暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
レントくんやタオくん、ライザもそう。みんな、クーケン島の事を嫌っている。いや、「嫌っていた」。それをクラウディアは知っていた。
島の外に行く力がほしい。
みんな、最初はそれだった。
クラウディアだって、籠の鳥でずっといるのはいやだった。だから、ライザ達が籠の鳥をやめる手助けをしてくれた時は本当に嬉しかったし。
これ以上もない最高の友達が出来たとも思った。
みんな仲が良くて、喧嘩する事も滅多にない。
クラウディアが料理を失敗したときも、素直にそう申告することができたし。
皆でミスは補いあう仕組みを自然と作れていた。
本当に素敵な仲間だ。
だからこそ、ボオスくんとの確執は心配だった。
それで、異界では勇気を出して。みんな仲良く戻れるように、必死になった。みんなそれを聞いてくれた。
友達でも家族でも、他人だ。
だから求めすぎるのは良くないのだと、以前クラウディアは聞いたことがある。今の時点では、ライザに色々と恩がありすぎる。他のみんなにも。
酷いものをみて、心に衝撃を受けたときでも、みなは立ち止まってクラウディアを待ってくれる。
分かっている。
クラウディアが皆の中では一番子供だ。
だから。そんな子供をしっかり待ってくれる最高の仲間を、クラウディアは大好きだった。
久しぶりに家に戻った気がする。実際には商会には何度も顔を出しているのに。
お父さんは忙しいのに、すぐに出てくる。
クラウディアを心配してくれていると、今は素直に受け取ることが出来る。
実はクーケン島に来るまでは、内心で鬱陶しいとまで思っていた。今では、それもなくなっていた。
誰だって心には後ろ暗いところがある。
それを教えてくれたのはライザ達だ。
それでも受け入れてくれたのもライザ達だ。
だから、ライザ達の為だったら。クラウディアは、いずれ逆に何か返せるものを返したかった。
「遅かったねクラウ。 今日の冒険では危ない目には会わなかったかい」
「大丈夫よお父さん。 それよりも、こういう模様をしらない?」
「何処かの家紋か? ……分からないな、すまない」
「実はクーケン島の彼方此方にこれがあるの。 今日の冒険で、このクーケン島に関する重要な事が分かってね」
お父さんが、話を聞いてくれる。
順番に話していく。メイドのフロディアが、音もなく茶と菓子を出してくれるけれども。
だいぶ力がついてきた今も、フロディアの気配はまったく分からないし。
その強さの底が知れない。
リラさんと互角か、それ以上かも知れない。だが流石に、あのキロさんほどではないとも思うが。
「この島が、人工のものか……」
「それも未完成のものらしいわ。 本来はこの島を別の用途に使うつもりだったらしいのだけれども。 作りかけの人工島を、あの乾きの悪魔達から逃れるための避難所として活用して。 人が居着いたようよ」
「なるほどな。 アンペルさんやリラさんもいてそういう結論に至ったのだろう。 ドラゴンとの戦いの事は皆からも聞いているし、それ以上の存在がいてもおかしくない。 あながちいい加減な話をされて信じ込んでいるとは思えない」
「うん、分かってくれて嬉しい。 明日から、この島を調査するわ。 時間があまりない。 乾きの悪魔がたくさん世界に溢れてくる時間が迫っているの」
まだ、ちょっと勇気が出ない。
お父さんは分かったというと、クラウディアの言葉を信じてくれた。
これがあまり良くない親だったら、心配しているという言葉を口実に。自分が理解でいなかったり、或いは荒唐無稽だと思った事を頭から否定したりするものだが。お父さんはそうしない。
それだけでも、ましな人なのだと良く理解出来る。
この島に来るまでのクラウディアは、それも理解出来ていなかった。
今思うと、とても恥ずかしい事だったのだと思う。
「そろそろ行くわ。 みんなと合流して、明日にはなんとかこの島の仕組みを解明しないと。 この島に生きている人達のためにも」
「分かった。 頑張って来なさい。 私にできる事なら手伝うからな」
「うん、ありがとうお父さん」
そのまま、家を出る。
周囲を確認して、二箇所に例の紋様があることを確認。モニュメントみたいになっている場所に刻まれていたりするが。
これは多分、最初からあったものであって。
島の人達が作ったものではないのだろう。
触ってみるが、魔力などは感じない。同時に、石材としては異質だとも思った。恐ろしく硬い。
最悪の場合、ライザはローゼフラムで無理矢理穴を開けて島の中枢に侵入するつもりだろうが。
それは最後の手段だ。
何が起きるか分からないし、クラウディアも止めた方が良いと思う。
島を調べて回って、最終的にライザのおうちの裏手で合流。軽く話をしながら、レントくんと一緒に船を漕ぐ。
レントくんが後ろで。クラウディアが前で櫂を使う。
これも、すっかり慣れてきた。
「なる程な。 合計で十箇所か。 場所については、アトリエで地図にまとめよう」
「思った以上にあるな……」
「だが、恐らく殆どは増幅装置とみていい。 鍵穴は非常に厳重に作られているようだな。 恐らくだが、内部の制御装置を管理する一族が存在していて、その一族だけは制御装置を管理する知識を持っている……そんなところだろう」
タオが多分そうだろうなと、アンペルさんが続ける。
タオが。えっと声を上げるが。
確かに、状況証拠から考えて、クラウディアも同意見だ。ただでさえ本が貴重なこの世界で。
あれだけの本を、田舎なのに持っているのはおかしい。
クラウディアもいろんな所を見て回ったけれども。
活版印刷の技術はどんどんロストテクノロジーになっていて。今では動いている印刷機は殆どないらしい。
それ以上に悲惨なのが紙。
品質がいい紙は、どんどん出回らなくなっている。これもあって、ライザが作るゼッテルを販路に載せられたら、多分バレンツ商会は大もうけ出来るだろうと、クラウディアも商売人らしく考えたりもする。
本なんかは、恐らく今後は手書きのものが主流になる筈。
一部では羊皮紙なんかも出回り始めているという話で、この世界のテクノロジーの没落は想像以上のものになっているのだ。
服だって、クラウディアが台無しにしてしまった絹服のようなものは、もう何世代かしたら値段が何倍も跳ね上がる可能性がある。
そういう世界で、本がたくさんある。
それについては、おかしいと考える方が自然なのである。
「アトリエで軽く話を整理して、明日に備える。 島の中枢には簡単に入れるとはとても思えない。 残る時間が少ないのも事実だが、それ以上に慎重に動くぞ」
「はいっ!」
みんなで元気よく応える。
大丈夫。
ライザと。みんながいれば。フィルフサの群れだってやっつけられる。
そう、子供のように無邪気にクラウディアは信じていた。
無邪気に信じられると、確信していた。
(続)
塔にあった罪業の記録とクーケン島の真相。
見せつけられた悪夢の歴史を前に、立ち止まることは許されません……
ライザは既に対応できる力を持っています。
故にその義務を果たします。
ライザはそういう奴です。
だからこそに、ライザは恐らく、古代クリント王国の錬金術師と「違う」のです。