暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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時間が迫ります。

フィルフサの侵攻を食い止めたのは、あくまで出鼻を挫いただけです。

限られた時間の中、クーケン島を救うべく、ライザは全力で働きます。


3、簒奪からの変革

部材をブルネン邸に何度も往復しながら運ぶ。

 

最後の予備の部品を運び込んだ頃には。皆、活動を始める時間になっていた。

 

これから数日は。

 

一日が一年に思える程長く感じる筈だ。

 

あたしは、クーケン島地下にモリッツさんとボオス、それにエドワード先生もつれて。足を踏み入れる。

 

エドワード先生は驚いていたが。モリッツさんがどうしてか自慢げなのは謎だ。

 

組み立てを開始する。

 

既に何処に本来水が流れていたのかは、タオに聞いている。

 

古代クリント王国の錬金術師共も、流石にメンテが面倒だと思ったのだろう。円状の台座の一つに、ちゃんと水の濾過システムの中枢を置いていた。もっともこれは未完成で、はっきりいって役に立たない代物だったわけだが。

 

タオが先に中枢に降りて、操作盤を弄ってくる。

 

此処を外せるようにしてくれた。

 

その後、レントとリラさんが、タオが見つけて来たマニュアル(あの光の板の一つに詳細があったそうだ)に沿って、古い浄水装置を外す。

 

実際に側で見てみて分かったが、内部はすっかり痛んでいて。

 

そして、あたしが考えたエーテル式のものに比べて、優れている訳でもなんでもなかった。

 

手を抜いたと言うよりも、事態の急変で時間がなくなったのだろう。

 

クラウディアも力仕事を積極的に手伝って貰う。

 

あたしも、魔術で幾つかの部材を切り分けで、細かくするのを行う。

 

細かくなったゴミは、一度外に持っていく。

 

ゴミとは言え、これらを再利用する必要も生じるかもしれないからだ。

 

「百数十年前までの水を提供していたのがこの装置です」

 

「確か、麦も育たなかったと聞いているが……このような装置で、水を淡水に替えていたのか……」

 

「そうなります。 で、こっちがライザが作った浄水装置。 今から組み立ててセットします」

 

「うむ、やってくれ。 実際に仕上がる水については、私の方でも確認しよう」

 

最初、地下の巨大空間を見て混乱していたエドワード先生だが。

 

現実的に患者を診なければならない医師だ。

 

流石に適応が早い。

 

うろうろしていたモリッツさんを、ボオスが急かして、一緒に機材を外に運び出してくれる。

 

それでいいと思う。

 

こういう中枢部分の機械は、実際に触れておくべきだろう。

 

島の指導者というのならなおさらだ。

 

ボオスは既に支配者ごっこをやめている。だからこそ、自然に島の中枢となるものを触る事ができるようになっている。

 

モリッツさんは、最初から指導者としては割と悪くなかった。

 

だからこそに、急かされれば反発せずに出来る。

 

意外にモリッツさんは、欠点も多いが指導者に向いているな。あたしはそんな風に、評価をまた内心で上げていた。

 

組み立てを開始する。

 

細かい部品を落とさないように、気を付けながら順番にセットしていく。エーテル式だから、魔力を吸収しないと話にならないが。

 

この辺りの魔力は充分過ぎる程だ。

 

エドワード先生には、機材の仕組みを説明しておく。

 

勿論浄水の調整も出来るように魔法陣を組んでいる。エドワード先生は、島の医療をになうスペシャリストだ。

 

今後跡継ぎが来た場合には、引き継ぎをしてもらう必要だってある。

 

その時に、知らぬ存ぜぬでは困る。

 

だから、この場に呼ばれたことは、悪く思っていないようだった。

 

「古老が騒いでいます!」

 

「わかった、わしが抑えてくる」

 

ランバーが来て、急を告げたので。

 

モリッツさんが出ていく。ボオスも行くかと視線を向けたが。モリッツさんが咳払い。

 

「ボオス、此処は任せる。 シュタウトの……いやライザと一緒に此処を取り仕切ってくれ!」

 

「わかった、任された父さん。 頭の固い老人達を、今は静かにさせてくれ」

 

説明は、ボオスも聞いている。

 

大丈夫。魔法陣の操作自体は、それほど専門的な知識がなくても出来る。エドワード先生は、むしろゴルドテリオンに興味深々のようだったが。

 

「この金属は金ではないようだが……」

 

「ちょっと秘密です。 合金だとだけ言っておきます」

 

「軽くてこの強度、更には魔術との親和性。 口外はしないから、後でメスを作って貰えないか。 メスはどれだけ鋭くてもいいくらいなんだ」

 

「分かりました。 ただ、一週間以上は後になります。 それと、そのメスの存在は絶対に他言無用でお願いします」

 

分かったと、エドワード先生は頷く。

 

この人ほど信頼出来る医師はそうそういないだろう。そうこうする内に、皆でパイプの組み立てをしていく。

 

パイプはネジでくっつけるのもありかと思ったのだが。

 

組み立て式にした。

 

アトリエの時と同じ。複雑な形の部材をセットすることで組み上がるものだ。なお接合面については、くっつけると同時に魔術での接合が働くようになっている。

 

例えば、世界の竜脈が涸れるような異常事態でもない限り、接合が外れる事はないし。

 

仮にそうなったとしても、簡単に接合が解除されたりはしない。

 

簡単にパージできるような仕組みも作ってある。

 

これはメンテナンスのために必要だからだ。

 

ボオスは積極的にメモを取っている。

 

エドワード先生は要点だけメモを取っていた。

 

パイプのセットが終わる。

 

腸のようにくねる複数のパイプ。それが、今までの水を供給していたパイプと接合される。

 

その部分がちょっと不安だったが。きちんと大きさが違うパイプにも適合できるように、複数の部品でサポートする仕組みにしてある。

 

しっかりフィットしたのを確認。

 

よしと、あたしは呟いていた。

 

此処からだ、問題は。

 

まず、ブルネン邸に。

 

忌々しい略奪した水の入った玉を操作。アンペルさんが指示してくれるので、その通りに操作していく。

 

操作方法はそれほど難しいものでもない。実際、これを塔から持ち出したバルバトスとかいう何代か前のブルネン家当主でさえ、どうにでも出来たものなのである。

 

玉の表面にある幾つかのボタンを操作して、放出停止、とすればいい。

 

嘘のように水がぴたりと止まる。

 

まずは、第一段階だ。

 

玉を砕いてしまいたいと顔に書いているボオス。

 

キロさんに大きな影響を受けたのだ。

 

そう思うのも当然だろう。だが、それでも今は、そうするべきではない。

 

「よし、次! タオ、水を流して!」

 

「分かった! レント、護衛頼むよ!」

 

「よしきた!」

 

タオが地下に走る。

 

あたしも、浄水装置へ急ぐ。クラウディアと一緒にあたしがやる。地上部分は、アンペルさんとリラさんに頼む。

 

あの玉がおかれていた位置。

 

それにも、きちんと意味があった。

 

ブルネン家の人間だから、バルバトスは知っていたのだろう。あの位置を経由して、水が島中に流れていたのだ。

 

無言で浄水装置に到着。魔法陣に触れて、機能の表示。光の板を表示させて、それに機能を表示する仕組みにした。これは、地下の制御盤を見て覚えたシステムだ。あれほど複雑では無いが、決まった機能の光の板一枚を魔術的に表示するくらいだったらあたしにも出来る。正確には、見てすぐに仕組みを理解したので。出来るようになった。

 

クラウディアに読み上げは頼む。確か古い言葉ではオペレーションというのか。

 

あたしは浄水装置を起動。

 

エーテル充填開始。エーテルが充填されるのを確認。これについては、それほど時間は掛からない。

 

魔物でも魔術を例外なく使うように。

 

今の世界は、魔力が溢れているのである。

 

竜脈というものの影響なのかは良く分からない。世界の仕組みを知るほど、あたしはまだ知識がない。

 

ただ、エーテルが充填されたのは確認。

 

「エーテルの品質変化開始したよ! ええと、現在40……50……65……!」

 

「!」

 

ごんと、島が揺れた。

 

水が、来る。

 

クラウディアが、頷く。

 

「100! ええと、この数字が100になればいいんだよね!」

 

「そう。 浄水システムにエーテルが設定できたパーセンテージなんだその数字。 100%になれば、セットが終わったと言う事だよ」

 

「後は、水がちゃんと来れば……」

 

「いや、魔力感じる。 来た!」

 

地震のように、揺れる。水が、この浄水装置に到達したのだ。

 

エドワード先生が、信じられんと呟いていた。

 

大丈夫。パイプや、接合面から水が噴き出していない。それどころか、これだけ激しく水が来ていても、平気と言う事だ。

 

このパイプの中で、水は一気に蒸気にまで熱せられ。直後に冷やされる。

 

同時に不純物を全て排除されるようにもなっている。

 

この過程が、一番危険なのだ。

 

アンペルさんに教わったが、水は蒸気になると、容積がとんでもなく膨れあがるらしいのである。

 

何かしらの金属容器に閉じ込めた水を沸騰させたりすると。下手をすると金属容器が内側から吹っ飛ぶそうだ。

 

蒸気というのは、その性質を利用して、将来的には動力になるかも知れない。一部のロストテクノロジーの機械では、実際に蒸気を動力にしているとか言う話だったが。

 

「熱処理、完遂率100! 不純物、処理率100!」

 

「よし、エーテル放出実験! エドワード先生、万が一があるから! あたしの後ろに隠れて!」

 

「お、おう!」

 

「ライザ、出来るよ!」

 

「分かった!」

 

操作盤を動かして、魔法陣から操作を実施。

 

しゅっと音がして、意外なほど静かに。少量のエーテルが魔力に戻って大気中に放出されていた。

 

よし。あたしは呟く。

 

エーテルは、あたしが散々調合しているから分かっているのだけれども。こうやって魔力に戻すと、意外なほど量が少ない。

 

蒸気と混じったりする可能性を懸念していたのだが。

 

魔力だけを取り込み放出する機能は、問題なく働いているようだった。

 

「クラウディア、安定はどう?」

 

「ええと、全部が100になっていればいいんだよね!」

 

「うん!」

 

「問題ないよ! 100で安定してる!」

 

よし。

 

あたしはガッツポーズ。理論的には、出来ると判明した。

 

ボオスが呟く。

 

「すげえな。 これ王都でも余裕でやっていけるだろ。 むしろ王都の連中が、泣いて導入を頼むんじゃねえか」

 

「王都の水のシステムがどうなってるかは知らないけれど、このシステムを導入するっていうんだったら、王族に集ってやるかな。 いや、でもそれは王都の人達の税金から出るのか……」

 

「あ、ああ。 そうなるだろうな」

 

「王都でだけ偉そうにしているだけなのに、腹立つなあ。 いずれにしても、もしそういう時が来ても、王都に暮らしている人達をみて決めるかな。 選民思想とか拗らせてるようだったら、絶対に作らない。 以上」

 

さて、次は地上部分だ。

 

クラウディアに、この場は任せる。

 

地上部分に出る。

 

おお。

 

彼方此方の噴水などから、水が噴出している。出ている水を触ってみるが、ちゃんと冷たい。

 

流石に、そのまま飲むわけにはいかない。

 

途中のパイプは古いままなのだ。今はかなりの勢いで水を出しているから、汚れが剥離している可能性もある。

 

いずれ、パイプも全てメンテナンスしないといけないだろう。

 

非常に面倒くさいが。これも命を支えるためである。

 

やるとしたら、あたしがもっと技量をつけてからだろうが。

 

「ライザ。 良くやった。 水は問題なく供給されている」

 

「水路とかの確認をしましょう。 地下の操作はタオがやってくれています。 後は、浄水装置に一人貼り付いた方が良いでしょうね」

 

「浄水装置は私が見よう」

 

「よし……レントとあたし、それにクラウディアで水路を見て来ます。 ボオス、桶ある?」

 

ボオスは呆れながら、指さす。

 

丁度いい桶だ。

 

何処の家にも、水路や水源から水を汲むための桶がある。それはブルネン家でも同じである。

 

あたしは噴き出している水を汲むと、すぐにその場で煮沸する。更に、ついでに冷凍の魔術で冷やして丁度良い冷たさにする。

 

その手際は、更に良くなっている。

 

その場で、ごくごくと桶からダイレクトに水を飲むのを見て、ブルネン邸に乗り込んで来ていた古老が度肝を抜かれていたが、どうでもいい。

 

飲んで見て、分かった。

 

飲める。問題ない。ただ強いていうならば、若干味が違うか。

 

いや、本当に気にならない程度の味の差だ。もしもこれで問題があるようだったら、後から浄水装置で調整すれば良い。

 

古老に、桶をぐっと差し出す。

 

「どうぞ。 飲めることは確認しました」

 

「お、おう……」

 

「さあ」

 

「わ、分かった」

 

古老が、慌てた様子で杯を取りだし。

 

桶に水を汲んで、自分で煮沸して、冷やしてみせる。流石に古老だ。それなりに魔術はまだまだ使える。

 

そして飲んで見て、普通に飲めることに気付いて驚いたようだった。

 

「まさか、島中にこれほどの水がまた溢れる時が来るとは……」

 

「ブルネン家が、乾期の度にデカイ面をしなくなるのか? そうなると、本当に有り難いんだが……」

 

「聞こえているぞ」

 

モリッツさんが、好き放題言っている連中を掣肘する。

 

あたしはこの場をボオスとモリッツさんに任せると、地下から上がって来たレントとクラウディアと共に、島を見に行く。

 

水路が問題ないか。

 

今まで水が出ていなかった噴水などの機能が正常に戻っているか。

 

いずれも、確認しなければならなかった。

 

 

 

どうしても、手分けしても時間は掛かる。

 

更には、今まで死んでいた水源がいきなり復活したのだ。トラブルはどうしても起きる。

 

ある家屋では、いきなり水が噴き出したことによって浸水が起きていた。というのも、涸れた水路に家を作っていたからだ。

 

あたしが水路をとめる。

 

一旦冷気で蓋をするだけで問題ない。

 

水は彼方此方に流れているので、水が出る場所を一つ塞いだくらいは問題はないのだ。

 

問題は家の方。

 

この家は、雨期に毎度浸水していて。そもそも家を建てるべきでは無いとされていた場所に建てていた事もある。

 

一度モリッツさんに連絡して貰う。恐らくは、家を建て替えるべきだろう。此処に家を作るように促したのはブルネン家だ。保証はそっちでやって貰う必要がある。

 

あたしがその辺りを話して、家財の運び出しを手伝う。途中から護り手が来て、作業を手伝ってくれた。

 

アガーテ姉さんが来てくれたので、後は引き継ぐ。

 

水については、しばらくは出ない筈だが。

 

しかし凍らせただけだ。その内氷は溶けて、また水が出てくる。そう言うと、アガーテ姉さんは頷き。

 

すぐに護り手を周囲に散らせて、対応に移ってくれた。

 

他の場所でも、水が出ている。

 

水路の水位が上がっている場所もある。タオに連絡して、水量を少し調整して貰おうかと思ったが。

 

しかしタオはここに来る前に言っていたっけ。

 

前に出していた水量と同じだけ出していると。

 

そうなってくると、或いはだが。

 

ある程度の水が、今までは無駄になっていたのか。

 

いや、違う。

 

今までは、ブルネン邸の裏から直接水が彼方此方に流し込まれていて、それが原因で水流がだいぶ違ったのだ。

 

しかもこの水流、ブルネン家で自由に堰などを弄って管理する事が出来ていた。ブルネン家の先々代とかはこれを悪用して、気にくわない人間に酷い嫌がらせをしていたと言う話だ。

 

そうなると、安定するまで時間が掛かる。

 

それに、今まで詰まっていた水路は、大量の汚れを吐き出しもしていて。最初は触らないようにとも皆に触れ回らなければならなかった。

 

ボーデン地区などの大きめの水路は、むしろ水位が下がっている。

 

走り回りながら、それを確認する。

 

やはり、今まではかなり水が偏っていたのだ。

 

一方ラーゼン地区は優先的に水が回っているようで、むしろため池などは溢れそうになっていて。

 

あわてて堰を管理している人もいた。

 

これは、今日一日はこっちはパニックか。

 

だが、あたしはあたしでもう時間がない。

 

困り果てていると、ボオスが来た。

 

「ライザ、全体的に見てどんな状態だ」

 

「どうもこうも、今まで死んでいた水路が生き返って、逆に過剰に水が出ていた水路は水位が落ちてる」

 

「水の総量は減っていないとなると、これが自然な状態と言う事なんだろうな。 後は水の質だが……」

 

「それはお父さんとかに聞くしかない。 あたしの出来る範囲で、今までの水質と同じにはしたよ。 飲める水にはなっているし、塩味とかもしなかった」

 

ボオスも既に確認はしたらしい。

 

だが、あたしもちょっと味が違うような気はしたのだ。

 

お父さんなどの専門家に聞けば分かるのだろうが。

 

今は、それに対して微調整をしている時間がない。

 

だが、古老とかはもしも不備があったら烈火の如く怒り狂うだろう。そうなると、一部の老人が面倒な動きをしかねない。

 

ランバーが、視線をちらちらと送っている。

 

恐らくは、結構切羽詰まっているという事なのだろう。それはそうだ。あたしも農家の生まれ。

 

これがどれだけ色々な問題を起こすかはよく分かっている。

 

稲という作物があるらしく。水位の管理が極めて重要になるという話だ。

 

これなどは極端だが、水位が育成に影響してくる作物なんていくらでもある。とくにクーケン島は、元々貧しくて麦も生えなかったのだ。

 

うちをはじめとして、みんな水にはとても五月蠅い。

 

畑と会話するお父さんほどの境地には到達していないが。あたしもそれなりに水の事には五月蠅いのだ。

 

「分かった。 たしかにカールさんに聞くのはよさそうだ。 もしも問題が起きていそうならば、後で連絡をする」

 

「頼むよ。 それと……少し口調がやっぱり柔らかくなったね」

 

「そうだな。 俺は指導者としてあるべきだが、それはそれとして他人への敬意を忘れてはいけないことも思い出したよ。 特に突出した技量を持っていて、島のために欠かせない人材には、そう接しなければならない。 俺がどんな立場だろうとな。 本当に俺は、ただの支配者ごっこをしていただけだったって、色々あって思い出した」

 

「そうだね。 あたしも結局、冒険ごっこだったんだろうね。 錬金術と出会って変わったけれど。 でも、変わっちゃいけないものと、変わらないといけないものもあるんだ」

 

後はボオスに任せる。

 

島の事は心配だが、やるべき事が幾らでもあるのだ。

 

とにかく、水の事についてはすぐには分からない。これから、他にもう一つ、優先順位が高いことをこなさなければならない。

 

一度、ブルネン邸に集まる。

 

古老は目を回しそうになっていた。

 

何人かの人員をモリッツさんが島の中に通したのだ。護り手の護衛付きで。

 

それで真実を見て、泡を食ったのだ。

 

島にあったのは、守り神の加護なんかじゃあない。人間の作った。それも薄汚れたエゴまみれの。屍の山の上に島があったのだ。

 

それを見れば、それは価値観が古い老人なんかは泡を吹く。

 

古老は白目を剥きかけていて、エドワード先生が呆れて医院に連れて行くところだった。

 

皆で合流して、軽く話す。

 

「島の状態は、一旦は落ち着いたか?」

 

「もしも問題があるようなら、ボオスが連絡してくるように手はずは整えました」

 

「よし、良くやれているなライザ。 一度戻る。 これを研究して、フィルフサと戦うための準備だ。 もう時間がない。 いつフィルフサが門を越えて大挙してくるか分からないぞ」

 

リラさんにはいと、皆で応える。

 

そして、ボオスの先祖が持ち出した聖地の宝。

 

確か古代クリント王国の錬金術師曰くの「渦巻く白と輝く青」を持ち出す。

 

操作方法は、既に分かっている。モリッツさんも、肩を落としながら持って行けと視線で告げていた。

 

モリッツさんも、度が外れた悪党では無い。勿論統治に関わってきたのだから、ある程度悪い事だってしてきただろうが。それでも、地下の死体の山を見れば思うところがあるくらいの良心はある人だったのだ。

 

それだけで、古代クリント王国の錬金術師よりどれだけマシだろう。

 

これは、もう此処には戻さない。

 

これからはあたしと、島の人間で水の問題は解決していく。

 

頼むよ、オーリムの水。

 

あと少しだけ、身勝手なこの世界の人間の我が儘を聞いて。フィルフサを倒すために、どうしても貴方の力が必要なんだ。

 

そう呟きながら、あたしは皆と一緒にクーケン島を後にする。

 

次の奴もぶっつけ本番。

 

失敗したら、後がないと判断して良いだろう。

 

もう午後、それも遅い時間になっている。水源を入れ替える。それはそれだけ、大きな作業なのだ。

 

しかも、これからトラブルが起きても仕方がない。

 

既にモリッツさんやアガーテ姉さん、それにルベルトさんは事情を知っている。

 

トラブルが起きた場合は、対応を頼むしかない。

 

とにかく、あたし達が戻るまで。

 

それだけでも、持ち堪えて貰うしかないのだ。

 

水が止まるとか、なくなるとか。

 

そういう致命的な問題以外は、後でどうにかする。

 

それが優先順位をつけて問題を解決するやり方。アンペルさんに教わったやり方。

 

そして今は、どうあってもフィルフサを退治する方が、先なのである。

 

アトリエに到着。

 

すぐに研究を始める。

 

今の作業で、ノウハウは掴めた。今回は、数時間……いや敵の規模を考えると、二日三日ほどもてばそれでいい。

 

リラさんの話によると、オーリムでも雨は降るそうだ。ただ、やはり短時間の小雨に過ぎなくて。

 

それではフィルフサに致命傷は与えられないらしい。

 

島に常時水を供給するほどの水量だと、雨を恐らく降らせる事が出来るが。

 

そもそも飛行魔術の達人が何度か確認している所によると。

 

元々雨というのは上空で何かしらの切っ掛けで雲が出来て、最初は雪として降り出すという話だ。

 

それだけは、知っている。

 

アンペルさんにも話を聞く。

 

「雨について、アンペルさんの知識をお願い出来ますか」

 

「雨か。 雨はな、基本的に埃などのゴミを核として氷の状態の水が固まり、落ちてくる現象だと思ってくれれば良い。 この核になるものはなんでもいい。 例えば、煙とかな」

 

「煙!」

 

「どうしたんだタオ」

 

レントの声に、タオが頷く。

 

そして、解説してくれる。

 

「古老が前に、乾期があけないときは雨乞いで盛大に焚き火をするとか言ってたんだ。 僕達が生きているときにはまだ見た事がなかったけれど、あれは神様への祈りとかいう話だけれど、実際には空に雨を降るための切っ掛けを撒いていたんじゃないのかなって思ってさ」

 

「なるほど……一利あるな」

 

「それでどうするの? オーリムで何か焚いているような暇なんかないよ。 装置を据え付けたら、すぐに雨が降り出すくらいでないと……」

 

クラウディアが、その考えの悠長さを指摘すると。レントもタオも黙り込んでしまう。

 

リラさんも、目をつむる。

 

恐らくだが。乾燥しているとはいえ、あのフィルフサに食い荒らされたオーリムの聖地でそれほど盛大に燃やせるものが思い当たらないのだろう。

 

それはあたしも同じだ。

 

最初は水を噴水みたいに撒く道具を考えていたのだが、それだとどうしても効果範囲に限界がある。

 

それに、水を適当に撒いているだけだったら、遠距離攻撃型のフィルフサが、集中砲火をして来るはずだ。

 

ドラゴンですら苦戦するような対空攻撃を「将軍」は普通に搭載していることが、既に交戦で判明している。

 

キロさんの話によると、その将軍が六十体以上健在なのである。

 

はっきりいって、悠長な事はやっていられない。

 

上空に水を届ける仕組みについては、浄水装置とほぼ同じで良いだろう。鉱石の量を確認する。

 

ただし、雨の元になるものはどうする。

 

今回は逆に、それを大量に上空へと打ち上げなければならない。幸い大した重さは必要ないだろうが。

 

その代わり、広範囲に拡散するようにしなければならない。

 

魔術で代用は出来ないか。

 

いや、まて。

 

「アンペルさん、その雨の核って、細かい砂とかでもいけますか」

 

「いける。 雨の中には、砂が核になって降るものもある。 風に乗って膨大な砂が飛んできて、それが大雨の引き金になる事もある」

 

「アンペルさん、そんなの何処で知ったんだ」

 

「不愉快かも知れないが、古代クリント王国の研究記録からだ。 当時は錬金術が圧倒的な隆盛にあって、それと同時に科学も今とは比較にならない程優れていた。 雨に関する研究も、実際に空でサンプルを採取して調べる事が出来たそうだ」

 

やはり、技術だけは本物だったんだな。

 

そう思うと、なおさらその幼稚で独善的な傲慢さが情けなくてならない。それだけの知識と技術がありながら。どうして自分達がゴミカス以下である事に気付けなかったのか。人間には、いき過ぎたものを持たせるべきではないのか。そうとすら思えてきてしまう。

 

ともかく、思いついた事がある。

 

やってみるしかない。

 

魔術との組み合わせが必要だ。ゴルディナイトがいる。そう言うと、すぐにクラウディアが取ってくると言ってくれた。

 

頼んで、任せる。後はまだ残っている膨大な魔石を、悉く使う。

 

時間は、あまりない。

 

もしも大侵攻が開始されたら、それを押し返しながら、オーリムに乱入する力なんてあたし達にはない。

 

時間が限られている中。

 

あたしは、とにかくやっていくしかなかった。

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