暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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塔にて知ったクーケン島の真実。

ただの田舎の島では無かった故郷の臓腑に、今ライザ達が潜ります。


見知った故郷の臓腑
序、久々の島


たいして時間は経っていない筈なのに。クーケン島に降り立つと、久々に来たように思ってしまう。

 

朝一番に、アンペルさんに小型の戦闘用魔力増幅杖。クラウディアに大弓。更にはタオにはハンマーを渡した。

 

タオ用には二振りの剣を作ってあるのだが、これはいずれ餞別として。もしくは剣を本格的に使いたいと言い出したときに渡す。

 

前も剣の訓練はしていたが。

 

今の時点では、剣の訓練をする暇が無い。

 

それもあって、タオはハンマー一本で良いだろう。ただ背丈が伸びたら、ハンマーも柄を伸ばしたり調整したりする必要が生じるだろうが。

 

それはそれとして、ハンマーにはまだ使い路があるかも知れない。

 

今研究しているのは、水を広範囲にぶちまける道具だ。これについては、レヘルンなどを調整して今工夫しているのだが。

 

これと同じように、ハンマーを自動で動かせないかと思っている。

 

ハンマーはいうまでもなく質量兵器で、自動で動いて敵の背後などを強襲出来れば、絶大な破壊力を発揮できる。

 

道具を魔術で浮かせて、自動攻撃するような魔術師はいる。確かテレキネシスとかいうらしい。

 

ただそれはそれ、これはこれ。

 

あたしは錬金術で、それを再現する。それだけだ。

 

島に降りた後は、クラウディアと組んで、アンペルさんがくれた地図を手に歩く。その途中、すれ違った人とは挨拶する。

 

牧場に出向く。

 

相変わらず動物の匂いが強烈だが。

 

虫は全然平気と言っているように。お嬢様という絵姿そのままのクラウディアは、気にしている様子もない。

 

牧場の一角にも、やはり紋様がある。

 

それは、魔法陣を描くようにして、島の彼方此方に配置されているようだ。恐らくは水没してしまっているものもあるそうだ。

 

昨日見つけて来たものの中から、アンペルさんが場所を分析して、大まかな位置については特定してくれた。

 

それが特定し終わったら、皆で集まって再分析。

 

一度アトリエに戻って、鍵を修復して。魔法陣の中心。鍵穴となっている地点に出向く事になる。

 

これらは朝に話をして決めたことだ。

 

だから、特に問題はない。

 

知らない人がいる。

 

軽装の皮鎧を着た、ふわふわした雰囲気の人だ。薄紫の長い髪の毛が、ふわふわな印象を更に強くしている。穏やかそうな表情をしていて、ヤギ農家をしている知り合いのおばちゃんバジーリアさんの所で談笑している。

 

バジーリアさんはあたしが最近作った蜜結晶を卸している農家で、それで色々と料理を作る事に挑戦しているらしい。

 

昨日の夜クラウディアが持ち帰ってきた、此処産のミルクのプディングはなかなかの絶品で、凄いと思った。

 

あたしは調味料は作れるが。

 

緻密な作業を必要とするお菓子作りは、あまり得意ではない。自分に出来ない事を出来る人。自分が知らない事を知っている人を尊敬する。

 

人として、当たり前の事だった。

 

「ライザかい。 それにバレンツのお嬢さんも」

 

「おはようございますバジーリアさん。 其方の方は?」

 

「パミラさんというそうよ。 彼方此方を冒険していらっしゃるんだって」

 

「あらー。 貴方がライザね。 パミラよ。 よろしくお願いねー」

 

ふわふわと喋る人だ。

 

実力も一見すると大した事が無さそうだが。

 

なんかおかしい。

 

この人、見た目と実力が、全く一致していないのではないか。散々修羅場を短時間で潜った事もある。

 

どうしても、そういう風に思うようになっていた。

 

「パミラさんはうちのプディングを絶品だと言ってくれたのよ」

 

「卵とミルクを使うタイプのプディングはあまりメジャーじゃなくて、私も探すのが大変なのよー。 ここのは甘くて素晴らしいわー」

 

「そんなに褒められてもこれ以上何も出ないわよ」

 

「ははは。 そうですね」

 

パミラさんは、優しそうな笑顔であたしに接してくるが。

 

なんだろう。

 

どうもみられているような気がする。悪い印象はないのだが、体の芯が警戒をしろと告げてきているような。

 

手を振ると、パミラさんは行く。

 

一応バジーリアさんにもこの辺りの紋様を聞いて、様子を見に行く。やはり、紋様はあった。

 

子供達が座るのに使っている石の台座に刻まれている。あたしも昔は同じように使ったのだけれども。

 

これは。

 

厳しい表情でみていると、子供達が来る。

 

「ライザ姉ちゃん! クラウディア姉ちゃんも! どうかしたのか?」

 

「あー、今この模様を探しててね。 此処にあるのを思い出して、見に来ていたんだよ」

 

「これ、他にもあるよ」

 

「うん。 今、何処にあるのかを探しているんだよねー」

 

何か楽しい悪戯なのか。

 

そう子供達は目を輝かせるが。

 

あたしが咳払いすると、ぴたりと黙る。遊んでいるのでは無いと、示すためのサインだ。これで黙るくらいには、上下関係は叩き込んである。

 

あたしはどうも怒らせると怖いと認識されているようで。それはある程度意図的にやっている。

 

というのも、いずれ島で教鞭を執ってほしいと言われているので。

 

子供らに舐められるわけにはいかないのだ。

 

たまに蹴り技も披露する。

 

子供は強い相手を尊敬する生物的な仕組みになっているし。

 

邪魔な岩を蹴り砕いたりするのを見せてやると、それだけで圧倒的な戦力差を感じて黙る。

 

子供相手はそれでいい。

 

別に直接暴力なんか振るわなくても、子供は幾らでもどうにでも出来る。

 

勿論暴を見せるだけでは子供は怖れて逃げていくだけだ。

 

魔術を使っての知も見せる。

 

絶対に勝てない相手だと悟らせる事で、子供達はあたしとの上下関係を理解する。それで今はかまわない。

 

子供達を行かせる。

 

あたしはそのまま、次の場所を調べに行く。大まかに、この辺りにありそうだという場所をアンペルさんは地図に示してくれたが。それ以外の場所にも結構印は存在していた。いずれもが鍵と言う訳ではないのだろう。

 

ただ、手元にある印の写しと見比べる。

 

どうみても、一致している。

 

これが今までどうして話題にもならなかったのか。

 

それは多分、あまりにも普通にあるので、誰も気にしなかったからだろう。

 

田舎の人間は、隣で何が起きたかは詳細に知っているし。

 

非常に迷信深い事も多い。

 

それは古老の言動や、周囲の家で何があったとすぐにあたしの耳に届くことからも明らかである。

 

一方で、農作業や漁業で忙しく。

 

ブルネン家の人間みたいな例外中の例外を除くと、大人は意外と殆ど暇を持っていないものなのだ。

 

クラウディアの話によると、これはどこも似たようなもので。

 

特産品が山ほど採れて売れるような場所を除くと、殆どがみんなそうらしい。

 

商会でも中々足を運べないような場所がそうだと。

 

現地はだらけきった大人と、それに反発する子供達で色々と空気が最悪なのだとか。

 

まあ、だいたい想像はつく。

 

実際クーケン島でも、護り手に任せておけば。島に魔物が乗り込んでくることは少なくとも今まではなかったのだ。

 

だから古老が伝統がどうだのと口に出来ていた訳で。

 

人さえある程度誘致できていれば、それで何とかなっていたのである。

 

閉鎖的な集落でも、最低限の安定を確保できる環境で。働かなくても良い状況だったのなら。

 

きっとそれは。怠惰に人間は支配されるだろうし。

 

逆にそれが故に、村の中の事は隅々まで知っているのかも知れない。

 

そういった場所だったら、或いは今探している印は即座に分かったのだろうが。

 

代わりのリスクがあまりにも大きくなりそうなので。

 

羨ましいとは殆ど感じなかった。

 

村の中を歩いていると、声を掛けられる。夕方に風呂に入るから、今のうちに熱々に湧かしておいてほしい、というのだ。

 

知っている人だ。家の風呂もかなり大きめ。だったら湧かしておいて蓋をしておけば、夕方には丁度良い熱さになっているだろう。

 

ただ、確か家にはちょっと痴呆気味のお爺さんがいたはず。

 

大丈夫かと確認すると。

 

そのお爺さんは、夕方までは戻って来ないのだそうだ。

 

まあ、嘘をついていると言うことはないだろう。

 

風呂を沸かせる。今のあたしの魔力なら一瞬だ。むしろ風呂桶を焦がさないように注意しなければならない。

 

風呂を沸かすのは、それこそなんぼでもやってきていること。小遣い稼ぎに丁度良いからだ。

 

こういった行動で魔力を練っていたのが、今につながっているのだと思うと。

 

あたしも、この小遣い稼ぎには意味があると思う。

 

最後に風呂をかき混ぜて。手を実際に入れて温度を確認。

 

これだったら、何かあっても火傷するようなことはないだろう。風呂を閉じて、それでおしまい。

 

小遣いを貰っておく。

 

礼を言われるので、ついでに印について聞く。家の裏手にあると言うので、早速見に行く。

 

確かにある。

 

メモを取っておく。しかもこれ、恐らく石碑にある当たりのタイプだ。そうなってくると、これは本当に何処にでもあるのかも知れない。

 

見つけても、下手に鍵を当てないようにとアンペルさんは言っている。

 

アンペルさんは、持ち帰った資料を片手に、島を回っているのだろう。もうアンペルさんをよそ者呼ばわりする人間はいない。

 

あたしが様々な厄介ごとを解決している間に。

 

錬金術への印象が、少しずつ良くなっているからだ。

 

クラウディアが、声を掛けて来る。

 

「ライザ、あれ見て」

 

「うん……おっ……!? 良く気付いたね」

 

「私みたいなこの島では新参の方が、気付きやすいのかもね」

 

くすくすとクラウディアは笑う。

 

島の高台の方。

 

まんま、大きな印があるのを見つける。それも、地形に沿って大きく刻まれているようである。

 

これは確かに発見だ。

 

二人で歩きながら、話しかけられたら相応に応じる。

 

何々をしてくれ、という依頼も様々だ。

 

一度アトリエに戻らないと無理なものも。その場で出来るものもある。

 

湯沸かしは、クラウディアも出来るのでやって貰う。

 

あたしが見ている限り、特に問題もなさそうである。

 

「魔力量は凄く多いね。 音魔術も矢もあれだけ使えれば、それはどんどん伸びるよね」

 

「ありがとうライザ。 今後はね、魔術で弓矢そのものを生成して、同じように生成した分身か小人かに撃って貰おうって思ってるの」

 

「おお、更に手数を増やすと」

 

「でもそうすると魔力の制御が大変になるでしょ。 こんなに色々な経験を積めるのは多分此処を離れてしまうとしばらくはないから、今のうちに練習しておかないとね」

 

旧市街に来た。

 

地図にある地点には印があるが、それ以外にも印が結構ある。苔むした岩に刻まれているものもあった。

 

ここまで見境なく印があると、確かに気付けなくてもおかしくは無いか。

 

腕組みして考え込んでいると。クラウディアが言う。

 

「あのさ、ライザ。 せっかくだから、うちに寄っていって」

 

「うん。 あの邸宅大きいし、印も中にあるかもしれないね」

 

「それもあるんだけれど……丁度お父さんがいるから。 ライザがいれば、勇気を出せるかも知れないから」

 

そうか。

 

やるんだな、ついに。

 

あたしは笑わない。

 

クラウディアは勇気を出して、いざという時には皆を助けてくれた。ボオスと仲直りできたのだって、クラウディアが色々第三者の視点から指摘してくれたからである。

 

邸宅に行く。

 

まずはメイドのフロディアさんが出て来たので、地下に案内して貰い、家屋用接着剤の様子を確認。

 

大丈夫だ、ばっちりである。

 

フロディアさんは無意味な事は一切喋らないのだが。

 

意外な事を不意に聞かされる。

 

「バレンツ商会は、この邸宅を永続的に借りる判断をしたようです。 その場合、此処の主は私が任されることになります」

 

「えっ。 ええと、販路の確保とかそういう理由ですか?」

 

「凄いわフロディア。 大出世ね」

 

「いえ、それほどでも」

 

フロディアさんはメイドとは言うが、そもそも執事同然の仕事をしているようであるのだから。

 

まあそれも不思議ではないだろう。

 

ただフロディアさんって、どうも権力欲とかありそうな方には見えないので。その辺りはちょっと不思議だ。

 

いずれにしても、ルベルトさんはこの島を気に入ってくれたと見て良い。

 

あの人は、最初は厳しめに接してきたけれど。

 

きちんと誠意を見せて対応してくれる立派な大人だ。

 

ああいう人だけだったら、古代クリント王国みたいなゴミカス国家は存在しなかっただろうに。

 

其処を外道錬金術師どもが好き勝手にする事もなかっただろうに。

 

そう思うと、色々と複雑である。

 

ルベルトさんは、執務をしていた。挨拶をすると、顔を上げて挨拶を返してくれる。そして時間を割いて、応接室で軽く話をしてくれる。

 

乾きの悪魔……フィルフサの問題については、クラウディアが共有しているはず。

 

現実離れした話も多いが。それでもルベルトさんは真摯に向き合って対応してくれているようすだ。

 

もしもこれで、話半分で聞いているようだったらあたしは何となく分かる。

 

だがこの人は、もうあたしを信頼していて。それで話も信じてくれているようだった。

 

それにこの人は、正論をちゃんと聞ける器も持っている。

 

正論を言う事を嫌がる器が小さい人間もいるが。

 

この人は違った。

 

そういうことだ。

 

まずはフロディアさんが茶を出してくれる。今日はお菓子をクラウディアが持ち込んでいる。

 

アトリエのキッチンで焼いたものだ。

 

一口食べて見て、ルベルトさんは喜んだようだった。

 

「これはとても良い味だ。 ライザくんが作った例の蜜によるものかい?」

 

「ええ、お父さんの口にもあってよかった」

 

「商談は概ね上手く行っている。 恐らく、乾期が本格的に到来する頃には、島を離れる事になるだろう。 ライザくん、それ以降は、君がここでのバレンツ商会との大事なパイプ役になる。 ひょっとしたら、色々な物資を売ってくれと頼むかも知れない。 その時には頼むぞ」

 

「分かりました。 出来る範囲で対応します」

 

さて、此処からだ。

 

クラウディアと目配せ。

 

クラウディアは頷くと、咳払いしていた。

 

「あの、お父さん」

 

「どうしたんだい、クラウ」

 

「あのね……演奏を聴いてほしいの」

 

怪訝そうにするルベルトさん。

 

クラウディアは大事なフルートを取りだすと、立ち上がった。フルートを口に当てるクラウディア。

 

凄い魔力量だ。

 

背中に翼が見える程である。魔力量が濃すぎると、こういう現象が起きる。意図的に濃くしなくても、場合によってはエーテル化して辺りに溢れる。

 

それくらい今のクラウディアは、魔力量が上がっていると言う事だ。

 

演奏が始まる。

 

アトリエでみんなで聞いた曲。

 

ボオスと仲直りしたときに聞いた曲。

 

前よりも更に技量が上がっている。

 

余裕を見て練習しているのをあたしは知っている。それだけ成果が出ている、と言う事である。

 

ルベルトさんは。ずっと怪訝そうにしていたが。

 

途中であっという顔になった。

 

知っている曲なのだろう。

 

そして複雑そうな表情をする。曲が終わると、あたしは拍手。クラウディアは、やり遂げたと顔に書いていた。

 

「これは……母さんの曲だね」

 

「うん。 お母さんが吹いてくれた曲」

 

「確かに上手くなっているが、どうしてこれを今になって?」

 

「この曲を吹くと……お父さん、悲しそうな顔をしたから」

 

ルベルトさんが、普段は崩さない表情を崩す。

 

なんともくしゃくしゃに。

 

なるほど、そういうことだったのか。

 

クラウディアのお母さんは今、田舎で静養中だそうである。命に別状はないものの、商会と一緒に彼方此方に行ける程頑健でもないそうだ。

 

クラウディアはずっと商会と一緒に行動して生きてきた。

 

恐らくは、ルベルトさんが跡継ぎにと望んだからなのだろう。そしてこれは、婿養子を取ってその人物に任せるという安易な判断ではなく。商会さえ継いでくれれば、後は何でも好きにして良いと言う意思の表れでもある。

 

クラウディアはそんな旅の中で、ルベルトさんがこの曲を聴くと寂しそうにするのに気付いて。吹けなくなった。

 

だから練習して。

 

冒険の中で心身共に努力を続けて。

 

勇気を出せるように頑張って来た。

 

それをあたしは知っている。

 

だから、この演奏を尊いものだと思ったし。やっと、クラウディアは勇気をいつでも出せるようになったという事だとも理解した。

 

「そうか。 この曲を練習するために、時々隊商を離れていたんだね」

 

「うん。 お父さん、ごめんね。 やっと全部やる勇気が出た」

 

「此方こそすまなかったね。 娘にこんな風に気を遣わせてしまって」

 

ルベルトさんが、情けないと顔に書いた。

 

そしてあたしを見ると、頭を下げる。

 

「クラウディアが此処まで出来るようになったのは、間違いなく君のおかげだライザくん。 そう遠くない未来、私とクラウディアはこの島を離れるだろうが、いつまでもクラウディアと友達でいてくれるか?」

 

「勿論です」

 

「そうか。 ありがとう」

 

友達がたくさんいると自称する人間はいるが。殆どの場合、それらの友達は主観的なもの。

 

また、友達と言う価値観もたくさんある。

 

だが、今のあたしとクラウディアは、本物の親友だ。

 

得がたい、一生ものの親友。

 

立場も何もかも違うけれど。多分性別が違ったとしても、ずっと親友であることに代わりは無い。

 

クラウディアは目の涙を拭うと、そろそろ行こうと促してくる。

 

もう、クラウディアは。完全に籠を出た。心にあった枷は、完全になくなったのだった。

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