暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
リラさんと二人だけで遠出するのは始めてかも知れない。ともかく、朝一に起きだすと。食事だけして、すぐに荷車を引いて火山に。
リラさんは普段は基本的に何も喋らない。
いつも険しい顔をしている。
また、オッドアイを隠すためなのか。前髪を伸ばして右目を半ば隠している状態である。
綺麗なのにもったいないなあとあたしは思う。
あたしなんかは、他に幾らでもいるようなツラだから。もしも綺麗になるとしたら、化粧でもする必要があるが。
話によると本気で化粧を考えると、毎朝一時間とか取られるとか。
馬鹿馬鹿しい話なので、そんなモンはやってられない。
多分リラさんも同じ考えだろう。
火山に出向いて、鉱石を掘る。
強い魔力を探して、彼方此方を掘るだけでいい。途中、仕掛けて来る魔物はリラさんが全部蹴散らす。
文字通り竜巻のように、相手を一瞬で微塵にしてしまう。
何度見ても凄まじい破壊力だ。
途中からは、魔物も仕掛けてこなくなった。
今まで仕掛けて来たのは、相手の力量も分からないような雑魚の中の雑魚。
今は、力量を理解している魔物のテリトリに入った。
こっちも、不要な殺生はさけたい。
だからリラさんに見張りを任せて、ツルハシをふるう。
たまに、ハンマーに切り替える。
いい鉱脈が見つかる。
多分だが、前に聞いた龍脈と関係しているのだろう。魔力が地面を通じてしみ出してきていて。
それが結晶化して、魔石になっている。
淡々と魔石を集めていく。それぞれの品質が良くて、少なくとも当座の動力源にはなるだろう。
一度アトリエに戻り。
すっとんでまた山に。それを三往復して、それなりの量の魔石を集めた。
それが終わった時点で、昼が来る。
一度、皆も戻ってきていた。
軽く打ち合わせをする。
まずは、タオからだった。
「図面を引っ張り出して来たよ。 やっぱりブルネン邸の裏手に、元々水は湧いていたみたいだ」
「やっぱり。 あの玉が置かれているのも、偶然じゃなかったんだね」
「そうなるね。 どんな風に昔は水が流れていたのか、図も作ってきた」
タオが作った図を見る。
実に分かりやすい。
なるほど。下から一旦吸い上げた後、一応は飲める水にする装置を通っていたのか。その装置の場所も分かった。
これも、島の地下にある。ただ機能はほとんどないに等しい。外して、パイプも外して。浄水装置をそこに付け替えることになるだろう。
レントとクラウディアは、二人で聖堂に。
やはり斥候が出て来ていたので、処理を続けていたという。今の時点では、まだ斥候はそれほど出て来ていないが。
オーリムに戻る斥候の姿もあったという。
確実に情報を収集されている。
ずっと貼り付いている訳にもいかない。非常にまずい状態だと言わざるをえないだろう。
フィルフサは夜も休まない。
リラさんはそういう。
基本的に眠らないオーレン族のリラさんがそういうのだ。それは間違いがないことなのだろうが。
それだと人間が不利すぎる。
何度か殺してみて分かったが、フィルフサの中身はがらんどうだ。核が本体のかなり特殊な生物なのか、違うのか。
いずれにしてもよく分からない生き物だ。
どうもあの鎧の方が生物としての本命っぽいのだが。
その割りには、あまりにも別の生物に似ているというか。
なんというか、よく分からないが違和感がある。
「午後の行動を決めるぞ。 ライザ、調合は任せても構わないか」
「うん。 あたしはアトリエに一人で大丈夫」
「よし。 タオと私は、引き続きクーケン島の地下に潜る。 するべき事は幾らでもあるからな」
「私は午後からはレントとクラウディアとフィルフサの斥候を狩る。 オーリムにも出来るだけ足を運ぶつもりだ」
リラさんは、午後からはそっちか。
すぐに昼食を行う。
そして、食事を終えると、皆はその場から散った。
あたしは頬を叩くと、調合に入る。
今日はここから。
ずっと調合漬けになるだろう。
魔石をどんどん投入して、ゴルドテリオンで作った増幅装置を強化していく。更に更に強化。
魔石を圧縮しすぎると爆発する可能性があるので、この辺りは魔術師としての勘を生かしてやっていくしかない。
無言で作業をしていくと、時間が流れていくのが分からなくなる。
調合をしている間は、雑念は厳禁。
マルチタスクで、頭をフル回転させているという事もある。
出来れば護衛もほしかったのだけれども。
フィルフサ相手の戦いは厳しいし。
そもそも島の地下だって、分からない事が多すぎるのだ。
そういえば会議で、アガーテ姉さんにだけは声を掛けて、現地を見せると言っていたっけな。
あの人は、島の真相を知る方が良い。今後の行動のためにも、全ての真相を知っておくべきだ。
下手に口外だってしないだろう。
それはタオたちに任せるしかない。無言で、ひたすらに調合を続けて行く。
やがて、仕上がる。
ゴルドテリオンのパーツを組みあせたガワは、既に出来上がっている。錆びることがないゴルドテリオンは、一度作ってしまえば千年でも万年でももつ筈だ。
これに魔石のコアを組み込んでいく。
しばらく無心で作業をしていくと。二抱えもある赤黒い球体を、金色のゴルドテリオンが纏わり付いているようなグロテスクなものが出来上がった。
魔石を圧縮するとこんなになるんだな。
そう思って苦笑する。
いずれにしてもこの魔力量。今のあたしの数千倍くらいはある。島の動力としては充分の筈だ。
いや、それでも何百年も支える事は厳しいだろう。
やはり、オーリムでフィルフサの核を収穫していくしかないのか。
その考えはおかしい。
フィルフサは恐ろしい生物だが、生物だ。
生物の尊厳を否定するような事があってはならないはず。
倒したら、命を使わせて貰う。
それくらいの考えでないと。あたしも古代クリント王国のカス共と同じになってしまうだろう。
とりあえず、一段落だ。
タオとアンペルさんは、夕方には戻ると言っていた。まずはこの動力源……ただし応急の品を。
島の地下に運び込む必要がある。
外に出ると、夕方になっている。丁度、戻ってくるタオとアンペルさんが見えた。
手を振って、二人を呼ぶ。
まずは三人で。
これを運び込んで。今日の作業を一段落させたかった。
荷車に積み込んだコアの代替品を、島の地下に運び込む。ブルネン邸にはアガーテ姉さんが来ていて。
複雑な表情をしていた。
運び込むのを手伝って貰う。
レントとリラさんがいればこのコアを運んでいくのは簡単なのだが。うちのレント以外の男衆は、力仕事に向いていないのだ。
「恐ろしい事に巻き込まれているのは知っていたつもりだったが、こんなことになっていたとはな……」
「最悪の事態に備えてください、アガーテ姉さん。 いざという時には、島の外に出ている人を急いで回収する必要があります」
「分かっている。 乾きの悪魔についての説明も受けた。 ランバーが私と同等の実力を持っていることも既に知っていた。 ランバーと相討ちになる乾きの悪魔が、星の数ほど攻めてくるのであれば……確かにもはや誰にもどうにもできないだろうな」
ゴルドテリオンのガワの部分を持って、階段をゆっくり下りていく。二人で支えながら、時々タオにも手伝って貰う。
アンペルさんには誘導を頼む。
魔術で灯りを出して、誘導をしてくれる。
的確な誘導で助かる。
階段をゆっくりおりながら、動力源を運びおろしていく。
「しかし凄まじい魔力だな。 今のライザの数千倍と言っていたな」
「でも、これでも足りないです。 一応、島の浮力や制御は復活させられると思いますけれど、応急処置ですね。 最悪の場合、今後数年おきに魔石を回収して、動力を足さないといけないと思います」
「そうか。 この島が全て人工物であるのだとしたら、それくらいの魔力を食うのかもしれないな」
「はは、燃費良くないですよね」
暗い中、カンテラとアンペルさんの誘導が頼りだ。
時間を掛けながら、ゆっくり階段を下りていく。時々タオが手伝って、地下に地下に潜っていく。
例の魔力を遮断する壁を通り抜けると、中枢部分に到達。
一度新しい核を降ろして、一息つく。
タオがすぐに制御盤に飛びついて、操作を開始する。あたしは、座り込んで手でぱたぱた仰ぎながら、タオに聞く。
「それで、どうするの?」
「今動力源の切り替えの操作をやってる。 事実上この島の動力は、もう枯渇しているんだ。 最後の残り香で、この制御盤が動いてるんだよ」
「これを、あの赤い球体の所に放り投げればいいのか?」
「いや、それは流石に危ないよ。 どうにか丁寧に運び込めない?」
意外に脳筋な事を口にするアガーテ姉さん。
あたしは苦笑いしながら、道具を取り出す。
勿論、準備はしてきてある。
ゴルドテリオンの薄い板だ。これをどうするかというと。あたしは詠唱して、空気を凍らせる。
そして凍らせた所に、ゴルドテリオンの板を置く。
これで、熱を遮断して、足場だけ出来る。同じようにして、足場を階段のようにして。天球儀もどきの中心にまで続く道にする。
「熱制御はライザの得意魔術だと知っているが、これほど自在に出来るとは……」
「実戦で磨き抜いているので。 堅さとか確認してください、アガーテ姉さん」
「心得た。 うむ、今の時点では問題無さそうだな」
「急いで二人とも」
今、島の動力は完全に枯渇寸前。
制御盤すら、じきに動かなくなるだろうとタオは言う。
通路を作った後。
アンペルさんが魔力を流して、通路を安定させてくれる。この辺りは。流石に熟練の魔術師でもある。
得意分野以外の魔術でも、これだけできるということだ。
アガーテ姉さんと二人で、通路を使って天球儀もどきの所に動力源を運んでいく。ゴルドテリオンは軽い金属だが、それでもはっきりいってずっしり来る位は重い。
島育ちで筋力があるから楽だけれども。
ひ弱な王都の住人だったら、腰が砕けていたかも知れないなあとあたしは思う。
黙々と運んでいって、それでもとの赤い球体を取り外し。そして新しいコアをセットする。
赤い球体は、触ってみて分かるが。
確かに、殆ど魔力が枯渇しているようだった。
古代クリント王国のカス共ですら羨望した動力源でも枯渇する。そういうものなのだと、あたしは理解する。
まあ奴らは万能でも全能でもない。
それが分かれば充分である。
足場を通って、古い動力源を降ろす。
新しい奴は、単に魔力を蓄えているだけではない。魔力を無駄に漏出もさせないし、更にはゴルドテリオンで増幅も出来るように作ってある。
つまりは、あたしの数千倍の魔力だけではない。それを増幅しつつ、無駄なく流せると言う事だ。
すぐに操作盤に飛びつくタオ。
操作盤の光が、心なしか増しているように見える。
ぎゅんと、凄い音がした。
天球儀もどきが回転を速める。
タオの声が上擦った。
「すごい! 一気に魔力が島に満ちていく! 機能、全部回復出来る! セーフモードで延命していたのが嘘みたいだ!」
「よしタオ。 水についてはまだいい。 まずは姿勢制御と島の位置固定からだ!」
「はい!」
タオが凄い勢いで光の板に指を走らせて、操作していく。
それにアンペルさんがよく分からない用語でアドバイスしているが。タオはそれを完璧に理解しているようだった。
あたしには、もうできる事はない。
アガーテ姉さんと一緒に、ゴルドテリオンの板を回収する。
アガーテ姉さんは、呆けたようだった。
「これでも王都に足を運んだし、彼方此方で不思議なものを見て来たつもりだったのだがな。 正直これは、私の理解を遙かに超えた事態だ」
「世界の彼方此方で、乾きの悪魔が撃退されたのだと思います。 そしてまだまだ、乾きの悪魔が世界にあふれだす可能性は否定出来ない……」
「恐ろしい話だな。 魔界の入口が、すぐ近所にあったのだと知ると」
アガーテ姉さんほどの豪傑がそういうのだ。
普通の街とかだったら、パニックになっていただろう。
そしてアンペルさんとリラさんは、二人でそんな事態を幾つも幾つも未然に食い止めてきたのである。
それどころか、現在の政権であるロテスヴァッサが錬金術師を集めて馬鹿な事をする前に離脱もしてくれた。
「よし、応急処置完了。 島の傾きは年単位でゆっくり戻していく設定にしたから、これ以上旧市街は水没しないよ。 ただ、ラーゼン地区の浜のあたりは、少しずつ逆に水没していくと思う。 アガーテ姉さん、一応護り手の方で注意して」
「分かった。 浜の辺りに家を建てないように一応見張りはしておこう」
「頼むね。 後、島が流れないように、現在の位置に固定したから。 しばらくは地震は起きないと思うけれど、もしも地震が起きたら異常事態だから、すぐにライザか僕に知らせて」
「それも心得た」
地震については、慣れすぎていて寝ていると気付けない事もあたしは多い。
アガーテ姉さんは剣士として鍛え抜いているので、夜間に微細な地震があってもすぐに気付けるそうだ。
水の話もしておく。
水が異界から略奪されたものだと知ると、アガーテ姉さんはそうかと、悲しそうに言った。
恐らくアガーテ姉さんも、王都で試験を受けるまでに、色々ろくでもないものを見て来たのだろう。
だからこそ、その哀しみが分かるのだ。
一度、島の中枢から出る。
さて、ここからが本番だ。
次は、島にとって目に見えている範囲でもっとも大事な問題を解決する必要がある。
水。
これがなければ、誰も安心して過ごせない。
それと、既に相談して決めてあるのだが。
水の安定供給が出来るようになったら、何十年かかけてじっくり島に真相を話していくのだそうだ。
同時に、水利権で好きかってしていたブルネン家の横暴もとめる。
ブルネン家が島のリーダシップは今後ともとる。
だが、先々代などは非常に横暴に島での水利権を独占して、多くの人達を苦しめてきた過去がある。
先代は比較的その辺りが穏当だったが。それでも、やはりブルネン家は嫌われ者だったのだ。
今のモリッツさんもその辺りは同じ。
あたしも、島に新しいものを取り入れてくれる点だけは好きだったが。それ以外ははっきりいって嫌いだった。
そのくらいの認識だ。今は。
それを改めて、それでちゃんとしたリーダーシップで皆に頼られるような存在になる。そう、ボオスは宣言した。
それも、若いからかもしれない。
だが、老獪になるのはいいとしても。老害になっては人間はおしまいだ。その若さは、いつまでも失ってはいけないものだとあたしは思う。
あたしも、毎秒試されているようなものだ。
あまりにも強大すぎる錬金術という力に、である。
軽く話をしてから、一度アトリエに戻る。船はあたしが漕ぐ。やっぱりアンペルさんとタオは、散々船での行き来に苦労したらしい。
パワーからいっても、あたしがやる方が早い。
ただ、あたしが漕ぐと、かなり荒っぽいらしく。タオがあからさまに嫌そうにする。
まあそれは仕方がないが。
「ライザ、すっごい揺れるよ……」
「じゃあタオが代わる?」
「僕は力が足りないから無理だよ。 ハンマーだって、毎回体ごとぶつかってるようなものなんだよ」
「だったら文句言わない。 それより、アンペルさん。 濾過装置なんだけれど、魔力を取り込んでエーテル化して、一定時期ごとにエーテルを揮発させて取り込んだ汚れをそのまま排除する仕組みにしようと思ってるんだ。 エーテルは100℃以上にして、更には濾過装置の経路も長めにすることで、しっかり水も湧かして病気の元も排除するつもりなんだけど」
あたしの計画を聞いて。
アンペルさんは、唖然とした。
まずいかなと聞くと。
いや、と苦笑される。
「あの本から、どうしてそんな発想が出てくるのかが分からなくてな。 それにそもそも、上水というのは汚れとの戦いなんだ。 それを全自動で解決する仕組みまで作るつもりなんだな」
「はい。 もう青図は頭の中で出来ています。 中枢部分はゴルドテリオンで作りますが、それ以外は錆びないという点でクリミネアで充分だと思いますし」
「分かった。 戻ったらすぐに作り始めてくれ。 できれば、フィルフサの侵攻が開始される前に、水についてはどうにか出来るようにしよう」
それは、そうだ。
そもそも、フィルフサの弱点は水。
百万を超えるフィルフサを相手に、水を使わない戦術で対抗できるとはあたしも思っていない。
あのオーリムから略奪した水が、対フィルフサの切り札になる。その切り札として使うためには。水を出しているあの玉……。
忌まわしい過去の罪業の結晶を。あそこから取り外す必要がある。
それにはまず、水を確保しなければいけないのだ。
「タオ。 新しい動力だけど、水も出すようにしたら現時点で何年くらいもつ?」
「ええとね、今までの島はセーフモードって言う半分眠ったような状態で動いていて、動力も殆ど消費していなかったんだ。 それが半分くらい起きた状態に今はなってる。 その状態で、十年。 水も使うようにすると、多分五年が限界だね」
「五年か……分かった」
あたしはどっちにしても、クーケン島を拠点に行動するつもりだ。何年も島から離れるつもりはない。
ただそれでも、不慮の事故が起きる可能性がある。
魔石さえ集めてくれば、動力を補充できるようにする仕組みが必要になってくるだろう。
「それに、これはあくまで理論的な話だよ。 あの島に搭載している機能……制御盤で確認した能力を見ると、動力が減ってくるとまたセーフモードに移行して、島の制御や固定防止の機能が止まるかも知れない。 勿論水もね。 そういう意味だと、四年が限界……いや三年でも危ないかも知れないね」
「三年……」
「ライザ。 この島のためにお前が人生を全て浪費することはない。 そうしないためにも、もう少し動力源の改善を図らないといけないかもしれないな」
「そうですねアンペルさん。 わかりました。 考えておきます」
アトリエにつく。
音がしている。料理の音。
クラウディアが戻って来ているということだ。
レントやリラさんも。
アトリエに入る。
ただいまというと。クラウディアは、お帰りと返してくれなかった。あまり良くない状態なのだろう。
「ライザ……」
クラウディアが振り返る。
顔色が、土気色だった。
リラさんが、咳払いする。
「最悪の事態だ」
「!」
「空読みが動き始めている。 何体かは始末したが、もう動いていると言う事は、フィルフサの群れが大侵攻に向けての準備に入ったと見て良い。 この辺りが乾期に成り、それがしばらく続くと知れてしまったんだ」
「なんですって……!」
リラさんの言葉に、あたしも流石に絶句する。
レントも、じっと黙り込んでいる。
非常にまずい状況だろう。
これは、急がないとまずいかも知れない。
アンペルさんが咳払いしていた。
「ライザ、落ち着くんだ。 まず皆に告げる。 島の動力については、先ほど応急処置をすませた。 島の安定は戻り、流されることもなくなった」
「そう、それは良かった……」
「不幸中の幸いだな」
「ああ、それで次の問題だ。 水を確保する必要がある。 ライザ、今すぐ浄水装置を作ってくれ」
アンペルさんの言葉に、レントが反発する。
今の状況で焦るのは、よく分かる。
「ま、待ってくれアンペルさん。 この場合、優先順位は……」
「空読みが出て来てから、フィルフサが本格的に大侵攻を開始するまでには二日から三日ある。 そしてフィルフサの群れを相手に真正面からやりあって、勝てる見込みはない。 だったら手は一つ。 まずは、水を確保。 それには、ブルネン邸のあの玉を回収するしかないが、そうなると島の水は尽きる」
その通りだ。
そして、現状のクーケン島の浄水装置を動かしても、麦も育たないような水が出てくるだけだ。
そうなったら、クーケン島は極貧生活に逆戻りである。
人口の半分は死ぬと見て良い。
勿論、世界そのものが滅ぶよりはマシだが。
今は、そうならない手を打てるのである。
「まずはライザが、水の質を変える装置を作る。 ライザ、出来るか?」
「理論は構築しました。 やってみせます」
「よし。 次にこれを島の中枢にセットして、水が出るかを確認。 恐らく一発勝負になる」
「……」
緊張する。流石に。
あたしだって、緊張はする。
調合をいつも一発勝負で成功させているわけではない。失敗作だって幾つも作ってきた。
肝心なところでは、今の時点では上手く行っているけれども。
今回は、その肝心なところのレベルが違っている。
「ライザ、大丈夫?」
「……ごめん、甘いのある? ちょっと出来るだけたくさん甘いの食べてから挑戦させて」
「分かった。 今ある分、全部出してくる」
クラウディアが準備を始めてくれる。
ため息をつくと、更に問題はあるとアンペルさんは言う。
「今ブルネン邸にある例の玉だが、時間を見て私も調べた。 その結果、分かった事がある。 恐らく安全装置を兼ねているのだろうが、あの玉から一度に出せる水の量は限られている」
「!」
「以前洪水でフィルフサを押し流せたのは、あの渓谷だったからだ。 水を全方位にぶちまけても、効果は知れている。 フィルフサの大軍をどうにかするには、あの玉を活用する事が必須だ。 何かしらのアイデアを出さないと。 しかも、出来れば今日……遅くとも明日以内にだ」
絶望的な状況だ。
だが、それでもやらなければならない。やらなければ、何もかもが終わるのである。
クラウディアがクッキーと作り置きのアップルパイを持ってきてくれる。頷くと、あたしはむんずとクッキーを掴んだ。
行儀が悪いが、ちょっと今はそれどころじゃない。
頭をフル回転させないと駄目だ。
それでいながら、肩に力が入りすぎても駄目だろう。
深呼吸すると、あたしは。
恐らく最難関だろう、調合の課題に取り組み始めていた。