暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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まずは、人工島だと判明したクーケン島の状況調査です。

一つずつ、山積している問題を解決していかなければなりません。


1、島の紋様と内部への入口

一度あたしの家の裏手の浜で合流。皆が集まって、それぞれの成果を見せる。

 

やはり、十箇所どころじゃない。

 

三十箇所以上で、紋様は見つかっていた。しかも、想像以上に大きい紋様も幾つもある。

 

なお、途中からボオスも協力してくれて。

 

ブルネン邸にある紋様についても、調べてくれたようだ。短時間だが、幾つか見つかっている。

 

その中には。大きな石碑に刻まれているものもあったという。

 

「これは却って分からなくなったな。 水没しているものもこれでは相当数あると見て良い」

 

「一度アトリエに戻りましょう。 昼ご飯を食べてから、また考えて整理しましょう」

 

「そうだな。 ライザの言う通りだ」

 

「丁度良さそうな魚があったから買ってきたよ」

 

タオが大きな魚を見せる。この辺りでは珍しく無い魚だ。良く太っていて美味しそう。みんなの分しっかりある。

 

頷くと、一度アトリエに戻る。

 

汽水湖は恐ろしい程静かだ。これは嵐の前の静けさ、と見て良いだろうか。

 

一度アンペルさんに確認する。

 

「聖堂に仕掛けたフィルフサの検知装置、大丈夫ですか?」

 

「ああ。 だがこの様子では、後何日もつか」

 

「明日からは手分けして、聖堂を見張る人間と、島の調査をする人間に別れた方が良いかも知れないな」

 

レントの言葉ももっともだ。

 

ともかく、クラウディアとレントが漕いで、船を進める。

 

途中でバレンツ商会が今後居着くことや。

 

あのメイドのフロディアさんが残留することなどを告げると。レントは、気まずそうにした。

 

「あのメイドさんか……」

 

「レント、ひょっとして苦手?」

 

「ああ。 なんつーか、ちょっとこええ。 すげえ強い人だってのは分かるし、一度剣術とか見てもらおうと思ってはいたんだが。 なんか得体が知れないんだよなあの人……」

 

「正直に言ってくれて嬉しいけれど。 フロディアは何度も私を助けてくれたの。 きっと誤解され易いだけだと思うわ」

 

クラウディアがフォロー。

 

レントもすまんと即座にわびていた。

 

だが、実の所。

 

あたしも同意見だ。

 

力が上がれば上がるほど、フロディアさんの異常さが際だってくるのである。あの人、実力的にはリラさんと同等かそれ以上と見て良い。

 

アガーテ姉さんは王都で騎士試験を実力突破した程の使い手で、要するに世界にいる剣士の中でも超上澄みの人間だが。

 

それでもアガーテ姉さんとフロディアさんが戦った場合。

 

はっきりいってアガーテ姉さんが勝てるビジョンが見えないのだ。

 

力がついてきたからこそ分かる。あの人の実力、ちょっと度が過ぎている。王都にはあの人と同じ顔をした「一族」がたくさんいるとクラウディアには聞いたが。

 

もしもその一族が王族を潰そうとか思ったら、一日で王宮なんか陥落して全滅するのではあるまいか。

 

勿論、クラウディアがこれ以上言うと不機嫌になるだろうし、言わない。

 

ただクラウディアも実戦を潜ってきていて、フロディアさんの異様な実力については気づき始めているはずだ。

 

今まで隊商を離れて問題を起こしたとき、或いはフロディアさんが解決していたのかもしれない。

 

本当に何者なのだか。

 

アトリエが見えてきた。

 

一度アトリエにて、少しくつろぐ。その後は、まずは鍵の修復からだ。これについては簡単である。

 

魔石や宝石を使って、魔力を補填し。

 

欠損部分を修復するだけだ。

 

エーテルによって要素を抽出し、付け加えていくだけでいい。アンペルさんが言う所によると、錬金術によるこの修復作業はかなり難易度がたかいらしく。あっさりこなすあたしを見たら、昔の同僚達は泡をふくだろうと。

 

それはそれで痛快ではある。

 

さて、材料だが。魔石をどんどん投入する。

 

島にもたくさん魔石はある。

 

塔にあった兵卒という人の手記からして。大量に持ち込んだ土砂の中に、魔石も紛れていたのだろう。

 

それに魔石は、後天的にかなりの速度で出来て成長するとも聞いている。

 

魔力が強い人間が多かったから、短時間で大きくなったのかも知れなかった。

 

「ライザの方は大丈夫そうだね。 アンペルさん、それで何か分かりそうですか?」

 

「今色々なパターンについて解析しているが……タオ、お前はどうだ。 お前の家にあった本には何か書かれていないか」

 

「そういえば、気になる事はあります」

 

「聞かせてくれ」

 

何か童歌のようなのを、タオが歌っている。

 

内容についてはよく分からないが、単純に抽象的な童歌そのものに思えた。

 

さて、鍵の修復は大詰め。

 

底無しに魔力を吸い込んでいくなこの鍵。それだけ容量がばかでかい、ということなのだろう。

 

無言で修復を続けて行く。魔石の在庫がそろそろ尽きるかな、という所で修復が完了。後ろでは、アンペルさんがなるほどなと呟いていた。

 

「鍵、直りました」

 

「よし、見せてくれ」

 

アンペルさんが、エーテルから引き上げたばかりの鍵を見る。ちょっと吸い上げた魔力が尋常では無かったので、あたしも冷や汗。

 

魔石には相当な魔力が込められている。拳大の大きさでも、あたしの全力で放出する魔力と匹敵するほどだ。

 

かといって爆発したりするわけでもないのだが。

 

それを、荷車一つ分くらいは投入した。

 

この鍵は、或いは兵器なのかも知れない。

 

「完璧な修復だ。 彼方此方でロストテクノロジー化している機材を修復したら、それだけで一財産作れるだろうな」

 

「ありがとうございます、アンペルさん。 でも、テクノロジーが失われてしまっているなら、それでは駄目ですよね」

 

「ああその通りだ。 テクノロジーがなければ、またいずれ壊れるのを先延ばしにするにすぎん」

 

「技術には、罪はないんだなって思います」

 

いずれにしても、今後技術の復興は必須だろうとあたしは思う。

 

だけれども、どうせそれらの技術は兵器運用されるだろうし。

 

人間が増えてくれば、いずれ人間同士の間でも、アーミーなどが戦争を行うのかも知れない。

 

フィルフサ以上の脅威に、時には人間はなるのだ。

 

あたしの後の世代に、あたし以上の、しかも性格が悪い錬金術師が出現しても不思議ではない。

 

過去の錬金術師の所業を知った今。

 

どうしても、この辺りは極めて複雑で。

 

簡単に結論なんて、出そうにもなかった。

 

「タオの童歌を聴いていて、ほぼ確信できた。 多数島にある紋章は、全てが何かしらの機能のトリガーになっていると見て良い」

 

「どういう事ですか?」

 

「下手に触ると、何が起きるか分からないと言うことだ。 ただクーケン島を兵器として古代クリント王国の錬金術師どもが作ったとしても……未完成だろうから、あまり無茶な機能はないだろうがな」

 

それでも、一区画が吹っ飛ぶようなことはあるかも知れない。

 

そうアンペルさんは言って、鍵の使用を安易に行えないことを告げる。

 

なるほど、確かにそれは厄介だ。

 

クーケン島の内部に入るには、鍵が多分必要だが。

 

その鍵も、安易に使えないとなると。レントがさっき提案したように、聖堂に誰かしらはり付いてフィルフサが出てこないか監視し。出て来た場合は斥候なら全部始末する事が必須になるかも知れない。

 

今は時間がないのだ。一度に何個も手を打っていかないといけない。同時にだ。

 

「まず入口の特定をしないといけないですね」

 

「そうなる。 タオ、家にあった文献を全て覚えているか?」

 

「はい。 怪しそうなのはこれと、これですね」

 

「流石だ。 見せてもらうぞ」

 

二人で解読を始める。

 

あたしは咳払いすると、皆を見回した。

 

「レント、島であたしに対する依頼、あった?」

 

「ああ、まとめておいたぜ」

 

「ありがと。 じゃあ、リラさんと一緒に、聖堂の方を見に行ってくれる」

 

「分かった。 ついでだから、門の向こうも偵察してくる」

 

頷く。

 

あたしとクラウディアは、別にやる事がある。

 

まずあたしは、依頼の内容を受ける。

 

少し前から体調を崩しているバーバラさんというおばあちゃんがいる。その人のためのお薬。

 

見た所、命に関わるような病状じゃあない。ただ非常に心が参っている様子で。懐かしい香りがどうのと言っている。

 

これは何回か頼まれたので覚えていた。

 

それで調べて見たのだが、どうもこれがデルフィローズのようなのだ。

 

デルフィローズは渓谷や。禁足地の先にある北の廃村くらいにしかこの辺りで採れないという話だ。

 

バーバラさんの亡くなった旦那さんの手紙に焚かれていた香りが、デルフィーローズのものだったようで。

 

だとしたら、しゃれたことをするものである。

 

すぐに香を作る。

 

デルフィローズは貴重品だが、これの繊維の研究をさらに進めれば、もっと強力な布を作れそうなのだ。今使っている四重生地のものよりも、更に頑強に出来る可能性が高い。

 

そういう意味でも、あたしはもう少し素材を研究しておきたい。

 

クラウディアには、あたしが調合している間に、食事を作ってもらう。

 

それだけではなく、それが終わったら音魔術でアンペルさんとタオのリラックスもしてもらう。

 

これがばかにならない効果があって。

 

非常に研究がはかどると評判だ。

 

黙々と作業をして、それぞれの仕事をしていく。あたしはデルフィローズから、丁寧に抽出した香を作成。

 

これなら、かなりしゃれたものに仕上げられるだろう。

 

出来上がった香水を、クラウディアに試して貰う。クラウディアが、びっくりしたようだった。

 

「ライザ、こんなものも作れるの!?」

 

「ま、まあ見よう見まねだけどね。 液体をエーテルの中から取り出せるようになってきたから、色々試しているんだけど……匂いとか強すぎない?」

 

「ううん、香水はそういうものだから良いの。 これ……王都に持っていったら、下手したら4000……いや5000コールは固いわ」

 

噴き出しそうになる。

 

王都とは物価が段違いだというのは知っていたが。

 

5000コールと言えば、クーケン島なら普通に家が建つ値段である。それも、二軒は余裕で。

 

王都の金持ちは何を考えているんだか。

 

ちょっと呆れた。

 

量産は出来るかと聞かれたので、まあ出来ると応えておく。流石に輸送代とかあるから、5000コールで買い取りとはいかないそうだが。それでも800コールくらいは払えるという。

 

それだけでも小遣いの域を軽く超えている。

 

まあ、お金は幾らでも必要になる。後で、生産を考えておくべきだろう。

 

他にも幾つか依頼の品を仕上げておく。

 

近くの街に遠征していた腕自慢の少し年上の女の人が、武術大会で優勝して。ついでに男を連れて戻って来た。

 

武術大会なんて暇なことやってるなと思うが。

 

元々魔物を捕まえて殺し合わせるような悪趣味な事をやっている街で、それが高じて武術大会だとかをやっているのだとか。

 

この人には、あたしが確かブロンズアイゼンで作った装備を渡していて。それで優勝できた事もあるらしい。

 

今度式を挙げるらしく、そのための支度品の作成を頼まれていたので。作っておく。

 

ここより田舎の村だと、この式を挙げるときに支度品を用意すると言う風習が一種の人身売買として機能している事もあるらしいが。幸いクーケン島でそういう悪辣な話は聞かない。

 

支度品として、反物を用意する。

 

これも、さくさくと作れるようになって来ていた。

 

野生種の絹と、更には羊毛を混ぜた相応に美しい見た目の反物だ。これだったら、後は島の反物屋さんに加工して貰えばいいだろう。

 

順番に仕上げていき、まだアンペルさんとタオがああでもないこうでもないと言い合っているのを横目にクーケン島に。

 

少しずつ、陽が落ちている。

 

時間はどんどん容赦なく過ぎていく。

 

島に着いたら、依頼の品を渡して回る。少しずつ、皆があたしに代金とか渡してくれるようになってきた。

 

バーバラさんは、懐かしそうにしていた。

 

やはりデルフィーローズのもので間違いなさそうだ。皺が伸びる気分だと、嬉しそうに言ってくれる。

 

そう言ってくれると、あたしも嬉しい。

 

反物も引き渡す。

 

これで何の問題もなく結婚出来ると、嬉しそうに言うお姉さん。あたしもそれを聞くと嬉しい。

 

相手の人は若干ひょろい感じだが。

 

そもそも「武門の街」(ただ悪趣味なだけだろうに)では、それもあって居心地が悪かったのかも知れない。

 

クーケン島では、武芸が出来なくても働き者なら歓迎されるし。島の外から新しい血を持ち込むとたしかブルネン家から支度品も出る。

 

お幸せにと言いながら、その場を離れる。

 

後は、お薬とか色々配っていると。

 

不意に、ザムエルさんと正面から出くわした。

 

今日は珍しく酔っていないようだった。

 

「おうライザ……」

 

「ザムエルさん、こんにちわ」

 

「ああ。 うちの馬鹿息子は元気にやっているか?」

 

「うん。 いつも前衛で頼りになるよ」

 

意外だ。

 

レントと本当に破綻している親子だと思っていたのに。最近戻らなくなったら、こういう風なこともいうのか。

 

まあ、ザムエルさんがうちのお父さんとお母さんに頭が上がらなかったりする人間味のある所も知っているし。

 

暴力を振るったり事はあっても、殺さないように加減もしていることも分かっている。

 

酒が入っていてそれが出来るのだから、この人は見た目よりもずっとしっかり自制できているのだ。

 

奥さんがいなくなった後も、他の女性に手を出す様子もない。

 

その辺りも、この人が強面の大巨人である事と裏腹に。真面目であることを告げていたのかも知れない。

 

「お前とレントがくっついてくれたら、俺は島をでるつもりだったんだがな。 お前にもレントにもその気は無さそうだからな」

 

「流石にこれだけ長く一緒にいると、そんな気になれませんよ」

 

「そうだな。 考えて見れば、俺も島の女にはそんな気にはなれなかった」

 

ザムエルさんを見て、明らかに怯えている通行人もいるが。

 

あたしは別に平気だ。

 

今は酒を入れていないし。酒を入れていたとしても、知り合いにその巨大なこぶしを振るうような人じゃあない。

 

「あいつは島を出るつもりみたいだな」

 

「どうやらそのつもりみたいですね。 寂しいですか?」

 

「いや、良い経験になるだろう。 ただそのままだと、絶対に俺の二の舞になるだろうがな」

 

ザムエルさんの二の舞か。

 

もう行くぞと言って、ザムエルさんは去って行く。

 

ザムエルさんは、容姿もあって誤解された。化け物呼ばわりされたこともあったとか聞く。

 

命を張って戦っても、功績を一切認められなかったり。

 

レントももし更に背が伸びたら、似たような事になる可能性もある。ザムエルさんがどうして腐ったのかを知っていてもだ。

 

分かっていても、どうにもならないことは世の中になんぼでもある。

 

それをあたしは知っている。

 

だから、やりきれなかった。

 

ザムエルさんは極悪人ではない。

 

世の中の不条理に潰されてしまった人だ。逃避する先は酒しかなかった。そう思うと、気の毒に思う。

 

今のこの故郷での生活だって、結局は逃避なのだと思う。

 

ため息をつくと、あたしはアトリエに戻る。

 

そろそろ、何か成果が出ているかも知れなかった。

 

 

 

アトリエに戻ると、リラさんとレントが戻って来ていた。

 

やはり状況は良くないらしい。既にフィルフサの群れが、門の向こう側にひしめいているそうだ。

 

キロさんは無事だったようだが、それも相手を押し返すのは不可能。

 

あまり長時間、フィルフサの群れを拘束するのは厳しいそうである。

 

「このまま行くと、数日以内に「空読み」がくる」

 

「確か、気候を読む個体ですよね」

 

「そうだ。 空読みが来て、乾期だと判断すれば、間違いなくフィルフサの大侵攻が始まる。 最悪の場合に備える必要があるだろうな」

 

「後数日……」

 

牧歌的なクーケン島の様子からは信じられないが。

 

すぐ近くに、今あるロテスヴァッサなんか簡単に滅ぼす恐怖と脅威が存在しているのである。

 

もしも近場でフィルフサが繁殖して居着いてしまったら、クーケン島から出ることも出来なくなる。

 

そうは、させない。

 

「アンペル、其方はどうだ」

 

「今、候補を三つにまで絞った。 一番可能性が高い場所から行くべきだろうな」

 

「流石だな……」

 

「此処までの厄介な状況は初めてだが、それでも門を閉じた数はもう二十ではきかないんだ。 修羅場も潜ってきている。 錬金術師としてはライザにもう及ばない私だが、それでもこれくらいはして見せないとな」

 

立ち上がる。

 

タオが大事そうに、昔から抱えていた本を手にしている。

 

いまでは、ただ大事なだけの本でもなければ、お守りでもない。

 

既にすらすら読めるそうである。

 

メモ帳ですら、恐ろしい分厚さになっている。タオはどれだけ勉強したのか、ちょっと空恐ろしいほどだ。

 

「よし、クーケン島に行くぞ。 最初に行くのはブルネン邸だ」

 

「大手を振って入れるのか彼処」

 

「大丈夫、ボオスならちゃんと手を回してくれる。 それにもってあと数日だとも、話はしておかないとまずいし」

 

「どっちにしても、いかないといけないわけだな」

 

頷くと、皆でアトリエを後にする。

 

リラさんが、視線を不意に森の方に向ける。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、最近さび付いていた腕を磨き直しているからなんだろうな。 何かがこっちを伺っているのを気付けるようになった」

 

「リラさんから気配を隠せるような相手ですか!?」

 

タオが驚く。

 

リラさんは咳払い。

 

「私はオーレン族の中では若造だ。 私より強い戦士なんて幾らでもいた。 キロもそうだが……」

 

「いや、数百年生きていて若造って。 俺たちからすると、想像もできない世界だよ」

 

「そうだな。 世界の違いというのは、色々面倒な事だ」

 

すぐに船に乗って、その場を離れる。

 

何がこっちを伺っているかは分からないが。今の様子からして、気付かれたことは察知しただろう。

 

より慎重になるか、仕掛けて来るか。

 

全員、警戒する。

 

幸い、どうやら前者を敵は選んだようで。沈めるつもりなら確実な湖上での襲撃はなかった。

 

それにしても、リラさんを超える実力者って何者だ。

 

今の口調からして、恐らく監視しているのはそういう相手だろう。

 

人間だとしたら。

 

ふと、そこでフロディアさんの事を思い出す。あの人だったら、確かにそれくらいはやりそうだけれども。

 

「ライザ?」

 

「ううん、なんでもない」

 

クラウディアに聞かれたので、誤魔化す、

 

やはり、あの人。

 

フロディアさんに対する強い違和感を、あたしは隠しきれないようになってきていた。

 

 

 

舌打ちする。

 

フロディアと名乗っている同胞から支援要請が着て、見張りにきてみれば。例のライザとか言う錬金術師の状況が違いすぎる。

 

凄まじい手練れが複数ついている。これほどの手練れが護衛にいるとは聞いていない。

 

更には本人もだ。

 

まだ洟垂れでいつでも殺せると聞いていたのに。これはちょっとばかり話が違っている。今も、うっかりすると気付かれる。

 

さて、どうしたものか。

 

森の中で思案していると。

 

目の前に音もなくコマンダーが現れる。

 

パミラとか名乗って、クーケン島に潜入していると聞いていたが。

 

「コマンダー」

 

「少し気配が漏れているわよー。 もう少し上手に気配を消さないと」

 

「は。 しかし報告とだいぶ実力が違うようですが」

 

「古い言葉だけれども、男子三日会わざれば刮目してみよって言ってね。 それは男子に限らないのー。 特にあの手の規格外は、一月で百年の努力を超えて来るのだからねー」

 

ふわふわしている言動のコマンダーだが、実力は本物だ。

 

同胞達はみな敬意を払っている。

 

肉体は同胞達と同じようにして得たらしいが。それ以外では協力者という立場が近いのである。

 

つまり、単独で同胞達をまとめ上げるくらいの力があると言う事だ。

 

「それで如何しますか。 近隣の同胞達を集めれば、倒す事は不可能ではありませんが」

 

「駄目よ。 フィルフサをどうにかして、あの島の問題もどうにかできそうなんだから」

 

「其処まで出来る錬金術師が翻心したら、世界は終わりかねません」

 

「その通りだけれども、もう少し待ちなさい。 いずれにしても、成長が早すぎるようなら……セーフティを掛けるでしょう。 あの子が」

 

そう言われてしまうと、何も言い返せない。

 

主をあの子呼ばわりするのは、この人だから許されているのだ。それ以外だったら、その場で首を飛ばしている。

 

軽く指示を受ける。

 

しばらくは監視に留めるように、と。そして実力がどんどん上がる事も、しっかり認識しておくようにとも。

 

頷くと、一度距離を取る。いずれにしても、まともに仕掛けるのは厳しい。

 

もっと早く支援として呼ばれていれば。いっそのこと、抹殺する事も出来たかも知れないのに。

 

錬金術師に関する記録は残っている。同胞でそれらを全て管理するようにしている。

 

古代クリント王国と言われていた時代から。いや、もっと前の神代と呼ばれる時代から。

 

錬金術師は、世界に対する癌であり。いつ爆発してもおかしくない爆弾と同じだった。その存在が善であったことはなく。

 

どいつもこいつも、幼稚なエゴと独善的な思想で、世界を無茶苦茶にしてもなんとも思っていなかった。

 

それを知っているから、焦燥感がある。

 

歴史上最強かも知れない錬金術師の出現。奴は今の時点では邪悪に落ちていないようだが、人間なんて何が原因で変わるか分かったものではないのだ。

 

今までの歴史を知っているから。

 

人間を信じる訳にはいかない。

 

万能の玩具に等しい錬金術を与えた場合、人間は精神を保てるほど強く出来ていないのだ。

 

他の世界だったらどうかは分からない。

 

だが、この世界では少なくともそう。

 

それが現実だと、知っていた。

 

連絡が来る。コマンダーとは別口だ。主からの指示。しばらく様子を見るようにと、正式に通達される。

 

舌打ちして、隠蔽モードに以降。

 

しばらくは、情報を集めることになるだろう。

 

今フロディアと名乗っている同胞と連携して仕掛ければ殺す事は出来るのに。そう思いながら、歯がみする。

 

フロディアと同じ容姿をしている者は。

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