暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
以降、ブルネン家はクーケン島の顔役になりました。
しかし、そもそもブルネン邸は、どういう建築物だったのか……
その謎が、島の臓腑へつながります。
既に陽が落ち始めている。人目をかいくぐって、ブルネン邸に。ブルネン邸はそれなりに厳重そうに警備されているが。
実の所、警備の穴なんてなんぼでもある。
幼い頃からあたしはそれを知っていた。
ボオスの祖母である先代ブルネン家当主は、あたしの事を良く思っていたようで。悪戯にも寛容だった。
ボオスも含めた四人で行動しているときは、随分とそれでお世話になったものである。
そういえば、例の事故が起きたときは、もう先代は寝たきりだったっけ。
あんな豪傑でもそうなるんだなと思って、幼いながらに心を痛めたが。
今では更にその病臥が悲しく思えてくる。
ザムエルさんだろうが、先代ブルネン家当主だろうが。どんな豪傑だって、病には勝てないのだ。
年を取ればどんどん体は病に弱くなっていく。
あたしは、思うのだ。
年を取ると、弱くなるのは体だけだろうか。
頭も、ではないのだろうか。
あたしは古代クリント王国の錬金術師達とは絶対に一緒にならない。そう決めている。だが、もし年を取ったときには。
自分が昔と違って、ただの老害になり果てるのではないか。
そう思うと、時々怖くもなるのだった。
ブルネン邸の裏手から入り、警備を潜って奧へ。奧でボオスと合流。ボオスは、周囲を見回す。
ランバーに、人払いはさせているらしい。
ランバーも、既にこれは分かった上でやっているようだ。
モリッツさんも、既に知らされているのだろう。
乾きの悪魔の再来が近い。
更には、過去の「偉大なる先祖」が持ち帰った水の正体。
その出所も。
モリッツさんも、ボオスの言う事はきちんと信じるようだ。実業家としての顔が強いモリッツさんだが。
実際には非常に憶病な人だと言う事は知っている。
だから強く見せようとするし。
髭なんか生やして、威厳を出そうと苦労している。
それを笑うつもりはない。
いずれあたしも、違う方法で威厳を出そうと苦労するのかも知れないし。それについては、今のうちに認識しておくべきだろう。
「来たな。 この邸宅の裏にある紋様を調べたいって事だが、やっぱり此処の可能性が高いのか」
「三箇所可能性があるんだけれども。 僕の家にあった手記を良く調べて見たら、どうも実際には鍵がなくても島の奧に入れるみたいなんだ」
「確かに、緊急時にその塔まで鍵を取りに行く訳にもいかないもんな」
「うん。 この島が人工島なのは間違いないとして、確実に通常の手段で奥に行く方法があるんだよ。 鍵は恐らくだけれど……上位の人間が、命令を上書きしたりするために使うんじゃないのかな」
ボオスは小首を傾げていたが。
魔術について詳しいあたしが説明する。
高位の魔術になってくると、オートで起動するものがある。作り手の腕次第では、何百年も起動するようなものもある。
それらは全自動で敵を迎撃したり。
或いは平和的に何かしらのものを守っていたり。
錬金術の産物ほどではないにしても。いずれもが、高度な命令に応じて動く。
その中でもっとも優先順位が高い命令を聞く、というものがルールとしてあって。基本的に手強い魔術の防御などにぶつかったら、それを見つけてルールをこじ開けるのが基本になるのだ。
錬金術でも、多分それは同じだとあたしは思う。
ただこれらの言葉には「管理者権限」とか。最上位命令を出す人を「root」とか「Administrator」とかいう呼び方があるらしく。
それがどうして使われるようになったのかは、今も良く分からないそうだ。或いは言葉そのものが、機械と同じロストテクノロジーになっているのかも知れない。この辺りはウラノスさんに習った。魔術に関しての知識は、まだまだウラノスさんの方があたしよりも上である。
「なるほど、理解出来た。 お前、錬金術が使えなくなっても普通に裕福に食っていけそうだな、ライザ」
「まあそうだね。 ただ、どうしても退屈にはなるだろうけれどね」
「流石に現在の魔術に対して、ライザのスペックはオーバーすぎるよ。 錬金術でやっと追いつくレベルだと思う」
タオがフォローだか畏怖だか分からない言葉を入れてくる。
まあ、それはいいか。
とにかく、ボオスも交えて奧に行く。
奧には大きな石碑のようなものがあって、それの周囲には人の気配がなくなっていた。
なるほど。地面を触ってみる。この辺りは不可思議な石畳で、雑草一つ生えていない。何かあると見て良い。
手分けして、周囲を探る。クラウディアには、至近から音魔術で調査して貰う。
「駄目だわ。 隙間一つないよ」
「確か、土の間でも空気は、更には音は通るって言ってたよね」
「うん。 でも此処の石畳は、文字通り音すら通らないみたいなの……」
「それは此処に何かあると言っているようなものだな」
むしろ良い情報だ。
ボオスも周囲を探って貰う。ボオスは辺りの地面を調べながら、告げてくる。
「この島が人工島で、内部に巨大な空間があった場合は、父さんも入れて現状を確認させておく。 それは構わないか」
「別に良いけど、モリッツさん取り乱さないかな」
「もう父さんにも覚悟は決めて貰っている。 最悪の事態に備えて、護り手にも臨戦態勢を取って貰っているくらいだ。 トップが動けないようじゃあ終わりだからな」
「それもそうだね。 モリッツさんは憶病そうだけど、実際には責任感もって行動できる人だもんね」
あたしはそう素直に認識している。
これは、考え方が変わった一つの例なのかも知れない。
頭を振る。
こんな調子で、いずれ古代クリント王国の錬金術師を肯定するように変わるのだろうかと思ってしまったからだ。
気分を入れ替えると、調査を再開。
周囲を調べていくが、刻まれている紋様以外、魔術などで探知出来るものはない。鍵を紋様に当てて見ても、特に反応はなかった。
「此処は外れか?」
「いや、もう少し丁寧に調べよう。 ただ、他の二箇所も見てきた方が良いかも知れないな」
「地図をくれますか? アンペルさん」
「ああ。 これに写してある」
魔術で複写した、ということもあるのだろうが。
アンペルさんがゼッテルに写した地図は、とにかく丁寧で、神経質な性格が伺えるようだった。
普段は雑極まりないリラさんと対立しない理由がよく分からない。
性格が真逆だと思うのだが。
まあ、その辺りは利害の一致故なのだろう。
どっちも大人で、自分の感情を大義に優先しない。ただそれだけの事だと見て良いだろう。
あたしもそうなりたいものだ。
自分の感情で世界を無茶苦茶にした悪例を見ているから、である。
あたしはクラウディアを誘って、もう一箇所を見に行く。牧場の一角にある。ブルネン邸はタオとアンペルさんが重点的に調べる。レントとリラさんは見張り兼周囲の調査だ。
あたしは念の為に、もう二箇所を順番に見回りするつもりだ。
裏から屋敷を抜ける。
クラウディアが、嬉しそうである。
「なんだか子供に戻って悪戯してるみたいね。 すごくどきどきする」
「はは、クラウディア、あたしよりも悪童適性がありそうだね」
「そ、そうかな」
「でも、それを今まで押さえ込めていたのは立派だよ」
押さえ込みすぎると欲求は爆発してしまうらしいが。
それでも、しっかり感情を抑え込んで行動できていたのは立派だと思う。それにクラウディアは、ルベルトさんの前で演奏して。ついに枷を全て外すことが出来た。以降は伸びるだけだ。
ささっとブルネン邸を後にすると、牧場に。
牧場にはたくさんのヤギがいる。
牛はあまりここには昔はあわず、まだ育てていない。元々ヤギは痩せた土地でも平然と生きる家畜で。ミルクや肉の量はあまり多くはないものの、昔のクーケン島のような痩せた貧しい土地にはぴったりだったそうだ。
そういうわけで行商から買い入れたヤギが、試行錯誤して色々な植物を増やしている所に放され。今日も雑草を貪っている。
ただ、そろそろ時間か。
ヤギ飼いをしている人が、犬と一緒にヤギを厩舎にいれ始める。独特の口笛をふいて、犬を追い立てているのが目立つ。
ヤギも慣れたもので、すぐに厩舎に戻っていく。
たっぷり食ったのだから、もう安全な場所で寝るだけだ。
家畜として魔物の脅威にさらされていないヤギとはいえ、それでも本能的に安全な場所には行きたがる。
人間とヤギで、利害は一致していると言える。
まだ慣れていない牧羊犬が、ヤギに明らかに舐められているが。その親か兄弟らしい牧羊犬がフォロー。
すぐにヤギが追い立てられていった。
「楽しそう」
「ヤギのミルクや肉は結構大事な生命線だからね。 冬になると、昔はまともに肉なんて手に入らなかったから、妊婦や病人の滋養のために、干し肉を大事にとっていたくらいだって」
「ここもそうなのね。 田舎の村だとそういう状況は多いわ。 ただで商品を渡すわけにもいかなくて、お父さんも苦悩している事が何回もあったの」
「そう……」
やっぱりルベルトさんは良い人だな。
厩舎にヤギを入れ終えると、牧童がこっちにくる。「童」といっても、それなりの年齢の人物だ。
軽く情報交換をしておく。
あたしはここでも魔術を使って小遣い稼ぎをしているので、相手の対応は丁寧だ。アンペルさんがつるし上げられた時も、此処の人達はあたしに味方していた。
これは簡単で、あたしが随分と手伝っているからだ。特に家畜の放牧は重労働で、湯なんか沸かしている余力がないケースもある。
そういうときには、あたしが魔術でさっと湯沸かしして、負担を減らし。小遣いでそれに切り替えていた。
そういう事もあって、あたしに牧場の人は皆好意的である。
話を終えて、その場を離れる。
今は、牛を入れる事を検討しているらしい。ようやくというところだ。前に二度三度と失敗しているから、今度こそという感じだろうか。
島も豊かになってきている。
まあ、それは皮肉ながら、盗品を使っている結果なのだが。この人達に責はないし、貧しい生活に叩き落とすのも間違っている。
牧場の隅に。
見つけた。石碑だ。
クラウディアに音魔術を展開して貰い。あたしは周囲を調べる。
魔力は全く感じないし、やはり鍵を当てて見ても駄目か。
腕組みして考え込む。
クラウディアは、ここも同じだと頷く。要は土の表層を取り除くと、地下には音が入る隙間もない、ということだ。
もう一つの石碑は旧市街にある。
そこへ急ぐとする。
移動中に、声を掛けて来る人がいる。湯を沸かしてほしいと言われたので、すぐにやってあげる。
この辺りは、昔からのつきあいだ。そして魔力制御はもう以前より更に上手くなっている。
エーテルを散々絞り出して操作しているのだから当然だ。
お湯が想像以上にすぐ沸いたこともある。昔から時々湯沸かしを頼んでくるおじさんは、小遣いを奮発してくれた。
小遣いを貰ったので、懐に。
小金でも、嬉しいものだ。
「ライザ、結構人気者だよね」
「あーはー。 そうだね。 ただ悪童としての評判も強いから、それを打ち消すために頑張ってる側面もあるかな」
「ふうん。 本当に色々やったんだね」
「人として恥ずかしい行動はしていないけどね」
弱い者いじめとかは絶対にしていないし、許してもいない。
魔力制御が上手かったあたしは、蹴り技で一回り年上の男子も平気でKOしてきた事もある。
悪戯する悪童でも、周囲の子供みんなに顔が利いたし。陰湿な虐めを絶対に許さなかった。
虐めを行って地位確認するようなカスは、島にはいなかった。
一時期のボオスも特にタオに冷たく当たっていたが、あれについてはもう互いに誤解も解けている。
それにボオスも周囲に目を光らせていて、虐めなんかするような奴には相応のペナルティをくれていたようである。
阿諛追従するような奴も、許さなかったそうだ。
まあそれもあって、取り巻きを大勢引き連れて行動している訳でもなかったのだろう。今考えて見ると、ランバーだけつれて歩いているのを見て、不思議に思うべきだったのかも知れない。
旧市街に出る。
それなりの人が今は暮らしていても、所詮はちいさな島だ。
石碑を確認。
クラウディアが音魔術を使っていると、どうしても人が視線を寄越す。魔力が強すぎて、翼のように具現化しているのだからそれはそうだろう。
翼や目は魔力の象徴として昔から考えられてきたらしいが。
クラウディアはその見本のような存在と言える。
更に言うと、ルックスが兎に角クラウディアは目を引く。
此処で言うルックスは、服装とかの話。何より、田舎だ。クラウディアがルベルトさんの娘で、バレンツ商会の次期当主である事はほぼ知られていると言う事だ。
この石碑も駄目か。
嘆息して、クラウディアに視線を向ける。
クラウディアは、残念そうに首を横に振った。
そろそろ日が暮れるか。
ブルネン邸に向かう。
向こうで成果が出ていると良いのだけれども。正直な話、本当にもう時間がないのである。
最悪の場合、本当に無理矢理ローゼフラムで穴を開けて、押し入るしかない。
暗くなってきていることもある。
ブルネン邸に潜入するのはとても簡単。
途中で、モリッツさんが不安そうに首を伸ばして、石碑の方を見ているのに気付く。まあ怖がるのも仕方ないか。
そのまま、こそこそと側を通る。
勿論モリッツさんには気付かせない。この人も若い頃にはある程度剣術をはじめとする武術を囓っていたらしいのだが。
はっきりいってまるで才能がなかったらしく、ある程度で切り上げたそうだ。
それはそれで正解だろう。
才能皆無で、努力が無駄になるものに時間を費やすのは徒労だ。
趣味で徒労が出来る人はそれでいいだろうが。
モリッツさんは立場もあるので、そうもいかないのだから。
石碑の所に戻る。
なお、見られているのを気付かれたくないのだろう。モリッツさんは、此処からは見えない。
場所は分かっているのに見に行けないから、あんな行動を取っているのだろう。なんというか。
ちょっと可愛いところもある。
「戻ったよ」
「どうだったライザ」
「此処と同じ。 手応えなし」
「やはりそうか。 まあそうだろうな」
アンペルさんが立ち上がる。
切り上げるのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「これは形状通りのものではないと判断して良さそうだ」
「ええと?」
「これが鍵で扉についているのは間違いない。 だが、見た目に騙されていると言う事だ」
鍵穴があると思って、鍵を紋様に差し込んでみてほしい。
そう言われたので、やってみる。
駄目だ。
頷くアンペルさん。一つずつ試すという。
「鍵にこだわる必要はない。 タオ、解読したことを一つずつ全部試してみてくれ」
「分かりました」
「すげえな。 本当にあの本、全部解読したのか」
「一度専門用語とか理解した後は簡単だったよ。 ずっと小さい頃からかじりついて見ていたし」
ボオスの素直な感嘆。
一時期ひねくれていたから、逆に新鮮だ。
タオがメモを見ながら、一つずつ作業をしていく。もう、周囲を調べるのは皆手をとめている。
最悪ここで徹夜コースだな。
そう思いながら、タオの作業を見る。
タオは呪文らしいのを唱えたり、色々動作をしていたりしているが。
どれも扉を開くにはいたらない。
アンペルさんは、じっと見ている。
これはかなりの難敵だなとあたしは思う。多分だけれども、此処を開ける人間が、ずっといなかった事も要因ではないのか。
タオの本は、百年だか前に伝承が失敗し。以降は誰も解読出来ない本になってしまったと聞いている。
その前は、此処は開けられていた可能性もある。
他の二箇所かも知れないが。いずれにしても目立つから、多分ここだと見て良いだろう。
そうなると、少なくとも前は開けられることがあった筈。
この鍵は、最悪の場合に使うものなのだろうが。
さて、どうしたものなのか。
「ええと、次行くよ。 ここに触りながら、こうやって回すように……」
「! さがれ!」
リラさんの叱責が飛んで、皆が跳びさがる。
ボオスが一番反応が遅かったくらいだが、これは恐らく戦闘慣れしていないからだろう。
ずずずと、音がする。
どうやら正解だったようだ。
タオが大慌てしながらも、きちんと指定されている動作を最後までやる。そうしないと、どんな誤動作が起きるか分からなかったからだろう。
地面が揺れる。だがごくちいさな揺れだ。
少しずつ、石碑の前の地面が割れて、石畳が左右に開いていく。土埃が地面の下の、真っ暗な闇の中に落ちていく。
ボオスがすぐにランタンを持ってきた。
あたしも魔術の灯りを作る事が出来るし、それを長時間維持するのはもう難しくもないのだが。
いざという時に備えて、リソースは確保した方が良い。
そういう判断からだろう。
「腰に付けてくれ。 比較的周囲を的確に照らしてくれる」
「いいランタンだな」
「油は高級品だ。 無駄にならない事を祈るぜ」
「はは、違いないね」
小首を傾げているクラウディア。
まあ、仕方がないか。
実の所、こういう田舎の村での油は極めて高級品なのだ。作り出すまでに手間暇がかかるからである。
それもあって、ギトギトになった油を結構使い回す事も多い。
こういう燃料油も使う事が多いので。
農家などでは、それなりの量を必要とする。
ランタンに入れるような油は危険性が少ないこともあって、更に高価になる。ボオスはそれなりのお小遣いを貰っているはずだが。それでも乱用はできないのだろう。
「開いた。 良かった……」
「タオ、具体的にどうやったんだ」
「後でメモは渡すよ。 でも子供とかが見ると一大事だから、管理には本当に気を付けてよ」
「ああ、分かってる」
もうボオスとタオの間にわだかまりはない様子だ。
リラさんが前に出ると、手をかざして闇の奧を見る。そういえば、この人闇が見通せるんだっけか。
たまに、そういうそぶりをしている。
つくづくオーレン族は便利な種族である。
ただ、過酷な環境で生きてきた種族、ということもあるのだろう。それ故に、個々が強くなったという理由もあるのは間違いなかった。
「奧はかなり広い。 階段が続いているようだ」
「一度開け閉めしてみるね。 今のは偶然だったかも知れないし」
「分かった。 俺は父さんを呼んでくる」
「頼むよー」
あたしがボオスの背中に声を掛ける。
さて、ここからだ。
中には魔物がわんさかという可能性だってある。それに、この鍵を使う場面がいつ来るかも分からない。
魔術のトラップがあった場合は、あたしが対応しなければならないだろうし。アンペルさんもそれは同じ。
気を張って、周囲を見張る。
タオの操作で、石畳が動く。完全に開いていたのが閉じ始め。閉じきった後、また開いていく。
念の為だ。
タオが先に入って、また作業を開始する。
モリッツさんが来た。
小心そうに周囲を見ているし。何よりアンペルさんには非常に申し訳なさそうにしているが。
この人が筋を通す人だって事は分かっている。
だから、あたしもこれ以上責めたりはしない。
あの時は、色々行き違いがあっただけだ。アンペルさんも気にしている様子はない。というか、眼中にすらないのかも知れない。
「まさか、家の裏がこんな事になっていたとは……」
「恐らくはないと思いますけれど、内部がどうなっているかまったく分かりません。 最悪の場合は爆破とかする可能性もあるので、心してください」
「ま、護り手を連れてくるか?」
「いえ、此処は島の人間のごく一部だけが知っているべきでしょう。 島が人工物で、しかも調査しないと壊れる可能性があるなんて告げたらどうなるか……」
ひっと、分かりやすくモリッツさんが声を上げる。
これは古老は連れてこない方が良いだろうな。
そうあたしは思った。
タオが戻ってくる。
そして幾つか操作をした。
また開け閉めが行われる。やはり何度見ても驚かされるようで。扉が開いたりしまったりするたびに、モリッツさんはあわてていた。
「タオ、どうかしたのか」
「うん。 扉の開け閉めの確認の後は、開いたままに出来るか、閉じたままに出来るかの確認をしていたんだ。 中で閉じ込められたらぞっとしないでしょ」
「そうだな。 全員ミイラだな」
「その時はあたしが扉ブチ抜くけど、そうやって此処が壊れて穴が開くのは、ブルネン邸としてはあんまり嬉しくないでしょ」
ボオスが黙り込み。
モリッツさんが引きつった笑みを浮かべる。
あたしなら出来かねない事を思い出したのだろう。実際現在はもう出来るし。
タオの確認作業が終了。
とりあえず、開けたままにしてくれた。
ロックを掛けたので、勝手に締まるようなことはないそうだ。中々に相変わらず有能な事である。
「凄いわタオ」
「へへ、ありがとう。 僕も、本当にこの知識が役に立ってくれて……大事にして来た本が応えてくれて……凄く今嬉しいよ」
「デレデレだな……」
「学んだ専門的な事を生かせるとき、人はああなるのだ。 多少大目に見てやってくれ」
呆れ気味のボオスに、アンペルさんが告げる。
何しろ最低でも百年以上生きて、地獄を文字通り見て来ている人の言葉だ。重みも色々違う。
とにかく、これで入口は大丈夫。
タオが一度先に入って、内部からも操作できることは確認してくれた。これである程度は平気だろう。
既に陽が稜線の向こうに消えかかっているが。
今は、時間が惜しい。
このまま、調査続行だ。
「モリッツさん、可能な限り護衛はします。 ですが、いざという時は地面に伏せて頭を保護してください」
「ひっ! た、頼むよ……?」
「多分魔物はいないとは思いますが、その代わり足下が危ないかも知れないです」
「う、うむ……」
滑稽なほどびびりまくっているモリッツさんを見て。
先代がまだ生きていたら、どう言っただろう。
まあ、あたしは知らない。
あの人だったら、幽霊になってモリッツさんをにらみつけていそうだなとは思ったけれど。
それは、もうどうでもいいことだった。
階段を下りる。カンテラがなければ、昼間でも真っ暗だっただろう。タオが先行して、先に手招きする。
少し広い場所に出た。同じような石碑がある。
「此処で、内側から扉を操作するんだ。 さっき動いたことは確認済みだよ」
「クーケン島の地下に、こんな巨大空間が……」
「この島の地面は、表皮部分だけしか事実上ありません。 内部はこうやって巨大空洞になっているんですよ」
「そ、そうか。 まさか最近頻発していた地震は」
モリッツさんにアンペルさんが説明している。
そういえば。
地震だ。
こんな構造になっていたのなら、地震が起きても仕方がないと言えるだろう。だが、本当にそれだけか。
さっき、扉の周囲を調べた。
この島には、後から土が運び込まれている。その土の下にある石畳は、素材からしてよく分からない錬金術の産物だ。
音を通す隙間すらなく、頑強さも尋常では無いだろう。
ならば。どうして地震なんかが起きるのか。それが確かに、不審で仕方が無いとは言えた。
深呼吸。
こういう所に来ると、さっきクラウディアが言っていたようなどきどきわくわくはどうしてもある。
だがそれ以上に、今は時間が足りない、危険な状態だと言う事を忘れてはならないのだった。