暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
最大の課題は……やはり水です。
異界の聖地から水を奪い、しかも結果フィルフサを大繁殖させている状況。
これを、どうにかしなければなりません。
一度に出る水の量。正確には、浄水装置とでもいうべきものをとおる水の量。それは相当なものだ。
足を取られればすっころぶどころではない。
それを年単位で通しつつ、壊れないようにしていかなければならない装置。基本的な仕組みはゴルトアイゼンで作る。
更に内部に常にエーテルを実体化させ、時々メンテナンスをすればいいだけにする。これだけで、もう幾つの魔術を同時に展開し、ゴルドテリオンで増幅すれば良いのか分からない程だ。
あたしは順番に仕組みを考えて行く。
汲んできた水を、エーテルの中で濾過する。
それによって、水の品質を決定的に変える。その作業を、釜の中で何度も実施してみる。少量の水だったら問題ない。
だが、水の量次第では。
あたしが難しい顔で調合をしている背後で、アンペルさんも厳しい話をしていた。
最悪の場合、最大戦力であるキロさん。それにあたしだけを通すようにしたいと。
他の皆は命を捨ててでも、フィルフサの王種までの道を切り開くための算段をしたいのだと。
アンペルさんが死んだら、門をどうするんだよ。
そうレントが言っているが。
アンペルさんは、最悪の事態に備えてメモは残してあると言う。
今回の戦いで、死ぬかも知れない。
そう覚悟して、事態に臨んでいると言う事だ。
あたしは唇を噛む。
アンペルさんを死なせる訳にはいかない。そもそもだ。古代クリント王国の阿保錬金術師どものせいで、散々尻ぬぐいをして来て。それで贖罪だと考え続けて。アンペルさんの命、本当に踏んだり蹴ったりではないか。
アンペルさんがどうして長寿なのかは分からない。
今の時点で百数十年以上も生きているという話だから、恐らくは普通の人間ではないのだろう。
後天的に錬金術で長寿になったとは考えにくい。
アンペルさんはロテスヴァッサで手を壊されて。その時にはもう錬金術はどうにも出来なくなっていたし。
今のあたしには、不老長寿なんて想像もできないけれど。
アンペルさんは、もうあたしの方が錬金術師として上だと何回かお墨付きまでくれた。それは第三者の手がアンペルさんに入ったのか。何かしらの事故が原因で不老になったのだと結論出来る。
或いは緩やかにおいているのであって不老ではないのかも知れないが。
あたしには、その辺りの事情はわからない。
リラさんも、皆の間で話をしている。
「私の氏族は既に滅びて、再建の見込みもない。 もしも死ぬなら私だけでいい。 アンペルは、各地の門を閉じる役割がある。 死なせるな」
「どっちも死なせねえよ! とにかく現実的な策を考えようぜ」
「まって。 みんなかっかしすぎだよ。 音魔術でリラックスする?」
「……僕もクラウディアに賛成」
タオが、珍しく感情的に言うので。皆黙ったようだった。
とにかく、あたしは淡々と調合を進める。
理論的には、水質を変えられる。それは、何度もエーテルの中で水の性質を変えて見て分かった。
はっきりいって、砂だの石だの入れて水を浄化するのは現実的ではないのだ。
古代クリント王国の錬金術師達は、どうせ汽水湖から雑に水を吸い上げている。水の中には魔術で拡大してみると分かるが、細かい生物がわんさかいる。魔術で確認できる範囲でそれだから、もっと小さい生物だってたくさんいてもおかしくない。
可哀想だが、火を通すしかない。
出来れば水を取り入れている場所に細工をしたいくらいだが、そんなことが出来るかどうか。
残念だが、今は応急処置で過ごすしかない。
あたしはクーケン島を当面離れられない。
それは、作ったものに責任を取らなければならないからだ。
ゴルドテリオンを作って見て、よく分かった。
この世には上には上がある。
古代クリント王国には、今のあたしを超える錬金術師なんてわんさかいただろうし、もっと前の時代の神代とか言う時代は。更に凄まじい魔郷だった事だろう。
そんな才能だけあって倫理観が飛んでいる連中の作ったものに、今は全力で対応しなければいけないし。
対応した後も、自信を持って責任を取らないといけない。
それが、全能感を拗らせた子供大人とあたしの差。
超えてはいけない一線を平気で踏み越えた、自称大人と。そんな大人は願い下げだと言い切れる、あたしの決定的な違い。
あたしは調合を続ける。
ゴルドテリオンによるパイプを、何度かに分けて作る。主要部分だけゴルドテリオンにしようかと思ったのだけれども。
ギリギリゴルディナイトや鉱石が足りることが分かったので。全部そうすることにする。耐久性能は高い方が良い。
だからこれでいいのだ。今は物資を惜しんでいる場合では無い。
無言で一つずつ部材を作り、組み立てる。どういう仕組みかは、主要な部材だけを一旦動かして見て、それで説明する。
それと、組みながら思う。
この仕組みを用いれば。或いはだが、考えているものが作れるかも知れない。
そもそも、水で押し流そうとするのが間違っているとしたら。
水を制御して、上空に撒き。
異界に雨を降らせたら、一気に超候範囲のフィルフサにダメージを与え続けられるのではあるまいか。
勿論土砂降りの中での戦闘となれば、こっちも体力をゴリゴリ削られていくことだろうけれども。
それ以上に、フィルフサは命を削られる筈だ。
全て試しながら前に進んでいく。
今は、そうやってぶっつけの本番に備えるしかないのだ。
「ライザ、色々作っているけれどいけそう?」
「どうにかするよ。 クラウディア、まだ甘いのある?」
「あるよ。 新しく焼いておいた」
「ごめんね。 貰うよ」
やはり菓子に対する敬意などないように、頭が糖分を求めている。殆ど飼料として菓子を貪りくう。
はっきりいって菓子への侮辱のようにも思える。
ただでさえ、菓子なんて貧しい人には贅沢品。
クラウディアの話によると、本当に貧しい地域の子供には、菓子なんて食べずに命を落とす者もいるらしいし。
そしてそれは、何も遠い世界の話では無い。
何世代か前のクーケン島だって、そうだった筈だ。
あたしは糖分を頭に入れると。
再度集中して、調合に入る。
そうしていると、周囲に星がたくさん見えるような気がしてきた。
全てがエーテルの中に溶かし込んだ要素。
それらの星をつないで行く事で。
あたしは無から有を作り出していく。
錬金術とは、無から有を作り出す技術。
しかしそうなると、「金」は何処から出て来たのだろう。練る。金。術。いったい、どこからでた言葉だ。
いや、その疑問はいい。
今は、やるべき事を、やっていくしかない。
無言で調合をしている内に、基幹部分が組み上がる。黙々と、設計に沿ってゴルドテリオンのパイプを作っていく。
パイプの一つずつが、内部にエーテルによる蒸留機能を備え。
エーテルを集めて実体化し。水の性質を変えるのと同時に。
更には、不純物を取り込みすぎたエーテルを、自発的に蒸発させる仕組みになっている。
流れる水の量が多いので、パイプは意図的に長くしている。
人の腹の中にある腸のように。
そうすることで、水をどれだけ流しても。水は途中で止まることなく、皆の所へ届くのだ。
額の汗を拭う。
無意識にこれはもう出来るようになっている。
ゴルドテリオンの加工は本当に大変なのだ。生半可な物理衝撃なんてまるで受けつけないから、エーテルの中で成形するしかない。しかしパイプの部品なんて、すぐに作れる訳でもない。
一つずつ、丁寧に部品を作って。
それをくみ上げていくしかないのだ。
最後の一つが、出来た。
部品を取りだして、組み立てる。頭が真っ白になっているが、それでもどうにかやりきった。
へたり込んでいると、クラウディアが抱き留めてくれる。
皆で、丁寧に組み立てた後、試験をしてくれていたようだった。出来る範囲で、である。
アンペルさんは流石で、一目で仕組みを見抜いたようである。
「なるほど、仕組みとしては単純だが、その単純な仕組みを此処まで丁寧に練り上げて、粗がないように仕上げるとは……」
「問題は現地にどう持ち込むか、だな」
「それについては、今のうちに往復して島に運ぼう。 そうしないと、試験だけで明日一日かかるだろうな」
「分かった。 俺が運ぶ。 順番に船に乗せてくれ」
あたしは動けない。
力を殆ど使い切った気がする。
横になっていると、クラウディアが水を持ってくる。無言で桶を受け取って、がぶがぶと飲んだ。
トイレに行きたいが、その気力もない。
漏らすほど強烈に来ている訳では無いから、しばしぼーっとする。
ここまで集中しての長時間調合は始めてかも知れない。
星みたいなのが見えたし。
ちょっと、きつかった。
「ライザが彼処までばてるくらいだ。 絶対に、部品とか落とさないようにしないと」
「私も同行する。 タオ、お前は設計図を全て頭に入れておいてくれ。 これだけ大きい機械だと、どうしても紛失する部品が出るかも知れない。 ライザが少し元気を取り戻したら、予備を作ってもらおう」
「そうなると、素材がいるな。 ライザは使い切ったと言っていたぞ」
「……夜中になるが、探しに行くしかないだろうな。 私に一人、護衛が同行して貰うしかない」
アンペルさんが、二人要るなあ。
そんな風に考えながらぼんやりしていると、クラウディアが手を上げる。
「私が探してきます」
「クラウディア、分かるのか」
「ゴルドテリオンの材料だったら、見て覚えました。 これでも商家の娘です。 将来扱うかも知れないものだったら分かります」
「そうか。 なら私が護衛に当たる。 アンペル、レントとタオをつれて、島に部材を輸送してくれ」
皆が動き出して、静かになる。
あたしはぼんやりと横になったまま。
みんな頼りになるなと思った。
気がつくと真夜中だ。まだみんな動いている。今日は流石にちょっと厳しいだろうなと思う。
リラさんとクラウディアが戻ってくる。
ベッドから起きだしたあたしが、まだくらくらする頭を引きずって、持って帰ってきた素材をチェック。
大丈夫。
ゴルディナイトも、必要な鉱石も揃っている。
少し寝て、体力はちょっと回復した。
今のうちに、やれることはしておくべきだろう。
すぐに受け取った鉱石を、エーテルを満たした釜に放り込む。ゴルディナイトを生成しつつ。
アンペルさんが差し出してきた、細かい部材について複製をする。
頷くと、すぐに複製していく。
これらは予備部品として必要だと言う事だ。
だったら作っておくべきだろう。
頷くと、あたしは黙々と予備を作る。
そうこうしている内に、アンペルさんがまた部材を運んでいく。本当に徹夜になりかねないな。
「クッキーを焼くわ」
「いや、もう大丈夫。 このリストにある部材くらいだったら、すぐに作れるから」
「本当……?」
「クラウディア、もう休め。 火山で数度戦闘をこなしただろう。 この時間だ。 明日も朝早くには動かなければならない。 フィルフサとの戦闘を考えると、休める時に休むんだ」
リラさんの厳しい言葉。
その通りだと、あたしも思う。
クラウディアを休ませるリラさん。リラさんに、確認をしておく。
「部品を運ぶの、上手く行っていますか?」
「後二回程度ということだ。 現地で一度組み立て直さないといけない」
「ブルネン邸へ運び込めている、ということですか?」
「いや、浜と此方を往復しているようだな。 ブルネン邸は遠すぎて、また明日運ぶ事になりそうだ」
そうか。そうなると、明日の早朝に出向かないといけないだろう。
調合、終わり。
寝て起きて、それで調合したが。幸い手元が狂うようなこともなかった。クラウディアは死んだように眠っている。
アンペルさん達が戻って来たので、すぐに予備部品を渡す。
「よし、助かった。 すぐにこれも含めて運ぶぞ」
「向こうの浜に起きっぱなしで大丈夫ですか?」
「勿論人避けの結界は掛けてある」
「ああ、それなら……」
勿論超腕利きの魔術師とかだと突破してくる可能性はあるが。
今、クーケン島にそれが出来る人間はいない。
今山師の類はいないし。
それに古老をはじめとする魔術の使い手は、何も知らずに夢の中だ。気にする必要はないだろう。
ウラノスさんが敵対するという超極小の可能性もあるが。
あの人はもう大規模魔術を使える体ではないし。
それに悪い事をするような人でもない。
あたしに対する信頼を、今更覆したりはしないだろう。
つまり、大丈夫ということだ。
「後は私達でやっておく。 ライザ、お前はもう休んでおけ」
「分かりました。 ……今、もう夜半を過ぎてますよね」
「だいぶな」
「……眠っておきます」
明日も、朝一番から大事な作業になる。
だとしたら、いつまでも起きてはいられないだろう。
リラさんも、眠る事にしたらしく、無言でベッドに潜り込む。あたしも、それに習うことにした。
流石に体も頭も正直で。
ベッドに入って灯りを消すと、すぐに眠ってしまう。夢を見る。これまでにないほどの明晰夢だ。
古代クリント王国の末期だろう。クーケン島が作られている。
エリプス湖に浮かぶクーケン島は未完成で。多数の足場が作られていて。まだ表層も出来ていない。
水はどうしてか、岩を避けている。恐ろしい程の技術だった。
あたしはどこにもいない。
これは恐らくだが、クーケン島の地下に入った事で見ている感応夢だ。たくさんの無念があそこにはまだまだ渦巻いていると言う事だろう。
まだ乾期ではない。
だが、それでも暑くなり始めている。
彼方此方で浮かんでいる足場。それらには、たくさんの人が、虫のように蠢いていた。
働かされている人達……恐らく奴隷は、ゴーレムに監視されていて。殆どまともな服も着ていなかった。
それに食事も。
本当に道具として使い潰されているんだ。
そう思うと、怒りが全身にみなぎってくる。
ゴーレムが、高圧的に奴隷に言う。
「それをB8へはこべ」
「も、もう動けない……」
「そうか死ね」
奴隷が斬り捨てられた。血が噴き出すが、他の奴隷は見向きもしない。
目はみんな死んでいる。
希望なんか、ひとかけらもない。
この作業が終わったら、多分殺されるんだ。そう表情に書いている。
ゴーレムはいつも見かける岩の奴と、鎧の奴が混じっている。幽霊鎧は、まともに動いているときはこんなだったのか。
喋るし、それに人間同様に動く。
そして古代クリント王国の、クズ錬金術師どもの忠実な手先だったというわけだ。
見つけ次第、次から全部ぶっ壊してやる。
そう怒りがたぎる中。
錬金術師が来る。
悪趣味な紫の服を身に纏って、口元を抑えていた。痩せこけて、陰湿そうな目をしたおっさんだった。
何の趣味なのか、口に紅までしている。
まあ、容姿なんかどうでもいい。
問題は、その醜悪極まりない精神性だった。
「無能な賤民共は臭くてたまらんな。 それにこの程度の仕事もまだできないのか。 本当に奴隷は奴隷よな」
「申し訳ありません。 急かしてはいるのですが」
「これ以上遅れるようなら、見せしめに適当に殺せ。 それでも遅れが取り戻せないようなら、私が王から奴隷の追加を貰ってくるとしよう。 何、ゴミどもは無駄に幾らでも増える。 どれだけ使い捨てても代わりはどれだけでもいるからな」
フホホホと笑う錬金術師。
蹴り殺してやろうとしたが、その場にあたしはいない。怒りだけが、空に流れていく。
「これが完成したら、我々は数百年前の栄華を取り戻す事になるだろう。 その礎になるのだ。 このゴミどもには、感謝して貰わないとな」
「作業を続けます」
「うむ……」
偉そうに去って行く錬金術師。
ふと、場面が切り替わる。
塔。
アンペルさんが、険しい顔で手記を読んでいた。
塔を出る少し前の事だ。
これは感応夢じゃない。感応夢に呼応して、記憶の一部が引き出されているのだ。
そういえば、あの時の手記の一つ。ひょっとして、今の感応夢に出て来た錬金術師のものだったのか。
破り捨てたくなるが。今は何もできない。
夢の中で、怒りが沸騰するが。それだけだ。
「アンペルさん、それは」
「古代クリント王国の錬金術師の繰り言だ」
「繰り言……」
「我々は数百年耐えてきた。 いにしえの栄華を取り戻そうと各地で活動を続け、ようやく馬鹿な王族と貴族共に取り入った。 脳タリンの連中のために玩具を作ってやって、それで歓心を買って。 一世代を掛けて完全な傀儡化に成功した。 後は、動力を得るために、オーリムの猿共を騙すだけだった。 それなのに。 どうしてフィルフサを操作する事だけが上手く行かない。 我々は十何世代も惨めな思いに耐えて、やっと此処まできたのだ。 努力した人間はそれが報われるのが当然だ。 我々は元々神に等しい存在だ。 他の人間共とは違う。 時には屈辱を覚えながらも、ゴミ共の血を入れることまでして、一族の命脈を保ってきた。 それがこんな所で終わるのは無念だ、だそうだ」
あたしが本気で怒ったのを感じたのだろう。
アンペルさんはその時。
後で、怒りはフィルフサにぶつけろといった。
あたしはそれで引き下がった。
過去は変えられない。
或いは変えられるほどの錬金術師もいるかも知れないが、それでもそれはあたしではないのだ。
溜息が出る。
どうしてこうあたしは無力なのか。
これだけの強力な魔術を使えて。錬金術と言う刃も手に入れたのに。それなのに、出来ない事が多すぎる。
全知全能なんてあり得ない事はあたしにもよく分かっている。
だけれども、それでも。
目が覚める。
冷や汗をぐっしょり掻いていた。クラウディアが、既に朝食を作り始めている。リラさんは、軽くストレッチをしていた。
「起きて来たか。 かなりうなされていたようだな」
「感応夢を見ました」
「……そうか」
「古代クリント王国の錬金術師どもが、クーケン島でどれだけの人達を惨殺したのか、実際に見ました。 許せないあいつら……地獄で永遠に煮られろ」
深呼吸する。
噴き上がった魔力で、ベッドが炎上しかねなかったからだ。
外に出ると、軽く魔力を練る。
あの感応夢。
間違いなく、実際にあったことだ。あたしも何度も感応夢を見ているから、手応えがある。
ああやって殺されていった人達は、今もクーケン島の地下で眠っている。
恐らくだけれども。
墓場で感じたあの空気。多分、クーケン島の地下で死んでいった人達の無念が、まだ溢れていたものだったのだ。
それが地上にまで漏れて。
そして無念が眠る墓場に呼応して、あの辺りに溜まっていたのだろう。
深呼吸。
徐々に、魔力が収まってきた。
近くにあった訓練用の岩を、踏み砕く。
大きく息を吐いて、それで怒りをどうにかおさめる事が出来た。あたしも、人間だ。どうしても感情に振り回されることはある。
そして、はっきり分かった。
この世界の古代の錬金術師どもは絶対に許せない。
もしも生き残りとか、復権を狙っているようなのが現れたら、問答無用で殺す。それについては、誰にも邪魔させない。
アトリエに戻ると、レントとタオが起きだしてきていた。アンペルさんはまだ眠っているそうである。
「おはよう」
「おう。 今の凄い音、ライザか?」
「感応夢みてさ。 クーケン島作る過程で、外道どもに使い潰された奴隷の人達の夢だった」
「容易に想像できるよ。 すべて終わったら、みんな葬ってあげよう」
タオも、そう感情的に言うくらいだ。
あそこで行われたのは、とても許される事じゃない。
クラウディアが、朝食を作ってくれた。
気分を変えて、食べる事にする。
アンペルさんが起きだしてくる。流石に疲れている様子だったが。もう。時間が残されていないのだ。
皆で朝食を食べる。
リラさんが、食事をしながら皆に言う。
「これから、皆はそれぞれ独り立ちすると思う。 重要な事を最後に教えておくぞ」
「はい、リラさん」
「いい返事だ。 どんなに忙しい時も、水と食事は絶対に忘れるな。 特に水。 どれだけの体力自慢でも、水と食事を適切に取らないと倒れる。 私でもだ」
「……分かりました。 覚えておきます」
うむと言うと。
リラさんは、黙々淡々とパイを食べる。今日は力がいると言う事で、とっておいたワイバーン肉のパイだ。
蕩けるようなうまさだったことは覚えているが。保存用に燻製にしても充分過ぎる程においしい。
命をくれたことに感謝しながら、ごちそうさまという。
トイレをすませ。
水を飲むと。
クーケン島に出向く。
アンペルさんに、途中で聞かれた。
「それで、もう一つの事だが大丈夫かライザ」
「はい。 水のセットが終わり次第、即座に調合に取りかかります」
「そうか。いよいよだな……」
もう、残る時間は殆どない。
今日、フィルフサが出て来てもおかしくないのである。
焦るな。
あたしは、自分にそう言い聞かせる。
そう言い聞かせでもしないと、焦って手元が狂いそうだった。
浜に到着すると、部品を確認しながら、荷車でレントとリラさんにブルネン邸に運んでもらう。
事態が事態だ。今回はボオスに話をしておいてある。裏門からちまちま運ぶ訳にもいかないのだ。
多少の衝撃で壊れるほどヤワな部材ではないのが救いか。
中枢部分を最初に。パイプを順番に運んでいく。このパイプも、複層構造にしてあるので。
何かあって一つ詰まったとしても、他で水が流せるようにしてある。
あたしも相応に考えているのだ。
なんだなんだと、人が集まってくるが。あたしの表情を見て、遊びではないことを察したのだろう。
エドワード先生が来る。
「ライザ、どうしたんだ。 これは……何かの道具か」
「丁度良い。 エドワード先生も来てください」
「ああ、別にかまわないが……」
水質について、エドワード先生は知識があったはずだ。最悪、後で水質を調整すればいい。とにかく、飲んで大丈夫な水か、確認はしておく必要がある。
今は、人が一人でも多く。
手伝ってくれないと、まずかった。