暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
そこで分かったのは、クーケン島の差し迫った状況でした。
平和なただの田舎の島と思われていた故郷は
いつ沈没してもおかしくなかったのです。
今のライザは、それに対応できます。
いえ、対応しなければいけないのです。
序、クーケン島はいつ沈んでもおかしくない
クーケン島の地下から出てくると、既にアンペルさんが話をしていた。相手はモリッツさんである。
クーケン島が、沈む可能性がある。
もしもその時は、避難誘導をしてほしい。いきなり島が破損するようなことはないだろうが。
この島は漂い始めていて。最悪の場合、浮力すらも失う。
そうなったら、島は沈む。
いきなり沈み始めることはないだろうが。確実に島を水が浸食していく。そうなったら終わりだ。
今まで旧市街が沈んでいたのとは比にならない速度で沈むだろう。
その時には、船で皆を逃がしてほしい。
モリッツさんは俯いていた。
ボオスが見かねてフォローする。
「父さん。 これはそれこそブルネン家にしかできない仕事だろう」
「分かっている。 だが、島が沈むなんて……あの地下の惨状も今でも信じられない……」
「俺より経験を積んで、この島のために尽くしてきたんだろう! その誇りをもって、島のために動けよ父さん! そもそも俺たちが島の支配者を気取っていられるのも、島の皆の為に金を回して水を回して動いてきたからなんだぞ!」
ボオスが喝を入れるが。
それでも、モリッツさんは気弱そうに。
自信を無くしたように、しょぼしょぼと周囲を見るだけだった。
「わかった……少し時間をくれ」
「ボオス。 今すぐ島が沈むことはないよ。 クーケン島は今スリープモードという状態になっていて、まだ島を浮かべる機能は動いてる。 ただ、何年ももう保たないかもしれない」
「いや、どうにかするよ」
ボオスにフォローを入れるタオ。
あたしが、其処に告げる。
ボオスが、本当か、と聞いてくるので。
頷く。
仕組みは理解した。
島の動力源は、再度作る事が可能だ。
あの球体は、見た目よりずっと簡単な仕組みになっている。古代クリント王国の錬金術師は、おそらく「効率の良い魔力源」を求めて、フィルフサに目をつけた。どうしてフィルフサを知っていたのかは分からないが。
逆に言うと、フィルフサ以外でも魔力の源は作り上げる事が可能だ。魔石を圧縮してもいいし。他の手段でもいい。
浮かべる事は、島の機能に入っている。
ある程度の軽量化は必要になるが。
ぶっちゃけ今の魔力源に魔力を供給するなら、あたしとクラウディアでも出来るくらいである。
ただ、毎日根こそぎ魔力を持って行かれるだろうし。
それはあまり現実的ではないのも事実だが。
それを順番に説明していくと。
モリッツさんは、大きな溜息をついた。
「すまん。 どう考えても、島の皆を避難させるのは無理だ。 ライザ、頼む事になるが構わないか」
「当然です。 ただ条件が一つ」
「な、なにかね」
「錬金術を以降馬鹿にしないようにしてください。 あ、二つにします。 タオの家に伝わる技術書を、以降粗末に扱わないようにしてください」
モリッツさんはぽかんとしていたが。
あたしが大まじめなことを理解したのだろう。
わかったと、疲れきった様子で応えた。
あたしとしては、自分のためにもやるのだ。
お父さんとお母さんはこれだけラーゼンボーデン村のためにあたしが尽くしても、まだ怪しい呪いで遊んでいると思っている。
少なくとも島のトップの意識が変わらなければ、絶対に何も良くならない。
ここでしっかり貸しを作っておく。
もちろんあたし自身の栄華とか富とか、権力とかははっきりいってどうでもいい。
悪党がたまに、「義賊なんて余裕がある奴がやる遊びだ」とか抜かして。自分の凶行を全肯定したりするらしいが。
そういう奴は魔物と同じだ。
あたしの前でそういう事を抜かす奴がいたら、地平線の向こうまでその場でけり跳ばしてやる。
あたしはこういう風に。
真っ向勝負で、理不尽を潰す。
それだけである。
「モリッツさん、ライザは優秀ですから、どうにかできるでしょう。 しかし、それでも万が一には備えてください」
「ああ、分かっているよ。 今日は胃に穴が開きそうで、眠れそうにもないな……」
「父さん」
「……すまん」
肩を落として、モリッツさんが戻っていく。
あの人も、島の地下が屍だらけ、人間の業の展覧会場だなんて思ってもいなかったのだろう。
まあ思う方がおかしいが。
あたし達も、一度アトリエに戻る。
アトリエに戻った時には、すっかり夜になっていた。
すぐに夕ご飯をクラウディアが作る。レントも手伝っていた。一人旅をするときの為の練習らしい。
横になっているリラさんが、ぼんやりとしているようだ。
あたしは、すぐに在庫を確認。
今の時点では少し足りないか。
だが、魔石を重点的に集めてくれば、多分あの動力炉は再現出来る。とりあえず応急処置はした方が良いだろう。
すぐに在庫の魔石を使って、調合を開始。
なんなら。魔石を圧縮するだけでもいい。
あたしはもうちょっと高度な仕組みを使う事にする。
ゴルドテリオンを使って魔石の力を最大限に引き出すのだ。恐らく、それが一番効率よく魔力を伝導できる。
ゴルドテリオンの形状は、球体とする。
球体は、同じ表面積で一番体積を確保できるらしい。球体にしたゴルドテリオンの内部に、更に複雑に魔法陣を仕込んでいく。
最終的に、それで魔石の力を増幅していくのだ。
問題は魔石の在庫が減っていること。
管理者の鍵を直したことで、魔石が殆どなくなっている。しばらくしたところで調合を切り上げる。
明日の朝一に。
魔石を集めないといけないだろう。
先に話をしておく。
だが、全員で行く事はない。火山に出向くとしても、もう精霊王はいないし、大物の魔物もいないだろう。
あたしと、後は一人か二人行けば充分だ。
それに、もう一つやる事がある。
島の機能が回復した所で、水の質の問題がある。
恐らくだが、元々のクーケン島の機能では、水を「飲める状態」にするだけ。
これに対して、異世界から略奪した水は質が良い。
これは農家としての歴史が物語っている。
お父さんやお母さんから聞いている。
昔は麦もとれない土地だったと。
クーケンフルーツを作って、それで細々とやっていくしかなかったのだと。
つまるところ、現状の水と同品質に変えなくてはまずい。
島から、水は持ち込んでいる。
それを続いて分析に入る。
しばらくエーテルの中で水を分析して、その質を調べて行く。
水といっても、純粋に水だけ、と言う事はまずない。
農業用水にしても同じ事だ。
色々な成分がある事を解析した後。大量の水をこれと同じ状態にする装置を作っておく必要がある。
そうしないと、また麦も作れない水に逆戻り。
そうなったら、クーケン島はバレンツ商会も手を引かざるを得なくなるし。
極貧生活に戻る事になる。
それでは駄目だ。
黙々と調査していると、クラウディアが声を掛けて来る。
「ライザ、夕ご飯」
「うん、分かった。 すぐ行くよ」
少し根を詰めすぎていたか。
皆で夕食を囲む。今日は魚を贅沢に使った料理だ。数匹のいいかんじに太った魚を、丁寧に料理してある。
魚はあたしも嫌いじゃない。
笑顔で魚を食べていると、アンペルさんが甘いものが食べたいとか言い出して。咳払いするのはリラさん。
今は、忙しい。
必要以上の贅沢をいうなと、圧を掛けているのだろう。
魚の味もしっかり引き出せていて、とても満足だ。
しばらく料理を味わって。
それで、満腹したところで。アンペルさんが、話を切り出す。
「今日の調査で、状況が変わっている。 整理しておこう」
「はい。 お願いします」
「タオ。 お前からやってくれ」
「分かりました」
タオがまとめていてくれた。
明日、ボオスにも展開するそうである。
まずは、優先順位について。
これは相変わらず対フィルフサが最優先。
当たり前だ。
こいつらを放っておいたら、それこそ何もかもが滅びてしまうのだから。
最悪の場合は、どうにかしてフィルフサを押し戻した後、強引に扉を閉じるしかないだろう。
そういう話だった。
もしもそんな事になったら、多分此処にいる殆ど全員が生きて帰る事は出来ないと見て良いだろう。
非常に危険な状態である事に、代わりはないのだ。
次に問題になるのが、クーケン島の状態だ。
「見て来ての通り、クーケン島の動力が尽き掛けている。 動力源としてクーケン島を作った古代クリント王国の錬金術師が想定していたのは、恐らくはフィルフサ……それも王種の核だと思う。 だけれども、そもそもそんなものを採取できることを前提にものを考えない方がいいと僕は思う」
「そうだね。 今、あの動力をどうにか出来るか、あたしが調合してる」
「おいおい……マジかよ」
「大マジ。 ただ、魔石が足りない。 ちょっと明日は、魔石を集める必要があると思う」
分かったと、レントが頷く。
力仕事は任せろと言うのだろう。あたしも状況次第では出向く。質がいい魔石となると火山しかないのだから。
それにだ。
咳払いすると、タオが言う。
「もう一つ問題がある。 動力源がどうにかなっても、昔のクーケン島ではそもそも水の品質が最悪だったんだ。 麦すら育たない不毛の土地で、冬になるとみんなばたばた死んでいたっていう話もある」
「百年とちょっと前の話だよな……」
「うん。 たった数世代前までそうだったんだ」
「それも、オーリムから略奪された水のおかげで解決したのね……」
クラウディアが悲しげにいう。
あたしだってそれは本当に悔しい。
すぐにでもあれをオーリムに戻したい。だけれども、そうもいかないのである。
「今、それもあたしが調べてる。 クーケン島の農業用水を確認して、それでちゃんとそれと成分が同じになるように、装置を調合するつもり」
「よし……じゃあ行動の順番を設けないとね。 まず第一がフィルフサ対策。 第二が、動力源の確保。 最後が水の調整だ」
「フィルフサを倒さないと、全てが終わりになる。 動力源を直さないと、島が沈んでしまう。 それで、そういう順番になるんだな」
「うん。 レント、全て正解」
「良かった。 俺も少しは頭を使わないといけないからな。 ちょっとずつこうやって、頭を使う訓練をしておかないとまずい」
頷くアンペルさん。
頼もしいと顔に書いてくれていた。
本当にそう思ってくれるなら、汗顔の至り。それにとても嬉しい。アンペルさんは錬金術師で。それでいながら、クズに落ちなかった本当に珍しい人なのだ。
だったら、その言葉には千金の価値があるし。
その信頼には、万金の意味がある。
「ライザ、私が昔集めた本を渡しておく。 錬金術ではないが、水を自動で浄化するための試みを昔の人はやっていた。 今のお前だったら、多分それを自分式に昇華できる筈だ」
「ありがとうございます。 今夜、寝るまでに目を通して置きます」
「うむ……」
「誰かしら、明日は僕はまたあの地下に潜るから、一緒に来てくれないかな。 万が一の事故が怖いんだ」
タオが言うには、今日は一番大事な部分しか解析できなかったのだそうである。
明日には、水がどういう経路で吸い上げられて。そして島に供給されていたのか調べるという。
そういえば、だ。
そもそもあの水を供給する球体。
あれが置かれていた位置にも、意味があるのではあるまいか。
ひょっとすると、元々ボオスの先祖のバルバトスとか言う人物はそれを知っていて。島の水を独占することが出来たのではないのか。
可能性は、大いにあると言えた。
「ライザの護衛は私がする」
「リラさん、お願いします」
「ならば私がタオの護衛をする」
「ありがとうございます、アンペルさん」
レントとクラウディアは、「聖堂」の監視だ。
フィルフサがいつ出て来てもおかしくないのである。現状の二人だったら、雑魚フィルフサくらいだったらどうにでも出来る。
ゴルドテリオンの装備は試運転してもらったが、破壊力はクリミネアの時よりも更に上がっている。
一応、二人には渡しておく。
信号弾だ。
「アンペルさんの装置があるから、戦闘になっても分かるとは思うけれど、敵の侵攻規模が大きいときはすぐに打ち上げて。 そっちに行くから」
「使い方はどうすれば良いの?」
「クラウディアが空に打ち上げてくれればいいよ。 一定高度に達したら、大きな光と音を発するように作っておいた」
クラウディアは魔力矢を放つ時に、小石とかを核にして質量弾としても使っている。
それと同じだ。
クラウディアは、分かった。やってみると応えて、信号弾を受け取る。
さて、これで準備は整った。
リラさんが、手を叩いて皆に言う。
「私は兎も角、お前達は人間だ。 今のうちに眠って、体力を回復しておけ。 ライザ、お前だけ風呂に入っていない。 入ってから寝ろ」
「うわ、そうだった……」
「僕はちょっと頭使い過ぎてフラフラだから、すぐ寝る……」
「はは、ベッドまで自力でいけよ」
タオがレントの冗談にも応えずに、そのままフラフラとベッドに向かう。クラウディアもあくびをかみ殺すと、同じようにベッドに。
アンペルさんも、ちょっと今日は休みたいと言って、ベッドに消えた。
風呂に入る。
湯を沸かすのは、クラウディアがやったのだろう。何度かやって、すっかりコツは掴んだようだ。
風呂に入り終えた後、湯を流す。
また水をくみ直さないといけないが。まあそれも含めて、水をどうにかする実験をしておきたい。
後は、本にざっと目を通す。
なるほど。
徐々に粒が小さいものを詰め込んでいって、濾過していくのか。そうすることで、不純物を取り除くと。
だがこのやり方だと、どうしても濾過の部分を取り替えていかないといけないし。
何よりも、目に見えない程ちいさな危険なもの。
病気などの原因は取り除けないらしい。
そこで、一度湯煎をする必要が生じると。
そうすることで、病気などの原因となる目に見えない程ちいさな病気のもとを、全て殺せるそうだ。
なるほどなるほど。
そして、そもそも島に流れている水の量。
ちょっとした川くらいの水量がある。
あたしも島の暮らしだ。水のまとまった流れがどれほど恐ろしいかは身に染みて知っている。
本来なら、それなりの規模がある道具になるだろう。
だが、錬金術と魔術を使えば。
幾つか案が思いつく。
そして、案が思いつくと同時に、集中が切れていた。
みんなもう既に休んでいる。
あたしも、明日中にどうにかすると思いながら。ベッドに潜り込んでいた。
一つずつ、解決していかなければならない。
アンペルさんが、優先順位をつけて問題を解決するやり方を教えてくれなければ、とても解決なんて出来なかっただろう。
感謝感謝だ。
そのまま、あたしの意識は。
眠りの海に溶けて行った。