ヶ月か掛けてこの塔を、誰も出られない入れない完全な要塞に仕上げる。
それくらいの事は、あたしがする義務がある。
義務も責任も放り出して、エゴだけ満たしていた古代クリント王国の錬金術師と同じにならないために。
更には、良き錬金術師であろうとするために。
それくらいのことは、しなければいけないのだ。
調査を終えて。更に正門だった場所は徹底的に閉じてしまう。一応耐熱試験とかもしてみるが、問題は無い。
ならず者だのが来る可能性はあるから、魔物も完全駆除はしない方が良いだろう。来る事にリスクしかない。
そういう認識を抱かせ。
更にたどり着けたとしても、突破して内部には入れない。そういう風にしておけば、問題はなくなる。
ガチガチに固めて、貯水槽の入口だけを残して。壁側の穴も閉じていく。出っ張りがあるし。
なにより今では、散々悪戯を重ねて来た後だ。
壁を這い上がって、穴を封じていく事くらいは難しく無い。ただ、一度塔のてっぺんに跳躍して。
其処にロープを括ったが。
流石にあたしも、命綱なしでこんな高い所で作業するほど命知らずではない。内部にいる皆の努力を無駄にしないためにも、最大の努力がいる。
壁に開いている穴は、内側から水が漏れたのだろう。
恐らく水を発生させたのは地下の貯水槽の筈だが。あふれ出した水は塔を蹂躙し、こんな上からも漏れ出した。
それだけの水だ。渓谷を通って誘引されていたフィルフサを、此処で撃滅するには充分だったのだ。
凄まじいな。
この塔の硬度は、あたしが全力で蹴りを入れても多分崩れないくらいはある。それなのに、である。
あたしは素直に舌を巻いていた。
技術だけは、本物だったのだ。そう感じながら。
古代クリント王国の後。
人間は何十分の一にも減少した。
フィルフサによる致命的な打撃もあったのだろうが。それによって技術の大半が失われて、魔物が一気に増えたのも理由らしい。それで彼方此方で集落が維持できなくなって。人間は増えなくなった。
死ぬ人間の方が多くなったからだ。
塔を降りる。とりあえず、応急処置は終わった。後は強化改造の青図を頭の中で書いておく。
多分外壁全部を建築用接着剤で固めるくらいの処置は必要だろうと思う。
それだけだと、内部にまだ入る余地がある。
あたしが作る爆弾くらいだったら、突破出来る可能性が出てくるからだ。
だとすると、その後に外壁を固める必要もあるだろう。
考えながら、また階段を上がって奧に。レント達が、本の積み出しを終えていた。
「ライザ、外はどうだ」
「応急処置は終わり。 後は出る時に、入口を閉じておしまいかな」
「はー。 あの塔を上り下りしてきたの? この短時間で!?」
「うん」
タオが眼鏡がずり落ちそうになっている。
いずれにしても、荷車は積み降ろしてくれと頼む。クラウディアも、演奏は終了。忘れ物がないか、最後に音魔術で確認して貰うつもりだ。
あたしはアンペルさんが解読している大きな本に向かう。
巨大な本は台座に据え付けられていて。台座に魔力を通すと、頁をめくることが出来るようである。
アンペルさんは凄まじい勢いで読み進めている。
これは邪魔しない方が良いだろう。
そう思って離れようとすると、呼び止められた。
「ライザ、これをみておいてくれ」
「えっと、あたしに分かりますかね」
「図だ」
「……どれ」
それなら分かる。
なるほど、どうやらこれがクーケン島の図らしい。内部は巨大な空洞になっていて、幾つか分からないものがあった。
ただ、分かる場所もある。
兵器格納庫。
そこには、どうやらこの渓谷で使われた幽霊鎧やゴーレムを搭載する予定であったらしい。
まあ予想通りだ。さっき散々ブチ切れた。今は少し、心も落ち着いて来ている。
「恐らく、此処が島の動力炉だ。 あまり良い状況ではないだろうな」
「分かりました、覚えておきます。 それにしてもこの島、姿勢制御も出来るんですか? 図がそんな感じですけど」
「ああ、そのようだ」
「……ひょっとして、旧市街地がどんどん水没しているのって、傾いているからじゃないですかね」
確認しないと分からないが、その可能性が高そうだとアンペルさんはいう。
どうもクーケン島、想像以上にまずい状態のようだ。出来るだけ急いで修理なり処置なりが必要になるだろう。
とにかく、頭の中に構造を焼き付けておく。
それにしてもこの構造。明らかに、何カ所か。上から入れる場所がある。この鍵は、もしかして。
それにだ、この鍵。見覚えがある。どこだったか。島の何カ所かに、この模様があったような。
タオが戻って来て、一緒に図面をみる。
それで、あっと声を上げていた。
「どうしたの、タオ」
「ちょっとその頁見せて。 メモと確認して見る」
「うん。 これのこと?」
「そう。 ……間違いない。 そういう事だったのか……!」
タオが熱心に色々メモをみている。これは、どうにか時間内に間に合うか。
だが、精霊王「土」としても。此方がしっかり約束を守るかみているだろう。それを破るわけにはいかない。
タオに、時間制限を告げる。既に砂時計の残り時間は半分を切っている。
リラさんが音頭を取って、階下の本の運び出しはしてくれている。どの道この最上階のでっかい本は、持ち出せなかっただろう。
ここでみておくしかない。
メモを取るタオ。何か分かったようなので、任せる。あたしは下の方を確認しにいき、力仕事も手伝う。
先に、話をしておく必要があるからだ。
「この鍵、今チョークで形を写し取ったんだけれど、見覚えある?」
「これ、鍵なのか? どう使うんだ……?」
レントがぼやく。
それもそうだろう。どう鍵穴に差し込んで機能するのか、全く分からないからである。
ただ、これについては見当がついている。
魔術的な鍵だという事は。
この鍵そのものは、破損している。これから戻って修復するけれど、形そのものは崩れていない筈だ。
「恐らくは、本来はただはめ込むだけで魔術的に作用するはず。 ただそうできるような鍵としての機能はこれから修復するけど。 まずそれより先にこの模様、見覚えはない?」
「すまん。 俺はちょっと分からん」
「私分かるわ」
クラウディアが挙手。
頷いて、場所を聞く。
クラウディアが借りている旧市街の邸宅。その近くに、まんまこれと同じものがあったという。
実はあたしも、ラーゼン地区で同じものをみた記憶がある。
ひょっとするとだが、これは鍵の一つであって。全てを動かさないと起動しないのだろうか。
ちょっと分析してみないとなんとも言えないけれども。とにかく、この鍵について先に話しておく必要はある。
荷物の運び出し、完了。
忘れ物がないか、それぞれ確認してもらう。
最後に、最上階に様子を見に行く。アンペルさんが、あたしが来ると頁を戻す。これを覚えておいてほしいと言うのだ。
あたしはこういうのはもうみて覚えてしまう。
文章を記憶するのは苦手だけれど、頭の中で絵図を再構築するのは得意なのだ。あたし自身はそこまで絵が上手ではないけれど。
さっき見せた絵を選べとか、贋作と本物を無作為に並べて言われたら。多分その中から本物を見つけられると思う。
「覚えた!」
「流石だな。 よし、後は落とし物がないことを確認してから、引き上げる。 メモなどを落とすなよタオ」
「分かっています。 ええと、この辺りにも……」
「これ?」
渡すと、タオは有難うと素直に礼を言ってくる。
この辺り、さっきと違う場所をあたしが覚えていたからできる事だ。そのまま、アンペルさんとタオには戻って貰う。
あたしは、ちょっとだけ「土」と話す事がある。
「少し時間残っていますけど、これで引き上げます」
「そうか。 約束は守ったようだな」
「それが、貴方が敵対しない条件でしたから。 今の時代も嘘つきでどうしようもない人間はたくさんいます。 今の王室も、古代クリント王国と大して変わらない人達だと恐らく思います。 でも、今のあたしは少なくとも違う。 それだけは、胸を張って言えます」
「……行くが良い。 枷については私が地力でどうにかする」
ぺこりと一礼。
そのまま、塔の最上階を後にする。
あたしは、約束を守る。
嘘を平気でついたり。約束を破ったり。信念を持った人を嗤ったりすることを、格好良い大人と言うような風潮があるけれど。
あたしは、そうはならない。それだけの話だ。
塔を完全に封鎖する。石材を使って、出入り口を閉じ。建築用の接着剤で完全に固めた。それでもまだ足りないかと思ったので。彼方此方を確認して、風の漏れ出る場所を探し。そして、完全に閉じた。
精霊王は実体化を解除して、彼方此方に自由に出入りできるらしい。だから、出入り口なんて必要ない。
此処は墓所だ。
墓所は他の人が入らない方が良い。後は、周囲に散らばっている人骨を、いずれ集めて葬る。
それはあたしが一年でもなんでも時間をかけてやる事になる。
今出来るのは。クラウディアが奏でる死者への手向けと共に。皆で黙祷することだけだった。
繰り返さないと宣言することは簡単だ。
あたしや、此処にいる面子はそれを誓えるだろう。
だが人間は残念ながら多分幾らでも繰り返す。人間はやっぱり総体としては愚かなのだ。
だから、此処に誰も来ないように、処置を絶対にしておかなければならない。
それは自分の子孫や弟子だろうと同じだ。きちんと処置をしておかなければ、次の世代には過ちを繰り返すものが出る。
それはあたしも分かっているから、徹底的に処置をする。今日やったのは、それだった。
後は、この渓谷には誰も入らないように、何かしらの手を打つ必要もあるだろう。
若いうちだけ聞こえる不快な音があるという。
そういった音を立てる仕組みがあれば、人間を追い払うのは恐らく難しくない。この渓谷は、不快な音に耐えながら進めるほど楽な道程ではないし。耳を塞いでいれば、魔物に奇襲されて命を落とすだけだ。
年老いてからのここの踏破は更に困難になる。
道中で一部道を改装したりもしたが、それは後で手を入れて置こうとあたしは思う。
それくらいしておかないと、人を避けるのは無理だろう。
それと、此処の真相は後で何かしらの形で残しておきたい。レントだって、ここが墓場だって知っていたら。
此処に来るのを目標になどしなかっただろう。
後は、無言で渓谷を抜ける。
禁足地を出た辺りで、既に陽が落ち始める。だが今日は、まだやる事がある。戦闘もほとんどやっていないし、体力には余裕もある。
勿論至近で精霊王「土」の強烈なプレッシャーを受け続けたが。ギリギリの戦闘の連続だった最近に比べればマシだ。
「本のつみおろしはあたしとリラさんがやっておくよ。 明日はあたしも行くけれど、今日は皆にお願い出来る?」
「例の調査だよな。 分かってる」
「任せておいて。 僕も土地勘はあるからね。 アンペルさんと組んで調べて見る」
「私もお父さんに進捗の話をして、それから鍵穴の調査をして見るわ」
アトリエの前で、軽く話をする。
こう言うときは、決定権がある事が助かる。決定権が誰にも無い場合、そもそも話し合いで無駄に浪費するだろう。
勿論反対意見が出た場合、それをないがしろにする場合は無い。
皆に探して貰うのは、クーケン島の鍵穴だ。勿論夜にはアトリエに再合流してもらう。
あたしは、あたしでやる事がある。
リラさんと一緒に、本をアトリエに運び込む。
大事に積み込まれているのが分かる。
本そのものに罪はない。
罪があるとしたら。
こんな本であっても、悪用することを考える人間そのものにだろう。
あたしも短時間で人間の業をあまりにも見過ぎたせいで、そう考えるようになってきている。
世の中には絶対に許せない悪人がいるし、そういう輩は反省する事は絶対にない。それもよく分かった。
本を積み降ろしする作業はあんまり時間もかからない。
力だって、今は錬金術の装備で何倍にも増幅されている。この量の本だと、本来は腰が砕けるくらい重いことだって分かっている。それでも、殆ど苦にはならなかった。
「あまり思い詰めるな」
「ありがとうございます、リラさん」
「古代クリント王国の錬金術師連中が反吐が出る外道だったのは事実だ。 だがライザ、お前は違う。 違う事を示した。 後は違うままでいろ。 それだけでいい」
リラさんはそう言うと、ソファにごろんと横になる。
あたしは頷くと、釜に向かう。
アンペルさんとタオとクラウディアの武装を作っておく必要がある。
パンプアップ用の装飾品も考えたい。
それに、爆弾だけではない。
強力な魔術を何十倍にも増幅した道具も作っておきたい所だ。
無言で釜に向かい、それぞれの装備を作っていく。タオのハンマーを作った後、少し余力があったので。剣を作る。
タオの背が伸びたときの事を考えて、それなりの大きさの長剣でいいか。
タオの両親は、それほど背が高い方ではなかったが。別に人間の背丈なんて、親に完全依存するわけでもない。
親に凄く似ている子供はたくさん知っているが。同じくらい親と全く似ていない子供だって知っている。
長剣を作り終える。これはタオが旅に出るときに渡すといいだろう。なお、長い長剣と短い長剣を作った。
二刀流は基本的に同じ長さの剣よりも、違う長さの剣を使う事が多いらしい。ただそもそも二刀流の剣士が殆どいない事からも分かるように、本来はかなりの高等技術。それでいて対人戦では強いかも知れないが、魔物との戦闘で圧倒的優位を発揮できる訳でもないので。そこまで人気がある訳でもないそうだ。
短い長剣を作ったのは、タオの背があまり伸びなかったときのためもある。
剣は基本的に一本で大丈夫だし。
いずれにしても、もしもタオが何処かしらに旅に出ることがあったのなら。餞別として渡す。
夜遅くになるまで、皆は戻ってこなかった。
心配はしない。魔物の群れと散々やりあい、ドラゴンまで倒したのだ。今更事故なんて、起こすとは思えなかった。